【お試し連載】フューチャーカードバディファイト ~炎の剣士の輝跡~ 作:巻波 彩灯
前回は狂ったように2回ファイトシーンを書きましたが、今回は無しです。
また前回と同じ描写を書いています。一応、細かい点は変えていますが、大まかな流れは同じかと……。
どうでも良い話、オトナバディフェスタに参加しようと思ったら、重要な用事と被って行けなくなりました。ナンテコッタイ。
後、何か寒くなりましたねぇ~……地域それぞれだと思いますが、私の家はまだ扇風機が活躍している時期です。季節感……。
では、後書きの方でまたお会いしましょう。
これは少し昔の記憶。まだ隣に彼がいた頃の思い出。
彼は眼下に広がる雄大な景色を見て、笑顔で浮かべながらこちらに話しかけてきた。
?「レックス、俺の夢って何なのか知っているか?」
レックス「それは世界を一つにする事。何度聞かされていたと思っている」
?「はははっ! 流石、俺のバディだな! そうだ、俺の夢は世界を一つにする事だ!」
何度このやりとりを繰り返しただろう。あの頃は本当に楽しかった。
?「だからと言って世界平和を目指すとか、皆仲良くって訳ではないけどな」
レックス「知っている。しかし、それも出来たら理想だな」
?「確かにな。けれど、俺はあくまで学者、それも科学者だ。科学者らしく科学で世界を一つにしたいんだよ」
レックス「それでもわざわざ私の故郷に来る必要があったのか?」
彼らがいる世界はドラゴンワールド。レックスの故郷だ。馴染み親しんだ景色を下に彼の夢が語られる。
?「あるさ、お前の故郷がどんなところか知らないと俺の夢も皆を苦しめる悪夢となるから」
レックス「そうか。お前の夢とは確か……」
この言葉を何度吐いた事だろう。ああ、これが追憶の中だと自覚しなければ、どれだけ幸せでいられただろう。
本当に自分の聡明さというものは嫌いだ。こんな幸せな夢でも現として捉えてくれないから。これはただの過去だと告げて足を止めさせる。
?「俺は色んな世界が自由に行き来出来るようにしたいんだよ。今は限られた機材と限られたバディ達しかこの世界に来れないからな」
レックス「ああ、そうだな。今は本当に一握りの人間とモンスターしか行き来できない」
?「そうそう。俺の家族にも俺の大切な相棒の故郷の景色を見てもらいたいんだけどな……出来ないのは悔しいなぁ……」
とても悲しそうな彼の横顔。それなりに年を重ねているのように見えるが、妻子持ちと言われるとそう感じさせない若さがある。
それに比べて自分は老けているなと常々自覚せざるを得ない。そこまで年は重ねていないつもりだが。
?「まっ、でもそれも今の内。ウチの研究所に優秀な奴が入るって聞いているし、俺も夢物語に終わらすつもりはないしな!」
そんな未来を思い描いていた。あの時の自分も当然のようにこの先彼と共に歩んでいたのだろうと思っていたのだと。
?「だから、レックス。お前も力を貸してくれ」
彼がこちらに目を合わせる。とてもとても真っ直ぐな瞳。その瞳に宿る情熱に自分は惹かれ、傍にいる事を決めた。
だから、答えはもう決まっている。
レックス「当然だ。私のバディだぞ? バディに力貸さないのは相棒失格だろう。それに私の騎士としての矜持も許さない」
?「はははっ! ありがとう!」
夢は終わる。徐々に彼の顔が、声が遠のく。幸せで苦しい回想の旅はここで途切れた。
気が付けば、白い天井が見えた。年月が経っているのかあちらこちらにシミが目立つ。
また左側から朝日が差し込んでいるのを視認し、肌で感じる。
レックス「……忘れられないものなのだな」
誰一人いない一室で呟く。夢、いやあの頃の思い出は随分と心に深く刻まれていた。
それ程に印象深い一時だった。だからこそ、思う。彼が願っていた夢を、最期に結んだ約束を果たさねばと。
