サンシャインの話も進めるのでご安心ください。
千歌、曜、梨子、果南を乗せた船が沖に出ていくのを見届けると、お留守番の陸はテラスにある椅子に腰かけた。
〈なあ陸。千歌とかいう奴が言ってたスクールアイドル、だったか? それって一体なんだ?〉
「・・・そういやお前には言ってなかったな。えーと、まず普通のアイドルは分かるか?」
〈一応。別の宇宙でレイトって奴と一体化してた時に、地球の文化に触れる機会があったからな〉
ゼロは別宇宙で人間と一体化した経験があるらしい。どおりで高校などの地球文化を知っていた訳だ。
「そっちの世界にスクールアイドルは無かったのか?」
〈俺が見落としていただけかも知れないが、そもそも普通にアイドルやるのと何が違うんだそれ〉
「・・・俺もよく分からん。千歌は何か自分たちと同じような普通の女子高生が歌って踊ってるのを見て感動したとか言ってたな」
〈つまり何だ。学校でやるアイドルって事か?〉
「まあそういう事だな」
〈いいなそういうの。枠に捕らわれない考え方は好きだぜ〉
「お前はもうちょっと常識を覚えた方がいいと思うけどな」
陸のツッコミと同時に海辺特有の風が吹き、爽快な空気が辺りに舞い込む。
「ところでよ陸。なんでお前はダイビングに行かなかったんだ?」
「ふっ・・・、愚問だな、ゼロ」
ゼロの問いに、陸は短く鼻を鳴らす。答えは単純明快。真実はいつだって一つなのだ。
「俺、船ダメなんだわ」
「どう? 聴こえた?」
海の声を聴きに海に潜った千歌達は、一旦果南の待つ船の上へと戻ってきていた。
そして果南の問いに、梨子が首を横に振る。まだ聴こえていないのだ。
「まあ、この天気じゃね・・・・・・」
曜が天を仰いで呟いた。
曜の言う通り、今日の天気は生憎の曇りだ。時々雲の間に間に光が漏れ出でるだけで、海の中は基本的に暗く、お世辞にも綺麗とは言える状態ではない。
一応千歌と曜も海中で海の音のイメージはしてみたのだが、聞いたこともないような音を音楽には疎い二人が想像できるはずもなく。
「もう一回! もう一回挑戦してみよう!」
その場に漂っていた諦めムードを払拭するように、千歌が声を上げて再び潜る事を提案する。
そんな根拠どこにもないというのに、何故か聴こえるんじゃないかと言う期待を孕ませる千歌の声音に、梨子も曜も首肯した。
「行こう!」
千歌が再び飛び込むと、それに続いて二人も飛び込む。
「・・・・・・頑張るなぁ・・・」
それを見守っていた果南の呟きは、どこか寂し気に静かな海上で霧散していった。
千歌の提案に乗って三人は再び潜っては見たものの、やはり海の中は暗いままだった。
仄暗いモノクロームの様な世界の中で、梨子はその瞳を失意に陰らせていた。
自身へのやるせない気持ち、ここまで付き合ってくれた千歌や曜、果南や陸への申し訳なさ。燻ったままのピアノへの情熱。
これらの気持ちを蔑ろにしていい訳がないのだが、それに答える唯一の術である海の音はまだ聞こえないままだ。
何もできない自分が嫌になり、俯いたその瞬間、梨子の肩に優しく手が添えられた。
手を添えていたのは千歌だった。
千歌は目を輝かせながらある方向を指さしている。
千歌が指さす先は、雲から漏れ出た光が差し込む場所。恐らく千歌はあそこに行こうと言っているのだろう。
確かにあの場所は違う。キラキラと輝いていて、闇さえも明るく照らすようで。
梨子が導かれるようにその場所へと泳いでいき、千歌と曜もそれに続く。
そして光の差す場所で止まり、三人を光が包んだその瞬間、
遂にその時は訪れた。
「っ・・・・・・!」
荒れ狂う大海の様に力強いリズムと、母なる海を連想させる優しくゆったりとしたテンポ。
その二つはやがて合わさり、旋律を奏でながら歌となっていく。
海の音。いや、
――――海の歌。
「聴こえた! 聞こえたよ桜内さん!」
「私も!」
海の歌の余韻に浸りながら浮上した梨子を待っていたのは、キラキラと目を輝かせた千歌と曜だった。
二人共今まで聞いたこともないような音に興奮を覚え、梨子が勝手に作っていた見えない心の壁を突き破って熱い抱擁をしてきた。
不思議と梨子も嫌には感じず、自身も二人と感動を噛み締め合うように手を取って笑い合った。
一人ではきっと成し得なかったであろう事を、共に挑戦した友として。
