「……ついてくるんだなお前」
「当たり前だよー。曜ちゃん達がどんな練習してるのか興味あるし」
今度こそ静真の父兄方にわかってもらうためもう一度ライブをやる。そう決めたはいいものの中々機会も見つからないというのが現実で。
今まで学校やラブライブという舞台があったのは大きかったと改めて実感させられる。
「いつも砂浜でやってるの?」
「いんや、今のところ練習場所見つからんからしばらくはあそこでやることになったらしい」
そんな訳で手伝ってくれている月も連れて一度彼女達の練習に顔を出しに行こうという次第だ。
そう言えば始めたばかりの頃も練習場所が見つからず砂浜で練習していたか。今思い返すと懐かしい。
「そう言えば昨日のアレ何だったの?」
「…まあちょっとあってな。そんな大したことじゃねーから心配すんな」
エックス達から伝えられた今起きている異変。
正直めちゃくちゃ大したことあるのだがAqoursが新しい壁にぶち当たっている今だ。余計な心配をかけないために今のところは話さない……という結論に至った。
また一人で抱え込む形にはなってしまうが、今回は頼れる先輩達がいる。一人だが独りではない。
「……てか、俺としては俺の学校の連中の方が面倒だな」
「あはは……」
まあ現状陸にとって一番の問題はこれなのだが。
現在陸の学校も浦の星と同様の状態にあるので当然同級生共が静真に抗議に来ていたのだが……その際ずっと隠していた千歌達との関係が遂にバレてしまった。
今目の前にある問題を取り除いたら取り除いたで奴等に僻まれる日々が始まると思うと今から憂鬱だった。
「まあ、それはその時になったらでいいんじゃない? ボク達も協力するから……」
「ありがたいがもっと拗れそうな気がしないでもな―――――」
「姉さま達はもう……いないのッッ!!!」
堤防を越え、白い砂浜と共にその練習風景が見えようとしたその瞬間。
海岸中に響き渡るような悲痛な叫び声が上がり、不穏な空気が蟠っていくのを肌で感じた。
『アイツぁ……理亞か?』
「……あぁ、そういや千歌の奴が呼んだとか言ってたな」
なんでも聖良の卒業旅行で東京まで来ていたSaint Snowの二人をここまで呼び出したとかそんな。
よくまあ毎度毎度来てくれるものだと思いつつ、様子が様子なため急ぎ千歌達の下へ駆ける。
「おい、何だ今の」
「陸さん……」
理亞の後を追い駆け出したルビィの背中を見やりつつ、残された五人と聖良に問う。
何があったのか、何を話していたのはか知らないけれど、その空気が明らかに重いものとなっているのはすぐにわかった。
「すみません……実は理亞も理亞で、あまり上手くいっていないらしくて」
『話が見えねーな……』
つい昨日も似たようなことがあったようなデジャヴを覚えつつ首を傾げる。
確か聖良達に今のAqoursのパフォーマンスを見てもらうという話だった気がするが、それがどうして理亞がああなるような事態に発展するのだろうか。
「…ん? 何アレ」
次から次へと今度はなんだ。何かを見つけたような善子の声に水平線の方を見やれば、風圧と共に音を立てながら一台のヘリが向かってくるのが見えた。
それもやたらと、ハイスピードで。
「……なんかまたデジャヴが…」
「言ってる場合じゃないよぉ!?」
速度もそのままに頭上を通り過ぎようとするヘリに全員で身を伏せる。
それで終わりかと思いきや、なんと旋回したヘリは砂塵を巻き上げながら陸達の前でホバリングを始めたではないか。
「これってもしかして……」
「鞠莉ちゃん……?」
そう口々にいうものの彼女との出会いもこんな形だったかと感慨に耽る余裕は全くなく。
ただ吹き付けてくる強風に飛ばされぬよう堪えながら、ドアの開いたヘリから顔を見せた女性を見やった。
「鞠莉ちゃん……じゃない?」
「My daughterがいつもお世話になってマース!」
結論から言うとその女性は鞠莉ではなかった。
