rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

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一方通行if-③

『まさか貴方が、あの高校に入るだなんてね』

『文句があるか? ……あるだろうなァ』

 

 どこにでもありそうな、飾り気のない応接室。

 この街の本当の意味での頂きに近い所にある存在でありながら、碌に防犯対策・警護のされていない部屋にもどかしさを感じながら、白髪赤眼の少年はソファの上で珍しく姿勢を正す。

 

『自分の娘が務めている学校に、火種を持ちこんできたクソガキが目の前にいるんだ。何も思わねぇ方がどうかしている』

『火種を持ちこんだ? 違うでしょう?』

 

 人の良い老婆。

 一方通行(アクセラレータ)と相対している人間の印象は、一言で言えばそんなものだった。

 だが、少年は知識として知っていた。

 この老婆こそ。話術、交渉という点ではある意味『学園都市最強』と呼ばれる人間の一人である事を。

 

『貴方は、私達統括理事会のうち二人(・・)に助けを求めにきたのでしょう?』

 

 だから、隠していた内心を突きつけられても動じなかった。

 自分の中に眠る攻撃的な本能――いや、本性すら首をもたげなかった。

 

『あァ、そうだ』

『……素直なのね』

『腹の探り合いを今する意味が見当たらねェからな』

 

 というより、無駄なのだ。

 一方通行(アクセラレータ)が面会を希望した人間は、例えここで一方通行(アクセラレータ)が彼女を殺そう(・・・)と、その結果追いつめられるのは一方通行(アクセラレータ)自身だ。

 

『……特力研の生存者……でしたね』

『あァ……生き残ったんじゃなくて、死体を作った側だがなァ』

『作ってしまった……いえ、作らされた、ではなくて?』

『結果は変わらねェ……』

『そう受け取るのは貴方の信念かしら?』

『……いや、ただ……その道を選んだだけ……なんだろうなァ……』

 

 一方通行(アクセラレータ)は、この街で最高レベルの能力者である。それはつまり、最高レベルの頭脳を持つ事と同意である。

 そして、その演算能力を持ってしても対抗することが難しい力がある事を、一方通行(アクセラレータ)は知っていた。

 そんな人間を、自分の望む未来のために利用しようと画策している自分の無謀さ――いや、愚かさを内心で自嘲するが、止まるつもりはさらさらなかった。

 なにせ、ここでしくじれば堕ちる(・・・)のは自分だけなのだ。

 そうなるように、動いて来たのだ。

 あの日、自分の顔を見たときから。

 あの日、あの時。自分の『あの目』を心から嫌悪した時から。

 

『頼む』

 

 ぶっきら棒な言葉だと言うのは分かっている。だが、これが自分の一面だ。

 仮にここで敬語を使った所で、目の前の老婆にはこれっぽっちの効果も見込めないだろう。

 ただ、自分の言葉を尽くすしかなかった。

 

『力を貸してくれ』

 

 立ちあがり、頭を下げる。

 

『……一つ、条件があります』

 

 少年のその姿に、特に何か思う所はなかったのか、あるいはそう見せているのか。

 女は表情を動かさない。

 

『条件?』

『えぇ。簡単なことよ』

 

 

 

 

 

『貴方にしてもらいたい事は――』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お、遅れて申し訳ございませんでしたぁ……ぐすっ……夜間作業の監視・監査に当たる鉄装(てっそう)綴里(すずり)と申しますぅ……ぐすっ」

 

 既に吹寄制理や上条当麻率いる臨時バイト集団は、迎え――というか帰宅を確認しに来た担任の月詠小萌の引率の元、各自の寮へと帰っていった。

 最後の最後で様子を見に来た風紀委員(ジャッジメント)の固法と、部下らしき数名の風紀委員(ジャッジメント)も同行してくれたので問題はないだろう。

 そう、問題は目の前にあった。

 

「……あのぉ……これ(・・)、大丈夫なんすかね、一方通行(アクセラレータ)の大将?」

「……とりあえずこれ(・・)呼ばわりは止めとけ、浜面ァ……」

 

 自分もそう呼びかかったのを内心隠しながら、一方通行(アクセラレータ)は割と仲の良い仲間にそう小言を飛ばす。

 なお、一方通行(アクセラレータ)の内心を読んでいるのか、結標淡希(見張り役)は少年に向けてクスクスとイヤらしい笑みを浮かべていた。

 

「いや~。悪かったじゃん、一方通行(アクセラレータ)。こっちも色々あって到着が遅れてさぁ?」

 

 それほど手入れしていないにも関わらず、それなりに綺麗な長い髪を適当に後ろで束ねた長身長髪巨乳の警備員(アンチスキル)――黄泉川愛穂が、涙目になりながらも背筋を正している眼鏡の警備員の背中をバンバン叩きながら笑っている。

 

 それを、一応幹部のような扱いになっている学生たちが『しら~っ』とした目で見ている。

 半蔵だけは、叩いている側の女を見て顔を赤らめていた。

 

