東京二十三区も捨てたもんじゃありませんね。
『・・・! またか・・・・・・』
Ⅿ78星雲、光の国。
数多の宇宙に配備された宇宙警備隊を統べる大隊長―――ウルトラマンケン―――通称ウルトラの父は、ただならぬ気配を纏って腰を上げた。
『どうかしましたか? 大隊長』
明らかに様子がいつもと違う事を察したゾフィーが問いかけると、ウルトラの父は何か意を決したように声を出した。
『・・・ここ最近、微弱だが奴の・・・・・・ベリアルの気配を感じるようになってきた・・・』
『なっ・・・・・・、本当ですか・・・?』
驚愕を滲ませるウルトラ六兄弟の長男に対し、首を縦に振る事で応ずる。
『・・・君からダークネスファイブが暗躍していると聞いてまさかとは思ったが・・・・・・、間違いないようだな』
『・・・では、奴は今あの地球にいると?』
『・・・・・・詳しい事はまだ分からないが・・・、そう見て間違いはないだろうな』
最強最悪の脅威が迫っている事はもう紛れもない事実なようだった。
『・・・我々が動くにはまだ情報が少なすぎる・・・・・・、ここはゼロに任せるとしよう』
朝焼けが町と海に輝きをもたらす。
今日も今日とて変わらず登校。まずは曜を高海家近くのバス停まで送り届ける。
「あら陸ちゃん曜ちゃん。おはよう」
「はよーす」
「おはようございまーす」
欠伸を噛み殺し、十千万の玄関前で箒片手に掃き掃除をしていた志満に軽く挨拶を返す。
「志満さん、千歌もう起きてます?」
慣れた流れでいつもの確認作業。
ちなみにこの質問に対しYesが帰ってきた試しはほぼ皆無である。高校二年生になってからはまだ一度もない。
だからこそ、今日の返答はシンプルながらも予想の遥か上を行くものだった。
「あー・・・、千歌ちゃんなら今朝早く学校行っちゃったけど・・・。それにやけに機嫌よかったわね」
「・・・えぇ⁉ 珍しい・・・。しかもこんな日に・・・」
「・・・・・・雨でも降んのか・・・?」
「いやいや、雪って可能性も」
「天変地異の前触れか・・・?」
『お前等千歌を何だと思ってんだよ』
で、本当に雨が降ってきたその日の放課後。
「~~~♪」
「・・・・・・何? 今朝からずっとあんな感じなのか?」
『ああ。今日は曜の中に入ってずっと見てたんだが・・・・・・、不気味なくらい機嫌がいい』
練習着姿で鼻歌を口ずさみながらせっせと窓拭きをする千歌。それ以外のメンバーは緊張を隠し切れない面持ちでいるというのに、この差は一体何なのだろうか。
今日は、千歌達Aqoursにとって重要な事が発表される日だというのに。
「・・・・・・忘れてるとか?」
「・・・今朝志満さんから聞いた感じだと・・・・・・、その可能性が高い気がする」
「Really?」
普通こんな大事な事忘れないと思うが、忘れ物常習犯の彼女ならばありえない話でも無いのだ。
「千歌。・・・今日、何の日か覚えてるか・・・?」
「ん?」
もしかすると緊張のあまりぶっ壊れてしまった可能性も無きにしも非ずなので、早急に確認作業に移る。
だがそんな陸の心配はよそに、千歌は特に考える様子もなくあっさりと答えた。
「ん~? ラブライブの予備予選の結果が出る日でしょ?」
「「「おぉ~~!」」」
「覚えていたずら!」
「き、緊張しないの?」
「ぜーんぜん! だって、あんなに上手くいって、あんなに素敵な歌を歌えたんだもん。絶対突破してる!」
前回の予備予選結果発表の時は震えるほど緊張していたというのに、何が彼女にそこまで自信を持たせているのだろう。
「昨日、聖良さんにも言われたんだよ。『私が見る限り、恐らくトップ通過ね』って」
「うわ。死ぬほど似てねぇ」
「・・・いつの間にそんなに仲良しさんに・・・・・・」
聖良と言うと、あのSaint Snowの鹿角聖良だろう。トップレベルの実力を持つスクールアイドルにして、Aqours以外だと唯一陸がウルトラマンゼロだという事を知っている者。
東京でのあのやり取りを見る限りではあまり関係は良好とは思えなかったが・・・、仲良くなってくれたようで何よりだ。
「来たぁ!」
そんなこんなしている内にピロン、とパソコンが結果が出た事を知らせてくれる。
千歌を除いた全員がパソコンの前に雪崩れ込んでいき、カーソルが届いたメールを開く瞬間を見届ける。
「緊張するずら・・・」
「・・・い、いきます!」
予備予選結果発表とある画面に移り、ルビィが震える手でキーボードのEnterキーを押した。