だが風にたなびく眩しいまでの金髪や日本人離れした顔立ちは外国の血が流れている証拠であり、何よりその女性の雰囲気がどことなく彼女と重なる。
となれば導き出される答えは一つ―――、
「小原鞠莉の母……Mari's motherデース!!」
息つく間もなく押し寄せる物事に、流石の陸も思考がフリーズした。
「……俺なんかしたっけ」
『無水の時のアレ、知られてんじゃねーの?』
鞠莉の母親を名乗る女性に皆が連れられて行ってしばらく経った。
何故か小原邸に入ることを許されなかった陸は外で待機。何の用があったかは彼女達が戻ってくるまでお預けだ。
「そういえば、ダイヤさん達はどこに行っているのですか? 少なくとも今はいらっしゃらないようですが」
「三人で卒業旅行中っすよ」
締め出された陸に気を遣ったのか一緒に残ってくれた聖良にそう答える。
今までに色々あった三人だ。これから離ればなれになる前の最後の時間くらい、あの三人で過ごしたいのかもしれない。
「ふふ……じゃあ私達と同じですね」
「いやほんと……千歌の奴が無茶言ってすみません……」
「いえいえ、理亞もとっても来たがってましたから」
曇りなく答えてくれるのが逆に心に来る。本来なら姉妹水入らずで楽しんでいたろうに。
『……それで、理亞の奴ぁどうしたんだよ』
「……」
ゼロが離れた場所で一人風にあたる理亞を片目に問うと、暗い面持ちで俯く聖良。
先程見た彼女の雰囲気は、お世辞にも穏やかなものとは言い難かった。
「…上手くいってないんすか? 新しいグループ」
「……やはり、わかってしまいますか」
小さな背中から感じる、不安と焦り。
理亞もきっと、今の千歌達と同じようなことで悩んでいたのだろう。
「新しく一緒に始めようって、何人かは集まったみたいなのですが……」
残されたメンバーで。
新たな仲間を加えて。
新たに踏み出すために必要な一歩を阻む壁は、どのグループにも立ちはだかるものらしい。
「…そちらも、壁にぶつかっているのは同じようですね」
「どーにもね……やっぱ、果南姉ちゃん達がいないのが響いてるみたいで」
「それは私も先程パフォーマンスを拝見させてもらった時に思いました。これまで三年生の方々が担っていた歌唱力、ダンス、華やかさ、存在感……Aqoursの持つ明るさや元気さそのものがなくなって不安になっている……そんな気がしました」
父兄達の目にどう映ったかは知らないが、陸にすら何と言うか、ふわふわして定まってないような印象を抱かせたのだ。
抜群のセンスを持つ聖良から見れば、もっと稚拙なものに映ったのかもしれない。
「…三年生の存在が大きかったのは、こっちもそっちも同じみたいっすね」
「自分で言うのも少し恥ずかしい気もしますが……そうなのかもしれませんね」
これまでグループを支え引っ張っていた三年生はもういない。
これからは自分達で歩み出さないといけない。そんなことはわかっているのに、雁字搦めに纏わりついてくる喪失感や不安はそれを許そうとはしてくれなかった。
「―――それでは、よいご返事を期待してマース」
またしばらく経つと、閉ざされていた戸が開きどこか深刻そうな面をした皆が顔を見せる。
一先ず元居た海岸へ場所を移すと、伝えられた内容とその訳を問うた。
「いや……行方不明ってんなアホな……」
「私達も冗談かと思ったんだけど、鞠莉ちゃんのお母さん見てたらそんな風にも思えなくて……」
鞠莉の母に連れられた先で、なんともまあぶっ飛んだ話を聞かされていたようで。
しかしそれが事実ともなると笑ってもいられなかった。
なんでも現在、卒業旅行に行った三人と連絡が取れない状況にあるらしい。
「てか、誰も連絡とってなかったのかよ」
「せっかくの卒業旅行だし、連絡しないようにしてたから……」
あの三人だけの時間を邪魔しないように気遣っていたのは皆同じのようだが、よもやそれが裏目に出るとは。
(……例の時空の歪みと関係あるのか?)
