rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

12 / 58
タツミーをヒロインにしてみるテスト②

(私とした事がこんな事になってしまうなんて……。麻帆良最強頭脳の名が泣くネ)

 

 お団子頭と三つ編みのツインテールが特徴的な少女――超鈴音は、暗闇の中に一人ポツリとただずんでいた。

 

 何が悪かったのだろうか。

 自分が『計画』を思いつき、実行したからだろうか?

 自分はあのまま、あの世界で生きていくべきだったのだろうか? 

 

 と、今さら考えても意味のない事を繰り返し考えていた。

 

(とにかく、なんとかして、『ここ』から出る方法を考えないといけないネ。でないと……)

 

 もしこのまま、自分が『ここ』に居続けたらどうなるのか。どうなってしまうのか。

 あまり考えたくない未来を避けるために、超鈴音は思考を続ける。

 

 

 

 

 それしか、今の彼女に出来ることはないのだから……。

 

 

 

 

 

『Phase.1 エンカウント』

 

 

 

 

 

 図らずも発生した『第二回 篠崎葵の自由をかけた逃走劇』は、今度は龍宮に軍配があがった。

 一度は龍宮を撒いた葵だったが、寮の自宅へと向かうルートを読まれて待ち伏せを受け、その後、再び狭い路地裏での逃走劇が繰り広げられる。

 結局、より路地裏を把握していた龍宮に追いつめられ、どこからか取りだした手錠を後ろ手にかけられ、そのまま部活へ連行されてしまった。

 

 

 

 その後、龍宮から副部長へ『篠崎葵が部活前に逃亡した』と報告されたことにより、本来ならば普段の3倍の特訓だったところをまさかの5倍にされ、絶望する葵の姿があったとかなかったとか。

 

 今はすでに特訓も終えて夜も回り、葵は特訓の監督と言うことで残っていた部長、副部長と龍宮の4人で片づけを終えて部室練にある休憩室で休んでいた。

 

「おのれ龍宮……おのれぇ……鬼教官め……」

 

「大丈夫かい葵先輩? 傍から見ても分かるくらいにボロボロに疲れているが」

 

「くそ……今度があったら逃げ切ってやる……」

 

 備え付きのベンチに寄りかかって『ぐでー』という擬音さえ見えそうな程に疲弊している葵に、龍宮は苦笑しながらドリンクを差し入れていた。

 

「ハッハッハ! なんだかんだでちゃんと特訓についてきてるじゃねーか! 篠崎、体力さえ戻ったら、後は龍宮に技術を叩きこんでもらえ。そうしたら直にレギュラーだ! どういう訳か、お前、運動神経はかなり良くなっているみたいだからな!!」

 

 葵の正面のベンチに腰掛けて笑いながらペットボトルを傾けているのは、バイアスロン部が誇る鬼教官。副部長の佐々木直人だ。

 そしてその横で苦笑を浮かべているのがバイアスロン部部長の芹沢である。

 

「篠崎君は、本当に見違えるように成長していってるからね。本当にすぐにレギュラーになれると思うよ」

 

「その前にこの特訓で死にそうなんですが……。佐々木副部長と龍宮の二人のしごきがどれだけきついか……っ! 鞭だけではなくて、たまには飴も欲しいんです部長!」

 

 葵がそれはもう必死といった顔で訴えるのに対して、芹沢は苦笑いをして『あぁ、まぁ、がんばってくれ』とだけ言って、曖昧に言葉を濁す。

 

(ま、前から思ってたけど……俺ひょっとして嫌われてんのかな?)

 

 芹沢は、以前からどこか葵に対して余所余所しい所があった。

 

(まぁ、龍宮の事に関してなんだろうけど……)

 

 正直葵は、芹沢部長が自分の友人である龍宮真名に好意を持っている事に薄々感づいていた。

 感づいてはいるのだが、それに対してどう動けばいいのかが分からなかった。

 遠まわしに、これから部長とどう接していけばいいか芹沢部長と仲が良い副部長に聞いてみると。

 

 

 

『あー、うん。まぁ……頑張れ?』

 

 

 

――欠片も頼りにならなかった。

 

 龍宮にも遠まわしに聞いてみようかとも考えた葵だが、なんとなく止めておいた。

 めんどくさい事になりそうな気配を感じたからである。

 

 結局参考になる意見は聞けなかった。そのために葵は、芹沢との距離を今も測り損ねていた。

 もういっその事、芹沢本人に、自分は龍宮との間に含むものは何もありません。むしろ頑張ってください。

 とでも言おうかとも思ったのだが、どうもしっくりこないためにこれも却下。

 

