「じゃーね陸。今日はありがと」
「ん。いいよ別に、暇だっただけだし」
夕方。
あの後あまりに暇だったので、たまには親孝行ならぬ姉孝行しようと思い立ち、果南のダイビングショップを手伝っていた。
まあ、実際に姉ではないのだが。
たまにはこうして手伝いをするのも悪くはない。もうそろそろ果南の父親の怪我も治るだろうし、こうすることも無くなるだろうが、機会があったらまた手伝いに来よう。
〈もう着いたかねあいつ等〉
「流石に着いてるだろ・・・。今頃散々東京観光してるんだろうな」
思えばこうして一人で帰るのは久しぶりだ。
春まではこうして一人で帰っていたはずなのに、最近はすっかり誰かと一緒にいる事に慣れてきている自分がいる。
「ほーほー、それでちょっと寂しいって訳かい」
「・・・・・・まーそう言う―――って、うわっ!」
突如話しかけてきたその存在に、ナチュラルにビビる陸。
ついつい普通に返してしまったが、こいつは本来ここにいないはずだ。
「出やがったなド変態」
「おいおい。せっかく名前があるんだから名前で呼んでくれよ。そんな不名誉なあだ名が定着した日にはボク恥ずかしくて外も歩けないじゃないか」
「現に今歩いてんだろうが」
相変わらず気持ち悪い程にニコニコ笑いながら、ド変態――オウガはそこにいた。
最近見ないと思ったらひょっこりと現れる。本当にゴキブリの様な奴だ。
「Aqoursの皆が東京行っちゃってるんだろ? 背中から哀愁が溢れ出てたよ陸君」
「うるせ。で? 一体何の用だよ。また見かけたから話しかけた感じか?」
陸の問いを、オウガは首振って否定する。
「いいや。今回は君に用があったのさ。教えておくべき事と言うかなんというか、まあ、とにかくこれを見なよ」
そう言ってオウガは掌を上にして腕を突き出してきた。
掌の上には黒いオーラが集約していき、やがてソフトボールよりちょっと大きい位の球体になった。
そこに映し出されたものは―――、
「なっ・・・・・・!」
〈ゼットン星人ッ!? 生きてやがったのか?〉
前に現れたゼットン星人と対峙する、Aqours六人の姿。
ゼットン星人が指を鳴らすと、六人は糸が切れた様にばたりと倒れてしまう。
倒れた六人をゼットン星人が出した黒い霧が包み、霧が晴れると六人の姿は跡形もなく消えていた。
そこまで映して、黒い球体は消滅する。
「お前・・・、何しやがったっ‼」
怒りを露わに自分の胸に掴みかかってきた陸に対し、オウガはホールドアップの姿勢を取った。
「落ち着けよ。何も君とやり合うつもりでこれを見せた訳じゃない。純粋なる親切心だよ」
「どういう事だ・・・・・・?」
〈陸。変われ〉
陸と後退したゼロが、オウガの胸倉を掴んだその手を離す。
『とりあえず。お前の知ってる事を洗い浚い全部吐き出してもらおうか。返答次第ではぶん殴る』
ゼロが射殺す様に睨みつけても、オウガは変わらずへらへらと笑い続けている。軽く狂気すらも感じるその笑みは、陸とゼロを警戒させるには十分だった。
「そうだなぁ・・・、じゃあまず一つ。この前のマガゴモラを目覚めさせたのはボクだ」
『ッ!』
返答もせずにゼロはオウガの顔面を殴りつけた。
殴られたオウガは地面と平行に吹き飛んで行き、その先にあった街灯に衝突しぐにゃりと変形させる。
「つつっ・・・・・・、利くねー・・・、ゼロ君のパンチ・・・」
『茶化してんじゃねぇ‼ テメー何モンだ‼』
ゼロがひしゃげた街灯の根元に寄りかかったオウガの胸倉を掴み上げ、再び街頭に叩きつけた。 ゼロの力に耐えられなかった街灯が折れ、重い音を立てて倒れる。
