ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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遅い時間帯ですが明日から日曜日まで投稿できない状況にあるので更新しちゃいます


百六十四話 集う勇者

 

 

「ヨハネ……かの地にぃ……堕天!」

 

「到着して早々騒がしいなお前は」

 

 レンガ造りの古風な建物や歴史的建築物が立ち並ぶ、水の都ベネチア。

 ベムスターの襲撃により予定から大幅に遅れてこの地に辿り着いた彼女達は、案の定はしゃいだ様子でその姿を見せた。

 

「大変だったのよ? あの怪獣のせいで知らない国の空港に不時着したりで……」

 

「その怪獣倒しに行ったらどこの国かもわかんねぇ森の中に叩き落とされた俺の話する?」

 

「あ、一人だけ鞠莉ちゃんのお母さんに見向きもされてなかったずらね……」

 

「不法入国しちまったわ。どーしよ」

 

 おまけに着の身着のままな上に無一文で既に不安しかない。本当にどうしたものか。

 

「…まあ、タダで旅行出来たと考えて強く生きる」

 

「逞し過ぎない?」

 

『開き直りっつーんだよこういうのは』

 

 一度戻ってもよかったのだが、自分達をここに叩き落としたということは何かしらの意図があるというゼロの睨みだった。

 一旦はここで様子を見ると共に、別方向で動いているあの人が―――、

 

「あれ? だとしたらイサミさん一緒じゃないの?」

 

「こっちにお兄さんいるらしいから会いに行ってる」

 

 元々その兄と連絡を取れないか画策していたようだし、先日の一件でこっちに飛ばされてきていることが確認できたので直接会いに行くそうな。

 一応合流でき次第エックス経由で伝えてくれるそうなのでそっちは連絡を待つしかない。

 

「まあ今は姉ちゃん達の方が重要だろ。なんか連絡あったか?」

 

「今のところ何も……」

 

「最初にこっちに来るよーって送った時に届いたこれだけ」

 

 そう言う千歌のスマホに映し出されていたのは町の一角を撮ったと思しき写真。

 水路の雰囲気からしてベネチアの町であることに間違いはなさそうだが、イタリアの知識皆無の陸達には珍紛漢紛だ。

 

「ここ! すぐ近くだよ!」

 

 そんな無計画集団に差す一筋の希望の光。

 今回助っ人として同行している月はイタリア在住経験がある。これほど心強い味方は他にいないだろう。

 

「ガイド役はボクに任せて、わからないことがあったら何でも聞いてよ! レッツヨーソロー!」

 

 どっかで聞いたことのあるフレーズと共に月が進み始める。地図なども一切見ずに進むその様子は流石と言ったところか。

 

「すごーい、どこへ行っても川があるー!」

 

「町中水路が張り巡らされてるからね。逆に、車は通れないんだ」

 

 言われてみれば確かに道路などと言ったものは一切なかった。

 様相こそまるで違うが、水路に行きかう船々はどことなく沼津の漁港を連想させた。

 

「…当たり前だけど日本人なんていないわね」

 

「うぅ……迷っちゃいそう……」

 

 知らない町に知らない人々。観光気分で楽しんでいる反面、彼女達の顔には未知の場所での不安も垣間見えた。

 どこであろうが経験のない場所というのは不安を呼び込むものらしい。

 

「ここ……かな?」

 

 しばらく歩いた後にその場所へと辿り着く。

 石造りの建物や通路に真横を走る水路。時刻によるコントラストの差こそあるが、確かにここが鞠莉達から送られてきた写真の場所だ。

 

「ん……?」

 

 千歌達がその場所へ辿り着くタイミングを見計らったように。

 水路に隣接した広場にポツンと立つ公衆電話。そのベルが喧しく鳴り響き始めたのだ。

 

「月ちゃん?」

 

 見るからに怪しいそれに千歌達はおろか周辺にいる町の人々すらも近寄ろうとしない。

 そんな空気に終止符を打ったのはまたも月だった。

 

「ボヴォロ……」

 

「あん?」

 

 数秒間耳に当てた後に受話器を元の位置に戻した月がポロリと零す。

 それが次なる目的地を示していたことに気付くのは、もうしばらく後のことだった。

 

「コンタリーニ デル ボヴォロだって♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく! どう考えても怪しいじゃない!」

 

「いいから行くずらー」

 

