魔女が求めるは魔王が欲した世界 作:シャットエアコン
シンジュクゲットーの一区画。先日のシンジュク事件で完全な廃墟と化したビル群の中でゼロとスザクは顔を合わせていた。
元は何かの劇場か映画館だったのだろうか、多くの椅子が整列され、瓦礫でほとんど原型をなしていないが舞台があることから推察できる。
ゼロは舞台の上でサザーランドの手のひらで、枢木スザクは舞台下すぐの椅子の前で直立していた。首輪や手枷は外されており、既にその身は自由だった。
枢木スザクはサザーランドに警戒しながらも、ゼロから目を離さない。
ゼロがようやく口を開いた。
「相当手荒にされていたようだな枢木スザク。ブリタニアが腐っているとわかってくれたか? 君が世界を変えたいと思うなら、私の仲間になれ」
その舞台や、ゼロの騎士の格好が相まってか、どこか演技じみたように感じる勧誘に対し、スザクは落ち着いて考える。
「本当に、君がクロヴィス殿下を殺したのか?」
ゼロは先程自分がクロヴィス殿下を殺害したと名乗り出ていた。この意味を改めて尋ねると、ゼロは当たり前のようにどこか誇らしげに語りだす。
「これは戦争だ。敵将を狙い、討ち取るのは戦場の恒だ」
「ではさっきの爆弾は? 民間人を人質にして……」
「ただのブラフだ。結果誰も死んでないだろう?」
「結果? そうか、そういう考えか」
どこか寂しげにスザクは頷いた。ゼロに対して見切りをつけたのかもしれない。
「ワタシの仲間になれ、ブリタニアはお前の仕える価値はない」
「そうかもしれない。でも、だから僕は価値のある国に変えるんだ、ブリタニアの中から。間違った方法で得た結果に、価値はないと思うから」
そう言うとわかっていたかのようにゼロはその先を淡々と質問した。
「軍事法廷に行くのか? 出来レースとわかっていて?」
「それがルールなら、僕が行かないとイレブンや名誉ブリタニア人に弾圧がはじまる」
「それは自分が死んでしまうとしても?」
「構わない」
「愚かだな」
スザクはその言葉にすこしイラついたように顔を顰めるも、そんな表情を悟らせないように話題を切り替える。この問答に意味はないと感じたからかもしれない。
「ここで君を捕まえたいけど、君のお仲間がそこにいる今では返り討ちだろうからね、どうせ死ぬなら僕はみんなのために死にたい。でも、ありがとう助けてくれて」
スザクはゼロとサザーランドに背を向けて去っていく。
軍事法廷に行くのだろう。しかし、死にに行くとわかっていてもスザクの背中に決意の乱れは感じられなかった。
しかし、ゼロはその後ろ姿を見続けると、哀しそうに呟く。
「やはり、過去に囚われるか。枢木スザク」
◯
ワタシは操作するサザーランドからゼロとスザクのやり取りを観察していた。
そう言えと命令していたワタシの言う通りにゼロは会話をしてみせた。一言一句違わずに、しかしアドリブは話の流れに沿って違和感なく適切に。
スザクが立ち去って行くのを見届けたゼロは、サザーランドのコックピット内のワタシに声をかけてきた。
先程までの機械音による人工声ではなく、生身の声だ。
太すぎず、低すぎず、爽やかな印象を持つ声でワタシに語りかけてきた。
「それで、予定とは少し変わってしまったみたいだけど、本当にこれが君の計画に沿えているのかい?」
サザーランドのハッチを開く。座席が後ろに下がると、開いたハッチからワタシは顔を出した。なんとも閉鎖的で薄暗い印象の場所だが、久しぶりの外の空気を思いっきり吸った。
うん、埃っぽい。
深呼吸を終えたワタシはゆっくりとゼロの方を向き、サザーランドの座席から飛び降りると、にっこりと笑いかけながらその返事に答える。
「安心しろ、完璧だ。あまりにもやる事に対しての駒が足りない詰み盤面からの結果だと考えたら、想定以上の出来栄えだったぞ」
ワタシの満面の笑みと賞賛にたいして、ゼロはわざとらしく肩をすくめた。ワタシからは見えないがマスクの下で苦笑いしたような表情を浮かべているのだろう。
