『ハイハイ。そこまでにしてくださいね』
スライがパンパンと手を叩き、今まさに戦いの火蓋を切って落とそうとしていた五人を制する。
『私はゼロと争うために彼女達をここに連れてこさせたのではありません。単純なる興味、ただそれだけです。さあ、五人ともその拳を収めなさい』
『ケッ・・・』
『ゥゥゥゥゥゥ・・・』
『だがスライ。こやつは吾輩達の宇宙船に乗り込んできたのだぞ。ここまでされて見逃す訳には・・・』
『そうだ! 私の自己紹介の邪魔をしよって・・・・・・』
スライの言葉に、グロッケンとデスローグは言われた通りに引き下がったが、先程ゼロに手痛いのを喰らったヴィラニアスとヒッポリト星人、地獄のジャタールは怒りが収まらない様子だ。
『それに如何にゼロと言えどこの人数ならば負ける事はない!』
『勝ち負けではないのです。ヴィラニアス。今我々がいる場所を考えてみなさい』
スライは一瞬でジャタールとヴィラニアスに肉薄すると、右腕に装着された剣をヴィラニアス。左腕の鎧の鋭利な部分をジャタールに押し当てる。
『ここは宇宙船です。多少は丈夫な造りをしているとはいえ、流石にあなた方の戦いの衝撃に耐えられる程頑丈ではないです。確かにこの人数差ならゼロに勝てるやもしれませんが、その後にこの宇宙船が壊れてしまっては元も子もないでしょう?』
『ぐっ・・・・・・』
『ぬぅ・・・』
ジャタールとヴィラニアスが両腕を下げ、スライの後ろに下がった。
『と、いう訳ですゼロ。ここであなたとやり合うつもりはありません』
そう言うとスライは、再程ゼロがブチ抜いた宇宙船の穴に手を向けた。あそこからお帰り下さいという事らしい。
『それを聞いてのこのこ帰ると思ってんのか? むしろこの宇宙船がぶっ壊れた方が俺にとっては好都合だ』
『おや・・・? いいのですか?』
ゼロがゼロツインソードを突き付けるが、スライはその切っ先にすら目を向けない。
そんなスライが手招きするように腕を動かすと、Aqours六人が閉じ込められた球体がその掌に乗った。
『この宇宙船が崩れれば、彼女達も無事で済む保証はありませんよ? いくらあなたでも、彼女達を庇いながら我々五人と戦う事は不可能です。それに・・・』
スライが指を鳴らす。
するとゼロとスライの間に空間ウィンドウが出現し、街中に出現した巨人の様な者の映像を映し出した。
その場所は、先程まで千歌達がいた東京の街だった。
「なっ・・・・・・、コイツいつの間に・・・」
『・・・早く行かなければ、街が焼け野原となってしまいますよ・・・・・・?』
『っ・・・・・・、卑怯だぞコノヤロー‼』
『卑怯もラッキョウもありませんよ・・・・・・。それでどうしますか? このままおとなしく彼女達を連れて引き下がるか、ここで我らと戦い街の人々と彼女達を死の危険に晒すか、どちらでも好きな方を選びなさい』
『テメェ・・・・・・』
「ゼロ。落ち着け」
噴火寸前の活火山と言った様子のゼロを宥める。この卑怯者を殴り飛ばしたいのは陸も同じだったが、ここで戦ってしまっては何も守る事が出来ない。失うだけだ。
それは陸が最も恐れている事だから。
『・・・・・・分かってるよ・・・』
ゼロはスライから六人の閉じ込められた球体を受け取ると、自分が開けた穴に向かって歩き出した。
『賢明な判断です。まあ、送り込んだのは大したことのない機体なので安心なさい』
『ったく・・・。あっ、おい。ちょっと聞きてぇ事がある』
『どうぞ。なんなりと・・・』
スライの返答を受けると、ゼロはバリアで千歌達が入った球体を包んだ。音声を遮断する効果のある光の幕に包まれ、先程まで聞こえていた千歌達の声が聞こえなくなった。
『この星で言う六年前、日本中にスカルゴモラを差し向けたのはお前等か?』
「え・・・・・・」
ゼロから突いて出た言葉に、陸が固まる。
それと同時に脳裏を過る、紅の中で吠える絶望の巨影。
狼狽える陸に構わず、ゼロは淡々と続けた。
『・・・考えてみれば共通点が多すぎた。クライシスインパクト、修復された宇宙、六年前の怪獣災害、リトルスター、そしてテメー等ベリアルの配下。・・・ジードのいた地球と状況が酷似している。・・・・・・アナザークライシスを引き起こし、何らかの作用で修復したこの地球にカレラン分子を散布、別宇宙と同時期にこちらもスカルゴモラで都市を破壊し、一か所に集まった人々の中からリトルスター保持者を捜索。だが向こう同様こちらも発現者なし。それで少し時間を空け、向こうでの作戦が失敗した今、再びこの地球でリトルスターを探している。・・・・・・筋書きはこんなもんだろ』