「っ・・・、だから落ち着けって、話を聞かないのは君の悪い癖だよ」
『いいから答えろ‼』
ゼロの声音は怒りに震えている。普通の宇宙人ならこれだけで身構えるのだが、オウガは笑ったままの表情を崩そうとしない。
よほど肝が据わっているのか、はたまたゼロが本気を出しても勝てる自信があるのか。
「はいはい。まあ、ハッキリ言っちゃうとね、ボクは君達とは敵対関係にある訳さ。リトルスターを狙っていろんな宇宙人を送り出してくる連中がいるだろ? ボクはそれの仲間」
『何・・・?』
「でも安心して。ボクは上からの命令が出ない限り自分から行動を起こす事はない。むしろ千歌ちゃん達には手を出すなって忠告してたぐらいだ。前にダダから千歌ちゃん達を助けたのもそう言う理由さ」
『じゃあ何故今こうなっている‼』
「だからこうして教えに来てあげたんだろ? ボクだってこんなに早く手を出すとは思ってなかったんだよ。全く、約束ぐらい守ってほしいもんだね。・・・・・・とりあえず、苦しいからこの腕どけてくれない? 答えられるものも答えられないよ」
『っ・・・、ちっ・・・』
ゼロが手を離すと、オウガはけほけほと咳払いをしてゼロから一歩下がった。
『離したし答えてもらうぞ。あいつ等はどこにいる』
「んー、それはねー」
オウガが赤く染まった空を指さし、ゼロもつられて空を見上げる。
「宇宙さ」
『・・・・・・なんだと・・・』
「大気圏を出て少しの所さ。そこに宇宙船がある。千歌ちゃん達はその中に連れていかれたって事。ハイこれ」
オウガから手渡された黒い球体からは、天に向けて一筋の黒い光が昇っていた。
「それを辿って行けばその宇宙船に行ける。じゃあ頼んだよゼロ君、陸君。ボクがしつこく言ってあるからそう簡単には殺さないと思うけど、何人か歯止めが聞かないのがいるからね。急いだほうがいい」
そう言うとオウガは体を闇に変換し、みるみるうちに消えていく。
『おい待てっ‼』
一瞬遅れてゼロがオウガを掴もうと手を伸ばすが、既にその身体は消え、陸の手はオウガがいた場所の空を切った。
『クソッ・・・』
だがまだこの場に張り詰めた警戒が解かれた訳ではない。ゼロは球体から昇る光の先を見つめる。
『信じていいのか・・・・・・?』
(やるしか無ぇよ。こうしてる間にも千歌達がどんな目に遭ってるか分かんねぇんだぞ)
『・・・・・・』
ゼロは少しの間無言で考えた後、強く頷いた。
〈ああ、そうだな。陸、行くぞ!〉
「言われなくてもやってやる」
人格が戻ってきた後、ゼロが出現させたウルトラゼロアイを、陸はいつになく険しい表情で装着した。
「デヤァ‼」
「んん・・・・・・」
目を覚ました千歌の視界に真っ先に映ったのは、何も見えない暗闇だった。
どっちが上でどっちが下なのか、この空間がどこまで続いているのか、そもそもここは空間なのか、それすらも分からない程の暗闇。
「っ・・・! 皆っ!?」
意識を失う前に何が起こったかを思い出し、暗闇に向かって名前を呼びかける。
「・・・そんな大声で叫ばなくても起きてるわよ・・・」
すると答えが返ってきた。この声は善子だ。
「千歌ちゃん。やっと起きた?」
「相変わらずお寝坊ね・・・」
「まる達全員いるよ」
「・・・・・・でも・・・、ここどこ・・・?」
それに続いて全員の声が聞こえた。
携帯のライトで声のした方を照らし、Aqours全員がいる事を確認してひとまず安心する千歌。
