【お試し連載】フューチャーカードバディファイト ~炎の剣士の輝跡~   作:巻波 彩灯

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 皆さん、お久し振りです。巻波です。
 年明けから全く更新できずに申し訳ございませんでした! 誰か土に埋めてくれ!
 懺悔は以上です。


 話題を切り替えて、バディファイトの話を少し……ようやく《ネイキッドドラゴン》の新規カードがキタ――(゚∀゚)――!!
 しかも、アイテムの新規追加も来ましたので、嬉しさのあまりに泣きながら小躍りしている状態です。騒がしい()
 さらに《新選組》からも新規追加が来ているので、もう4月のブースターは買うしかない。いや、買うぞ!


 また話を変えて、この話を書いていた時の裏話を一つ。
 この話を書いていた時、家入レオさんの「未完成」という曲を聴きながら執筆していました。
 何というか曲の世界観が東京編にピッタリだったので聴いていたのですが、歌詞やテーマを見て何だかとあるキャラと境遇が……となってしまいました。

 気が向いたらで良いんで「未完成」を流して読んでみたら、どうでしょうか?
 それかドラマ風にラスト辺りで流してみるのもアリだと思います。

 多分、東京編のイメージテーマソングは家入レオさんの「未完成」がピッタリかと思いますので。


 ……とまぁ、無能で無脳な作者のくそ騒がしい戯言はここまでに留めます。

 最後に忠告として、今回の話は外伝話及び東京編第1話よりもかなり長くなっています。時間がある時にお読みください。
 後はくそしょぼいファイトしか書いていないので、ブラウザバックするなら今の内です。

 では、後書きの方でまた会いましょう。


第2話:デュオローグ

 鈍い音が響く。小さく悲鳴が耳朶を打つ。何度も繰り返される。

 明かりをつけていない部屋の中、男女が小さな少女を交互に殴ったり、蹴ったりしていた。

 彼らから暴力を受けているのは、闘真達といつぞやに出会った少女――鳥田汐だ。

 汐はただひたすらに耐える。暴力と同時に自らの存在を否定する言葉を吐かれても。何故なら、相手は彼女の両親だから。

 このまま我慢すれば、いつかまた笑い合える日が来ると淡い願いを胸に抱いて、彼女は両親の虐待をその身で受け止める。

 しばらくすると二人は気が晴れたのか、汐の元から離れていく。そして明るい部屋で談笑する。

 信じられない光景かもしれないが、それが彼女の日常だ。汐は窓に背を預けて、声を殺して泣く。

 いつからか彼女は世界から拒絶されていた。その現実を受け止めるには幼すぎた汐は、どうすれば良いのか分からず泣くしかない。でも、誰も手を差し伸べてはくれない。いや、差し伸ばしても巻き込みたくないから払い除けてしまう。

 それでも彼女がまだ歩いて行けるのは、毎晩微かに聞こえる男性の歌声と――。

 

 

 約束を交わした日から数日が経った頃、闘真は再び東京に来ていた。いつも通り、道に迷いながらだが。

「……ここはどこなんだ?」

 スマートフォンの画面に地図を表示させるが、闘真は意味を読み取る事ができず首を傾げる。隣にSD化したザンバソードが覗き込むが、「どこなんだろうな?」と頭に疑問符を浮かべるばかり。

 これ以上は悩んでも仕方ない為、闘真はスマートフォンのアプリを閉じた後、ポケットにしまって歩き出す。いわゆる「歩いていれば何とかなるだろ」という行動原理だ。確かに立ち止まっているよりかは事態は動き出すが、好転するとは限らない。それでも彼は歩を進める。

 程なくして闘真達の右手側に公園が見えた。ふと立ち止まり、ファイターがいないか探してみる。

 滑り台やブランコ、鉄棒に砂場と遊具が置かれている普通の公園。木陰にはベンチが設置してあり、人影がある。

 自分よりも少し年下に見える少女が読書している様子が見受けられる。その姿に闘真は見覚えがあった。

 そして自ら歩み寄り、少女に声をかける。「おい、お前」ぶっきらぼうで威圧的な調子で言うものだから、ザンバソードは頭を抱えた。もう少し優しくしろと言わんばかりに。

「あ、ど、え!? 闘真君!?」

 声をかけられた少女――汐は闘真の方へ顔を向け、大きく目を見開いていた。ここで出会うと思わなかったからか、リアクションも大きくベンチから転げ落ちそうになる。

「んだよ、今度来たら教えてやるって約束したんだから来たってのにその反応は」

 一方、闘真の方は口元をへの字に曲げて不満げに言う。だが、彼の目的は汐との約束を果たす為ではなく、ファイトすることにある。それでも会ったら教えるという事は忘れてはいなかった。

「ごめん、ごめん。こんな所で会うって思っていなかったから」

「そうかよ」

 言葉短めに返した後、闘真は無遠慮に汐の左隣に座る。そして背もたれに左腕を置いて肘掛け代わりにし、右足を組んで彼女に顔を向けた。これが話をする体勢かと問われれば、彼はそうだと返すだろう。

「っで、お前、基本ルールは知らねえだよな?」

「うん。皆が遊んでいるところは遠目から見ていた時はあったけど、ルールは分からない」

「んじゃ、決まりだな。デッキ取り」

「あー、その前に一つ良いか?」

 闘真はショルダーバックを開いて、デッキケースを取り出そうとするが、ザンバソードに制される。

 止められた闘真は睥睨するもザンバソードは平然とした様子で話を続けた。「何で、汐はバディファイトを教えてもらいたんだ? しかも、こんな奴から」若干相棒への悪口も含みながら。

「ええっと、それは……」

 答えに困窮する汐を見て、「すまん、いらん質問だったな」ザンバソードは謝り、「今のは聞かなかった事にしてくれ」と闘真に続きを促そうとする。だが、汐は返答した。

「私、友達いないから……学校の皆と話ができなくて、教えてもらおうって思っても教えてもらえなくて」

 それまでとは打って変わって暗い表情で汐は話す。そんな彼女の変化に驚くザンバソードと驚かない闘真。

 闘真は口元をへの字に曲げたままだが、彼女の顔から目を離さずじっと次の言葉を待つ。

「それで闘真君と出会って、イチかバチかで声をかけてみたの……バディファイトができれば、輪の中に入って遊べるかなって」

「バディファイトができても輪の中に入れるかは分かんねえだろ」

 ぶっきらぼうな闘真の言葉。「気に入らねえ奴なんて追い出すに決まってんだろ」その言葉は汐の胸を突き刺した。

 だが、彼女の事なんて気にかけず闘真は続ける。

「でも、バディファイトで友達はできるかもしれねえな。何てったって、相手と対話して本気をぶつかり合うゲームだからな」

 そう言う彼の顔はファイトしていると変わらない程、楽しそうに笑っていた。

 輪に入れる保証はなくとも輪を作れる可能性がある。繋がりはどこで生まれるかは分からないが、バディファイトがそのきっかけ作りになるという事は闘真の経験から感じていた。

「それに相棒だってできる。こんなに面白れぇカードゲーム、他にはねえよ」

 楽しげに闘真は喉を鳴らす。先程まで不機嫌な顔つきをしていた人物とは思えない程に。

 汐もザンバソードも彼の意見に鳩が豆鉄砲を食ったような顔して目をしばたたかせるが、やがて腑に落ちたかのように納得し首肯した。

「そっか、やっぱりバディファイトを知りたい!」

 屈託のない笑みで汐は改めて決意を示す。その言葉を聞いた闘真は満足げに頷いて、「なら、ちょっと待ってろ。今デッキ取り出すからよ」再びショルダーバックの中を漁る。

 そして闘真がデッキケースを取り出そうとした瞬間、彼らの元に来客が訪れる。以前、闘真と一悶着を起こした少年とその兄らしき人物だ。

「てめえか、俺の弟をいじめやがったのは?」

 髪の毛を金髪に染め、眉毛を剃って闘真を睨みつけるその様はまさしく不良と言っても差し支えない。普通の人間ならば、恐れるだろう。何されるか分からないのだから。事実、汐は怯えていた。

