ゼロライブ! サンシャイン!!   作:がじゃまる

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サンシャイン楽曲をサブタイに使うシリーズ第二弾。(前回のは第五十話参照)
前例に倣って歌っているキャラ。つまりAZALEAメンバーはさほど登場しません。
ギルキスの一二年生中心に話が進みます。


八十五話 トリコリコPlease

 

 

 

「・・・・・・はぁ・・・、どうしよう・・・」

 

 自転車を押しながら、項垂れる梨子の隣を歩く。

 彼女が腕から下げたゲージの中では、先程まで善子に抱かれていた犬が元気にはしゃいでいる。

 結局あの後彼女に根負けし、しばらくの間その犬を預かる事になってしまったのだ。

 

「・・・・・・まあ、善子の方も早めに手は打つって言ってたし、んな気に病む必要はねーんじゃねーの?」

 

「でも~・・・」

 

 しかし善子も中々に酷な事をしたものだ。まさか犬が苦手な梨子に犬を預けるとは。

 別に無理にAqoursメンバーに頼ることもなかった気がするのだが。他の友達などいくらでも・・・・・・しまった彼女は友達がいない事で有名な津島善子だった。

 

「愚痴ばっか言ってても仕方ねーし、とりあえず家戻ったら? 送ってってやるから、次のバスまで結構時間あるだろ」

 

「・・・うん。ありがと」

 

 陸が自転車に跨ると、梨子もその後ろにちょこんと座る。ゲージを持たせたままだと交通安全的にも彼女の精神的にも危ないので陸が預かり、ペダルを踏む足に力を籠めた。

 

「そういやゼロは? そっちの方に行ってたんだろ?」

 

「解散した時は曜ちゃんに憑依してたよ?」

 

「だったら問題ないな。帰る時に回収していくか」

 

 ゲージを抱えているせいで片手運転となり、しかも二人乗りという中々に危ないこの状況。

 正直ゼロの力を借りたかったのは事実だが、いない者に頼っても仕方がない。ここは自分で何とかしよう。

 

「桜内―、よく掴まってろよー」

 

「え? あ、ああうん」

 

 梨子がきゅっと陸の制服を握ったのを確認してから、一気に速度を上げる。

 喜んでいいのかは分からないが最近はベリアルの力が身体に馴染んできており、その気になればこうして自身の身体能力を向上させる芸当も可能になったのだ。

 

「うわわあああぁぁぁぁぁ⁉」

 

 疾風が如し速度で進む自転車が、悲鳴を乗せながら町中を爆走していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アン! ウァン!」

 

「元気だなー、お前」

 

 桜内家に辿り着いたので、とりあえず犬の入ったゲージを梨子の部屋まで運んできた。

 思えば梨子の部屋に入るのはダダが彼女のリトルスターを狙って襲ってきた時以来だ。あの時は不法侵入だったので、ちゃんとお邪魔したのは今回が初めて。

 

「・・・で、大丈夫か桜内?」

 

「・・・まだ動悸が・・・・・・」

 

 全速前進で自転車を飛ばした結果、犬と関わる前に梨子をノックダウンさせてしまった。

 曜が最近この速度に慣れてきたのですっかり忘れていたが、あくまでも曜の適応力が異常なだけで一般人はこうなって当たり前だ。

 

「ウァン! ワフ!」

 

「静かにしろ―。まだ桜内の親御さんに説明してねーんだから」

 

 今この空間で元気全開なのはこのワンころだけ。先程からずっとゲージの壁を叩きながらはしゃいでいる。

 

「クゥン・・・」

 

 と思ったらいきなりしょんぼりと元気がなくなった。この感じは自分の意図が伝わらなくて凹んでいる顔だ。

 

「お? どした?」

 

 生憎陸に犬語は理解できないので首を傾げる事しか出来ない。

 すると後ろでグロッキーになっていた梨子が何かに気付いたように声を発した。

 

「・・・もしかしてお腹空いてるのかな? えっと・・・、善子ちゃんはこれが一番好きだって言ってたけど・・・・・・」

 

 そう言った彼女は善子から渡された袋を漁り、中から犬用のビスケットを取り出す。

 

「アン! アン!」

 

 それを機会に捉えた瞬間元気を取り戻し、早くくれと言わんばかりに吠え始めた。

 

「・・・コイツさっきも食ってなかったか?」

 

「・・・誰かさんが無茶な運転するから疲れちゃったんじゃない?」

 

「・・・はい。すみませんでした」

 

