魔術の発動が成功してからというもの、
俺はハイハイができるようになるまでの間、
毎回意識がぶっ飛ぶまで、そよ風魔術を発動した。
授乳しては魔力をぶっ放し
排せつをしては魔力をぶっ放した。
傍からみれば、よく寝る子に見えただろう。
乳幼児はおよそ3時間おきに授乳する。
夜中でもだ。
俺は原作ルーデウスと違い、
健やかなる成長のためには、泣きわめくのも遠慮しない。
意識が戻る度に、
腹が減ったと泣き、おしめを変えろと昼夜問わず泣いた。
ゼニスは少々お疲れ気味だったようだが、
この程度を子育てとゆめゆめ思わないでもらいたい。
なにせ、授乳して、糞をとっかえていれば、
あとは寝ていてくれるのだ。
理由のわからない、あの永遠ともいえる謎の夜泣きは起きないのだから。
「ルーデウス坊ちゃんはイージーですよ!
こんなのは子育てではありません!」
などとリーリャがゼニスに発破をかけている様をしり目に、
俺は大容量の『乱魔《ディスタブマジック》』を展開していた。
本当は魔術として発動した方が訓練となるのだが、
このころになると突風レベルでも数十分は使わないと、
魔力切れにならなくなるまでに、魔力容量が拡張してしまったため、
ばれてしまう危険性を考慮して、不可視である魔力放出により、魔力容量の拡張を行っている。
それに、俺は『乱魔《ディスタブマジック》』の発展は、
今後の戦闘における重要な魔術であると考えている。
まず、当然だが魔術師の敵を無力化できるのと、
王級の結界が同じ原理であるとするならば、
王級を超える魔力量で『乱魔《ディスタブマジック》』を展開することができれば、結界を散らせるのではないかという考えである。
次に、こちらの方が重要で、
『闘気』がすなわち魔力であるということは、
『乱魔《ディスタブマジック》』によって『闘気』を封じることができるのではないか、という試みだ。
『闘気』が所謂、身体強化魔術のようなものとして既に展開されているのであるとすれば、展開前にかき消す『乱魔《ディスタブマジック》』は通用しない理屈となる。
一度、リーリャに抱きかかえられながらパウロの剣術訓練を見学していた際に、
調子に乗って岩をぶった切ろうとしていたパウロに向けて『乱魔《ディスタブマジック》』を放ってみたが、通用しなかった。
十中八九、その理論で間違いないだろう。
くやしい。
ルーデウス・グレイラットにとって『闘気』を駆使して、
圧倒してくる剣士たちは鬼門である。
ルーデウスがしてやられていた相手は、
ほとんど剣士であった。
原作ルーデウス同様、俺も『闘気』が使えない場合、
オルステッドは勿論のこと、以下、敵対する七大列強と相対する際も、かなりの困難を極めるはずだ。
そこで参考としたのが、『魔石多頭竜《マナタイトヒュドラ》』の鱗である。
あの鱗は、内側から魔力を注ぐことにより、
魔術化された魔力であっても吸収することができる。
その原理を用いることができれば、
『闘気』を引っぺがすことができるかもしれないのである。
ここで問題となるのが、たとえ魔力吸収魔術を完成させたところで、
実際に触れなければ効果がないという点である。
特に剣神流は一撃必殺の流派であるし、
剣神流でなくとも、のこのこと近づこうものなら、
目にもとまらぬ速さで、首ちょんぱである。
もし、『乱魔《ディスタブマジック》』を、単なる魔力放出ではなく、
魔力吸収魔術とすることができるのであれば。
この世界において人族は、個としては、
圧倒的に脆弱な種族である。
個の武力が求められる、七大列強のほとんどが人族でないのも当然である。
生物学的に勝てるわけがない。
それ故に、圧倒的な力で自らの土俵を創り上げている者たちが、
弱者の土俵へと引きずりおろされたとき。
それこそが俺の創り上げるルーデウス・グレイラットの戦い方である。
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そんなこんなで3歳児となった今現在であるが、
やっとこさ魔術のお披露目会である。
このタイミングでないと、冒険者家業のロキシーが家庭教師とならない可能性が高まるからだ。
ロキシーがいなければ、魔神語の習得が困難となるし、
ゼニス救出もままならないだろう。
なにより、俺もロキシーと結婚したい。
個人的に『無職転生』中、一番好きなキャラクターである。
原作ルーデウス自身もロキシーに対する思い入れはすごかった。
嫁~ズの中でも一番古い付き合いだし、
トラウマから救った恩人であり、先生だ。
まぁ合法ロリというのも大きいのだろう。
俺は違うけど。
そんなわけで、壁に水魔術をぶっ放すわけだが、
原作通り水砲の術なんぞ詠唱しようものなら、
今の俺だと、ブエナ村ごとぶっとばしてしまうだろう。
さも魔術教本に書いてある呪文を読んじゃいました、
と教本を開きつつ、
無詠唱の水流で壁に穴をあける。
「何事だ! うおあっ……」
原作通りの反応でやってきたのち、俺を気遣ってくれるパウロ。
ごめんよ、パウロ。わざとなんだ。
「ルディ、もしかして、この本に書いてあるのを声に出して読んじゃった?」
「ごめんなさい」
ごめんね、ゼニス。
でも読んだとは言っていないから、嘘はついてないよ。
文字を覚えるのに開いたきりだし。
そんなことを考えているうちに、パウロとゼニスが剣士の訓練をさせるか、魔術の訓練させるかで口論を始めた。
しばらく放っておき、リーリャが掃除を終えた段階で、
困ったような視線を送り、助けを求めてみる。
ちなみに、リーリャとの関係はすこぶる良い。
不気味がられていないし、少し物静かで、素直な子
といった評価である。たぶん。
パウロやゼニスが不在の時には、
貴族の作法を教えてもらっている程の仲だ。
伊達に、元後宮の近衛侍女ではない。
作法の教えを願った際、なぜそんなことを知りたがるのかと聞かれたが、
両親は話さないが、村の人たちを見ていると、両親の振る舞いが普通と違うことはわかる。
だから貴族の作法が必要になる時が来るかもしれない。
と説明すると、快く教えてくれた。
少し聡明にすぎるかな、とも思ったが、
リーリャ自身、優秀な人間なので、聡明な子は好きなのだろう。
ハイハイ期の赤ん坊が、読めないであろう本を開いていても、何も言われなかったし、
結果として、良い関係を築けている。
「午前中は魔術を学んで、午後から剣を学べばいいのでは?」
リーリャが俺の求めに応じて、場を収めてくれた。
ありがとリーリャ。このお礼はご懐妊の際にでも。