最新回の仮面ライダービルド。クローズマグマカッコよかったっすよね。
・・・・・・クローズチャージ、単独勝利回数ゼロ勝のまま退場したけど。
「花丸ちゃん! 花丸ちゃぁん‼」
「ルビィちゃん待って!」
花丸が囚われている事を知ったルビィは、疲れも忘れて必死の形相で階段を駆け上がっている。
花丸への強い思い故か、千歌達はその背中を捉えることが精一杯で全く追いつくことが出来ない。
その速度は、先程練習で階段を登っていた時よりも遥かに速い。
(花丸ちゃん・・・)
ルビィは今なんとなく、花丸がスクールアイドル部の体験をやりたいと言った理由が分かった。
ずっとそうだった。中学の時に会って以来、ずっと。
優しくて、周囲に気を配る気遣いが出来て、自分の事なんていつも後回しにして。
今日のスクールアイドル体験入部の事だって、姉に気を遣ってスクールアイドルに、自分の気持ちに素直になれない自分の背中を押そうとしてやってくれた事だ。
自分がウジウジしていたから、花丸はルビィと一緒に体験入部をしようと言ってくれた。
運動が得意じゃないのに、階段を登っていた時だって、あんなに苦しそうだったのに。
それでも、ルビィの力になってくれようとしてくれた。
(何で・・・、優しすぎよ花丸ちゃん・・・・・・)
昨日突然陸を襲った炎。千歌達は陸の手品だと言っていたが、今となってはそれは嘘だと断言できる。
あの時現れた宇宙人は、ルビィの光の力が目当てだと言っていた。だからきっとあの炎はルビィが出したものだ。
何がどうなっているかは分からないけど、一つ確かな事がある。
それはルビィのせいで花丸は宇宙人に捕まってしまったという事。
自分に協力してくれたばっかりに。
助けられてばかりだった。寄り添ってもらってばかりだった。
だから今度は、ルビィが助けてあげる番だ。
決意を胸にルビィがその速度を上げるのと、ルビィの胸が赤く煌くのは同時だった。
『ラアァァァァァァァァッ‼』
EXレッドキングの懐に肉薄したゼロが、ガトリング砲が如し速度で連続して拳を突き出していた。叩きつける拳は焼け、今にも爛れ落ちそうな程に痛む。それはゼロと共に戦う陸も同じだ。
けど今この拳を止める訳にはいかない。
今はまだEXレッドキングは感知していない様だが、ルビィにはリトルスターが宿っている。
次に力強くそれが発現した時、EXレッドキングは間違いなくルビィに向かっていくだろう。
焼け石に水だろうが何でもいい。少しでも多くゼロに意識を向けさせ、遠ざけなければ。
『シェヤァッ‼』
ルナミラクルにタイプチェンジし、レボリウムスマッシュで吹き飛ばそうとしたが、強化され重量を増したその肉体は先程の様には吹き飛んでいかない。
二、三歩後退させた程度で、当のEXレッドキングはケロッとしている。
『フルムーン―――』
『グィンガアァァァァウゥゥゥゥゥゥッ‼』
『があっ‼』
その巨体の周りを旋回し始めたゼロを横一線、燃える炎の拳が捉えた。
吹き飛ばされたゼロは淡島神社の階段のすぐ横に叩きつけられ、階段を登っていた千歌達の悲鳴が響く。
「・・・っ・・・、っ・・・、っ・・・、ゼロ・・・、大丈夫か・・・?」
『・・・お前こそ・・・、息っ・・・、上がってんぞ・・・』
力を入れると全身に痛みが走るが、それでも体に鞭を打って立ち上がったゼロと陸の双眸に映ったのは、再びフレイムロードを繰り出したEXレッドキングの姿だった。
「また・・・」
次あれを喰らったらどうなるか分かったものではない。だが今かわせばフレイムロードは確実に千歌達と共に淡島神社を吹き飛ばすだろう。
『ゼロツインシュートッ‼』
二本のゼロスラッガーをカラータイマーの左右に装着したゼロの胸部から、光の粒子が放たれる。
『ぬっ・・・、あぁぁァァァァァァァァァァァァッ‼』
『ガアァァァァァァァァ‥‥』
フレイムロードを押し返したゼロツインシュートがEXレッドキングにヒットする。