「嬉しくないよ。僕は君の計画通りに動いただけ、むしろこの計画の成功の鍵を握っていたのは君のほうなんだから」
実はその通りだ。アニメとは違い、ワタシには人手もコネも資材も何もない。毒ガスのレプリカや、皇族専用の御料車のハリボテすら作ることはできなかった。
なので、アニメのルルーシュの使った戦法を真似することはできず、オリジナルの策略でアニメのような逃走劇を演じなければならなかった。
ゼロには、アニメ一期のラストでルルーシュがスザク相手に使っていたリュウタイサクラダイトを使用した小型爆弾のレプリカを渡した。完全なるブラフだが、軍人相手には効果があると感じたためだ。
結果見事に軍人達は爆弾と勘違いしてくれた。
更に、陽動用の装置として、アニメではガスを噴出させていた演出を、違法ジャンクショップから譲ってもらったーーもとい掻っ攫った閃光弾と爆音爆竹を組み合わせ、そして一緒に煙玉も有るだけぶぢまけることで再現した。
これらとゼロの思わせぶりな誇大な演技を組み合わせればアニメと同じ状況を作り上げられるとワタシは信じた。
しかし、一番の問題は逃走手段。協力してくれた扇やカレンがいない状況で原作同様に逃げるのはほぼ不可能だった。故に、ワタシ一人であの場所から逃げ出し、追跡されないようにするしかなかった。
ルルーシュと同程度の知能を持つゼロと色々相談しあった結果、一番マシだった案を実行した。しかしそれはワタシがうまく立ち回ることが必須で、運もかなり絡んでくるギャンブルじみたものだった。
「そうだな、サザーランドに乗り込むまでは良かったんだが、通信連絡がきたときはヒヤリとしたもんさ」
その案とは上空で警戒する予定のサザーランドの一機を奪い、その操縦者に成り代わり途中までその通りに振る舞う。そして最期の最後、ゼロが閃光音爆弾を起爆させ、煙玉を大量に発煙させたのを合図として、ゼロとスザクを回収し逃げるというものだった。
まあ、ギャンブルもギャンブル。パイロットを一人昏倒させ、成り代わるのはよくても、その後その軍人としてワタシがなり切らないといけないわけだからだ。当然、ゼロは不安がるし、一番の綱渡りと思うだろう。失敗はつまりは死ということなのだから。
「……どうやって乗り切ったんだい?」
「それは企業秘密だ。それに言ったろ? ワタシは何も心配ないって」
なんてことはない、あらかじめ録音しておいたパイロットの声を流しただけだ。ただ、その録音音声と会話を合わせるのは少々苦労したが。
ワタシの茶化すような返答に少し困ったように言葉を詰まらせるゼロ。少しの間を開けて思っていたであろうことを口に出した。
「……自称魔女がどこでそんな機械兵器の操縦をおぼえたのかも企業秘密かい?」
「察しがいいな、流石ワタシの見込んだゼロだ」
「そりゃどうも」
機械兵器とはサザーランドの操縦方法と思うが、これはC.C.の元々の記憶であり、経験で扱えるものだ。曲芸などではない。企業秘密ではあるが。
勿論教えるつもりなんてさらさらないワタシは、物分かりの良いゼロにウンウンと満足そうに頷いた。
これがルルーシュなら出来ることは全て予め教えていろ! とでも怒られそうだ。
ハハハ、馬鹿め。二人の記憶をガッちゃんこした結果記憶は大分無くなったけど特殊能力を手に入れたよなんて貴様に言えるか。イレギュラーに強くなって出直せ。
「……ふと思ったんだけど、もしかしてこんな奇天烈なキャラが生まれたことに関係がある?」
「それも企業秘密だ。で、その奇天烈なキャラのゼロを大衆の前で堂々と演じてみてどうだった? 存外、似合ってると思ったんだが」
まあ、ゼロにたいして教えたゼローー旧ゼロとでも言おうか、旧ゼロはワタシ考案ではなく、アニメ原案だ。それにルルーシュが真面目に考えて生み出した英雄ゼロだぞ? 奇天烈とはなんだ奇天烈とは。
まあ、大衆や大勢の武装した軍人を前にして、これ以上ないってほと盛大に殺人の犯行を自白したパーフェクトクレイジー犯罪者という意味では確かに奇天烈と言えるだろう。