 一方通行(アクセラレータ)は、結標が携帯電話のカメラでその顔を撮影し、浜面と互いにこっそり親指を立て合っているのを横目に話を続ける。

 

「二カ月前に提出した計画書の通りだが、再確認しておくぞ。いいな? これからの作業は、放置されている風力発電設備の修理だ」

 

 些細な風ですら拾い上げ、エネルギーへと変える学園都市の主力発電設備。

 この第10学区では、どこの学区でも動いているそれが碌に機能していなかった。

 

「本来は全てを稼働状態にしたいンだが、さすがに一晩じゃァどう足掻いても無理だ。だから、まずはこの一機だけ直す」

 

 ちょうど一方通行(アクセラレータ)達が立っているすぐ隣。

 二車線ずつ行き来する道路の間に立つ風力発電設備を、一方通行(アクセラレータ)が手で指し示す。

 

「それと並行して、完全に機能停止している――まぁ、ぶっちゃけどっかの馬鹿が壊して修復が不可能になった奴。それの撤去作業を行う。いいなァ、浜面ァ?」

 

 ぼさっとした茶髪にラフな私服を着た男にそう声をかけると、男――浜面は「うっす!」と気軽に声を出す。

 浜面仕上。

 手先が器用なために、ピッキングやATMの解体、果ては書類や免許の偽造まで行っていたスキルアウトである。

 今ではその技術を元手に、鍵の紛失のようなトラブルが発生した場合に駆り出されている。

 今夜の作業では、使用を限定された特別免許の元、重機を使った作業を行う事になっている。

 

警備員(アンチスキル)の詰め所予定地ってのはどうなってるじゃん?」

「電気通してる元ファミレスの隣の建物がそうだ。中は掃除してあるし、明日の午前中には業者が窓を張り直して、最低限の内装はやってくれる。そっから先はそちら側が手配するんだろォ?」

 

 今回の第10学区再開発計画は、当然だがこの学区を他と同じようにしなければならない。

 そのために必要なものは、インフラもそうだがなによりも治安というものが重要だった。

 学園都市内の学区と言う事は、メインもまた学生ということになる。

 

(はみ出し者達が、揃って警察組織を受け入れるために働き回るってのも皮肉なもンだなァ……)

 

 これから先の復興作業のためには、当然ながら莫大な資金と人が必要だった。

 この街で最高クラスの頭脳である一方通行(アクセラレータ)には、かなりの額の奨学金が支給されているが、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)との交渉、資材や物資、機材の購入やそれらを使用するための必要資格の入手など様々な方面で、それを消費してしまっている。

 

 金がないわけではないが、先の事を考えると不足しているという状況である。

 となれば当然、稼ぐか融資を募るしかない。

 

(ある程度安定化してねェと融資も誘致も出来ねェからなァ……)

 

 警備員(アンチスキル)の常駐というのは、いわば最低ラインの治安の証明になるものだ。

 そのため、計画を動かすまで――いや、今日まで一方通行(アクセラレータ)警備員(アンチスキル)にいい顔をしない人間達の説得に当たって来たわけで……

 

「OK。とりあえず明日から、警備員(アンチスキル)10名……まぁ、他部署からの応援だから5名5名での交代になるけど……作業現場の視察に当たるじゃん」

「今日は一人でいいのか?」

「色々あったから、今日はアタシも付くけど大丈夫じゃん? 一応念のために専門家も来てるみたいだし」

「……専門家っつっても、発電関連のエキスパートってわけじゃねェけどな」

「芳川なら大丈夫大丈夫」

 

 芳川桔梗。

 まだ小さい頃、一方通行(アクセラレータ)があの鏡に映った目から逃げ出すと決めた時から色々と付き合いのある科学者。つまりは、彼に振りまわされて失職した人間の一人である。

 蔑まれても仕方ないと一方通行(アクセラレータ)は思っていたが、どういうわけか付き合いは続き、今もこうして度々互いに力を借り合ったりしていた。

 

「アイツの専門は遺伝子系なんだけがなァ……」

「それでも、教員専用の図書館でアンタと勉強してたじゃん?」

「……見てたのか」

「アンタを素通りさせたの、アタシだからね」

 

 肩を竦める黄泉川に、一方通行(アクセラレータ)は頭を抱え、半蔵は揺れる胸を見ていた。

 

「まぁ、時間ももったいないしもう作業を始めてもいいじゃん? 一応、アタシが見ておくからさ」

「? そっちの警備員(アンチスキル)は?」

 

 現場をキチンと見てもらうために警備員(アンチスキル)を呼んだのだが、元々そのつもりで来ていた眼鏡の警備員(アンチスキル)は詰め所(仮)へと戻ろうとしていた。――涙目で。

 

「悪いけど、こっちは始末書片付けなきゃいけないからさ」

「……………………」

 

 あぁ、人質になっていたんだっけな、そういえば。

 

「その、まァ、なんだ……」

 

