to be continued…?
「おっ、きたきた」
釣竿の浮きが僅かに沈み込み、手には竿を引っ張られる感覚。
すぐに竿を引っ張り返して、ルアーに喰いついた魚を引く。どうやらなかなかの大物らしく、すぐには釣り上げることはできなかった。
少しの攻防の後、魚の動きが弱くなった瞬間を狙って一気に引き揚げる。
「おおっ…トロサシミウオじゃん」
どうやらなかなかの大物が釣れたみたい。
正直、今更になって精算アイテムをとっても微妙なところはあるけれど嬉しいものは嬉しい。
「ふふふ…トロサシミウオ、ゲットだぜ」
ふと、とある誰かさんのモノマネをしてみた。
自分で言葉にしたのは初めてだけど、なかなかどうしてしっくりくるフレーズだ。
鬱蒼とした木々の隙間から木漏れ日が差し込む、森丘のエリア11。
そこにある釣りポイントで私は釣りをしていた。
新たなリスタートを…なんて思って受注した採集ツアーだったけれど、特別な事なんて特にない。
いつも通りキノコやハチミツをのんびりと集めて、各エリアの風景を楽しんだり…。
そして最後には此処で静かに釣りを。
いつの間にかそんなルーチンができていた。
「よいしょっ…と、サシミウオか…。
小腹空いたし、食べちゃおっか?」
再び釣り竿に当たりがかかってうまく釣り上げたところ、今度はサシミウオが釣れた。
そのまま食べても身は脂が乗って甘く、魚の中では王道を往く美味しさを誇る魚。
ハンターを始めたばかりの頃はサシミウオをそのままガブリといくのには嫌悪感があったけれど、今はそんなものは皆無だ。
むしろ、ガブリと行かなきゃスッキリしないときすらある。
小腹が空いていた私は釣れたて新鮮のサシミウオを見て、思わず生唾をゴクリと飲み込んだ。
「よし、食べよう!
いただき………」
ます、と言ってかぶりつこうとしたところで、背後から視線を感じた。
後ろを振り返ってみるといつから居たのか。
物欲しそうな目で私が持っているサシミウオを見るアイルーが3匹。
「あ………えっと………。
た、食べる……?」
「いいのかニャ!?」
いや…だって、ねぇ?
そんな目で見られたら私だって食べにくいよ…。
「ありがとうなのニャ!
ここ最近、お魚とはご無沙汰だったから感謝感激雨嵐ニャ!」
「あっ、うん。そうですか、良かったね」
いや、集落の近くに魚いるじゃん。
すごい良く釣れるよ?君達もしかして釣り下手か?
アイルーちゃん達が魚を手際よく捌いていくのを見ながらそんなことを思った私だった。
「あ〜…この大きいのもあげよっか?」
「ニャニャニャ!?!?ハンターさん太っ腹ニャ! 女神のようだニャァ…」
ちょっと勿体無いような気もしたけど、トロサシミウオもあげることにしました。
ネコちゃん達は狂喜乱舞。
お魚を捌くのそっちのけで踊り出した。
静かな方が気楽なんだけどなぁ…。
ネコちゃん達は帰り際に肉球の優待券をくれましたとさ。
「さて…そろそろ本格的にお腹すいたし…。
食べれるお魚釣らないとね……」
なんて呟きながら私は竿を水面に垂らした。
アイルー達が去ったので、わたしもそろそろ自分の分を釣り上げたい。そんなことを考える。
ものの数秒後、ウキが沈み込んで魚が食いついた。
手にはズシリと来る感覚。これは……なかなか大物らしい。
一瞬見えたヒレはトロサシミウオのようなヒレだ。これは負けられない…!
