rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

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タツミーをヒロインにしてみるテスト⑦

 静寂が漂う森の中、葵と龍宮の二人はついに対峙する。

 

「ようやく覚悟を決めてくれたのかい? 葵先輩」

 

 そう言って、龍宮は手にしている銃を、葵に向けて照準を合わせる。

 

「前々から思ってたけど、やっぱ銃って怖いわ。いやマジで」

 

 そう軽口をたたきながら、龍宮から目を離さない葵。龍宮も、迂闊に動けば逃げられると感じているのか、様子をうかがいながら、静かに距離を詰めようとしている。

 

 かつての逃走劇では一度も感じなかった、緊張感に、葵は押しつぶされそうだった。

 

(これ、エヴァンジェリンと睨みあった時並みにきっついなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

『Phase.6 覚醒』

 

 

 

 

 

 

 

 軽口を叩く葵に対して、龍宮は、その目をしっかりと見つめ返しながら、口を開く。

 

「さっきから、直撃コースの銃弾を躱し続けている先輩がそんなこと言ってもね」

「いやいや、障害物が多いコースを選んで走り回ってるだけだよ。それに、何回お前の銃撃を喰らってると思ってるんだ。昨日の時点で風斬る音で反応するようになってきたんだぞ」

 

 ちなみに本当である。先ほどの狙撃の際も、風斬り音に加えて、先に当った葉や枝の音を頼りに勘で躱し続けていたのだ。昨日までは反応するだけで、なんだかんだで当っていたが、今日はどういう訳かその反応に体が追いついてこれたのだ。

 龍宮も、その言葉に嘘がないと分かったのか、呆れたような顔になる。

 

「先輩、貴方は本当に、最近少しずつ人間を止めてきていないか?」

「え、なにそれこわい。俺、どっからどう見ても普通の一般人だろ?」

「…………」

「龍宮。お願いだからその可哀そうな物を見る目は止めてくれ。マジで心が折れそうになる」

「……先輩、今度一緒に、どこかに遠出しようか。その……麻帆良の外ならどこでもいいよ?」

「え、なにその心を抉る優しさ。俺って麻帆良に染まってきてんの?」

 

 龍宮の思わぬ提案と思いやりに、結構本気で落ち込みだす葵。さすがに此処にきて、龍宮から目を逸らすことはしないが、今すぐに部屋に戻り、布団に包まって小一時間、自分の存在について考え直したい気分になっていた。

 

「まぁ、それはさておき……。さて、このままいつものように会話を続けているのもいいんだが、私としても先輩には聞きたいことが山の用にあってね。降参してくれないかい? 話は副部長との特訓の後でじっくりさせてもらうからね」

「あー、やっぱり?」

 

 やはり昨日のことだったか。と、葵は内心呟く。

 

(つまり、龍宮の言う『一つ言うことを聞け』というのは……)

 

 大体の内容を察しながら、葵は龍宮との会話を続ける。

 

「むしろ、あんな嘘でどうやって騙されろって言うんだい?」

「朝倉はともかく、芹沢部長は納得してたぞ?」

「……すまない。ここは麻帆良だからね」

「麻帆良すげーな。何が起こっても、大体はその一言で解決していくぞ」

 

 雑談を続けながら、葵は、後ろの樹木から垂れている、ツタに偽装したロープを後ろ手でソッと掴む。

 

「それで、先輩どうする? 今ここで降参してくれるなら、質問する際に私も少し優しくなれるかもよ?」

「確定じゃないのかよ。なんで疑問符つけた」

 

 未だに龍宮はアクションを見せない。彼女も下手に動くべきじゃないと思っているのか。とにかく、葵にとっては、最後のチャンスだった。

 

「てゆーか、お前、俺を捕まえるのに、気合い入りすぎだろ。狙撃までしてきやがってコノヤロウ」

 

 いつも通りに、不自然さを出さないように龍宮に文句を付けながら、

 

 

―― 葵はそのロープを引っ張った。

 

 

 

 

 

 葵がロープを引っ張るのと同時に、ちょうど龍宮の真上からバキバキっと、小枝が折れていく音がする。

 

「やはり、何か仕掛けてあったか!」

 

 即座に龍宮は、その場を飛びのく。それと同時に、龍宮がいた所の少し前らへんに、石を大量に詰めた大きなずた袋が落ちてくる。

 

(これが狙いだった? いや、違う……っ!)