まあ、そんな旧ゼロを真似して新ゼロとして立ち振舞ったゼロは存外相性はよく感じた。
側から見ててノリノリで奇天烈に演じてたと思うが。
「正直、最初は正気の沙汰とは思えなかったけど、やれないことはなかったね。ゼロというキャラが異様に作り込まれてたって意味でもあるけど。途中演じてて違和感がなくなったのは否定しないよ」
「ワタシは最初からゼロはお前と合っていると言ったろ」
「……そう言われると少し腹立たしいからやめてくれないかな?」
「おや、ゼロがお気に召さなかったか? 」
「端的に言えばね。そもそも、名前がゼロの時点で色々とセンスが悪いとは思うけど」
ゼロはカッコいいと思うのはワタシのセンスだろうか? C.C.も気に入ってるみたいだし、これは人それぞれなのかもしれない。
しかし。ルルーシュのセンス全否定はいただけない。ルルーシュの意思を少しは尊重しようと思わないのか。
ゼロの衣装を選ぶ時も、全身タイツの衣装にチューリップを連想させる仮面がどうしても嫌というから、しぶしぶ、騎士風の黒くカッコいい衣装にチェンジさせたのだ。後者ならゼロの運動能力と相まって本当に機能的でもあるし、黒の騎士服ということで、今後立ち上げることになる黒の騎士団の名前とも掛かっていて素晴らしいな! 文句は…………ワタシも衣装に関してはゼロに賛成だ。
話をもどそう、ルルーシュを馬鹿にされたみたいで気分を少し損ねたワタシはゼロにたいして反撃をする。
「なんだ、それなら嘘ならセンスが良いのか?」
「……揚げ足をとるな、君は」
「ワタシは魔女だからな、人をからかうのが生きがいなんだよ」
おお、なんかワタシC.C.ぽい!
まあ、ワタシの半分はC.C.の魂なんだし、当たり前だろうが、片方のアニメを見てきた側としては嬉しく思う一面もあった。
魔女だからという時に、艶っぽく笑みを浮かべるのがコツだと思う。長く艶やかな髪をプランと揺らすのは更に高得点だと考える。
ゼロは大きく肩を落とす仕草をする。
顔が隠れているので身体で表現するしかないのだろう。
「またそれか、随分と君は魔女と企業秘密という、言葉を気に入ってるみたいだね」
「なんだ、女の秘密が気になるか?」
女というか、ワタシがこのワードを言うのが好きだというどうでもいい理由だが。ゼロにわざわざ教える義理はない。
しかし、先程から随分と口数が多いことだ。ワタシが起こしたばかりの頃はもっと物静かで、クールなイメージと思ったのだが。
「また茶化す、イタチごっこになりそうだから聞かないでおくよ。君が話してくれるのを気長に待つことにするよ……計画の先のこともね」
「……やはり、ワタシの計画に納得はできないか?」
ワタシとゼロは契約した。
ゼロは眠りから覚めたばかりの混乱している最中にもかかわらず、突然にもちかけた突飛な契約を真摯に聞いてくれ、少し悩みながらも最終的には契約を結んでくれた。
契約といっても、ルルーシュとC.C.がしたみたいにギアスを与えたわけではない。ゼロは既にギアスを持っており重複はできないからだ。
本人にギアスを使えるという記憶はないみたいだが、時間の問題だろう。C.C.の経験と記憶からわかったことだが、ギアスユーザーの気配を確かにゼロは持っていた。
目には見えないぼんやりとした感覚だが、コードに繋がれたギアスという存在を確かにゼロから感じるからだ。
そんな彼と契約した内容は至って簡単。
ワタシの願いを叶えるため。ワタシの計画にゼロが協力する。
そしてゼロの願いの為ワタシが知識の提供を含めて協力する。
という、単純な相互関係を構築したのだ。
そして契約は成立したものの、肝心の計画自体はゼロにほとんど教えていないし、ワタシはまだゼロの願いを叶えていないというどころか、聞いてすらいないという状況になっている。そのことにゼロは切り込んできたと感じた。
しかし、ゼロは首を大げさに横に振る。
フードのせいで大分大きく振らないと動作が分かりづらいだからだろう。誰も見ていないのだからフードとればいいのにと思う。
