この日に劇場版の情報も公開されるのかな? 早く行きて―。
一時的な入院を終え、重い足取りで病院から出た陸は出入り口付近にある柱に寄りかかる。
――――――何でしょげてんだ?
だが、あの日の様に声が聞こえる事は無かった。
この病院は、陸とゼロが初めて出会った場所だ。
ここから全てが始まった。
この平和の裏で密かに暗躍していた陰謀を知り、その戦いの渦中に身を投じた。そうしていなければ知り合う事もなかったであろう少女達と出会った。
「・・・・・・ゼロ・・・」
色を失ったウルトラゼロアイを装着するが、当然変身などできない。
リクは言っていた。弱っていた身体にベリアルの力が侵食した事で、ゼロは消滅してしまったと。
あの時感情に身を任せてベリアルの力を開放したのは陸だ。
皆が殺されたと勘違いして、ただギャラクトロンを破壊する事しか考えられなくなって、ゼロが弱っている事にも気付かずに闇を開放した。
つまりゼロを殺したのは、陸だ。
「・・・・・・・・・」
そもそもベリアルの力を使う事になるきっかけは、ギャラクトロンMK3に捕らわれたダイヤを救出する為だった。
でもその強大な力に飲み込まれ、暴走し、危うくダイヤを殺しかけた。
大切なものを守る為に力に手を出した結果がこのザマだ。
「・・・・・・俺といたから・・・」
「世界の終わりみてーなひっでぇ面だな」
不意に声が掛かり、陸は顔を上げる。
見ればそこには、棒アイスを齧るテンガロンハットの青年がいた。
「・・・・・・ガイさん・・・」
「ちょっと付き合え。陸」
「・・・・・・何で俺達は風呂に入ってるんですか?」
「嫌なことがあったら風呂に入って体の汚れごと洗い流しちまう。それがこの世の摂理ってもんだろ」
そんな摂理聞いたこともなかった。
病院前でガイに捕まった陸が連れてこられたのは、露天風呂だった。しかもよりにもよって十千万の。
「前に行った銭湯の親父から、ここの風呂も中々だって聞いてな。・・・・・・知ってるか、幼馴染の家だもんな」
腕を組みながら湯船に浸かったガイは、前に銭湯で出会った時の様に至福の表情を浮かべている。
「僕はこういう大きい風呂に来た事なかったからなぁ・・・・・・。星雲荘はシャワーしかないし、レムも湯船付けてくれたらいいのに。ぺガに頼もうかな?」
そしてそれは、ガイの隣にいる朝倉リクも同じだった。
ちなみにこっちの方のリクはガイがここに来る際、仙道家にて特撮ドラマを見ていたところを連れ去ってきたのだ。
「・・・・・・二人共、ゼロがいなくなったってのに呑気なもんですね・・・・・・」
それが理解できずに、ついつい皮肉めいた事を口にしてしまう。
「・・・・・信じてるからな。ゼロさんの事」
「え?」
ガイは肩まで湯船の中に沈み、確信しているような瞳で空を仰いだ。
「本当に、ゼロが死んだと思ってる?」
「いや・・・、そもそもそれを言ったのはリクさんじゃ・・・・・・」
「別に僕、ゼロが死んだとは言ってないよ?」
確かにリクはハッキリとゼロが死んだとは言ってなかったが、今のこの状況では生きているとは到底思えない。
「俺達ウルトラマンは、信じる心、守りたい思いがあれば、何回だって立ちあがれたし、前を向くことが出来た。これまでも、勿論これからもな」
だけど本物のウルトラマンの二人の言葉には、妙な説得力がある。
「陸君は、どうして皆を守りたいと思ったの?」
どうして守りたいと思ったか。
別に忘れていた訳ではないはずだ。いつの間にか、それが別のものに変わっていただけ。
「・・・・・・最初は、千歌や曜、果南姉ちゃんを守れればそれでいいって思ってました」
六年前、スカルゴモラが内浦を襲ったあの日。
燃える町の中、非力故にただ怯える事しか出来なかった破滅の記憶。彼女達を失う事が何よりも怖かった。
だからゼロと共に戦おうと思ったのだ。
「・・・・・・そんな時、桜内に出会ったんです」
梨子と初めて会ったのは、ゼロと出会って数日たった時だった。
思えばここからだろう。幼馴染の三人さえ守れればいいと思っていた陸の心境に変化が訪れたのは。
「その後も、花丸、ルビィちゃん、鞠莉さん、ダイヤさん、津島。千歌がスクールアイドルを始めてから色んな出会いがあって」
先程のガイ同様天を仰ぐ。今日の空は、目に痛い程青かった。
「・・・・・・そんでいつの間にか、そっちも守りたいって思うようになってました」
初めは取りこぼすのが怖くて、これ以上は抱え込まないようにしていた。
でも彼女達がリトルスターを発症した時、陸は迷わず守る事を選んでいたのだ。
