オリジナルのほうは根本が吹っ飛んでしまって失敗した感があるなぁと後悔。
一方通行if―①
街中に、キャタピラの音が響き渡る。
歩道橋の上を歩いていたその少年は、その音の元――戦車を見下ろしながら、静かにこう思った。
――くっだらねェ……
始まりは、自分が友人の手を払った事。子供には珍しくもなんともない、ちょっとした諍い。それが――今の事態を招いた。
取り押さえようとする大人を弾き飛ばし、スタンガンを弾き飛ばし、銃弾を弾き飛ばし……ついには戦車とパワースーツの部隊と来たものだ。笑えない。いや、一周まわって変な笑いが口から漏れる。
――ほんっとうに……くっだらねェ……
子供一人にこのありさまだ。向こうの空からは最新鋭の戦闘ヘリがこちらに向かって来ているのが見える。
さぁ、どうする。『友達』の手首をへし折ったのと同じ気軽さでコイツらは吹っ飛ばせる。確信がある。
(試して……みますかァ……)
自分の能力――ベクトル操作をデフォルトの反射以外にも使うために演算を開始する。
手始めにそこらの手すりを蹴り飛ばして、今こちらに向きつつある戦車の砲塔にぶち当てるか。
そう考え、一歩を踏み出し――目の前のビルに視線がいった。
この学園都市見では一般的な、ミラービル。その鏡の壁を見て――思った。
―― 誰だァ……? コイツはよォ……
分かっている。鏡だ。そこにあるのは自分の姿だ。
白い髪。紅い目。
あぁ、そこは変わらない。もう見なれている。
だが――自分はこんな相手を威嚇するような顔をしていただろうか?
(……クソみてェな顔、してんな……)
ふと、頭の中に沸いた感想はそんなものだ。
自分がこれまで見て来た、関わり合いになりたくないと思った人間の顔に限りなく近い。
(あぁ、こんな腐った目ェしてんなら、寄ってくる奴も腐ってるわけだ……)
これが分水嶺だった。ここがターニングポイントだった。
一人の小さな少年が、汚泥にまみれた少年が踏みとどまれるか否か、の。
そしてそれから数年後。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……
「アァ、お前なら
「いえ、まぁ確かに一人……誰よりも――そう! 誰よりもお慕いしている最強無敵の電撃姫がいるのですが……っ!」
「それ
白髪に赤眼という目立つ容姿の少年も、有名なお嬢様学校の制服に身を包む少女も滅多に来ないファミレス――互いの学区ではない所で、一週間に一度こうして顔を合わせるのは、もはや恒例のイベントとなっていた。
「貴方がいる第七学区にそういう能力を持つ方はいらっしゃいませんの?」
「電気関連の能力持つ人間は数人見つけたけどよォ……。ちっと力が足りねェんだよ」
「何をさせるつもりなんですの?」
「風力発電を治すまでの蓄電池の充電だ」
「どういうことなんですのっ!?」
「言ったままの通り以外にどう言う解釈があるってんだァ?」
白髪の少年は、ウェイターが持ってきたハンバーグステーキをフォークとナイフで切り分けながら続ける。
「……ひょっとして……現在の処遇をネタに上から無償労働を強いられて?」
「あァ? ……いや」
少女が純粋に心配をしてくれている事が分かるからこそ、少年は顔をしかめて後ろ頭を掻き毟った。
能力の有無に関係なく、大体の人間は自分をLEVEL5の序列最下位としてみる。
この街最高の7人の一人とみるか、最強の中の最弱とみるかは人それぞれだが……。
「ボランティアっちゃあボランティアだが……俺から頼んだ事だ。親船最中とも話して、根回ししてもらっている」
「親船最中?」
紅茶に砂糖を追加するか悩みながら話を聞いていた少女は、「ふ~ん」と流しそうになってハッと我に帰る。
「統括理事会の一人ではありませんの?!」
「アァ、娘の負担を減らすためって建前で説得したら納得してくれたんだよ。ったく、無駄に時間がかかったぜ」
「建前で説得ってアナタ……」
「嘘は一つもついてねェし、向こうもこっちの腹の中くらいは読めてるだろォし……まぁ、大した事じゃねェ」
淡々とそういう少年に、何度目になるか分からない頭痛を感じたのか、少女はまたも頭を押さえながら、
「で? なんで電気使いが必要なのですか? 蓄電池の充電と申しておりましたが」
「ん、ああ……学区の一部を管理するからだよ」
「なるほど……」
何度もカップに口を付けてちびちび飲んでいたが、ついに最後の一口となった紅茶を少女は飲み干した。
そして一息ついて、
「だからどういうことなんですのっ!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ここ最近、能力者狩りが増えてる。特にレベル1とか2が。
「えぇ、確かに最近増えていますわね……」
「だけど、無能力者狩りが増えてるのは……どうだ?」
「――なんですって?」
少女は、初めて耳にする情報に目を白黒させて身を乗り出す。
「お前ならあるいはと思ったんだが……やっぱ知らなかったか」
「え、えぇ……本当なんですの?」
「駒場がいくつか情報を掴んで、結標が調べ上げた」
「――で、貴方が潰した?」
「たりめェだろうが」
あっけからんと応える少年に、少しだけカールのかかったツインテールの少女は額を押さえてため息を吐く。
「……次からは風紀委員を通していただけませんか?」
「仕方ねェだろ? 時間がなかったんだからよォ」
「せめて事後でもいいから報告してくださいな。……貴方の事ですから、まぁ、やりすぎという事はないでしょうけど」
この少女、中学生とはいえいわゆるお嬢様学校に通っている身なので、ファミレスと言う場所でもカップに注がれた紅茶を飲む姿は様になっている。
音を立てないよう静かにカップをソーサーに戻した少女は、再びため息を吐く。
そんな少女に、少年はいつの間にか脇に置いた鞄から取り出した紙を突きつける。
「おら、これが詳細だ」
「失礼いたします。…………こ、こんなにっ?」
発生した日時、時刻、あるいは計画されていた無能力者狩り。あくまで、彼が今日まで潰してきた分だけではあるが、その全てが詳細に記されていた。
その数は、まごうごとなき善人である少女を不快にさせるには十分すぎる物だった。
「俺が対処しちまったっていうのもあるだろうがヨォ。噂レベルでもオメーラ
「えぇ。これだけ広範囲、かつ多数で起こっているとなると妙な話ですわ。
少女は、目の前の男が
「あぁ、そして同じくって話だ」
「無能力者狩りを隠している存在がいる?」
「それと、多分煽ってる連中もな」
少女と同じように、少年は頭を抱えていた。
数少ない人間の前でだけ出すその表情を、少女は複雑な顔で見ていた。
「貴方も、LEVEL5の一人にしては苦労が絶えないですわね」
「アァ?