「いや、納得はしているよ。だからこそ今もこうして従っているだろ? 君は君の願いを叶える。そして僕は僕の願いを叶えるため君に協力する。
君の考えているはずの計画に疑問があるのは確かだけど、それに関して今更どうこう言ったりはしないさ。それに、実際に君の計画はうまくいったんだろ?」
文句と思ったのだが、それに反して清々しく納得してくれているらしい。
ちなみに、計画とはルルーシュの行動をそのまま真似するという非常にシンプルなものだ。しかし、計画の要のルルーシュのギアスが抜けた分をどう巻き返すかはワタシのアドリブ次第というわけだ。
……そういう意味、ルルーシュの代わりという意味ではゼロを神根島で起こしたのも計画の一環といえるのだろうか。
すこし罪悪感がわく。心の中でゼロを駒扱いしてしまっていたことに気づいたからだ。
それはいけない。ゼロはワタシの共犯者。駒を共に操るもの。都合のいいクイーンなどではない。
ルルーシュにとって最初はC.C.は駒の一つだったかもしれないが、C.C.からしたらそれは過ちだ。
それをワタシは忘れてはいけない。
「C.C.?」
少し黙ってしまったワタシに訝しげにゼロは声をかけてきた。場を持たす為に咄嗟に口を開く。
しかし。さすがC.C.クオリティ。気の利いた言葉を言おうと思ったが、ワタシの口から出てきたのは真逆の言葉だった。
「そうだな、お前はワタシの計画通りに動いてくれればいいんだ。心配しなくてもボロ雑巾のようになるまでこき使ってやるよ」
チラリとゼロの様子を伺う。
呆れているかと思いきや、ゼロはワタシをしっかりと見つめていた。フードの中の真っ黒の仮面の隙間から見えた目線とワタシの目線が絡み合った。
その濁りのない蒼の瞳は優しくワタシを見つめていた。
全身黒の中にチラリと見えた唯一の蒼にドキりとしてしまう。
「……C.C.僕は感謝してるよ」
「……なんだ、脈絡のない。急にどうした? なぜ今? そういう話からそうなるんだ」
混乱する。感謝? 今の毒舌のどこに感謝の要素がある? わからない。一般の感性を持つという自負のあるワタシですらわからない。言葉も歯切れの悪くなってしまった。
「君と僕とで見解に相違がありそうだから今のうちに言っておこうと思ってね。
僕はね……僕がいったい誰なのか、何者なのか。思い出すこともできないし、理解することもできない。中身が空っぽな肉の塊が自我を持っているだけ。それは本当の僕ではないんだよ」
「何を言う? お前はお前だ。たとえ記憶がなくても変わらないさ」
言っていることがよくわからなかった。確かにゼロは記憶がない。それは長年眠っていた弊害なのか、思い出したくない記憶を封じるために自ら思い出さないようにしているのか、はたまたギアスの影響なのかはわからないが、記憶が目覚める前のものが一切ないのは確かだ。
しかし記憶はなくても彼という人格は変わらない。その身で見て学んだもの、その体で知って経験したもの、一般的な基礎情報は覚えているし、IQ的な意味ではワタシよりも断然知恵が働く。
ルルーシュと同程度の知能とは嘘ではないようだ。
ゼロの独白に心底疑問に思う。
そんなワタシの様子にゼロは諭すように語りかけてきた。
「いや違う。君は理解してくれるだろう? 自分が何者なのかわからない、理解できない感情を。親は? 友達は? 恋人は? 家族は?出身は? 自分の何が真実で、何が虚実なのかわからない、存在そのものが嘘のようなこの孤独さを」
「……」
ワタシ、C.C.には過去の記憶がないわけではない。しかし、いわゆる個人情報と言われる記憶に関しては揃って欠けてしまっているのだ。
ワタシの記憶とC.C.の記憶、二つ合わせて見ても名前はおろか、誰かとどんな会話したかわからない。わかるのはぼんやりと誰かあんな感じのやつと親しげに話しているな程度の、第三者目線程度にしかわからない。
ワタシの記憶とC.C.の記憶も全て嘘で、ワタシは嘘の存在といわれても確かに否定できないのかもしれない。
