rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

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タツミーをヒロインにしてみるテスト⑤

 今日は土曜日。学生にとっては待ちに待った二連休の始まり――

 

 

 

 

 

――の、はずだった。

 

 

「どうしてこうなった? あぁ、昨日龍宮と全力で追いかけっこをしたのがそもそもの間違いだったのか?」

 

 

 時刻は午前7時を廻った所。

 本来ならば、今頃は昨日の疲れを癒すために未だ惰眠をむさぼっているはずの葵がいるのは、麻帆良学園の中でも最も深い森として知られる場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『Phase.4 片鱗』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲーム開始まであと2時間か。畜生、龍宮の奴昨日の事で怒ってんのか? そっちが怒ってんならこっちは泣きたいっつーのに……」

 

 そもそも、こんなに早く葵が動いているのには理由がある。

 昨晩は、放課後には龍宮に追いかけられ、そして部活に連行されてシゴかれて、さらにその後には『真祖の吸血鬼』というよくわからないがとにかくヤバい相手との精神をガリガリ削るような『話し合い』をしたおかげで、葵は体力も精神力も使い果たしていた。

 この時点で葵は『正直、明日の逃走劇はもう捕まってもいいからとにかく寝よう』という気持ちだったのだ。

 それほどに疲弊していた彼を突き動かしたのは――

 

 

 

――ダンッ!!!

 

 

 

 いざ葵が寝ようとした時、彼の枕に開けていた窓の外から風を斬る音と共に突き刺さった一本の矢だった。

 

 

「ちょ………っ!!?」

 

 

 葵は驚いた。それはもう驚いた。正直、先ほどの吸血鬼が気分が変わって自分の血を吸いに来たのかと、手元に置いてあったカッターを掴んで窓の外を注視する。

 しかし、待っても待っても何も来ない。

 おかしいと思って葵が、自分の愛用の枕に突き刺さってる矢を、――いや、よくよく見てみると、よく出来ているが矢じりの先に粘着物のような物がついている偽物の矢だった。

 偽物とわかり、それでも警戒を緩めず矢を手にとって調べると、何か紙が結ばれているのがわかった。

 葵は、窓に注意を払いながらその紙を広げてみる。どうやらメモ帳の1ページを破ったもののようだ。

 そこに書かれている文字は見覚えのある筆跡――龍宮の字だった。

 連絡手段にまさかの矢文がチョイスされたあたり、碌な内容ではないんだろうなと葵は辺りを付ける。

 

 

 

 そしてそれは正しかった。

 

 

 

 

 

 

 

―― 『明日は全力で逃げる事。もし、手を抜いたり、あっさり捕まるようなら――』

 

 

 

 

 

 

――そこから先は、ちょうど破れていて読めなかった。

 

 

 

 

 正直、軽くホラーである。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 思わず、実は裏側に続きが書いてあるんじゃないかと紙を何度も裏返すが、書かれている文字はそれだけであった。

 

 

「こえーよ!!! え、なに、捕まったら俺どうなっちゃうの!? 死ぬの!!? 殺されんの??!! 俺そんなにお前に悪い事したっけ!!?」

 

 

 実際の所、葵が彼自身の身に危険が迫っている可能性があるというのに、自分に隠し事をした事が気に入らなかった龍宮が、葵に対する軽い嫌がらせとして、わざと書いた内容の部分――つまり『なんでも一つ言うことを聞いてもらう』と書かれたあった部分を破り捨てたのだが、その効果はてきめんだった。

 

 葵は、それから何も言わずに辺りを警戒しながら窓を閉めて、ついでにカーテンも閉めた。そしてマットをベッドの上から床に下ろし、なるだけ壁に張り付いて布団に包まる。

 

 

 ようは無茶苦茶ビビってた。

 

 

 

―― 俺の平穏ってどこにいったんだろう?

 

 

 

 内心で涙を流しながら、葵は明日意地でも逃げ切ることを決意する。

 

 

 そして、話は冒頭に戻る。

 既に葵は2時間前からここにいた。

 完全に逃げ切るために、山を舞台にしてある種の砦にしようと考えたのだ。

 逃走路や龍宮の侵入経路などをシミュレートし、2時間という制限時間も考慮して頭の中で計画を立てながら、それに沿って罠を仕掛けていく。

 

