魔女が求めるは魔王が欲した世界 作:シャットエアコン
皆様も目にはあまり負担かけないよう日頃からご自愛ください。
ブリタニアがエリア11を統治するにあたっての政治の中枢であるであるトウキョウ租界。
その中心地に燦爛とそびえ立つ政庁。
ブリタニアから派遣されるエリアの統治者、総督や副総督、エリア全体の執政官らが数多く務めるその政庁のある区画一体は整理されており、租界の中でも異質な雰囲気を放っている。
その理由は簡単だ。その政庁に務めるものの多くがブリタニアの貴族であり、ブリタニアの中においてもさらに上級階級の者たちが多く住まいを構えているからである。
エリア11--日本の東京では考えられないほどの土地を無駄にしていると言っても過言ではない。日本の風土にそぐわない広く広大な土地と豪邸を数多く軒を連ねているからだ。
もちろん、政庁に務めるのは貴族だけではなく、その実力主義、弱肉強食を掲げるブリアニアの国制のとおりに平民から出世してきたものも数多い。
そういった平民用の高層マンションや集合住宅、寄宿舎も充実している。
また、政庁に訪れる賓客--ブリタニア本国や別エリアからだったり、他国の使者が宿泊する高級ホテル。他国の総領事館も存在する。
それだけではない、政治を司る政庁以外にもブリタニアから派遣されている各大企業の分社や都市型工場もその周囲に並んでおり、それらに務める者たちの同じく邸が連なる。
政庁の周りには基本的に職場、人の住処とが密集している。それも身分の高いブリタニア人ばかりで。
ブリタニアの名誉ブリタニア人制度によって、元の現地人も租界には存在する。エリアにはその名誉ブリタニア人によって労働力が補われていることが多いのだが、その区画の話となると名誉ブリタニア人は殆ど見ることはない。
政庁に務めるものは勿論、一般企業の清掃員や土方といった汚れ仕事すら名誉ブリタニア人ではなく、普通のブリタニア市民が大半を締めているほどだ。
貴族や高、中級層のブリタニア人が多いその区画は名誉ブリタニア人からしたらブリタニアの理不尽であり、傲慢さであり、恐怖そのものの土地、近寄ることもしない名誉ブリタニア人は少ない。仕事の関係じょう、仕方なくその区間にいるものも肩身の狭い思いをしており、目立たないよう必死に振る舞う姿は哀れさを感じる。
貴族側からしても、自分たちの下のさらに下のヒエラルキーにいる名誉なんかが自分たちの職場、住居--所謂、聖域で見たくもないというよくわからない理屈でその区画にいることを嫌う基質があるのでウィンウィンとも言えるだろう。
そんな政庁近くの高級住宅地の一角、他と比べても比較的に地価が高く、低位の貴族や高級一般層が多く住む地域に一際目立ってそびえる高級マンション。その高さこそ政庁の最高峰を超えてはいないが、それに匹敵するほどの高層集合住宅。
そのマンションの最上階--高級マンションの中で更に最高級な居室にワタシはいた。
マンションの最高級ルームなだけあって下手な一戸建てよりも確実に広く、豪華な作りとなっており、部屋の数は大小合わせると二桁を超すだろう。
そんな数多くの部屋の中で最も大きく、最も外の見晴らしの良い隅の部屋にベッドとパソコンだけ持ち込み、ベッドに体を下ろし、下着だけ身につけただらしない格好でパソコンを操作していた。
窓の外を見れば少し離れたところに政庁が見え、その大きさや規模を感じ、ブリタニアという国の巨大さと偉大さを実感させる。
まあ、そんな外の景色なんか入居早々でさんざん騒ぎ、堪能したため今更珍しくはない。今ワタシが注目しているのはパソコンの画面と、時間を刻む時計だけだ。
時計の針は11時59分を指し、秒針は50を迎えていた。ワタシは焦る心を落ち着かせて残りの秒数を心の中でカウントする。
10、09、08………02、01、00--!
