数字では無い生身の君と   作:水色絵具

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VSゲンガー

「はぁ…。着いた。」

 

本来あり得ない奇跡なのだろう。

あの中をくぐり抜け塔の一番上へとたどり着く。

 

朝日が上り始めるのが見える。時計は5時を指している。

 

「6階を登るのに3時間。」

 

勿論だが、頂上にホウオウはいなかった。

 

だからなんだ。元から会えるまでここに居座るつもりなのだ。

たとえ、あの子が施設に行ったとしても元気になれば戻ってきてくれるはずだ。

 

「兄さん達はそろそろ気付いたのだろうか。」

 

俺がいないことに。でも、どこに行ったかわからないだろう。

ここだと気付いても、この塔に入るには厳しい許可がいるらしい。時間は掛かるだろう。

 

「頼む来てくれ…。」

 

俺は昇る太陽に祈る。ただあの子を助けてくれと。ただ、それだけを…。

 

『キ、シ、シ、シ…。』

 

「えっ…。」

 

どこからともなく声が聞こえる。

 

「これは兄さんのと同じ。ゲンガーの…。」

 

朝日が顔を出し下の階のゴーストタイプはいっせいに姿を消したはずだった。

 

体中に鳥肌が立ち、寒気が背中を押そう。

そして次の瞬間、体に激痛が走る。

 

「ぐぁッ…。」

 

これって、のろいか。

 

激痛に耐えられなくなり俺はその場に倒れこむ。

顔を動かし周りを見てもすがたは確認できない。

 

「まだ死ねないのに…。」

 

途端に痛みが消え始める。それと引き換えに、視界を黒が被い始める。

イーブイを思いだし心を強く持つ。

 

だけど、どうしていいのか分からない。

そして俺の意識は静かに落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「あれ…。」

 

俺はさっきまでスズのとうにいた筈じゃ…。

 

目が覚めるとそこは自宅だった。

 

「夢の筈はないんだが…。」

 

でなければ…。

 

俺は立ち上がりドアに手をかける。が、俺の手はドアをすり抜ける。つまり…。

 

「死んだのか…。」

 

あまりにもあっけないその事実に気が動転する。

だが、パニくる頭に声が聞こえる。

 

「アナタ、起きて。あの子がいないの。」

 

母の動転した声が響く。

 

「どうした。」

 

「あの子の姿が見えないのよ。イーブイを手放すのを嫌がってたし、変な気起きないように早めに様子確認しに行ったんだけど、あの子どこにもいないのよ。」

 

「イーブイは?」

 

「分からない、部屋にはいなかったけど…。」

 

母が泣き崩れる。

 

「こんな気がしてたの。あの子思いつめてたし…。ブラッキーを傍につけてたのに…。」

 

「母さん…。」

 

すすり泣く母の姿を見て胸が締め付けられる。そんな体はもうないのに…。

 

「まだだ。とりあえずジョーイさんの所に…。」

 

「連絡は入れてきたよ。」

 

「マツバか。」

 

その傍には相棒のムウマージと伸びているブラッキーとエーフィがいる。

 

「この二匹が弟に協力してたみたいだ。僕にふういんまでかけて妨害してきた。」

 

「ブラッキー、なんで…なんでなの。」

 

母がブラッキーに縋り、泣きつく。

 

「自分の子にあそこまで思い入れちゃってる弟の傍にいたからだと思うよ。」

 

「エーフィもか…。」

 

「僕だって何とかして助けてあげたい。この二匹がそう思ってもおかしくはないよ。責められない。」

 

「あの子のイーブイは…。」

 

母の問いに兄さんが目を瞑る。

 

「玄関で…、死んでた。いま、弟の部屋に…。」

 

「なんで…。」

 

は…、なにを。何を言ってるの、兄さん。

 

「玄関にドアを何度も引っ掻いた後があった。多分、あの子を助けようと出ていった弟を追って…。」

 

うそだ。そんなハズ…。

だって、ちゃんと寝てたのに…。なんで…。

 

俺は一目散に俺の部屋に駆け込む。

そこにはすやすやと眠るイーブイがいる。

 

「ほら、全然大丈夫だよ。」

 

うそだった。

イーブイの前足には割れた爪と赤く染まった白い毛が…。

 

「ほらこんなにもすやすやと眠って…。」

 

それもうそだった。

もう、呼吸をしている様子は見られない。

 

「ほら…、だって…。」

 

体のなくなったハズの俺の頭が割れるように痛む。

 

「そんな筈ない。だって…」

 

俺たちはこれからだってずっと一緒に…。

 

『もう、死んでるのに?』

 

違う。この子はまだ死んでない。

 

『死んだのよ。それに忘れてるの?』

 

何をだよ!違うんだ、この子が死ぬ筈がない。死んでいい筈が…。

 

『君ももう死んでるのよ?』

 

えっ…。

 

『君もイーブイももう死んでるのよ?』

 

あれ?この子は死んでなんか。

 

『君は?』

 

俺は…。俺は死んで…る?

 

『そう、でも大丈夫。』

 

だいじョウブ?

 

『あの、イーブイを見捨てればあの子の命を対価に君は生き返るの。』

 

いきカエル…。

 

『いいのよ。あんな出来損ない。見捨てても。」

 

ミステレバ…?

 

『そう。さぁ、あの子を捨てなさい。」

 

ステル。ソウ、ステレバ。ナニヲ。

 

『ふふ、あの白いイーブイを…』

 

シロイイーブイヲ。シロいイーブイ?

 

アレ?

 

しろイイーブイを?

 

『見捨てれば?』

 

みすてル。しろいイーブイ。あれ?白いイーブイ。

 

あれ?なんだ。

だれ?そう、この声は…。

 

「この声は…だれだ?」

 

そう呟いた瞬間、視界に亀裂が入り始める。

 

『ふふ、まさか本当に帰ってくるとはね。』

 

亀裂は大きくなりボロボロと崩れ始める。

 

『気に入ったわね。まぁ、アレは嫌うのでしょうけど。』

 

そして、いきなり世界がはじけ飛ぶ。

すると、目に飛び込んできたのはきれいなお姉さんの顔だった。

どうやらこのお姉さんに膝枕をされているらしい。

 

『ふふ。お帰りなさい。』

 

「えっ、何が…。」

 

生き返った…のか。

 

『死んでないよ。君もイーブイもね』

 

「あの子も…。」

 

よかった。死んでない。あれ?さっきのは?

 

『まさか、あのゲンガーのあくむの世界から戻ってくるなんてね。』

 

『シ、シ、シ。』

 

顔を上げて周りを見るとお姉さんの隣にゲンガーがいた。

 

「このゲンガーが…。」

 

『後でキチンとお礼言いなさい。僧侶にさいみんじゅつを掛けたのも、鍵を破壊したのも、君を襲わないようにポケモンたちに命令したのもこの子なんだからね。』

 

どういうことだ?

 

『君があのイーブイのために奔走して、この塔の前でホウオウに祈ってたのを見て気に入ったのかもね。」

 

「そっかぁ…。」

 

って、あれ?思考が…。

 

『ふふ。まぁ、アレは嫌うかもだけど私は好きかな?』

 

お姉さんは慈しむ様に笑いかけ、俺の頭をなでる。

 

『ゲンガー、連れてきなさい。』

 

お姉さんがそう言うとゲンガーは影に溶けて消えていった。

 

『じゃぁ、最後の選択かな?』

 

なにを…。

 

『さっきのゲンガーと君のイーブイ。君の選んだ方を助けてあげるね。』

 

 

 

 

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