これが真実だと言わんばかりに言葉を紡ぐゼロに、陸はただ茫然とすることしかできない。
そしてスライが感心した様に喉を鳴らした。
『その慧眼・・・・・・、流石はゼロと言ったところでしょうか・・・』
そして肯定するように頷く。
『つーこたぁ・・・』
『ええ、六年前、日本で怪獣災害を引き起こしたのは我々です。まあ、正確には我々の仲間、ですがね。私達はそれを見ていただけ』
何の躊躇いもなくスライから告げられた真実に、陸の思考が一時的に止まった。
それと同時にくっきりと筋が浮かび上がる程に強く拳を握りしめ、スライを睨みつける。
その理由すらも考えられないままに、陸の口は勝手に言葉を吐き出していた。
「・・・・・・何で」
『・・・ん?』
「何で・・・・・・、内浦を襲った・・・・・・」
陸が口にしていたのは、六年前からずっと不思議に思っていた疑問だった。
ゼロの言うスカルゴモラが出現したのは、函館、仙台、秋葉原、神戸、博多、そして内浦の六ケ所。
内浦を除く五カ所は、どこも人々が多く住まい、発展している都市だ。
そんな中、そこまで何故人もいなければ、特に発展している訳でもない内浦が標的となったのか。それも、一番最初に。
その事を、無意識のうちに質問として紡ぎあげていた。
『何故・・・、ですか・・・、難しい質問をしますね・・・・・・』
「・・・・・・どういう事だ・・・」
飄々とした態度を崩さないスライに、形になり切っていなかった怒りがじわじわと込み上げてくる。
『どうもこうも、あそこを襲ったことに理由などありません、ただの気まぐれです』
「ふざけんなっ‼」
いよいよそれを抑えられなくなり、スライに向かって声を張り上げた。
「・・・・・・気まぐれ・・・? ざけんじゃねぇ‼ 何人死んだと思ってんだっ‼」
だがスライは陸の怒号に怯む様子もなく、むしろそれを楽しむようにして憎たらしく笑う。
『別に死人が出たのは内浦だけではないでしょう? 自分達だけが被害者だと思うのは辞めなさい』
「何でテメェが偉そうに・・・・・・」
陸がどんどんスライへの嫌悪感を募らせていく中、まるで陸のその様子が見えているかのようにスライが肩を震わせ出した。
『ふふ・・・・・・、はははっ・・・・・・』
「・・・・・・何が可笑しい・・・」
『いえ・・・・・・、ちょっとね・・・』
笑うスライが手を翳すと、空間ウィンドウに映った映像が切り替わった。
「ぁ・・・・・・」
燃える町の中、咆哮を轟かせる赤い獣。
それは六年前に内浦に現れ、理不尽に命を奪っていったスカルゴモラの映像だった。
『これが・・・・・・』
初見のゼロがその凄惨さに絶句し、陸がその身に刻まれたトラウマに身震いする。
『フフフ・・・』
「っ・・・・・・」
その映像の中、スカルゴモラの見つめる先に四人の子供がいた。
意識を失って倒れた少女三人の中に、怯えた視線をスカルゴモラに向ける少年が一人。
それは紛れもなく、あの日の陸だった。
『あの時の虚弱な少年が、随分とものを言うようになったと思うと・・・・・・、面白くて――――――ッ!?』
スライの頬を、光の線が翳めた。駆け抜けた光線は宇宙船の壁と衝突すると共に爆ぜ、爆風の衝撃が六体の身体を貫く。
『・・・・・・いい加減にしろ。次は当てるぞ・・・』
予備動作も無しにゼロが放った光線にスライが初めて狼狽え、他のダークネスファイブが身構える。
『・・・・・・えぇ・・・、少々戯れが過ぎた事を謝罪します・・・』
「ッ・・・! それで引き下がると―――」
『戻るぞ、陸』
憤慨する陸をよそに、ゼロは再び出口へと足を進めた。
「ゼロッ‼」
『落ち着けっ‼』
先程とは逆に、ゼロが陸を宥める。そして千歌達が入った球体を掲げた。
『・・・今はこいつらの安全が最優先だ。それに街の方も何とかしないといけねぇ・・・一時の感情に任せて大義を見失うな』
そう言ったゼロの声音は、酷く震えていた。
「っ・・・・・・、分かったよ・・・」
陸は悟った。
ゼロだってマグマの様に煮えたぎった感情を抑えこんでいる事を。
自分の失敗のせいで監視対象から外れ、この事件に気付くことも出来ずに幾つもの命を散らせてしまったゼロが、一番悔しいはずだという事を。
そんなゼロが堪えているのを見てしまっては、陸も感情に流される訳にはいかなかった。
