視界は真っ暗闇。 体が感じているのは嫌になるほどの浮遊感。これは……あれだ。力尽きた時の感覚そっくりだ。
あれ…?どうしたんだっけ?
……あぁ、そうだ。 黒炎王に向かってジャンプして…そしたらぶった切られたんだったな…。
……何にぶった切られたか? いや、何ってそりゃあ…よくわからないうちに俺の背後にいた青電主にだよ。
……なんで二つ名が乱入してくるかねぇ…。いつぞやの金雷公のときもそうだったけど、俺はどうも二つ名の乱入に弱いらしい。
……にしたって、ライトニングブレード一撃でネコタクなのか…。防御力もしっかりしてるし、体力だって満タンだった。今回も攻撃力は超特殊レベルだったりするのかね?
(……………!……………ッ!)
………何か聞こえたような気もするけどきっと気のせいかな。
ハァ…。レイリスが気をつけてって叫んだのはこのことだったのね。 こりゃ後で怒られちゃうな。
(…………君!…………子君ッ!)
………さっきからうるさいな。 力尽きちゃったんだから少しくらい落ち着かせてほしい。
(…………迷子君ッ!)
だからうるさいって言って………。
「起きろって言ってるでしょッッ!」
「…………は?」
目の前にレイリスの顔があった。
思わず動揺してしまう。頭が働かない。
次の瞬間、世界が真っ白に染まる。
は?なんだこれ? ますます理解が追い付かない。
「閃光使ったッ! 早くエリア4に行けッ!」
ルファールさんの怒鳴り声らしきものが耳に届くけど、それでも俺の頭は状況の判断ができなかった。一体どうなってる?
「いつまでグズグズしてるの!?……ッ、跳んでッ!」
レイリスがある一点を見つめ、焦った表情に。俺もそちらを見る。
青電主が身体中に電気を迸らせ、こちらに突っ込んできていた。
次の瞬間、やっと頭と身体がいまの状況に追いついた。
「………ッ、だりゃあ!」
痛む身体に鞭を打ち、俺はハリウッドダイブ。 青電主が凄まじい大放電と共に地面に着地する。
どう考えても当たっているけど、俺は全くの無傷。ハリウッドダイブの無敵時間は偉大だった。
「走ってッ!」
既に目の前を走っていたレイリスが叫ぶ。
身体が痛むけど今は我慢。 青電主は攻撃の後の確定威嚇をしている。
一応黒炎王にも目をやってみる。 すると、黒炎王は明後日の方向へブレスを放っていた。
あ、さっき視界が白く染まったのはそういうことね。 ルファールさんかクルルナだろう、閃光玉の使いどきがバッチリです。流石。
ここまでくればほぼ確実にエリア移動ができる。 最後にチラリと青電主のほうを見てみる。
………目が合った気がした。まるで仕留め損なった獲物を忌まわしげに見ているかのような目をしていた。
………そんな目で見られたら、ちょっと怒っちゃうなぁ。
「………おい、ビリビリトサカ野郎。てめー今のこと忘れんじゃねーぞ? すぐに戻ってきてボッコボコにしてやるから覚悟しとけよ?」
本当ならすぐさま戦いたいところだけど、そんなことをしたらみんなに迷惑がかかる。
少し悔しかったけれど、俺はエリア4に向かって全速力で走った。
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「このバカッ! 私、気をつけてっていったよねぇ!? 何!?何なの!? 狩りのことになると周りが見えなくなってただ突っ込むロケット生肉なの!?」
「レ、レイリスさん……、ちょっと落ち着いて……。ほら、俺だって力尽きてないわけだし…」
「そういう問題じゃないでしょうが! 何!?力尽きなかったら何してもいいの!? 違うでしょ!?」
ひえぇ…。レイリスさんが今までで1番おっかない顔で俺を怒ってる…。
いや、確かにレイリスの注意を軽視してたのは悪かったけどさ…あれはしょうがなくない?後ろから必殺の一撃はズルいって…。
「………『あれはしょうがなかった』とか思ってない?」
「……!? い、いや〜?そんなことぜ〜んぜん考えてませんが?」
「………ホントでしょうね?」
俺がそう答えるとレイリスは渋い顔をした。
……何処ぞの天使さんみたいに心読める力とか持ってないですよね?
