現代魔法と境界式   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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先にこちらが浮かんだので。
じわじわ進めます。


入学式

早朝の境内に、打撃音が鳴り響く。大勢の修行僧に囲まれて組手を続ける司波達也を、4人の人物が眺めていた。

素直に感動した、といった風に、黒い服で全身を覆う少年、黒桐幹也は尋ねた。

「凄いですね、何時もあんな風に?」

「そうだね、修行も最近はあんな感じで…うちの弟子たちではそろそろ相手にならないかな」

けど、そんな事よりも、と前置きした僧侶、九重八雲は、少し離れて据わる二人の少女に眼を向ける。

二人は、着ている制服、髪の色こそは同じものの、纏う雰囲気があまりにも違った。

熱心に組手で汗を流す兄を見やる司波深雪は、長髪と髪飾り、抜けるような白い肌と整った顔、穏和さを感じさせる眼が合わさり、正に美少女、といったところか。

対して、ぼんやりと修練を見ながら、海外メーカーのミネラルウォーターを飲む両儀式は、ショートカットに、ぼんやりとしていても気の強さを感じさせる眼と、対照的だ。

そんな二人に、八雲が声をかける。

 

「真新しい制服が初々しくて、清楚の中にも隠しきれない色香があって…まるで咲き綻ばんとする花の蕾。萌え出ずる新緑の芽。そう、これは萌えだ!」

 

司波深雪は激しく引いていたし、式は鼻息を荒げる八雲に裏拳を見舞っていた。しかし、八雲は飄々と笑いながら裏拳を受け止める。

そこへ、汗を手の甲で拭いながら達也が声をかける。

 

「師匠、妹が怖がっていますので」

 

結局八雲と組手をする羽目になった達也を見ながら、幹也は式に尋ねる。

 

「式も家ではあんな風に修行しているのかい?」

「まあな」

 

空になったペットボトルを右手に燻らせながら、式は気の無いように答える。

最初は互角に見えた達也と八雲の組手も、魔法が入り始めてから均衡が崩れ、遂に達也が膝をついた。

一つ深呼吸をして立ち上がる達也に、深雪が駆け寄り、一瞬で奇麗にした。

それから少し遅れて、山門の前に車が止まる。

 

じゃあなと短く言って山門から出て行く式を、丁寧に別れの挨拶を述べて式を追いかける幹也を、八雲は如何にも微笑ましいといった風に眺めていた。

 

「君たちも今日から学校なんだろう」

「はい、今日はここで失礼します」

 

軍人のようにピシリとした礼をして、達也と深雪を連れて学校へ向かった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

校門の前で、何度も繰り返した議論を再開する妹に、達也は仕方がないなと笑った。

 

「何故補欠なのでしょうか。入試も、体術だって評価されてしかるべきだと…」

「実技で俺がどれだけダメなのか、解るだろう?つまり、世間一般からは評価されない人間なんだよ、俺は」

 

尚も反論しようとする妹に、苦笑しながら達也は深雪の頬に手を当てて言った。

 

「それにな、俺は楽しみなんだよ」

 

えっ、と言いたげな顔で、顔をほんのり赤く染めた深雪は達也を見る。瞳に自分の姿が映るのを認めながら、達也は続ける。

 

「可愛い妹の晴れ姿を見れると思うとな」

「そ、そういう事でしたら、私、お兄様のご期待に応えて見せます!!」

 

安心したとばかりに胸を撫で下ろす胸中を、この妹が見ることはあるのだろうか。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

入学式までの時間を読書で潰した達也は、講堂へ入った。

入って、まず目に入ったのが前後に分かれた席だった。恐らく席の指定は無いのだが、前後に一科生、二科生と分かれているのだ。

ここでもか、と、先の読書中に耳に入った雑草(ウィード)という単語を思い出す。勝手に分かれているあたり、既に双方が強く意識しているのだろうと、達也は考える。

ふと、最後尾に見た顔があるのを見た達也は、思わず声に出していた。

 

「両儀」

「…ああ、お前か」

 

一瞬だけ眼を向けて姿を確認すると、ひらひらと手を振って、式はすぐに自分の世界に戻った。

これは単純に出入り口に近い、とか、そんな理由で選んだ場所だろうなと思うと、なんだかおかしくなって、吹き出しそうになる。

堪えた達也は、いつもの顔を直ぐに取り繕ってできるだけ前に着席した。妹に晴れ姿が見たいと言った手前後ろには座れないが、態々一科生と事を構えたくもなく、妥協の結果が丁度中列だった。

開式が迫り、段々と席が埋まり始めた頃、達也は声を掛けられた。

 

「お隣、空いていますか?」

 

声の方向を見れば、四人組がこちらを見ていた。誰かを待っているわけでもない達也は、どうぞ、と短く返した。

良かったね、口々に言い合う四人組の中に、今時珍しい眼鏡をかけた少女を認め、達也は少し目を細めた。ファッションか、眼の制御用か。眼を使って確かめようにも、悪ければ気付かれる可能性もある。