それは千歌や曜の知り合いだったからとかそういう訳ではなく、彼女達と関わっていく内に自然と思うようになっていた事。
そこまで二人に話し、目を瞑る。
「・・・その結果がこれです。戦いに巻き込んで、挙句の果てに俺自身で傷付けた。欲張って抱え込むもの増やしたら、元々守りたかったもんまで全部零れていった・・・・・・」
目尻に何かが滲んでくるような感じがしたので、誤魔化す様に湯を顔にかける。視界が揺らいで見えるのは湯のせいなのか、込み上げてきた何かのせいなのか。
「光と闇は表裏一体。だからこそ誰の中にでもある、埋まらない心の穴だ」
突如ガイでもリクでもない声が耳朶に触れる。
声のした方を向くと、浴槽の隅に一人の男が気味悪く笑いながら佇んでいた。
「ジャグラー・・・、いたのか」
いつの間にか同じ風呂に入っていたジャグラーは、陸と目が合うと酷薄にその目を細め、ぬるぬるとした動きで顔を寄せてくる。
陸が軽い緊張を覚えていると、その口が開かれる。
「だが、お前の闇は見ていて気味が悪い」
「・・・・・・っ」
「光を捨てきれないお前に、闇の事で悩む資格はない。・・・闇に向いてねーんだよ。お前」
何故か最後、自分を皮肉る様に笑うと、ジャグラーは脱衣所へと向かって行った。
「・・・慰めるの下手だなアイツ」
その事に首を傾げていると、苦笑気味にガイが呟いた。
「陸。アイツの言う通り、闇は誰の心にでもある。いくら拒絶したって、それから逃げ切れはしない。だからこそ、闇を光で抱きしめなきゃいけない」
太陽を背に立ち上がり、真っ直ぐな視線を陸へと向ける。
「己を信じる心、それが力になる。お前なら、それが出来るはずだ」
最後にポンポンと陸の頭を叩くと、ジャグラーの後を追ってこの場から立ち去って行った。
「・・・・・・どうすりゃいいんでしょうね? 俺・・・・・・」
「自分の道は自分で決めなきゃならない」
「・・・でも」
その方法が分からないから、答えを求めているというのに。
「道に迷ったら、仲間の事を思い出すんだよ。過ごした時間を、夢を、自分が何故、ここにいるのかを」
「・・・・・・仲間・・・」
そんな陸の心境を見透かすように諭される。
少し子供っぽいと思っていた彼の紡いだ言葉。それを少し意外に思っていると、リクは後頭部に手を回しながら笑った。
「って、これゼロに言われた事なんだけどね」
「・・・ゼロが・・・・・・」
「うん。言われた時は僕もよく意味が分からなかったけど、今なら分かるよ」
リクは懐かしむように目を瞑ると、ガイやジャグラーと同じように立ちあがった。
「・・・あとは君次第だよ。ガイさんも言ってたけど、陸君ならきっとできるよ」
そう言って突き出してきた握り拳に、そっと陸も拳を当てようとすると、
「痛っ⁉」
想像以上に強くグータッチをされる。何となくこれもゼロにされた事なのだなと察しつつ、ガイ達を追って行ったリクの背中を眺めた。
「・・・・・・・・・仲間、か・・・」
再度空を仰いで、儚げに呟く。
仕切りの塀を隔てた先、女子風呂で、今の会話をAqoursの皆が聞いていたとも知らず。
「・・・・・・・・・」
浦の星女学院。
陸と、その幼馴染三人がいないスクールアイドル部部室の中、六人は顔を見合わせていた。
「ちかっち達は?」
「・・・ちょっと気持ちの整理がしたいって」
「・・・仕方ないずら。あんな事を聞いちゃったら・・・」
陸がウルトラマンゼロだった事が判明してから既に数日が経過しているが、まだその衝撃は抜けきっていない。
それに加えて、昨日偶然にも聞いてしまった陸の思い。
どんな思いで、今まで自分達を守ってくれていたのかを知った。
ずっと戦っていたのだ。誰にも気付かれる事なく、最も目立つ方法で。
その事で一人悩み、苦しみ、自分達を危険な事に巻き込み、ダイヤを傷付けた。
でもそうなるまでに陸を追い詰めてしまっていたのは、紛れもないここにいる六人なのだ。
「このままでいいのかな・・・・・・?」
不意に梨子が呟き、皆視線を落とす。
そう思っているのはAqours全員一緒なのだ。今ここにいない三人も含めて。
言いわけが無いのだ。今までの事を考えれば、こんな時に何もしてあげられないなんて。
だがどうしたらいいのか分からない。皆それがもどかしくて堪らないのだ。
ただ一人を除いては、
「貴方達。今までの事を忘れましたの?」
凛とした声が、静寂が支配していた部室の中に溶け込んでいく。
その声を発したのは、何とダイヤだった。
