その間に、ジャポネのことを、女中から沢山教わった。
ジャポネは現在、高梨天皇家が国を統治する、封建国家となっており、
大村将軍家が、実際に政を行っている、幕府制国家である。
現在の今上天皇は、湊と云う女性と未来と云う女性が二人で統治しており、双子女皇と呼ばれている。
幕府の大村家は、大村武蔵守奈緒と云う女性が、取り仕切っているらしい。
各務原本家は、その大老というお役目を、代々担っているのだ。
お婿を他家から貰い家を継ぐ、女系社会なのである。
女性同士のパートナーも少なくなく、その場合には、どちらかが他家の人間と子を成すのだ。
その話を女中から聞いた吹雪以下四名は、大きな溜め息を吐いた。
中部警備府トップの同位体が、丸々国を治めていることになるのだ。
そんな中、夕立姫と二人っきりになった時雨は、夕立姫に意外な言葉をかけられた。
「時雨って、異世界人っぽい?」
「えっ?」
時雨は、目の前の女性が、意外に敏いことに気づいた。
「時雨のお家は断絶してて、子孫もいない筈だから、おかしいと思ってたっぽい」
「………」
どうするべきか逡巡していると、夕立姫は口元に指を当てる。
「折角のお友達に、悪いことはしないっぽい。それより、時雨のお話を聞きたいっぽい」
その純粋な目に、時雨は大きな溜め息を吐くと、結有の大事な人達の話をした。
女の子ばかりに好かれる時雨に、夕立姫も、
「私も、その一人に加わりたいっぽい!時雨は、分家にお嫁においでっぽい」
その言葉に、
「そうしたいのは山々ですが、僕は帰らなくてはいけませんから……」
「夕立姫も一緒に行くっぽい!」
各務原分家断絶の危機である。
飛行船の準備ができるのに、数週間はかかる為、
恙無く、時雨のお家継承の儀式と、どさくさに紛れて吹雪との婚姻の儀式を済ませると、
晴れて、各務原時雨分家の誕生である。
隣に、家来である村上の建設力で、お屋敷が建てられ、
時雨には大小が与えられ、吹雪には懐刀が与えられる。
メルフィは、お家の顧問魔術師と云うことになり、ほっぽちゃんと瑞希は、家来という立場になる。
二人は魔神扱いだが、ディオリア王国とジャポネ皇国に使いを出して、こちら側と証明する腕輪を身に着けている。
反乱した場合、両腕の腕輪がくっついて、動けなくなる、らしい。
ほっぽは不満顔だったが、瑞希がなんとか説得していた。
「一旦任せたぜ」
薄雲は、再び元の世界へと戻って行った。
―――――――――
同じ頃、いずも改二リペアでは、
「……と、いう訳なんだよ」
智紀の報告に、陽子は真剣に考えを巡らせる。
「こっちも、御蔵島に謎の建造物があって、ヨーロッパの地質になってる、と報告が来ているぞ」
「あっちで事故があって、魔神が現れたそうだ。あっちの魔神は深海棲艦だから、空間ごと入れ替わったな。へっぽこ召喚魔術師のホームランで」
その言葉に、智紀は犯人はあいつか、消えたMeTuberを探すことも、やることリストに増えたな。と、心の中でメモをしながら答える。
「双子の世界では、座標軸が一緒だったが、こちらでは座標軸がズレている訳か……そうなると、そのメルフィが特異点になるぞ」
「俺もそう考えてるんだが、あのダメルポを一人前の召喚士に育て上げなければ、どうしようもないな。今回も結有と恵奈が特異点とは限らねえからな」
それが難題だと、大きく溜め息を吐いている。
「それで、智紀はまたあっちの世界に行くのか?」
「それが、どういう訳かできなくなっててな。今、新井田とミナに状況を調べてもらってる」
智紀は、報告書を上げたら薄雲に戻り、あっちの世界に戻るつもりだった。
だが、薄雲化もできない上に、次元転移もできなくなっていた。
新井田博士によれば、安定している為、外からの干渉か、霊子コンデンサをショートさせるくらいの歪みが無いと厳しい、ということだった。
「ふむ……まあ、彼奴等が消えたMeTuberを発見したら、疑問を持ってくれるか」
そんな気楽なことを考えながら、一度休暇で名古屋に帰る智紀だった。
――――――――――
その頃、時雨と吹雪はフレーゲルの案内で、魔法学校を見に来ていた。
当然ながら、メルフィと瑞希とほっぽちゃんはお留守番である。
メルフィの起こした、魔神召喚事故の経緯を聞こう、と言う訳だった。
薄雲は?と聞かれた時雨は、彼女はフィレンツに帰った、と言うと、残念そうな顔をしていた。
メルフィの師匠である、ナスタージ導師の言葉によると、
元々、魔神召喚は禁忌であり、メルフィは魔神を召喚したのではなく、場所を召喚してしまった。
というのが、見解のようだった。
この場所と云う言葉が、時雨にはどうも引っ掛かっていた。
「そこに連れて行ってもらえませんか?」
「ああ、構わんよ」
導師の案内でその場所に着くと、サークル状に建物が切り取られており、地面が少し違っていた。
そして、保存の為に立入禁止の柵が囲ってあって、その地面に見覚えのあるものを発見した。
「これは……?」
盛り上がった塚から、何かが這い出た跡と共に、海兵旅団の部隊章が転がっていたのだ。
「全ての品物には「保存」の魔法を掛けてあるが、アレを知っているのか?」
「いえ……」
どこまで話すべきか迷った時雨は、結局部隊章のことは黙っていることにした。
何れにせよ、混乱の責任を取って、メルフィは放校となった、ということである。
その時、導師が、
「機械文明のアーティファクトを持った人間が現れたんだが、拘束する権限もなく、ジャポネに行く、と定期便に乗って行ってしまった。お金がないからと、ビデオカメラなるものを売っていったのだが、見るかね?」
「はい!」
カメラは充電切れになっていた為、持っていたモバイルバッテリーで起動を行った。ビデオには、消えたMeTuber「不可思議動画配信団」が、御蔵島を探索している様子が映っていた。
そして、件の場所に踏み入れた瞬間、サークル状に光の壁が現れ、三人のうち一人が外に取り残され、
風景が揺れた直後、ここの景色になって、地面から這い出た戦艦棲姫が現れたのを見ると、全力で逃げ出し、
魔法で戦っている者達の光景を、電池切れになるまで撮影していた。
つまり、消えたMeTuberの犯人は、メルフィだったのだ。
「結局、今度の異変は、全てダメルポが関わっていたのか……」
次に智紀が来た時に、連絡してもらおう、と思っていたが、それが思った以上に時間がかかることを、この時の時雨は知らない。
「結局、ジャポネに行って、特異点と思われるMeTuberを探さないとダメかぁ」
結有は、大きな溜め息を吐いた