ようやく悲鳴らしい悲鳴を上げたEXレッドキングだが、フレイムロードを押し返したゼロツインシュートは威力が落ちており、致命傷とまではいかなかったようだ。
『ぐっ・・・・・・、うぅ・・・』
「ヤバイ・・・、力が・・・」
殆ど全力で光線を放ち、激しくエネルギーを消費したゼロのカラータイマーが点滅を開始し、膝をついたゼロが肩を大きく揺らして息を荒げる。
『グルルルルルル・・・・・・・・・』
だがEXレッドキングの双眸はゼロを捉えていなかった。
まるで引き寄せられる様にEXレッドキングが見つめるその先には頂上に辿り着き、ガッツ星人と対峙するルビィがいた。
「う・・・。うゅ・・・・・・」
『フッ・・・、思ったより早かったですね。やはり人間の友情と言うものは実に利用しやすい』
花丸を助ける事だけを考え、頂上に辿り着いたはいい。
だがそこにいた。恐らく花丸を捕らえた犯人であろう宇宙人と対峙すると、途端に体が動かなくなってしまったのだ。
怖い。
生まれたての小鹿の様に膝は激しく揺れるのに、足は張り付いてしまったかのように地面から離れようとしてくれない。
「は・・・・・・、花丸ちゃんを・・・・・・」
『ん~?』
「花丸ちゃんを・・・・・・、返してください・・・・・・」
それでも何とか声を絞り出すが、小さすぎるその声はルビィの口から出た瞬間に霧散していく。
『聞えませんね~~・・・・・・、ハァ!』
「ピギャァッ‼」
意地悪そうにほくそ笑むガッツ星人が放った光弾がルビィの足元に着弾し、ルビィが悲鳴を上げて蹲ってしまった。
怖い。
怖い怖い怖い怖い。
今すぐ立ち上がって花丸を助けだしに行きたいのに、体は全くいう事を聞いてくれない。
情けない。こんな時に、友達一人助けにいけないなんて。
徐々に深くなっていくルビィの絶望に呼応する様に、胸に宿った光が小さくなっていく。
『おや、リトルスターが小さくなって行きますね・・・。宿主が絶望すると消滅するという話は本当でしたか』
そう言うとガッツ星人は、再びルビィに向かって右手をかざす。
『生きて捕らえよとの命令でしたが・・・・・・、リトルスターが消えるなら利用価値はないので仕方ありませんね。恨むなら自分の運命を呪いなさい』
バリバリと帯電するガッツ星人の腕がルビィに照準を定め、ちっともそう思ってなさそうに笑った。
『・・・・・・では、さようなら』
『調子乗ってんじゃねーぞコノヤロォォォォォォォッ‼』
『ッ! フッ!』
ガッツ星人が飛びのくと、今の今までガッツ星人の身体があった場所を銀色の刃が駆け抜けていった。
『ウルトラマンゼロ・・・・・・、まだそんな余裕があるとは・・・』
「・・・・・・?」
ガッツ星人の声音に戸惑いが混ざった事に違和感を覚えたルビィが顔を上げると、最近話題になっている青い巨人がルビィを見ていた。
「おい、そこの赤いの。ルビィとか言ったか」
先程とは違う、ついさっきどこかで聞いたような声で、その巨人。ウルトラマンゼロとか言われたそいつは、なんとルビィの名前を呼んだのだ。
「助けてやりてぇとこだが、生憎俺ぁあいつの相手で手一杯だ。捕まってるチビはお前が助けろ。助けたいんだろ?」
ゼロは太い剛腕を振るう怪獣を指さした後、ルビィにそう言って来た。何とルビィに花丸を救出しろと言うのだ。
「うゅ・・・、ルビィには・・・、無理、です・・・」
か細くそう答えると、ルビィは再び俯いてしまった。翡翠色の瞳は潤み、零れた涙が頬を伝って地面に落ちる。
「ルビィには無理です・・・・・・。体も小さいし、怖がりだし・・・・・・。皆と違って、一人じゃ何もできないんです。お姉ちゃんや花丸ちゃんがいないと、何もできないルビィには・・・」
「何言ってんだお前?」
言い募るルビィの言葉を、ゼロは一言で一蹴した。
「俺は出来るか出来ないかの話はしてねぇ! そいつを助けたいか、助けたくないかの話をしてんだよ!」