 どうやらまだご立腹らしい。

 申し訳なさで委縮する陸を尻目に、梨子は更に盛ったビスケットをゲージの前に置いた。

 

「・・・・・・扉開けないと食えないだろ」

 

「・・・だよね」

 

 目の前にご飯があるのにゲージが開かないせいでお預け状態。腹が減っている状況で一体何の拷問だろうか。

 かといって犬を開放したら梨子がパニックになるだろうし、どうしたものか。

 

「食い終わったら俺がゲージの中に戻すから、その間は離れてろよ」

 

「・・・うん。そうする・・・」

 

 陸の提案に乗った梨子が部屋の外に移動し、少しだけ扉を開いて中の様子を覗いている。

 それを確認してからゲージの扉を開き、犬を小さな檻から解放する。

 

「・・・敵と味方を見分ける不思議な力か・・・・・・」

 

 一心不乱に餌に食らいつく犬を見て、不意に梨子がそう呟いた。

 

「あ? 何それ?」

 

「・・・ミーティングの時、千歌ちゃんが犬には敵と味方を見分ける不思議な力があるって言ってたのを思い出して」

 

 相変わらずの不思議発言だ。何を根拠に言っているのだろうか。

 敵と味方を見分ける不思議な力・・・番犬というのはその力とやらを見込んだ人間が始めたものなのだろうか。

 

「クゥ・・・・・・、アン! アン!」

 

「ふふ・・・、しっ・・・よ?」

 

 自身に向かって吠える犬に対し、梨子は普段しいたけに向けるそれよりずっと穏やかな表情で微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後。

 

「ワンツスリーフォーワンツー。そこで皆近づいて! はい!」

 

 果南の手拍子に合わせて他の八人がダンスとフォーメーション確認を組み合わせた練習をしていた。

 

「うん。前よりダイブ良くなってるよ!」

 

「ホント⁉」

 

 この頃一に練習二に練習と何事よりも練習を優先している甲斐あって、Aqoursのパフォーマンスレベルは格段に向上しているのが伺える。

 

「ではもう一度・・・と言いたいところですが」

 

 言いかけたダイヤが見上げた空は、既に逢魔が時が支配し始めていた。

 

「日も短くなってるからね」

 

「怪我するといけないし、あとは沼津で練習する時にしよう」

 

 暗くなれば当然練習に危険も伴う。不本意だが、ここは鞠莉の提案通りにした方がいいだろう。

 だが、一人だけ嬉々としてその言葉を受け止めている者がいた。

 

「じゃあ終わり⁉」

 

『・・・・・・梨子?』

 

 梨子だけが、妙に嬉しそうな表情で食いついていた。

 

「うん・・・・・・どうしたの?」

 

「へっ⁉ いや・・・ちょっと・・・・・・私、今日は先帰るね~?」

 

「えっ⁉ また~?」

 

 別れの挨拶もほどほどに済まし、足早に去って行ってしまった。

 

「何かあったずら?」

 

 ここ最近、梨子は練習が終わるとすぐに帰ってしまうのだ。

 普段なら談笑するなり千歌に歌詞の催促をするなりのコミュニケーションがあるのだが、それすらもする気配はない。

 

〈・・・・・・〉

 

 ゼロはただ一人心当たりのありそうな顔をしている者を見つけ、果南の身体から抜け出てその者の身体に憑依する。

 

〈・・・・・・善子。お前なんか知ってるだろ〉

 

(・・・心当たりというか・・・、いや、まさかとは思うけどね・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あんのクソ教師・・・」

 

 またもや雑務を押し付けられて下校が遅くなった陸は、呪詛のように愚痴を零しながら帰路を進んでいた。

 やるのが面倒くさいのは分かるが、それを生徒に押し付けるのは如何なるものなのだろうか。

 

(・・・もうアイツ等も練習終わってる頃だよな。最近顔出してねーな)

 

 正式なマネージャーではないので顔を出す義務など微塵もないのだが、すっぽかすと怒ってくる連中が数名いる。しかも最近はどんどんその人数が増えて言っているのだがこれは一体。

 まあ事情の説明はゼロに任せてあるし、もう練習が終わっているのならまっすぐ帰っても問題はないだろう。

 そう思い先日善子とエンカウントしたホームセンターの前に差し掛かったその時だった。

 

「・・・・・・ん?」

 

 スキップしてる変人がいる。

 浦の星女学院の制服に身を包み、紫檀色の長髪を揺らしながらスキップでホームセンターに入ろうとしている変人がいる。

 

「・・・何してんのお前・・・・・・」

 

