ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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今回からまた日本に戻ります
忘れてはいけないのがトレギアさんの甘言を受けた彼女……


百六十八話 取り零した夢

 

 

「なんだかんだ言って地元が一番落ち着くよな……」

 

「ああ、旅行とかから帰ってくるといつも思うやつね」

 

 溜まりに溜まった疲労や心労から解放されるように身体を伸ばす。

 イタリアでのライブも無事成功に終わり日本に帰国。改めて慣れ親しんだ場所というものの心地よさを実感する。

 

「クク……休息の時間なんて存在しないわよ。我がリトルデーモン達がヨハネのライブを心待ちにしているのだから……!」

 

「…お前は謎にテンション高いよな」

 

「新しく友達ができて浮かれてるだけずらー」

 

『明日は吹雪か』

 

「槍でも降ってくるんじゃねーの?」

 

「失礼ね! 私だって友達の一人や二人……」

 

「二時間くらい嬉しそうに携帯の画面眺めてたの誰ずらかー」

 

「うっさいわい!」

 

 沼津まで戻ってくると色々と話が進んでいた。

 なんでも浦の星の生徒と協力したいと申し出てくれた静真の生徒が、既にステージの日取りや場所などを抑えてくれたとか。

 

「……いいライブ、しないとね」

 

 ˝皆˝とは何もメンバーだけを指すものじゃない。彼女達と、彼女達を支え応援してくれる達……それがAqoursにとっての皆。

 

 そんな皆がいれば大丈夫。イタリアで改めて認識したことを早くも実感させられる。

 

「…でも、向こうで歌った時と違って、鞠莉ちゃん達はいないずら」

 

 けれどまだ不安も拭い切れていないのも事実。

 スクールアイドルを知らない人々の、よく思わない人の前でのライブは成功した。

 

 でもそれはあの三人も一緒だったから。結局のところ˝六人˝でのAqoursの形がどうであるかはまだ掴めていない。

 

「できる…できるよ!」

 

 けれど何も掴めなかった訳じゃないと、親友の背を押すようにルビィと、それに続くように千歌が笑みを作る。

 出発前の彼女達と比べ自信や成長を感じさせるその表情は、いつになく頼もしく思えた。

 

「……ん?」

 

 ワイワイとミーティングに入った彼女達を尻目に着信を意味する振動を起こした携帯を手に取る陸。

 その画面に映し出されたメールの差し出し主と件名に、訝し気に眉を寄せた。

 

「鞠莉さん達……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで掴めそうか? トレギアの行方」

 

「…いいえ、まだ……」

 

「けどアイツのエネルギー反応はまだこの星にあるよ」

 

 口火を切ったヒカルの言葉に返す形で大地とイサミがタブレット端末に検出したデータを表示する。

 

『どうにも弄ばれている気がしてならないな』

 

「時空の歪み自体は解消したが……事が解決した気がしない」

 

 こちらも舞台を日本に移し、とある港町の一角にあるシェルター内。

 一時的にトレギアの脅威を退けたとはいえ、まだ地球に残る奴の気配を警戒したニュージェネレーションズはしばらくの滞在を決めたのだった。

 

「つまりトレギアにはまだ狙いがあるってことか……あ、マスター、ラムネ一本頼む」

 

「あ、僕にもお願いします!」

 

「じゃあ私も飲みますー!」

 

「おいアサヒ遊びに来た訳じゃないんだぞ……」

 

 ショウの言葉の通りブルトンが消えたことにより違う次元同士を繋げていた歪みは消え、それぞれ元ある位置へと戻った。

 だが()()()()()()()()()()()()()。まるで奴の手のひらで踊らされているような一連の流れに胸騒ぎを禁じ得ない。

 

「カツ兄! 私だってウルトラマンですよ! トレギアの野望を止めるために残ったんです!」

 

「ならちょっとは真面目に考えてる素振りを見せてくれ……」

 

「まあまあカツ兄……アサヒはなんか意見ないの?」

 

「トレギアはサプライズを考えているんじゃないでしょうか!」

 

「話にならん……」

 

「いや……続けてくれ」

 

 妹を諫めようとするカツミをガイが止める。

 瓶のラムネを煽る彼の瞳は至って真剣であり、真面目にアサヒの意見を可能性の一つとして捉えようとする意が伺えた。

 

「はい! 前私の友達にサプライズでお誕生日を祝ってもらった事があったんですけど、その時サプライズの事を知られないように別のことで私の気を引いてたんです」

 

「……つまり?」

 

「トレギアがやっているのもそれと同じで、そのサプライズを隠すためにあの事件を起こしたんじゃないでしょうか!」

 

 つまり˝Aqoursが狙い˝と言う動き自体が本来の目的を隠すためのカモフラージュだったという可能性。

 彼女達を狙っていたわりにはあまりにも干渉してくる度合いが低かった……と言うのは確かに感じていたことだ。

 

「アイツ等が狙いだと俺達に思い込ませている隙に本当の計画を進めていた……か。確かに考えられなくはないな……」

 

「だがだとしたら何が目的だ? この地球で俺達が接触しているのは陸と彼女達だけだろう?」

 

 トレギアが過去に起こしてきた騒動の例を見るに、わざわざ呼び寄せたウルトラマン達と直接関係のない場所で何か目論んでいるとは考えにくい。

 だからこそこの星で唯一と言っていい接触者であるAqoursが狙いだと踏んでいたのだが…、

 

「……どうであれまた警戒態勢を敷き直した方がよさそうですね。陸君の方には僕から伝えておきます」

 

「ああ……これ以上巻き込まないつもりでいたけど、この際仕方ないか……」

 