正午になった。ワタシは慌ててパソコンのメイン画面を見つめる。
画面には0が数多く並んだ数字が大きく表示されていた。
ワタシは今の今まで抑えてきた表情筋を開放する。
「ふはははははは! こんなにも簡単なものか金儲けは! 笑いが止まらないぞ、ふははははは……!」
画面に表示されているのはワタシのネット口座の残高。
わかりやすいよう日本円に換算して22億もの大金。ワタシは笑いが止まらなかった。気分がいい。
残額を履歴を含めて見ると、今--今日の正午付で2200万ブリタニアドルが入金されていた。
「ブリタニアのバカ貴族や成金どもめ、せいぜいワタシに貢いでくれたことを泣いて感謝するがいい」
「何やってるんだC.C.? 高笑いが外まで聞こえてきたよ?」
「……ん?」
目線をパソコンから上げ、部屋の入口に振り返る。気がつくと部屋の入口にある無駄に豪華な扉が開いており、部屋の外には全身漆黒の男が佇んでいた。
その漆黒の騎士風の服装のそこかしこに土ぼこりとも見える汚れがついており、忙しく働いて今帰ってきたということに疑問の余地はない。
ワタシはなんだゼロか、とつぶやき、さも興味ありませんというように目線をパソコンに戻す。
その言い草からワタシが目を輝かせて画面に表示される0を数え、その金額に惚れ惚れしているところを見られたらしい。少々恥ずかしいので平静を気取った。少しバレバレだっただろうか。
「おまえに言いつけた仕事は終わったか? ワタシは忙しいんだ。仕事が終わるまで帰ってこないでいいと言っただろう」
「忙しいって……パソコン見て高笑いしているだけのどこに……」
「なんか言ったか?」
「いや何も……」
ゼロはフードをおろし、バンダナと仮面を手慣れたように外すと部屋に入ってきた。
その下の面を外すと少し疲れた様相の顔が見えた。まあ当たり前だ。もう数日は帰ってこないで外で活動していたのだから。
疲れた様子を見せながらもその美貌が変わらないのは流石と言える。
「言われたとおり仕事は終わったよ、トウキョウ租界外縁に点在していたレジスタンス組織には片っ端からスカウトをかけてきたよ、例え数人のグループだとしても見逃すなっていう無茶振りはきつかったけどね」
「なんだ、仕事がはやいな」
鈍い反応をしながら内心ではかなり驚いた。事前にリサーチしたら数十のグループがあったはずだが、そこら全てに声をかけたのだろうか。
いや、先のシンジュク事件で少なくない犠牲者がでたはずだし、もしかしたら別グループが固まって動いてるという情報もある。ゼロがどう動いたかはわからないが不可能ではないかもしれない。
そのように必死に考えているといつのまにかにゼロがワタシの側まで近づいており、パソコン画面を見る。
その美形の顔がワタシの顔の近くまでより、目線を自然とそっぽに晒してしまう。ワタシは悪くない。
「この金はどうしたんだい? これだけの大金魔女といえど簡単に手に入らないと思うけど」
「なに、賭けに勝って手に入れただけだ」
「賭け?」
「そうだ、ブリタニアの裏サイトの中で一番メジャーな賭けサイトがあってな、その中に面白い賭けがあったから参加してみたんだ。そうしたらこれだ」
ブリタニアといえどもネットの世界で裏は当たり前だが存在する。勿論取り締まりも無いわけではないが現実世界ほど厳しいわけではない。
ブリタニアの裏ネットの中で最大のブックメーカー。掛け金が一口日本円で一千万円の超高額で、賭けの対象も表だとおおっぴらには言いづらいことを定めている。
コアなファンも多く、人気の賭けにもなると一回で100億もの金が動くと言われている。
裏の中ではメジャーで安全なサイトだ。金も確実に払われることは約束されている。勿論、違反なんかできるわけがない。
だからワタシは正式な手続きを踏み、このブックメーカーの正しい手段で22億も稼いだのだ。
……楽勝だった。
「いったい何の賭けだったんだい?」
「知りたいか? ゼロ」
「是非知りたいね、魔女」
ゼロの中ではワタシのことを魔女と呼ぶのが流行っているらしい。
おそらくワタシがライと呼ばずにゼロと頑なに呼ぶからか、意図返しのつもりだろう。
