一話 アイドルをやろう
天の川銀河第三惑星地球。かつて起こったもう一つのクライシスインパクト、アナザークライシスの爆心星。
その傍らの空間で、闇が蠢いている。
『・・・・・・着きましたか・・・』
闇の中から声が発せられた。氷を思わせるほどの冷静な声音が、闇の中で反響する。
『ぬぐぅ・・・、おのれウルトラマンジード・・・・・・。父親であるあのお方に歯向かうなど・・・。あのストルム星人も使えない・・・』
それに答える響きがまた闇の中で反響する。
それも一つではない。その声五つ。
怪しく光る赤い瞳が、幾つも闇の中で煌く。
『落ち着け。何のために吾輩たちがこの宇宙にもカレラン分子を散布したと思っている』
『そーだぜぇ。それに陛下もまだ死んじゃいねぇしな』
『ゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・』
「静粛に。それで地球にどの程度リトルスターが発生しているかの確認が必要ですが、誰が向かいますか?」
次々と闇が音を発する。
『わざわざ吾輩たちが出向くまでもない。グラシエの所有物から適当な奴を送っておけばいいだろう』
『あー、だったらうんとインパクトのある奴・・・・・・』
『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・』
『なら奴はどうだ。逃げ惑う地球人の姿が目に浮かぶ・・・・・・』
『・・・全く貴方達は・・・‥。まあいいでしょう。では奴を向かわせますよ?』
闇の中で何かが振るわれる。
地球に異変が起きたのは、その直後だった。
季節は春。
桜の花は咲き乱れ、草木の芽は徐々に芽吹きだす。
別れの季節でもあると同時に、新たな出会いの季節でもあるその月。
日本の静岡。その海沿いに位置する田舎町、内浦。
今日もまた、出会いの季節に新しい事を始めようとし――――
敢無く挫折した少女二人の姿がそこにはあった。
少女二人は防波堤に腰かけ、力なく「人」の字でも作るかのように互いに寄りかかり合っている。
「・・・・・・おい。大丈夫か、お前ら」
なんだか見てていたたまれなくなった少年、仙道陸がたまらず声を掛けると、少女のうち一人、ミカン色の髪を揺らした少女が口を開いた。
「あ―――、前途多難すぎるよー!」
彼女の名は高海千歌。
その隣でぐったりとしている銀髪の少女が渡辺曜である。
この三人は幼馴染の関係にあり、千歌はこの春、学校にスクールアイドル部なるものを設立しようとしたらしいのだが、訳あってうまくいってないらしい。
「・・・まさか生徒会長にあんなこと言われるなんて―・・・」
なんでも今日、校門前で行われていた他の部活の新入部員勧誘に便乗して自分らも部員を募集しようとしていた所、運悪く規律に厳しい生徒会長に見つかり、こっぴどく怒られたらしい。
「・・・生徒会長、この辺の元網元の家の人らしくてさ。アイドルみたいなチャラチャラしたもの嫌いなんじゃないかな。前にスクールアイドル部を作りたいって言った子がいるらしいんだけど、それも断固拒否されたらしくて」
「え~~。曜ちゃん知ってたの~~? もー言ってよー」
千歌が不満げに口を尖らせる。
「ごめんごめん。いうタイミング無くてさー・・・」
曜が両手を合わせて千歌に頭を下げる。
「まあ、いいけど・・・・・・。でもどぉしよ・・・‥」
千歌がスクールアイドルを始めたいと陸に打ち明けたのは、今朝の話だった。
スクールアイドルと言うのは、言葉通り学校でアイドル活動のする者たちの事を指し、「ラブライブ」と言う大会を目指して輝くもの、と、千歌は言っていたが・・・。
千歌がスクールアイドルを始めたいと思ったきっかけは、そのスクールアイドルの伝説的存在であるグループμ‘s。
彼女たちのライブを見て、ピーンと来たからだとかそんな。
初めはまたミーハー心を擽られて始めたものかと思ったのだが、今回の千歌は今までとは違った。
どうせまたすぐ辞めんだろと言った陸に対して千歌が返した返答がこれだ。
『違うもん! 今回ばかりは! ・・・そりゃ、最初は千歌も無理だって思ったよ。でもさ、それってただやる前から諦めてただけだった。アイドルになるなんて、こんな田舎に住んでる私達には、どうせあり得ない遠い世界だって。けど、私もあんな風になりたい。μ‘sの皆みたいにキラキラ輝きたいって、心から思った。あの時に私みたいに、今この瞬間を誰かが見てくれてるって信じて、輝きたい!』
との事。