「ほ、ほら!レイリスもその辺にしておきましょう!トマトさんも反省してるみたいですし!」
「そ、そうだぞ? 早くしないと黒炎王と青電主が暴れてこの辺りが大変なことに…」
「イビル嬢と行き遅れは黙ってて!ともかく迷子君はいつまで経っても反省の色が見られないんだもん!」
…………空気が凍った。
レイリスさん、そのワードはまずくない…?あぁぁ…レイリスの後ろにいる2人の目からハイライトが消えていく…。
「ともかく、反省の色が見られないんだって! クルルナ、ちょっと狩猟笛貸して! 迷子君を1回ぶっ飛ばして頭冷やさせ………」
「……レイリス、貴女もちょっと頭を冷やしませんか? 付き合いの長いパーティメンバーを『イビル嬢』だなんて…。思わず笑っちゃいますね……」
「………えっ? 私そんなこと言った…?」
「あぁ、言っていたぞ? ついでに私のことも『行き遅れ』とかのたまってたな。 どれ、それじゃああっちの方で少しオハナシしようか。ドM君は少しここで待っててくれ」
「え゛っ……。ふ、2人とも目が怖いんだけど…。 あ、あふっ……ちょっ…ド突かないで……え、ちょっ、痛い痛い! ま、迷子君助けて!」
レイリスが涙目で俺に助けを求めるけど、あんなん無理です。 怖すぎて漏れそうになった。 あぁほら、さっき捕獲した紫毒姫もなんだかうなされてる様な顔をしてるもん、こんなん俺が出て行ったってどうにかできるわけがない。 レイリス、強く生きろ。
涙目のレイリスがルファールさんに担がれて戻ってきたのは数分後だった。
「ともかく……片方を早い所終わらせたいですね。黒炎王なら体力もそれなりに減らしているはず…。翼も破壊してますし、おそらく4人で仕掛ければそこまで長丁場にはならないでしょう。 先に黒炎王に狙いを絞る方向でいいですか?」
ちょっとぐずっているレイリスを含めた3人がクルルナの提案に頷く。まぁそれが妥当だろう。ゲームでも俺だったら先に黒炎王にかかる。4人いるなら閃光玉で撃墜させ放題だしね。
「あっ…。あともう一つ案があるんですが…。
そもそも青電主は今回の目的ではないので無視してしまうというのも1つの手なんですよね。 その点についてみんなはどうです?」
「あっ、それは私も思った。 わざわざ危ない橋を渡るのは嫌かな〜なんて思ってたんだよね。 だけど……」
「「絶対にない」」
ないです。 すみません、初めての青電主なんだからこの機会に一戦交えておきたいんです。 戦闘狂のルファールさんもノリノリだ。目が爛々としてる。
それに…あの青電主、俺に向かってガン飛ばしやがった。これは許しておけないでしょ。
「ハハハ…。 2人は相変わらずだね…。
……まぁこの4人なら正直大丈夫だとは思ってるよ? 黒炎王はこの調子であっという間に終わらせちゃいそうだし、青電主だってきっとへっちゃらだよ。
ただ…黒炎王で1回でも誰かが力尽きるようなことがあったら、その時点で青電主は諦めてもらう。 これはリーダーとして譲れないところだね」
レイリスが真剣な表情で言う。
1回も力尽きないようにか…。 まぁいけるだろう。何としてでもあのトサカ野郎にゃリベンジしなきゃいけない。そのためだったら頑張っちゃうもんね。
「あの青電主…大技とはいえ、迷子君の意識を一撃で奪ってた。今まで私が出会った中では1番強い個体だと思う。 さっきはクルルナの生命の粉塵がギリギリ間に合ったけど、あの技は絶対に受けちゃダメ。 もし戦うとしたら覚えておいて?」
レイリスがみんなに注意を呼び掛け、俺達は頷き返す。あの威力はこの身を以て知っている。二度と喰らいたくないです。
「うん、それじゃあ準備は整ったね。
兎にも角にもまずは黒炎王。 引き締めていこう!」
レイリスが掛け声と共に走り出す。俺達はその後に続く。体力も回復した、武器もしっかり研いだ。準備は万端だ。
よっしゃ、それじゃあリベンジといこうか。
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エリア3に戻ると、そこには黒炎王が1匹しかいなかった。
ありゃ?青電主はエリア移動したのかね?
