『二つ名持ちモンスター』
その名の通り、『二つ名』を冠する特別な存在。
生物学上では通常の個体と同種ではあるけれど、その戦闘力は段違い。性質・形態も大きく異なっている。
『特殊許可クエスト』という特別な扱いのクエストにのみ出現して、それでやっと戦いを挑むことができる。
そんなモンスター達へ、この世界の人達は畏怖と尊敬の念を持って『二つ名』を名付けたらしい。
少なくとも俺の中ではそんな認識だった。
通常種のジンオウガのクエストに乱入してくる存在なんかではなかった。
だけど……現実に、その存在は俺の目の前に現れた。
『金雷公ジンオウガ』
雷狼竜ジンオウガの内、その特異性から『二つ名』を与えられたモンスター。
全身に黄金の電気を迸らせるその存在は、今俺達の目の前にいる。
「クルルナ………二つ名モンスターって乱入してくるものなのか?」
クルルナにそう尋ねる。
「いえ……滅多にあることではありません…。
そもそも…二つ名は強大な力を持った存在なので、こんな状況になるまでギルドが気付かないとは思えないです…。」
なるほどね…こっちの世界においてもイレギュラーな状況ってことですか…。
「なるほどね……。
それで…コイツはどうするべきなんだ?」
もう一度、クルルナに尋ねる。
まだ金雷公は、本格的な攻撃の態勢には入っていない。
「正直、万全な状態で臨みたいところなのですが…。金雷公を放っておくのもまた危険です。
それこそユクモ村に危険が及ぶ可能性も…。
望ましいのはこの場である程度の痛手を与えておく…出来るなら狩猟まで持っていく形なのですが…。」
なるほど…相手にした方がいいのか。
となるとちょっと心配なのは…。
「セレス…。 セレスはコイツと戦った経験はあるの…?」
「い、いえ……。他の二つ名なら少しは経験はありますけれど、金雷公のような強大な二つ名は初めてですわ…。」
セレスだな…。
G級金雷公をぶっつけ本番で相手にするなんて正直ハードだ。
金雷公は確かに手強い。
けれど…その本質はジンオウガ。
先程の通常のジンオウガの様に、ターン制がしっかりしているモンスターなので俺はそこまで苦手意識は持っていない。
だけど、それは何回もゲームで相手をしたのだから言えること。
慣れてない内は俺だって何回もネコタクのお世話になっていた。
そこから数を重ねてやっと得意になっていく。
モンハンってのはそういうもんだと思ってる。
今聞いた感じだと、セレスは今回が初めての金雷公。
正直言って危険だ。
通常種の延長線…と言い切るには二つ名は少々手強すぎる。
「じゃあ…セレスは安全を第一に動いてくれ。
なんならアイテムでサポートに徹するなんてのでも構わない。
とにかく攻撃を喰らわないこと。
ある程度攻撃を見切れる様になったら攻撃に参加しても構わないけど、絶対に無理はするな。」
セレスにそう言葉をかける。
セレスは悔しそうだったけど、とりあえず頷いてくれた。
「じゃあ…クルルナ。
俺、今回は多分スイッチ入っちゃうから…。
あんまりに危険な行動をとる様だったら止めちゃってくれ。よろしく頼むよ。」
「ふふっ。トマトさんったらこんな状況でもそんなことを言えるなんて頼もしいですね。
私も全力で臨みます。それじゃあ行きましょう。」
うん、ありがとう。
さてと…準備は整ったかな?