〈それ自体まだ不明な部分は大きいが……ないとは言い切れないな〉
イサミやアサヒがこちらの世界に飛ばされてきたように、あの三人が別の世界に飛ばされている可能性もある。
考えたくはないが既に目の前で起きている現象だ。万一の事態も考えておくべきだろう。
「それで、探してきて欲しいって鞠莉ちゃんのお母さんに頼まれて……」
「探すつっても、確か姉ちゃん達が行ってるのって……」
「イタリア……だね」
そう、彼女達が旅行先として選んだのは外国であるイタリア。
日本からかなり離れている上に地理も言語も通用しない場所、連絡がつかない以上別次元に飛ばされていなくとも捜索は困難を極めるだろう。
「どうしよう…」
「渡航費用は出してくれるって言ってたけど、場所が場所だしね……」
「それにルビィ達、ライブの準備もしなきゃだし……」
「でも行方不明って話だし……」
何の因果か、問題の上に更に問題が圧し掛かってくる。
どれも大事なことだし、見過ごすことなんて出来ない。つい先日陸に降りかかった板挟みの状況が、今度は彼女達に襲い掛かる。
「行ってきた方がいいと思います」
けどその状況を打破するのはいつだって誰かの言葉。
進むべき道を切り開くような聖良の言葉には、何か確信が含まれているようにも思えた。
「今日皆さんのパフォーマンスを見て思いました。理由はどうあれ、一度三年生の皆さんと話した方がいいと思います」
「でも…」
「自分達で新しい一歩を踏み出すために、これまでのことを振り返るのは悪いことではないと思いますよ」
千歌達だけでなく、理亞にも言い聞かせるようかのように。
妙な説得力を持つその言葉は、自然と皆の顔にも決意を生み出してゆく。
「聖良さんの言う通りだと思う」
「ライブの練習はどこでだってできるし、これまでもやってこれたじゃん」
だからできる。
いつだって背中を押してきたその言葉は、今回もリーダーに寄り添い―――、
「わかった。行こっか!」
三年生がいなくなりどうしたらよいのかわからなくなっている今だからこそ、ちゃんと三年生と会って話をしたい。
心配だから。それもあるが、同時にこれからのため―――新生Aqoursのために。
その答えを探るための舞台は、イタリアへ移ろうとしていた。
同刻、イタリア―――ミラノ。
「で、この後はどこに向かうのですか?」
「んー……一旦ベネチアを経由して、その後フィレンツェにある知り合いの別荘に向かいましょうか。電車が出るまで時間あるから、それまで観光しまショー」
自分達が騒ぎの発端……まして行方不明扱いになっているとはつゆ知らず、揃って地図を凝視する鞠莉、ダイヤ、果南の三人。
離ればなれになる前に残された時間を楽しみつつ、その一方で何かを警戒するようにイタリアの街を進んでいた。
「ベネチアって……ここから結構距離あるよね?」
「……まあね。でも、その方が欺きやすいってモンでしょ」
「まさか最後の最後までこんなことになるとは思いませんでしたわ……」
「その方が私達らしいでしょ? ……それに、最後になんかさせないから」
笑いかけた鞠莉に、二人も笑って返す。
これからもずっと一緒。そう誓ったから。
「……昔から思ってたけど、お嬢様っていうのも大へ―――」
けれど、三人を囲う現実はいつも厳しかった。
笑顔が繋ぐそんな絆を断ち切らんと言わんばかりに起こった騒ぎが束の間だった興の時間を奪う。
「なにあれ……」
どよめく人々が見上げる空には、赤黒い円陣が一つ。
そして次第に立ち込めていく不安が災いを呼び寄せるように、落雷と共に円の中心から巨大な影が落下し―――、
『ッッ―――――!!!』
大地が揺れる。
首元に三日月のような模様を持つ二足歩行のそれは地震のような揺れを起こしながら進行を始め、ミラノの街に恐怖の暗雲を齎す。
「Cosa sta succedendo!?」
「Non è solo il Giappone ad avere i mostri!?」
怪獣の出現例自体は数多くあったが、その大半は日本でのもの。
このような巨大生物による襲撃に対面したことのないイタリアの人々は一瞬にして混乱渦巻く宴に誘われる。
「……私達怪獣にも好かれてるみたいね」
「言ってる場合ではないでしょう!? 早く私達も避難を―――」
『フレイムスフィアシュートッ!!!』
我先にと逃げ惑う人々の波に飲まれ、引き離されかけたその瞬間。
熱波の尾を引きながら猛進してきた巨大な火球が怪獣を直撃し、その巨体を転倒させる。
「今のって……」
「……陸?」
馴染みのあるような技と一連の流れに一人の少年の姿が思い浮かぶ。
だが直後に三人の前に現れたソレは、想像していた姿とは少し違うもので―――、
「陸さんじゃ……ありませんわね」
銀の身体を覆う炎を模したような意匠を持つ深紅の装甲に、特徴的な頭部の二本角。
そして胸に宿った蒼い輝きは、その巨人もまたゼロと同質の存在であることを物語っていた。
「…ウルトラマン………?」
古風な街並みの中に立つ二つの巨大な影。
三人を含め人々が不安と恐怖の混じった視線を向ける中で、戦いのゴングは鳴り響こうとしていた。
原作の話をごちゃ混ぜにしながらようやくイタリア行き決定
マリーズマザーの出番ほぼカットしましたが後の方はちゃんと書くのでご安心を
そしてイタリアの方に出現したのはええ、某お兄ちゃんですよ
それでは次回で