大剣を手に怪獣と戦いながら、強い声音で言い放つ。
「助けたい! 助けたいけど・・・・・・、ルビィにはそんな事・・・、何もできないのに・・・」
「じゃあ何でさっき長い階段を登ろうと思った!? やる前にお前は無理だと言ったよな!? それでもお前は登った。それは何でだ!?」
「そ・・・、それは・・・・・・」
「スクールアイドルが好きだったからだろっ‼」
怪獣の殴打を喰らいながらも、決してルビィから目をそらさずにゼロは言葉を続ける。
「今だってそうだ! 最初泣きそうになって登った階段を、お前今度は休みもせずに駆け登ってきたよな!? それは何でだ? そいつを、国木田を助けたかったからだろっ‼」
「っ・・・・・・」
とても怪獣に一歩的にボコボコにされている奴の言葉ではないそれに、ルビィは呆気にとられるが、確かにそうなのだ。
辛い、無理だ。そう言った気持ちは確かにあった。
でも、それでも頑張って階段を登れたのは、スクールアイドルが好きだという気持ちが強かったから。
疲れているのにまたあの階段を登れたのは、花丸を助けたいという気持ちが強かったから。
「はな・・・まるちゃん・・・」
震える膝を抑えて立ち上がり、捕まった親友の顔を一瞥すると、狼狽えるガッツ星人に一歩、また一歩と近づいていく。
「花丸ちゃんを返してください!」
今度はちゃんと力強く声にした。もう聞こえないなんて言わせない。
小さくなっていた胸の光は再び煌々と力強く輝き、それを目にしたガッツ星人の焦燥は大きくなっていく。
所詮相手は脆弱な人間の子供。慌てる相手ではない。それにゼロもEXレッドキングにやられっぱなしだ。全く焦る状況じゃない筈なのに。
なのに何故、もう追い詰められているかの様な感覚に襲われているのか、ガッツ星人には分からなかった。
『うっ・・・、うるさいんですよっ‼』
そしてここで焦って光弾を放ったのがガッツ星人の失敗だった。
「ッ――――――――――――」
叫んだルビィの決意が具現化したように、胸の光から炎が放たれたのだ。
『があぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼』
その炎は昨日ゼロに放った物よりも遥かに強く、光弾を焼き尽くしてガッツ星人を飲み込むようにして襲いかかった。
悲鳴を上げたガッツ星人がくず折れると、花丸を拘束していた十字架が消えていく。
「花丸ちゃん!」
横たわる花丸を抱き上げるルビィ。
まだ意識は戻っていないが、目立った怪我がないようで安心した。
助けることが出来たのだ。助けられてばかりだった自分が。
勇気づけてくれた巨人―――、ウルトラマンゼロを見上げる。
ゼロはまだ怪獣にやられっぱなしでいる。彼は自分の力になってくれた。だから今度は、ルビィがそれを返す番だ。
自分には声援を届けるぐらいしかできないから、今はそれを精一杯にやろう。
「がんばれぇぇぇっ‼」
ルビィが心の底からゼロの勝利を願った瞬間、光はルビィの胸を離れてゼロに向かって行った。
『・・・・・・リトルスターが・・・』
「ルビィちゃんの・・・炎・・・」
ルビィから分離したリトルスターが、梨子の時の様にゼロのカラータイマーから吸収された。
ルビィの髪の様に赤く、燃え滾る様な光。
―――――――友を想い、前に進む力・・・・・・ストロングコロナ。
頭に声が響く。これも前と同じだ。
と、いう事は。
『へっ・・・・・・、本番はこれからって事か・・・』
ゼロが両腕の拳を突き合わせ、EXレッドキングと向き合った。
『前に進む力・・・・・・、デェヤァ!』
ゼロのカラータイマーが赤く煌き、全身が灼熱の炎に包まれた。
燃える炎の間に間に垣間見える肉体は、赤。
赤い上半身と、銀色の下半身。
身体に走るラインの色も銀から金に変わり、力強さが強調された肉体。
