ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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遂に最終話です……
ここまでお付き合いくださった皆様に、心からの感謝を


エピローグ 輝けるものたち
最終話 そして、明日へ


 

 

彼女達がゼロから作り上げたものとは何だったのか。

 

形のないものを追いかけて、迷って、怖くて、泣いて、それでも走り続けた。

 

そうやって駆け抜け、ふと振り返った時に心に灯っていた光。

 

彼女達Aqoursが見つけた輝きとは、そういうものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スクールアイドル部でーす!」

 

「ライブやりまーす!」

 

桜舞う賑やかな校門前に響く一際賑やかな声。

静真高等学校。その制服に身を包んだ数名の女生徒が、入学式を終えたばかりの新入生を勧誘せんと笑顔を振りまいていた。

 

「ほら、陸も声出す!」

 

「なんで俺まで勧誘しないといけないんだよ……歌うのお前等だろ!」

 

「つべこべ言わず行ってこーい!」

 

突き飛ばされる形で人混みの中にダイブ。

入学式恒例の新入生勧誘。校門前に集結した各部活動の部員が声を張り上げて真新しい制服姿の一年生を引き込まんとするこの光景は春の恒例行事とも言えよう。

 

で、まあ。そんな訳で彼女達スクールアイドル部も御多分に漏れず先の部活動紹介で行うライブの宣伝をしている訳なのだが……、

 

「す、スクールアイドル部―――」

 

「ひっ……!?」

 

目に付いた新しい後輩に曜から手渡されたチラシを差し出すが、無理に作った笑みがあまりにもぎこちなかったかダッシュで逃走されてしまう。

その後何度か再トライするも悉く逃げられ二の舞どころか十回くらい舞うこととなる。とりあえずその様子を見て爆笑しやがってる方言娘と自称堕天使は後でシメよう。

 

「調子はどうー?」

 

少し時間も経ち校門前の新入生達も減ってきた頃、未だ勧誘を続ける生徒達の合間から月が顔を出す。

入学式にあたり生徒会長である彼女には差し当たって仕事があったはずだが、ここに顔を見せているということは一段落ついたということなのだろうか。

 

「お疲れ様月ちゃん。生徒会の仕事は終わったの?」

 

「今日中に済ませとかないといけないのは片付いたから、少し休憩してきていいって先生が。だから様子見に来たんだ」

 

「こっちの方は順調だよ。皆楽しみにしてるって」

 

「そりゃそうだよー。この前のライブ凄かったもん」

 

()浦の星の皆や静真の生徒達の力を借りて作り上げた沼津駅前でのライブから数週間が経った。

ライブ自体は大好評に終わったがあれはあくまでも特殊な事例。真の意味で新しいAqoursが試されるのはこれからか。

 

「……てか月。部活動紹介のスケジュール確認したけどよ……ちょっとコイツ等に時間裂き過ぎじゃねーか?」

 

浦の星から引き継いできたものとは言え、静真においてスクールアイドル部はまだできたばかりの新興部活。それなのにも関わらず平均の倍の時間が与えられているどころか演出も中々に豪華なものが予定されているのは少々不可解だ。

 

もし月の贔屓によるものだったりしたら大問題なのだがその辺一体どうなっているのだろうか。

 

「それがね、この前のライブ、学校の皆の中で結構大きな話題になってて、あの日にライブに来れなかった皆が今度こそAqoursのライブを見たいって言ってるんだ」

 

「…それで?」

 

「うん。そしたら、いっそ部活動紹介のライブも豪華にしちゃわない?って、他の部活動の部長達も含めてそう言う話になったんだよ」

 

大切なことに気付かせてくれたお礼も込めてね。そうはにかむ月。

中々にぶっ飛んだになったとは思うが、これも新しいAqoursの輝きが灯り始めた証……と考えていいのだろうか。

 

「という訳だから、部活動紹介でのライブ、頑張ってね!」

 

まだ他の場所にも顔を出さなければいけないと言って月が去って行った後、知らぬ間に押し寄せていたプレッシャーと期待感だけが残留する。

 

