rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

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銀魂④

 柳生家。

 かつては将軍家に剣術の指南をしていた家で、今でも多くの門下生を抱えている……まぁ、いわゆる名家だ。

 

 江戸に到着して、その名家まで連行されたのが一週間前。

 次の日には真選組から取り調べを受け、人斬りサド男とやり合い、入院。

 その数日後には病院から引っ張り出されて見廻組から取り調べを受け、人斬りサド女とやり合い、また入院。

 そして今度は城に呼び出しを受けたりした結果――

 

「ねぇ、新入り(仮)」

「なんでしょう、今井副隊長」

「5分以内にポンデリングと午後ティー買ってきて。もちろん支払いは貴方持ち」

「だから……それただのパシりだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 お尋ね者の攘夷浪士(偽)から期間限定の見廻組小姓(パシリ)へとジョブチェンジするハメになっていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「おい、九兵衛さんや。何がどうしてこうなったのか10字以内で説明して見ろやオラァン」

「監視役が必要だからだ」

 

 一週間近くの旅の間に多少は仲良くなった柳生家次期当主、柳生九兵衛は、『何を当たり前の事を……』と言いたげな目で俺をみる。

 

「調べ回った所、京の一件以外にもお前に助けられたという証言が多く出てきた。……癪ではあるが、地球人だけでなく天人(あまんと)からも多数証言が出たのが一番の決め手だったのだろう」

「それで、一応俺の誤解は解けたんじゃなかったっけ?」

「それでもお尋ね者はお尋ね者、ということだろう」

 

 (さかずき)を傾けながら、九兵衛はそう言う。

 

「葵。君の人柄は僕も認めている。嫌いではない。だが、人柄だけで信頼を勝ち得るのは無理だ」

「お前は一週間で、ある程度俺を信じてくれたが?」

「それはそうだろう。攘夷浪士の襲撃を共に斬り抜けたのだ。侍の一刀、それも命を預けた場での一振りは幾千の言葉に勝る」

 

 空になった九兵衛の盃に酒を注ぎ、そして徳利を置くと、今度は九兵衛が俺の盃に注ぐ。

 こうして縁側でコイツとこうして月見酒をするのは、江戸に辿りついた日の夜以来だ。

 

「鬼兵隊。噂でしか耳にしたことは無かったが……なるほど、侮れん相手だ」

「本気でお前がいてくれて助かった。あのグラサン侍は俺じゃあ手に余る」

 

 九兵衛にとっ捕まってから江戸に辿りつくまでの間、一度だけ奴らの強襲を受けた。

 恐らく、俺の江戸入りを阻止するために戦力を割いたのだろう。

 

 アバズレピンクと雑魚は俺が、着いて来やがったあのグラサン侍は九兵衛が相手取ってくれた。

 グラサン侍はやはり九兵衛でもかなりキツかったようだが、どうにか共に斬り抜け、逃走に成功できた。

 

「手に余る、か。君の刀はどう言っている?」

 

 その後、コイツには俺の右腕――紅桜の事は全部話した。元の変な剣と融合してしまった、連中に誘拐された天人だという事や、その無茶苦茶な融合のために話す機能――正確には声を発する機能が今は失われている事など。

 

「『お前が未熟だから倒せんのだ』っていつも通りバッサリさ」

「ふふっ……そうか」

 

 俺が満たした盃に、九兵衛は再び口を点けて傾ける。

 

「僕の家に入門してみるつもりはないか?」

「遠慮しておくよ。どうにも俺は、門下生はもちろん親父さんや四天王にも目をつけられてるみたいだし。……特に東条さん」

 

 俺がそう言うと、盃を持っている右腕が僅かにピクリと動く。

 恐らく、近くに隠れてこっちの様子を隠れ見ている親父さんか四天王の気配を紅桜が読み取ったのだろう。

 九兵衛が苦笑している所を見ると、コイツは最初から気付いていたのだろう。

 

「すまない、話がズレたな。君の一番の罪――他の星の要人を襲った罪に関しては鬼兵隊に向かう事になるだろうが……君が奴らを退ける際にやはり被害は出ている」

「……ちくしょう、やっぱり馬鹿正直に言うんじゃなくて全部アイツらに擦り付ければ良かった」

「君がそういう人間ならば、僕はこうして君と酒を酌み交わす事はなかった」

「そうかねぇ……」

「そうさ」

 

 そういう九兵衛は盃を置いて箸に持ち替え、おばばと呼ばれる世話役が酒のあてにと用意してくれた煮しめに手を伸ばす。

 

「その罪を減らすため……というか、その分を分かりやすい善行で埋めるのが一番の手段だと、上様は考えてくれたようだ」

「お前の親父さんには頭が上がらないな。将軍家にわざわざ……俺の顔見た瞬間に蹴り飛ばされたが」

「あぁ……その……父上の不作法については僕が頭を下げよう。すまなかった」

 

 いや、そんな必要はないって。思う所は無いと言えば嘘になるが、あの時は間違いなく俺はお尋ね者だったわけだし。

 

 離れた所の茂みが騒がしくなる。『パパ上と~』やら『落ちついてください~』やら何か聞こえてくる。

 そういや、九兵衛が親父さんと二人で話をしている時に、障子の向こうから似たような会話を聞いたような……。

 

「しかし、それで見廻組の小姓か。家柄の確かな者で固められた隊って聞いていたから、似たような話なら真選組に回されると思っていたが……」

「家柄の確かな隊だからこそ、君が預けられたのだろう。身分に拘る人間ほど、真選組を軽視する。あるいは恐れる」

「恐れる?」

「何かあった際に御せるかどうか自信がないからだろう」

「はー……。警察にも色々あるんだねぇ」

 

