とある休日。
「・・・陸、今日も来なかったね・・・・・・」
ダイヤの退院後、いつもの様に練習を再開したAqours。
ただし、そこにずっとAqoursを見守ってきた顔がいない。
ゼロが暴走した日、病室で何故かダイヤに謝ったあの日以降、陸はAqoursの練習に顔を出さなくなった。
唯一顔を見ているのは、自由に陸の家を出入りできる曜のみ。
「それで? 陸はどんな感じなの?」
果南の問いかけに、曜は悲し気に表情を曇らせる。
「・・・・・・見る度にやつれていってる気がする。何があったのか聞いても答えてくれないし・・・・・・」
「・・・よしよし」
涙ぐむ曜を、果南が優しくハグして頭を撫でる。
「・・・仕方ないよ。陸、昔からそう言う子じゃん」
そう言う果南の表情も、やはり仄暗い。
「そうなんずら?」
「・・・うん。悩み事とか、全部一人で抱え込んじゃう子なんだよね・・・」
「でも、あんな陸見た事ない・・・・・・」
あの日から、Aqoursの雰囲気も少し重苦しいのだ。
別に普段陸がムードメーカーをやっている訳ではないのだが、見慣れた顔が無いのはやはり調子が狂う。
「よし!」
不意に鞠莉が手を叩き、自然とそちらに視線が移る。
ちなみに本来浦女にはいないはずの陸がスクールアイドル部に入り浸っている事に誰もツッコまないのは、ほとんどこの人の影響である。
「練習が終わったら、皆でりくっちのハウスに押しかけに行きましょう!」
「いや、流石にそれは・・・・・・」
「あいっ変わらず頭固いわねダイヤは。こういうのは強引さが大事なのよ」
「ですが・・・、モラルと言うものが・・・・・・」
「行こう」
「千歌さん?」
今まで黙っていた千歌が賛成の意を表明する。それに続き、曜、果南の幼馴染二人も首を縦に振った。
「鞠莉さんの言う通りだよ。ちゃんと陸ちゃんの口から何があったのか言ってもらう。力になれるかどうかは分からないけど、そっちの方がいいに決まってるよ」
「・・・・・・うん」
「そうずらね」
「うゆ!」
「それに、リトルデーモンの家も少し気になるしね・・・・・・」
一、 二年生全員がそれに賛同し、残るはお堅い生徒会長のダイヤのみ。
ダイヤは自分以外の全員が陸の家に向かおうとしているのを理解すると、仕方なく白旗を上げた。
「・・・・・・しょうがないですわね・・・・・・。ただし、常識と言うものはわきまえて頂きますわよ。くれぐれも仙道さんの迷惑になるような事はしない様に!」
「そもそも、全員で押しかける時点で迷惑極まりないけどね」
「でもあの陸ちゃんだもん。このぐらいしないと答えてくれないよ」
皆が陸の事を心配していてくれた事は素直に嬉しい千歌だが、それとは別の場所で何かが心に引っかかっていた。
頭が弱いのでうまく言葉では言えないが、なんかこう、胸がざわつく。
(・・・・・・大丈夫だよね・・・、陸ちゃん・・・・・・)
「・・・・・・・・・」
陸は家から少し離れた銭湯にいた。
この頃やたらと曜が家に訪ねてくる。恐らくは練習終わりも顔を出しに来そうだったので、こうして銭湯に避難しに来た訳だ。
きっと陸を心配しての行動なのだろうが、正直に言って今は一人にして欲しかった。
一人で、己が犯した罪と向き合わせて欲しかった。
ちゃぷりと、陸以外誰もいない浴槽の中に顔半分を沈める。
ちなみにゼロは今あのオーブに話があるとの事で分離中だ。
「・・・・・・・・・」
そう、オーブだ。ウルトラマンオーブ。
あの時彼が止めてくれていなければ、きっと陸とゼロはダイヤを殺していただろう。
ダイヤを救うために手を出した力に呑まれ、助けるべきダイヤを危うく殺しかけてしまうとは、情けなさすぎて笑えてくる。
「・・・・・・いやいや・・・、笑えねぇから・・・」
今回は巻き込むどころの話ではない。
命を奪いかけたのだ。自分自身の手で。
ベリアルの力。陸のみならず、あのゼロですら暴走させる程の強大な力。
力が、これほどまでに恐ろしいものだとは思わなかった。
・・・・・・いいや、力を理由にするな。全ては自分の未熟さ故。
ゼロはベリアルの力を使う事に乗り気ではなかった。陸が強引に押し切ったのだ。
だからベリアルの力に手を出したのは他の誰でもない。陸自身。
ダイヤを殺しかけたのは、陸だ。
「・・・・・・何がしてぇんだよ・・・。俺・・・・・・」
彼女達を守るつもりで戦ってきた。
それが戦う理由だった。六年前のスカルゴモラの様な脅威から、彼女達を守るつもりだった。
だが蓋を開けてみれば、今まで陸がAqoursにしてきた事は何だ?