相手は『金雷公ジンオウガ』
この世界に来てから初めての二つ名持ちモンスター。
かなりの強敵が予想もしない状況で現れた。
正直いって俺達には逆風が吹いているだろう。
だけど………逆境は得意中の得意なんです。
自然と、俺の顔に笑みが浮かぶ。
行くぞ、金雷公。
俺は汗の滲んだ手で操虫棍を強く握った。
さあ、狩猟開始だ。
手始めに胴体から橙エキス、前足から赤エキスを素早く回収。
金雷公は素早い動きで俺に背を向けたかと思うと、尻尾叩きつけをしてくる。
それを歩いて回避。
その隙に白エキスを後脚から回収してトリプルアップ状態へ。
更に隙の少ない2連突きで追撃。
そこで爆発が起こる。
俺が担いでいる操虫棍は『真・黒滅龍棍【旦明】』
爆破属性値55を持っているくせして、物理期待値もトップクラス。
更にスロット3とかいうバカげた性能を誇る。
そんな操虫棍によって、爆破ダメージを与えられた金雷公はあっという間に怒り状態へ。
俺の意識の中から、周りの音が消えていく。
金雷公は怒り状態移行の咆哮をあげる。
トリプルアップ状態の俺は耳栓効果が発動しているので、咆哮中の隙を狙って後脚を攻撃。
咆哮を終えた金雷公はセレスを狙ってダイナミックお手を繰り出した。
「ホーミング性能高いぞっ!気をつけろっ!」
セレスにそう叫ぶ。
セレスは武器を構えながらも攻撃はほぼしていないみたい。
片手剣の機動力でうまく回避しきれたようだ。
その隙にも俺は後脚を攻撃し続ける。
すると再び爆破属性による爆発が起こり、金雷公はダウン。
すぐさま絶対回避【臨戦】で頭付近へ近づき、
薙ぎ払い、連続斬り上げ、斬りおろし、薙ぎ払い、飛燕斬りのコンボを決める。
金雷公が転んだ時にはこのコンボが綺麗に決まるんだ。
飛燕斬りを出し終わると同時に金雷公は立ち上がる。
立ち上がった金雷公は再びセレスを狙う。
セレスに向かって頭突き。
その際に俺が金雷公の足に引っかかって削りダメージを喰らう。
そこで軽い違和感を感じた。
……なんか削りダメージがでかくないか?
胸に僅かな不安を抱えながらも、とりあえず後脚を狙う。
……まぁ考えてもしょうがないや。
できることを必死にやるしかないさ。
金雷公は後方へ大きくジャンプ。
そこからクルルナを狙って重雷光虫弾を放った。
「くっ……!うぁっ……!」
クルルナは初撃をジャスト回避したけれど、回避先に設置された雷光虫弾に被弾してしまった。
「うぅ…。」
そしてクルルナは気絶。
更に、金雷公はクルルナに向かって突進の構え。
オイオイ……マズくないか!?
そんな事を考えた瞬間。
狩場に心地よい香りのする粉末が舞い散った。
「とりあえずはこれで大丈夫ですわ!
変態は攻撃の手を緩めないで!」
…なるほど。これが生命の粉塵ですか。
助かりました。ありがとう。
俺達に回復効果が発動したなら、クルルナは今ほとんど体力は全開なハズ。
雷弾だって威力は高い攻撃ではない。
だから、突進一発くらいならガンナー防具でも耐えられる。
そう思っていた。
金雷光はクルルナに向かって突進をかます。
クルルナは吹っ飛ばされる。
そして、
地面からネコタクアイルーが現れ、一瞬でクルルナを戦闘から離脱させた。
………………は?
……い、いや、………いくら何でもおかしくないか?
いくらガンナー防具だからって…、突進で一撃だと?
俺とセレスは、目の前で起こった出来事に唖然とする。
その隙が良くなかった。
金雷公は一瞬で俺達との距離を詰めると、ダイナミックお手の体勢に。
「………ッ!避けろッ!」
瞬間の判断でそう叫ぶ。
「くぅっ!」
セレスは何とかお手を避け切ることができた。
だけど…、そこから金雷公は力を溜めるようなモーションを取った。
「………ッ!離れろっ!」
「なっ……!?これは……っ、うぐぅっ!?」
2連サマーソルト攻撃。
金雷公の放つ攻撃の中で、最大の大技。
セレスはそれをモロに喰らった。
空高くにかち上げられたセレスは、地面に頭から落ちる。
そして……またもネコタクアイルーがセレスを一瞬で戦闘から離脱させる。
これも一撃かよ…………!?