レックス「もうすぐだ……もうすぐで……」
この手の中にある約束を果たす日が来る――それが例え世界を壊す事になっても。
身支度を整えたら、気晴らしに外へ出かける。あの夢の後味を拭う為に。
自分の竜は自由奔放な性分で常に傍にいる事はなく、今日もどこかを出かけている。大方、最近付き合いが濃くなった野良猫の集まりにでも行っているのだろう。
有事には亥の一番に翔けてくるのだが、一体どこでそれを感じているだろうか。もう何年もコンビを組んでいるものの、それだけは一切分からない。
いや、そういう事を考えるのは止そう。詮索される事程、一番嫌いな竜だから。
レックスは思考を逡巡させながら路地裏を歩く。目立つ格好なので日が出ている間はあまり人目につく所は行けない。それにバディポリスの目に留まったら、面倒この上なしだ。
小脇に知人から借りた古書を挟み、どこか落ち着ける場所はないかと探す。しかし、路地裏にベンチというものはそうそうにある訳もない。
少し困ったなと思っていた矢先、男女の声が聞こえてきた。会話の内容から女性が嫌がっているのにしつこく男性が話しかけているという感じだろう。
淑女が困っているのは見過ごせないなとレックスはその現場に足を運ぶ事にした。
男A「んな、つれねえ事言うなよ、ネーちゃん。ここに来たって事は俺らみたいなのに話しかけられたいからだろ?」
女「ち、違います! 仕事でここを通らなきゃいけなかっただけで……」
男B「仕事ねえ……ここを通るって事は何かいやらしい仕事でもしてんでしょ?」
男C「そうそう、こんな所なんてソッチ系の仕事しかこなさそうだし……ねえ、俺達も一緒にさ」
レックス「紳士諸君、そこまでだ」
と言い、レックスは女性を背で庇いながら男女の間に割って入る。男達はレックスの異様な格好に少し引いていた。
レックス「そんな口説き方ではレディを落とす事なんて出来ない。ここは引くべきだろう」
男A「何を言い出すかと思いきや、お姫様を守る騎士でも気取ってんのかよ!」
男はゲラゲラと笑う。それもそうだ。彼がモンスターの世界からやって来た者だと知らなければ、小説や漫画などのキャラクターを気取っているただの痛い人間にしか見えないだろう。
しかし、残念ながらレックスは本物の騎士だ。区分的には竜騎士であるが、それでも騎士である事は変わりない。
レックス「騎士か……確かに私は騎士だな」
男B「いい歳こいて、まだ夢の中かよ! 気持ち悪りぃな!」
男C「ホント、コイツ一発殴れば覚めるんじゃね?」
残り二人も笑う。相手はそういう人種だと思い、見下していた。
レックスはこの三人の下衆な笑いに辟易し、女性に逃げるように指示する。彼女が逃げたら、自分もこの場をさっさと立ち去ろうと思いながら。
男A「あっ! おい、ネーちゃん!」
レックス「ここから先は通行止めだ。紳士達よ」
男達が女性を追わない様にレックスが立ちふさがる。しかし、立ち回りを失敗したなと思った。これだと確実に男達に絡まれると。
男A「なら、これが通行料代わりだよ!」
男は右拳でレックスの左頬を殴る。レックスは何もせずただその拳を受けた。顔が右に向いただけでピクリとも動かない。
レックス「それだけかね?」
レックスは顔を殴って来た男に合わせる。その眼光はまるで刀剣の切先の様に鋭い。
男A「クソ! 舐めやがって!」
男B「調子乗ってんじゃねえぞ、オラァ!」
男C「気持ち悪りぃんだよ! この野郎!」
残り二人も加えて男達が襲いかかる。だが、誰一人レックスを捉える事はできなかった。
レックス「やれやれ、今日は素敵な一日だな」
その呟きが男達の元に辿り着く頃には彼らは地面に伏せていた。どれも上段に蹴りが入り、男達を倒していったのだ。
レックス「喧嘩を売る相手は選ぶものだぞ?」
レックスはその場から立ち去る。慣れない冗談や言い回しはするものではないなと省みながら。