「あれ、こやし玉用意してたんだけどなぁ…。 まぁ好都合! それじゃ黒炎王の相手だね! 引き締めていこう!」
黒炎王がこちらに気づき、咆哮を放つ。
ちょっと乱入があったせいでお前との戦いに水を差されちゃったな。 今度は邪魔は入れさせない、真剣勝負といこーか。
出会い頭に頭から赤エキスを、そしてすぐに翼から白エキスを奪って赤白ダブルアップ状態へ。
黒炎王はその場から動かずに、遠くで演奏していたクルルナへ向かってブレス。その隙にエア回避、黒炎王の脚を思いっきり踏みつけて大ジャンプ。回転しながら空中攻撃を繰り出した。
さっき戦っていた時に乗り蓄積値を貯めていたのもあってか、黒炎王はすぐにダウン。乗り攻防が始まった。
高級耳栓に乗り名人が付いてる装備だから、まぁ乗り攻防はあっという間に終わる。数秒もすると黒炎王はダウンした。
俺以外の3人は倒れた黒炎王の頭部に集まってラッシュをかける。
長年パーティを組んでるだけあって3人の連携は完璧。互いに邪魔することなく攻撃を加えていた。
黒炎王はダウンから復帰。頭を攻撃していた3人に攻撃を加えようとする。
だけどそう自由にはさせないよ?
俺はすばやく黒炎王に二連突き。麻痺蓄積が発動して黒炎王は苦しげに悶え始めた。
よっしゃ、狙い通り。
麻痺中も頭に攻撃を加え続ける3人。
そして、クルルナの狩猟笛の打撃攻撃がとうとう黒炎王からスタンを奪い取った。
おーおー、これはすぐに終わっちゃうんじゃないか…?さっきのトサカ野郎が乱入してくる前にも結構殴ってたし、なんだかんだ残り体力は少ないと思う。
…まぁあと一押しだ。集中集中っと。
スタン中にも俺はひたすらエア回避からの空中攻撃を繰り返す。
そして黒炎王はスタンから復帰。怒り状態へ移行し、その場で咆哮を繰り出そうとした。
だけどそこへ俺の空中攻撃がヒット。
黒炎王は再びダウンした。
ごめんな。お前には悪いかもしれないけどここは全力でいかせてもらう。 まだ相手が控えているんだ。
黒炎王の背中に向かって剥ぎ取りナイフで絶え間なく攻撃する。咆哮をメインに振り落とそうとしてきたけど、こちらには高級耳栓が付いているので全く無意味。すぐに乗りダウンを奪った。
ダウンした黒炎王の頭には3人がずっと付いている。部位破壊もとっくに済んでおり、更に軟化した頭部へのラッシュが続く。
ここまで攻撃を加えているなら恐らく捕獲ラインは突破している。攻撃を続ける3人に構わず、俺は罠師スキルが乗ったシビレ罠の高速設置。ダウンから復帰しようとしていた黒炎王がシビレ罠を踏み抜き、すぐに苦しげな声を上げ始めた。すぐさま懐から麻酔玉を取り出す。
「ナイス!」
すると、レイリスの声と共に頭の方向から麻酔玉らしきものが。
あら?もう準備してたのかね? 流石レイリス、周りがよく見えてて素晴らしいと思います。
痺れている黒炎王に向かって俺が投げたものとレイリスが投げたもの、2つの捕獲用麻酔玉がヒット。
その途端、黒炎王の体から力が抜けて地面に倒れ伏す。 そして、さっきまで怒り狂っていたのが嘘のようにスヤスヤと寝息を立て始めた。
「なんだかあっという間だったな……」
「そうですね……レイリスはいつの間に麻酔玉用意してたんですか?」
「えっ?いやぁ、迷子君が罠仕掛けるの見えたから、そろそろ捕獲ラインかな〜ってさ」
「おぉ…流石リーダー。 私だとそんなに周りを見ることなんて出来ないなぁ」
クルルナとルファールさんの疑問にレイリスが答える。
……やっぱりレイリスはリーダーだよなぁ。
クルルナならまだしも、俺やルファールさんだったらひたすら攻撃を加えることに夢中になって、周りなんて全然見えないと思う。
