rikkaのメモ帳(短編・走り書き集)   作:rikka

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銀魂⑧

「天狗党? 攘夷浪士の集団……ですよね?」

「えぇ、その通りです」

 

 今日は本来ならばオフの日。柳生家の道場で九兵衛と剣の練習していた時に、急遽サブちゃんこと佐々木局長から連絡が入った。

 緊急の仕事が入ったので、大至急出頭してくれというメールに従って来てみたが……。

 

「あの、俺の記憶が確かなら、そいつらって結構前に真撰組に潰されてませんでしたっけ?」

 

 以前、仕事の助けになればと読んでいた最近の攘夷浪士の犯行等の資料を読んでいる時にその事件に関しても目を通していた。

 数ある真撰組のトンデモ事件の中でも特に、アイドルの寺門通が真撰組一日局長をやっている間に誘拐されるというひっどいトンデモ事態だったために強く印象に残っていた。

 最終的に寺ごと犯人達をバズーカの一斉射でふっ飛ばした真撰組も。

 

「はい。確かにあの異菩寺(いぼじ)での一件によって主要メンバーは軒並み逮捕。残党こそいるようですが、それはすでに新撰組が捕捉している様子。完全壊滅までそう時間はかからないでしょう」

「……局長、自分が呼ばれた理由がますます分かりません」

「問題なのは人員ではなく、婦女子の誘拐という手段が有効だと不穏分子に認識された事にあるのですよ」

 

 局長がチラリと隣に立っている今井副長の方に目を向けると、副長は局長の横にホワイトボードを転がして来る。

 貼り付けられた地図には、赤い丸と、加えて小さな写真が貼り付けられている。

 

「……全員、行方不明に?」

「いえ、こちらは我々見廻組が救出した人達です。赤い丸は、聴取で判明した犯行現場です」

「……なるほど」

 

 これは確かに問題だ。誘拐されている人員が多すぎる。それも、あくまで分かっている範囲ときた。

 

「恐らくですが、吉原等の少々特殊な遊郭等に売り払われた方も多くいると思われます。そちらの方の手配は既にしてありますが問題は街中に潜む存在」

「攘夷浪士を名乗るだけのただのゴロツキも、女の(かどわ)かしに手を付けている」

 

 そういえば、京とかに比べて街を歩く女の人が少し少ないとは思っていた。

 かぶき町とかはちょっと違うが。

 

「……天狗党の連中の場合、人質として女を手元に残していたから簡単に足がついたが、ある意味で手が早い連中相手だとそれも一苦労――そういうわけですか?」 

「ゴキブリのように、数だけは多いという事も付け加えてください。そこで、我々も一手打つ事にしました。信女さん、渡してあげてください」

 

 そして局長が促すと、今井副長はそっと俺に近づいて大きめの紙袋を俺に手渡す。

 

「これは?」

「開けてみれば分かります」

 

 少し大きいが、それほど重いという訳ではない。そして柔らかい。

 言われた通りに袋の中身を取り出して包みを開き、更に包み紙を外して見る。

 

 それは着物だった。ウチ三着は今自分も着ている見廻組の物と酷似している。

 

「すみません、これは?」

「もうお分かりでしょう?」

「すみません、これは?」

 

 無表情バカの言葉は無視して、今度は副長に問いかけるが、ウチの人斬り副長は相変わらずの表情で。

 

「制服と普段着。貴方用に仕立てた物」

「その俺が着る服になんでスリット入ってたり丈の短い物ばっかりなのか聞いてんだよコルァ」

 

 しごく真っ当なはずの俺の意見に、エリート馬鹿はため息吐きやがる。

 いやなんでだよ。どう考えてもおかしいだろうが。

 

「貴方、先日柳生家の次期当主と一緒に電車で遠出した時に、何人痴漢を捕まえました?」

「……記憶にございません」

「この間私と満員バスに乗った時にお尻触られてた」

「……記憶にございません」

「その後ナンパされてた」

「……記憶に――」

「葵さん」

 

 なんだよ! 触られた本人が覚えてないって言ってんだから信じろよ! 忘れろよ!

 

「女性の隊士が市中に紛れこんでいるという実績と噂が流れるのは、抑止の一つとして有効です。ですが、見廻組に女性隊士は信女さん一人しかいません。さすがに副長ともなれば顔は知られている。そこで貴方の出番と言う訳です」

 

 どういうわけ!?

