始まりはこのクエストだった。
ミラルーツの脚を思いっきり踏みつけ、宙へとジャンプ。
そのまま、赤い電気が迸っている胸部へとジャンプ攻撃を叩き込んだ。
ジャンプ攻撃を喰らったミラルーツは大ダウン。
すぐさま頭にしがみつき、乗り攻防状態に入る。
「ちょっ…高ッ…。 おわわ…あば、暴れんなぁ!」
「ファ、ファイトです!」
こちらの世界で乗り攻防をした回数は少ない。
元から乗りを積極的に狙わないスタイルなのも相まって、乗り攻防をした相手は黒炎王や紫毒姫くらいだった。
そして今回の相手はミラルーツ。
乗りの難易度は屈指のもの。正直成功させる自信がないです。
でも、主人公君はさっき成功させてた。俺も成功させないとね。
「おわっ…。ちょっ、暴れな…うるさっ!?」
グネグネとうねって暴れ、最後には吼える。
怒濤の暴れラッシュを終え、ミラルーツはインターバルを挟んだ。
今がチャンス。
剥ぎ取りナイフでザクザクと頭部を攻撃する。
何度かの攻撃の後、部位破壊の音と共にミラルーツが悲鳴を上げて大きくのけぞった。
「頭に攻撃!」
「はい!」
ゆっくりと体を倒れ込ませるミラルーツを横目に、主人公君に指示出し。
数少ない頭を殴れるチャンス、無駄にはしたくない。
倒れ込んだルーツの頭部へ、俺達はラッシュをかける。
2人とも担いでいる武器は操虫棍。
動きは勝手にシンクロした。
2連斬り上げ、袈裟斬り、2連薙ぎ払いのループを2セット。そこでミラルーツがダウンから復帰する兆し。
締めに飛円斬りを2人で叩き込む。
手に伝わるのは会心の手応え。そして抜群のヒットストップ。
ついつい笑みが溢れた。
ダウンから復帰したミラルーツは急に大空へと飛び立った。
暗雲蠢く空の彼方へと飛んでいき、その姿は消え失せる。
この戦いではじめてのリサイタル。
ミラルーツの全体落雷は基本的に走ってれば避けれるけれども、主人公君は大丈夫だろうか?
「主人公君。リサイタ…全体落雷は対処できる?」
「えっと…走ってればいいんですよね?」
うし、わかってるみたいだ。それなら大丈夫。
すぐさま俺と主人公君は離れ、走り出した。
この攻撃は、パーティメンバー同士で近くにいるとかえって危ない。
ゲームでもそれぞれで適度な距離を置いて回避していた。
なんて考えてると、空からゴロゴロと雷鳴が轟き始める。
そして、至る所の地面が光り始めた。
光った地面には一寸置いて、雷の柱が落ちてくる。まぁ…自分の場所を狙って落ちてくるのは数秒に一回。
それもダッシュなり歩きなり、ともかく移動してれば当たることはほぼない。基本的には時間だけを喰う攻撃だ。
な〜んて思ってたら、移動した方向に雷を重ねられた。クソが。
しょうがないのでハリウッドダイブ。なんとか避けました。
………な〜んて思ったのも束の間、ハリウッドダイブした方向へと雷を重ねられてしまいました。
いや、意味がわからん。
そんなんできる?言っといてや、出来るんやったら…。
そして、雷は俺の体を撃ち抜いた。
「あっ……ばっ……がふぅ……」
ダメージは甚大。なんとかワンパンネコタクは回避できたみたいだけど、危ないところでした。
クソッタレが。今まで1回も俺に攻撃を当てられてないからってそこまでムキになることは無いだろう。全く…大人げないトカゲだなぁ…。
雷は止んだようなので、すぐに秘薬を飲んで体力を全快に。
そして、主人公君を呼んだ。
「へい、主人公君。ここに立っといて」
「んん?ここですか?」
「そそ」
主人公君を呼んだのは大砲が設置されてある場所のすぐ傍。
大剣を担いでいたならここで溜め待機をしていたんだけど、今回は操虫棍だからでかい一撃とはいかない。でもまぁ、チマチマでもいいから弱点を狙っていきたいのです。
「ここに立ってりゃ今に来るはず……。
ほら、来たよ」
「えっ…?何がっ………おわぁ!?」
はるか彼方のブラックホールのような場所から、ミラルーツが凄まじい速度で飛来した。
だけど、この位置なら着地の攻撃判定を拾わない。
そして、御誂え向きに頭部を下げてくれる。