後でカマでもかけてみるかと考えていると、ふと視線を感じた。

不信さを感じさせるほど注視はしていないつもりだったので、何事かと視線を追う。

 

「ねえ、アタシ、千葉エリカ。貴方の名前は?」

「司波達也だ。よろしく。」

 

快活だな、と、第一印象を抱いた。いきなり話しかけられても不快さを感じさせないのは一種の才能と言えるだろう。

 

「もしかして、新入生代表の司波さんと血縁だったりする?」

「ああ、俺が兄であっちが妹。丁度同じ学年に収まっていてな」

 

新たな情報を得た隣人たちは、わいわいと盛り上がっている。時々相槌を打ちながら、美雪の出番を待っていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ああ、だる。終わったのか」

「そうだな、お前は寝てたんじゃないのか?」

 

妙な一向になったものだと苦笑しながら、達也は窓口へ向かっていた。入学式が終わり、さあ出ようというところで、達也は式を発見した。姿勢こそ背筋が通って見れたものだが、静かに寝息を立てているあたり完全に寝ている。これは起こしてやるべきかと、起きろ、両儀、と声をかけると、知り合いなら一緒にIDを取りに行こうとエリカたちが一緒に連れて来てしまっていた。

猫のように伸びをしながら、折角気持ちよく寝てたのになぁ、と言う始末で、思わず笑ってしまった。

 

「それで、IDとやらは何処に取りに行けばいいんだ?」

「窓口に行けばいいからな、二科生はあっちだ」

 

無気力に欠伸をした式は、ふらふらと歩きだす。あ、とでも言いたそうな顔をしたエリカが、達也に尋ねた。

 

「司波君は何組だったの?」

「E組だ」

 

どうやら四人のうち、眼鏡の少女柴田美月と、エリカがE組だったらしい。どちらにしろ、四人ともが四様の様子を見せている。

 

「両儀さんは?」

「俺もEだよ」

 

何処から取り出したのか、ミネラルウォーターを口に含んだ式は、眼も向けずに答えた。

 

「へぇ、じゃあ一緒の組だね、よろしく!」

「はいはい、よろしくな」

 

こうして見ると、式にはあまり他人と関わり合いになる気は無いのだろう。実に雑な対応だった。

 

「クラスメイトに冷たいなぁ」

「そういう人間なんだよ、俺は」

 

手続きを終えた後、クラスの違う二人はホームルームへ出席すると別れて行った。

 

「私たちも顔出してみようか」

「俺パス」

「すまない、妹と約束があってな」

 

半数が不参加とあっては気が乗らぬと、じゃあ達也君の妹を近くで見せてもらおう、というエリカの発言に美月が乗り、式はエリカが引っ張った。親に加えられた猫のようだ、という言葉を、辛うじて達也は飲み込んだ。不機嫌な顔がより曇ることは確定的だからだ。この場で争うつもりはない。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

講堂の隅で深雪を待っていると、大きな人の群れが動いていた。中心に据えられた少女を見て、式がこの世で最も頭の悪い物を見た、とでも言いそうな表情に変わった。

 

「ふぅん、妹様は人気だねぇ」

「まあ移動が不便そうではあるな」

 

かなり抑えた表現だっただろう。少なくとも、一クラス25人を優に超える塊をそう表現したのは。現に、達也には分かる。今の深雪の笑顔は、表に出せない疲労を抱えている時の顔だ。

 

「お兄様、お待たせしました…両儀さんと、そちらのお二方は?」

「同じクラスの千葉さんと柴田さんだ」

 

一瞬嫉妬の気配を感じた達也は、素早くお前を待つ間付き合ってもらっていたんだ、と付け足しておく。此方はともかく、群がる一科生を皆氷像にする訳にも行くまい。

 

「柴田美月です」

「千葉エリカです。深雪って呼んでいいのかしら」

「ええ、お兄様と区別がつかないもの。私もエリカって呼ばせてもらうわ」

 

妹に新しい友人が増えたようだ。喜ばしいことだと見ていると、不穏な視線を深雪の周囲に感じた。

視力の半分を妹の安否に充てているあたり、筋金入りだろうか。と、考えつつ確認すると、視線の元は一科生たち、視線の先はエリカたちだった。

なるほど、自分たちよりも二科生を優先されれば好い気はしないだろう。

 

「深雪、生徒会の用事は良かったのか?」

「構いませんよ、そちらの予定を優先してください」

 

答えは、別の方向から来た。小柄だが、かなり起伏のある体系をしている。トランジスタグラマー、と言ったところだろうか。所持品から見るに、生徒会のメンバーらしい。同様に生徒会のメンバーと思われる男子生徒を説き伏せているあたり、それなりの要職なのだろう。

 