「よいしょぉ……ッ! ここdぶふぇっ」
………釣り上げようとした瞬間、私の身体は何かに吹き飛ばされた。
何が起こったか理解できず、あたりを見渡す。
そこには鼻息をあげるクソ猪がいた。
……あぁ、うん。そうですか。
……まぁあれだから。私、お魚よりこんがり肉の方が好きなんだよね。
「…………生肉になりたいみたいだね。
大丈夫。 私、肉焼きには自信があるんだ。
だから安心して生肉になって?」
背負った大剣の柄に手を伸ばし、私はそんな言葉を落とした。
◆◇◆◇◆◇
「ふぅ…ごちそうさまでした。………げふっ」
こんがり肉を食べながらエリア3を歩く私。
女性としては少々汚なかったかもしれないけど気にしない。
一人の時くらいは、多少の粗相は許してほしい。
「うわ…。雲一つない…」
晴れることの多い森丘だけれど、今日はまた一段と晴れていた。
雲なんて欠片も見当たらない青天井です。
彼方の崖下に見える川のほとりでは、アプトノスの群れが水を飲んでいる。
中には親子と思われるアプトノス達もいた。
…ここから見える景色はいつだって素敵だ。
生命を活き活きと感じられる。
この荒々しく眩しい世界を、身体いっぱいで感じられるから大好きだ。
「………やっぱりこのクエストに来てよかったな。いっつもこの景色には勇気付けられる…」
目の前に広がる、雄大な景色を見ながらそんな事を呟いた。
ふと、遠くに1匹の雌のケルビが居ることに気づいた。
……1匹とは珍しい、ほかのケルビはどうしたんだろう?
なんとなくそのケルビへと近づいてみた。
「……キミもひとりなの?
ふふっ、奇遇だね。私も今は一人なんだ」
どうということもなく、ひとり言を落とす。それでもケルビは此方を見つめるだけで、逃げたりはしなかった。
私はその場に座り込んで言葉を続ける。
「ちょっと前にさ、私の大切な人がいなくなっちゃったんだ。
酷いよね…私は『逃げて』って言ったのに、彼はたった一人で……。
それで、いなくなっちゃった」
「ホント自分勝手…。言うことは全然守ってくれないし…。
迷子の癖に一人になっちゃいけないことくらい簡単に理解できるもんだと思うのにさ。
……ごめんごめん、愚痴を聞いてもらっちゃった」
ケルビは相変わらず草を食みながらそこに居た。
「………キミも大事な相手に置いてかれちゃったの?」
ケルビにそう問いかけてみると、ケルビは返事をするように鳴き声を返してきた。
「ありゃ…そうなのか…。じゃあ、同じ仲間同士でお話でもしてみる?」
そう言うとケルビは再び鳴き声の返事。
うんうん、それじゃあ種族は違うけどガールズトークといってみようか。
なんて思ったけれど、私の背後からケルビの鳴き声が。
ふと振り返れば、そこには雄のケルビが1匹。
そのケルビは目の前の雌のケルビへと近づいてきた。
近付きあった2匹は仲良し気に鳴き声を交わし、そして去っていった。
「………なんだ、キミの大切な相手はしっかり傍にいてくれてたんだね。
……ちょっと嫉妬しちゃいそう」
私は不貞腐れたように地面へと倒れ込み、仰向けになって青空を見つめた。
空は憎たらしいほど晴れ渡っている。私の心はまだまだ曇り気味なのにね。
青空を目に入れたくなくなり、私は目を瞑った。
「………迷子君。私、もう十分待ったよね?
私だって、ずっと立ち止まってるわけにはいかないから…そろそろ前に進んでみようかと思ってるんだ」
いなくなってしまった大切な人へ向けての言葉を呟く。届くことなんてない言葉だとは判っている。でも、言いたいから言う。
「私もクルルナもルファールも…立ち直ったよ?