しばらく歩く。建物が影を作っているとはいえ、とても暑い。久々に戻って来て、いかに故郷の環境が過ごしやすいかと実感する。
ここで使われる現金は古書を貸してくれた知人から一応貰っている。男達との一悶着が終わった後に近くにあった自動販売機で適当なものを買った。
水分はまだ大丈夫だろうと感じるが、少しばかり空腹を覚える。だからと言って気にする程でもないが。
そんな事をつらつらと考えていたら、また近くに声がした。今度は子供の声だ。しかも泣いている声。
無視しては騎士の名折れだろうとレックスは声の元へと向かった。
レックスが辿り着いたら、小学生ぐらいの少年が泣いていた。近くに駆け寄り、目線を合わせて彼に話しかける。
レックス「少年よ、どうしたのだ?」
少年は涙声ながら「迷子になっちゃの」と言い、自分の手で拭う。目はかなり腫れている。
レックス「そうか。では、誰と一緒にいたんだ? 私も一緒に探そう」
レックスは自分が置かれている状況を忘れ、少年に寄り添う。元来、お人好しな性分。だから、放っておけないのだ。
少年「お姉ちゃんとはぐれっちゃったの。今日、一緒に遊ぶ予定だった」
レックス「どこで遊ぶ予定だったのだ? まずはそこに行ってみよう」
少年と一緒に当初遊ぶ予定だった場所へと行く事にした。
結果から言うと少年が探していた人物はいなかった。だから、別の場所へと動く事にする。
その間で少年とレックスは少し言葉を交わす。
少年「お兄さんにはお姉ちゃんとお兄ちゃんはいないの?」
レックス「いない。だから、少年が少し羨ましい」
少年「そんな事ないよ……お兄ちゃんもお姉ちゃんも怒ると怖いもん」
レックス「ふふっ、良いな。怒ってくれる人がいて」
そう言えば、随分と怒りをぶつけられた事はない。周りに囃し立てられてばかりだったなとつくづく思う。
窮屈で鬱陶しかった。けれど、あの男だけは違った。対等に付き合いをし、間違っていると思ったら真っ向から怒りをぶつけてくる。
歳は違えど、気の置ける友人であった事は変わりない。今更だが、気づいた。
少年「そうかな……」
レックス「そうさ。そういう人は大事にした方が良い」
少年「う、うん?」
少年は要領を得ない様子で頷く。今は分からないだろうが、間違っていると言ってくれている人間はとてもありがたい事だ。
少年の兄妹がどういう事で怒るのかは知らないが、少なくとも姉とは友好な関係なのだろうし、むやみやたらと怒る事はしないはず。恐らく。
ここからは推察に過ぎない上に邪推してはいけないと思い、レックスは思考を止め話を切り換えた。
レックス「それで少年よ、他に行く充てないか?」
少年がいくつかの候補地を挙げ、それらを訪れていく内に時間が経過する。それでも日はまだ高い。
少年「あっ! お姉ちゃん!」
少年が目の前で背を向けている少女に呼びかける。少女は少年の声に反応し、振り返った。少女の顔立ちは少年に良く似ている。
少女は少年の名前を呼び、近くへ駆け寄った。迷子になった事に怒ったが、その後はキチンと慰める。
レックスはその二人のやり取りを聞いている最中、足早にその場を去った。人探しで忘れていたが、自分はかなり目立つ格好の者。
騒ぎになるかもしれない、またはもう既に噂は流れているかもしれないと考えたら、これ以上は留まる事は危険だと判断して。
それから再び路地裏を歩いていくと次第に日が暮れ、いつの間にか辺りが暗くなる。
ふと見かけた公園でレックスは読書も兼ねて小休憩する事にした。
遠い昔、モンスター達の世界に破滅を呼ぶものを繋げる門が出現し、破滅を呼ぶものがその世界に出現しようとしていた。
破滅を呼ぶものが門の外に出てしまえば、確実に世界が滅びる。その危機感に各ワールドの有志達が心を合わせ、門を破壊し破滅を呼ぶものを追い返そうとした。
