rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

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とある旗本二男が放蕩生活を望む話

アニメ版では一度だけ名前が出ましたが、原作で鬼平の息子、辰蔵の悪友として登場するダメ侍への転生モノです。

小説の方はまだ読んだ事がなく、劇画版を……48? 天明の飢饉絡みの盗賊の話の辺りまでは読んでおります。後は雑誌『乱』も追いかけておりますが、手元にある訳ではないので色々齟齬があると思いますが、なにとぞよろしくお願いしたします。

(まぁ、原作、劇画版、アニメ版、時代劇版でそれぞれ違いがあるので、そこら辺の好きな所を上手く拾って行きたいと思います)

(なお、イメージは敢えてアニメ版を採用しております)


【鬼平】とある旗本二男が放蕩生活を望む話
鬼平-①


 世界で自分だけが特別である。

 恐らく歳が10になるくらいまでの子供ならばどこかで心に思う事ではないだろうか。

 断言はできないが、少なくとも俺はそうだった。

 

 ちょっとした追いかけっこで付き合いのある子に何度か勝っただけで、あるいは自分は足に才があるのではないか。

 ちょっと漢字が多く書けたり読めたりするだけで、自分は地頭がいいのではないか。

 

 俺の場合はこうだ。

 今から数百年先の知識を持ったまま江戸時代に転生したとか無双のフラグじゃないの? と。

 

 現代の知識を使えばチート改革とかしてモッテモテのウッハウハな生活ができるんじゃないの? と。

 

 なお、そんな考えは物心がついて一年も立たないうちに消えはて――意識高い系侍の卵は、それは立派なぼんくら遊び人になりましたとさ。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「弥太郎」

 

 道場で木刀振りまわして流した汗を、冷たい井戸水で流し落として手拭(てぬぐ)いで(ぬぐ)っていると声をかけられた。

 

 目白台から程近い高田四家町に居を構える旗本・阿部亀七郎。その二男、弥太郎。

 それが今の俺の名前と身分と言う訳だ。

 

「辰蔵さんか」

 

 そしてこの侍は長谷川辰蔵。共にこの坪井道場で念流の技を学んでいる剣友である。

 ――まぁ、俺も辰蔵さんも剣の筋は悪いため上達は非常に遅いのだが……。

 うん、やはり剣友という言葉はしっくりこない。

 一番近いのは悪友だろうか。

 

「今日は凄かったな。あの内藤を相手に一本取るとは!」

「いやぁ、運が良かったのだよ。それに、内藤殿も肩でも痛めたのか剣筋が鈍っていた」

 

 この江戸時代という太平の世に生まれ、懸念していた幕末ではないかという憂いも完全に晴れた俺は、成長してからそれはもう遊び回っていた。

 娯楽の少ない時代にと思っていたが、意外と『楽』を探すのもそれはそれで楽しい物だった。

 料理の美味い店を探しまわったり、酒を飲んで朝まで騒いだり――なにより容易く女を抱けるのは良い。

 まぁ、この遊びには殊更金がかかるのが問題と言えば問題……小遣いも少ないしなぁ。

 

「弥太郎は、遊びは派手だが剣術だけは熱心だからなぁ」

「なに、小遣いを無心するためという理由の方がデカいさ。だから今も先生から小言をもらってばかりだ」

 

 マジである。一応剣術を真面目にやっていれば、父もうるさい事は言わない。

 どうにか腕前の中堅当たりから下にはならないようにはしているし。

 まぁ、そこら辺がバレているのか道場の先生にはもっと励めと口うるさく言われる訳だ。

 

 基本自分が頑張るのは、基本遊び金のためオンリーである。……あとたまに女や遊び仲間の頼まれごととか。

 家の節約のために庭の一部耕して野菜育てたり、魚釣ってきたりとかそれを逆に売ったりとか。

 

 一応うちの家は旗本――いわゆるお侍様であるが、やはり台所事情は苦しい。

 辰蔵さんの所は結構大きい家――なにせ火付盗賊改方長官だ。そちらは金に関しては、少なくとも暮らしに不自由はしていないらしい。

 辰蔵さんの話を聞く限りは、だが。

 

「小遣い……おぉ、そうだった」

「ん?」

 

 辰蔵さんは俺と同じように着物の上を脱いで、井戸の水で汗を流して、

 

「弥ぁさんやい」

 

 弥太郎でも弥太郎殿でもなく、弥ぁさんと呼ぶ時は話の相場は決まっている。

 遊びのお誘いだ。

 

「なんだい辰さんや?」

 

 まぁ、話の内容は予想が付く。

 

「今、弥ぁさんはいくら持っている?」

 

 やっぱりそう来たか。で、俺に持ち金尋ねたって事はいつもより小遣いをもらえなかったと見える。一両くらいか? いやそれでもかなり多いけどさ。

 この時代、遊ぶにはとにかく金がいる。袖から自分の財布を取り出して中身を確認すると――

 

「えぇと……一分と二朱ちょっとだな」

 

 本当は更に一両隠し持っているのだが、これは日頃自分が通っている女の所に行くために、小遣いを倹約した上でこっそり内職して手に入れた物だ。これに手を付けるわけにはいかない。

 ちなみに一分は一両の四分の一、一朱は一六分の一である。

 

「一分と二朱! お前結構持っているな!」

 

 遊ぶために全力を尽くしているからな!

 小遣い溜めてたのもあるが、ぶっちゃけ一番の理由は内職の代金が入ったからだ。

 延々と傘張り提灯作りを続けていた時は本気でキツかった。

 後々豪遊するのだと決めていたから気合いだけは入っていたけど。

 

「それで辰さんや。どこにいく?」

「それだけあるなら、どこぞの岡場所に一晩――どうだろう?」

 

 岡場所――いわゆる女遊びができる店だ。頭に非合法のと付くが。

 まぁでも合法の吉原みたいな所だと、探せばあるのかしれんが基本かなり高い店だ。

 最低でも二両……いや三両はないと怖くて行けない。

 

(一晩居続けて酒と肴頼んで女抱いて……ちょうどいい位か)

 

 おそらく辰蔵さんも今日一晩遊べば満足するだろう。

 それくらいならば……店に寄るが二、三朱分くらいで恐らく足りるだろう。

 

「よし! なら片付けが終わったら、精を付けるのも兼ねて鰻飯(うなぎめし)でも食いに行かないか? 辰さん」

「いいな! 乗ったぞ、弥ぁさん!」

 

 辰蔵さんの父上は鬼とも呼ばれる方なのだが、その息子である辰蔵さんは俺と同じく遊び好きだ。

 おかげでこうしてそこそこ長い付き合いが出来ている。

 飲み行ったり芸者と盛りあがったり飯盛女侍らせたり浪人からの喧嘩を買ったり……

 

 あ、今更だけどこれ放蕩無頼のバカ息子一直線ルートだ。

 

 ……ま、まぁ俺次男坊だし。

 阿部家の跡取りはちゃんといるわけで、俺は俺で少なくともどこかに迷惑かけるような遊び方はしていないしするつもりもないし……け、剣術も弱いとは言え真面目にやってはいるし……

 

「――よし! 辰さん! 今日はパーっと行こう! パーっと!」

「おぉっ!!」

 

 戦国時代のような戦はなく、幕末のように諸外国や内乱の問題もない。

 将来こそ不安だが、まぁそれなりに面白おかしく過ごす。

 

 これが阿部弥太郎の、江戸での生活である。

 

 ……このまま遊んで暮らせて――いけたら良かったんだけどなぁ。

 

 

 

 

 




鬼平の円盤を買う、あるいは借りた上で原作、漫画が買われる事を願って
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