次の瞬間、パソコンの液晶に映し出されたものは―――、
「「「「「「「「おおぉぉぉ――――――!」」」」」」」」
歓喜の声が結果がどうであったかを教えてくれる。
Aqours。二度目の予備予選突破である。
「もしかしてこれ、トップってこと?」
予選と違いトップのみが次のステージに進める訳ではないが、それでも一位というのはAqoursの皆としてもモチベーションが上がるというものだ。
「ね?」
凄いでしょ、と言いたげに胸を張る千歌。一応言っておくと手柄はコイツではなく聖良のものだ。
「やったずら!」
「うむ! 良きに計らえ!」
「鞠莉!」
「Oh! Yes!」
果南と花丸はハグ、鞠莉と善子はハイタッチからの堕天ポーズでそれぞれの喜びと高ぶった気持ちを表現する。
予備予選で歌う曲を作ってからと言うもの一年生と三年生の関りも増え、こうしたコミュニケーションも多くなってきた。
「・・・?」
ふと横に流した視線。その先には、呆然とコミュニケーションを交わす四人を眺めているダイヤがいた。
『・・・どうしたよダイヤ。浮かねー顔し―――』
「ダイヤさんも!」
ゼロも怪訝に思ったらしいが、突然横に現れた千歌によって言葉は遮られてしまう。
千歌の掌はダイヤに向けられている。
「え? は・・・、はぁ・・・・・・」
「『・・・・・・?」』
どこか陰のある表情で千歌とハイタッチを交わすダイヤを見て、陸とゼロの疑念はさらに深まるのであった。
「とは言ったものの・・・・・・」
予備予選突破の祝勝ムードも終了し、制服に着替え直した千歌は部室の机に突っ伏していた。
「また?」
「今度は何?」
「ほら・・・、ここんとこ説明会とラブライブと、二つもあったでしょ? ・・・・・・だからお金が・・・」
ゆっくりと顔を上げた千歌の目線の先には、スクールアイドル部の部費が保管されている貯金箱。
「この前千円ずつ入れたのに~・・・」
「もうなくなっちゃったの?」
Aqoursは九人と人数が多い。
人数が多いという事は、相対的に衣装代などで掛かるお金も増えてくるのだ。
もうここ最近だと学校から支給される部費だけでは賄えなくなってきており、衣装代や交通費は彼女達が自腹を切って捻出する事も多くなってきた。
「このままだと、予算が無くなって、仮に決勝に進出しても・・・・・・アヒルボートで東京まで行く事態になってしまうずら」
「沈むわい!」
まあ、花丸の挙げた例が極端な事には同意見だが・・・、実際、残っている金額によってはアヒルボートが現実になってしまうかもしれない。
そんな陸の懸念を汲んだらしい梨子が手に取った貯金箱を逆さにしてみせる。
チャリンという硬質な音と共に落ちてきた煌きの正体は―――、
「Oh! 綺麗な五円デース!」
「ご縁がありますように!」
「So Happy!」
「言ってる場合か!」
「・・・ヤバイ。マジでアヒルボートが現実になってきた」
最悪東京までの移動は先日Aqoursの皆による集団暴行の餌食となったミラーナイトの能力を使えば何とかなるが、これは本当に最終手段だ。
何の対価もなく部とは無関係の者の力を借りるのはフェアではない。それが人外の者であれば尚更だ。
『・・・・・・おい。ダイヤ』
「えっ?」
騒々しいやり取りをする集団を注意する訳でもなく、羨ましそうに眺めていたダイヤが声の主であるゼロの方を向く。
『どうした。何か気になる事でもあんのか?』
「あ・・・・・・いえ。果南さんも鞠莉さんも、随分皆さんと打ち解けたと思いまして」
どこか寂しさを感じる彼女の声音。
確かに関りが増えたおかげで仲が良くなったことは確かだが・・・、何か問題があるのだろうか。
「果南ちゃんはどう思うずら?」
「そうだねぇ・・・・・・」
「っ・・・!」
花丸が発したとある単語に、ダイヤがピクリと反応する。
「果南・・・・・・ちゃん・・・?」
という訳で場所は移り、鎌倉にある銭洗弁天を模したような祠の前に来ていた。
「・・・・・・」
半目の陸と果南の目線の先には、スクールアイドル部全部費である五円玉を祠の流水で清め、何とか神の御利益にあやかろうとする千歌がいた。
「・・・いきなり神頼み・・・」
「お願い聞いてくれるかな?」
情けなく両手を擦り合わせるその姿は、見ていてとても嘆かわしい。
「何卒五円を五倍、十倍、いや百倍に!」
「百倍は五百円だよ♪」
「あ・・・・・・」
小学校低学年レベルの計算が出来ていないのは、追い詰められたこの状況による焦りが原因だと信じたい。