 だが、それで怯む闘真でもない。「知らねえよ。ってか、てめえこそ誰だよ?」不良に負けず劣らずの鋭さで睨み返す。

「あん? 質問してんのは、こっちだろうがちゃんと答えろよ」

「質問ならさっき答えたぜ。てめえが答える番だろ?」

 両者一歩も引かずに睨み合う。やがて、不良の弟の方が口を開き、「アイツだよ。オレたちをいじめた奴は」闘真を指差した。

 するとさらに不良の目つきが鋭くなる。「よくも俺の弟をいじめやがったな」語気もまた強い。

「は? だから、何だよ? 別に俺は悪い事はしてねえぞ?」

「うるせぇ! 一発殴らせろ!!」

 怒声に乗せた拳が闘真の顔面目掛けて振り下ろされる。大振りで洗礼されていないが、殴られるという衝撃だけでも動けない人間は多数だろう。

 さらに闘真は椅子に座っている。とてもじゃないが避けられる体勢ではない。けれど、彼に焦りの色はなかった。

 不良の拳を右手で受け止め、にやりと笑う。「喧嘩よりバディファイトがしてえなぁ」不良の腰にあるデッキケースを見つけ、挑戦状を叩きつけた。

「チッ、お望み通り、バディファイトでボコボコにしてやるよ!」

 拳では通じないと即座に判断のしたのか、不良は闘真の誘いに乗る。その言葉を聞いて、闘真は不良の手を放し、荷物を汐に預けて立ち上がった。

「最初からそうしようぜ? ファイターならファイトで語り合うのが一番だからな」

 闘真は不敵に笑い、ベンチから少し離れた場所で不良と向き合う。不良も渋々応じるように彼の後を追い、対面する。

「んじゃ、始めようぜ。とびっきり楽しいファイトをな……!」

 双眸は楽しげ細められ、その奥には決して消えぬ闘志の炎が宿っていた。

 

 

「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

「世界には法則がある。法則に従えば、おのずと勝利は掴めるんだよ! ルミナイズ、『ラウ・オブ・ディスティニー』!」

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

「マジックワールド!」

 不良の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ

 

「俺から行くぜ! チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

「っで、今日はどうするんだ? オーディエンスがいるから、少し落ち着いたファイトにするか?」

「何言ってんだ。いつも通り、やるだけだぜ! 『D・R・システム』を設置して、ライトに『ブレイドウイング・ドラゴン』、レフトに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』をコール!」

 闘真の手札:6→3/レフト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/ライト:ブレイドウイング・ドラゴン/設置:D・R・システム

 レフト:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 ライト:ブレイドウイング・ドラゴン/サイズ1/攻防2000/打撃2/[移動]

 

 青い小柄な竜と赤い翼竜が闘真の両サイドを挟むように姿を現す。各々、自分の武器を掲げ、いつでも相手へ攻撃ができる意を示していた。

「さらに『竜王剣 ドラゴエンペラー』ゲージ1とライフ1払って装備!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→2/ライフ:10→9/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー/ライト:ブレイドウイング/設置:D・R・システム

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 

「珍しいな、いきなりアイテムを装備するなんて」

 目を見開きザンバソードは闘真を見つめる。彼の驚きに闘真はにやり笑い返し、「まぁ、そこは臨機応変にってな」と手札を一瞥して言った。

「んじゃ、アタックフェイズだ! ブレイドウイングでファイターにアタック!」

「ここは受ける。ぐぬっ!」不良のライフ:10→8

 ブレイドウイングの名の通り、刃物のように鋭利な翼が不良の体を引き裂く。しかしながら、実際に引き裂いている訳ではないので血は飛び出ない。あるのは衝撃だけだ。

「このタイミングでWピコピコハンマーの能力を使うぜ。Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージを+1!」

「オイラも活躍したかったな……」

「わりぃな、今は我慢してくれ。次出した時は、大暴れさせてやっからよ」

「なら、許す! 頼むぞ、闘真!」

 そう言いながら、Wピコピコハンマーは消失し、闘真のデッキの一番上のカードがゲージに置かれる。

 

 闘真のゲージ:2→3/レフト:Wピコピコハンマー→なし/ドロップ(武装騎竜の種類):1→2

 

「ターンエンドだ!」

 闘真の手札:2/ゲージ:3/ライフ:9/ライト:ブレイドウイング/設置:D・R・システム

 

「俺のターンか……ドロー、チャージ&ドロー!」

 不良の手札:6→7/ゲージ:2→3

 

 不良は口の端を吊り上げる。歪な笑みは早速勝利を確信したか。

 対する闘真は切り札的カードがもう既に手札にあると察した。彼もまた笑う、獰猛に。

「キャスト、『ナイスワン!(最高だぜ!)』。ゲージ1払って、カードを2枚ドロー!」

 不良の手札:7→6→8/ゲージ:3→2/ドロップ(魔術師の種類):0→1

 

「さらに『ソロモンの鍵 上巻』をキャストして、ゲージ+2! 続けて『ソロモンの鍵 下巻』をキャストでライフ+1、ドロップゾーンに上巻があるから、カードを1枚ドロー!」

 不良の手札:8→7→6→7/ゲージ:2→4/ライフ:8→9

 

「流石はマジックワールド、回してくるな」

 不良のプレイングに感心するザンバソード。ここ最近、回転力が高いデッキと対戦していないことも相まって感服だ。

 ザンバソードの言葉を受けて、不良は鼻で笑っては口を開く。

「ふん、パワーだけで勝てる時代なんて終わってんだよ。脳筋デッキなんざ屁でもない」

「へへっ、そいつは分からねえぜ? 組み立てられた戦略も馬鹿力一つで簡単に吹っ飛ぶからよ」

 不敵な笑みで闘真は言い返す。確かに戦略は大事だろう。膨大な経験や知識によって計算され尽くしたデッキは負けることが少ない。けれど、想定以上のパワーを持つカードが一枚あるだけで簡単に崩れてしまう。

 本当にどう転がるか分からないから楽しい――闘真は愉快そうに喉を鳴らした。

「なら、てめえに思い知らせてやる。世界がどう動いているかをな……『神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ』をゲージ2払い、手札から魔法を1枚ソウルに入れて、センターにバディコール! バディギフトでライフを1点回復だ」

 不良の手札:7→6/ゲージ:4→2/ライフ:9→10/ドロップ(魔術師の種類):1→2/センター:神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ

 

神塔の魔女 ラプンツェル・ザ・アドミニストレータ

マジックワールド

種類:モンスター 属性:魔術師/タロット 

サイズ3/攻5000/防5000/打撃2 

■[コールコスト]君の手札の魔法1枚までをソウルに入れ、ゲージ2を払う。

■【対抗】[起動]場のモンスター1枚を選び、手札の《魔術師》か魔法1枚を捨ててもよい。捨てたら、次の4つから1つを選んで使う。この能力は1ターンに1回だけ使える。

●このターン中、選んだモンスターの攻撃力+5000、防御力-5000!

●このターン中、選んだモンスターの攻撃力-5000、防御力+5000!

●このターン中、選んだモンスターの打撃力+1!

