「お前、そよちゃんの護衛だったアルカ? ……いくらなんでも弱すぎアル」
「いや、あの、すいませんチャイナさん。普通の野球ボールで分厚いコンクリ壁吹っ飛ばせる威力出せる人にはちょっと対応できなくて……」
『おい、なんなんだこの小娘!? どこの星の人間だ!?』
さすがの紅桜も、この怪力チャイナ娘は予想外だったようだ。完全に動揺している。
「神楽ちゃんは、かぶき町の女王なんですよ」
すみませんそよ姫様。これは女王様とかじゃないです。メスゴリラのボスとかそういう何かです。
「そうヨ、この辺りは私の縄張りネ」
「マジですか。じゃあとりあえず俺子分にしてもらえませんかね」
『アオイィィッ!? 貴様、何をアッサリと尊厳を捨てているんだ! 相手は小娘だぞ? お前よりもはるかに年下なんだぞ!?』
年下っつっても二桁離れてる訳じゃないから。同じ十代ならタメだろうが上下だろうが十分あり得るから。
だからセーフ。セーフなんだってば。
「別にいいアルヨ。じゃあ、これから私の事は女王様と呼ぶヨロシ」
「……すいまっせん。さすがにそれは色々と誤解受けそうなんでなんか別の呼び方ないっすか?」
「えー……じゃあ、工場長でいいアル」
「なんでそのワードを選んだし」
というか何を生産してるんだこの怪力娘。死体とかガレキの山じゃなかろーな?
そうなった場合対応するのは警察となるわけでつまりは俺達……うし、その時は局長か副長に押し付けよう。あるいは真撰組。
「なんだヨー。子分なのにわがままな奴アルナー」
「いやぁ、神楽さんの器量が大きいからついつい甘えたくなっちゃうんですよー」
『アオイ……お前そこまで……』
止めたまえ。蔑むその声を今すぐ止めたまえ。
当初の目的以上に警察との繋がりつかめたからにはこの江戸に根を張るつもりなんだから、つながりを伸ばそうとするのは何もおかしくない。
「分かった分かった。それならリーダーでどうアルカ?」
「うっす。よろしくお願いしますリーダー!」
「よろしい。それでは早速酢昆布一年分献上するアル定春28号!」
……28号? え、なにそれ、リモコンで動くの? 太陽エネルギーで動けばいいの?
そもそも俺の前にそんなに子分さんがいらっしゃるんですか?
いや、その前に――
「あの、そよ姫様。酢昆布一年分ってまず一日辺りの消費量いくらなんですかね?」
「さぁ……ただ、神楽ちゃんは凄く食べる人なので……」
「なに? 貴方ドーナツ補給係と兼任して酢昆布補給係もやるの?」
うっさいドS女。
とりあえず口元のよだれを拭え。お前さっきまでそこのデカい犬の背中で爆睡してたろ、チラっと見えたぞクソが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その後、とりあえずもう二桁ほど必殺魔球を受け――最後のほうでようやく紅桜がコツが掴んだのか、身体にダメージは入るものの受け止める事は出来るようになった。
その直後に『ヨシ! それじゃあもうちょっと本気出すアル!』宣言をいただいて、また宙を舞ってたけど。
副長、一応部下が死にかかっているというのにただ眺めているだけだったけど。
その直後、俺をフリスビーかなにかとでも思ったのかリーダーの飼ってるデカい白犬に噛まれて振り回されながらリーダーの目の前に叩きつけられたけど……うん、どうにか生きています。
「おぉ、君はこの間の……見廻組に入ったんだってなぁ」
「期間限定、ですけど」
そうしてチャイナ娘――もとい、リーダーと別れた後無事にそよ姫を城へと届けた際に、珍しい顔に出会った。
「お久しぶりです、近藤局長。先日の立ち会いではお世話になりました……局長が止めてくれなかったら今頃俺……いや、自分は……」