「・・・というか、神頼みするくらいなら・・・・・・」
梨子の声に乗り、一年生と二年生が一斉にある少女へと顔を向けた。
「「「「「「鞠莉(ちゃん)!」」」」」」
苦し紛れにお金持ちに縋るが、予備予選時のヘリコプターの件からして返答はもう決まっているようなものだ。
「小原家の力は借りられまセ―ン!」
「ですよね~・・・・・・」
皆がより一層難しい顔になる中、またしてもダイヤは一人だけ呆然と今のやり取りを眺めていた。
「鞠莉・・・・・・ちゃん・・・?」
その後も皆で色々と画策したが名案は何も浮かばず、気付けば空は夕日の赤に染まっていた。
時間帯的にも、もう解散である。
「鞠莉ちゃん! またねー!」
「果南ちゃん! 明日本もってくずらー!」
「うむ!」
「お姉ちゃんも早くー!」
散々迷走した結果何故か淡島へと辿り着き、淡島住まいではない果南と鞠莉以外の面子は連絡船に乗り込んで行く。
後輩全員の姿が船の中に消えたのを確認すると、二人は帰ろうとしていた自分達を引き留めたダイヤの傍による。
「で? 何のTalkですか?」
「え? いえ・・・、大したことではないのですが・・・」
また羨むような目をして惚けていたダイヤは、二人の声で本来の目的を思い出す。
「その・・・二人共、急に仲良くなりましたわね」
「仲良く?」
「私と・・・・・・果南が?」
社交ダンスのようなポーズをとりつつ、釈然としていなさそうなダイヤに疑念の意を込めた視線を向ける。
「違いますわ! 一年生や二年生とです!」
何故か声を荒げるあたり、図星だったのは目に見えた。
「・・・・・・もしかしてダイヤ、妬いてるの~?」
「っ・・・!」
反応がいちいち分かりやすい。隠し事が苦手なのは相変わらずのようだった。
「ま、まさか・・・! 生徒会長としてちゃんと規律を守らねば皆に示しがつきませんわ!」
ぷいっとそっぽを向いてしまった事からして、またもや図星らしい。
「またそういう固いこと言う~」
「Very Hardねぇ・・・・・・」
果南も鞠莉も幼い頃からの付き合いでダイヤがどういう性格なのかは知り尽くしているため、今の言葉が本心でないことぐらいはすぐに分かった。
「・・・ただ・・・」
「「ただ?」」
「・・・・・・ただ」
そこから続けようとするダイヤだが、確信に触れたいと言わんばかりに迫ってくる幼馴染を前に言葉を飲みこんでしまう。
「何でもありませんわ! ただ、鞠莉さん達も上級生である自覚を無くさないように!」
強引に会話を終わらせるために声を荒げると、そのままずんずかと連絡船に乗り込んで行った。
そんな態度を見せてしまえば、二人の疑心が深くなるのも当たり前だ。
「・・・・・・どう思う?」
「Smellプンプン嫉妬fire~~~♪」
嫉妬の炎を表現するように突き出した腕を動かす鞠莉。
一通りふざけた後、出港した船を眺めながら呆れ気味に息をついた。
「しばらくすれば尻尾見せるでしょ。ダイヤは自分の事になるとへっぽこぴーだから」
「へっぽこぴぃ?」
〈ふーん・・・・・・〉
二人は気付いていなかった。
今の話を盗み聞きしていた者が、密かに果南の身体を抜けて行った事に。
〈ただいま・・・って、大丈夫かお前・・・・・・〉
様子がおかしいダイヤの真意を探るために三年生の会話に聞き耳を立てていたゼロが帰還する。
(おう・・・、お帰り・・・・・・)
他の皆がワイワイ楽しそうに会話している中、一人ぐったりと座席にもたれ掛かっている陸。
波がもたらす不規則な揺れにより、しっかりと船酔いを起こしていた。
〈あー・・・、そういや前に船に弱いとかそんな事言ってたな。生きてるかー?〉
(・・・勝手に殺すな。・・・それより、何か分かった事あるか?)
吐き気を抑えて頭だけ動かすと、楽しそうに談笑するルビィの隣で黄昏ているダイヤが確認できた。
物憂げなその表情を見る限りでは、何か悩みがある様にも見えなくはないが・・・・・・。
〈詳しい事はさっぱりだ。・・・強いて言うなら、ダイヤがへっぽこぴーってことぐらいだな〉
(・・・・・・は?)
完全に忘れられていたものかと思っていた陸の船酔い設定をここで引っ張り出すとは思わなかったずら。
そういや劇中のAqoursメンバーってちょこちょこ淡島行ってますけど、連絡船の頻度ってどの位なんでしょうね? ダイヤお姉さまは二期六話で鞠莉さんと共に夜淡島にある果南先輩の家に行った描写ありましたし。まあ、無敵の小原家が送ってた可能性もあるけど。
それでは次回で!