今回は半分真面目に、半分全力でふざけました。挿絵もあるのでぜひご覧ください。
「りーくちゃん」
「・・・ん・・・・・・、あぁ・・・・・・?」
合宿初日の夜。
月明りだけがぼんやりと差し込む薄暗い部屋の中で、何者かによって頬を引っ張られる。
流石に女子と同じ部屋という訳にも行かなかったので陸は一人部屋だ。
よって誰かが寝返りでもうって陸に触れてくるという事はないはずなのだが・・・・・・。
「・・・・・・千歌・・・?」
陸の頬を引っ張って遊んでいるみかん色の少女が目に入ると、ゆっくり身体を起き上がらせる。
「・・・・・・なんだ・・・、こんな時間に・・・」
「これ見て」
千歌が見せつけてきたスマホの画面に意識を向ける。
やがて寝ぼけまなこも明瞭になっていき、ハッキリとそこに表示された文字が見えた。
何かのサイトが開かれており、その中で最も目を引く単語を音読する。
「・・・ピアノコンクール?」
「うん。梨子ちゃんの所に連絡がきたやつって、多分これだと思うんだ」
「・・・それが何か?」
「・・・・・・この日って・・・」
千歌の言葉で、そのコンクールの日程に目を移す。
そこには、
「っ・・・・・・、ラブライブ予選と同じ日・・・」
「うん・・・、梨子ちゃん、もしかしたらこの事で出るか出ないか決めかねてるのかなーって思って・・・・・・」
「・・・なるほど」
前に梨子が海の音を聞こうとしていたのは、ピアノのスランプから抜け出したかったから。
その為に四月の海に飛び込もうとする彼女だ。ピアノに対する情熱は相当なものだろう。
今梨子がそのスランプを克服したかは知らないが、チャンスがあるなら出るべきだろう。それは梨子もそう思っているはずだ。
だがすぐに出るといえないのは、きっとこの事が関係しているのだろう。
ピアノか、ラブライブか。
「・・・陸ちゃん。行くよ」
「は?」
「梨子ちゃんの性格からして絶対こういう事は自分から言わないと思うから、私達から聞きに行って相談に乗ってあげよう」
そもそも知られたくないから隠していたという可能性もあるが・・・・・・、まあ、たまには千歌のような強引さも必要なのだろう。
確かに、この問題は梨子一人では決めかねてしまう。
陸がその案に乗ると、千歌はゆっくり静かに元いた部屋に戻り、寝ている梨子の傍らにしゃがみ込む。
「りーこちゃん」
そして先程陸にやったように、その頬をぐにぐにし始めた。普通に人の事起こせないのだろうかアイツは。
まあ、きっと周りで寝ている皆を起こさない様にと気を遣っているのだろうが、鞠莉にぴったりと貼り付かれて苦しそうにしている果南は起こしてあげるべきだと思う。
「・・・・・・んん・・・」
しばらくぐにぐにしていると梨子が目を覚ます。そして自らの頬で遊んでいるのが千歌だと分かるや否や、不機嫌そうに目を細めた。
そんな梨子に、千歌は朗らかに笑いかけ、
「ちょっと話があるの」
「バレちゃってたか・・・・・・」
千歌からピアノコンクールの事を問われた梨子は、詮索をされた事に起こるでも悲しむでもなく溜息に近い息を漏らす。
「・・・ゼロちゃん。話しちゃった?」
『な訳あるか。こいつ等が自分で気が付いたんだよ』
「? ゼロちゃんには話してたの?」
「まあ、色々あってね」
最近やたらとどこかに行っていると思ったらこういう事だったらしい。これほどまでに相談相手に向いていない奴がいるとは思えないが。
まあでも、唯一人間ではないゼロにだからこそ話せたのかもしれない。なんだかんだで約束は守る奴だし。
「・・・・・・」
「安心して。ちゃんとラブライブに出るから」
「え?」
どうするかの答えを求める様な千歌の視線を察したのか、聞かれる前に梨子はそう答えた。
「・・・・・・いいのか?」
ラブライブに出る。
それはつまり、ピアノコンクールの方は棄権するという事だ。
勿論Aqoursのマネージャー(仮)としては嬉しい限りだが、友人としての心境からすると複雑なところだ。