マズい…。
さっきの一瞬だけど、頭によぎった嫌な予感が的中したかもしれない。
二つ名モンスターはそもそも強大な存在だ。
けれど……その中でも種族の頂点ともいえる…
更に強力な個体が極稀にいるらしい。
ゲームではその個体と戦えるクエストを
『超特殊許可クエスト』
と称していた。
ダブルクロスの中でも最難関と呼ばれるクエスト群。
このクエスト群がプレイヤーのクリアを難しくさせている要因は尋常じゃない強化を施された体力、攻撃力によるものだと思う。
あり得ないくらいダメージがでかいんだ。
ガンナーなんかは殆どが即ネコタクに繋がり、剣士でも大技ならまずアウト。
そう…目の前にいるこの金雷公の様な攻撃力を持つんだ。
「流石に超特殊はゴメンだろう…!?……くっ!」
金雷公は動揺する俺にも容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
マズい…この攻撃力相手に焦りは禁物だ…!
ちょっとしたミスで即ネコタクにつながっちまう…!
金雷公は俺に背を向けサマーソルト。
それを歩いて避け、後脚を攻撃。
そこからチャージお手に繋げてくるものの、それも冷静になって回避する。そして後脚を攻撃。そこで金雷公は転倒した。
すぐさま前転で頭に近づきラッシュをかける。
どうも怯み値関係のタフネスは普通レベルのようかな…?
よし、少しだけ光が見えた。
とにかく目の前の攻撃を対処する。
チャージお手、サマーソルト、尻尾薙ぎ払い攻撃。
全てをきっちり回避して、後脚を狙う。
金雷公は再びダウン。
すぐさま近づき、頭に連撃を加える。
落ち着け…!冷静になれ…!
焦りすぎない様に自分に言い聞かせながら淡々と立ち回る。
多少の攻防を経て、金雷公は再びチャージお手。
それをしっかり歩き回避。
そして、目の前にある後脚を狙う。
………次の飛燕斬りを決めれば怯むはず。
そう考えて、俺は斬り上げ、そして飛燕斬りに繋げる。
いや…、飛燕斬りに繋げようと
俺の体は自分の思い通りに動いてくれなかった。
…………何で。
何故かコンボが途切れた俺の隙を見逃さずに金雷公は力を溜めるモーションに。
………嘘だろ、待ってくれ。
………もう2回力尽きてるんだって。
そんな俺の願いを、金雷公は聞き入れてくれなかった。
2連サマーソルト。
俺は金雷公から強烈な突き上げ攻撃をもらい、空中にかち上げられた。
(あぁ…、コンボが切れたのはそういうことね…。俺もまだまだ冷静になり切れなかったってことか…)
意識が薄れゆく中、俺はエキス効果の光が切れていた自分の手を見つめた。
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「……………………うっ。」
意識が覚醒する。
「ここは……マイハウスか?」
目が覚めた俺は、マイハウスのベッドで横になっていた。
何がどうなったのかさっぱりわからない。
とりあえず外に出ようと思い、体を動かす。
そこで体に激痛が走る。
「あっ!?…っぅ!」
あまりの痛みに、俺はバランスを崩して転んだ。
その音に気づいて誰かがやってきたみたい。
「あっ!目を覚ましたか!?
ちょ、ちょっとそのままで待っててくれ!
お〜い!レイリス〜!ヘタレが目を覚ましたぞ〜!」
俺の前に現れたのはラディスだった。
そしてレイリスを呼びに行ったみたい。
「迷子君大丈夫!? え、えっと、とりあえず横になってよ!」
「あ、あぁ…そうしたいところなんだけど…。
体が痛くてうまく立ち上がれないんだわ…。
ちょっと肩貸してくれないですか?」
「えっ!?あ、うん!わかった!」
俺はレイリスの肩を借りて再びベッドに横になる。
立ち上がる時の激痛で顔を顰めてしまい、それを見たレイリスの顔が青くなってた。
大丈夫です。心配しないでね?
