艦隊これくしょんー死ねない提督と元ブラ鎮 作:ゆっくりRUISU
ある日、執務中に手紙を見た喜一は、普段よりも低い声で陽炎に言った。
「…陽炎、全員を食堂に集めてくれ。緊急事態だ」
「いいけど…。何かあったの?」
やや不安の色を滲ませながら聞き返した陽炎に、喜一は手紙を渡した。
「『要請書』と書いて『命令』と読ませる代物だ」
渡されたを読んだ陽炎の顔色が変わる。
「『そちらの保有する全ての艦娘を当鎮守府へ無期限派遣せよ。又、資材は全て当鎮守府へ無償にて譲渡し、そちらの提督は新設される泊地へ単身で転属せよ』。…何よこれ!ふざけてんじゃないの!?こんなん無視して…!」
「肝心の送り主は嘉祢画星井大佐、大本営の中将の息子だ。下手すりゃあることないことでっち上げられて俺は島流し、お前らはどこぞの鎮守府に転属させられるだろうな」
「…横暴過ぎるわよ、そんなの」
陽炎が吐き捨てる様に呟くと、喜一はため息まじりに口を開く。
「ただし、とある。『演習においてそちらが息子の艦隊に勝利すればこの件は無効とする。嘉祢画中将』…だとさ」
「…あっちの提督の親かしら?」
「だろうな。ここは明確な違反も多分無し、最低限には戦果をあげてるし、そもそも着任前に『戦果は気にしない』って大本営から直々に言われてる。流石に今回みたく有無を言わさず無理やり転属させるのは批判されるから批判の逃げ道で作っといたんだろ。…ただ、俺が一人で作戦を組んだら正直勝ち目は薄い。だから編成まで含めて相談したい」
「なるほどね。じゃあ13:00に集合させるわ」
「そうしてくれ。俺はワンチャン魔緒流に頼ってみる」
そう言うと、喜一は内線で那珂を呼び出した。
「那珂…ちゃん。魔緒流の奴そっちにいるか?」
『あっ、プロデューサーさん!マオちゃんならいるよー。替わろうか?』
「頼む」
『はいはーい!ちょっと待ってね!』
那珂がそう言った数秒後、魔緒流の声が電話から聞こえた。
『珍しいね。どしたの急に』
「相談があるから執務室まで来てくれ」
『ほーい。ちょいと待ってね』
ガチャン、と内線が切れる。
数分後、魔緒流が執務室の扉を吹っ飛ばしながら入室した。
「来たよー」
「扉壊すなよ…。んで、本題なんだが」
喜一は手紙の件を魔緒流に話した。
「んー…。ちょっとむちゃくちゃ過ぎるね。ソイツ暗殺してこようか?認識阻害くらい簡単だからサクッと殺れるよ?」
「自粛してくれ。今死んだら不自然すぎるだろう。十中八九俺の仕業って事にされる。…いきなり暗殺に思考が向いたって事は無理か。魔法でどうにかなんねぇかな、って期待してたんだが」
「ちょっと無理かなー。そもそも『どうにか』ってアバウト過ぎ」
「だよなぁ…。やっぱ正攻法か」
「正攻法?」
喜一は演習の話も魔緒流に伝えた。
「ふーん…」
「そういうわけで、13:00から全員を食堂に集めて話をする。…んで、お前には他に頼みたい事がある」
「はいはーい。何?」
聞き返す魔緒流に、喜一はある依頼をした。
そして13:00、食堂。
「…と言うわけで、取れる選択肢は2つだな。1つは服従。何もせずに大人しく従うこと。もう1つは対決。1ヶ月後の演習で勝てばこの話は無くなるからそれに賭ける。てなわけで確認しとく。
…お前らはどうしたい?」
喜一がそう聞くと、艦娘達に動揺が生じた。
しかし、数秒後。
「面白ぇっ、上等じゃねぇか!」
「諦める訳ないでしょ!」
「やってやろうよ!」
「何もしないで諦めるなんて、したくない!」
天龍、曙、鈴谷、瑞鶴。
ある意味では喜一の予想通りの面子が声をあげた。
確認で矢矧に視線を向けると、『好きにしろ』と目で言っていた。
「…じゃあ、件の演習は受ける、って事で作戦を考えたい」
「あのー、その件でお話があります」
そう言いつつ、青葉が挙手をした。
「話?」
「実はその鎮守府なんですが、どうにも黒い噂が絶えないんです。噂なんですけど、艦娘に休みも与えないで、ロクに補給も修理もさせないで出撃させてたり、捨て艦や虐待は日常茶飯事らしいです。…ただ」
「バレても親が中将ともなれば簡単にもみ消せる、か。…となると、最悪の場合を想定した方がいいかもな」
「最悪?」
青葉がおうむ返しに聞き返す。
喜一が予想した最悪の話をすると、全員が絶句した。
ややあって長門が口を開く。
「…そ、それは流石に有り得ないのではないか?」
「…ちょっと勘の話をするが。
多分嘉祢画大佐の目的は、まず第一に資材。第二に取引素材として雪風達、俗に言う『レア艦』。第三にこの鎮守府の運用資金。最後に捨て艦にする、もしくは解体する為の、言っちゃあ悪いが『その他の艦』だと俺は判断する」
再び艦娘達の間に動揺が走る。
不意に、矢矧が喜一に尋ねた。
「…喜一の判断の基準は?」
「勘が大部分だが…。
根拠としちゃあ、優先順位はともかくとして、資材、資金、レア艦の辺りを標的とするなら、この鎮守府ほどうってつけの場所はない」
「何故?」
「第一に、この鎮守府はそこまで出撃してる訳じゃないが遠征自体はしてるから資材はそこそこある。次に、俺は提督としちゃあ素人だから横槍を入れられづらい。…事実、俺は軍内部だと横にも縦にもコネはない。んで、3つ目に。この鎮守府の艦娘は大本営からの信用って点じゃどうしても低い。だから大本営に誰かが伝えても、憲兵が動くまでにはどうしても時間がかかるし、そもそも嘉祢画中将が一喝すりゃあ握り潰される。以上の条件から、ここが狙われたと判断した。んで、そこまで頭を回せる奴なら、万が一を無くす為にもこっちを確実に叩き潰す手を使ってくる。大した策も何もなく、かつ『間違えた』って惚けて逃げられる手段。ここまで絞り込めば、自ずと見えてくる」
そこまで言い切った喜一は、全員が意外そうな目で見ていたので、ため息まじりに再び口を開く。
「…いや、大体わかるだろ。このぐらい」
『わ か る か !』
艦娘達の大声が鎮守府に響いた。
てことで1話挟んで演習。ただし描写はカットの予定。