「最初はすごく迷ったよ? チャンスがあるならもう一度って気持ちもあったし。・・・・・・でも合宿が始まって、皆と過ごして。ここに越してきてから、この学校や、皆や、スクールアイドルが自分の中でどんどん大きくなって。皆とのAqoursの活動が楽しくて。・・・皆とのこの出会いも」
海辺特有の風が、噓偽りのない梨子の本心を耳元まで運んでくる。
今この言葉はどう捉えるか難しい所だろう。善く言えば梨子はスクールアイドルのおかげで吹っ切れることが出来た。悪く言えば、Aqoursの活動がピアノを諦めさせる原因を作ってしまったという事だ。
「・・・それで自分に聞いたの。どっちが大事なのか・・・・・・。すぐに答えは出た。・・・・・・今の私の居場所は、ここなんだって」
「・・・そっか・・・」
その気持ちを決定に導いたのが前者であれ後者であれ、本人が悩んだ末に出した答えならば自分達にそれをとやかく言う権利はない。
千歌もそれが分かっているからこそ、今のような曖昧な返事しか返せないのだろう。
「今の私の目標は、これまでで一番の曲を作って、それを突破する事。それだけ!」
腕を後ろで組むとくるりとターンし、迷いのない笑みを向けてくる。・・・・・・少しだけ、それが取り繕ったものであるような気もしないでもないが。
「・・・・・・うん。分かった」
「だから早く歌詞ください♪」
「もー! 今それ言う⁉」
梨子のこのタイミングでの催促に、千歌が触れ腐れた様に頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
梨子はそれを見て悪戯っぽく微笑むと、その隣を歩き去っていく。
「さ、風邪引くといけないし、帰ろ?」
「・・・・・・うん」
それに続くように。千歌と陸も十千万に向けて歩き出す。
前を歩く梨子の背中を見てしまうと、やはりこれでよかったのかと思ってしまう。
(・・・・・・ゼロはどう思う?)
〈・・・・・・俺の勝手な解釈でいいなら聞かせてやる〉
(なんだよ? 聞かせてくれ)
一拍置いて、ゼロは答えた。
〈アイツはまだピアノをする事に恐怖を覚えている。だからこそ、それから逃げる口実にスクールアイドルを使っている。・・・・・・本当にそうなのかは分からねえが、俺には、そう思えてならねぇ〉
「・・・・・・・・・ピアノから逃げてるねぇ・・・」
「? 陸ちゃん。それどういう事?」
うっかり口に出してしまっていたらしく、千歌が不思議そうにこちらを見てくる。
「・・・いや、何でもない。・・・それより早く戻ろうぜ。どっかのお堅い生徒会長にバレたらお説教間違いなしだからな」
誤魔化す様にちょっと強めに千歌の背中を叩くと、梨子の背中を追って砂浜を蹴る。
「・・・・・・そうだね」
少しだけ痛そうに背中を擦ると、千歌もその跡を追って走り出した。
なお、結局ダイヤにはバレて翌朝みっちりお説教された。
二日目。
「・・・・・・やっぱ俺だけ仕事量がおかしいだろ・・・」
火を使っているせいでサウナ染みた蒸し暑さが籠る厨房の中で、陸はカレーの鍋の様子
を見つつフランクフルトを焼き、更にポテトを揚げるとか言う、ブラック企業も真っ青なハードワークをこなしていた。
何だろう、ダイヤは陸に恨みでもあるのだろうか。思い当たる節は・・・・・・、うん。とんでもない爆弾があった。
「ヘイ! ヨキソバ!」
焼きそばはヨキソバついでに曜が担ってくれているが、鞠莉と善子がシャイ煮と堕天使の涙しか作ろうとしないので仕事が減らない。
そして厨房内の熱気が気力を奪っていく。ゼロがいればこの程度の熱さどうという事は無いのだが、先程ダンスの相談をしに行った千歌、梨子、果南の三人について行ってしまった為いない。いじめだろうか。
「花丸―。フランクフルトもってけー」
それでもなんだかんだ言ってやってしまうのが陸の良くも悪くもお人好しなところだろう。きっと会社に入ったら真っ先に社畜化するタイプだ。
千歌と梨子の謎の宣伝か、もしくは果南のグラマラス水着大作戦のどっちが功を期したのかは知らないが、客足は昨日に比べるとそれなりに伸びており、花丸、ルビィ、ダイヤの三人では手が足りなくなることも少しだが増えた。