しかし、破滅を呼ぶものは自分の分身をいくつか生み出し、連合軍に激しく抵抗。連合軍側の被害は尋常ではなかった。
このままでは世界を守れぬと判断した首脳部達は、角王や各ワールドの高位モンスター、特別に絆が強いモンスターと人間から生み出される力を利用し、分身を撃破してそのまま門を破壊する作戦を立案。
作戦通り、それらの力で無理やり分身を倒した。だが、破滅を呼ぶものの猛攻は止まらず、選ばれた者達は疲弊し次々と倒れていく。
最後は護衛に付いていたモンスターに力を全てを託し、そのモンスターが特攻する形で門を破壊する事で何とか危機を救われた。多大な犠牲を払い、得た勝利は苦いものだと物語は締めくくられる。
その顛末まで読み終える頃、人の気配がした。顔を上げて向けると、短い金髪に背が大きくガタイも良い青年が立っていた。
レックス「お邪魔だったかね?」
レックスは自身の用が済んだ事もあり、本を閉じて立ち上がった。
青年「いや、別に……俺の方こそ邪魔だったっすよね?」
青年は砕けた敬語ながらも穏やかな口調で答える。見た目は中々強面だと思うのだが、性根は温厚らしいと察した。
レックス「構わんよ。それに君は……楽器を弾くのか?」
レックスは青年が持っているギターに目を向け、質問を投げかける。ドラゴンワールドでギターを弾くものは見た事ある。人間にしても竜にしてもだ。
年少の頃から音楽と付き合いがある為、それなりの興味を惹かれる。
青年「そうっすよ。今、新しい曲でも作ろうかと思ってここにやって来たんす」
レックス「そうか……もし、君さえ良ければ、一曲聞かせてもらえないだろうか?」
青年には悪いとは思うが、少し音楽を聴きたい気分だ。ここに来てから聴いている時間がなかった。だから、無理を承知で頼んでみる。
青年「良いっすよ!」
青年はその願いを快諾し、意気揚々にレックスの隣に座って準備をする。彼は持って来たギターの弦を右で抑え、左手で弾いてチューニングを行う。
レックスは今まで見慣れたものと反対の体勢を取る青年を不思議に思った。昔見た事ある演奏者を思い出し、重ね合わせて彼に訊ねる。
レックス「もしや、君は左利きなのか?」
青年「ええ、そうっすよ。左利きのままギター弾くのって、結構驚かれるんすよね」
軽い調子で返す青年。しかし、顔つきは真剣にギターの一音、一音を聞き取っている。その慣れた手つきにレックスはとても感心していた。
青年「準備オーケーっす! 何かリクエストがあれば、聞くっすよ?」
レックス「そうだな……曲名が分からなくて申し訳ないのだが」
青年がそう伝えるとレックスはかつて相棒がよく口ずさんでいた音色を思い出し、重ねるように自分も歌う。
それは遠くになった故郷に思いを馳せる歌、かつて隣にいた人物が口ずさんでいた思い出の歌。
青年「なるほど……そっちの方なんすね。じゃ、行くっすよ」
青年は曲を把握するとすぐさま弦を爪弾いてメロディーを奏で、そのメロディーに合わせて彼の歌声を乗せる。
レックスは青年の優しくも温かい歌声に耳を傾け目を閉じ、記憶を呼び起こす。隣にいた人物、相棒と言っても差し支えなかった彼との思い出と約束。あの夢がぼんやりと蘇る。
でも、思い出しているのは終わったの夢の話。そして自分はその夢の続きを作ろうとしている。彼が抱いた夢の続きを。
曲の最後の一音までしっかり聞き取るとレックスは目を開いてそっと立ち上がり、青年と向かい合って静かに拍手を送った。
レックス「素晴らしい歌だった。ありがとう」
青年「へへっ、それ程でもないっすよ! こっちこそ、ありがとうっす!」
青年は照れ臭いのか俯き、後頭部を掻く。自分にはない初々しさがあるものだなと少し微笑ましくなる。
レックス「こんな素晴らしい歌にお返しができないのが悔しいものだ。……すまないが、私はこの辺で失礼するよ」