リトルスターを狙う宇宙人から守ってきた。だがその事で陸とAqoursの関係が奴らに浮き彫りになり、彼女達が狙われる結果になった。
挙句の果てに、自分自身で守るべきものを傷つけた。
自分こそが諸悪の根源。それはもう言うまでもない。
「・・・・・・やっぱりだめだな・・・・・・」
ゼロにはまだ守れると言われたが、もうダメだ。自分にはもう、彼女達と共にいる資格はない。
本当に彼女達が大事なら、今すぐ関わるのを辞めるべきだろう。
ある意味スライは正しい事を言っていた。
陸と関わるのを辞めろ。遂には自分自身でその結論に至ることになろうとは。なんともまあ皮肉な話だ。
「~~~~~♪」
自身への絶望のどん底にいる陸の耳朶に、お気楽な鼻歌が触れる。
どこかで聞いたような気がする歌声に顔を上げれば、がらりと戸を開けて脱衣所からこちらに入って来る青年が一人。
見た目は二十代くらいだろうか。精悍な顔つきで、体格もいい。
その青年は陸が浴槽に浸かっているのを見ると、残念そうに額に手を当てた。
「・・・先客・・・・・・」
よほど一番風呂に入りたかったのか、そのままそこで固まってしまった。
陸は大した用もなくここにいたので、少し申し訳ない気もする。
「おし、切り替えよう。そう何度も贅沢できると思うな。俺」
唐突に割り切ると青年は身体を洗い、駆け湯をした後、何故か陸の隣に陣取ってきた。
「・・・一番風呂は地球で一番の贅沢だよな・・・・・・。お前もそう思うだろ?」
「え? ・・・は、はい・・・」
突然話しかけられ、困惑する陸。
「あぁ~・・・、染みる・・・」
肩まで湯船につかり、至福の極みとでも言いたげな表情をする青年。見た目は若々しいのに、何故かとってもじじむさかった。
「・・・・・・」
一人で考え事をしたくてここに来たのに、話しかけられてしまっては意味がない。
陸がそう思い湯船から出ようとした時、再び青年が口を開く。
「・・・なんか悩みでもあんのか? 少年。いや・・・・・・、ウルトラマン」
「ッ‼」
反射的にその青年から距離を取る陸。だが青年は更に笑みを深める。
「まあまあ、そう警戒すんなって。俺は敵じゃない」
「何で俺の事・・・・・・」
警戒心を露わにする陸に、青年はその瞳を向ける。とても澄んだ瞳で、邪なものは一切感じられなかった。
「・・・・・・俺もウルトラマンだからな」
「え・・・・・・?」
そう言う青年の顔に、あるウルトラマンの姿が重なる。
「俺はガイ。クレナイガイ。ウルトラマンオーブだ」
「・・・ダメだ、いない・・・」
練習後、全員で仙道家に押しかけたAqoursだが、陸はいなかった。
家にもいなければ、携帯も繋がらない。
まるでAqoursから逃げているかのように、陸の消息が全く掴めないのだ。
「どこいるんだろう・・・・・・」
千歌が焦燥に駆られ始める。
「・・・・・・宇宙人に何かされてたり・・・・・・・・・」
「え?」
「ピギィッ!」
ルビィの小さな呟きに果南が反応する。
「いやいや、まさかそんな・・・・・・」
三年生は冗談だと思って一旦は笑い飛ばすが、一、二年生の表情を見てルビィが冗談でそれを言ったのではない事を悟る。
「・・・・・・どうしたの皆・・・、そんな顔して・・・」
徐々に顔色を不安に染め上げていく果南。三年生を除く六人は顔を見合わせる。そう言えば三年生は東京遠征の際に何があったのかを知らない。
数秒の沈黙の後、千歌が切り出した。
「・・・それが、なんか陸ちゃん、宇宙人に目ぇ付けられてるみたいなんだよね・・・・・・」
「What⁉ りくっち一体何したの?」
「・・・ていうか、そんな事いつどこで言われたんですの・・・?」
首を傾げるダイヤに、千歌は視線を逸らしながら答えた。
「・・・・・・東京行って・・・、宇宙人に誘拐された時・・・・・・」
「はあぁぁぁぁ⁉ ちょ、どういう事ですの⁉」
「お姉ちゃん落ち着いて!」
案の定千歌の胸倉を掴んで揺さぶるダイヤをルビィが宥める。
「そんな大冒険してたの?」
「言ってる場合ですか⁉ 大丈夫だったんですの?」
「・・・うん。その時はゼロが助けてくれて・・・・・・」
思えば、陸の様子がおかしくなったのはその頃からだ。
今は分からないことだらけだが、陸とあの宇宙人たちに何らかの関係があるのだけは確実だろう。