向こう側のドS野郎、完全に人を見る目じゃなかったもん。ブタを見る目だったもん。ウチのノブたすですら人扱いしてくれるのに。
俺吹っ飛ばした後も木刀構えてたもん。俺の身体のどこかに突き立てる気満々だったもん。――多分ケツに。
そのおかげかどうか、紅桜がマジになって俺の身体に全力で合わせてくれてどうにか最悪の醜態を晒すような真似だけは避けられた。勝負決まった時に、すぐにこの人が止めてくれたし。
ちくしょう、真撰組に引き取られればよかった。
局長が胡散臭くないという時点ですごく違う。全然違う。
……あぁ、でもドS野郎の質は悪い意味で向こうが上なんだよなちくしょう。
「はっはっは! いや、すまん。総悟の奴も随分と熱が入ってしまったようでな。実は、あの後君の保護観察をウチでやろうと強く押していたのはアイツなんだよ」
それ、俺にトドメを差そうとしてたんじゃないすかね。
他の目が届かない所でこっそり斬ろうと思ってたんじゃないすかね。
「いやぁ、残念だ。アイツの言う様に君を三番隊に入れられればよかったのだが……」
「? あの、沖田隊長は確か……一番隊でしたよね」
「あぁ、アイツは一番隊隊長だ。いやね、三番隊は人が足りてなくてね。総悟の奴は君をそこに入れたがっていたようなんだが」
……なんか……意外だ。
あれかな。実は結構認めてくれていたのか?
それなら、今度会った時には一応にこやかに挨拶しておくか。
『いや、アレはそんなタマではないだろう』
紅桜が頭の中でボヤく。
……うん……だよね。
人手が足りない所でひたすらこき使おうとかそんな感じだよね。多分。
「局長は、今日はどうしてこちらに?」
「あぁ、松平のとっつぁんに呼び出されてな。佐々木殿も来ていたぞ」
「局長が? 緊急事態ですか?」
そういえば、いつもなら軽く二桁はメールが来ているハズなのに今日は静かだったな。
「恐らく、君も佐々木殿から後で聞かされると思うが……高杉一派――鬼兵隊が再び江戸に入ったという未確認情報が入った」
「あのアバズレピンク御一行、ついに俺の見つけた安寧の地までを踏みにじりに来やがったんですか」
ちょうどいい。半分疑われているとはいえ、見廻組がバックにいる状況でここまで追ってくるとはいい度胸だ。
「君にとっても因縁のある相手だろうが……」
「大体分かりました。ようするに自分への監視の目が厳しくなるということですね?」
「あぁ……まぁ、そう言う事だ。すまない」
いや、そんな本当に申し訳なさそうな顔をしなくても……近藤さんが悪いわけじゃないんだし。
というか疑ってナンボのお巡りさんだし。
後ろに付いてきている目付きの鋭いV字前髪の人も頭抱えてため息吐いてるし。確か向こうの副長だよね?
「ありがとうございます、近藤局長」
今まで出会った中で、一番まともな大人を見た気がした。
素直に頭を下げてお礼の言葉を言うと、近藤さんは豪快に笑ってそれを流す。
本当にいい人だ。
「まぁ、色々ややこしくはあるがお互い同じ警察官。困った時はお互い様だ」
そして笑顔を浮かべたまま、近藤さんは副長を引き連れて去っていく。
やばいよ。この人格好良いよ。
なにかあったらいつでも声かけてください。力貸しますんで!
なお、その機会はすぐにやってきました。
「あのぅ……土方さん」
「なんだ?」
「自分、探索要員の助っ人要員だと聞かされていたんですが……」
「あぁ、そうだ」
「そうですか。それじゃあ――」
「なんで俺、延々森の木に次々とマヨネーズを塗っているんですか?」
「仕事だからだ」
「そうですか。仕事なんですか……」
「――いやどういう仕事!!!???」