「ひゃうっ⁉」

 

 たまらず陸が声を掛けるとその変人―――桜内梨子は短い悲鳴と共に大きく跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~♪ ふっふふ~ん♪」

 

「お邪魔しまーす」

 

 やたら上機嫌な梨子を家まで送ったついでで部屋まで招かれてしまった。よもやこんな近間隔で桜内家に来よう事になろうとは。

 彼女の部屋の中央では、数日前に来た時と変わらずゲージの中の犬が元気にはしゃいでいる。

 

「いい子にしてた~? 今日はお土産があるのよ~?」

 

 普段の彼女からは考えられないぐらいの謎テンションのまま、ホームセンターでかった代物が入っているレジ袋を漁る梨子。

 

「じゃーん! えへへ、面白そうでしょ?」

 

「アン! アンアンアン‼」

 

 何の生物かも分からない犬用玩具を見せると、それを欲しがるように大興奮でゲージのドアを叩き始めた。お気に召してもらえたらしい。

 

「はい」

 

 少しだけ開いた戸の隙間から玩具が投入され、犬はすぐさまそれを加えて遊び出す。

 

「ふふ・・・、面白い?」

 

 それを見て我が子を見守るように微笑む梨子に、しいたけ相手にあれだけビビっていた過去の姿はない。

 

「・・・・・・何日か前のお前どこ行った」

 

「うへへ・・・・・・」

 

 ダメだ聞いちゃいない。もう完全に迷い犬のトリコリコのようだ。

 しかしまあ、今はゲージ越しの関りとは言え、これで少しでも梨子の犬耐性が上がってくれればいいのだが。

 

「・・・楽しそうで何よりだよ。用事は済んだし、俺もう帰るわ」

 

 とりあえず犬の様子だけ見に来ただけなので、あとはもう用はない。

 そう思った陸が帰宅しようと腰を上げた時、不意にドアがノックされた。

 

「はい?」

 

「梨子―、お友達よー」

 

 梨子の返事の後に開いたドアの後ろにいたのは梨子の母と、

 

「あ、善子ちゃん」

 

「ヨハネ。・・・陸も来てたのね」

 

 梨子に犬を押し付けた張本人、津島善子だった。

 

「よう善子。コイツの様子見に来たのか?」

 

「まあそんな感じ。・・・アンタが来てたなら丁度良かったわね」

 

 おもむろに善子が左袖を捲り、隠れていた銀と青の輝きを見せつけてきた。

 あれはウルティメイトブレスレット。という事はゼロも彼女について来ていたらしい。

 

〈よお、お前もこっちいたのか〉

 

(お前こそ何で善子? いつもは曜か姉ちゃんといるくせに)

 

〈ここ最近梨子が妙に帰るのが早いんでな。善子がここに来るっつーから付いて来たんだよ〉

 

 相変わらず鼻のいい奴だ。もう第六感とかその辺の域に到達してはないだろうか。

 

「あら? そのワンちゃんまだいたの?」

 

「あー・・・うん。なんか、もう少しだけって言われちゃって・・・・・・」

 

 その返答に梨子の母は納得するが、善子は腑に落ちない表情で梨子の下に歩み寄り、犬の入ったゲージを手に取った。

 

「でも梨子ちゃん、犬凄い苦手だから、やっぱり私の家で預かろうかなーなんて・・・・・・」

 

 梨子の母がいる手前、いつもの堕天使や砕けた態度は封印しているらしい。梨子ちゃん呼びは違和感しかないが。

 

「あぁら、善子ちゃんの家はマンションだからダメって聞いたけど?」

 

「少しなら大丈夫よ」

 

 互いに譲りたくないらしく、ドッグゲージを奪われては奪い返している。

 流石にこの状況、陸もゼロも梨子の母も苦笑いだ。

 

「駄目って言うから私が預かったのよ? さあご飯にしましょうね~ノクターン」

 

「ノクターン・・・・・・?」

 

「まぁ・・・、どうぞごゆっくり・・・・・・」

 

 普段の自分を知っている者がいなくなると、すぐさま平常運転モードに戻る善子。

 どうやら勝手に名前を付けられていた事がご立腹らしい。

 

「ちょっと! ノクターンって何よ!」

 

「この子の名前!」

 

「はぁ⁉」

 

「いつまでもワンちゃんじゃ可哀想でしょ~?」

 

「この子は私が出会ったのよ⁉ 名前だってライラプスって言う立派なのがあるんだから!」

 

「ラブライブ・・・?」

 

「ライラプス!」

 

(・・・どうすんだこれ)

 

 口論が激化し始め、さっきから奪い合いされ続けてるゲージの中のノクターンだかライラプスだかも可愛そうになってきた。

 

〈任せろ〉

 

(? 何か手でもあんのか?)