ゲームだと罠を設置したらサインが出たり自動チャットがあったりしてわかりやすかったけど、こっちの世界だとそうはいかない。
上手く声を掛け合えばいいんだろうけど、さっきはそれを忘れていた。
だけどレイリスはしっかり周りを見てる。
うん、なんでレイリスがリーダーやってるのかがよくわかる。
ともかく、無事に黒炎王も捕獲完了だ。
これで残すは……
「うっし、あとは青電主だな!あんにゃろー、俺にガンつけやがったからな。ギッタンギッタンにしてやるぞ?」
「トマトさんったら…そんなに血の気多いとネコタクのお世話になっちゃいますよ?冷静に行きましょうよ〜」
ご、ごめんなさい…。でもちょっと頭にきてる所はあるんだ。早くリベンジしたいです。
「まぁ待てって。今、千里眼の薬を飲むからさ…。
…………おっ、これはエリア10かな?すぐ隣だな。
さて…レイリス、どうする? 私達はリーダーの指示に従うぞ?」
千里眼の薬を飲んだルファールさんによると、青電主は隣のエリア10にいるらしい。
そしてリーダーのレイリスに指示を仰ぐ。ルファールさんの方が年上だから少し違和感はあるけど、レイリスはそれを全く気にせずに言った。
「………今のみんななら大丈夫かな。あのとっても強い青電主だってきっと倒せる。
ギリギリの状況になったら流石に考えるけど、今回はまだ誰も力尽きてないからさ。
慎重に、だけど自信を持って。私達なら出来るよね!」
よっしゃ、なんだか燃えてきた。
やっぱりあれだよね。強い相手だと少し怖いけどそれ以上に武者震い的なものが起こる。
難しいことをするのは大好きだからさ。
そんじゃあ、青電主にリベンジ。
いってみよー。
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森が開け、水場が存在し、木々が空からの光を遮って薄暗くなっている場所。
ルファールが千里眼の薬を飲んで教えてくれた森丘のエリア10に、私達は足を踏み入れた。
「………いた」
遠く離れた場所で、青白く発光している物が見えた。
次の瞬間、尋常じゃない威圧感と殺気を肌で感じ取った。
「………ッ!来るよッ!」
そしてその威圧感と殺気の主は、光を迸らせながらこちらに猛スピードで突っ込んで来る。
すぐさま左右へ散らばり緊急回避。
………相手に先手を取られるのは久々かな。
「おー、おっかねぇな…。随分と血の気が多いじゃんか」
こんな状況なのに迷子君はそんなことを呑気に喋ってる。
……集中したいから静かにして欲しいんだけどなぁ。
「少しずつエリア中央に動いて!」
素早くみんなに指示出し。
聞こえたかどうかはわからないけど、みんなが青電主の背後に回り込むように動いてくれたから指示は通ったのだろう。
そこから、戦いの火蓋が切って落とされた。
青電主がルファールを狙って電気を纏った翼を叩きつける。ルファールはそれをしっかりイナす。
そこからバックステップにつなげた青電主は、トサカに眩い光を収束させる。
バチバチと音を立てながら、光は空に向かって高く伸び───
青電主が光の刃を振り下ろした。
私とルファールはなんとか回避。
だけど、すぐそばに振り下ろされた刃の威力は、肌がヒリヒリするほどに恐ろしいものだった。あのルファールですら苦い顔をしている。
「やれやれ…とんでもない威力だな…。それに…さっき私がイナした翼叩きつけも相当な威力だった。 まともに喰らえば致命傷必須だ。気をつけてくれ」
「オッケー、ありがとう」
霧散していく光の刃を挟んでそんな小言を交わす。
被弾は極力避けていかないと、か…。青電主相手になかなかハードな要求をしてくれるね…。