 

「紅桜さんを宿している貴方ならば目立つ帯刀はしなくてもいいし、腕もそこそこ立つ上に見目麗しい。――男なのに」

「ぶっ飛ばすぞクソインテリっ!!」

 

 というか発想がエリートの発想じゃねぇよ! 馬鹿の発想だよ! お前本当に『三天の怪物』って呼ばれてんのか!?

 

「あぁ、もちろん私生活でもお願いしますよ? もし貴方が犯罪に巻き込まれた時は色々便利ですから」

「てっめ……っ!」

「局長命令です。信女さん、着替えを手伝ってあげてください」

「ん、分かった」

「分かったじゃねーよおま、あ、ちょ、刀抜くな! 仮にも自分達の隊服斬っていいと思ってんのか――」

 

 

 

――アッーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「812っ! 813っ! 814……っ!」

 

 自分の竹刀を振った回数を数える声と、竹刀が空を斬る音が無人の道場に響いている。

 

(……葵の奴、大丈夫だろうか……)

 

 自分が拾う事になった男の剣の腕前は、おそらく自分が一番よく知っている。

 あの男は、強くなった。驚くべきスピードで。

 今では四天王の南戸相手ならば必勝、西野相手ならば10本中4本は取れる域にまで達した。

 

 最近では北大路も葵を認め、葵の鍛錬を自分から見ていたりする。

 門下生の中には未だに認めない者が多いが、意外に家の中の者には評判がいい。

 

(緊急の事件――攘夷浪士によるテロなどだろうか)

 

 だからだろうか、緊急の呼び出しを受けたと聞いて西野や女中頭のお滝は心配していた。

 

(大丈夫だ、奴は大丈夫。奴は……強い)

 

 

――自分よりも……。

 

 

 内心浮かんだ言葉に、竹刀の振りに迷いが乗る。

 

(いや……迷っていたのはずっとか)

 

 鬼兵隊、河上万斉。

 葵を付け狙う人斬り。

 

 あの男との戦いから、何かが自分の中で暴れている。

 何かを吐き出したい自分がいる。

 

 だが、苦しみから逃れる術も、吐き出す術も知らないのが自分だと、日々思い知らされている。

 

(妙ちゃん。僕は……君を守れるように、胸を張って迎えにいけるように強くなったつもりだった)

 

 それが今では、友一人守れるかどうかすら怪しいというザマだ。

 

(僕はこの三年の間、一体何をしていたんだ……っ!)

 

 自分の三年の成長など瑣末な物だ。

 そう思う程に葵という男は成長している。

 女の様な外見、仕草を持ちながらも、剣に対しては真っ直ぐな男。

 右腕に寄生している天人と時折会話をしながら、強くなろうと努力を惜しまない男。

 

 そして、恐らく自分にはない物を持っている男。

 

 竹刀を、そっと下ろす。

 

「……分かっていたんだ」

 

 自分は、強くなどなっていない。

 旅に出たのは、家なりの優しさを認めたくなかったから。

 剣に逃げたのは、大切な人への負い目から目を逸らしたかったからだ。

 

「僕は……何をやっているんだ……」

 

 

 

――ドン、ドン

 

 

 

 道場の戸が軽く叩かれる。

 ここに来れるのは、家の者か四天王……後は無理矢理家の者に認めさせた葵くらいだ。

 家の者や四天王には来るなと言っておいた。それでもこっそり覗こうとした東城は先ほど爆破した。

 

「葵か?」

 

 自分にとって初めて、友と呼べる男の顔を思いだす。

 無事に用事が済んだのかと、気が付いたら安堵の息が漏れる。

 

『用事が終わったから返しに来た』

「? 信女殿も一緒でしたか」

『そう。一人じゃ歩けないって言うから……』

 

 戸の外から聞こえた声に少し首をかしげる。

 まさか、怪我でもしたのだろうかと思ったが、それならここではなく病院に担ぎ込まれているはずだ。

 怪訝に思いながら、戸を開ける。すると――

 

 

――よく知る顔が、よく分からない格好で立っていた。

 

 

「…………葵?」

 

 出かける時に着ていた白い制服。

 そうだ、それは変わらない。

 だが、白いズボンだったそれは、白いロングスカートになっている。しかもスリットが入っている。

 

 完全に女にしか見えないその格好に、言葉が出ない。

 その葵は、顔を真っ赤にして俯いたまま――

 

「……頼む、介錯してくれ」

 

 と、震える声で呟くのだった。

 

 

「お前、何をやっているんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 




今更ですけど、葵は赤毛になった沖田総子のイメージで書いております
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