●このターン中、選んだモンスターの打撃力-1!

[2回攻撃]/[ソウルガード]

「表も裏も、あなたに不幸が訪れる」

 

 神の塔に住み、髪が恐ろしいほどに長い魔女は悠然と不良の前へと躍り出る。その姿は美しいという言葉では形容できないほどに整えられ、まさしく神に愛された者だと知る。

「そして、『ガンロッド シンフォニオン』をライフ1払って装備!」

 不良の手札:6→5/ライフ:10→9/不良:ガンロッド シンフォニオン/センター:ラプンツェル

 不良:ガンロッド シンフォニオン/攻2000/打撃2

 

 不良の手には杖とも銃とも似つかない歯車仕掛けのアイテムが握られている。延々と回り続ける歯車は規則正しい音を立て、歯車を原動力に音楽が微かに流れていく。

 そして、不良はシンフォニオンを軽く振るい、緑色の光弾を出現させた。

「シンフォニオンの効果を使うぜ。シンフォニオンをレストして、お前にダメージ1だ!」

 不良の宣言と共に緑光の弾丸は高速で闘真の元へと飛来する。

「っしゃ、受けるぜ!」闘真のライフ:9→8

 闘真はドラゴエンペラーを盾にし、光弾を受け止めた。速さのわりには威力自体はなく、ファイターに与えたダメージも少ない。

 何事もなかったのように闘真はドラゴエンペラーの峰を右肩に乗せ、相手の出方を窺う。相変わらず、挑戦的な笑みを浮かべたまま。

「アタックフェイズに入るぜ」

「なら、ブレイドウイングをセンターに[移動]だ!」

 ブレイドウイング:ライト→センター

 

 赤い翼竜は闘真を守るように不良の前にそびえ立つ。小柄な体躯故に迫力という迫力はないが、それでも気迫は満ち足りている。

「こっちはラプンツェルの効果を発動! ラプンツェルを選び、手札の『バトルウィザード ザ・ストレート』を捨てて、ラプンツェルの打撃力を+1! さらに捨てたストレートの効果で、ライフ1払ってゲージ+2だ!」

 不良の手札:5→4/ゲージ:2→4/ライフ:9→8

 センター:ラプンツェル/打撃2→3

 

「なるほど、打撃力を上げたか」

「まぁ、この状況なら自分の攻撃力上げたり、相手の防御力の下げたりするよりかは良いわな」

 二人は落ち着いて状況を分析。相手のカードがそこまで火力のあるものではないと把握しているが故に、そこまでは慌ててはいない。

 だが、ラプンツェルには[2回攻撃]がある為、油断はできないのは確かだ。これを如何に防ぐだろうか。

「ラプンツェルでブレイドウイングにアタック!」

 不良の指示でラプンツェルは右手を前へと突き出し魔法の詠唱をする。音や羅列はどの言語のものでもない不可思議なもので、理解しようとしても脳が拒絶。

 彼女の手元から魔法陣が浮かび上がり、どこからかエネルギーが収束していく。そして、詠唱を言い終えるか終わらないかのタイミングで光線が放たれた。

「【対抗】はねえ、そのまま破壊されるぜ」

 手札を一瞥した後に闘真は言う。覿面のブレイドウイングの背を見つめていた。

 ブレイドウイングは背中越しに闘真をチラリと見やった後、再び顔を前に向けて自身やファイターを守るように翼を交差させる。

 その結果、光線の軌道を逸らすことに成功するも自身は跡形もなく消し飛んだ。

 

 闘真のドロップ(武装騎竜の種類):2→3/センター:ブレイドウイング 撃破!

 

「ラプンツェルをもう一度スタンド! そして今度はファイターにアタックだ!」

 悲しみに暮れる暇も動揺する暇も与えないまま再度ラプンツェルは魔法を詠唱する。

 守るものがない闘真はドラゴエンペラーを盾のように構えて攻撃に備えた。笑顔を浮かべたまま。

 ラプンツェルの掌から光線が放たれた。

「このまま受ける! ドラゴエンペラーの能力で3点以上のダメージは1点減らす! ぐっ!」闘真のライフ:8→6

 しかし、ドラゴエンペラーの力で辛うじて光線の威力を弱める事に成功する。

 ドラゴエンペラーの刀身は光線を直に浴びた事により、高熱を発していた。

 その様子に不良は苦虫を噛み潰したような表情をして舌打ち。

「ターンエンドだ」

 不良の手札:4/ゲージ:4/ライフ:8/不良:シンフォニオン/センター:ラプンツェル

 

「俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:3→4

 

 引いたカードを見て、表情は歪めない。けれど、手札が厳しいことは明白だ。

 それでも楽しげに喉を鳴らし、闘真は手を打つ。

「行くぜ、ライトに『ドラムバンカー・ドラゴン“バリアブレイカー”』をゲージ2払ってコール! さらにレフトに『ブーメラン・ドラゴン』をコールだ!」

 闘真の手札:3→1/ゲージ:4→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト:ドラムバンカー・ドラゴン“バリアブレイカー”

 レフト:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻2000/防1000/打撃1

 ライト:ドラムバンカー・ドラゴン“バリアブレイカー”/サイズ2/攻6000/防1000/打撃3/[貫通]

 

「酷い手札だな……お前、今日かなり運悪いぞ?」

「へへっ、そういう日もある。だから、面白れぇんだろ」

「お前らしいな」

 場に出されたカードのみでザンバソードは闘真の手札を察する。だけど、それでも動じないのが闘真だ。

 彼は笑って流す。いつもと変わらないままで。

「ふん、そんなのただの構築ミスかプレミだろ。そんなちゃらんぽらんな姿勢で俺に勝とうなんざ百年早えんだよ」

 彼らの会話が耳に届いたのか、不良は呆れた様子で闘真を見つめて口に出す。双眸には侮蔑の色すらある。

 けれど、それで取り乱す闘真でない。彼の対応にも笑って返した。

「かもな。でも、さっきも言ったけどよ、最後まで何が起きるか分からねえだろ?」

「くだらない。“運”なんて要素を信じる奴なんて雑魚しかいねえよ」

「へへっ、それでも“運”で勝っちまったら、言い訳できねえよな」

 奇跡が起きるかは分からない。だが、ファイトは終わっていない限りはできる限りの事はする。

 闘真の瞳には揺るぎない信念が宿っていた。もちろん、楽しむ事だって忘れてはない。

「このままアタックフェイズに入るぜ!」

「【対抗】でラプンツェルの能力を使う。手札から『バトルウィザード・ザ・エース』を捨てて、ラプンツェルの攻撃力を-5000する代わりに防御力を+5000! さらにエースの能力でライフ1払って、カードを1枚ドロー!」

 不良の手札:4→3→4/ライフ:8→7/ドロップ(魔術師の種類):2→3

 センター:ラプンツェル/攻5000→0/防5000→10000

 

 ラプンツェルは青色の光に包まれると同時に眼前に強固な光の壁を出現させる。

 これにより生半可な攻撃は通じなくなった。――現状、闘真の場のカードでは単体での突破は不可能となったのだ。

 闘真も少し躊躇う……かと思いきや、躊躇なく宣言する。

「なら、俺達全員でラプンツェルでアタック! 全部で14000だから通るはずだぜ!」

 宣言と同時に闘真はブーメラン・ドラゴンを投げ飛ばし、ラプンツェルへ肉薄。ドラムも彼らに続いて突貫する。

「【対抗】でキャスト、『マジカルグッパイ』! ゲージ2払って、お前のライトにいるモンスターを手札に戻す!」

 不良の手札:4→3/ゲージ:4→2

 