青電主は尻尾に電気を迸らせながら地面に突き刺す。
素早く駆け寄り、尻尾に抜刀攻撃を加える。
そこからすぐに納刀継続へ。
無理はしちゃいけない。強敵相手だと一瞬の無理がパーティ崩壊につながる。
「あぁ、無理はするな。 だけど…私は一撃入れさせてもらうよ」
隣で一緒に攻撃していたルファールがそう呟くと同時に、気のようなものを開放。
太刀を構え、相手の攻撃を待つ態勢に。
青電主の尻尾から放電が発生し───
次の瞬間、斬撃の花吹雪が強烈な威力を以って青電主を襲った。
青電主は堪らずに空中から墜落。地面でもがき始めた。
「フゥッ! カウンターはやっぱりいいな!」
「ナイス!」
強敵相手でもしっかりいい仕事をしてくれる。 流石ルファールだ。
私はすぐに頭に攻撃を加える。
ブレイヴ状態が切れていたけれど、このチャンスでブレイヴ状態には持っていけるだろう。
納刀継続溜め3から横殴り、更に納刀継続溜め3へとつなげる。
コンボを決め終えると同時に青電主はダウンから復帰。
すると、体に纏った電気をより一層迸らせながら怒りの咆哮をあげた。
怒り状態か…。さっきの状態から更に威力が上がる…。恐ろしい相手だね…。
でもね…?青電主。
「………実は私も怒ってるんだ」
私がそう呟くと同時に、私の体の周りに青いオーラが溢れる。
そして、周りの音が全て閉ざされたような感覚に襲われる。
「さっきの攻撃…。本当に凄い威力だった。
私のパーティメンバーの1人が一撃で体力を持っていかれてしまうくらいにね」
私の視界が今までより一層鮮明に、それでいて狭くなる。
「でも…その攻撃されたメンバーってさ。私の好きな人なんだ。しっかり見守ってないとすぐに暴走しちゃう危なっかしい人なんだけどさ…」
太陽はほぼ沈みかけ、鬱蒼とした森の中はかなり暗くなっている。
けれどよく見える。全てが視界から入ってくる。
「ほら、見てみてよ。彼ったら、また楽しそうな顔をしちゃってる。…無理はしないでって言ってるのに、これじゃあまた暴走しちゃいそうだね」
目の前に広がる薄暗い森の景色から………
色が抜け落ちた。
「………ああなったら彼を止めるのは一苦労なんだよね。だから、私も全力でいくから…。
よろしくね、青電主」
色を失った世界。
目の前には怒り狂う青電主。
私は大剣の柄に手を伸ばし、駆け出した。
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「………ッ!来るよッ!」
レイリスがそう叫ぶのと同時に、青電主がこちらに突っ込んで来るのが見えた。
おいおい…随分好戦的だな。どっかの戦闘民族かよ…。
とりあえずハリウッドダイブ。 超特殊許可レベルの一撃なんざもらいたくない。
青電主は凄まじい勢いで俺たちのいた場所を突き抜けていった。
「おー、おっかねぇな…。随分と血の気が多いじゃんか」
思わずそんな独り言がこぼれてしまう。
レイリスが微妙な顔をしてるけど気にしない。そういう性分なんです。
さて、どうでもいいことをしてる場合じゃない。 すぐに翼に猟虫を飛ばして白エキスを回収。そこから続けて尻尾に猟虫を飛ばし、赤エキスも回収した。そして、そこでレイリスの指示が飛ぶ。
「少しずつエリア中央に動いて!」
あいあいさー。エリア端は危ないもんな。 壁ハメなんて考えたくもない。
そんなことを考えてると、青電主が攻撃の態勢へ。
ルファールさんとレイリスのいるあたりに翼を叩きつけた。
2人はサクッと躱したみたい。あ…だけどライトニングブレードにつなげて来やがった…。
あの凶悪極まりない威力の攻撃が、2人に向かって放たれる。
あ、あぁ…大丈夫か…?