「しかし会長!」

「元々の予定を変えさせる訳にもいかないでしょう?今である必要はありませんし」

 

食い下がり方を見るに、単にこの男子生徒にとっての生徒会長の優先度が何よりも高いだけなのではないか、という気もしてくる。最終的に、はい、と返事をして引き下がった男子生徒は、達也を見て不機嫌そうに鼻を鳴らし、去っていった。

 

「嫌われたな」

「あの程度の事を気にしていられるか」

 

そりゃそうだ、と、式は笑った。皮肉屋な彼女の眼には面白おかしい出来事に映ったらしい。ようやく深雪に目を向けると、もう帰る準備は万全だと言わんばかりにニコニコと笑っている。

 

「じゃあ帰るか」

「そうですね、お兄様」

 

よし終わったな、と、踵を返す式を追って二人が帰路に着くと、またもやエリカが呼び止める。

 

「何も用事が無いなら一緒にケーキでも食べに行かない?良いところ知ってるんだ」

「お兄様、行ってもよろしいでしょうか?」

「言っとくけど、もし『アーネンエルベ』って店なら俺は行かないぞ」

 

違う所よ、と自信ありげに笑うエリカは、言質は取ったと再び式を捕獲した。

 

「なんでそんなにこの近辺に詳しいんだ?」

「だってこれから三年も居る場所なのよ?そりゃ周辺事情くらい調べるって」

 

秋隆?昼飯は食ってくるから、いや幹也じゃないけど…他にもご友人がって、煩いよ。じゃあな。電話を切った式は、じゃあ案内よろしく、とエリカを見た。

 

「深雪が来るってことは達也君も来るわよね?」

「まあな」

 

思考回路が把握されていることに関しては何も言うまい。そういった事が得意な人間はしばしばいるものだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

レストランで、女子たちがケーキを突いているのを見て達也は少し意外だなと思った。全員テーブルマナーが良すぎるのだ。付け焼刃でなく、キチンとした教育の成果と思われるのが、式と深雪、エリカだった。美月は普通で、一般家庭で育ったという話は嘘ではなさそうだ。

式に関してはそれなりの家だと分かっているし、深雪は言うに及ばずだ。では、エリカの『千葉』とは、やはり剣術の大家、千葉家なのだろうか。娘がいるとは聞いていないのだが、まあ妾の子、という事もあるだろう。

 

「じゃあそろそろ良い時間だし帰りますか」

 

思索に耽っていると、どうやら全員食べ終わったらしい。達也は伝票を手に取った。

 

「此処は俺が払おう」

 

じゃあよろしくと即答した式はさておき、エリカと美月はそれは悪いからと財布を出した。しかし、深雪がえへんえへんと胸を張って二人を押し留める。

 

「お兄様にはなんてことない出費だから、二人とも気にしなくて良いわ」

「すごっ…え、達也君の家って超お金持ちだったりする?」

「凄いです…」

 

余り個人情報を漏らさないように言って聞かせるべきか、表情は崩さず、かなり真剣に達也は悩んだ。

 

「まあ、俺が稼いだポケットマネーだ」

 

実家の事は、表沙汰にならない方が良い。だから、それだけ言って達也は会計を済ませた。お礼を言ったエリカと美月は、キャビネットを呼んで乗り込んだ。

 

「じゃあまた奢ってもらえる事を期待しようかな!」

「エリカ…」

「じょ、冗談よ!また明日ね!」

 

手を振って、また明日、と別れを告げる。

 

「俺は気分次第だな」

 

奢られても、という前提が付きそうだ。

 

「変な所で庶民的だな、両儀」

「お前らこそ、金持ちのくせに何言ってんだ」

 

丁度店の前に停まった迎えの車に、式は乗り込んだ。

 

「じゃあな」

「はい、両儀さん。また明日」

 

そして最後に、達也と深雪が呼んだキャビネットが到着する。

 

「じゃあ帰ろうか、深雪」

「はい、お兄様!」

 

深雪を振り向かせようとする一科生、破天荒なクラスメイトと、早くも学園生活には荒れ模様が目に浮かぶ。だが、そんな未来予想に達也は自分が笑っていることに気付く。

楽しみだったのだろうか。自分が?

トラブルを楽しむ、というほど、人間らしい部分が残っているだろうか。答えは、最早世界で自分一人しか知らない事だ、と、疑問を胸にしまい込んだ。楽しそうに今日や明日の事を話す妹の前で、考えるべき命題では無いだろうから。




げんさくよんでないくおりてぃ。
読んでないのは劣等生の方です。今度Kindle版買いますが。
空の境界はヘビーローテーションしてますが、世界観はこの間買ったロードエルメロイⅡ世の事件簿とWikiの魔法科高校の設定を大いに参考にしています。
最外枠が型月設定、その中に劣等生の世界が内包されているイメージです。
では待て、と言って待っているいる人が居て欲しい、次回。

8/7修正、美雪→深雪
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