「じゃあ何? 陸は今宇宙人に何かされてるかもしれないって事?」
考えたくはないが、必然的にそう言う結論に至ってしまう。
(陸ちゃん・・・・・・)
ここ最近、幼馴染であるはずの彼をとても遠い存在に感じるようになった。
すぐ近くにいるはずなのに、手を伸ばそうとすればする程遠くに行ってしまうような感覚。
陸の事をこんな風に感じ出したのは、いつ頃からだっただろうか。
「探しに行こう」
「千歌ちゃん?」
何故かは分からない。けど、このままでは本当に陸がいなくなってしまいそうな予感がする。根拠なんかないが、そんな気がしてならない。
「探すって・・・・・・、一体どこをよ」
「とりあえず、陸ちゃんが行きそうな所全部!」
「仮に見つけてどうするつもりですの? もし本当に宇宙人が関わっているなら、わたくし達が口出ししてどうこうなる問題ではありませんのよ」
「そうだけど! 放っておけないよ・・・・・・」
言いたいことがハッキリと表現できないもどかしさに口篭もる千歌。
それでも何とか言葉をひり出そうと天を仰いだその瞬間、千歌の視界にあるものが映り込む。
「え・・・・・・?」
それは空に浮かぶ、巨大な魔法陣だった。
「なるほど、それでベリアルさんの力を・・・・・・」
風呂から上がり、陸はラムネの瓶を傾けているクレナイガイにベリアルの力を使う事になった経緯を説明した。
彼こそが、暴走する陸とゼロを止めてダイヤを救った張本人、ウルトラマンオーブ。
名乗られた時は多少疑ったが、戻ってきたゼロの話を聞いて納得するに至った訳だ。
「・・・・・・そんで、暴走しちまったって訳か」
「・・・・・・はい」
ラムネを飲み干し、ガイは俯く陸の頭に手を乗せる。
「まあ、大切なモンを傷つくのは、確かに怖いよな。それを自分でやっちまったんなら尚更だ」
そう、優しく言葉を投げかけてくる。
失敗をした子供を慰める様に頭を撫でられ、少し照れくさくなるのと同時に疑問も感じた。
「・・・・・・あの・・・」
「・・・ん?」
「・・・咎めたりしないんですか? ベリアルの力を使った事・・・・・・」
陸が問うと、ガイは腰から下げているホルダーから一枚のカードを取り出した。
そのカードに描かれていた者は、
「っ・・・・・・」
つり上がった赤い目に、紫に光るカラータイマー。そして、他のウルトラマンとは明らかに違う黒い体。
紛れもなく、ウルトラマンベリアルの姿だった。
「俺だって、ベリアルさんの力を借りて戦っている。それに・・・・・・」
ガイの表情が、少し悲し気になる。
「・・・・・・俺も、お前と同じ過ちを犯した・・・」
そこでガイは語った。
過去に自分が犯した、陸と同じ過ちを。
ガイも一度ベリアルの力で暴走し、周囲の被害を顧みずに怪獣を殲滅したことがあるらしい。
危うく二人の人の命を奪いかけ、その事で一度は人類からの信頼を失ったという。
それでも、その信頼を取り戻せた分凄いと思うが。
「・・・・・・だから俺にお前を責める資格はない」
そんな事を言われてしまっては何も言い返せないが、陸としてはハッキリ言って欲しかった。
お前に仲間と一緒にいる資格はない、と。
いっそそう言ってもらえた方が、よっぽど気が楽だった。
「とはいえ、いくら悔やんでも過去は変えられないからな。だから今出来る事をやればいい」
「出来る事・・・・・・?」
「ああ」
ガイは立ち上がると、テンガロンハットを頭に被る。もう夏場だというのに革のジャケットを着こむその姿は、どこか風来坊然としていた。
「ウルトラマンだって、完璧じゃない。間違い、罪を犯す事も時にはある。大事なのは罪から目を背けない事、逃げ出さない事、受け止める事だ」
ガイの言葉は、痛い程に胸に刺さった。
戦いに巻き込んだのも、暴走して傷つけてしまったのも、全ては陸の罪だ。
だからこそ彼女達から離れようと思った。これ以上巻き込まない様に、これ以上傷つけない様に。
でもそれは彼女達から逃げ、罪を犯す痛みから目を逸らしていただけ。
「・・・・・・どうしたらいいんでしょうね、俺」
自分でもどうしたらいいのか分からなくなり、ガイに答えを求める。
「・・・・・・さあな」
だがガイは正解を示してはくれなかった。
「・・・それはお前自身が決める事だ。お前がこの先仲間とどう歩んでいくかは、お前にしか決められない。・・・・・・これは、お前の人生なんだ」