 

 すぐに龍宮は、葵がいた所に狙いを定めるが、その姿は既に消えていた。だが、気配は同じ所から感じていた。

 

「そうか、上か!」

 

 龍宮が上を見上げると、そこには、ツタに偽装したロープに捕まって、木の上まで登っていた葵の姿が在った。そのロープは、途中で、樹に突き刺してある鉄棒のような物に引っかかっており、そのまま伝うと、先ほど落ちてきたずた袋につながっている。

 

「あの石が詰まったツタ袋は、あくまで重石だったのか!!」

 

 龍宮は、即座に持っていた拳銃で、葵を狙い発砲するが、それを避けた葵は、枝の上にしゃがんで、何かをいじくっている。そして、再び立ち上がったかと思うと、両手に、今度は違うロープを持っている。そのロープは少し離れた、もっと高い樹へと続いている。

 思わず、龍宮は不敵な笑みを浮かべ、真っ直ぐに拳銃で葵を狙う。

 

「先輩っ!! 本当に貴方は逃げるのが上手だな!!」

「最高の褒め言葉だよ、龍宮ぁ!」

 

 葵は、そう叫ぶと同時に乗っかっていた枝を蹴り、ターザンよろしくロープを使って遠くの方へと飛ぼうとしている。だが――

 

「確かに、貴方にこういったおもちゃで直撃させるのは至難の業かもしれないが……」

 

 龍宮は、狙いをロープに定める。

 

「狙う場所なんていくらでもあるんだよ、先輩!!」

 

 そう言うのと同時に龍宮は引き金を3回引き、ロープを弾き飛ばす。恐らく、葵も気にしていたところなのだろう、ロープは3重に巻かれていたが、それでも龍宮の射撃には耐えられなかった。

 『ブチンッ!』という音と共に、ロープと一緒に葵は地面へと墜ちて行く。葵も薄々予測はしていたのか、「ぬっふぇ!」と奇妙な声を上げて少し慌てながら、地面を転がって落下の衝撃を殺して、即座に立ちあがる。

 

(もう時間がない。捕らえるならここだ!)

 

 葵が使った『活歩』のそれを上回る、気を用いた移動法、『瞬動術』を使い、一気に距離を詰めようとする龍宮。瞬動術のために気を練り、足に纏わせ、技に『入った』――瞬間、離れた所にいる葵と、眼が合った気がした。

 

(――まずいっ!)

 

 仮に活歩を使えるような人間でも、かなりの上級者――それこそ達人クラスの人間でなければ、自分の瞬動術には対抗できない。葵には絶対に反応できない。龍宮には、その自信があったが、彼女の直感は、まったく逆の事を告げていた。だが、既に龍宮は、技に入ってしまっている。

 

(このまま、押し切るしかない!)

 

 瞬動術により、龍宮の視界に入る全てが一瞬で過ぎ去っていき、一瞬で葵の目の前に到着する。この時点で、すでに龍宮は、拳銃を葵に突き付けている。が、到着した途端に、右足に鈍い痛みが走った。

 

「なんだかよく分からんが、警戒しといて正解みたいだったな!」

 

 そう叫ぶ葵は、足を無造作に突き出していた。その足がちょうど右足に当ってしまったのだ。瞬動術による加速を、そのままカウンターに利用され、思わず態勢を崩す龍宮。それを狙っていたかのように、葵は、背筋のバネを使って飛び上がり、龍宮の間合いに踏み込む。

 

 

 瞬間、学生の龍宮ではなく、傭兵としての龍宮の本能が働いた。

 

 恐らくは、龍宮の腕を掴んで、引きずり倒そうとしているのだろう葵に対して、龍宮は、彼が伸ばしてきた腕の関節を取ろうとする。

 咄嗟に、葵も負けじと、腕を横に振りはらう様にし、上半身を捻って回し蹴りを入れようとする。龍宮は、それをしゃがんで避け、蹴りで足元を払おうとするが、今度は、葵が回し蹴りの態勢を戻しながら、バックステップで、龍宮の蹴りの範囲から逃れる。

 即座に、葵が着地した瞬間に、狙いを定めて拳銃を撃とうとするが、その時、左手に違和感を感じて、思わず龍宮は動きを止めてしまう。

 

(この人は――っ!!?)

 

 龍宮は、信じられない思いで、目の前に立つ葵を見ていた。

 既に葵は、再び態勢を立て直し、こちらを静かに見据えている。その右手には、

 

(私の拳銃……いつの間に!?)