 だが、ドラムの足元に魔法陣が浮かび上がり、驚嘆の声を上げる間もなくドラムは吸い込まれてしまう。

「このタイミングか……なるほどな! そのままドラムを手札に戻してD・R・システムの効果発動! 俺のゲージを+1だ!」

 闘真の手札:1→2/ゲージ:2→3/ライト:ドラム“バリアブレイカー”→なし

 

 ドラムはそのまま闘真の手札に戻る。それにより闘真とブーメラン・ドラゴンだけとなった為、突破は不可能と化す。

 だが、勢いは衰えずブーメラン・ドラゴンは光の障壁と激突する。

 傷は付けられないまま去ると続いて闘真が壁に向かって猛烈に剣を振るう。

 鈍い音が響き、火花が激しく散った。

 しかし、闘真の荒々しい剣撃もまた光の障壁に傷一つ付けられない。

 闘真はあらかた攻撃し終えるとさっさと自分のファイターエリアへと戻る。

「ブーメラン・ドラゴンを手札に戻す。D・R・システムの能力は1ターンに1回しか使えないから、発動しないぜ」

 闘真の手札:2→3

 

「俺のターンはこれで終わりだ」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:6/闘真:ドラゴエンペラー

 

「このターンで決めてやる。ドロー、チャージ&ドロー!」

 不良の手札:3→4/ゲージ:2→3

 

「キャスト、ナイスワン! ゲージ1払って、カード2枚ドロー! 続けてキャスト、ソロモンの鍵・上巻! ゲージを+2」

 不良の手札:4→3→5→4/ゲージ:3→2→4/ドロップ(魔術師の種類):3→4

 

 ふと不良の視線がドロップゾーンに向けられる。闘真もつられて彼のドロップゾーンを見つめる。

 ほんの数秒の間だが、彼が何を気にしているのか――闘真は察した。

 彼の目論見通り行けば、闘真は負ける。そんな未来を想像しても闘真はただ笑っているだけ。

 今度はどんな行動に出るのか楽しみで仕方ないのだ。

「シンフォニオンの能力を使う。シンフォニオンをレストして、お前にダメージ1!」

「受けるぜ。っ!」闘真のライフ:6→5

 再び放たれる緑色の光弾をドラゴエンペラーの刀身で受け止める。威力は低いものの確実に闘真を追い詰めていた。

 そんな状況でも楽しげに喉を鳴らす闘真。双眸にはまだ闘志が燃えている。

「……何で、そんなに笑ってられる?」

 どんな状態でも変わらずに笑い続けられる闘真に、不良は理解に苦しみ眉を顰めた。シンフォニオンを握る力が自然と強くなる。

「決まってんだろ、楽しいんだよ。このファイトが」

「こんな絶望的な状況がか? 頭おかしいんだろ」

「でもよ、ここから逆転できたら最高に燃えねえか? そういうところも醍醐味だろ?」

「ハッ、馬鹿を言え。そんな奇跡起きるわけない。雑魚は雑魚らしく泣いて跪けば良いんだよ」

 不良は鼻を鳴らし闘真の言葉を一蹴する。彼の瞳には対戦相手に対する敬意はなく、ただただ侮蔑の色を表しているだけ。

 だが、その瞳に気付かない闘真でもない。一瞬間後、彼は真剣な表情をして言う。

「お前さ、頭良いんだろ? んでもって、自分のレベルに釣り合わねえからって他人を馬鹿にして、その頭脳をひけらかしているだけじゃねえのか?」

 思いもよらない言葉に不良は鼻白み閉口してしまう。闘真の言葉はまだ続く。

「頭良いから、色んな戦略が組めるし、手も読める。けどよぉ、相手を理解しようとしねえの、勿体ないぜ」

「だから、何だ? まぐれ勝ちで喜ぶような奴を理解しようとする方がアホだろ。何にも考えてねえ脳無し馬鹿と付き合わされるのはうんざりなんだよ」

「お前が思っているほど、単純なものじゃないぜ? ……来いよ、お前が信じない奇跡を起こしてやる」

「けっ、言わせておけば……“運”頼りなアホに教え込んでやるよ! アタックフェイズ! ラプンツェルでファイターにアタック!」

 不良の指示にラプンツェルは小さく頷くと再び呪文を詠唱。今度は両の掌にそれぞれ一つずつ光の球が出現する。

 そして右手に持っている方を闘真の方へ投げつけた。光球は目に止まらぬ速さで飛来する。

「これも受ける! ぐぅっ!」闘真のライフ:5→3

 ドラゴエンペラーを盾にして防ぐ。先程よりも大きい衝撃が腕に伝わり、僅かに呻きを漏らした。

 だが、にやりと笑い覿面のラプンツェルを睨みつける。「もっと来いよ!」さらに口の端を獰猛に吊り上げた。

「言われなくても……! ラプンツェルでもう一度ファイターにアタック!」

「受けるぜ! ぐっ!」闘真のライフ:3→1

 ラプンツェルの左手から放たれた光球を再びドラゴエンペラーで受け止める。確実に疲労は溜まり、痺れも多少出てきた。

 けれど、闘真は目を逸らさず眼前にいるラプンツェル、彼女の後ろにいる不良を見つめている。笑みは変わらない。

「どうした? これで終わりか?」

 炯々と輝く暗い水色の双眸。どこまでも崩さない不敵な笑顔。――闘真はまだ諦めていないのだ。

 何故なら、ファイトがまだ終わっていない。ここから何があるのか分からないから、笑っていられる。

「安心しろ、次で終わらせる。ファイナルフェイズ、キャスト『ド・ガイダ・クラッシュナックル!』。 ゲージ3払って、相手にダメージ2!」

 不良の手札:4→3/ゲージ:4→1

 

 魔力がラプンツェルの右拳に集中する。空気が震え、木々が騒めき出した。

 小鳥たちが危機を感じて飛び立っていく様が散見される。

 やがて、魔力の充填が終わると「魔力の鉄拳、とくと味わいなさい! ド・ガイダ・クラッシュナックル!」ラプンツェルの掛け声と共に右拳が突き出された。

 彼女の魔力の鉄拳は何もかも打ち砕いて闘真の元へ迸る。そして彼を飲み込んだ。

 粉塵が煙立て、その先が見えなくなる。果たして――

「奇跡は起きたぜ」

 晴れた視界の先には不敵に笑う闘真の姿があった。手にはカードがあり、それを公開していた。

「D・R・システムの効果でD・R・システムをドロップゾーンに置いて、デッキの上から1枚をドロップゾーンに置く……んで、『ドラゴ・ポンド』を引いたから俺のライフは2になるぜ」

 闘真のライフ:1→0→2/設置:D・R・システム→なし

 

 D・R・システムのもう一つの能力をしていた事により、闘真は負けなかった。

 ただこの能力は、デッキの上からドロップゾーンに置いたカードが魔法でなければ復活する事ができない為、運要素が混じっている。

 引く可能性は低いとは言わないが高くもないのは了知の範疇内だろう。それでも引き寄せたのは、彼がそれを信じた――否、諦めなかった他ならない。

「さぁ、どうする? まだあんのか?」

「……ねえよ、ターンエンドだ」

 不良の手札:3/ゲージ:1/ライフ:8/不良:シンフォニオン/センター:ラプンツェル

 

「へへっ、俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:3→4/ゲージ:3→4

 

「Wピコピコハンマーをレフトにコール、そしてキャスト、『ドラゴニック・グリモ』! 手札を全て捨てて、カード3枚ドロー!」

 闘真の手札:4→3→0→3/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー

 