……おっ、大丈夫だったみたい。 2人とも苦い顔を浮かべてるけど、しっかり避けてるのは流石です。
なんか2人が軽く言葉を交わしたのが見えたけど全然聞こえないからどうでもいいや。
なんてことを考えてると、青電主は尻尾に電気を迸らせて地面に突き刺した。
……エア回避いけるか?いや、やめとこう。
無理して死んだりなんかしたら目も当てられない。
とりあえず脚に虫を飛ばして橙エキスを奪い、トリプルアップ状態にはなっておいた。
地面に刺さった尻尾から放電が発生し───
ルファールさんのカウンターが決まった。
あら、鏡花の構え溜まってたのね。
ともかくこれはありがたいです。カウンターを喰らった青電主は堪らずにダウン。
その隙に翼をチクチクと攻める。
正直火力を出すための装備ではないから、ダメージ貢献はそこまで出来ないだろう。
俺の仕事は乗りと麻痺。そこを意識しよう。
「よし……。集中………」
青電主がダウンから復帰する寸前に、1度だけ体の中から息をフッと吐き出す。
目の前には今までで1番といってもいいくらいの強敵。
もちろん恐ろしさだってある。さっきも一度やられてるわけだしね。
でも……。
「こんなん燃えないわけないよな…!」
難しいことが大好きなんです。
マゾとか言いたきゃ、言ってもらっても構わない。そりゃあ自分から強い相手に挑んでるんだからドM君なんて呼ばれるのもしょうがないさ。
でも、強い相手だから楽しいんだ。
一撃でこちらの全てを持っていかれてしまうような相手。ソイツの攻撃を全て躱し、反撃し、最後には倒す。
こんなに楽しいもんはないだろう。
少なくとも俺は大好きだ。
ゲームでも超特殊許可なんかでスリルを味わうことが出来た。
けど、こちらの世界は段違い。
より鮮明に世界を感じれるようになり、その中でゲームの中と同じ強敵と戦える。
そりゃあ楽しいよ…楽しすぎるよな…!
怒り喰らうイビルジョーの時もそう。
ゲームの画面の中より何倍も、何十倍にも深く感じられる世界であのスリル、緊張感を味わえる。
その中で自分の力を試す。そりゃあ多少危険な真似もしちゃいたくなるさ。
あぁ…こんな状況なのに、多分俺笑っちゃってるわ。
レイリスが見たら呆れそうだな…。
「リベンジ………ってのはちょっと違うかな。
さっきのは水に流すよ。忘れるから気にしないでおいてくれ」
だんだんと周りの音が消えて行く。
うん、怒り喰らうイビルジョーとやった時と似てる感覚だ。
ただ……今回はそれ以上に集中してるらしい。
目の前の世界から、色が抜け落ちた。
ハハッ……こんな感覚初めてですよ…。
ただ、今の俺なら最高の動きが出来そうかな?
「今は、俺の全力の相手をしてくれるだけでいいさ。 いこーか、青電主」
怒りの咆哮を上げた青電主に向かって、俺は操虫棍を使って跳びかかった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
「なぁクルルナ…。レイリスってあんな凄まじい動きしてたっけ…?」
狩りの最中、私の隣に近寄ってきたルファールさんからそんなことを尋ねられました。
あぁもう…私は相手取ることに集中するので精一杯なのに…。そうやって気軽に話しかけられる貴女も十分凄まじいですって…。
でも…確かに…。
「い、いえ…。あそこまでの動きは私も初めてですよ…。何なんですかあれ…? ドンドルマの時以上じゃありません?」
私達の目の前には、美しく綺麗で…それでいて荒々しく力強い立ち回りを披露するレイリスがいました。
「……やれやれ。みんなに無理するなと言っておいて自分はあんな立ち回りをするのか。
頼もしいのかどこか抜けてるのかわからないな…。
いきなり溜め始めた時は肝を冷やしたぞ…?まぁその後に青電主を叩き落としたのを見た時は目玉が飛び出るかと思ったが…」
ルファールさんが苦笑いをしながら言います。
確かに私もギョッとしました。普段のレイリスなら考えられないような動きをするんですから…。
でも……、青電主の攻撃は全く当たらないんです。まるでレイリスをすり抜けていくように。
そして、レイリスの攻撃は的確に弱点に吸い込まれていくんです。まるで計算されたかのように。
見ていて非常に危なっかしいのですが、あそこまで綺麗に攻撃を当ててるのを見ると綺麗、とさえ思ってしまいます。
それに……。
「トマトさんも…なんだかとんでもなくないですか? 滞空してる青電主に向かって跳んでいってばっかりで…、でも何回も撃墜してるんですから…」