 九兵衛にならって、箸を伸ばす。

 美味い。野菜も肉も、よく出汁が染みている。

 

「まぁ、保護観察期間が終わるまでの我慢さ。その間に、君の右腕の同居人の江戸での永住許可も下りる。そうすれば君は自由だ」

「自由、ねぇ」

 

 これまでは隠れる場所と飯の事しか考えていなかったから、自由と言われてもピンと来ない。

 どちらかと言うと、恐怖にも似た不安感の方が強い。

 

「……さっきも言ったが、別にこの道場にいても構わないぞ?」

「お前はそう言っても、四天王や親父さんは納得しねぇだろうさ」

 

 俺が挨拶にいっても素っ気ないしね。

 四天王は東条さん以外は話しかけてくれたが……南戸さんは俺が男だと分かると目に見えて凹んでいたな。

 ある意味で東条さんもそうだ。俺が男だと分かると警戒し始めた。――というか騒がしくなった。

 

 この家で俺と話すのは九兵衛と九兵衛のお爺様、それと四天王では今の所西野さんくらいか。 北大路さんも、あまり会話はしないが剣の練習には真剣に付き合ってくれる。

 

 ……あれ? なんだかんだで柳生家とは上手くやっているのか?

 

「ごほん! それに、門下生の連中も俺を胡散臭い目で見てるしな」

「それも……すまない。柳生家の剣を習おうとする者は、大体が名家の者。プライドは高くてな……」

「あぁ、いや。俺こそすまん。責めるつもりはない。当然の事だしな」

 

 実際、次期当主が訳のわからない男を連れてきたらそりゃあ中の連中は面白くないだろう。

 

「葵」

「ん?」

「非番の日は当然あるのだろう?」

「あぁ、明後日だな。……多分」

 

 小姓というよりドーナツ補充係として扱われている俺だが、さすがに非番の日にまで『5分以内で』という言葉を聞かされることはあるまい。

 

「そうか、ならば空けておけ。せっかくだ、一度お前に稽古を付けてやる」

 

 どう聞いてもお前ちょっとボコらせろ宣言である。

 なんで俺の周りにはドSしかいないのか。

 

「お前、俺にそんな時間割いてていいのかよ。大切な人に会いに行くって言ってたけど、お前帰って来てから俺絡み以外だとこの家を出ていないだろ?」

「…………あぁ、そうだな。会いに行く。行かなければならないのだが……」

「あん?」

「今更になって……迷っている」

「……九兵衛、お前」

 

 元々、何かを我慢するような顔をする奴だと思っていた。

 それが、ここまで何かを吐き出しそうな顔をしたのは初めてかもしれない。

 

「それより、お前こそさっきから左腕で何をしている?」

 

 まるで、その顔を見られたくないとでもいう様に慌てて盃を呷る九兵衛は、今度は俺に問い返す。

 

「メル友への返信」

「……休みなく動いてないか」

「休みなく送られてくるんだよ」

「……はた迷惑なメル友だな。誰だ?」

「見廻組局長」

 

 なんかドS女――ってか副長との斬り合いの後に、気が付いたら『さぶちゃん』と『ノブたす』という二人のアドレスが入った携帯を渡されていた。――ってか、局長と副長だった。

 

「そうか、見廻組局長か」

「あぁ、見廻組局長だ」

 

 九兵衛は愉快気に笑って盃をまた傾け、

 

「なにがどうしてそうなった!?」

「俺が聞きたいわ!?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、珍しい人ですね。まさか、私のメールに律義に返してくれるだなんて」

 

 撫でつけた髪に、片眼鏡、そして白を基調とした制服を着込んだ男――見廻組局長、佐々木異三郎は携帯でメールを打ちながら、部屋に残っているもう一人の女に向けてか、あるいは誰へでもないのか言葉を紡ぐ。

 

「……あの男、鬼兵隊への手土産にするつもり?」

「どうしましょうかねぇ。それも悪くない手だと思っていたのですが、貴重なメル友を失うのも少々惜しい」

 

 メル友――比内葵から、友人と大分深酒をしたのでそろそろ寝るというメールが来たために、佐々木は携帯を折り畳む。

 

「信女さん。木刀とはいえ、実際に手を合わせてみたのは貴女だけです。どうです? 彼」

「普通」

 

 見廻組局長の問いに、副長はあっさりそう答える。

 

「例の天人と同化した剣を本気で振るえば分からないけど、本人の今の能力は中隊長と同じ位……ただ」

「ただ……なんです?」

 

 仕事終わりの茶菓子として買って来ていたドーナツの箱を佐々木が取り出すと、副長――今井は文字通り箱に飛びつき、その中の一つを口へと運ぶ。

 

「信女さん、せめてお茶を入れるまで待てないのですか」

「お茶やコーヒーよりも牛乳の方がいい」

 

 瞬く間にドーナツは欠けていき、ついには完全に今井の胃袋の中へと消えて行った。

 

「あの男、比内葵」

 

 そして、口周りについた小さな欠片を舌で舐めとりながら、表情を動かさないまま今井は答える。

 

「噛みつく牙を持っている」

「……なるほど。なるほど、そういうお人ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――期待できそうですね。ねぇ、信女さん?」

 

 

 

 




戦う男勝りな女の子こそ、実は一番可愛いというのが自論
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