 

 葵の右手には、龍宮が先ほどまで左手に握っていた拳銃が掴まれていた。

 

(さっきの回し蹴りの時に? だけど、私に気がつかせずに盗るなんて……)

 

 もはや、成長している等というレベルではない。この短期間で、篠崎葵は、違う何かに変質しようとしているのではないかと、龍宮は疑ってしまう。

 念のためにと、龍宮は魔眼を発動させて、葵を、その細部に至るまで『覗いて』見るが、おかしな所は何もない。ならば一体、篠崎葵という存在はなんなのだろう? と、様々な可能性を考えながら、魔眼を解除する――その瞬間、

 

 

 

 

―― 龍宮の魔眼に、『それ』は一瞬だけ写った。

 

 

 

 

「……っ!!?」

 

 咄嗟に、葵から更に距離を取る龍宮。それに対し、葵は可笑しなものを見たという顔で首をかしげて、『おろ? どうした?』などと気楽に問いかけてくる。

 

「葵先輩……あなたは……」

「ん?」

 

(このお気楽さ。心当たりなどは、当然ないのだろうが……)

 

 龍宮は、再び魔眼を作動して、念入りに葵を覗くが、反応は一切ない。だが、先ほど龍宮は確かに、何かの影を見たのだ。全体的に陰っていて、よく見えはしなかったが、

 

 

 

 

 

 

 

―― 葵に重なるようにして、悲しげな顔で俯いている女の姿を、確かに見たのだ。

 

 

 

 

 

 

******************

 

 

 

 

 

 

(なんだろう、無茶苦茶警戒されてる? まぁ、拳銃を抜き盗ったのがアレだったんだろうけど……)

 

 葵と龍宮の間にはそこそこに距離がある。もっとも、すぐに後ろを振り向いて逃げ切れるような距離ではないが。

 

(さて、どうしたものか)

 

 正直、葵が拳銃を抜き盗ったのは、『盗れる』と、頭のどこかでそう判断した瞬間に、半ば反射的に盗ってしまっただけのものだった。確かに、龍宮の武器を一つ減らしたが、それだけであった。葵は、部活動にて、ライフルは使った事はあるが、拳銃を使った事はさすがになかった。こちらからしたら使えない荷物が増えただけである。使おうと思っても、精々、牽制がいいところだろう。

 

「ねね、龍宮さんや。冗談抜きで見逃してくんない? 俺もうすっごい疲れたんだが」

「…………」

「おろ、えらい警戒しだしたな。いや、こちらとしては構わないんだが」

「…………」

「……あの、たつみー?」

「…………」

「もしもーし?」

 

 せめて向こうからアクションを仕掛けて来てくれれば、と思い、葵はエヴァの時よろしく、挑発をしてみるが、どういう訳か龍宮はそれ以上に葵を警戒し、一切の動きを見せなかった。

 

 

 それから時間にして20秒ほど経っただろうか。それまで沈黙して、ひたすらじっと葵を観察していた龍宮が、ようやくいつもの笑顔を顔に戻らせる。

 

(今は考えるのはよそう。とにかく、この人さえ捕まえれば……)

 

そう考えた龍宮は、身体の力を抜きながら、姿勢を正す。

 

「葵先輩、私が貴方と初めて会った時の事を覚えているかい?」

 

 唐突に、龍宮が問いかけてくる。

 

「あぁ、そりゃ……軽くサスペンスドラマの冒頭みたいな感じだったからな。普通に見たら、犯人はどう見てもお前だったぞ」

「フッフフ、いや、違いない。そう考えると、あの時あの場に来たのが先輩で本当によかったよ」

 

 そう言って、軽く笑いながら、龍宮は普通に一歩、葵に向けて踏み出してくる。

 

「あれからまだ半年も経っていないが……。先輩と、まさかこんなに深い付き合いになるとは、あの時は想像もしていなかったよ」

「だろうな。俺だって考えていなかったさ。部活に顔を出してみた時に、お前を見つけた時には、なんだかんだでビビったからね」

「それは私もさ」

 

 さらに一歩、こちらに踏み込んでくる。

 

「あれから先輩とは色々あったね。芹沢部長や佐々木先輩と一緒に、もう秋だって言うのに海に行って寒い思いをしたり、山に登ったり。冬休みの合宿の際には、夜にこっそり賭けポーカーをやったりしたね」

