オタクの好きなこと片っ端からやってくれましたねホントにもう……
ゼロライブの方も最終回目前です
最後までお付き合いいただければ
二つのグループだけのラブライブ決勝延長戦から数日。
改めて六人でのスタートを切るAqours。その始まりのライブを翌日に控え、古びた校舎に備わった申し訳程度の校庭に虹の掛かったステージが組み上げられてゆく。
「おっも……!」
「手伝うとは言ったけどんな肉体労働させられるなんて聞いてねーぞ!」
「うっせ口動かしてる暇あったら一秒でも早く運べ」
「てかなんでお前はそんな涼しい顔で運べるんだよ……」
自身も土台となる部位を担ぎながらジャージ姿の同級生共に指示を飛ばす。名実共に人間離れしている陸よりは劣るもののやはり力仕事は野郎がいた方が捗るものだ。
「…陸ちゃんが同級生と話してるの初めて見たかも」
「ていうか扱い雑過ぎない……?」
「向こうから手伝いたいって言ってきたんだからいいだろ別に」
本来AqoursとSaint Snowしか知り得なかったライブだったが、「自分達しかこのライブを知らないのは勿体ない」と、中継役の月によってその動画がネットに上げられ今に至る。
今木材を運びながらヒーヒー言っているこの同級生共はその動画を見て協力を申し出てきたのだ。
「ま、こっちの連中も統合の問題でちょっとドタバタしてたしな。何とかしたいのはお前等と同じなんだろ……つっても九割下心だろうが」
「それでも嬉しいよ」
不純な動機こそあれど、元々スクールアイドルというものをよく知らなかったコイツ等があのライブ映像に心打たれ協力してくれているのは確かだ。
想いはちゃんと届いている。それを改めて認識する機会を作ってくれた月には感謝せねばなるまい。
「いよいよだね!」
噂をすればなんとやら、大勢の静真高校の生徒を引き連れて顔を見せる月。
静真からも協力を申し出ている生徒がいるのは知っていたが、その時に名乗り出ていたのはせいぜい数人だったはず。だが今校門前には目視できる限りでもその数十倍。
「くっ…! やはり聖戦は避けられないのか……!?」
「月ちゃん、どうしたの?」
「あのライブ動画を見て、集まってくれたんだよ! ボク達にも、何かできないかなって」
若干名身構える者もいる中、輝かしい視線を背負いながら月が朗らかに言う。
皆父兄の反対を押し切ってここにいるだろうに、それでも不安などという感情は微塵も感じられなかった。
「気付いたんだ。ボク達は何のために部活をやっているのか」
「何のため?」
「楽しむこと……皆は、本気でスクールアイドルをやって心から楽しんでた!」
イタリアでのライブ、そして決勝延長戦。最も間近で彼女達に触れた
部活に限ったことではない。どうしてそれをやっているのか。どうしてそれを始めたのか。
それはきっと楽しいから、やりたかったから。
いつも始まりはきっとその感情なはずだ。
「だからボク達も本気にならなきゃダメなんだ。そのことをAqoursとSaint Snowが気付かせてくれたんだよ……ありがとう」
千歌達も始まりはそうだった。
太陽のような輝きに魅せられた。自分もそうありたいと願った。
そしてその中で輝きたい、楽しみたいという想いが伝播し皆が集まった。
その始まりの感情にスクールアイドルも、他の部活も変わりはないから。
「だから皆も手伝いたいって言ってるんだけど……どうかな?」
「じゃあ…、甘えちゃおっか」
Aqoursのライブが繋いだ手だ。彼女達がその力を借りる権利は大いにある。
人手も満足とは言えない状態であったし、甘えさせてもらうとしよう。
「…人手も集まったし、お前等先帰っとけよ。あとは俺等でやるから」
「え、でも皆手伝ってくれてるのに私達だけっていうのは……」
「これで怪我とかされたら洒落にならねーんだよ。いいから明日のライブのことだけ考えて休め」
「そうそう。ここは私達に任せて」
「しっかり休んで、いいパフォーマンス見せてね」
皆Aqoursのライブのために手を貸してくれているのだ。その準備で彼女達に何かあればその気持ちを裏切ることになる。
そう考えているのは陸だけではない。もう明日のライブはAqoursだけのものではないのだ。