 なんとなく気まずい雰囲気になった一方通行(アクセラレータ)は、誤魔化すように『安全第一』と書かれたヘルメットは頭に被り、

 

「頑張って……な?」

 

 本来ならば、それを言う方だった鉄装は、眼鏡の下の目に涙を貯めながら「はいぃ……」と力なく答えた。

 なお、黄泉川は爆笑していた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「土御門、そっちはどうだァ?」

 

 作業が始まって一時間が経った頃、一方通行(アクセラレータ)は携帯でクラスメートに電話をしていた。

 現在の所、作業は順調。腐食が始まっていた外装部分の引き剥がしに成功。

 舞い上がる埃や土煙りは、空力使い(エアロハンド)水流操作(ハイドロハンド)系の能力者が処理。

 芳川の監督と数少ない電撃使い(エレクトロマスター)の安全対策の元、手先の器用な学生達が作業に当たっている。

 

『お前さんの読み通り、動きがあったぜぃ』

「狙いは?」

『言っただろう? 読み通りだってな』

 

 スピーカーの向こう側にいるのは、いつもの砕けた口調ではなく、どこか真剣な喋り方をする土御門だった。

 

「……親船素甘か」

『堂々と一教師を拉致しに来るとは……学園都市も酷いもんだ』

「あァ……まったくだな」

 

 現場から離れた所にいるが、他の学生と同じようにヘルメットを付けたまま、一方通行(アクセラレータ)はクラスメート達からの差し入れの缶コーヒーを手に取り、口を付ける。

 

『ま、こっちはこっちで対処しておくから、そっちも気をつけろよ。お前がいるとはいえ、お前の下にいる無能力者相手になにか仕掛けようとする連中がいるかもしれん』

「あぁ。結標と半蔵、それに削板達が今周辺を警戒している」

『……6位まで呼んだのか?』

「呼んでねェのに来たんだよ。おかげでまた書類仕事が増えたぜクソォ」

 

 唐突に現れて『話を聞いてきたぞ! 一方通行(アクセラレータ)!』と叫んだ熱血馬鹿の暑苦しさを思い出して、一方通行(アクセラレータ)は皺が寄った眉間を揉みほぐす。

 

「だから、なにか仕掛けられるとしたらそちらの可能性が高ェ。陽動も含めて、だ」

『あぁ、分かってる。こっちも最大限の警戒はしておく』

 

 一方通行(アクセラレータ)は、元々闇の中から生まれた。

 だからだろうか。同じく闇の中にいる人間を見分けるのは非常に簡単だった。

 その中で、比較的話が通じる人間を見つけるのも。

 

『やはり、親船最中が牙を持ったと考える奴らが多いようだな』

「否定はできねェがな。親船と貝積には大分世話になっている」

 

 裏から抜け出そうとしていて皮肉な話だが、それにはどうしても裏の力が必要不可欠だった。

 自分達に害意をもたらす裏を払いのける、中立に近い裏が。

 

『世話になった? 実際の所、娘とブレインを無理矢理巻き込んで人質にしたのはお前だろうに』

「…………返す言葉もねェな」

 

 苦虫を噛んだというか、なにかを諦めた顔をする一方通行(アクセラレータ)

 

『まぁ、繰り返すがこっちは任せろ。そっちはあとどれくらいかかりそうだ?』

「今、内部のインバーターの分解整備とタービンの総とっかえを同時進行。解体作業の方は能力者のヘルプも来ているから良いスピードで進んでいる……。テストが終わるのは、多分深夜……というか早朝だろうな」

 

 最悪、日が昇りかねないと考えていたので、作業日を金曜日にしておいたのは正解だったと内心思いながら、一方通行(アクセラレータ)は再び缶コーヒーを口にする。

 眠いのだ。なにせここ数カ月、平均で一日2,3時間しか寝ていなかった。

 

『そうか、まぁ、明日の朝には俺もそちらの様子を見に行こう……ところで一方通行(アクセラレータ)

「なんだ?」

『ちょうど今、結標から面白い写真が送られてきたんだけど……これ上やん達に送ってもいいかにゃ~?』

「…………」

 

 なんとなく、巨大な風車を見上げていた視線を下へと戻す。

 そこには、携帯をこちらに向けて手をひらひらさせているテレポート系ショタコン女子がいた。

 その目線の先は、当然自分だ。自分しかいない。

 安全第一ヘルメットを被った自分が。

 

「消せ」

『ありゃ~、返事が遅かったからもう送っちまったぜよ。そんじゃ、また明日な~』

 

 こちらの返事を待たずに切れる電話。

 携帯を閉じて背を向けるクソアマ。

 反射的に発動する自分の能力。

 

 学校にて、三馬鹿デルタフォースを幾度も地面に沈めてきた必殺アイアンクローが、ついにショタコンをも地面に沈める日が来たのだ。

 

 




とある高校の日常:一方通行(アクセラレータ)&吹寄制理vs上条・青ピ・土御門(デルタフォース)
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