 再びピコピコハンマーを両手に持った小柄な竜が姿を現す。今にも飛び出さんとばかりの勢いで両腕を振り回し、気合が十分な様子が伝わってくる。

 そして闘真は手札に目を向けた。枚数は多くないものの、逆転への足がかりはある。

 隣にいるザンバソードを一瞥し、宣言する。

「待たせたな、相棒! 『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払って、ライトにバディコール! バディギフトで俺のライフを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:4→1/ライフ:2→3/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:Wピコピコハンマー/ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 ライト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン/サイズ3/攻10000/防6000/打撃3/[貫通]

 

「ようやく真打登場ってか……さてと、暴れさせてもらうぜ!」

 ザンバソードは傍らに突き刺していた大剣を引き抜き、モンスターエリアへ移動。

 いつ見ても赤い巨躯と身丈と同じぐらいの大剣が彼の存在感を際立たせ、幾千の死闘を潜り抜けた猛者特有の覇気も相まって非常に迫力があり、見る者を圧倒する。

 また瞳の奥からは力強い光が放たれ、闘志を煮え滾らせていた。

「アタックフェイズに入るぜ!」

「【対抗】でラプンツェルの能力を発動! バトルウィザード・ザ・ストレートを捨てて、このターン中のラプンツェルの攻撃力を-5000する代わりに防御力を+5000!」

 不良の手札:3→2

 センター:ラプンツェル/攻5000→0/防5000→10000

 

「さらにストレートの効果でこのカードが手札から捨てられた時、ライフ1払ってゲージ+2!」

 不良のゲージ:1→3/ライフ:8→7

 

 ラプンツェルの前には先程のターンでも闘真達の行く手を阻んだ光の障壁が現れた。生半可な攻撃では瓦解しないだろう。それ程に強固な壁だというのは、誰もが理解している。

 それでも闘真は不敵な笑みを消さない。さらに双眸が炯々と輝く――これからそれを突破しようという気概が見て取れる。

「へへっ、相棒頼むぜ! ザンバソードでセンターにアタックだ!」

「おうよ、一発かましてやるぜ!」

 ザンバソードは大剣を構え、即座にラプンツェルへ疾走。その巨躯と重量武器を持ち合わせたとは思えない程に身軽で鈍重という言葉からかけ離れていた。そして、剣を振り上げて一閃を奔らせる。

「キャスト、『チェレックス!』。ゲージ1払って、俺が次に受けるダメージを0に減らし、俺のライフを+1!」

 不良の手札:2→1/ライフ:7→8

 

「だが、俺の剣の前じゃ、ソウルガードは意味ないぜ!」

 切れ味という切れ味は全く持ってない得物だが、持ち前の重みで障壁が叩き壊され、さらにラプンツェルまでをも押しつぶす。美しい声音で奏でる断末魔が響き渡った。

 しかし、大剣から生み出された衝撃波は不良の元へ届く事なく、彼を守る風の壁によって掻き消される。

 

 不良のセンター:ラプンツェル 撃破!

 

「……ぐっ、そんな能力が……でも、それだけじゃ、俺を倒せないぜ」

 不愉快げに顔を歪めるものの現状から不良はまだ自分が有利だと信じていた。事実、この後の闘真とWピコピコハンマーの攻撃では完全に削りきれないのは火を見るよりも明らか。

 だが、それで止まる闘真でもない。「そんぐらい分かっているさ。でも、まだ終わっちゃいないぜ」にやりと笑い返す。

「Wピコピコハンマーでファイターにアタック!」

「受ける」不良のライフ:8→7

 大して威力がないように見えるWピコピコハンマーの打撃だが、これもまた立派なモンスターの攻撃。

 愛用のハンマーで不良を叩く度にピコッ、ピコッと可愛らしい音が耳朶を打つ。だが、そこまで相手にダメージを与えている様子はない。

「Wピコピコハンマーの能力を使うぜ! Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージ+1する!」

 闘真のゲージ:1→2/レフト:Wピコピコハンマー→なし

 

 元の位置に戻ったWピコピコハンマーは自分の主に似た不敵な笑みを浮かべ、闘真に向かってサムズアップして消失する。闘真もサムズアップで返し、見届けた後は両手でドラゴエンペラーの柄を握り直した。

「次は俺の番だ! ドラゴエンペラーでファイターにアタック!」

 相棒と負けず劣らずの軽快な動きで駛走し、不良へ肉薄する。その様はまさしく獲物を狩ろうとしている肉食獣そのものだ。

「チッ、これも受ける。ぐお!」不良のライフ:7→5

 持ち主の闘志に呼応してドラゴエンペラーの刀身が輝く。銀閃は確実に不良の胴を薙ぎ、彼の体を二つに分断したかのように知覚させる。

 当然ながら、与えられるのは衝撃だけで体は真っ二つにはならない。けれど、それを感じさせるのは十分すぎるもの。

 そして闘真はまだ止まらない。続けて、彼は宣言する。

「ファイナルフェイズ! キャスト、『竜撃奥義 デュアル・ムービングフォース』! ゲージ2払って、お前に2ダメージ与えて、俺のライフを+2だ!」

 闘真の手札:2→1/ゲージ:2→0/ライフ:3→5

 

 赤いオーラを全身に纏い、再び銀弧を閃かせる。力が漲ると同時に先程までの疲労が癒されるのを感じながら。

「そんな隠し玉持っていたのかよ、ぐわぁっ!」不良のライフ:5→3

 肩口から肉どころか骨すらも断ち切るぐらいの一閃が走り、確実に不良のライフを刈り取る。

 ダメージの総量は先程と変わらないが、受ける衝撃に耐えきれず不良は蹈鞴を踏んで後退った。瞳は侮蔑よりも動揺の色が灯り、揺れている。

 そんな彼の様子を認めながら闘真はファイターエリアに戻り、口の端を吊り上げて言う。

「俺のターンはこれで終わりだぜ」

 闘真の手札:1/ゲージ:0/ライフ:5/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ザンバソード

 

「……俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー」

 不良の手札:1→2/ゲージ:3→4

 

 予測できなかった事態なのか不良が動揺しているのが目に見えて分かる。

 ――まさか、俺が“運”で負けるのか。そんな声すら聞こえてきそうだ。

「キャスト、ソロモンの鍵・下巻。俺のライフを+1、そして上巻がドロップゾーンにあるから、カード1枚ドロー」

 不良の手札:2→1→2/ライフ:3→4

 

 引いたカードを見て、負けを確信したのか見る見る内に不良は不機嫌な顔つきに変貌する。

「おいおい、何でそんな顔すんだよ?」

 不審に思った闘真は少し眉根を寄せ、不良へ問いかけた。「まだお前のターンだぞ?」真意を察したか察していないか、そのように声をかける。

「うるせぇ!! 俺は認めねぇ、認めねぇ!!」

 返ってきたのは否認の言葉。誰に対しての怒りか――それは理解できないが現実を受け入れたくない叫びである事は確かだ。

 静かに見守ってきたザンバソードが口を開く。「“運”で負けることがか?」穏やかな口調でさらに続ける。「それはお前の実力不足だから、起きた結果だな」冷静に紡がれた言葉は残酷な事実を告げた。