「あ〜…ありがとうな。
それで……今はどんな状況なんだ?
クルルナやセレスは大丈夫なのか?」
「うん、2人は大丈夫だよ。
迷子君と同じようにそれぞれのマイハウスで横になってる。
それで…、金雷公についてなんだけど…。
今は渓流で大人しくしてるみたい。
今はハンターズギルドが他の強いハンターさんをユクモ村に収集して迎撃作戦を立ててるみたいだよ?
だから迷子君は心配しなくても大丈夫。
今はゆっくり休んでね?」
あぁ…そうか…。
ユクモ村に被害が及ぶ心配は無さそうでよかった…。
ラディスが変な顔しているけど気にしないでおこう。
「あぁ、ありがとうな。
……スマン、なんかすっごい疲れたからまた寝ることにするよ。
もしなんか緊急の事態が起こったりしたら俺のことを叩き起こしてくれても構わないよ。」
「そんなことはしないって。
わかった。迷子君はゆっくり疲れをとってね。
それじゃあ…、また明日。」
うん、おやすみなさい。
そして、レイリスとラディスは俺の部屋から出ていった。
1人になった俺は天井を見上げる。
「3回力尽きたってことだよな……。
ハハッ…初めての失敗だ。」
そんなことを呟いていたら、いつの間にかベッドの傍に天使のレオタード姿のプーギーが来ていた。
「おっ、久しぶりだな…。
なあなあ聞いてくれよ。俺ってば今回クエスト失敗しちゃったんだ…。
正直、焦ってたんだろうなぁ…。
エキスの効果が切れてるのに気づかないとか初心者かよって話だ。」
俺の独り言を聞きながら、プーギーは俺の腰元でゴロリと横になった。
「なんだろうな…。
いずれは失敗してしまう時だってくるんだろうなんて思ってたけれど…。
いざ現実になると、受け入れがたいや…。
ハハッ……悔しいなぁ……。」
目の前の景色が若干だけど滲んだ。
「こんなに悔しいなんて知らなかったなぁ……。
涙流すなんていつ以来だろう……。」
プーギーが鼻を鳴らして心配そうに俺の方を見る。
「ハハッ、ありがとうな。
大丈夫。あることに気づいてちょっとショックだっただけだからさ…。
スマン…。悪いけれど眠いから寝るよ。
お前も好きにしてくれ。」
そう言うと、プーギーは俺の枕元で静かに寝息をたて始めた。
俺もベッドに横になる。
今回の失敗を通して、改めて気づいた。
………俺は全然強くなんかない。
たとえ、超特殊許可レベルのヤツが乱入してきたからって本当に強いハンターならソイツごとあっさり倒してしまうのだろう。
とにかく悔しかった。
今の自分だとその領域には届いてないと問答無用で気づかされたから。
そんなことを考えつつも、眠気は俺の意識を引きずり込んでいく。
(………もっと強くならないとだ。)
意識が消える直前、俺はそんなことを思った。
この日、俺はこの世界に来てから初めてクエストを失敗した。
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数時間後。
渓流のベースキャンプには人の影があった。
「久々のソロだなぁ…。相手もすんごい強敵だし…今回はちょっとヤバいかな…。」
防具合成により装備の外見をレウスXシリーズで固めている女性ハンターは、金色の輝きを放つ大剣を担いだ。
「………覚悟決めなきゃだよね。
よし、頑張ろう。」
その女性は燃えるような赤い髪をなびかせて、渓流の奥へと走って行った。
ほい、初3乙でした。
たとえゲームだろうと、いきなり超特殊が来たら自分もクリアする自信はないですね…。
というわけで金雷公君はもうちょい続きます。
こんなに長くする予定では無かった…。でも書きたくなってしまったんです。
感想等、気軽にください。 お待ちしてます。