非理論的でお子様的で、根拠なんてどこにもないのに、そう語った千歌の目には今まで見たことが無い程の熱意が宿っていたから。
そんな千歌の熱意に感化され、陸は今こうやって千歌の背中を押してやろうと思ったばっかりだったのだが・・・・・・、一体どうしたものか。
「じゃあ千歌ちゃん、辞める?」
ひょこっと千歌の眼前に顔を出し、悪戯に笑いながら曜が千歌に聞く。
そんな曜に対し千歌は、
「辞めない!」
力強く宣言した。
「だってまだ、何も見えてないじゃん。きっとこのまま諦めたらいつまでたっても何も見えないままだよ」
と、千歌にしては珍しく理論的な事を言ったと思えば、いきなり沈んだ顔になる。
「あと、四人かぁ・・・・・・」
千歌が握っているのは、部活申請に必要だという書類。
部活動と書かれた欄に記入されているのは、スクールアイドル部の文字。
部員と書かれた五つの欄に記入されているのは、高海千歌の名前ただ一つ。
「あー、もう! ホントに前途多難すぎるよぉ!」
唐突に子供っぽく喚きだした千歌に、曜が苦笑いする。
そういえば曜は水泳部に入っているに、自ら率先して手伝う事を名乗り出たらしい。全くこの幼馴染は、優しすぎて涙が出てくる。
結局そのあと何か決まったわけでもなく、陸達はそのまま別れたのだが、その翌日。
「今日もう一回ダイヤさんの所行ってくる!」
「は?」
バス停まで曜を自転車で送ってきた陸に、千歌が再びそんな事を言ったのだ。
昨日断られたばかりだというのに、こいつは一体何を言っているのだろうと陸と曜が眉を寄せる。
「諦めちゃだめなんだよ。あの人たちも歌ってた。その日は絶対来るって」
「ふふっ・・・、本気なんだね・・・」
そう笑った後、曜は何を思ったのか唐突に海を指さし、
「あ! 空飛ぶミカン!」
「え!? どこどこ?」
「そりゃ!」
千歌がそれに反応してきょろきょろと周囲を見渡した隙に、曜が千歌の手に握られていた申請書を奪い取った。
「あ、ちょっと!」
千歌がそれを奪い返そうと手を伸ばすより早く、曜が千歌に背中合わせになる形で寄りかかる。
「・・・私ね。小学校の時からずっと思ってたんだ。千歌ちゃんと一緒に夢中で、何かやりたいなって」
「曜ちゃん・・・?」
「だから、水泳部と掛け持ち、だけどっ」
曜が素早く鞄からペンを取り出し、申請書に何かを書き始めた。
「はいっ!」
笑顔で曜が千歌に返した申請書の指名記入欄には、渡辺曜の名前が。
「・・・よぉちゃん・・・」
それを見た千歌の目からウルウルと涙が溢れさせながら、その紙を受け取った。
「・・・よぉちゃぁん!」
感極まったらしく、勢いのままに曜に抱き付く。
(・・・・・・いいなぁ、女子同士って)
「うわっ! ちょ、千歌ちゃん・・・、苦し・・・」
「よぉちゃん・・・よぉちゃん・・・」
おっと、そんなこと言ってる場合ではない様だ。
ごすっ
「痛いっ!」
「辞めんかバカチカ。早速部員減らす気か」
見かねた陸が曜の顔が青くなるほどに力強く抱き付いた千歌の頭に鉄拳を落とし、無理矢理引き剥がす。
「これで後三人か、アテはあんのか?」
「うーん・・・。陸ちゃん入れて三人だから・・・・・・」
「・・・・・・おい千歌、俺男」
陸は自分がアイドルみたいな服を着て踊る姿を想像し、そっと思考を止める。考えるだけでもおぞましい。
「マネージャーならいいんじゃない?」
「お? 何? 陸もスクールアイドル部入るの?」
曜も陸に詰め寄ってくる。
「落ち着けお前ら! ・・・つーか俺、浦女じゃないし」
千歌と曜の通う浦の星女学院は、その名の通りの女子校。当然陸が通えるような場所ではない。中学までは同じ学校だったのだが、この辺の高校は男子高か女子校しかないのだ。
よって今は、別々の高校に通っている訳で。
「あ~・・・、そっかぁ・・・」
陸がスクールアイドル部に加入するのが無理だと分かると、残念そうに肩を落とす。
そんな千歌を見ていると、なんだか後ろ髪を引かれるような思いになって。
「・・・まあ、出来る範囲でいいなら協力してやるよ・・・・・・」
ついつい、こんな感じで甘やかしてしまうのだ。
「・・・陸ちゃん・・・・」
千歌が再び目を潤ませだす。泣いたり笑ったり忙しい。
あと自分には抱き付いてこなかった事に少し残念感を覚え、別に抱き付かれたかったから協力しようと思ったわけではないと自分に言い聞かせる。
「・・・よぉーし。絶対凄いスクールアイドルになろうね!」
千歌が申請書を放り投げて、右手を天にかざした。
「うん!」
曜も力強く返事をする。
そんな二人の前を、ひらひらと申請書が通り過ぎ、
ぽちゃぁ・・・・・・