全身が燃えている様に熱いが、むしろこの熱さが自信を焚きつける。
ウルトラマンダイナストロングタイプと、ウルトラマンコスモスコロナモードの力を併せ持った超パワー戦士。その名も、
『ストロングコロナ! ゼロッ‼』
全身に纏っていた炎を吹き飛ばし、ゼロが大地を蹴った。
EXレッドキングの腹部を捉えた拳がズドンと気持ちのいい音を鳴らす。
今度のゼロが繰り出した攻撃は、威力が違った。
『グウィンガァァァァァァァ‼』
ゼロツインシュート以外でロクなダメージを受けなかったEXレッドキングが、パンチ一つで悲鳴を上げたのだ。
『オォウラァ‼』
炎を纏ったパンチとキックの連続コンボがEXレッドキングを捉え、ミラクルゼロスラッガーでも傷がつかなかった装甲がどんどん剥がれていく。
「おぉ・・・、殴っても全然熱くねー」
拳自体の温度がEXレッドキングの体温を上回っている為、熱いという事は全くない。むしろ熱がっているのは向こうの方だ。
形勢が逆転したのは、素人目から見ても明らかだった。
『おのれ・・・、こうなればぁぁぁぁぁぁぁ‼』
怒号と共に巨大化したガッツ星人がゼロに殴りかかるが、ゼロはノールックでその拳を受け止め、EXレッドキングに向かって投げつけた。
『あっぢっ‼』
EXレッドキングと衝突し、背中が焼けたらしいガッツ星人がゴロゴロと地面を転がる。
『デリャァ‼』
『ッ―――――!』
さっきのお返しだと言わんばかりにゼロがEXレッドキングの頭部を横殴りにし、よろめいたところを背後からがっちりホールドした。
『ウルトラハリケーンッ‼』
回転を加えて放り投げられたEXレッドキングが、竜巻の様な風を巻き起こしながら天高く昇っていく。
そしてゼロの右手が高熱の光を帯びた刹那、
『ガルネイトォ‥‥バスタァァァァァァ‼』
ゼロが拳を突き上げ、放たれた高熱のエネルギー弾が空中で身動きが取れないEXレッドキングを木端微塵に消し飛ばした。
『ぐ・・・・・・、どこで作戦を見誤った・・・、完璧な作戦だったはず・・・』
『そんなん決まってんだろ?』
ゼロは転がるガッツ星人を起き上がらせると右腕で顔面を強烈に殴り飛ばし、続けて首元に燃えるラリアットを叩き込んだ。
立て続けに殴られて頭上にガッツ星人によく似た鳥を出しながらフラフラになっているガッツ星人をホールドすると、再びウルトラハリケーンで天高く放り投げる。
『テメェが人間の力を侮っていた。それ以上でもそれ以下でもねぇ‼』
『ガアァァァァァァァァッ‼』
断末魔を上げながら、ガッツ星人はガルネイトバスターを喰らって爆死した。
パラパラと灰燼に帰したガッツ星人の肉体が降り注ぐ中、ゼロを呼ぶ可愛らしい声が一つ。
「巨人さーん。ありがとー!」
花丸を抱きかかえながら、ゼロに向かって腕を振るルビィ。
『巨人さんじゃなくてゼロだ。ウルトラマンゼロ。よく覚えとけ』
ゼロはそれだけ言うと、空に浮かぶ雲の向こうへと飛び去って行った。
「ちょっと貴方達、今の騒ぎは何ですの?」
陸がゼロへの変身を解除し、頂上にいるルビィ達を迎えに行こうと階段を登っていた最中。何故か途中のロックテラスで佇んでいたダイヤに捕まり、現在頂上にいた五人と共に怪獣騒ぎの事情聴衆を受けているところである。
大方の説明は陸がしたのだが、ご満足頂けなかったらしく、こうして五人も巻き込んでしまった。なお別に強制された訳ではないが、皆正座中である。
「そもそも、どうしてルビィがスクールアイドル部の方々と一緒にいますの?」
ルビィの格好を見て、スクールアイドル活動をしていた事が分かったのだろう。眼光を鋭くするダイヤに、その場にいた全員が首元に鋭利な刃でも押し付けられたかのような戦慄を覚える。
〈ライブの時もそうだったが、何でこいつはそこまでスクールアイドル部を目の敵にしてるんだ?〉
(分かんねぇよ・・・。けど――――)
―――彼女、別にスクールアイドルが嫌いな訳じゃないよ?