 

〈おうよ。俺に任しとけ。ビシッと決めてやる〉

 

 珍しく戦闘以外でゼロが頼もしく感じる。たまにはやるとこを見せてくれるのだろうか。

 

『あーおいちょっとお前等』

 

 二人の激論に割って入り、この状況を打破する言葉を紡ぎ出す。

 

『その犬の名前、親父の名前を借りて・・・・・・モロボシくんってのはどうだ!』

 

「誰も名前を考えろとは言ってねぇ!」

 

 前言撤回。やはりゼロはゼロのままだった。そしてネーミングセンスも相変わらず酷い。

 

「「却下」」

 

 ゼロの意見は一瞬であしらい、二人はすぐさま言い合いに戻った。

 

「大体何よ! 犬苦手だったんじゃないの⁉」

 

「苦手だけど・・・・・・仕方ないでしょ! 面倒見て欲しいって言ったのは善子ちゃんよ⁉」

 

「ヨハネ!」

 

 論争の激化に連れ、二人の空気もどんどん険悪なものに変わっていく。

 こんな事で仲違いされたらAqoursのパフォーマンスに影響が出かねないし、そもそも誰もそんな事望んでいない。

 見かねた陸が二人を止めようと一歩踏み出した時、再び部屋のドアがノックされた。

 

「二人共~・・・、ちょっといい?」

 

「「えぇッ⁉」」

 

 部屋に入ってきた梨子の母に対し威圧気味に振り向く二人。

 その剣幕に若干気圧されつつも、梨子の母が見せてきたのは一枚の紙。

 

「沼津の方で、もらってきたんだけど・・・・・・」

 

 その紙に描かれていたのは、丁度今二人が揉める原因となっている犬の捜索願だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の内に飼い主に連絡がつき、無事迷い犬は本来の家族の下に戻ることが出来た。

 

「あんこ~♪ よかったね~♪ アハハ♪」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・よ、よかったですね・・・」

 

〈・・・あんこか・・・〉

 

 犬の名前はノクターンでもライラプスでもモロボシくんでもなく「あんこ」だったらしい。

 そのあんこの飼い主である幼い少女が感動の対面で満面の笑み見せる一方、善子と梨子の表情からは輝きが失われていた。

 

「本当にありがとうございました」

 

 少女の母親に頭を下げられても、二人の顔は一向に晴れる気がしない。

 

「あんこもお礼を言いなさい。ありがとうって」

 

「アン!」

 

 少女が駆け寄ってきた際に、彼女の腕の中で抱かれていたあんこがぺろりと梨子の手のひらを舐めた。

 

「っ・・・・・・」

 

 前にあんこよりも小さい犬のわたあめに舐められただけでも大いに取り乱していた梨子だが、何故か今回はぽーっと舐められた手のひらを眺めているだけ。

 

「それじゃあ、失礼しまーす!」

 

「バイバーイ!」

 

 車に乗り込んだ親子とあんこがこの場を去っても、梨子は手のひらを見つめるだけだった。

 

「ううぅ・・・! ライラプス~~・・・!」

 

「・・・・・・ハナからお前の犬じゃないからな」

 

 それに対して子供のように泣く善子。一応高校生だという事を忘れてはいけない。

 だが流石にここで普段の雑な扱いは可哀想だったので、慰める形で頭を撫でる。

 

「・・・切り替えろよ。リトルデーモンなら俺がやってやるから」

 

「・・・・・・うん・・・」

 

 手のかかる後輩な事で。妹とかがいたらこんな感じなのだろうか。

 ともあれ駄々っ子になるような事は無かったので、とりあえず二人を家まで送るとしよう。

 

「・・・・・・? 桜内、大丈夫か?」

 

 陸と善子が歩き出しても、梨子は手のひらを見つめたまま動く気配がない。

 

「ふえっ⁉ あ、う、うん。大丈夫・・・・・・」

 

 少し心配になって声を掛けると、命一杯の作り笑いを浮かべながらこちらの後を追ってきた。

 

 

 

 




犬ねぇ・・・、作者犬苦手なんですよね・・・。
大抵の生物の事は愛してるけど犬と一部の人間だけは苦手だわ。

今回はまんま原作パートなので特に語ることもありませんな。


それでは次回で!
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