「・・・そう・・・、ですか・・・」
言われてみればそうだ。自分の道は自分で決める。
これはAqoursと関わっている内に自然と学んだことのはずなのに。そんな事も忘れていたなんて。
「まあ、頑張れよ。後輩」
最後にもう一度陸の肩を叩くと、ガイは懐からハーモニカの様な形状をした楽器、オーブニカを取り出す。
「~~~~~~♪」
鼻歌でも歌っていた、どこか物悲しい独特なメロディを奏でながらガイは歩き去っていく。その向かう先では既に日が沈みかけていた。
「・・・・・・・・・」
ガイの言っていたベリアルの力による暴走。
きっとそれは、ギャラクトロンMK3との戦闘で見せた姿、サンダーブレスターの事を言っているのだろう。
でもあの時ガイは、オーブは闇を克服し、ベリアルの力を制御できていた。
どうしてそれが出来たかは分からない。でも確かに言えるのは、あの人にはそれが出来る強さがあった。
実力とかそう言うのではなく、心の。その強さは陸にはない。
だからこそ、今夕日に向かって歩くあの人の背中はとても大きく見える。
〈・・・・・・陸〉
唐突に鼓膜を打つ、ゼロの声。
「・・・・・・何?」
〈・・・あいつ等から、Aqoursから離れるとか言うなよ・・・・・・〉
「・・・・・・・・・・・・」
何も返せなかった。
ガイの言葉に納得はしたが、正直まだAqoursと関わるのを恐れている自分がいるのも事実。
今日この日ほど、自分の弱さを痛感した日は無い。
オーブニカの奏でるメロディを背に、自分ももう帰ろうと歩みを進めたその瞬間、突如別の音楽が周囲に流れる。
〈ッ⁉ なんだ⁉〉
「っ・・・・・・!」
驚き、顔を上げた先にあったのは夕空に浮かぶ巨大な魔法陣。
そして光のベールを纏いながら、魔法陣の中から何かが現れる。
「なっ・・・・・・⁉」
魔法陣より出現したそいつは、轟音と共に内浦後に降り立つ。
それは先日倒したギャラクトロンMK3に酷似していた。違う点を上げるのならばエンブレムが無く、マスクが金色な事だろう。何故か所々に傷があるような気もするが、それは今どうでもいい。
「何だアイツ・・・・・・」
「ギャラクトロンMK2だ。まさかまだ別の個体がいたとはな」
「ガイさんっ⁉」
ガイはいつの間にか陸の隣に戻ってきていた。それなりに距離はあったというのに、流石はウルトラマンと言ったところか。
「行くぞ! 陸!」
ギャラクトロンMK2を向かい打つべく、ガイはオーブのカラータイマーと同じ様な形状をしたアイテム、オーブリングを構える。
そしてカードホルダーから一枚のカードを取り出し、オーブリングにリードさせる。
「ウルトラマンさん!」
[ウルトラマン]
『シェヤァ!』
リードされたカードは光の粒子となり、ガイの右隣にウルトラマンが出現する。
「ティガさん!」
[ウルトラマンティガ]
『チャァ!』
続いてリードしたもう一枚のカードも同じ様に光の粒子となり、左隣にウルトラマンティガが出現。
「光の力・・・・・・、お借りします‼」
[フュージョンアップ!]
天に掲げたオーブリングの左右が展開され、同時に光が溢れ出す。
光はガイの身体を包み、それに続いてウルトラマンとティガがガイの姿と重なっていく。
[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン‼]
『シュワッ‼』
そして次の瞬間、土煙を巻き上げながら一体の巨人が出現した。
それがオーブだという事は分かったが、オーブオリジンともサンダーブレスターとも違うその姿。
オーブオリジンより多少派手な外見をしており、肩にかかるプロテクターは変身の際に一瞬見えたウルトラマンティガの物と同じ配色だ。
あれがウルトラマンオーブ、スペシウムゼペリオン。ウルトラマンとウルトラマンティガの力を併せ持った形態。
〈おい陸! 俺達も行くぞ!〉
「っ・・・! おう」
遅れて陸もウルトラゼロアイを装着し、ゼロへの変身と遂げた。
かつて同じ過ちを犯したガイさんからの励まし。陸はどうやって己の罪と向き合っていくのか。成長系の主人公って書いてて楽しいわ。
突然出現したギャラクトロンMK2は、サイドアースでジードと戦ってた奴です。という事はつまり・・・・・・。
それでは次回で! 守るぜ! 希望!