だがそれは逆に、Aqours全員が捕まってしまったという事だ。
周囲をライトで照らすと、今千歌達は透明な球体の様なものに閉じ込められている事が分かった。
『お目覚めのようですね・・・・・・』
「誰っ!?」
闇から飛んできた冷徹な声に、全員が身構える。
見上げてみると、幾つもの赤い双眸が自分達を見ている事が分かった。
「ピギャァァァァァァッ‼」
「おうっ・・・」
「耳が・・・」
「ルビィちゃん。落ち着くずら」
『そうです。慌てる事はありません。何も取って食おうという訳ではありませんから・・・』
パッと明かりがつき、自分達を囲っている五体の人影が映った。
どの影も巨大で、一目では全身を黙視することが出来ない。
『初めましてAqoursの皆さん。我々の母船へようこそ』
その中の一人、白と青の鎧を着こみ、耳のとがった悪魔の様な顔をした宇宙人が千歌達に向かって頭を下げた。
「・・・・・・私達に何の用・・・ですか・・・?」
千歌は怯えながらも、その巨大な宇宙人に質問を投げかける。
するとご丁寧にその宇宙人は答えてくれた。
『・・・・・・大した理由ではありません。貴方達に興味があったのと、ちょっとした忠告をね・・・』
「忠・・・告・・・?」
『ええ。貴方達のマネージャーに、仙道陸と言う人間がいますね?』
「います・・・、けど・・・・・・」
ここで陸の名前が出てきた事に驚きながらも、千歌は首肯する。
「陸ちゃんが何か・・・・・・」
しばらくの間の後、宇宙人は表情を一切変えずに答えた。
『忠告は一つです。彼と、仙道陸と関わるのを辞めなさい』
「え‥・・・」
宇宙人から放たれた言葉に、六人は耳を疑った。
ここで陸の名前が出てきただけでも衝撃的なのに、その上陸と関わるのを辞めろと言う。
当然ここにいる全員、動揺しない訳が無いのだ。
「・・・え? ・・・何で・・・?」
『理由は聞かない方がいい。貴方達の為です・・・』
気遣っている様な口調だが、その声音には明らかな悪意が滲んでいた。
どうしたらいいのか分からず、皆その場で顔を見合わせる。
「ちょ・・・、理由もなしにそんなこと言われて納得できるはずないでしょ! そもそも誰なのよアンタ達‼」
訳の分からない忠告に対し善子が声を張り上げた。
『貴方は・・・、確か津島善子さん・・・でしたか。第三のリトルスター発現者・・・。その節はウチの馬鹿が失礼しました』
「ヨハネよ‼」
『ふっふっ・・・、そうですか・・・・・・。ではヨハネさん。申し遅れました。私はメフィラス星人。魔導のスライと申します』
スライが隣にいる宇宙人に身体を向け、皆の視線も自然とそちらに移る。
そこにいたのは独特の意匠と形状の頭部と、鋏状の両腕、マントの様に背中から生えた金色の触手を持つ青色の宇宙人。
『吾輩はテンペラ―星人。極悪のヴィラニアス』
ヴィラニアスは名乗った後、腕を組んで千歌、曜、梨子の三人を見据えた。
『ライブとやら。中々に面白かったぞ。最後まで見れなかった事が悔やまれる』
「えっ・・・? あ・・・、どうも・・・」
突然緊張感もなくライブの評価を下され、拍子抜けする千歌。
『おっ、それ。俺も見に行ったぜぇ・・・』
横から割って入った声の持ち主は、氷の塊とも全身刃ともとれる鋭利な体と、ランタン・シールドの様な両腕が特徴の宇宙人だった。
『ヒェヒェヒェ・・・、グローザ星系人、氷結のグロッケンだ。よろしくぅ・・・』
『グオォォォォォォォォォォォォ!』
「ピギィッ‼」
グロッケンの隣にいた宇宙人が発した唸り声に、ルビィが悲鳴を上げる。