「あ、よいしょ〜」
「えっ、あっ、ホァーッ!」
俺はミラルーツの頭部に向かってエリアル回避。続けて主人公君が少し慌て気味にエリアル回避。なんだその掛け声は。
ともかく、2人で頭部に空中攻撃を叩き込んだ。
う〜ん…あと少しだと思うんだけどなぁ…。
頭の部位破壊は2段階目。
胸部や翼の部位破壊だって終わっている。
しかも今回は2人での戦い。
いくら片方が無属性武器とはいえ、狙える時は頭とかの弱点を狙っているんだ。
ゲームの通りならそろそろ終わる頃合いなはずです。
なんて考えていると、ミラルーツは体を倒れさせて四つん這いの体勢に。
そしてズリズリを始めた。
大剣とかだったら上手い具合に溜め斬りをぶち込むチャンスだけど、残念ながら今は操虫棍。
相性が悪いわけではない、というかむしろいい方だろう。実際、高度なテクニックがなければミラルーツにエリアル操虫棍は1つの正解のような気がする。でも、ダメージを出すなら大剣だろうとゲーム脳の俺は思ってしまうんだ。
ただ…今回は楽しく戦うことが1つの目的。
楽しくってことなら、エリアル操虫棍だと俺は思うのですよ。
ズリズリ攻撃を終えたミラルーツは此方へと振り向いた。
そして、口から凄まじい電気を迸らせる。
あっ、ヤバい。エリアルだとちょっと避けにくい。
すぐに遠くへと遠距離セルフジャンプ。
一拍おいて、背後で赤雷の大爆発が起こった。
ふおぉ…背中がチリチリする。
特大ブレスをぶっ放したミラルーツは対空状態へと移行していた。
そして、口元に電気を迸らせながらこちらを向く。
ここだ。
頭の中で何かがカチリとハマった。
ミラルーツがこちらへとブレスを放つ。
それと同時に俺はセルフジャンプ。
足下スレスレを雷ブレスが通り過ぎて行き、見事にブレスを回避。
そして空中でのすれ違いざま、ミラルーツの頭部を一閃。
ミラルーツは悲鳴を上げて地面に墜落した。
「主人公君!」
「はいッ!」
主人公君に指示を出しつつ、ミラルーツの頭を踏みつけて位置調整を兼ねたジャンプ攻撃。
すぐに主人公君も追いつき、動きのシンクロしたラッシュをミラルーツの頭部へと叩き込む。
2連斬り上げ、袈裟斬り、薙ぎ払い。
フィニッシュには飛円斬り。
全く同じ動きをする俺達のフィニッシュがミラルーツの頭部へ叩き込まれた途端、ミラルーツは一際大きな悲鳴を上げた。
ん?こんな動きゲームにあったか?
一際大きな悲鳴を上げたミラルーツはそのまま地面に倒れ込み────
目の前が極光に包まれる。
「ちょっ…まぶしっ……何!?」
「あ〜…多分終わったんだと思います」
終わった…ということは、まぁそういうことなのだろう。
光で周りの景色が見えない中、主人公君の声を聞いてそう考えた。
瞼越しに感じる光がだんだん弱くなり、やっと目を開けれるような明るさに。
そうして初めて目を開けてみる。
「な、なかなかやるじゃないの…。
この私がほとんど攻撃を当てられないなんてね…」
そこには白ドレスさんが佇んでいた。
ただ、髪はボサボサ。
目は少しだけ潤んでおり、今落とした言葉も少し震えていた。
さっきまでの妖しげで美しい感じの雰囲気は欠片も無かった。
「ま、まぁ本気を出してないだけだから勘弁してあげるわ…!
次はこうはいかにゃ、な、いかないんだから…!」
あぁ、うん…。頑張ってください。
噛んだりしてるし、見ていて少し可哀想。
主人公君、アフターフォローは頼んだぞ。
「さて、終わったかい?お迎えに来ましたよ〜っと」
「うおっ、ビックリさせないでください…」
いきなり天使さんが背後に現れる。
いっつもこんな登場の仕方だ、そろそろ勘弁してほしい。
「さてさて…おっ、どうだった?彼等は強かったかい?」
「えぇ、それはもう……。
負けたのは悔しいけれども、楽しいったらなかったわ」
「はっはっは、それは良かった。
ま、たまには無理矢理に連れてくるからその時は呼んでおくれよ」
俺のことは無理矢理に連れてきますかそうですか。
俺に選択権なんて無かった。立場弱いなぁ…。
………となると、主人公君ともお別れなのかな?