「俺の実力不足……? あり得ねぇ、“運”で勝とうなんて実力でも何でもねえだろ!」

「それでも“運も実力の内”と言うだろう? 勝利の女神って奴は、意地が悪い奴にしか微笑まねえんだよ」

 ザンバソードはかなり落ち着いた様子で諭す。「まぁ、女神は気まぐれだから、どうにもなんねぇ時はどうにもならないけどな」と軽い調子で笑い、付け足した。

「へへっ、だから何が起こるのか分かんねえから面白れぇんだよ。“運”だとか何だとかゴチャゴチャ考えるより、楽しんだもん勝ち……だぜ?」

 愉快げに喉を鳴らす闘真。実際、“運”がどうとかを小難しく考えずファイトしている彼だからこそ、掴めたのだろう。

 確かにファイトはデッキの構築やファイトの戦術で勝負が決まるかもしれない。だが、予想外というのはつきものだ。

 それを認めなかった不良は“運”に見放されてしまったのだと言えよう。

「……っ! シンフォニオンの能力を使って、シンフォニオンをレストして、お前にダメージ1」

「受けるぜ!」闘真のライフ:5→4

 緑色の光弾が疾駆するが今までよりも速度は出ておらず衝撃も軽い。まるでファイターの内心を表しているようだ。

「なぁ、そんな顔してもつまんねえだろ? もう開く直って笑った方が良いぞ?」

 もはや戦意はなく不貞腐れている不良に対して、闘真は笑ってたしなめる。これが彼でなければ、対戦相手は不快に思うのだから、当然と言えば当然の声かけだろう。

 それでも不良は応じず、不愉快げに眉を顰めてはそっぽを向く。言葉はもう届かない。

「……ターンエンド」

 不良の手札:2/ゲージ:4/ライフ:4/不良:シンフォニオン

 

「へへっ、俺のターンだな。ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:1→2/ゲージ:0→1

 

「俺もこのままアタックフェイズに入るぜ! ザンバソードでファイターにアタック!」

「さてと、フィナーレと行こうじゃねえか! おらぁぁぁ!!」

 そう言って突進するザンバソードは得物を不良に直接ぶつけず、一歩手前から大剣を振り下ろした衝撃波で攻撃する。

 大剣から生み出された衝撃波は音よりも速く、真っすぐに不良の元へ駆けて行く。

「……受ける。ぐっ!」不良のライフ:4→1

 身を守るものは何もなくただその身で受け止めるだけ。瞳はもう闘志を宿しておらず、先程の勢いなど微塵も感じさせない。

「ドラゴエンペラーでファイターにアタック! これでトドメだ!」

 間髪入れず闘真は地面を強く蹴り出して疾走する。そして片刃の大剣を再び不良の肩口に向かって振るった。

 躊躇とは疎遠な少年が繰り出す一閃に迷いはない。最後まで闘真は不良と目を合わせようとする。

「これも受ける。ぐぅっ!」不良のライフ:1→0

 だが、最後の最後まで不良は目を合わせなかった。言葉は虚しく響く。

 それでも無慈悲にドラゴエンペラーの刃は強く煌めきながら不良の体を断ち切り、ライフを消失させた。

 

WINNER:相楽闘真

 

 

 

 ファイトが終わった後、闘真は不良の方へ歩み寄る。「楽しかったぜ、ありがとうな」右手を差し出し、握手を求めた。

 だが、不良はそれに応じない。それどころか闘真の手を払い除け、拳を振り上げた。憤怒の形相で闘真を見下す。

 闘真は驚く事はせず、ただじっとそれを見つめる。むしろ、平然としていた。

 そのまま拳が振り下ろされ――ることはなかった。不良の腕を見知らぬ男が左手で掴み、止めていたのだ。

「いくら何でも、それは人として酷くないか?」

 青みがかった黒髪をツンツンとした感じで短めに整え、黄色の瞳は眼光鋭く不良を睨みつけている男性。

 決して怒っている訳ではないだろうが、彼が発する圧力に不良は気圧される。額に冷や汗すら見えているぐらいだ。

「どんなスポーツでも最後はお互いに握手するだろう? 違うか?」

 穏やかな口調で諭すが不良は反論する。「うるせぇよ! アンタには関係ねえだろ!」男性の手から腕を引き剥がそうとするが、強靭な膂力の前にビクともしない。それどころか男性が力を入れたのか痛がるばかり。

「互いの健闘も称え合えないなら、それこそファイターの恥だぞ」

 男性は声音は極めて落ち着ている。だが、不良の腕を掴んでいる手は力入っているらしく、骨が軋む音さえ聞こえてきそうだ。

 ようやく不良は諦め、離すように要求する。痛みに耐えきれず、このまま握り潰さそうな恐怖心に負けて。

 その事を察して男性は手を放す。「ほら、ちゃんと握手しろよ」相変わらず穏やかな口調で促す。

 しかし、不良は舌打ちした後に「覚えてろよ!」と闘真や男性に向かって捨て台詞を吐き、弟を連れて足早に立ち去った。

「すまない、助かった」

 ザンバソードが開口一番に礼を言う。ファイトが終わった為、既にSD化の状態に戻っている。

「別に構わないさ。汐のボーイフレンドを助けないとな」

「汐の?」

 闘真は訝しげに眉を顰める。目の前に現れた男性が汐と知り合いと思っておらず、疑惑の目を向けていた。

 先程の彼女の話からして、親しく話せる人物はいないと思っていたが……。

「師匠! 闘真君はボーイフレンドじゃないよ!」

 顔を真っ赤にしながら汐は反論し、彼らの元へ歩み寄る。手には闘真ののショルダーバックと自身が読んでいたハードカバーの本を抱えていた。

「……え? コイツとはそういう関係じゃなかったのか? お前と親しく話していたから、てっきり……」

「もう、違うってば! 闘真君は……何だろ?」

「少なくともてめえの友達ではねえな」

「いや、そこは友達だと言えよ。まぁ、どう形容してい良いのか分からない気持ちは分かるが」

 師匠と呼んだ男性に闘真をどう紹介しようと言葉に困る汐に助け舟とは言い難い闘真の言葉。

 ザンバソードがツッコミを入れるが、彼らの関係を簡単に言葉にできないのは確かなので、それ以上は言えない。

「ま、お前がどうであれ汐と親しくしているなら、問題ない。これからも頼むよ」

 穏やかに微笑む師匠。不良に向けていた鋭さはそこにはなく、あるのは温かみのある光だけ。

 珍しく穏やかな対応されたせいか、闘真は若干たじろぐ。「お、おう?」意図が読み取れず、返事もぎこちない。

「あ、俺は汐に師匠と呼ばれているが、ちゃんと名前があるんだぞ? 俺は切谷(きりたに)勇吾(ゆうご)って言うんだ。師匠が本名じゃないぞ?」

「いや、それが本名だったら驚くぞ」

 冷静な闘真のツッコミ。切谷という男の発言がわざとなのか素なのか掴みきれず、とにかく眉根を寄せてしまう。その為、元々鋭い目つきがさらに鋭さが増し、不機嫌に彼を睨みつけるような表情になっていた。

 それに気づいた汐に「闘真君、顔怖いよ」とたしなめられる。だが、直る気配が一向にない。

「その事で気になったのだが、汐は切谷の事を何で“師匠”って呼んでいるんだ?」

 二人を交互に見た後にザンバソードは汐に問いかける。名称から何を習っているのは分かるのだが、それが何なのか純粋に疑問を持ってしまったからしれない。

 汐はザンバソードの質問に嫌な顔一つせず、屈託のない笑顔で返す。

「それはね……師匠は剣道? ……剣術だっけ? そういうのを教えてくれるからだよ!」

「まぁ、汐の状況があれだったから、ちょっと放っておけなくてな。それに師匠って呼ばれているけど、俺は大した事ないぞ?」

 だが、先程の状況を鑑みると彼は相当の強さを内包していると言っても差し支えないだろう。そんな推察がザンバソードの中でよぎる。

 それは闘真も何となくだが感じ取っていた。彼から発していた圧力は街中で暴れているチンピラや不良とは違うものだと。もし切谷がバディファイターだったら一戦交えようと考えていたところだが、生憎デッキケースが見当たらない上にそれらしい“匂い”を感じない為、非常に残念な気持ちが胸の内から生まれる。