 こうして龍宮に対抗するための策を練りながらも、頭の中を占めるのは、今日の夜の事。

 ――『真祖の吸血鬼』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルとの会談についてだった。

 結局、昨晩はあの後、『魔法』と言う物が実在するという事を教えられただけだった。魔法も含めて、エヴァンジェリンの存在について更に情報を得ようとしたら、彼女は『明日の夜に私の家に招待しよう。なに、使いの者は寄こしてやるから着いてこい。きちんと持て成してやろう』とだけ言い、そのまま空を飛んでどこかへと行ってしまった。

 葵と女生徒を、置き去りにしてだ。

 

(ちくしょう、勝手に用件だけ押しつけやがって……。まぁ、見逃してもらってるって事もあるから強くは言えんが)

 

 軽く毒づきながら、葵は罠を仕掛けていく。

 最も、龍宮が引っかかることはないだろうと思っている。

 罠はあくまで時間稼ぎ、及び逃走時の相手への軽い妨害用。

 本当に勝負となるのは、如何に自分が的確なルートを選んで走り続けられるかだろう。

 昨日のように、逃走ルートを読まれて待ち伏せを喰らいましたでは洒落にならない。

 いや、今回は本当に。

 

(俺が昨日の件で隠している事があるって気がついてるんだろうな。まぁ、嘘にしては随分とアレだったけどさ。そうじゃなきゃアイツを怒らせた理由なんざ思いつかない。……あ、ひょっとして昨日、芹沢部長といい雰囲気だったのか?)

 

 最近はそういう素振りを全く見せないが、自分が部活に参加しだした頃は微妙に芹沢部長と龍宮の距離が近かったことを葵は思い出して、なんとなくため息をつく。

 

 

「めんどくさい事になりそうだよな。いや、いろんな意味でさ」

 

 

 なんにせよ、今日は逃げ切れなければならない。

 龍宮との追いかけっこの後には、吸血鬼との個人面談がある。

 昨日に引き続き、今日もまた濃い一日になりそうだと、葵は今日何度目かのため息をつく。

 ふと、時計を見ると既に15分前になっていた。

 いよいよかと覚悟を決めながらも最後の調整をしようと、ふと後ろを振り返る。――

 

 

「…………おい」

「なんだ、篠崎葵?」

「なんでお前がここにいるんだ。もう日は昇ってるんだぞ吸血鬼」

 

 

 昨日相対した少女が――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがそこにいた。

 

 

「ふん、私の言葉を忘れたのか。言っただろう? 『真祖の吸血鬼』だと」

 

 

 何を今さらとでも言いたげに胸を張るエヴァに対して、葵はこめかみを引きつらせながら、

 

 

「魔法使い達と一緒にするんじゃねーよ。そっちの世界の常識は一切知らないっつの。そもそも『真祖の吸血鬼』が何かを聞こうとした途端に、てめぇ一方的に用件だけ押しつけて真っ直ぐ帰ったじゃねーか」

「帰っておらん。他の女を襲いに行っていた」

「そんな情報どうでもいいわ!!」

 

 

 地団太を踏みながらの葵の抗議に対して、エヴァンジェリンは『それこそそんなことはどうでもいい』とばっさり切り捨て話を続ける。

 

 

「聞いたぞ。貴様、あの龍宮真名とこれから闘うそうだな?」

「なんでそんな物騒な方向に話がいくんだよ。2時間逃げ切るだけだ……ん? 龍宮を知っているのか?」

 

 

 ふと気になって尋ねると、彼女はまるで昨夜のような笑みを浮かべ、

 

 

「あぁ、よく知っているともさ。なにせ、あいつは『有名』だからな」

 

 

 と、何か含む物がありますと言いたげな口調で返してきた。

 どういうことか葵が尋ねようとすると、エヴァンジェリンはどこか遠くの方を見てにんまりと笑う。

 

 

「ほう、そろそろ始まるようだな。あぁ、そうだ。私はお前の勝利に行きつけの店の割引チケットを20枚賭けているんだ。万が一にでも無様に負けてみろ……わかっているな?」

 

 

 そういうとエヴァンジェリンは、自分の指を二本立て、それを鍵爪のようにした後に、――恐らくは自分の牙に見立てているのであろうそれを、自分の首元にトンっと立てて見せる。

 

 それが意味するのは、つまり……そういう事であった。

 

 

「なんでお前も龍宮も、ただの部活参加を賭けた追いかけっこに死亡フラグを突き刺していくんだ!? てかお前も賭けたのかよ!!」

「クックック。それでは、私はそろそろ行くぞ。篠崎葵、私を楽しませろよ?」

 

 

 昨日と同じように言いたいことだけを言うと、エヴァンジェリンは高笑いをしながらそのままどこかへと歩いて去って行った。

 

 

(あの野郎、ちゃっかり罠の位置全部見切ってやがる……)

 

 

 エヴァがすいすいと罠のない位置に足を置いて行くのを見て、ドッと疲れが出る葵だった。

 とりあえず傍に生えている木に体を預けて、時計を見る。

 

 

(開始まで後5秒……4……3……2……1……0)

 

 

 カウントが0になって、葵はその場に座り込む。

 さて、龍宮はどこから侵入してくるか――

 

 

 

 

 

―― バキンッ!!!