「あぁいや、別にこの世界にいるならいつかは会えるさ。
雄大なこの世界だけど、人と人との繋がりはそれすら狭くさせるからね」
あら、それなら良かった。
もしかしたら会えなくなるのかな、なんて雰囲気が漂っていたからね。
俺の代わりにこの世界を駆け巡ってくれた人だ。これからも仲良くしていきたい。
「さて…君達はそこの白ドレスを倒したわけだ。彼女からの依頼は達成さ。
というわけで、あと少しで拠点に戻ることになる。
制限時間は1分。何か話しておきたいことはあるかい?」
うお、マジか。
おしゃべりとかはたくさんしたかったけれどものんびりとは出来ないらしい。
……でも、今更話したいことといってもなかなか出てこないもんですね。
俺と主人公君…ユウ君は顔を見合わせた。
「えと……まずありがとうございました。
オレがこんなハンターになれたのは遊さんのおかげです。最後には一緒に狩りもできて…これ以上のことなんてありません」
「えぇ、いや…そんな大袈裟な…」
ユウ君にそんなことを言われるとついつい恥ずかしくなってしまう。
ゲームの中のキャラにそう言われるようなものだ、恥ずかしくもなってしまうよね。
「俺の方こそ…。携帯食料とかたくさん食べさせたでしょ?あんな不味いものをたくさん食べさせてしまって申し訳ない…」
「ハハ…まぁ、それもまたいい思い出ですよ。
それを補っても余りある感謝でいっぱいです」
「そっか…それは良かった」
お別れ前だってのに、交わすのはそんな大したことのない会話。
まぁ…俺達らしくていいのかもしれないね。
「……オレはこれからもハンターとしての腕を磨いていくつもりです。
今回、遊さんと一緒に狩りをしたらその技量の差を改めて思い知らされました。
遊さんがオレを操作していた頃。あの頃だったら、オレもそれくらいの技量はあったんですが…今はこのザマです」
いやいや。
見ていたところ、レイリス並みの動きは出来ていたような気もするけど…。
そんなに悲観することはないと思うけどなぁ…。
「だから、オレはこれからも頑張って…いつか貴方に見劣りしないくらいのハンターになります。
その時になったら、また一緒にクエストでも同ですか?」
「………うん、いいと思う。
じゃあのんびりその時を待っておくよ。
俺だってこのまま立ち止まっているつもりはないけどね」
「ハハッ…遠いなぁ…。
でも頑張ります!追いついてみせますからね!」
うんうん、楽しみにしているよ。
さて…あとは…。
あっ、あのことについてを聞いておきたかった。
「そうだそうだ。1つ質問が…。
ユウ君のところに『新大陸こりゅ……
「はいそこまで。拠点に戻るよ〜」
「えっ」
天使さんがそういった途端、俺の身体が淡い光で包まれた。
え?え?どんな感じに戻るんですか?
こう、緑の煙がボワっとなって気がついたらベースキャンプとかじゃないんですか?
「ちょっ、ちょっと待って!あと5秒!
新大陸のことだけ聞かせ…
「あーあー、暴れるな。到着地点が変なところになってしまうよ?」
「ユウくぅん!もし新大陸について知ってたら教え…
「はい時間切れー。バイバーイ…って、これは…ちょっと着地点がズレそうだな…」
「五期団についてぇぇぇぇ……………」
俺の意識はそこで途切れた。
あぁ…それだけは聞いておきたかったなぁ…。
◆◇◆◇◆◇
「行ってしまったわね…最後まで騒がしいこと…。
あんなのに負けたなんて少し釈だわ…」
「まあまあ。機嫌なおしてくれよ?」
「別に不機嫌なんかじゃ…」
遊さんが飛ばされていったあとのシュレイド城で言葉を交わすオレと彼女。
最後に言っていた新大陸って何のことなんだろう…?
「ねえねえ、新大陸って聞いてなんか思い当たる?」
「ええ、ただ…貴方には関係ないかしら?」
「おろ、そうなのね」
となると…また遊さんが主人公になって物語を進めていくのかね?