そう、トマトさんも凄まじい動きをしているのです。
空を跳ぶ青電主の翼を跳躍のすれ違いざまに一閃。 何回も撃墜してます。
それに乗りや麻痺も何回もとって…。
あっ、3回目の乗りに入ったみたいです。
「いやぁ…レイリスもとんでもない人を見つけてきたもんだな…。私が知らないハンターで、あそこまでの腕を持っている人がいるとは思わなかった。
………なんか彼、笑ってないか?」
………確かに笑ってますね。随分と楽しそうです。
………私とアレやコレやをする時はあんな顔をしてましたっけか?な、なんだか複雑な気分です。
「まぁ、あまり長く話しててもアレかな。
ほら、乗りダウンだ。一気に攻めて終わらせよう」
「そうですね、あと一押しです!」
とりあえず2人での会話は一旦打ち止め。
ダウンした青電主に向かって私達は駆け出しました。
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青電主が滞空状態に入り、ブレスを放つ。
それを避け、青電主に向かって跳躍。
すれ違いざまに翼に向けて攻撃を加えた。
その攻撃で翼爪が砕け散る。そして、青電主はダウン。
……撃墜するのは何回目だろう。結構な回数をしたのだけは覚えてる。
ダウン中にもジャンプ攻撃を仕掛ける。
……乗り耐性が付いてきてるのか、なかなか乗り状態に移行できないな。
ここら辺でスタンとかとってくれれば嬉しいんだけど…。
なんて思った途端、ダウンから復帰寸前だった青電主が再び倒れる。
えっ?まじですか? 誰かは知らないけどナイスタイミング過ぎる。
ダウンしてくれた青電主に向かって再び乗り攻撃。これでスタンから復帰した直後に乗り状態に入れるだろう。
楽しい…。 本当に楽しいな…。
そんなことを考えながらただひたすらに攻撃。
そして予想していた通り、スタンから復帰した青電主はすぐに乗りダウン。
悪いけど…手は緩めない。
俺の全力にもう少し付き合ってくれよ?
そんなことを考えながら、青電主の背中に飛び乗った。
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また彼が青電主を撃墜したらしい。
チャンスを作ってくれるのは嬉しいけど、危ないのは危険だからやめてって言ってるんだけどなぁ…。
なんだろう…。
すごく上手く進んでるんだけど、ここら辺でもう一押しが必要な気がする。じゃないと、この攻撃のリズムが途切れそう。
ダウンしている青電主にすばやく抜刀攻撃。そして横殴り。
直感のままに、そこからブレイヴ状態のサイドステップに繋げる。そしてさらに横殴り。
そこからすぐさま納刀。
そして大剣を抜刀。腰だめに構え、力を込める。
限界まで力を込め……、
青電主の頭に目掛けて、一気に振り抜いた。
『居合術【力】』の効果が乗った抜刀攻撃は、青電主からスタンを奪ったみたい。
なるほど…、このスタンが取れてなかったら私達の攻撃は途切れちゃってたかもしれないね。
スタンした青電主にラッシュをかける。
抜刀溜め斬りからすぐに納刀に繋げ、再び抜刀溜め斬り。
もう一度だけそのサイクルをしたところで、青電主はスタンから復帰。
だけど、そこで青電主はダウン。
迷子君が青電主の背中に飛び移ったのが見えた。
……本当に頼りになるなぁ。ちょっとかっこいいかも。
恐らく…あと少し。頑張ろう。
青電主の背中で攻撃する彼を見ながら、そんなことを考えた。
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よし、乗りダウン。
特に何事もなく、ダウンを奪うことが出来ました。
そろそろ倒せると思うんだけどなぁ…。
最後まで集中を切らさずにいきましょ。
ダウンしている青電主に向かってラッシュ。
恐らくもう乗りは狙えないだろうから、地上攻撃メインの麻痺狙い。
ダウンから復帰した青電主は怒りの咆哮を上げた。おし、最後の正念場だ。正直ダウン中に倒せると思っていたけど、そうは上手くいかなかったらしい。でも、下手すりゃあと一撃で倒せるんじゃないかな?
青電主は俺を狙って帯電した翼を叩きつける。それを移動して回避。白エキス効果で軽々動けるのでここまでは難しくない。
そう、ここまでは。
「そのゼクスカリバーは勘弁してほしいな…!」
青電主は約束された勝利のトサカから、青い刃を伸ばす。
エリアルは避けにくいんだって…!
俺は真横にセルフジャンプ。
なんとか当たらないように……!