「…じゃあお前も一緒に帰れよ仙道」
「あ? いや俺関係ないだろ明日のライブ」
「始まった頃からずっとその子等の近くにいたんだろ? だったらお前も一緒にいないとダメだろ」
「お前等……」
少し感動している自分がいた。
ずっと女の尻しか追いかけていないと思っていたこの連中がこうまで言っている。千歌達と同じように、コイツ等だって変わり成長して―――、
「それに今までそんな可愛い子達との関係黙ってやがっててこの野郎!」
「これ以上独り占めなんてさせねーからな! 俺等のこれからのためにもお前は帰れ!」
「……期待した俺が馬鹿だったよ」
「そう言えば、ゼロさんはいつまでここにいられるずら?」
同級生共の抵抗に押し切られ、結局陸も一緒になったその帰り道。
ふと思い出したようにそう口にした花丸に、なんとなく左腕のブレスに触れてしまう。
『…お前等のスタートを見届けたら光の国に戻る……ま、つまり明日までってことだな』
急なカミングアウトに、陸以外の表情が一瞬固まるのが見えた。
ベリアルを倒し、トレギアも退けた今、もうゼロがこの地球に留まる理由はない。
光の国からの気遣いなのか直接帰還命令は出ていないが、それにも限度がある。
千歌達が新しいスタートを切ったら自分も帰還する……少し前にゼロからそう伝えられた時のことを思い起こす。
「……陸は知ってたの?」
「まあ…な。悪い。お前等にも伝えるべきとは思ってたんだが……」
「そっか……明日までか」
ほんの少し寂しさを含んだ呟きが漏れる。
離れていても繋がっているし、紡いだ絆も消えやしない。そのことはわかっていても、簡単に拭えるものではなかった。
「……じゃあゼロも私達と同じだね」
静寂が舞い降りる中、ひょこりと曲がり角から顔を見せる果南、ダイヤ、鞠莉の三人。
そう言えばイタリアの一件もあり一度戻ってきていた彼女達がここを経つのももうすぐだったか。
「私達も千歌達のスタートを見届けたら、そのまま向かうよ」
「それぞれの場所へ」
「チャオ~♪ってね……だから、その前に皆で行かない?」
蟠る寂寥感を振り払うように鞠莉が提案する。
新しいスタートや旅立ちを前にこの九人で最後に向かう場所は、容易に想像できた。
「そう言えば、バス停無くなっちゃうんだよね」
「学校が無くなったら、使う人いないものね」
撤去の張り紙が貼られたバス停の標識。何度も彼女達を迎えてくれたその場所を通り、向かう。
「なんか懐かしい気持ち」
「まだ卒業式から少ししか経ってないのに」
「毎日通ってた道ですから」
「少し来ないだけで懐かしくなっちゃうのかも」
何度も登った長い坂道。傾く夕陽も相まって感傷的な気分になる。
思えば夏休みや冬休みも足繁く通って練習したものだ。
「本当、色んなことがありましたわね」
「毎日賑やかだったなぁ~」
「賑やかと言うよりうるさい、かもだけど」
「お前を筆頭にな」
「人のこと言えないずら~」
「何よ! ずら丸だって相当うるさかったじゃない!」
「でも…楽しかった」
語る思い出は尽きない。
開けた道から見下ろす景色の中には色々なものが詰まっている。そのどれもが、今の彼女達を形作ったもの。
そんな思い出を語らいながら、その場所へと辿り着く。
「で、なんで学校なんすか?」
「どうだろ……呼ばれたのかな」
「でも、ちゃんとあって安心したずら」
桜舞う中、何の変哲もない、思い出が詰まった校舎が顔を見せる。
浦の星女学院。かけがえのないものと出会わせてくれた、大切な場所。
「…あ、開いてる」
その最後の日に泣きながら閉じた校門は、まるで千歌達を迎え入れるかのように僅かながら開いていた。
まだお別れなんて告げなくていい。まだあの日々に浸っていていい。そう言うように。
「大丈夫……無くならないよ」
けれど、その中に入る者は誰一人としていなかった。
自分に、皆に、そして学校に語らうように、校門に手を掛けた千歌の優しい声音が触れる。
「浦の星も、この校舎も、グラウンドも、図書室も、屋上も……部室も」
いままで彼女達を育ててきた景色がある。
海、砂浜、バス停、太陽、船、空、山、町……その場所は数知れないけれど、その全てに育まれてイマがある。
「……Aqoursも」