 迷路のように入り組む道を進み、月の言う˝ボヴォロ˝とやらに向かう。

 正直怪しさは全開だったがこれ以外に手掛かりがなかったのも事実。一先ず行ってみることにした……という次第だ。

 

「…ここか」

 

「わあぁ…! 何これぇ!」

 

 路地を抜け陽光が指したその時、その建物は姿を現した。

 

 古びた白いレンガで組み上げられた様はまさしく歴史的建造物と言い現わしたところか。

 仕切りのないアーチ状の窓枠やそれらが螺旋階段に沿って並ぶ塔。特徴的な外観は観光名所になるのも頷けた。

 

「中世にタイムスリップしたみたい……!」

 

「…ここにいるっていう話だったよな」

 

 月が電話越しに聞いたという情報に従い一階、二階、三階……とやたら高い建物を見上げる。

 そしてその最上階に視線を向けた時、三つの影が蠢くのが見えた。

 

「あっ、お姉ちゃん!」

 

 こちらを見下ろす姉達の姿を見るや否や駆け出すルビィ。

 それに続いてボヴォロへと駆けこんでゆく彼女達の背を見て安堵すると、陸もまた螺旋階段を駆け上った。

 

「お姉ちゃぁん!!」

 

 階段を上り終えた先で待っていた姉に寂しさを爆発させるようにルビィが抱き着く。

 そんな妹を優しく抱き留めるダイヤ含め、さほど時間は経っていないはずなのにこの三人と顔を合わせるのが随分と懐かしく感じた。

 

「…よく来ましたわね。こんな遠いところまで」

 

「よかった、三人一緒だったんだね」

 

「Off course! ずっと一緒だよ!」

 

「……んで、なんでまた行方不明なんかに?」

 

 再開の余韻も程々に陸が問う。

 だが当の三人には心覚えがないようで、揃いも揃って首を傾げられてしまう。

 

 一応ここへ来た経緯だけ説明すると、呆れたように鞠莉が深く息をついた。

 

「…あぁ、そう。()()()()()()になってるのね」

 

「鞠莉のお母さんが千歌達にそう言ったんだよね?」

 

「うん……行方不明で心配だからって」

 

 向こうとこちら側で状況の認識にかなりズレがあるらしい。

 単純に鞠莉達がそんなことになっていると気付いていなかっただけという可能性もあるが、千歌達の連絡にも殆ど返答を寄越さなかったことからそれも考えにくい。

 

 となると、疑わしくはこの情報を千歌達に流したあの人か。

 

「……もしかしてダシに使われたか?」

 

『…かもな』

 

 あまり人の母親を疑うような真似はしたくないが、ある可能性が浮上してしまう。

 

「どういうこと?」

 

「…いや、なんとなーく鞠莉さんのお袋さんが俺を敵視してるみたいだったからさ。なんか裏があるのかと思って」

 

『ハナから鞠莉の母親に利用されてたのかもってことだ』

 

 とはいえあくまで推察に過ぎない。

 確認の意を込めて鞠莉達へ目線を送ると、否定する気はないというように頷いた。

 

「ちかっち達が来るってわかれば、私達は必ずコンタクトをとる」

 

「それでおびき出して……」

 

「捕まえようって魂胆ですわ」

 

 ぴらりと、ダイヤの手から差し出される一枚のチラシ。

 まるで映画の広告ポスターのようなそれは、果南とダイヤが鞠莉に対し不埒なことをしようとしているかのような悪意に満ちたもの。話の流れからして制作者は鞠莉の母親なのだろう。

 

「町中にこれがばら撒かれてる辺りから手段は選ばなくなってきてる気はしたけど、まさかちかっち達まで利用するなんて……!」

 

「じゃあ行方不明って嘘ってこと!?」

 

「てか指名手配じゃんそんなの!?」

 

 鞠莉達自身気付いた時にはもうお尋ね者の身だったらしい。

 これをどの程度町の人々が本気にしているかだが、こうして彼女達が身を隠すようなことをしている以上はきっと―――、

 

「Non sono quelli su questo volantino?」

 

 そんな予感が当たるように後方の階段から声がする。

 振り返れば観光客と思しき人々が数名。件のチラシを手にしていることから恐らく鞠莉達についての会話らしい。

 

「ここにあまりLong stayは無理ですネ……!」

 

 あのチラシが相当広まっていることを考えると、ここにいることで騒ぎになるのも時間の問題。

 それを悟ったか、鞠莉は何やら鞄の中を弄りだす。

 