「ずらぁ⁉」
「ピギィ⁉」
ガシャーン! と言う音と共に聞こえた花丸とルビィの声。
「あちゃー・・・・・・」
見てみれば二人はコケて盛大にお盆にのせていた料理をぶちまけていた。
そして巻き添えを喰らったのか、転んだ二人の目の前には頭からお椀とシャイ煮を被る男性の姿が。
「申し訳ございません! お怪我はございませんか⁉」
ダイヤがものすごい速度でフォローに入り、男性の頭からお椀を撤去し付近でシャイ煮を拭い始める。
普通の人間なら不快な気分になる事間違いなしだが、その男性は何故かサムズアップを決めて晴れやかに笑った。
「いいのいいの! ボク等の業界じゃむしろご褒美だから!」
「は、はぁ・・・・・・」
じゅ。
陸はガスコンロに火をつけるとそれでフライパンを炙り始める。
「そ、それよりいくら払えばもう一回やってくれるんだい⁉」
じゅう。
陸は熱せられたフライパンの底を、気持ちの悪い顔でダイヤに詰め寄るその男性の顔面に押し付けた。
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いッ⁉」
「ちょっ・・・・・・、仙道さん⁉」
「ダイヤさん。下がっててください」
陸はフライパンを剣の様に構えると、顔面を抑えながら床を転がる変態紳士、オウガを睨みつけた。
「おいゴラァ。テメェ何しに来やがった」
ドスを利かせた声を陸が吐き出すと、オウガはホールドアップの姿勢を取った。ここでやり合う気はないらしい。
「あちち・・・・・・。あのさー陸君。警戒するのは分かるけど、流石にそんな焼き鏝みたいなことされるとボクでも傷つくよ?」
「うるせぇド変態。幼気な少女に何やらそうとしてんだ。つかマジで何しに来た」
「いやー。スクールアイドルが海の家をやってるって聞いちゃってさ、そんな夢のような尊い店があったのかと思ったら居ても立ってもいられなくて。まあ、騒ぎを起こすつもりはないから安心したまえ」
悪びれもせずオウガは再び席に座ると、ちょっと引き気味のダイヤにヨキソバとシャイ煮と堕天使の涙を注文していた。ちゃっかり女子作のメニューしか注文していないのが腹立つ。
「ったく・・・・・・」
「ああ。ちょっと待って陸君」
とりあえず次なんか変なこと言ったらアイツを料理してやろう。その決意を胸に陸が厨房に戻ろうとすると、注文を終えたオウガが肩を掴んで引き留めてくる。
「なんだよ」
「いや、ちょっと気になってさ。随分とユニークな人がいるけど。あれも店員さんなのかい?」
「は?」
疑問形に疑問形で返しながらオウガの指さす方に視線を流す。
「・・・・・・え?」
そこで思わず言葉を失う。
そこにいたのは、確かに人なのだ。人の形はしているのだ。・・・・・・首から下だけ。
スタイルもいいし、着用しているビキニの魅力を最大限に引き出していると言っていいだろう。・・・・・・首から下だけなら。
「「ぴぎゃァァァァァァァァァァァァッ⁉」」
そこに佇んでいた者を見て、黒澤姉妹が同時に悲鳴を上げる。
まあ、無理はない。何故ならそこにいるのは、身体は水着姿の女性なのに、頭部は魚のそれなのだから。一言で言うのならば、逆人魚。
えらがひくひく動いていたり、鯉のように口をパクパクさせている頭部は作り物とは思えない。という事はつまり、
「宇宙人⁉」
厨房から出てきた曜が声を上げると共に、オウガを除くお客は皆悲鳴を上げて逃げていく。
『なッ・・・馬鹿な。バレただと⁉ 完璧に溶け込んでいると思っていたのに・・・・・・』
「そのナリで何言って―――」
ついついいつもの癖で陸がいれたツッコミは、外から聞こえてきた悲鳴によって掻き消される事となる。
悲鳴を上げたのは今さっき店内から逃げていったお客さん達。その眼前には。
「うわっ‼ 何だあれ気持ち悪っ‼」
続々と海から行進してくる、大量の逆人魚の姿があった。
「おいオウガ、あれお前の仲間か?」