あの人のことだから、全く苦労することなんてないんだろうなぁ…。
そこにオレはいないらしいけれど、頑張ってもらいたいです。
「貴方はこれからどうするの?」
「オレ?うーん…。 一旦バルバレに戻ろうかと思う。 キャラバンのみんなにしばらく顔を見せてないからね」
「その後は?」
「ハンターの腕を磨いて…君にリベンジかな?」
「ふふっ、楽しみにしてるわ?」
満天の星と月が煌めく夜空の下、シュレイド城で青年と少女は笑いあっていた。
◆◇◆◇◆◇
「レイリス?入りますよ?」
マイハウスの扉をノックする音と共に、クルルナの声が聞こえた。
「………空いてるよ」
「あら、じゃあ入りますね」
ベッドで横になっている私の前にクルルナが歩いてくる。
目の前に立ったクルルナは儚げな表情を浮かべて言葉を落とす。
「大丈夫ですか?最近は鬼気迫る勢いでクエストを受注していたみたいですけど…。
そのせいなのか、過労で倒れたらしいじゃないですか…」
「うるさいなぁ…。ちょっと疲れただけだよ。
自分だってそんな装備になっちゃってさ?人のこと言えないって…」
「ふふっ、それもそうですね」
白疾風シリーズの外装を装備したクルルナは可笑しげに笑った。
最近の私達はパーティではなくソロで活動することが多かった。
その中でも、私とクルルナ。そしてルファールは尋常じゃないペースでモンスターを相手取っていたらしい。
途中では、種の頂点なんじゃないかと思えるような二つ名個体と出会うこともあった。
ただ…私とクルルナ、ルファールはそれすら退けた。それぞれたった1人で。
そのせいなのか、私の装備の外装は黒炎王シリーズ。ルファールはとある古龍の外装となっていた。
ルファールの防具の外装はバルクXシリーズというらしい。
なんでも…私達が撤退を余儀なくされたあの古龍の防具だとか。
あの古龍はその後、『天彗龍バルファルク』であるとギルドから正式な発表があった。
そして各地でそれなりの頻度で目撃されるようになったらしい。
ルファールはそんな目撃情報が入るたびにたった1人で現場へと趣き、そして尽くを倒したみたい。
あれから1度だけルファールと会う機会があったけれど、その時のルファールはひどく疲れた顔をしていた。いつかの私みたいだと思った。
「ねぇ、レイリス。
あれから1ヶ月経ちますね」
「………うん、そうだね」
彼が消えてから1ヶ月が経っていた。
依然として、彼は私達の前には現れてくれない。
ラディスとセレスが捜索のために各地を奔走してくれているけれど、未発見のままで2週間を過ぎたあたりから期待はしていない。
「私…思うんです。
私達のパーティがあのまま…。
彼と出会わないまま各地で頑張っていたら、そこで立ち止まったままだったんじゃないかって」
「………」
クルルナがどこか遠くを見つめながら喋る。
クルルナは悲しげな顔だった。だけど、なにか吹っ切れたようなものも感じることができる顔だった。
「彼が私達と出会ったのは…私達が立ち止まらないようにしてくれるためだったんじゃないかな、と思うんです。
ほら。ちょっと前の私やレイリスなら黒炎王や白疾風を単騎で倒すなんて想像できました?」
「………想像できないや」
「ね?そうでしょう?」
クルルナは微笑んだ。
そして言葉を続ける。
「彼が私達の背中を押してくれたんだから…また立ち止まっていてはいけないでしょう?」
「………うん」
笑顔のままのクルルナの目から雫が溢れ始めた。
「だから…レイリスもまた歩き出さないと…!
ここで立ち止まっていちゃいけないですよ?」
涙を流しながら。
震える声のまま。
だけど、クルルナは笑顔でそう言ってくれた。
「………そうだよね。立ち止まってちゃいけないよね。
ふふっ…。こんな姿、彼に見られたら笑われちゃうね。『どっちがヘタレか分かったもんじゃないな』とか言いそうだよ…」
「ふふっ、あはは…!そうですね!
今の真似、すごい似てましたよ!あはは…グスッ」
クルルナは涙を流しながら声を上げて笑い始めた。私もつられて笑い出す。
「あははっ。ひぐっ…ははっ…あっはっは!
そうだね!迷子になって戻ってこないヤツなんて待ってられないよ!
私、また……グスッ……が、頑張るよ!」
「えぇ!大丈夫!私達……ふぐっ……私達ならまた前に進んでいけますよ!」
涙をボロボロと流しながら。
だけど…笑顔で。
私はクルルナと笑いに笑った。
そうだよね。
立ち止まっているなんて、私達らしくない。
決めました。
私達は立ち止まらず進みます。
クルルナと笑い合いながら、心の中でそんな決断をした私だった。
◆◇◆◇◆◇
「それじゃ…あのクエストにいってくるよ」
「ハンターをデビューしたクエストですか?」
「そうそう。私のハンターライフの節目は、いつもあのクエストだから」
ハンターになって初めて出発したクエスト。
『英雄』と呼ばれるようになってから、初心に帰るために受注したクエスト。
そして………彼と初めて出会ったクエスト。
もしかしたらまたあそこで待ってくれているんじゃないだろうか?なんて淡い期待を持っていたけれど、そんな気持ちも切り捨てる。
立ち止まっていちゃいけないんだ。
私は……私達は……前に進みます。
「じゃあ……いってくることにするよ」
「ええ……また新しいスタートですね」
「………そうだね」
愛用の大剣『真名ネブタジェセル』を背負い、外装を黒炎王シリーズにしたブラックX一式を装備する。
「じゃあ……『森丘の採集ツアー』いってくるね!」
「ふふっ。頑張って!」
私はそう言葉を残し、クルルナは笑顔で返す。
さっきまで沈んでいたのが嘘のように気分が良い。
私は軽い足取りで、マイハウスを飛び出した。
次話でこの物語は最終話となります。
もう少しだけお付き合いいただければ幸せです。
感想など気軽にどうぞ。お待ちしてます。