陸はAqoursのファーストライブの時、電気が復旧した直後にオウガにこんな事を言われたのだ。
何でも電気を復旧するために、ダイヤは雨の中予備電源の機器を取りにいてくれていたらしい。
確かにあの時、千歌達の前に立ったダイヤの肩は濡れていた。
本当にスクールアイドルを嫌っているなら、わざわざこんな敵に塩を送る様な真似はしないだろう。
それにオウガは、それを何か確信付かせる根拠を持っているように見えたのだ。
ダイヤの過去に何かあった。それは間違いないだろう。
・・・最も、それを聞く勇気は陸にはないのだが。
陸だけでなく他の面々もダイヤの気迫に押され、一言も物を言えない状態でいる。
ただ一人を除いては。
「あ・・・。あの!」
張りつめた緊張を、その声は打ち破った。
声の主は花丸。何か強い信念のもとにダイヤと向き合っている。
「ルビィちゃんの話を・・・・・・、ルビィちゃんの気持ちを聞いてあげてください‼」
「ルビィの?」
「はい!」
それだけ言うと、花丸はその場から走り去って行った。
「花ま―――」
「待って」
陸は花丸を呼び止めようとするルビィの肩を掴んで制止した。陸はルビィがダイヤに気を遣って、スクールアイドルに素直になれないでいることは薄々勘づいていた。花丸だってきっとそれが分かっての行動なんだ。
「国木田がせっかくダイヤさんと話す機会を作ってくれたんだ。それを無駄にするな。国木田は俺が追うか――――――」
「ピギャァァァァァァァァァァァァ‼」
花丸の後を追おうとした陸の鼓膜を、高い周波数の音の塊が襲った。
「で、これはどういうことですの?」
「あの・・・、これは・・・その・・・」
陸がダウンした一方、ダイヤは落ち着きを取り戻したルビィに何故スクールアイドル活動をしていたかを問い詰めていた。
〈お前さっきはルビィにかっこいいこと言ったのに、しまらねぇな〉
(うるさい・・・)
ルビィの悲鳴は何か特殊な効果でもあるのか、EXレッドキングと戦って出来た傷が叫ばれる前よりも痛む。
そうだ、ルビィだ。
本音をぶつけられればそこで解決なのだが、いざ姉の前となるとルビィも何も言えなくなってしまう。
「違うんですダイヤさん。元はと言えば―――」
「千歌さん!」
代わりに理由を説明しようとした千歌をルビィが制止した。そして覚悟を決めたように、ダイヤの前に立ち、真っ直ぐな視線を向けた。
「お姉ちゃん! ルビィ‥、ルビィね!」
その日、黒澤ルビィは花丸やゼロにもらった勇気を振り絞り、ダイヤに本当の気持ちを打ち明けた。
そんなルビィを照らす夕日は、彼女の胸に宿っていた光の様に赤かったという。
次の日。
ダイヤからの許しを得たルビィは、スクールアイドル部への入部届を提出した。
「よろしくお願いします‼」
千歌がそれを受け取ったのを見ると、ルビィは深々と頭を下げた。
「よろしくね!」
「はい! 頑張ります!」
千歌が笑い返すと、それに満面の笑みでルビィが返した。愛嬌溢れるその姿に、部室内に和やかな癒しムードが蔓延する。
「そういえば花丸ちゃんは? あの後どうしてたの?」
ルビィがダイヤに本音を打ち明けた後、皆で花丸を探したのだが、結局見つかる事はなかった。ルビィの携帯に、一言帰るという花丸からのメールが送られてきてその日は解散となったのだが、ルビィはその事にすっきりしていない。
「ちょっと・・・。図書室に行ってきます!」
「ちょ・・・、ルビィちゃん?」
図書室。
静寂と本の髪の匂いが支配するその世界に、物憂げな顔をした少女が一人。
その少女、国木田花丸の視線は手元のアイドル雑誌に注がれていた。