ワタシが無言で下に俯くと、ゼロはその続きを強調して話だした。
ワタシはえ? と、ゼロに目線を向ける。
「だけど、自分の過去が、自分の存在がわからない今だけど、重要なのは過去を知っていることじゃあない。
過去とは結局は今に至る為の足跡のようなもの、昨日の足跡を見るために明日を見ようとしないのは愚か者のすることだ。明日を見ない者こそ生きることを諦めているただ生きる肉塊」
サザーランドの足下で脚を背もたれに立ったままのワタシの元へゼロは歩きだす。
「でも、人がただ生きるだけの肉塊ではないのはね、それはきっと、人は誰もがみんな自らの願いを持っているからなんだと思う。少なくとも僕はそうだと信じてる。
C.C.、人はだからこそ願いを叶えるために明日を向いていられる。自分の理想に近づくため、理想を現実にしようと努力し、叶えるために努力をする。それこそが過去の足跡を振り返らずに前に進むことができるようになる原動力となっているからだと思うんだ」
ゼロがそう言いながら近づいてくる。
その言葉に籠る思いは真実であり、精一杯の自分の感情をワタシに伝えようとするのがわかった。
彼の言葉はワタシの頭の中にスルリと入っていく。
「昨日までの足跡を知らない僕ーー本当の僕でない、嘘のーー今の僕の願いは、本当の僕の願いを知るということ。僕が肉塊ではなく、人であるための何物にも変えられない宝物を取り戻すということ。だからーー」
「ーーワタシと、魔女と取り引きしたのだな」
ゼロの願いを知った。それと同時にゼロがそこまで多くのことを考えていたことに驚きをかくせない。
神根島でワタシが契約を持ちかけていたときにそこまで考えていたのだろうか。周囲の状況を整理するのにも大変だったと思うが、そんな中でもそこまで深いところで思考していたということに心底感心する。頭の出来の違いの前に、人物の人柄、人格故というのもあるのだろう。
ワタシの言葉にウンと大きく頷いた。
そうなると疑問が浮かんだ。ゼロに問いかける。
「……しかし、矛盾していないか? 過去を見ることを否定しながら、過去の自分の願いを知りたいとお前はいうのか?」
ゼロは痛い所を突かれたとばかりに、フード越しに顔を人差し指で描く動作をした。
「それを言われると少し痛いんだけど、モノは言いようかな。過去を見るために、過去を振り返るために知りたいんわけじゃない。僕は過去から目を背け、未来に進むためにどうしても必要だったんだ」
過去に憧れをもち、過去の栄光にすがるのではない。過去には確かに自分がいたということを証明したい為だとゼロは語った。
その言い訳に偽りはないのだろう。曇りなくいう言葉に確かな力強さを感じた。
「だが、ワタシがその答えを知ってるかわからないだろう。なぜワタシの計画に賛同した?」
「……君はやっぱり気づいていなかったみたいだね。実はねC.C.すでに僕の願いは叶ってたんだ」
「え?」
ゼロの言葉に驚きを隠さない。
ワタシはゼローー目の前の青年の願いを知らずに叶えていたのだ。しかし、そんな記憶はない。ワタシがしたことは彼についての知識をあらかじめ知っていたワタシがその知識を少し伝えただけ。
その時の様子を思いだす。
ーー『そういえば、さっきお前が知ってることを知ってる程度だ。ましてやその記憶とやらもな。って言ってたけど、具体的に僕の何を知っているんだ?』
ーー『ん、どうした。気になるのか』
ーー『まあね、詮索しないとはいえ、見ず知らずの他人にどこまで自分のことが知られているんだろうという単純な好奇心さ』
ーー『そうだな、お前がここ、神根島の遺跡で寝ていること。今まで記憶がないこと、お前の大雑把な性格。そんなものか?』
ーー『そうか』
ーー『ああ、後』
ーー『?』
ーー『家族を、妹を愛し、守ろうとしていた……これだけは覚えているな』
ーー『ーーッ!』
思い出したワタシの様子を見たゼロは、満足そうに続きを語った。