だからきっと…君がいなくても頑張れるようになってる…。
もう…君に向けていた想いは切り捨てたんだ…。とっても悲しかったけどさ…」
あぁマズい。
このまま思いの丈を吐いたら、涙が出てきそうだ。
……でも言いたいことはここで言っておく。
「だからさ、私達頑張るよ。
今よりもっともっと強くなって…『モンスターハンター』と呼ばれるようなすごいハンターになって…どこにいるかわからない君にも、私達の噂が届くくらいにすごいハンターになるから…。
だから……もしこの言葉が風なんかに乗って伝わったなら、私達のことを応援しててほしいな?」
────ああ、伝わってる。大丈夫、応援してるよ。
彼の声が随分と鮮明に聞こえた。
もう…涙は抑えることができなかった。
「…………ッ!
聞こえてるならすぐに戻ってきて貰いたいもんだよ……!
そうやって、ま、また意地悪するんだから……!
ホッ、ホント自分勝手だよね……!
今すぐ出てくれば許してあげるよ!」
涙をボロボロと零しながらヤケクソに叫んだ。
「………じゃあ、これで許してくれるか?」
……………………え?
聞こえないはずの声があまりに鮮明に聞こえたので、すぐに目を開けて身体を起こす。
「や、ごめんごめん。待たせちゃったな。
………まぁ、方向音痴だから許してもらえれば嬉しいや」
そこには、私の大切な人がいた。
アスリスタ外装の装備に身を包み、武器は操虫棍。
一見すると冴えない感じで弱そうだけれど、やるときはしっかりやってくれる人。
………彼が。
………迷子君が、いた。
「レ、レイリス?大丈夫?
なんか返事してくれたら嬉しいんだけど…」
あ、あぁ、頑張れ私。
ほら、なんか言わなきゃ。
頭は理解できてないけど、戻ってきてくれたんだ。ほら、頑張れ…!
「………お」
「お?」
「おぞずぎるよぉぉ……ぅぁぁぁん」
「あ〜…ごめんな?」
あぁ…うん、ダメだ。止まらなかった。
私は迷子君の胸に顔をうずめ、わんわんと泣き出した。
「あー、あ〜…。ほら、ケルビのカップルも俺らのこと見てるぞ?早めに泣き止んだほうが…
「うるざぁい!あぅぁぅぅ……」
「ハハハ……」
◆◇◆◇◆◇
「うぅ……グスッ」
「大丈夫?そろそろ泣き止んだ?」
「…………まだ」
「まじかぁ…」
レイリスが地面にへたり込んでしまい、立てなかったのでおぶっています。
今はエリア1。 ここまで来ればモンスターに襲われる心配もないだろう。
いやぁ、ここまで来るのに……というか、レイリスに会うまでが大変でした。
シュレイド城からマイハウスへと一気に飛ばしてくれるはずだったのに、俺が暴れたせいで着地点がずれたみたいです。
着地点はよくわからん森の奥。
天使さんに『あっち』とか『そっち』とか言われてやーっと森丘にたどり着くことができた。随分遅くなってしまったけれど、まぁいいのかな?なんて思ってます。
「…………ねぇ、迷子君。グスッ」
「まだ泣き止みませんか…。で、どうした?」
おぶっているレイリスから急に話しかけられた。そろそろ泣き止んで欲しいです。罪悪感がヤバい。
「…………名前教えてよ。そしたら泣き止むから」
「………はいよ」
…………そういや、レイリス達には言ってなかったなぁ。
だから、彼とは別な名前で生きていきたいな…。
となると……よく呼ばれてたあだ名とかでいいか……。
よし、あれだ。
「…………ナギ。 ナギって呼んでくれたら嬉しいな」
「…………ナギ君か。ふふっ、やっぱりステキな名前だったね」
「そりゃ俺の名前だからステキに決まってるさ」
「…………ふふっ」
「…………ははっ」
「「あっはっはっはっは!!」」
バカ笑いする俺とレイリス。
まぁ、たまにはこんな風に羽目を外してもいいだろう。
この世界でやるべき依頼はシュレイドで達成してきた。
ここからは、自分のために頑張っていける。
そのスタートを切る時くらい、こんな風に大笑いしてもいいんじゃないかな?なんて思うのです。
◆◇◆◇◆◇
「「「かんぱーい!!」」」
まぁ………俺が再びこのパーティに戻ってから、特段変わったことはなかった気がする。
今まで通りに世界を駆け巡り、
今まで通りにクエストをこなした。
今まで通り、イビル嬢に襲われて貪られたりもした。
名前を教えたけれど、今まで通りに迷子だのヘタレだの変態だの呼ばれたりだってするさ。
……まぁ、今まで通りにこの世界を楽しめているってことだ。
「いやぁ、今回はうまくいったね!