まあ、そんなことどうでもいい。ワタシとアイツ。お互いの固有名詞がなんだかなんて関係ないのだ。
「いいだろう。賭けの内容は至って簡単、『エリア11の次期総督予想』」
「それは…」
「そう、総督にはブリタニアの皇族や上級貴族が名を連ねてるんだ、殺されたクロヴィスの後釜を賭けの対象にするなんて下手したら皇族侮辱に繋がりかねないな」
「だから、裏ってことね。納得したよ」
ブックメーカーでは、クロヴィスが崩御したと決まった次の日からこの賭けがトップで掲載されていた。
殺されたクロヴィスの後任を賭けの対象にするのなど、不敬罪や侮辱罪など、ブリタニアではシャレにならない犯罪だ。
しかしそこは裏の中でも名のあるサイト。一々の賭けに何億もの金が動くそのサイトは様々な利権が絡んでいるのだろう。今まで逮捕人がでたことはなかった。
「結果は倍率22.1倍のブリタニア帝国第二皇女コーネリアに決まった。それをうけてワタシの100万ブリタニアドルは2200万に化けた訳だよ」
「--コーネリア・リ・ブリタニア。ブリタニア帝国の第二皇女でブリタニアの魔女の異名を持つ女傑。ナイトメアの操縦技術はかのナイトオブラウンズにも劣らなく、彼女率いる親衛隊は百戦錬磨の猛者たちであり、現在は中東地域でエリア拡大に従事していたはず。
確かに、オッズ一位のカラレス公爵やワトソン公爵に比べたらエリア11に赴任する理由も薄いし、この不人気さは納得だよ。よく考えれば不安定な情勢のこのエリアに経験と実績のある武闘派が送られると考えるはずだけどね。
まさかつい最近まで中東の砂漠でどんぱちしてた前線にいるはずの魔女がくるとは思えなかったのかな?」
ワタシが説明する前にゼロはコーネリアについて知ることを語りだした。ワタシは知識としてコーネリアの性格やその功績を知っていた。遠くない未来にワタシたちの前に敵対することも知っているが、しかしゼロにはそんなことはわからないはずだ。にも関わらずゼロは知っていた。
なんというか、原作のライーーゼロの事はよく覚えていないが、優秀だったのだろうか。
「なんだ、詳しいな。教え甲斐のないやつだ」
「敵国の主要人物の情報くらいはね、それより、どうしてC.C.はコーネリアに全額注ぎ込んだんだ? 結果良くても、もし外れた時は流石に見逃せない事案だ。教えてくれないか?」
ニヤリと笑いながらワタシはゼロを見る。優秀さではワタシはゼロに敵うはずもないが、圧倒的な知識量の差がある。
まあ、原作知識なんて例えルルーシュやシュナイゼルといった知力ブーストマックスの人外といえどもわかるはずがない。卑怯者! とでもいわれるかもしれない。
「元金はワタシのつてからもらったんだ。ワタシがどこにつぎ込もうが関係ないだろう。それに、ワタシがお前に教えると思うか?」
ゼロはフムと顎に手をあてて考えたと思うと、名案が閃いたといわんばかりに白旗をあげた。
ここ最近諦めが早くなったと感じざるを得ない。まあ、それがワタシにとっては言い訳を変にしないで済むから助かるのだが。
「わかったよ。この家も食事も何もかも君に頼ってる僕は何も言わない。これでいいかい?」
「上出来だゼロ。ご褒美に次のワタシ達の予定でも話しておこう。しっかりお前に働いてもらうからな」
ゼロは苦笑いを浮かべる。しかし、その眼光は鋭く細められた。
「それはご褒美と言えるかな?」
こちらを試すように言葉を放ち、整った顔が最大限に生かされるように迫力を醸し出した。
そうではないと。
これくらいの迫力くらい出せないようではルルーシューーゼロが務まらないだろう。ワタシは満足そうに笑みを浮かべた。
「今日までのネズミのような活動は終わりだ。派手におっぱじめようと思ってな?」
ネズミ、つまりは先程まで地下工作員の真似をしていたゼロのことを揶揄したこと。レジスタンスの勧誘を永遠としてもらっていたゼロに次の作戦を匂わせた。
昨日うんざりした様子を見せていたゼロにはなによりのご褒美だろう。そういった工作よりも、華々しく戦闘することが好きという意味ではゼロは戦闘狂なのだろうか?