「……そうだ。君の計画がどんなに理不尽で突飛なもので、たとえ僕自身が心の底から疑問に感じたとしても納得する。キツイ目にあっても耐えてみせる。君が命じれば僕は喜んで死地にも飛び込んでみせる」
聞いたことのないくらいの優しさの篭った声をかけられる。
「なぜなら、キミが僕を救ってくれたから。
僕と言う嘘を、真実にしてくれたから。」
「そんな、曖昧な事で、か?」
「そんなことで、だよ。その程度でよかったんだ。僕の願いは叶っているんだよ、C.C.」
ワタシは心底驚いた。それだけ? そんな僅かに覚えていたゲームのシナリオの一部をなんとなく口にしただけのことでゼロは契約したとでも言うのだろうか。
妹を愛して守ろうとしていたというのがルルーシュと被ったため、それだけは覚えていた。後の彼自身の生い立ちについてはほとんど覚えていない。アニメに関してはほとんど鮮明に覚えていたが、そのゲームに関してはどんなものだったのかすら曖昧だったのに。
故に、彼の願いは叶っていないとワタシは思っていた。
しかし、ゼロの瞳はワタシに真実を語っていた。自分の言っていることに偽りはないと。
気づいたらゼロはワタシの目の前まで来ている。
ぽかんと立つワタシの前で恭しく跪くと、今まで被っていたフードに手をかける。
「僕に過去の記憶はない。そんなことはどうでもいい。それよりーー」
ワタシは何も言えなかった。フードを下ろしたゼロは、頭に巻いていた黒のバンダナの結びを解いた。
フサリと、手触りの良さそうな、銀色の髪が現れる。
「ーー感謝してる。本当に。僕なんかを君の共犯者にしてくれて、契約してくれて。
何かに逃げ出して眠りについた僕に本当の願いを教えてくれてーー僕に、家族を、妹の存在を教えてくれて」
最後に残った目元だけ小さくくり抜かれている真っ黒の仮面に手をかけ、それを外した。
「これで僕は、未来を進めるんだ。嘘の僕としてーー真実の僕として!」
仮面を外した彼の顔はまだ幼さが残った一人の青年。
銀色のボサッとした髪に、力のある濁りのない蒼色の瞳。目鼻立ちが欧州人のようにくっきりしながらも、どこかアジアンな面立ちを含んだ彼はとても美しかった。
ルルーシュと似た雰囲気を持った青年の正体は、嘘ーーライ
ワタシが知るコードギアスのスピンオフ作品、LOST COLORS の主人公だった青年だ。
クロヴィスを殺す前、ワタシは最後に質問したのは実験をしていたのはワタシだけか? 他に青年を島で見つけ、人体実験しなかったか? と聞いた。
答えはNO。
神根島で研究をしたことはあるが、そんな青年がいることなんて初めて知ったし、探そうともしなかったと言っていた。
クロヴィスを殺害してすぐ神根島に行ったのは、ルルーシュの亡骸を埋めるのと同時にライの存在を確かめに行く為だった。
結果は今の状況の通りだ。彼は遺跡の中、所謂Cの世界と、現実の狭間で眠っていた。
ゲームのクロヴィスはなんらかのおかげでライを手に入れることができたみたいだが、この世界では不可能だったようだ。
そもそも、Cの世界と常世を繋げられるのはコードの持ち主、つまりワタシ、V.V.、あとライを封じたものだけだ。
どのような手段でゲームの世界のクロヴィスはライを見つけられたかはわからないが、この世界で見つけられていないなら、ライはまだ現実とCの世界の狭間で寝ているはずと考えたワタシは、ギャンブルだったがライの存在にすがった。
V.V.には気づかれたかもしれないが、ライを目覚めさせることに、ワタシは成功したのだ。
これが始まり。これがワタシの反逆の狼煙。
黒の魔王様を無くした魔女が頼るのは無色の王様だった。
◯
「まあ、君が僕をあの島で遠慮なく叩き起こしてくれたのはまだ、正直カチンときてるけど……」
「寝すぎは体に悪いんだ。起こしたワタシに感謝するがいいさ」
「はいはい、起こしてくれたことに感謝します」
「わざとらしい……まあ、これからも精々ワタシの為に頑張ってくれよ、ワタシのゼロ?」
「了解ーーー僕ではない誰かの魔女?」