「訳のわからん追いかけっこも追加しておけ。それに、ポーカーはほとんどお前の一人勝ちだった。副部長も可哀そうに」

「フフ……。先輩も副部長も、負けず嫌いだからね」

 

 そして龍宮はゆっくり、拳銃を再度、葵に向ける。

 

「葵先輩、今まで貴方と一緒にいろんな事をしてきて、その度に、貴方の突飛な発想や行動力には驚かされてきたけど……今日のは、その中でもとびっきりだよ。『さっき』の事もそうだし。それに、中国拳法なんていったいどこで習ったんだい?」

「? 何の話だ?」

「……やはり、知らないか。でも、貴方は確かに拳法の動きを『再現』してみせた。先ほどの事も含めて、貴方には謎が多すぎるよ。だから、せめて一つくらいは謎を解決させてくれないかい?」

 

 龍宮は、いつもの笑みを浮かべたまま、静かに告げる。

 

「先輩、昨晩『闇の福音』に会ったね?」

 

(……おぉう。その名前が出てくるって事は、コイツ、エヴァンジェリンが言ってた魔法関係者の一人か)

 

 内心新たな事実に驚きながら、葵はそれを表情に出さず、会話を続ける。

 

「誰だよ、その厨2病くさい名前の奴は? 多分、俺にもそういう時代があったんだろうが、幸い記憶喪失でな。頭抱えて転がりたくなるような思い出は一切ないぞ」

 

 昨晩の役者じみた喋り方を思い出して、頭を抱えて転がりたくなる葵。先ほどの龍宮の心を抉るような優しさも合わせると、違う意味で心が折れそうだった。

 

「おや、とぼけるのかい? つい先ほど、貴方と一緒にいたじゃないか」

「悪いが、名前も知らない女の子でね。よくわからない事を一方的に言われた後に、いきなりどっかに行っちゃって、俺にもよく分からないんだよ。なんだ、あの子、可哀そうな子だったのか」

 

 本人が聞いたら、問答無用で魔法を撃ち込んだ挙句に、高笑いをしながら嬲り、吸血行為に至るであろう暴言を堂々と口にしながら、それらしくとぼけてみせるが、龍宮には通用しないようであった。龍宮は、ヤレヤレとでも言いたげに肩をすくめ、

 

「らしい嘘をつくのは、貴方の十八番だな。やれやれ、やっぱり無理矢理聞き出すしかないのかな」

 

 そういうと同時に、龍宮は、葵がまばたきをした刹那に、一気に葵との距離を詰める。

 

「――っっ………のぉ!!」

 

 いきなり目の前に現れ、拳銃を突きつける龍宮に対し、咄嗟に上半身を捻る葵だが、龍宮はそのまま、葵の足を払いあげる。

 

「ここまでだよ、葵先輩!」

「ちぃっ!!」

 

 さすがに、態勢を大きく崩されれば、葵にはどうしようもなく、そのまま後ろに倒れてしまう。即座に龍宮は、葵の上に左片膝を乗せて、拳銃を突きつける。

 

「さぁ、先輩。これで降参するしか――なに!?」

 

 葵は、とっさに持っていた拳銃を龍宮めがけて投げつけた。一瞬ひるんだ隙に、龍宮がこちらに向けて構えている拳銃の引き金の隙間に指を差し込み、引けなくすると同時に、もう片方の手を拳銃に添えて、狙いをずらす。

 次の瞬間、葵は、引き金の隙間から指を引き抜いて、拳銃を構えている手をつかみ、全力で引っ張る。そして、ほんの僅かに龍宮の体が浮いた瞬間に、全力で体を動かして、ある程度の自由を確保し、両足で地面についたままの右足を挟み込んで、バランスを倒させた後に、寝転がって立場を逆転させた。

 

「くぁ……っ!!」

 

 さすがに男の体重は少し重かったのか、呻き声を漏らす龍宮。その間に、葵は、両足の膝を龍宮の両手にそれぞれ乗せて動きを封じ、龍宮が取り落とした拳銃を手にし、口を開く

 

 

「自分でもなんでこうなったか、よくわからん事がいくつかあるけど……」

 

 

そして、それを龍宮へと付きつけ、宣言する。

 

 

 

 

 

 

「すまん、龍宮。今回は俺の勝ちだわ」

 

 

 

 

 ちょうど、龍宮の腕時計が、2時間経過のアラームを響かせた所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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