「曜……ごめん!」

 

 直後にふわりと宙に舞った一着の制服が窓枠を超え地上に落下していく。

 そしてそれを追うように、二つの人影までもがその身を投げ出し―――、

 

「「制服ッ―――――!!!」」

 

「「だめえぇぇぇぇぇっ!!??」」

 

 放られた制服へ迷いなくダイブした曜と月を必死に抱き留める千歌と梨子。

 陸や一年生組の助けもありなんとか事なきを得るも、その時には既に鞠莉達の姿はなかった。

 

「あぁっ!?」

 

「ごめんなさーい!」

 

「詳しい話はnothingデース!」

 

 曜達を引っ張り上げている間に逃走したのか、既にボヴォロから走り去ってゆく鞠莉達の声が聞こえる。

 どんな事情があるかは知らないが、ここで逃がすわけにはいかない。そう判断すると手摺に足を掛け――――、

 

「逃がすかァッ!」

 

「ちょ……、ここ最上階!」

 

 直前に起きたハプニングなぞなんのその。()()()()()()()()()()()陸が三人を追う様を、残された七人は呆然と眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「普通あそこからついてくる……?」

 

『コイツに普通を期待すんな。バカだぞ』

 

「んだとテメェ」

 

 人目を避けつつ路地を駆ける。そこらかしこにポスターが張りつけられた様は先程千歌が言った通り指名手配犯のようだった。

 

「それで……説明してもらえません? こうなってる訳」

 

 先頭を走り周囲を確認しつつ問う。

 彼女の母が母なら彼女達も彼女達だ。どんな思惑があるのかは知らないがここまで来て何も教えないというのも妙だろう。

 

「…追われてるんすよね。お袋さんに」

 

「……やっぱり、隠せないか」

 

 堪忍したように鞠莉が足を止める。

 答えてくれる気にはなってくれたようだが、それでもその表情には迷いと抵抗が伺えた。

 

「…このままだと、鞠莉が結婚させられちゃうの」

 

 そんな鞠莉の気持ちを汲んだが故なのか、代わりにそう口にする果南。

 彼女からも憤りに近い何かを感じ、少なくともその件を快く思っている様子は欠片もなかった。

 

「……つまり、縁談の話があるということですわ」

 

「……またっすか」

 

 以前鞠莉に持ち掛けられてきた縁談を回避するために恋人を演じた際のことを思い出し若干頭が痛くなる。

 あの時のこともあるし無水のような奴が来ることはないだろうが、見知らぬ者であることに変わりはない。確かに気分の良いものではないだろう。

 

「しっかし、なんでまたそんな話が……」

 

「鞠莉の自由を奪いたいから」

 

 果南の返答に少し戦慄する。

 だが誰も否定しない辺り事実なのだと受け止めざるを得なかった。

 

「……鞠莉さんのお母様は、昔からわたくし達のことをあまりよく思っていないのですわ」

 

 鞠莉達三人が今までヤンチャやってきたのはよく聞かされている。

 

 それまでいい子だった鞠莉が果南にダイヤと出会ってからというもの、家から抜け出すわ危険な遊びはするわでやりたい放題……終いにはこちらの高校を抜け出して勝手に浦の星に戻ってくる始末。

 

 確かに親としてはあまりいい気分はしないだろう。

 

「…これまでも何度か手は打ってくることはあっても、お父様の制止もあったのかあまり過激なものではなかったのですがね」

 

「この前の見合いが滅茶苦茶になったせいでいよいよ我慢できなくなったらしくて……」

 

「え、じゃあ俺がなんか敵視されてるのは……」

 

「…多分、無水を殴り飛ばしたからだと思う……」

 

 やってしまったと額に手を当てる。

 どうやらこの事件、間接的にだが陸が原因になっていたらしい。

 

「…すみません……俺がやっちまったばっかりに……」

 

「そのことで貴方を責める人はいませんよ」

 

「むしろアレが成立してた方がマズかったしね……」

 

「いやでも俺が招いたみたいなモンだし……とにかく、俺に出来ることあったら何でも言ってください」

 

「だったら、りくっちが私と結婚してくれる?」

 

 悪戯っぽく口元に指をあてる鞠莉。彼女に告白されたあの日の出来事がフラッシュバックして少し頬が火照った。

 

「あはは。イッツジョーク。心配しないで、自分達で何とかするためにこうやって動いてたんだから」

 