 

 

 

 

 

(――ん?)

 

 

 妙な音がした事に葵が異変を感じると同時に、葵の目の前に木の幹が落ちてくる。

 

 

(……はい?)

 

 

 音がした方――つまり上に顔を向けると、木の幹が何かに当り吹き飛ばされていた。

 

―― 先ほどまで、だいたい自分の頭があった位置の幹が

 

 ふと、先ほどエヴァンジェリンが見ていた方向を思い出してそちらに目をやる。

 そこにあるのは、それほど高いとはいえない山があるだけだ。

 そう思った葵だが、その山の一部で、何かがキラッと光ったのが目に入った瞬間、反射的にそこから飛びのいた。

 

 

―― ダン! ダン! ダン!

 

 

 それと同時に、葵が座っていたあたりの土が弾け、木の幹や根が吹き飛ぶ。

 

 

「ちょ、ちょっと待ておいこら……っ」

 

 

 思わず悪態をつく葵だがすぐにそれどころではないと思い当り、一気に森の中を走り抜ける。その後ろを追ってくるかのように、枝が、樹皮が、葉が恐ろしい勢いで吹き飛んでいく。

 

 

―― ダンッ!

 

―― ダンッ! ダンッ!

 

―― ダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!!!!

 

 

「あの野郎、追いかけっこで全然追いかけてきてねぇ!!!」

 

 背後から迫りくる銃弾。

 訂正、たまに冗談抜きで当りそうになる銃弾をギリギリの所で回避しながら、葵は心の底から声を出す。

 

 

「龍宮のぉ……馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

 

 

 なんだかやるせない気持ちになりながら、葵は森の中を駆け抜けていく。

 頬に雫のような物が見えるのは……気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 龍宮真名は狙撃用ライフルのスコープを通して、疲れたように木にもたれかかって、開始時刻を待っているのであろう葵を見ながらつい先ほどの出来ごとを思い返していた。

 

 

(どうして『彼女』が葵先輩に接触を?)

 

 

 葵の事だから、恐らくは単純に街中を逃げ回ろうとはせずどこか彼にとって有利になる場所から始まると龍宮は予測していた。

 そこで彼女は、当てはまるポイントにいくつか当てを付け、開始前に下見を行っていたら偶然葵を発見したのだ。

 すぐに戻って、装備を整えた龍宮は、少し離れた所から、監視を続けていた。

 

 恐らくは、逃走補助のためと思われる数々の罠――仕掛け網や粘着物のついた釣り天井等を森の中に仕掛けていく葵の姿をスコープ越しに見ながら、龍宮はほくそ笑んだ。

 昨晩の伝言を守って、どうやら彼は本気で逃げ切るつもりのようだと。

 

 そのまま監視を続け、狙撃ポイントや突入経路を決めていたら、ふと葵が罠を設置している所から少し離れた所に、見知った顔があるのに気がついた。

 自分のクラスメートでもあり、また魔法使いならば誰もがその名を知っている存在『真祖の吸血鬼』―― エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 今でこそこの学園に呪いで縛りつけられているが、間違いなく世界最強の魔法使いの一人である。

 

 気になってそのままスコープ越しに覗いていると、エヴァンジェリンは脚を進めて彼の後ろに立った。

 彼もその存在に気が付き、振り向いて何事か話している。

 さすがにこの距離では会話は聞きとれないが、妙に親しく話している気がする。

 はて、あの二人に接点などあっただろうか?