読書の際に下ろした剣を腰に差し、来た道へと踵を返す。だが、それを呼び止める青年の声が。
青年「アンタ、名前は?」
レックスは足を止め、肩越しに青年を見やる。お返しと言っても足りないと思うが、それぐらいしないと不義理かと考え、自分の名を言う。
レックス「私の名前はレックス。ドラゴンワールドの騎士だ」
響「俺は南條響って言うっす! レックスさん、また会いやしょう!」
レックス「ああ、そうだな。また、どこかで会おう」
少し楽しみができたなと微笑み、レックスは先程向かおうとした道へと歩を進めた。
レックスはとある施設に訪れた。自分に協力してくれている者が拠点としている研究施設。
裏口から入り、その人物がいるであろう部屋に足を運ぶ。
?「随分、遅い帰りだったな」
奥で椅子に座り机と向き合っていて背を向ける男がいた。レックスに気付きながらも、彼に振り向こうとしない。
レックス「すまない、少し良い事がなったのでな……」
?「ほぉ、良い事ね……まっ、俺にはどうでも良い事だが」
男は煙草をくゆらせているらしく紫煙が微かに上っていた。煙草の臭いにレックスは眉を顰める。
レックス「ここは禁煙ではなかったのかね?」
?「禁煙だな。だが、俺は吸いたいから吸っている。それに報知器が鳴らなければ問題はない」
そう言って、ようやくレックスと顔を合わせる男。深緑のショートヘアーに目つきは鋭くいかにも悪人という面構えをしているが、白衣を着ている事から研究職に就いている人物である事は何となく読み取れる。
レックス「全く貴様という奴は……」
?「ふん、そんな事はどうでも良い。それによりも俺が貸してやった本はどうした?」
レックス「貴様がマジックワールドからくすねてきたものはここにある」
レックスは男に近づき、そして手に持っていた本を手渡す。本の表紙はかなり古びており、かつて豪勢な絵が描かれたのだろうが今はタイトルの一文字も読めない程にかすれてしまっている。
?「くすねたとは人聞きの悪い事を……拝借しただけだ」
男はレックスから渡された本を手に取っては開き、ペラペラと紙をめくって内容を一読する。書かれている文字はこちらで使われている言語ではない。
?「コイツには、かなり重要な事が書かれている。少なくとも今現在に確認されている世界ではない事をな」
レックス「貴様がそれを見たいと言っていたな」
?「そうだ。新天地を求めるのは男の……いや、人間のロマンというヤツだろう?」
男はレックスに顔を向けて微笑む。しかし、その微笑みは穏やかさを象徴するものではない。獰猛な笑みはまさしく悪魔そのものだ。
レックス「貴様が言うと何か意味が変わってしまうな……」
?「ふん、俺なりの冗談だぞ? 笑え」
レックス「笑えぬさ。そんな顔をされてしまえば、背筋が凍る」
?「実際はそうではない癖に良く言う」
男は本を閉じ、立ち上がる。背は平均的な男性より高く、線も細くはなくひ弱そうな印象は見受けられない。それどころか他を圧倒し寄せ付けないような雰囲気がある。
またIDカードを封入したネックストラップを首からぶら下げている。そこから確認できる男の名前は――
在良「さて、お前も来た事だし、少し下の方を見に行くぞ」
在良は机の上に置いている灰皿に煙草を押し付け火を消す。そしてレックスと共に部屋を出て、地下へと向かった。
厳重なセキュリティをパスした先にあったのは、機械の重々しい稼働音だけが響く暗い部屋。
彼らの視線の先には大きな機械が鎮座していた。禍々しい気配が先に繋がっているかのように。
在良「今のところ、順調だ。これならば、近い内にお前の剣の力を使って世界を一つにできるやもしれんな」
レックス「……そうか」
レックスは遠いところに思いを馳せる。あの日、相棒が口にしていた夢が約束が果たせるのだと。