「まるには・・・、遠い世界だったずら・・・」
開かれたページにはμ‘sの星空凛の姿が。
親友のルビィの背中を押して、自分の仕事は終わった。
だからもう、スクールアイドルとはお別れ。
「・・・バイバイ・・・・・・」
花丸の中にも確かに存在していた、スクールアイドルへの思いを封じ込める様に本を閉じようとしたその時、
「花丸ちゃん!」
「ずらっ!?」
がらりと勢いよく図書室のドアが開き、ルビィが飛び込んできたのだ。
走ってきたのか、肩を大きく揺らしながら息をしている。
「ルビィね! 分かってた! 花丸ちゃんがルビィに気を遣ってスクールアイドルをやってくれてたって! きっとルビィの為に無理してるんだって、心配だったから!」
それでも物凄い勢いで花丸に詰めよると、花丸への思いを訴え出した。
「でも練習してる時も、屋上にいる時も、皆で話してる時も、花丸ちゃん楽しそうだった! ・・・それ見て思った!」
真っ直ぐに花丸の目を見つめるルビィの顔は、いつになく真剣で。
「花丸ちゃん好きなんだって、ルビィと同じくらい、スクールアイドルが好きなんだって!」
「ま、まるが・・・・・・」
「ルビィね! 花丸ちゃんと一緒にスクールアイドルができたらって、ずっと思ってた。一緒に頑張りたいって思ってた!」
「・・・それでもおらには無理ずら・・・。体力無いし、向いてないよ・・・。それに、昨日みたいに、迷惑かけちゃうずら・・・・・・」
昨日自分があの宇宙人に捕まってなければ、ルビィはもっとスクールアイドルを楽しめていた。危険な目に合わずに済んだ。
だから自分がルビィと一緒にいたら、きっとルビィの邪魔になってしまう。
手元にある雑誌に写っている彼女には、微かな憧れがあった。
やれることならばやってみたい、けど、それで親友に迷惑が掛かるなら・・・‥。
「・・・・・・その雑誌に写ってる凛ちゃんもね、自分はスクールアイドルに向いてないって、ずっと思ってたんだよ」
「っ・・・‥」
「でも好きだった。やってみたいと思った。最初はそれでいいと思うけど? それに・・・」
ルビィが花丸ちゃんの手を握った。昨日の様に熱くはない。けど、温かい。
「花丸ちゃんがいたから、あの時ルビィは勇気がもらえたんだよ?」
「ルビィ・・・・・・、ちゃん・・・?」
「ルビィ! スクールアイドルがやりたい! 花丸ちゃんと‼」
「まるに・・・出来るかな・・・?」
花丸がそう言った時、話を聞いていたらしい千歌達も図書室に入ってきた。
「大切なのは――――」
「気持ちだって、やりたいって気持ちが大事だって。ゼロさんが言ってた!」
「セリフ取られた・・・・・・、てかゼロって誰・・・? ・・・でもまあそういう事。大切なのは出来るかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ!」
ルビィ、そして千歌の言葉を受けた花丸が、その手を握り返した。その手に二年生三人の手も重なる。
そう、出来るかどうかなど問題でもない。
大切なのは自分がどう思っているか、前に進めるかだ。
花丸を加え、この日Aqoursは五人となった。
ルビィ逃亡の為、今回は作者の一人語りです。
僕はゼロの形態の中だとストロングコロナが一番好きですね。と言うかガルネイトバスターが好きすぎるので今後もしょっちゅうストロングコロナ出すと思います。
これでルナミラクルとストロングコロナは復活しましたが、ゼロビヨンドの登場はもっと先になりそうですね・・・・・・。なるべく早く書き上げます。
それでは次回で!