 揶揄うように笑われる。もう何度もやられていることだが慣れる気配はなかった。

 ともあれ鞠莉達がこちらまで来ていたのは卒業旅行以外にそういった意味もあったらしい。

 

「とりあえずりくっちにはりくっちのやること、あるんでしょ?」

 

 また別質の真剣味を帯びた顔が向けられた。

 さっきはドタバタしてて伝えられなかったけど。そういって差し出されたのは何かがメモされてある一枚の紙切れ。

 

「この前、こっちにもウルトラマンと怪獣が現れたのは知ってるよね?」

 

 ミラノに現れたロッソとクレッセント。

 もしやこの三人も巻き込まれたのではと肝を冷やしていたのは記憶に新しい。

 

「実はね、そのウルトラマンの人に頼まれたんだ。りくっちと合わせてもらえないかって」

 

「えぇ!?」

 

「丁度皆もこっちに来るって連絡がきたすぐ後だったから、一先ず事情だけ説明したらこのメモだけ渡されたんだけど……」

 

「しばらくはここに書いてある場所に留まるらしいですわ」

 

 どういった経緯で鞠莉達と接触したかは知らないが、どうやら向こうもこちらとの接触を図っているというのは同じらしい。

 恐らくその人物と思われる者には弟であるイサミが会いに行っているが、まだ音沙汰がないということはそういうことなのだろう。

 

「ちかっち達が私達に追い付くにはもうちょっと時間掛かりそうだし、会ってきたら?」

 

「……また、何か起こっているのでしょう?」

 

 グループとして新たな壁にぶつかっている今、余計な心配は掛けたくないという判断で千歌達には知らせていなかったが……この人達にはお見通しらしい。

 

「まあ、現に心配されてここまで来られてる訳だから心配しないで……って言うのもアレだけど」

 

「もう、私達のことなんてほっといて、新しいAqoursを始めなさいって言ったのに」

 

 けれどまあ、身近なものが見えていないのがこの人達らしいが。

 

「……それだけじゃないんすよ」

 

 メモを受け取り、所在の場所を目指して駆ける。

 最後に一つ、改めて三人に対し言い残して。

 

「ここに来たのはアイツ等にとっても大事なことだったんです……だから聞いてやってください。アイツ等の話」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここか」

 

 夕日が映える中、陽光の当たらない路地の片隅に構えるバーと思しき店の前で立ち止まる。

 辺りに全く人がいないことや如何にも地球の言語ではない文字で記された店名は如何にも怪しさ全開と言った様子だが、メモの示す場所はここだ。

 

『コイツぁ……˝シェルター˝か?』

 

「シェルター?」

 

『ああ……あまり他の惑星との交流が活発でない星ではよく見られるんだが…………まあ、宇宙人が通う喫茶店とでも思ってくれればいい』

 

 言われてみれば現状この地球で宇宙人が受け入れられていられるかと言えばそうではない。

 恐らくやむを得ず地球に留まっている宇宙人が通う場所なのだろう……そう思いながら戸を開く。

 

「……よう、来たな」

 

 暗い階段を下りた先に広がっていた店内スペース。

 そこに集った顔触れの中、真っ先にカウンター席でラムネを煽るテンガロンハットの風来坊へと視線は向けられた。

 

「ガイさん……?」

 

 クレナイガイ―――ウルトラマンオーブ。

 以前精神的に瓦解しかけていた陸を救ってくれた恩人であり、ウルトラの先輩。

 

「俺だけじゃない。ほら」

 

 ガイの言葉の通り、見知った顔は彼だけではなかった。

 礼堂ヒカル、ショウ、大空大地、朝倉リク、湊イサミ……そしてその兄と思しき青年。

 

「ちゃんと辿り着けてよかったよ……あんまり地図に自信なくてさ」

 

「カツ兄絵心ないもんな」

 

「ほっとけ」

 

「えっと……」

 

「ああごめん。イサミとアサヒから聞いてると思うけど、俺が湊カツミ。よろしく」

 

 この人が湊カツミ―――ウルトラマンロッソ。

 先日この国でクレッセントと戦い、鞠莉達に伝言を残した張本人。

 

 兄弟故なのか、若干おちゃらけているイメージのあるイサミとは正反対という印象を覚える。

 

『これで全員揃ったな。助けられたよカツミ君』

 

『エックスお前……!?』

 