「確かにあの方は、貴方達を危険な事に巻き込み、わたくしも死の危険に晒されましたわ。けど、それ以上に守られてきたのでしょう? だったらまず伝えるべきなのではないですか? ありがとうと」
その言葉に、全員はっと顔を上げる。
「・・・そうずらね」
頷いた花丸に同調し、他のメンバーも次々と首を縦に振る。
「怪獣から守ってくれた」
梨子も。
「前に進む勇気をくれた」
ルビィも。
「くっく・・・、リトルデーモンに労いを・・・・・・」
善子も。
「忘れていた事を、思い出させてくれた」
鞠莉も。
陸と、あの青い巨人に守られてきたという事は、変わらないはずだから。
「行こっか」
誰かがそういうまでもなく、皆部室の外へと足を向けていた。
そして理解する。知らぬ間に自分達が何者かに囲まれていた事を。
「ピギィッ⁉」
悲鳴を上げるルビィの視線の先、そこでは、
赤い一つ目の白いアンドロイドがニ十体以上並び、こちらに武器を向けていたのだ。
「宇宙人⁉」
「何でここに・・・・・・」
一瞬遅れて、その理由を悟る。
この頃衝撃的な事が多すぎて失念していたが、一人宇宙人に狙われるものを持っている少女がいるではないか。
大量のアンドロイド、バリスレイダーがその単眼に捉えているのは、ダイヤ。
今彼女は、リトルスターを発症している。
「にげ――――――」
鞠莉がダイヤの手を引くより早く、バリスレイダーは彼女に向けて短剣を振りかざし―――、
何者かによって胴を一刀両断された。
「え・・・?」
ダイヤが声を漏らしたのを皮切りに、バリスレイダーは次々と切り捨てられていく。
そして最後の一体が倒れ、その後ろに立っていた者の姿が露わになる。
人間ではないその存在に一瞬身構えたものの、すぐにそのヒロイックな魔人が誰なのかを理解する。
「・・・ジャグラー・・・さん・・・?」
『ふ・・・・・・』
突然の事に呆然とする六人の前で人間態に戻ったジャグラーは、初対面のあの日の様に不気味な笑みを作った。
「ついて来い。面白いもんが見られるぜ?」
―――ピーンポーン。
時が止まったかのように静かだった家の中に、唐突にインターホンの音が響く。
「・・・・・・?」
一瞬誰かと思ったが、大方先程外出していったガイかリクのどっちかが帰ってきたのだろうと思い、ロクに確認もせずに玄関のドアを開ける。
「え・・・」
だがそこにいたのは居候の青年のどちらでもなく、青いロングヘアをポニーテールに束ねた少女だった。
「・・・果南・・・姉ちゃん?」
「・・・やっぱりここにいたか・・・」
呆れ顔でそこに立っていた果南は、陸が何か言うよりも早く腕をつかみ取る。
「ちょ・・・、姉ちゃん? 何を・・・」
突然の事に困惑しつつも問いかけるが果南からの返答はない。
されるがまま、陸は家の外へと連れ出されていった。
Aqoursの練習を休んだ千歌は、曜と共に防波堤に座り込みながら目の前に広がる海を眺めていた。
内浦の海は毎日見てきたはずなのに、何故かいつもとは全く違う海に見える。
「・・・・・・曜ちゃん」
「・・・何?」
陸が今までウルトラマンとして戦っていた事を知った。
そんな中自分達を巻き込んでいる事に密かに悩み、Aqoursから離れようとしていた事を知った。
まるで自分の事はどうでもいいような陸に腹が立ち、ついつい手が出てしまった。
だけれど昨日、偶然にも陸が先輩ウルトラマンに思いを吐露したのを聞いてしまった。
だからこそ今、どうしたらいいのか分からない。
「・・・・・私、どんな顔して陸ちゃんに会えばいいんだろ。・・・・・なんて言ったらいいんだろ」
「・・・・・分かんない」
陸がゼロに変身したのを見たあの時から、薄々気付いてはいたのだ。
彼が今まで病院送りになるような怪我を負うまでに戦っていたのは、自分達を守る為だったのではないかと。
そしてそれは当たっていた。つまり、
陸にあそこまでさせてしまっていたのは、自分達だという事。
「いつも通りの顔で、思ってる事正直に言ってやればいいんじゃねーのか?」
「「・・・・・?」」
聞きなれない声が耳を撫でる。
しかし体は自然と反応し、声にした方を向いていた。
「こういう時こそジードだよ。ジーっとしてても、ドーにもならない」
そこにいたのは、少し前に突如内浦に現れたウルトラマン二人。
クレナイガイと、朝倉リクだった。
Aqoursの皆が偶然聞いてしまった陸の本当の想い。
それを聞いてやるべきことを見つけた陸の幼馴染を除くAqours。
千歌と曜の元に現れたガイとリク。陸の元に現れた果南先輩。
何を想い、何を語るのか。そしてそれを聞いた三人はどう行動するのか。
それでは次回で! 俺に限界はねぇ‼