「あはは…、まさかこんなことになってるなんて……」

 

「びっくりだね…」

 

そうは言うものの、皆の顔に緊張は見られなかった。

イタリア、決勝延長戦、そして沼津駅前でのライブ。色々な経験を通し、彼女達もちょっぴり大きくなっているらしい。

 

新しいスタートを控えてこれほど頼もしい顔もないだろう。

 

「じゃあ皆に楽しんでもらえるように練習しないとね! 陸ちゃんあとよろしくー!」

 

「はいチラシ、頑張ってねー!」

 

「はぁっ!? おいちょっと待てテメー等ッ!」

 

結局微塵も減ることが無かったチラシの束にもう数十枚を追加してゆき、意地悪そうな顔をして六人までもが去ってゆく。

 

みるみるうちに遠ざかってゆくその背中からこれまで以上の徒労感の気配がし、陸は深く深く溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの沼津での始まり兼旅立ちのライブ以降、他校生徒の受け入れを反対していた父兄との摩擦は解消され、陸達も無事静真に編入することができた。

 

これからは千歌達とも同じ学校。したがって正式にスクールアイドル部のマネージャーとして活動できるようになったのだが、それに伴いふと思う。

 

ウルトラマンでなくなった今の自分が、彼女達に対してできることとは一体何なのだろうか。

 

「…お前はどう思う」

 

御供物のように捌き切れなかったポスターを墓代わりの低木に供え、そこに眠る者へ問いかける。

 

これまで陸が彼女達を支えるためにできたこと。その形が˝彼女達を守ること˝だった。

 

ゼロと離れウルトラマンでもなくなり、特別な力も殆ど無くなった今、その関係を保ち続けるのは無理だろう。

 

Aqoursは前に進み続けている。陸だって、進まなければいけない時が来ているのだ。

けどその形がわからない。そう語り掛けるも、当然、答えが返ってくるはずもなかった。

 

「……お前が聞いたら笑いそうだよな」

 

我ながら情けない話だとは思う。きっとコイツだけじゃなく、ゼロにだってこれを聞かれたら笑って馬鹿にされるだろう。

 

けど、どうしてか。

それと同時に、なんてことないとでも言うように笑う姿も、また浮かんでくるのだ。

 

「走りながらじゃないと見つからない……か」

 

少し前に梨子が口にしていた言葉を思い出す。

あの時の彼女達と同じようにこの悩みも新しい歩みを前にこれまでのことを見失っているだけで、案外答えは近くにあるのかもしれない。

 

「…ちょっと走ってみるか」

 

腰を上げ、まだ太陽が高く輝く空の下で地面を蹴る。

ウルトラマンでも、まして特別な力もない彼女達があの場所まで駆け抜け、これからも走り続けようとしているのだ。

 

陸だって、走り続ければ何か見えてくるかもしれない。

 

「…流石にっ、あん時ほど速くは走れないよなっ……!」

 

少し軽くなった左腕を振り、逆に少し重く感じる身体を動かし風を切る。

速度も力強さもゼロがいた時よりずっと劣っている。無くなったものはハッキリと目に見えているけれど、この足で前には進めている、走っている。それもまた確かだった。

 

「くっそ…! 疲れるまでも、早いなっ……!」

 

改めてあの時とは違うだと実感しつつ白く輝く砂浜の前で膝に手を付く。

始まったばかり、まだ三人だった頃のAqoursが練習をしていた砂浜。そんな彼女達が走り出した場所で息が上がっていると思うとまた情けない。

 

 

 

 

 

「あはは…! きたぁ~!」

 

「……?」

 

下を向いたまま息を整えていると、ぱちゃぱちゃと水を弾く音と共に笑い声が聞こえる。

釣られるように顔を上げると、中学生くらいだろうか、二人の少女が波打ち際で戯れているのが見えた。

 

「はしゃいでるな~。それで、どこなの? ここ」

 

「えぇ~!? 知らないの? 聖地だよ! せ・い・ち!」

 