天から差し込む祝福の調、それに耳を傾けるように笑い合う三人。
「やった! やったね! 桜内さん!」
「うん! 二人共ありがとう・・・」
「あはは、桜内さんの手凄い熱いよ? そんなに嬉しかったの?」
手を取り合って笑う三人を、果南も優しく微笑むが、
その時間は長くは続かない。
『ピィィウィウィィィィィィィ‼』
白き悪魔の咆哮によって、穏やかな時は終わりを迎えた。
「えっ・・・?」
「何・・・?」
曜と梨子が周囲を見渡すが、辺りには何も見当たらない。
「あっ! あれっ‼」
声を上げた千歌が指さす先には、雲の裂け目から落下してくる卵の様な物体が。海中に光が差したのはあの物体の影響らしい。
「皆! 速く船に上がって!」
果南もそれに気が付き、三人に注意を促す。
それに従った三人が船に上がると同時に、その物体は派手に飛沫を上げて海に着水した。
「「きゃぁぁぁぁぁぁっ‼」」
「くっ・・・・・・」
それによって生じた高波が船を襲い、船体が大きく揺れる。
果南が必死に舵を切って持ちこたえるが、これもいつまで続くか。
一際大きい高波の後、
『ピィィウィウィウィィィィィィィィィ‼』
内浦の海に、再び怪獣の咆哮が響いた。
〈ッ! あれは!〉
出現した怪獣が咆哮を上げると共に、ゼロも声を上げる。
「おいゼロ! お前が今朝変なこと言うからホントに怪獣出てきちまったじゃねーか!」
〈ああ? 俺は事実を言ったまでだ〉
しかもよりによって海に。あそこには千歌と曜と梨子と果南の四人の乗った船がある。
速く何とかしなければ四人にも危険が。
「ゼロ。あの怪獣は何だ?」
牛を連想させる白地に黒い斑点模様の体色。目がなく、代わりに生えているのは絶えず回転を続けるアンテナの様な角。
何よりも目を引くのは、背丈の数倍はあるであろう長い尻尾。
前に出てきたベロクロンと対比しての迫力不足は否めないが、それでも危険な存在だという事はひしひしと感じる。
〈あれはエレキング。宇宙怪獣エレキングだ〉
「エレキング・・・?」
〈ああ、電撃攻撃を得意とするちっと厄介な怪獣でな。海上に出現したとなると・・・・・・、ちょっとヤバいな〉
「電撃っ!? 嘘だろ!?」
エレキングは今海の中にいる。
海は何の集まりだ? 海水だ。海水は水、水は何を良く通す? 電気だ。そして今四人はどこにいる?
・・・もし今エレキングが放電しようものなら。
〈陸! 早く何とかしないとヤバイ。出撃だ!〉
「ああ。・・・・・・でもどうやって・・・?」
ゼロはこの前力を貸してくれとか言っていたが、それって具体的にどうすればいいのだろうか。
〈これだ。これを使え!〉
ゼロがそう言った瞬間、陸の目の前で光が集約していく。
やがてその光は、とある物体に変化した。
眼鏡のようだが少し違う。ツルに相当する部位がない上にレンズも黄色く、どちらかと言えばサングラスのようだ。
カラーリングはあの時見たゼロの様に赤、青、銀の三色で、額部分には緑色のランプがある。
「そいつはウルトラゼロアイ。そいつをつけて俺に成れ‼」
「お前になるって、俺ゼロになるの?」
「ああ。変身さえしてくれれば後は俺が戦う。お前は俺の死角に目を配って周りに危険がないかを教えてくれ」
「・・・分かった。とにかくつければいいんだな?」
「おう。行くぞ陸!」
「ああ」
陸は空中に浮遊していたそれを手に取ると、腕を伸ばしてエレキングの方にかざした。グラス越しに映るエレキングは、狙っているかのように件の船へと向かっていく。
「今行くぜ・・・・・・。デヤァ!」
一瞬だけ、荒波に翻弄された四人が乗っている船に目を移した後、陸はウルトラゼロアイを装着した。
その瞬間、陸は変わる。
光に包まれた陸の体を赤と青の閃光が頭部から照射していくと共に、その部位から陸の体はゼロに変わっていく。
やがて全身がゼロに変わり、人間大での変身が完了した。
渦巻く光に包まれ、飛翔しながら巨大化したウルトラマンゼロ。目指す標的はエレキング。
『覚悟はいいか陸』
(勿論)
―――――――――行くぜ! ウルトラマンゼロ!
「『シェァ‼』」
駆け足ですみません。文字数も少ないし。
海の音って、ホントに何なんだろう。あるなら俺も聞いてみたい。
あ、あと次回からオリジナル展開入ります。梨子ちゃんに異変が?