在良「まぁ、二年前の大霊災とは比較にならん程の被害は出るかもしれないがな」
レックス「しかし、それは貴様にとっても関係ない事だろう?」
在良の一言で現実に戻るレックス。そして、彼の意中を的確に捉える。
在良「そうだ。お前の剣がまだ見た事もない世界も含めて全て引き寄せるのなら、俺は構わん」
レックス「狂っているな……」
在良「それはお前もだろう? 世界を物理的に繋ぎ合わせようとしているのだから」
レックス「それもそうだな」
そうして二人は闇の中に蠢く何かを見る。外に出ようともがいているような感じがする。
在良「俺が作ったデッキケースはあれの力を使っているが、思った以上に調整が上手くいかないものだな」
在良はその何かを見つめながら静かに呟く。先程の悪魔の様な表情ではなく、冷静に事を分析する科学者そのものの顔つきだ。
レックス「そうなのか?」
在良「デッキケースは俺の専門外でな……見様見真似で作ったは良いが、幾つか動作不良を起こしているらしい。動作チェックはちゃんと行ったがな」
レックス「なるほど……何でもできそうな貴様にもできぬ事が……いや、専門外だというのにデッキケースを作れてしまう時点でおかしいか」
在良「それはそうだ。俺の研究の応用みたいなものだからな、あれは」
その赤色の双眸は冷たく暗い光を放ち、ただ一点を見つめる。
在良が今までダークコアデッキケースを手渡した人物は、前科持ちの人物だったり、町で偶然見かけた心に影を落としているように見える人物だったりとネガティブなイメージを持つ。
前科持ちは知り合いのハッカーにそのデータリストを提供してもらい、そこからピックアップした。
心に影を落としていそうな人物は彼の観察眼をもって、それを見抜き甘言を用いて力を授けた。いずれも引き出せている者達は引き出せている。
在良「ただ俺の発想は実物をワープさせて実体化させる方式だ。あれの力がなければ今のところ成立せん」
レックス「それ程にあれの力は凄いのか……」
今にも門の外に出ようとしている何かから二人は目を離さない。それだけ惹きつけられる存在である事は間違いはないのだろう。
レックス「しかし、ずっと気になっていたのだが、あれはいつからこのゲートに?」
在良「二年前の霊災の時だ。世界と世界がぶつかりあった反動でどうやらここに繋がったらしい」
レックス「狙ったのか?」
在良「まさか。俺でさえ、繋がるとは思わんかったさ」
在良は肩をすくめる。それもそのはず、霊災が起きた日は偶然その機材の試験運転日。霊災自体も現代科学では予測はできない。
その偶然が重なった結果が現在の状況だ。ただ在良にとってはとても嬉しい誤算だった。
在良「ともかく、お前の計画には協力するからお前も俺の計画に協力しろ」
レックス「分かっている。このゲートの力がなければ、約束を果たせないからな」
男達の野望と約束は世界を混沌と化さんとばかりに加速し始めていた。
如何だったでしょうか? 今回も日常回でしたね()
いい加減、話進めろよ! と思った方、その通りだと思います。本当にスローペースですみません。
決着自体はもう決めてありますので、そんなにダラダラと続かないかと思います、多分。
そういえば、オリカとかオリキャラの募集欄、あまり溜まっていないんですよね……まぁ、オリキャラに関してはその場で3秒で生み出すようなやつがこの作品の作者なので何ともですが……。
オリカに関してもスペックを100ぐらいが基準なのがネックなのでしょうか……?
そんな事を言っても仕方ないですね。無い脳みそをフル回転して善処しようかと思います。
では、この辺りで筆を休めたいと思います。オリカやオリキャラの募集も引き続き行っていますので、良かったら当該する活動報告を覗いてみてください。
また感想の方もお待ちしております。