 まだトレギアの野望が潰えていないことは陸には伝えていなかった。

千歌達Aqoursのサポートに集中させてやりたい気持ちもそうだが、もうじきゼロもこの地球を離れ、陸はウルトラマンとしての使命から解放される。

 

 普通の高校生に戻りつつある彼を不用意に巻き込むのは避けたい。それはここにいる全員の意思だった。

 

「結局、最後まで巻き込むことになっちまったな……」

 

「状況が状況だ、割り切るしかないだろう。そう言い続けた結果奴の目論見通りになってしまっては本末転倒だ」

 

 とは言えトレギアの魔の手がまだ退けられていない上にその目的すらも不明瞭な現状ではそうは言っていられないのも事実。

 この事態が収まらない限り、彼に普通は訪れることはないのだから。

 

『…一つ、いいだろうか』

 

 いざ動かんと全員が上げたその腰をエックスの声が制止する。

 

『……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との話だったが、それだけではないぞ』

 

「あと二人いるんです。陸君がゼロと一体化してることを知る子達が」

 

 重ねるように大地も付け加える。

 確信を得たように語る二人からは焦燥と、確かな危機感が垣間見えた。

 

『しかも陸の話では、彼女達も千歌達と同じような壁にぶつかり悩んでいる……とのことだった』

 

「じゃあ本当の狙いはその子達ってこと!?」

 

 となればウルトラマン達をイタリアへ集め、まるでAqoursが狙いであるように仕向けたのは大地とエックスの言う少女達への干渉を邪魔させないため……ということになる。

 

『だいぶ時間を稼がれてしまったからな……少々、マズいかもしれないぞ』

 

 どこかでトレギアの嘲笑う声が聞こえるような錯覚がする。

 何倍にも増した緊張感は、彼等を動かすには十分すぎるほどの重みを秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私の、願い……」

 

 灯りも点けていない部屋の中ぽつりと零す。

 眼前の窓ガラスにぼんやりと映る自分の顔は、冗談でも笑顔とは言えなかった。

 

―――――失った夢や理想を追い求めているのに現実はそうさせてくれない

 

―――――……実に辛いことだろう

 

 頭の中で反芻する声から逃げるように練習用のジャージへと着替える。

 走ればこの声も離れてゆくだろう。そう思い自室から出ようとドアノブに掛けた手が、止まった。

 

 走って何になる。

 

「練習の…ため」

 

 練習して何になる。

 

「……ラブライブを目指すため」

 

 ラブライブなんて目指せるのか、もう姉もいないのに、仲間も皆離れていってしまったのに。

 

「……!」

 

 自分に言い聞かせ鼓舞するための言葉も、自問の果てに途絶えた。

 ただ一つ溢れようとしてくる涙を必死に堪えながらやっとの思いで開いた戸の向こうで、何か神妙な顔をした姉と視線が重なった。

 

「ねえ…さま……」

 

 遅れて姉を認識し慌てて目尻に滲んできたものを拭う。

 そんな妹の様子に、どこか迷っていたような聖良は意を決したように口を動かした。

 

「…理亞、あなたのことで話が――――」

 

「ランニング行ってくるッ!」

 

 その声を聴いた瞬間にまた零れそうになった涙を見せまいと部屋を、そして玄関を飛び出す。

 触れた外気がいつもに増して冷たく、そして痛く感じるのはきっと気のせいではないのだろう。

 

―――――君の願いを叶えに来た。

 

 走れば走るほど、胸の鼓動が大きくなればなるほどに、自分の中で悪魔の囁きも大きくなってゆく。

 何もかも上手くいかない状況の中、その声に揺れる心は最早誤魔化しようのないものになっていた。

 

『―――お呼びかな? 迷える子羊さん♪』

 

 幻聴ではない、はっきりと両の耳で捉えたその声に足を止める。

 危機感と、同時に生まれた少しの期待感に突き動かされるように辺りを見回せば、不法投棄されたアナログテレビの液晶で渦巻いている闇に視線が止まった。

 

『そんなに警戒することはないさ。私はただ、君の願いをかなえてあげたいだけさ』

 

「あ、アンタの助けなんかいらない……」

 

 絞り出すように返す。

 甘言に惑わされるな。コイツはヤバイ。以前強大な悪意と対面した経験がそう叫んでいる。

 

『おやおやいいのかい? 最早どうにもならない……そう考えていたのは君自身だったはずだが』

 

「それは……」

 

『私ならそれを叶えることができる……失った君の夢をもう一度、いや永遠のものとすることだってできる。君が望んだもののはずだろう?』

 

 心の中を見透かしてくるような言葉が自分の中に入り込んでくるのがわかる。

 纏わりついて、離れない。聞き入れちゃだめだとわかっていても、心の奥底でそれを求めている自分がいる。

 

『さあ私の手を取れ。辛い現実になんて囚われる必要はない。何度だって言うさ―――私は、君の願いを叶えに来た』

 

「…うるさい! 私はアンタなんか必要としてない……どっか行ってッ!!」

 

 差し出された腕を払い、奴から、惑わされる自分から逃げるようにまた駆け出す。

 

『頑固すぎるのも関心はしないが……まあいいさ。悩み苦しむ時間も若人には必要だからね。……それでは、また』

 

 最後に残された声が闇の中へ消えてゆく。

 けれど理亞の心に残ったそれは消えることはなく、抱いてはいけない感情を増大させながらいつまでも残響した。

 

 




トレギアの狙いに気が付いたニュージェネの先輩方、そしてトレギアに惑わされる理亞ちゃん

ベリアル陛下戦ほどのインパクトは難しいですがいよいよ最後の戦いが始まろうとしています

それでは次回で
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