獰猛化のリオレウス希少種とリオレイア希少種の2体同時狩猟なんて最初はどうなることかと思ったけど、この4人ならすんなりいけるもんだね〜」
「まぁ…トマトさんはちょっと危ない時がありましたけどね…。 リオレイア希少種の対空状態に飛びかかっていくなんて……サマーソルトが直撃した時は肝を冷やしましたよ…」
「まぁドM君らしいんじゃないか? ほら、自分を追い込んでいくスタイルでさ」
「ひどい言い草っすね……」
時には躓いたりもするだろう。
だけど、こんなにも頼れる仲間達と一緒なんだ。
この仲間達と一緒なら、多少の向かい風なんてへっちゃらだと思います。
「あっ!みんな来てたんだね!こっちも順調だったよ!アタシがアトラル・カの頭にハンマーをドカンとぶち込んできた!」
「あら、随分速いですわね……。
あれだけの高難度クエストなんですから、もう少し時間がかかってもいいでしょうに…。
流石としか言いようがありませんわ…」
「そっちも2人だけで随分と速いじゃん! こりゃ私達もうかうかしてたら追い抜かれちゃうな…」
それに、俺だって……俺達だって立ち止まっているわけじゃない。
少しずつ……少しずつだけど、前へと進んでいるんだ。
だから、俺はまだまだこの世界を楽しんでやりたいと思います。
「ふふッ。『英雄』パーティのみんな、揃って高難度クエストのクリアおめでとう。
こちらとしても物凄く助かったわ。強大なモンスターが一挙に現れて込み入っていたから、貴方達みたいな存在は本当に頼りになるわ…」
「あっ、マスター。いやぁ…そんなこと言われちゃうと、照れますね…テヘヘ。
………で、どうかしましたか?
マスター自らが話を持ってくるなんて珍しいじゃないですか」
「あら、レイリスちゃんはいい勘してるわね。
ええ、『英雄』と呼ばれる程の実力者である貴方達にちょっと持ちかけたい話があってね…?」
「ほむほむ、一体なんでしょう?」
ただ、まぁ………。
「ええとね?
貴方達、『新大陸古龍調査団』というものは聞いたことあるかしら?」
あまりだらだらと続けるのもなんだかなとは思うんだ。
だから、ちょっと冴えない野郎がモンハンの世界で頑張る………なんてお話は、ここらで一つの節目にしておこう。
別に、この物語が此処で終わるわけじゃない。
まだまだ続いてはいくのだろう。
ただ、長すぎるのは好きじゃない。
だから、ここいらで一区切りってことにしたいと思うのです。
もしまたどこかで、こんな野郎が頑張るお話を見かけた時はどうか応援してやってくれると嬉しいな。
はい、最終話でした。
詳しくは活動報告の方に書いていこうかと思いますがそちらがだいぶ時間かかりそうなので、後書きでも感謝の言葉を。
見切り発車で始めたこんな作品でしたが、なんとか完結まで漕ぎ着けることができました。
とりあえずどんな形にも繋げられるような終わり方にさせましたが、彼らをまた動かすことは暫くはないのかな…?なんて思ってます。
物語の中の彼らも読者の皆様に読んでいただけてきっと喜んでいると思います。
彼らを代表して作者から重ね重ねの感謝の意を。
ありがとうございました。
また性懲りも無く、何かを書き始めた時はよろしくお願いします。