「聖地?」

 

何かの作品の舞台になった場所だったのか。県外から来たと思しきその少女は波に足を浸からせては楽しそうな笑いを絶やさずにいる。

余程それが好きなのか、魅力を語らんとする彼女の笑顔は輝いて思えた。

 

「この前の沼津のライブ、凄かったなぁ……皆キラキラしてた!」

 

最も、その対象が身近にいる者達だとは思ってもみていなかったが。

 

「私、高校生になったら絶対スクールアイドル部に入るんだぁ……!」

 

「あはは、また始まった……。それで、何て名前なの?」

 

「うん。えっとね……」

 

砂浜に文字が描かれてゆく。

何度もそこに刻まれ、その度に波に打ち消されていたその文字は、またその輝きに魅せられた誰かによって砂浜に刻まれた。

 

「Aqours……」

 

どこかへ去って行った少女達が書き残していった文字を唱える。

 

かつて大きな輝きに魅せられた千歌から始まったこの歩み。

眩しくて、キラキラしていて、自分もそうありたいと願い進んできた道。

 

そうやって駆け抜けてきた日々が紡いだ輝きは、それに触れた誰かへと受け継がれてゆく。

 

あの時千歌がそうしたように。

その千歌に触れた皆が、それぞれの願いを抱いたように。

 

Aqoursもまた誰かを惹きつけ、その心に新しい輝きを灯したのだ。

 

「陸―!」

 

また声がする。

振り返ればいつものように、眩しい笑みを浮かべた彼女達がそこにいた。

 

「…お前等、練習するんじゃなかったのか?」

 

「いやー、なんかあそこまで期待されてると校内でやりづらくてさ……」

 

「なんか通りかかる人皆遠目から見てくるしね」

 

「それで、初心に返るのも含めてここで練習しようって話になって……」

 

「クク……皆、このヨハネの宴を心待ちにしているようね……!」

 

「まあでも確かに、楽しみにしてくれてるのは嬉しいずら」

 

「だからいいライブを見てもらうためにも、練習頑張らなきゃって」

 

自分達が誰かの憧れる存在になっていることなど彼女達は知る由もないのだろう。

それは千歌が憧れたような大きな輝きとは違う。ひっそりと灯るような小さなものだ。

 

「だから一緒にがんばろ。陸ちゃんも」

 

でも、それでも彼女達の輝きは確かに、誰かの心に光を差しているから。

 

「…なあ、お前等」

 

きっと、自分もその一人なんだ。

 

千歌も、皆も、あの少女も、その輝きや願いが灯った時にはどうしたらいいかなんて何もわからなかった。その時点で答えなんか存在しないから、走りながら見つけてきた。

 

今の陸の情動だって同じはずだから。楽しみ、走り続けながら見つけていくしかないんだ。

 

だからとりあえずコイツ等の隣で、一緒に走っていこうと思う。

 

 

 

「よろしく頼むな…………これからも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝くって、楽しむこと。

決して平坦な道でも、順風満帆な日々でもなかった。

 

そんな日々でも楽しむことをやめなかったから、今この瞬間にゼロから掴んだイチがある。

 

これからも続いてゆく未来。

そこに何が待っているか、何を掴むことができるか……イチからその先へ進めるかなんてなんてまだわかりやしない。

 

けど、駆け抜けてゆくその瞬間を命一杯、楽しみ続ける限り。

 

 

 

 

 

きっと明日も、輝いている。

 

 

 

 




これにてゼロライブサンシャイン、完結となります
受験や諸々のトラブルも重なり2年9ヶ月、合計173話という長期連載となってしまいましたが、こうして最後まで駆け抜けられたのはこの作品を読んでくれた方々のおかげです

続編……的なものも考えていない訳ではないのですが、しばらくは既存の別作品ととある企画の方に集中させていただく形となると思います
その企画に関しては後日活動報告に纏めるので、ご覧いただけたら

改めてここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました
願わくば、またいつかこのような形でお会いしましょう

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