そう願って、跳んだ。
背中のすぐ後ろに、何かが振り下ろされたような感覚があった。
だけど、意識は消えてない。
おっしゃあ、避けたみたい。
すぐさま青電主の方を見る。
青電主は尻尾に電気を迸らせ、放電の予備動作に入っていた。
その後ろで、レイリスが尻尾目掛けて駆け寄っているのが見えた。
レイリスと目があった。
レイリスは笑っていた。
まるで勝利を確信したかのように。
次の瞬間、俺は跳んでいた。
狙いは尻尾。これで決める。
レイリスは腰だめに大剣を構え、力を溜めていた。
俺は体を捻って回転させ、青電主の尻尾を狙う。
限界まで力を込められた強溜め斬りが、回転の力を加えられたジャンプ回転斬りが青電主の尻尾に叩き込まれ……。
…………青電主は怯まなかった。
「「えっ」」
その場の雰囲気にそぐわない素っ頓狂な声が思わず俺達から溢れ落ちた。
目の前で青電主の尻尾の電気がバチバチと音を上げる。
そして凄まじい威力の放電が尻尾から放たれ────
「…………2人とも暴走しすぎだ。次は気をつけてくれよ?」
いつのまにか隣に近づいてきていたルファールさんの声と、ルファールさんが何か気を解放するような姿を目にして、俺の意識は途切れた。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
「んあっ!?」
意識が覚醒し、頭が警鐘を鳴らす。
すぐさま大剣の柄に手を伸ばし、辺りを警戒。
………目の前には、肉焼きセットで肉を焼いているルファールがいた。その向こうには、倒れ伏して寝息を立てている青電主も。
「………おっ、起きたか。やれやれ…無理はするなと言っておいて、あんな危ない行動はやめてほしいな…。肝が冷えるよ…」
……え? 一体何がどうなったんだっけ?
全然頭の理解が追いつかない。
「上手に焼けました〜っと。ほら、とりあえず腹ごしらえだ。 食べた方がいいぞ?」
ルファールから美味しそうに焼けたこんがり肉を受け取る。
……でもまだ食べる気にはなれなかった。
私の意識が消えてから、一体どうなったんだろう?
「え、えっと…。あの後どうなったの?」
「あぁ、まず…レイリスと彼は力尽きた。
青電主の尻尾放電をまともに喰らってノックダウンさ。
だけど同時に、私の鏡花の構えも決まっていてな。青電主はダウン、そこにクルルナが素早く罠を設置して捕獲、というわけだ…。
……まぁ成功はしたけど、あんな暴走はちょっといただけないな」
………そっか、私と迷子君は力尽きたんだ。
よく見ると、少し離れた所で迷子君がノビていた。クルルナがこんがり肉で彼の顔を面白そうに突っついている…。や、やめたげようよ…。
「……まぁ暴走気味だったとはいえ、凄い動きをしてたな。私より凄腕なんじゃないか?」
「い、いやぁ…それは流石に…。暴走したら強いなんてなんか嫌だし…」
ルファールが笑いながらそんな言葉を落とす。私より年上で、時にはこうやって励ましてくれる。普段の立ち振る舞いからはあんまり想像しにくいけれど、私にとっては頼りになる副リーダーだ。
「ともかく、だ。 これでクエストは終了!
久々の難関クエスト…更には乱入もあったけど、それら全てを退けたんだ。そんなシケた顔してないで素直に喜ばないとな!」
「あうっ、そ…そうだね…」
ルファールにバンバンと背中を叩かれる。
い、痛いんだけど…。
「さて、それじゃあまだノビたままの彼を叩き起こさないとな。 全く……あれじゃラディスにヘタレ呼ばわりされるのもしょうがないじゃないか…」
ルファールはそういうと、クルルナと迷子君の方へ歩いていった。
………そうだよね。力尽きちゃったけどクエストは成功したんだ。喜ばなきゃ損だよね。
「ふぅ……、疲れたぁ〜…。あっ、美味しい」
さっきルファールから渡されたこんがり肉にガブリと齧り付く。肉汁が溢れ出し、疲れきった体に活力を与えてくれている様な気がした。
もう時刻は夜。
木々の隙間から明るい月の光が差し込み、私達を労う様に照らしている。
「……メインターゲットを達成しました!」
空の月に向かって、そう叫んだ私だった。
3週間も空いてしまいました、すみません。
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