 

―― どうしっくり来ないのかは、葵本人ですら、よく分かっていなかったが……。

 

 

 結局、今日も余り深入りは出来なかったため、葵はその後龍宮が振ってきた話題 ―― 先月に赴任してきた龍宮のクラス担任の子供先生や、またはクラスメートが起こしたドタバタ劇等について、面白おかしく聞いたり話したり、ツッコミを入れたりしていた。

 そうこうしている内に、だいぶ夜も更け、解散することになった。

 

「さて、もう夜も遅いし……。龍宮君、よかったら送っていくよ」

 

 こういう台詞を、嫌味を感じさせずにスッと出せる辺り、芹沢と言う男は紳士である。

 

「ありがとうございます芹沢部長。それじゃあ、先に外に出ていますね?」

 

 

―― まじで部長、頑張ってるんだな……。しかし龍宮狙いとは……。

 

 勇気があるなぁ……。と、葵はぼんやりと考える。

 一方、芹沢はどこか嬉しそうにソワソワしている。

 そして佐々木副部長は、葵と芹沢を交互にみて、とても深いため息をついたのだった。

 

 

 軽くこちらに手を振り、休憩室から出ていく龍宮を眺めながら、このままここにいても気まずいだけだと、考えた葵は立ち上がった。

 

「やれやれ、それでは俺もそろそろ帰ります。明日が休日とはいえ、あんまり遅くなってもあれですし」

 

 明日は部活も何もないし、特に学校の課題が出ているわけでもない。

 一日中寮の部屋でダラダラとしよう。と、しょうもない決意を葵が心の中でしていると、

 

「おう篠崎、お前には明日も一応軽く流す程度の練習を用意してるからな。龍宮に迎えに行かせるぞー」

 

 副部長からの『待った』が入った。

 

「いや。いやいや。いやいやいやちょっと待ってください佐々木副部長。人間には休息というものが必要不可欠だと俺は思うんですよ。というわけで――」

 

「あぁ、まぁ……疲れているんなら来なくても構わんぞ?」

 

「え、まじですか!?」

 

 鬼教官から出た思わぬ言葉に、葵は少し驚き、

 

「その代わり龍宮が全力でお前を見つけ出して引っ張ってくる」

 

「ちょ」

 

 一瞬でも甘い考えを持った自分自身を全力でぶん殴りたい気持ちになった。

 

「ちなみに、俺はお前が逃げ切る方に学食ランチの割引チケット5枚賭けている。いいか、絶対に逃げ切れよ? ちなみにあそこで上機嫌になってる馬鹿は龍宮に賭けてるらしいからな。いいな、繰り返すが絶対に逃げ切れよ?」

 

「何勝手に人を賭けごとのダシにしてるんですか!? というかそれって明日も追いかけられる事が確定してるじゃないですか!!!」

 

「お前には期待しているぞ。開始時刻は明日の朝9時からだ。お前の勝利条件はそこから2時間逃げ回ること。スタート地点は好きにしていいらしいぞ。龍宮も張り切ってたからな」

 

「もうそれ副部長としての言葉じゃないですよね!? どっちかっていうとトトカルチョ運営委員会的な何かの会長になってますよね!? そして賭けの対象にされてる俺は何も知らされてないんですけど!!?」

 

 まさかとは思うが、今日の賭けを煽ったのはこの男なんじゃないだろうか、と邪推してしまう葵。

 

 

 ―― あぁ、明日は、普通に部活に顔を出そうしたら、龍宮じゃなくて副部長に襲撃されそうだなぁ。それか特訓5倍とか……

 

 

 『期待しているからな? 本当に期待しているからな? なんせ皆龍宮に賭けて、お前は大穴なんだ!!』などという戯言をのたまいながらすごい力で肩を掴んで揺さぶってくる副部長に対して、葵は軽蔑に近い眼差しを向けながら、頭の中で明日いかにして逃走するかを頭の中でシュミレートしていた。

 

 

 

 

―― ていうか、これもう素直に部活に出て特訓受けた方が疲れ少ないんじゃないかな……。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「あー、畜生。マジで疲れた」

 

 葵は、あの後、副部長に対して『ええ』とか『はい』とか適当に返事をしてあしらった後、自分の寮へと帰りながら、これから先の事について考えていた。

 未だ欠片も戻る気配のない『篠崎葵』の記憶について――仮に戻らないままだとして、これから先どのようにして生きるのか。

 自分を引き取ると言ってくる親戚連中にどう対応すればいいのか、『篠崎葵』やその両親のお金にはあんまり手をつけたくないので、そろそろバイトもするべきかな……とか。

 他にも掛け持ちをしていたらしい部活をどうするか、ついでに、クラスメイトと距離を縮めたいような縮めたくないようなこの微妙な気持ちをどうすればいいのだろう? あと副部長死ね等――