「能力的には今でも最強と言って過言ではないでしょうに……で? それがどうして、一部とはいえ学区の管理などという話になりましたの?」
「お前の頭なら薄々気がついてるだろォがヨォ」
「口にして伝えるという行為は、お願いする側の最低限の礼儀では?」
その気になれば、自分を瞬殺できる男に堂々と説教をする少女は豪胆というべきか。
ともあれ、少年は頭をかいて「アァ……」とぼやき。
「悪かった……」
と素直に頭を下げる。
他の大多数からすれば驚愕モノなのだが、少女と少年にとっては逆のパターンも含めてよくある事だった。
「いえ、私も少々差し出がましかったですわ。それで?」
「お前も知ってる通り、俺はスキルアウトの一部を下に付けている」
少年の言うとおり、少女は知っていた。というか、この街でちょっと噂に詳しい人間ならば、誰でも聞いた事があるはずだった。
それ以外に彼を呼ぶ物も数ある。『怠け者』『猿山のボス』『無能力者に担がれて天狗になった男』『落伍者』などなど――いわゆる誹謗中傷である。
「まぁ、押さえてるとはいえ、暴れん坊なのには変わりねェ。今は俺が
「彼らの地位の向上のついでに、彼らが襲われにくい居場所を作ると?」
「それと、先のための技術を習得させるために色々と経験させておきてェンだよ」
再び、鞄から別の紙を取り出して少女に渡す。
その内容は、とある寂れた――ほぼ放置されているがために、
その過程で必要となる物資や設備、それらの利用や維持に関わる技能などが事細かに書かれている。
「つまり……能力が発現しそうにない学生に、この学園都市製の特別な設備の扱いに関する知識や経験を叩きこむ事で、卒業後の進路を安定させると?」
「学園都市の協力機関でも、メカニックを始めとする人手は不足してるっつーのはこっちで調べ済みだ。そこらを補うには、純粋に数を揃えるしかねェだろうが」
「なるほど……」
少女は、容易く暴力に走りやすい学生の制御という面からも、そういった学生に未来の展望を与えるという面からも、悪くはないと判断していた。
それを制御しようというのが、最強の一角なのだからなおさらだ。
この白髪の少年のデタラメさを、少女はよく知っていた。
「大半が能力を使えねェ奴らの前に、能力者を出すのはちっと悩んだが……まァ、そこら辺もてめェらの中で折り合いを付けられるようになるしかねぇだろ」
「えぇ、貴方の言うとおりだと思いますわ。そして素晴らしい考えだと、ですが……ふんむむむむむ……」
問題は、紹介できる人材だった。
頭に思いつく電気使いは一人いるが、余りに破格すぎるし、少年も彼女を呼ぶ事には乗り気でないだろう。
なにより、少女が思うに『彼女』はスキルアウトという存在にあまり良い目をしないだろう。
――それに、目の前の男に対して偏見を持っている。
「技術者という方面ではいけないでしょうか?」
「ァン? あァ、まァ……妙な所の息がかかっていなければだが」
そういう人材は用意できるのか? と少年が目で問う。
「えぇ。固法先輩なら、そういう知り合いにも顔が効くかと。
「…………そうか」
少女の言葉に満足した少年は、残ったハンバーグとライスを口に入れる作業に戻る。
最後の一切れを口にしたあたりで、いつの間にか運ばれていたチーズケーキを平らげた少女が口を開く。
「あぁ、ところで実は気になっていたのですが……」
「なんだァ?」
「貴方の荷物ですわ」
「……あァ」
いつも持ち歩いている鞄は、隣の席に置かれている。そして、足元には最新式のクーラーボックスが置かれていた。
あまり物を持ち歩かない少年にしては珍しい大荷物に少女が問いかけると、少年は珍しく小さく笑い、
「面倒みてる奴の何人かが、
と答える。
少女は大きい目をパチクリさせた後、その荷物の中身に当たりを付けた。
「なるほど。では今晩はそのお祝い、と」
「らしくねェか?」
「いいえ?」
「とっても貴方らしいですわ」
ある意味ですごくラノベ主人公っぽくなった一方さんかもしれないです