「いやいや、あんなサイケデリックな連中知らないよ。純粋に侵略目的の宇宙人じゃないかな?」
純粋に侵略しに来たという表現が既にもう嫌だが、今は気にしている場合ではない。
Aqoursの皆をバックヤードに下げると、フライパンを構えなおして店内にいる逆人魚を睨む。
「おいテメェ等。一体何モンだ」
ゼロが普段宇宙人にやる様に問いかける。
『はっ・・・・・・。虚弱貧弱無知無能の地球人に名乗る名前など・・・・・・』
「あ˝ぁん?」
ベリアルの力を開放し、全力で逆人魚をねめつける。
すると圧倒的な闇の力の前に本能的な恐怖を感じたのか、ほんの数秒前まで馬鹿にしていた地球人の陸から数歩遠ざかってから口を開いた。
『・・・い、インスマス星人・・・・・・』
「・・・へー、闇を打ち消してた訳じゃないのか・・・・・・」
何故か隣でオウガが意味深に笑っているが、気にせずそのインスマス星人とやらに詰め寄っていく。
「単刀直入に聞く。何しに来やがった」
アツアツに熱せられたフライパンを奴の眼前に掲げ、答えなかったら分かってるよな? と言った雰囲気を全身から出しながら細目を向ける。最近ゼロっぽくなっている気がしてならない。
『・・・ふふ・・・ははは! いいだろう、何だかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けと言うからな!』
インスマス星人は余裕たっぷりに胸を張ったが、その死んだ魚のような双眸はしっかりとフライパンを捉えていた。
『我々がこの星に来た理由はただ一つ! 地球は貰った――――――』
「オォウラァ!」
『ぐは熱ッ!』
身体を捻り、野球のバットで素振りをするようにフライパンを振るう。それはインスマス星人の顔面を捉え、奴は顔を抑えながら地面を転がる。
『ぐっ・・・・・・。何故だ。何故我々を前にそんなに冷静でいられる⁉』
「何でだろうねー」
『あぢぢぢぢぢぢぢぢッ!』
しゃがみ込んで奴の背中にフライパンの底をあてがう。
インスマス星人の言う通り春前の陸だったら、あのお客様方同様逃げていただろうが。ゼロに出会ってから今日に至るまで散々宇宙人やら怪獣やらと戦ってきた陸にはもはやこんな珍妙な宇宙人へでもない。
精神が徐々に非日常に侵されつつあって悲しい。
『うわぁ・・・・・・』
『ち、地球人怖ッ・・・・・・』
海から上陸してきた他のインスマス星人もこの光景を見て完全にドン引きだった。
『狼狽えるな!』
そんな中陸に虐められている最も可哀想なインスマス星人が声を張り上げる。
『何のために我々がアレに登場してきたと思っている!』
「あれ?」
『はは・・・。さあ、見せてやれお前達!』
地を舐めながら恐らくリーダー格だと思われるインスマス星人が指示を出すのと同時に、他のインスマス星人が一斉に海へと戻っていく。
そして次の瞬間、大きな水飛沫と共に海中から巨大な物体が現れる。
「なっ・・・昨日の隕石⁉ 宇宙船だったのか⁉」
だが少し納得は行くような気もする。確かに隕石があんなウニのような形状になるとは思えない。まあ、あの形の宇宙船も十二分におかしいとは思うが。
陸がそう思った時、その宇宙船が生き物のような唸り声を発し、生きているかのように海岸に向けて進行を始めたのだ。
「怪獣⁉」
流石にそれは予想しておらず、思わず驚きの声を上げる陸。
陸がようやく狼狽えたのを見て、インスマス星人は再び余裕たっぷりに声を上げた。
『はははは! この力の前にひれ伏すがいい! さあやれ、棘皮怪獣ウニラァァァァァァァァァァァァ‼』
「ネーミングがまんま過ぎるだろぉぉぉぉ‼」
陸渾身のツッコミの後、棘皮怪獣ウニラは気持ちの悪い唸り声を響かせた。
インスマス星人のモデルは、言うまでもなくクトゥルフ神話の深きものです。
あの怪物は自分の学校のお友達が授業中に書いた落書きから誕生し、面白そうだったので使わせて頂きました。
インスマス星人の容姿に何か言いたい事がございましたらお気軽に感想でどうぞ。
それでは次回で!