 結構どうでもいいようなものから深刻なものまで、悩みの種だけは大量にある葵だった。

 

 

「記憶は消えているのに、しがらみだけは未だに残っているとはこれいかに……ってね」

 

 

 なんとなく一人でつぶやいて、それから無性に恥ずかしくなって、辺りに誰かいないかキョロキョロしだす。恥ずかしいというより微妙に情けない姿だった。

 自分の恥ずかしさをごまかすためか、葵はなんとなく今日買ったスキーウェアが入っていた紙袋の中身を探ってみる。

 別に何も入っていないだろうと思っていたのだが指先に何かが当る感触を感じて、中を覗き込むと、そこには見覚えのある一本のリボンがあった。

 

「これ、龍宮がいつも着けてるリボン? あれ、なんで入ってんだ?」

 

 部活の際、龍宮はいつも両サイドをくくってあるリボンを外して、一本で自分の長い黒髪を後ろで束ねてもう一本を外していた。

 そういえば龍宮が休憩室を出ていった時も髪を束ねたままだったと、葵は先ほどの事を思い出した。

 

 

 

―― どこで入り込んだのやら……。

 

 

 葵は明日になって返そうかと一瞬思ったのだが、よく考えたら明日はその龍宮から全力で追われるという有り難くないイベントがある事を思い出した。

 

―― 鬼教官の言い方からして、明日はどうも問答無用っぽいんだよなぁ。かなりの人数が賭けに参加してるっぽいし。ちくしょう、佐々木(副部長)の野郎、禿げろ!!

 

 葵は、頭の中で副部長に対していつか仕返しをしてやるという決意を固めながら、とりあえずこのリボンを女子寮まで持って行って管理人に預けておこうという結論に達する。

 ただ、その際に葵が気をつけておきたいことは――

 

 

「ここからだと……桜通りを回っていけば部長と龍宮には出くわさないか?」

 

 

 ただでさえ芹沢部長とは微妙な距離になっているのに、ここで恋路を邪魔しようものならますますややこしい事になるだろうと考えた葵は、早速桜通りへと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

―― 少し、龍宮とは距離を置いた方がいいのかなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 空を見上げると、それは綺麗な満月が空に輝いていた。

 ここ最近、というより退院して麻帆良に来てから、ゆっくりと空を見上げた事など一度しかなかったかもしれない。

 と、葵はふと思った。その一度の時こそが、

 

 

 

 

―― そういや、龍宮と初めて会った時も、月の綺麗な夜だったっけ

 

 

 

 

 葵が初めて龍宮真名と出会ったのは、バイアスロン部に入るもっと前……麻帆良へと戻って来た二日後だった。

 周りにいた人間の腫れ物に触るような態度にどうしてもなじめず、『篠崎葵』を知っている人間を避けるようになった日でもあった。

 

(あの日は確か、……あぁそうだ。どういう訳か人が怪我して倒れてて、その傍に龍宮がいて……無茶苦茶ビビってたら、いきなりアイツに名前呼ばれて……ん?)

 

 

 龍宮との出会いがどのようなものだったか思い出そうとした葵だったが、その思考を中断せざるを得なくなった。

 

 

 なぜなら――

 

 

 

 

(おいおい……あの時の焼き直しかよ?)

 

 

 

 

 葵の目の前に、顔を真っ青にした女生徒が倒れていたからだ。

 それは、先ほどまで頭の中で思い出していた、かつて龍宮と出会った時と同じような光景だった。

 あの時と違うのは、倒れている人間が血まみれではない事。

 そして、その隣にいるのはいつも笑顔でこちらをからかってくる彼女ではなく――

 

 

 

「ほう、一応人払いは掛けていたはずだったのだが……。まさか人が、それも男が迷い込んでくるとはな……」

 

 

 

 

 今日の綺麗な満月にも劣らない、美しい金色の髪をなびかせて

 

 

 

 

 

「こんな美しい月夜だ。美しい蝶にまぎれて、蛾が迷い込む事もあるだろうが……」

 

 

 

 

 

 

 

「運が悪かったな。迷い込んだ哀れな蛾よ。残念ながらお前が迷い込んだここは――」

 

 

 

 

 

 

 

―― 私の狩り場なのだよ

 

 

 

 

 

 

 

 美しい少女が一人、全てを威圧するかのような雰囲気を纏い立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。