覚えている限り、歩み続ける限り、その景色は、想いは消えたりしないから。
だから今は振り返らない。そう言うように、笑顔で、その門を閉じる。
「…帰ろう」
これまで一緒に歩んで来て、これからも進んでゆく仲間に向けられた千歌の顔に迷いのない笑みが咲く。
これまでやってきたことは全部残ってる。何一つ消えたりしない。あの日気付けなかったものが、今は皆の胸の中にある。
浦の星の、その最後の思い出を笑顔で飾る。それは出来なかったけれど、改めて学校と向き合う皆の顔は晴れやかだった。
「全部ここにある。ここに残ってる……ゼロには、絶対にならないんだよ!」
寂しい気持ちも、悔しい気持ちも消え去った訳じゃない。
けど、それ以上の輝きが、もう彼女達の胸には宿っているんだ。
「だから!」
差し出された千歌の手に皆の手も重なり、九人で、
「イチ!」
始まりはいつもゼロだった。
「ニ!」
始まって、一歩一歩前に進んで、積み上げて。
「サン!」
でも、気付くとゼロに戻っていて。
「ヨン!」
それでも、一つ一つ積み上げてきた。
「ゴ!」
何とかなる。きっと、何とかなるって信じて。
「ロク!」
それでも、現実は厳しくて。
「ナナ!」
一番叶えたい夢は叶えられず。
「ハチ!」
また、ゼロに戻ったような気もしたけれど。
「キュウ!」
彼女達の心の中には、色んな宝物が生まれていた。
「Aqoursァ!!」
――――――『『『サンシャイン!!!』』』
それは、絶対に消えないものだから――――――、
―――――Next SPAKLING!!
皆で作ったステージの上で、片翼の衣装を纏う新生Aqoursがその幕を開ける。
六人で披露する曲だけど、六人だけで辿り着けた曲ではない。
卒業した三年生、Saint Snowの二人、そして協力してくれた学校の生徒達。色んな人達との積み重ねがあってこのステージがある。
皆で見つけた新しいAqoursの形。その答えそのものである曲。
もう九人ではないけれど、卒業していった三人の想いはずっと残っていくから。その想いを胸に秘めて、Aqoursは続いていくから。
だからこれは六人で披露する、九人分の想いを秘めた曲。
九人で紡いだ蒼い羽の輝きを抱き留め、六人のAqoursは、また新しい輝きへと手を伸ばした。
『……見届けたぜ。お前等のスタート』
ステージを見つめ、少しだけ名残惜しそうにゼロが零す。
軽い脱力感が身体に走るのがわかった。その時が来たんだ。
「…行くんだな」
『ああ、俺も負けてられないからな』
一瞬、辺りを見回す。共にこのスタートを見届けていたはずの果南達の姿は既になかった。
千歌達だけじゃない。果南達も、ゼロも、これまで紡いできたものを胸に新たな道へ進んでいくんだ。
「……ありがとな。今まで」
『それぁこっちの台詞だ。お前達のおかげでまた色々学ばせてもらった』
陸も、千歌達も、ゼロがいなければ成しえなかったことは多々あった。
感謝だなんて大層な言葉で言い表すものではないけれど、それと同じくらい大切なものだ。
『……楽しかったぜ。アイツ等にもよろしく言っておいてくれ』
「…おう」
それ以上の言葉は交わさなかった。もはや言葉すらも余計な気がしたから。
『……じゃあな、陸』
左腕のブレスが消え、完全に分離したゼロが空の蒼へと消えてゆく。
その存在に気付く者はいなかった。浦の星や静真の生徒、町の人、反対していた父兄すらも、ステージ上の彼女達に目を奪われているから。
「……じゃあな」
もう何も見えなくなった空を見上げ、最後に零す。
奇跡の出逢いから始まった、輝きに満ちた冒険は――――今日この日、幕を閉じた。
若干駆け足気味となりましたが、ラブライブサンシャイン本編に沿ったお話はこれで終わりです
サンシャイン劇場版の魅力を損なわずに書き上げられたかは未だ不安ではありますが、自分としては及第点くらいには到達したつもりでいますね
最後の円陣のところで番号とモノローグを言ったメンバーが本編と違うのは構成上の問題です許してください()
長く続きましたゼロライブ、次話のエピローグをもって完結となります
ようやくたどり着いた最終話、見届けて頂ければ嬉しく思います
それでは、次回で