『・・・・・・邪魔したな・・・』
それでも消え切らない感情の爆発を無理矢理抑え、陸とゼロは地球へと急いだ。
「・・・・・・ゼロ・・・?」
『ダークロプスゼロ。俺を模して造られたロボットだ・・・・・・。あいつ等らしいな・・・』
地球に降り立ち、球体から千歌達を開放したゼロは、街を蹂躙していた巨人と対峙した。
その巨人のシルエットは、まさしくゼロだった。
ゼロと異なる点を上げるとすれば、カラーリングが赤と青ではなく金と銀だという事、目は赤いゴーグルの中心にある単眼だということぐらい。
逃げ惑っていた東京の人々は、初めて内浦以外に姿を現したゼロに興奮したり、ダークロプスゼロと似ている事に畏怖を覚えたりと反応は様々だ。
だが最近内浦で怪獣を倒している事もあり、不安の声よりは歓声の方が大きい。
もっともそんなもの、今のゼロと陸には届いていないのだが。
『シェヤァッ‼』
『シェヤァァ‼』
張りつめた緊張を打ち破り、二体の巨人が交錯した。
『ゼヤァ! シェアッ!』
『ダァァ! ゼヤァッ!』
ゼロはゼロスラッガー、ダークロプスゼロはダークロプスゼロスラッガーをクナイの様に構え、互いの身体を切り裂かんとそれを振るう。
ダークロプスゼロの声や掛け声はゼロと同様の物だったが、金属的なエコーが掛かっていた。
刃と刃が衝突する度に金属音が鳴り、火花が散る。
このロボット、見た目のみならず戦い方までゼロに酷似している。宇宙拳法交じりのその戦闘スタイルは、完全にゼロをコピーしていると言っていいだろう。
だが所詮は動きと能力をコピーしただけの模造品、オリジナルに敵う訳がない。
『ラァァァァァァッ‼』
ダークロプスゼロの右腕を蹴り上げたゼロが、ガードが薄くなった脇腹目掛けて力任せにゼロスラッガーを振り抜いた。
脇腹を盛大に掻っ捌かれたダークロプスゼロが、ぴしぴしとまさしく機械が壊れた時に鳴るような音を立てて動きが鈍くなる。
これならもう光線を打ち込めば終わり。東京の人々は生でゼロの必殺光線が炸裂することに期待するが、ゼロの斬撃が止むことはなかった。
『デェェェヤァァァァッ‼』
自分への苛立ちを全てその金属の身体にぶつける様に、頭部、両腕、胸、背中、腰、両足にと、目にも止まらぬ速さでゼロスラッガーが剣線を描いていく。
嵐の様な斬撃が止み、ゼロに蹴り飛ばされたダークロプスゼロの姿は、見ていた人々が敵にも拘らず同情してしまう程に無惨だった。
右腕は切り落とされ、原形が覚束なくなる程に歪んだボディ、バチバチと火花を散らす全身の斬撃の跡。砕かれたダークロプスゼロスラッガー。
もう既に目も当てられない程の凄惨な状態だというのに、ゼロはゼロスラッガーをゼロツインソードに変形させると、残った左腕も切り飛ばしてしまった。
「・・・・・・今日のゼロさん・・・、怖い・・・」
少し離れた場所でゼロの戦いを見ていたルビィが、震える声を漏らした。
ルビィだけではない、先程ゼロに救出されたAqours全員が、普段と全く違う様子のゼロに怯えた視線を向けていた。
目の前で執拗に黒い巨人の身体を切り刻んでいく青い巨人は、何度も自分達を救ってくれた優しいゼロとはまるで違った。
全身から殺気を放ち、怒りのままにただただ相手を破壊する獣。
感情のままに繰り出される荒々しい斬撃が、それを物語っていた。
『シャァッ‼』
『ギ・・・・・・、ガガ・・・・・・』
ゼロは両腕を失ったダークロプスゼロの胸部を蹴ると、宙返りをしながらダークロプスゼロとの距離を取った。
ゼロの右腕には、光の粒子が集約していく。
『ワイドゼロショットッ‼』
怒気を滲ませた光の奔流が胴を貫き、全身の切傷から光を漏らしながら、ダークロプスゼロの身体は爆発四散した。
どっと歓声が上がるが、中には今のゼロの戦い方に疑問を持つ者も確かにいた。過剰なまでに相手を破壊したあの巨人は、本当に信用における存在なのかと。
『シェヤァ!』
感謝、歓喜、疑問、畏怖、非難、様々な視線を浴びながら、ゼロは空へと飛び立っていった。
東京の方々にゼロに対しての不信感を持たせましたが、もしかしたら回収しない可能性もあります。
ダークロプスはゼロに似てますから、自分への苛立ちをぶつけやすかったって事ですね。
花丸「張った伏線ほっぽり投げるのはどうかと思うずら」
俺「・・・・・・頑張るから許して・・・」
何とか回収できるように努めます。