「なんか俺達より先にカツ兄が皆と会ってたらしくて、それで全員を合流させるためにエックスが俺のとこに来てたらしいよ」

 

『うむ。カツミ君の携帯から君の携帯のデータを取得してな。それを利用して私自身をイサミ君の携帯に転送したという訳だ』

 

「すみません……一回状況説明してもらっていいっすか?」

 

 一気に押し寄せる情報に脳の処理が追い付かない。

 ニュージェネレーション全員がこの地球に飛来していたこと自体はエックスから知らされていたが、まさかこんなところで再開するとは想像もしていなかった。

 

「俺達がとある敵を追ってこの地球まで来たことはエックスから聞いてるよね?」

 

 そこで今この地球で起きている異変を悟った……と大地が説明と共に自らの持つデバイスにそのデータを映す。

 正直空間振動だの空間エネルギーだのはさっぱりだが、何かしらの要因で生じた空間の歪みが地球を覆っているのはわかる。

 

「そいつが原因でカツミ達がこっちの地球に飛ばされちまったらしくてな」

 

「それが、丁度俺達の追っていた˝奴˝の仕業だったという訳だ」

 

『……そもそも誰なんだよ、その˝奴˝ってのは』

 

『む? とっくに知っているものだと思っていたが……』

 

 エクスデバイザーの中でエックスが首を傾げているのがわかった。

 どうやら今回の首謀者は既に一度陸達が接触したことのある者らしい。

 

「今宇宙警備隊がその、ベリアル軍の後始末でこっちに手が回せないらしくて、それで急遽僕達がアイツを追ってたんだ」

 

「ゼロさん達も一度接触しているのはメビウスさん達から聞いた……もうわかったと思うが、この異変を引き起こしたのは―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中、スマホの画面だけが灯る。

 通知音と共に更新されたメッセージの内容を読み取ると、鹿角理亞は握っていたそれを床へと叩きつけた。

 

「理亞―?」

 

 部屋の明かりが点けられると共に姉が戸を開いたのがわかった。

 誰よりも尊敬する姉、大好きな姉……けれど今この瞬間に限っては、最も顔を合わせたくない相手だった。

 

「千歌さん達、無事にイタリアに到着したそうです。そこでダイヤさん達と―――」

 

「姉さま」

 

 擦れるような声を絞り出す。

 少しでも声を出していると泣きそうになる。それを必死に堪え、ベッドの上で顔を埋めた理亞は姉に懇願した。

 

「お願いだから、灯りを消して……」

 

 どうすればいい。どうしたらいい。

 スクールアイドルを続けると誓ったのに。新しい雪の結晶を作ると約束したのに。

 

 どうして自分は今、こんなところで足踏みしているんだ。

 

「姉さま……」

 

 一緒に続けてくれると言ってくれた友達も、付いてこれずに皆離れて行ってしまった。姉や自分に合わせていたメニューはまだ彼女達には厳しいことはわかっていたのに。

 

 そうなる理由を作ったのも、皆を引き留められなかったのも自分だ。全部非力な自分が招いたことだ。

 

 もういないとわかっているのに、心は今までずっと隣にいた姉の存在を求めてしまう。

 

 

 

『――――やり直したいかい?』

 

「え……?」

 

 自分以外はいないはずの部屋に反響した声が苦悩に沈む自意識を引き摺り出す。

 

『失った夢や理想を追い求めているのに現実はそうさせてくれない……実に辛いことだろう』

 

「だ、だれ……?」

 

『ああ、失礼。私としたことが自己紹介が遅れてしまったね』

 

 気付けば放り出していたスマホの画面で蠢く闇の中で、赤い双眸が瞬く。

 理亞の心の中を見透かしたようなその悪魔は、同情の言葉と共に救いを差し伸べるように黒い腕を伸ばすと―――囁いた。

 

 

 

 

 

『―――――私はウルトラマントレギア。君の願いを叶えに来た』

 

 




ご唱和ください˝彼˝の名を……トレギアァァァッッ!!!
はい、わかっていたとは思いますが事案おじさんことトレギアさん再登場です

そんでもってニュージェネの先輩方が揃い踏みです
トレギアが何を企もうと彼等が打ち砕いてくれることでしょう、多分()

ちなみにコンタリーニ デル ボヴォロの最上階は地上から30メートル近くの高さにあるので決して飛び降りないでください。陸は特殊な訓練を受けてます

それでは次回で

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