 

 ふと龍宮の脳裏を掠めたのは、昨夜の葵の体に残っていた魔力反応。

 『闇の福音』は氷と闇属性が得意だと聞いているが、風魔法も使えない訳ではない。

 そして昨日は、ある程度は力を取り戻せる満月。

 妙に親しげなのが引っかかるが、ひょっとして昨晩葵先輩を襲ったのは――

 

 そう考えた瞬間、龍宮は無意識のうちにサイトスコープの中心をエヴァンジェリンに合わせていた。

 恐らくそれに気がついたのであろう。エヴァンジェリンがスコープ越しに、笑みを浮かべながらこちらを見ている。

 まるで、撃てるものなら撃ってみろとでも言わんばかりの態度だ。

 このまま引き金を引こうかとも思ったが、仮に直撃したとしても何の意味もないと龍宮は思い直す。

 そうしている内に、エヴァンジェリンも葵との話を終えたのか高笑いしながら去っていく。

 自然とエヴァンジェリンの後をスコープで追っていくと彼女は突然振り返り、スコープ越しに龍宮を見て何か口を動かしそして森の中へと消えて行った。

 

 龍宮は、彼女の口の動きから何を言っていたのかを当てはめていく。

 

 彼女の放った言葉は――

 

 

(セ・イ・ゼ・イ・ガ・ン・バ・レ……? ほう……)

 

 

 あからさまな自分への挑発だった。

 龍宮はこめかみの辺りが引きつっていくのを感じる。

 ついでに言うなら、胸の中で正体不明のドス黒い何かが暴れまわっている事もだ。

 

 

(なるほどなるほど、よくは分からないが葵先輩には聞くことがたくさん出来てしまったな。いやいや、本当にあなたという人は……飽きさせてくれないなぁ……っ)

 

 

 自然と銃を構える手に、ついでに引き金に添えてある指にも力が入る。

 ゲームの開始まで、残り5秒。再びサイトスコープに葵を捕らえる。

 どこから私が侵入してくるのかと、木にもたれながら思考を巡らせているのであろうその顔を見た瞬間に即座に引き金を引いて、その横顔をぶっ飛ばしたくなる龍宮だが、そこをなんとか堪え、カウントしていく。

 

 

(3秒前……2……1……)

 

 

 そして0になった瞬間、龍宮のしていた腕時計がアラームを発する。

 それと同時に、龍宮は引き金を引く。だが、その瞬間葵はその場に座り込んでしまう。

 それまで、葵の頭があった所の樹皮が吹き飛び葵がそれに気がつく、

 

 

「くっ……悪運が強い辺りは、さすが先輩か!」

 

 

 褒めてるんだか貶しているのだか分からない言葉を吐き捨てながら、即座に狙いを定め直して3発打ち込む。

 だが、葵は見事な反応速度でそれを回避し、そのまま森の奥へと駆けていく。

 もっとも、足場が悪いのに加えて無理な体勢で駆けだそうとしたからだろうか。スタートダッシュが街中での時に比べて僅かだが遅い。

 逃がさないとばかりに次々に狙いを定めて打ち込む龍宮だが、一度奥に入り込まれてしまっては、木々が邪魔をして思うように当らない。

これが普通の平地や、もしくは街中だったらそれでも当てる方法はある。

 牽制による移動方向への誘導や、あるいは兆弾による攻撃。だが、この地形ではそれが思うように出来ない。

 気がついたら、葵は森の奥へと姿を消していった。

 

 

「最初の狙撃で全てを決めるつもりだったが……」

 

 

 最初の狙撃は、葵本人の悪運によって外れてしまった。しかし、それでも、その後の3発は確実に決まっていたはずなのだ。

 

 

『昨日までの篠崎葵の動き』ならば……。

 

 

 少なくとも、体力や筋力は昨日の追走劇の時と変わりはない。むしろ、筋肉痛にでも苛まれているのか一部の動きは鈍い方だ。だが、

 

 

(それをカバーするほどに、全体の体の動かし方が昨日よりも僅かに上手くなっている?)

 

 

 僅かに向上した瞬発力に、少しでもそれに答えるために体の動きの無駄を減らし、身体のバネを上手く使って高低差のある地形を駆け抜けていく。

 

 ほんの僅かな事だとしても、たった1日で向上できるようなものではない。

 それに気がついた龍宮は、知らず知らずのうちに、唇を少し噛みしめる。

先ほどまで頭の中に、僅かとはいえ確かにあった『慢心』など吹き飛んでいた。

 

「貴方相手に、一瞬とはいえ勝負が決まらないうちに勝ったなどと思うなんて……。それで初めての追走戦の時に先輩には逃げられているというのに。ハハ……私もまだまだ未熟だったという訳か」

 

 

 

 

―― もう決して油断はしない。直接この手で貴方を捕まえるまで全力を尽くさせてもらおう。

 

 

 

 静かにそう決意した龍宮は、銃を構えて森の中へと足を向けた。

 

 

 

 

 

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