骨と肉が逆転したような外見と、扇状の左手が如何にも禍々しい宇宙人だ。悲鳴を上げるのも無理はない。
『グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』
しかし何を言っているのか分からない。
『デスレ星雲人、炎上のデスローグだってよ・・・』
『グオォォォォォォォォォォォォ!』
グロッケンが通訳をすると、デスローグは再び唸り声を上げた。
自然と、まだ名乗っていない最後の一人にその場の全員の視線が移る。
『ヒョホホホ・・・。ようやく私の番か・・・』
ノズル上の口を弄びながら、ヒューマノイド的かつエイリアン然とした外見の宇宙人は笑った。
頭頂部の三本の触覚と胸にある赤い発光体。三本の尻尾。赤と青を基調とした体。
その凶悪な体を見せつける様にポーズを取ると、御多分に漏れず名乗り始めた。
自分の足元が、熱せられたように赤くなっているとも知らず。
『ギョポッ・・・、我が名はヒッポリト星人、地獄の――――――あじゃぱぁぁぁっ!?』
『ッ!? 何!?』
名乗っている途中でいきなり宇宙船の床がせり上がり、吹き飛ばされたヒッポリト星人が天井に激突する。
『何奴!?』
濛々と煙が上がる中、ヴィラニアスがうっすらと煙の中に見える人影に向けて鋏を掲げた。
『エメリウムスラッシュッ‼』
『ぐおっ・・・』
返答の代わりに飛んできた緑色の光線を両腕の鋏で受け止めるヴィラニアス。
『オゥラッ‼』
『がぁぁっ・・・‼』
いきなり宇宙船に侵入してきたその巨人、ウルトラマンゼロは、猛スピードで煙の中から飛び出してくると、ヴィラニアスの腹を豪快に蹴り飛ばした。
『『ゼロッ!?』』
「「「「「「ゼロ(さん)‼」」」」」」
絶望に染まった表情から一転、ゼロの登場により、Aqoursの表情に明るさが戻る。
そんなAqoursの見つめる先、登場と同時に二体の宇宙人を蹴散らしたゼロは、目の前で佇む赤目の宇宙人を見て驚嘆の声を上げた。
『ダークネスファイブッ・・・! 生きてやがったのか・・・・・・!?』
『ケケケ・・・、そう簡単に殺されてたまるかよ・・・。俺の目標はあの不死身のグローザム先輩だぜェ・・・?』
『グオォォォォォォォォォォォォ‼』
両腕に冷気を纏ったグロッケンと、扇状の腕に火球を生成したデスローグが、ゼロと対峙し戦闘態勢に入る。
それに続き、
『ギョホホ・・・、飛んで火にいる夏の虫とはまさにこの事・・・』
『不意打ちとは小癪な・・・、ウルトラマンゼロ! 貴様何故この場所が分かった!?』
早くもダウン復帰したヴィラニアスとヒッポリト星人までもが加わり、四人はゼロを囲む形で陣を取る。
『へっ・・・、上等だ・・・。テメェ等もベリアルのとこに叩き込んでやらぁ‼』
ゼロがファイティングポーズを取り、今まさに死闘が始まろうとしたその瞬間。
『ハイハイ。そこまでにしてくださいね』
深く落ち着いた声と共に、パンパンと手を打つ乾いた音が鳴り響いた。
はい。遂にダークネスファイブと接触。
ジードだと最終話の回想シーンしか出てこなかったので、ちょっと懐かしくもあります。
オメガ・アーマゲドンで戦死したって噂があるけど、大丈夫ですよね?(不安)
果南「グロッケンとデスローグって名乗るとき種族名言ってたっけ?」
俺「言ってなけど、種族書かないと俺の中でグローザムやデスレムとごっちゃになりそうだったんで」
ちなみにダークネスファイブだとグロさんが一番好き。
それでは次回で!