「それで師匠、今日は用事があるから来れないって言ってなかったっけ?」

 話が一段落したところで汐が新しい話題を切り出す。

 その問いに切谷は「あ、そういやそう言っていたな」と思い返して、言葉を続けた。

「思いの外、早く終わったから来れたんだ。そうしたら、あの現場だったんだよ」

「そうだったんだ。でも、師匠が来てくれて良かったよぉ~」

「確かにな。あの場で殴られたら、闘真も確実に殴り返していたからな」

「おい、人を何だと思っているんだよ?」

 相棒の軽口に睨みつける闘真。実際、殴られたら殴り返す男である事は周知だろう。その現場をザンバソードと汐は見ている。

「……あっ! 今用事を思いついた!」

 切谷は掌に鉄槌を軽く打ちつけて、アイディアが出た事を示す。まるでこの場から逃げる為の口実ような言い方だが、普段からこんな調子なのか汐は何事もないように尋ねる。

「何、師匠?」

「今から皆で神田明神に行こう!」

「あ?」

 突然の事で訳が分からず闘真は口悪く返してしまう。いよいよ彼の意図を読み取るのも馬鹿馬鹿しくなってきたと感じながら。

 ザンバソードも「どうして、神田明神なんだ?」と聞き返す。汐も頭に疑問符を浮かべていた。

「それは……行ってからの楽しみだ!」

 この時の切谷の笑顔は闘真達よりも年上なのに、同い年ぐらいの子供っぽく悪戯っ子のような笑みだった。

 

 それから闘真達は切谷に連れられるように神田明神に足を運んだ。各々、自分の荷物を持って。

 長い階段を乗り越えた先にお社。夏の日差しが照り付ける中、真っ先に文句を言いそうな闘真でさえ文句の言葉はなかった。それは恐らく汐の存在があってこそだろう。

 ぶっきらぼうだが彼女の話に付き合い、それからバディファイトの話になるとすぐに目を輝かせ語る。

 単純な彼の言動に汐は笑いながら相槌を打つ。傍から見れば、親しい仲に見えるだろう。

「よし、着いたぞ。……五円玉はあるか?」

「あ? 五円玉……? 十円じゃ駄目なのか?」

「馬鹿言え、“ご縁がありますように”って願う為に必要なんだぞ?」

「別に五円玉じゃなくても良いんよ。むしろ、一円玉の方がご利益があるかもしれへんよ?」

 賽銭箱の手前で熱弁する切谷と呆れている闘真の間を優しい声が割って入る。全員、声がした方に顔を向けるとそこには桔梗色の長い髪を一つにまとめ、巫女装束に身を包んだ少女が立っていた。

 少女の顔立ちからして十代後半から二十代前半といったところで、少なくとも闘真や汐よりは年上だと見受けられる。

 そんな少女は口の端を小さく緩やかに上げ、話を続ける。

「昔は白い幕とか白い紙に包んでお米を神様から奉納してたんよ。今年も良い実りになりましたって、感謝の気持ちを伝える為にね……だから、お願いするんやなくて感謝の気持ちを伝える為に白い硬貨の方がええんよ」

「へぇ~、そんな意味があったんですね。勉強になります!」

 目を輝かせて感動する汐。先程熱弁していた切谷も「そんな意味があったんだな……一円玉あったかな?」と感心しては早速自分の財布を開けて中を確認する。

 その中でただ一人、別の事に興味を向けていた。闘真は少女の顔に見覚えがあり、彼女の話を聞き流しながら思い出そうとする。

 ふと感じたのは、かつてバディファイトの大型大会で名を馳せた伝説的なバディファイトチームの一人に似ているなと。

 その人物はよく神社でバイトしていると噂されており、時たま参拝客を占っているという闘真にとってどうでも良い情報だったが、もしかしたら目の前にいる巫女は元メンバーかもしれない。

 予感を胸に秘めながら闘真はその人物の名を呼ぶ。――アンタ、東條(とうじょう)(のぞみ)だろ? と彼女を睨みつけて。

「およ? ふふっ、何でウチが“東條希”だと思うん? 人違いかもしれへんで?」

「勘で言っただけだから、本当にそうなのかは分かんねえよ。けど、アンタが“東條希”かどうか確かめる方法はあるぜ」

 不敵に笑い、腰に提げているデッキケースを少女の眼前へと突き出し、「俺とバディファイトしようぜ!」闘真は少女を見据えた。

 突然の展開に汐と切谷は困惑する。ザンバソードに至っては呆れてのため息を吐くばかりだ。

 だが、事と言うものはそんな簡単に通るものではない。闘真の鋭い眼光もものともせず少女は穏やかに笑い返す。

「ごめんなぁ~。ウチ、今デッキケース、家に置いて来ているんよ……タロットカードならあるんやけど」

「何でタロットカードがあるんだよ」

 予想もしない方向に返されたが故に闘真は思わずツッコミを入れてしまう。それは誰だって思うところだった。

 とんだ拍子抜け……強いファイターとファイトできると思った闘真にとっては落胆もの。

 しかし、少女は闘真の心中などお構いなしに話を続ける。

「まっ、でもウチが東條希って分かった事は褒めてあげる。今回は特別にタダで占ってあげるんよ」

「何で上から目線なんだよ……っつか、占いよりもファイトがしてえんだよ」

 二人のやりとりを他所に汐と切谷は首を傾げていた。「闘真君、その人知っているの?」汐が質問を投げかける。

「あ? 知っているのも何もコイツはファイターの中でも有名プレイヤーなんだよ。お前も“μ's(ミューズ)”の名前ぐらいは知ってんだろ?」

「うーん、聞いた事があるかもしれないけど、知らないかな……師匠は知っている?」

「俺も知らないな……そんな有名人なのに意外と間近で会えるのか」

 バディファイト界隈に疎い二人の反応は鈍い。世界的に有名なカードゲームで名を馳せているとはいえ、興味がない人間には中々耳に入らない情報だ。

 そんな彼らの反応に希は驚いたように目を見開くが、やがて元の落ち着いた表情に戻り、微笑んで言葉を紡ぐ。

「ウチらもそこそこ有名になったとは思ったやけど……まだまだ知らない人がおるんやね。世界って、狭いようで広いってよう分かるわ」

「……何かすまないな。知らなくて」

「ええんよ、それぐらい。むしろ、ちょっと新鮮やったから……せや、特別に占ってあげるんよ」

 有無を言わさず、どこからかタロットカードを取り出してカードを引く。占いの結果は――。

「うーん、ちょっと良からぬ事が起きそうやね……何か全部壊れそうな……でも、すぐに良い事がやってくるから、そこまで深く考えなくてもええかも」

 歯切れが悪い。占いに詳しくない闘真と汐は頭に疑問符を浮かべる。闘真に至っては眉根を寄せて、「つまり、どういう事だよ?」とぶっきらぼうに返していた。

 あまりハッキリしないのは闘真の好みではなく、今にも殴りかかりそうな雰囲気すらも醸し出している。

「まぁまぁ落ち着け。さて、占い師さんや、それは俺達三人の今後の運命って事だよな?」

 切谷は闘真をたしなめ、希を確認を取る。この時の彼の瞳には剣呑さを感じさせる程に歪んだ光が宿っていた。

 まるでその運命は自らが成し遂げるような意志が。それは対面している希以外は知らない。

「……そやね。三人の関係についてやね。正直、ウチからはこれ以上は言えない……かな」

「んだよ。自分から占うって言っておいて、それかよ?」

 胡乱げに闘真は希を見つめる。とは言いつつもあまり占い結果など興味はないので、そこまで苛立っている訳ではない。

 ハッキリとした事を言われなかったのは快くなかったが。

「うーん、意外と難しいんよ。何か複雑なものが絡んでいるとねぇ~」

 苦笑いを浮かべつつ希はタロットカードをしまう。「でも、全部壊れたとしても時間をかけながらゆっくりと直せば良いって事は確かだから……要は諦めなきゃ良いって事やね」とりあえず、今言える分だけは伝えておく。