偶然そこにあった水溜まりに落ちた。
「「「・・・・・・・・・」」」
しばらくの沈黙の後、
「「「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!」」」
静かな海辺に、三人の絶叫が木霊した。
その日の放課後。
陸は浦女へと続く坂道を、自転車に跨り浦女とは逆方面に進んでいた。
今朝校門前で待っていろと曜に言われ、言われた通りに浦女の校門前でニ十分ほど待っていたのだが、曜は部活、千歌は曜の部活が終わるまで学校に残ると言うので、陸がニ十分間待っていた意味が無くなってしまった。
しかも部活が終わる頃にまた迎えに来いとの事。幼馴染の扱いが雑過ぎる。
「・・・大変そうだな、あいつ等」
千歌は曜が部活をしている間、残っている生徒にスクールアイドルに興味のある人がいないか探すとの事。
今朝渡辺曜と言う部員を確保出来たはいい浦の星女学院スクールアイドル部(仮)は、早くも新たな壁にぶつかっていた。
スクールアイドルに興味を持ってくれる人があまりにもいないのだ。昨日今日と勧誘を続けているらしいが、興味を持ってくれたのはたった二人だけだとの事。
今朝は「絶対ダイヤさんを納得させてやる」と息巻いていたのだが、さっき一旦校舎から出てきた千歌の顔が死んでいたのを見れば、結果は聞くまでもなく分かる。
ちなみに申請書を濡らした事は滅茶苦茶怒られたらしい。
そういえば待っている間に聞こえてきたあの『ブッブーですわ!』とかいう声は一体何だったのだろう。
「・・・ですわって、どこのお嬢様だよ」
女子高の浦女だし、一人くらいそんなのがいても不思議では・・・・・・、いや不思議だ。このご時世じゃどこにいても不思議だし不自然だ。
まあ謎の声はさておき、曜の部活が終わるまでどこで時間潰すかと陸は思考を巡らせる。流石に家帰ってからもう一度ここ来る気にはなれない。
別に律儀に迎えに行く必要はないのだが、行かなかったら二人に何を言われるか分かったもんじゃない。
それに陸も実はまんざらじゃ無かったりする。高校から学校が分かれた幼馴染との貴重な繋がりだから。
まあそんな事、本人たちの前じゃ口が裂けても言えないのだが。
そんなこんなしている内に坂道を下り終わり、目の前に海が広がる場所に出た。
暖かな春の陽光を受けて輝く内浦の海を眺めていたら、ふと、とある光景が脳裏に過った。
(・・・・・・あれから、六年か)
瞼を閉じれば、今でもはっきりと映る。
絶望と狂気に彩られた、厄災の色。
弱さ故に何もできなかった、破滅の記憶。
燃える町の中、泣き続ける幼馴染。怪獣に蹂躙される内浦の全て。もう既に過去の事だ。
ぐるりと周囲を見渡して目に映るのは、美しい緑と静かな町。
とても六年前に怪獣災害があった場所とは思えない。
六年前、日本中で起きた怪獣災害。
出現したのはどれも同じ怪獣で、同時刻に出現していない事から同一個体とされている。
出現した場所は函館、仙台、秋葉原、神戸、博多、そして内浦の六ケ所。
いずれの場所でもその怪獣は突然現れ、突然消えたという。
あの怪獣の目的は何だったのか。
急に現れ、中途半端に街を壊してはまた別の町へと消えていく。何がしたかったのか皆目見当もつかない。
消えてくれたおかげで助かったわけだし、別にその事に文句を言う訳ではないのだが、やはり疑問には思う。
答えを求めて空を仰ぐが、当然帰ってくるはずもない。
その代わりに――――――、
「ん・・・・・・?」
きらりと、空で何かが光った。
もしや流れ星、とも一瞬思ったが、ざわざわとする胸の感覚がそうではないと告げる。
そしてその光は、何と落下してきているではないか。
隕石か、はたまた落下してきた人工衛星が何かか。
『グゴォォォォォォォ』
落下してくるそれからまるで生き物の鳴き声の様な音がしたと思った次の瞬間、何もない空間から突然雷が発生し、その物体を打ち砕く。
そこから現れたものは―――――――、
「えっ・・・・・・」
思わず、絶句する。
落下したそれが海に落ちて派手な水飛沫を上げた刹那、
『ヴァァヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
そいつは、天に向かって咆哮を上げた。
主人公仙道陸の陸は当然ウルトラマンジードの朝倉リクから。仙道はパッと頭に浮かんだ。
見た目はまあ、ご想像にお任せします。
文面崩壊が得意技なので、読みにくい所があるかもしれませんが、お付き合い頂けると幸いです。
次回はゼロが地球に来ます。お楽しみに。