次のゼロの言葉を聞き、少なくともルルーシュよりは武闘派なのは間違いないと考えた。
「なるほど、今の僕には最高のご褒美だよ」
◯
「ちなみに、僕達のアジトをこんな敵の都市のど真ん中の高級マンションにしたのは理由でもあるのかい?」
「金は余ってるんだ、2人分の衣食住くらい贅沢しても文句ないだろう」
「………それだけ?」
「それだけ」
◯
ゼロが寝静まった深夜。隣の部屋から物音が聞こえてくるのを確認したワタシは寝具を羽織ると、ベッドを静かに抜け、部屋の外のバルコニーに向かった。
部屋の窓のドアを開けると、外からはヒンヤリとした風が流れ込んできた。
風でワタシの髪が靡く。
普段は前髪で隠れているが、確かに額に存在する赤いマークが夜風に晒された。
バルコニーに出ると窓を閉めた。部屋の中を冷やしたくないからだ。
手すりに重心を預け、ワタシは目の前の景色を見つめる。
夜中にも関わらず、バルコニーから見える街並みは人工的な光で輝いていた。政庁はあいも変わらずその存在を夜中まで主張していた。
ワタシは黄昏たようにしばらくその景色を見つめる。しかし、景色を見つめながら内心では考える。想像する。想起する。思考を止めなかった。
ルルーシュ……
これでいいのかな、本当に。
泣き言を言いたい。
ワタシには無理だ。ルルーシュの知力はないし、度胸もない。世界を敵に回して不敵な笑みなど浮かべるはずがない。
C.C.はわからないが、ワタシは元々臆病ものだ。他人の顔色を伺い、その表情の変化を見極めて動くだけの人。自身で決断はせず、必ず他人に委ねるような卑怯者だったはずだ。
それでもいいと開き直っていたはずだ。
わからない、何故こんなことになったのか。
……C.C.と融合したといっても、その知識や言動を真似し、感情を理解したつもりでとワタシはC.C.のことは何もわかっていないのだ。実際に会ったわけではなく、話したわけでもない。
ただワタシが混じっただけなのだ。
ワタシはワタシ。C.C.はC.C.。完全に融合するには不安定すぎたのだろか。
ワタシがそもそも人として不十分な人格だったのだろうか。
ネガティブなことは頭にいくらでも浮かんできた。
もしかしたら、ワタシは……
「ああ、それ以上は考えるなワタシ…」
自分で自分を戒める。
こう切り替えが早いのも2人のどちらかの感情があるからなのだろうか。疑問が尽きることはない。
そもそも、バルコニーに来たのはこんなふうにブルーになるためではない。この先を決めることになりかねない重要な試練を乗り越えるための舞台にするためだ。
顔をパチンと両手で叩く。
覚悟はできている。
後はその時が来るのを待つだけだ。
ワタシは、心を無にしてその時を待った。
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ーーーー
『はーい、C.C.。久しぶりね、元気にしてた?』
心臓がドクンと跳ねた。
心の中に直接響いて来た声は、楽しげな女性の声をしていた。
『どうやらやっぱり封印されてたみたいね。抜け出せたみたいだけど、……それで、どう? 私の息子は』
ここからはC.C.ではなく、ワタシの見せ所。アニメの知識を得て、知ったワタシの力を出す場面。
失敗は許されない。
敵ーー彼女は百戦錬磨の猛者。勘や雰囲気、経験で流れを見極める異常者。
相手にとって不足はない。
ワタシは深呼吸を大きくすると、目の前の敵に立ち向かった。
「ああ、マリアンヌ。ルルーシュはよくやってくれてるよ。お前には似ても似つかない青臭い坊やだがな」