「そうか、それは良い事を教えてもらったな。んじゃ、お礼に参拝するか!」

 そう言って切谷は賽銭箱に百円玉を放り込み、鐘を鳴らした後に二礼二拍手をし、手を合わせて黙想する。

 ほんの少しだけの沈黙が流れた後、一礼して闘真たちの元へ体を向けた。

「汐はお金持って来ているのか?」

「うん、一応あるよ!」

「そうか……本、預かるぞ?」

「ありがとう、師匠!」

 汐は切谷に本を預け、パーカーのポケットからコインケースを取り出す。そして一円玉を手に取り、賽銭箱に投げようとするがそこで手が止まる。「闘真君も一緒にやろうよ」何も行動していない闘真に声をかけた。

「あん? 別に俺は神様なんざに用事はねえよ」

「でも、神様に感謝すれば、もっと色んな人とバディファイトできるかもしれないよ?」

 ドっ直球な汐の返しに闘真は呻きを漏らす。彼にとって、これほどクリティカルな話はないだろう。

 別に神田明神はバディファイトの神様を祀っている訳ではないが、伝説的なバディファイトチーム“μ's”由縁の地。少なからず、その伝説にあやかって訪ねるファイターはいる。

 だからこそ、そういった縁はあると信じられている。それでも必ずしもご利益があるとは限らないが。

 とは言え、闘真からすれば様々なファイターと巡り会えるのは願ってもいない好機である為、少しでもチャンスは増やした方が良い。汐に手を引かれつつ彼も参拝する事となった。

 そして全員が参拝し終わった後、希に礼を言って神田明神を後に――しようと思ったら、切谷だけが彼女に呼び止められる。

「ちょっとこのお兄さん、借りるんけどええかな?」

「あ? 別に良いけど」

「私も大丈夫です……じゃ、師匠、下で待っているね」

 闘真たちは階段を降っていく。彼らの姿が見えなくなったのを見届けると二人は対面する。

 切谷は穏やかで落ち着いているが、希は訝しげに眉を顰め、先程打って変わって険しい表情を彼に向けていた。

「随分と怖い顔するな……俺が何かしたか?」

「せやね……今は何もしとらんけど、これから何かするから、かもしれへんね」

「これから何かをするか……またまた面白い冗談を言う」

 希の言葉に切谷は目を細める。先まで穏やかに笑っていた青年の面影はなく、酷く濁った眼光を煌めかせる猛獣の姿がそこにあった。口元も不敵に吊り上げる。

「……あの子達、特にあの女の子に近づかないで置いてくれへんか? あの子にとって、アンタは」

「良くないという事か? 構わないさ、それでも……俺はあの子を守る」

 あまりにも清々しい返答に希は鼻白む。目の前にいる男はどこか狂気を、いや狂気そのものような存在すら覚えた。

 黄色の双眸は何かが歪み壊れた破片を映し出し、それをさらに狂わせて淀んだ光を宿している。純粋とは何か――その言葉の定義など意味を成さないかのように。

「話は終わりかな? まっ、それでもご忠告ありがとう……心優しき占い師さん」

 いつの間にか先程と同じように穏やかに笑う青年の姿に戻っていた。

 変化に追いつけず希は喉元に言葉を詰まらせてしまう。ようやく言葉が口元に届く頃には切谷の背中を見つめるぐらいしかできなかった。

「アンタは一体何者なん……」

 希は彼らを占う際に引いたカードを再度取り出し見つめる。タロットカードは“死神”の正位置、それがこれからの彼らの運命を示していた。

 

 一方、闘真と汐は最下段に座り、切谷を待っていた。

「……つか、お前、そんなもん着て暑くねえのかよ?」

 と汐が羽織っているパーカーを指差す。薄手ではあるが炎天下の中で活動するには、しばし暑いだろう。

 ザンバソードもまた同じように思っていたらしく、「今日もそれなりに暑いぞ?」疑問を口にした。

 それでも彼女は近くの自動販売機で買った水を飲んだ後、苦笑いをして「私、こう見えて結構寒がりだから」と返す。それ以上は問わない。

「あ、そうだ。私ね、闘真に合ったら、渡そうって思っていたものがあるんだ」

 汐は切谷に返してもらった本を開いて、栞と一緒に挟んであったカードを取り出す。そして闘真に手渡した。

 手渡されたカードを見つめる闘真。ザンバソードも覗き込むように一緒に見る。

 カードは古びており、ところどころ傷があるがプレイする分には使えそうだ。

「『超竜剣 ドラゴデザイア』……効果は……」

 真剣に闘真はテキストを読む。やがて目を見開いて、にやりと笑う。「コイツは……使えるぜ。ありがとうな、汐」彼の口から出た言葉とは思えない言葉が彼らの耳に届く。

 ザンバソードも汐も目を丸くし、顔を見合わせては今聞こえた言葉が信じられないような表情で闘真を見つめた。

 当然、闘真からすれば快くないので口元をへの字にして、不機嫌そうに眉根を寄せる。

「んだよ、俺が何かおかしい事言ったか?」

 いつも通りの彼の表情に戻り、口調にも刺々しい。汐は首を横に振って否定する。

「ううん、そうじゃなくて……闘真君らしくないって言うか、闘真君にしては珍しいと言うか」

 目は泳ぎ、声は若干上擦っては出てくる言葉は誤魔化そうとしても誤魔化しきれていない。別に悪い事を言っている訳ではないが、相手が相手だけに言葉を選んでいる。だが、上手くはいっていない様子。

「ああん? どういう意味だよ?」

 さらに目つきは険しくなり、拳すら構えたりしている。もう一押しがあれば、確実に闘真は汐を殴っているだろう。

 ハッキリしないのは好きじゃないのもあるが、二人の反応には心外だという思いもある。怒気そのものはもう溢れていた。

「お前がそんな事を言うなんて思いもしなかったんだよ。まさか礼を言うなんてな」

 汐を庇うようにザンバソードが闘真の眼前に躍り出る。誤魔化しが利かない以上は、もう正直に話すしかない。

 当の闘真は「俺だって、それぐらい言うわ! 俺を何だと思ってんだよ!」と爆発させたが。

「いや、だって……闘真君、バディファイト以外でそういうの言わなさそうだから」

「人からカード貰ってんのに礼を言わねえファイターがどこにいんだよ!」

 この言葉で汐は気付く。自分が渡したカードはバディファイトのカード、つまりはバディファイトに関する事は大方真面目な態度を見せる闘真ならば、あり得ない対応ではないと。

 普段が普段なだけに耳を疑ってしまっていたが、冷静に考えたら何もおかしいところはないと納得した。

「……そうだね。闘真君の言う通りだ。お礼を言わない人はいないかも」

「だろ? はぁ……今ので、すげえ喉乾いた。お前の水、飲んで良いか?」

 本人の承諾なぞ取らないまま汐の傍らに置いてあるペットボトルを手に取り、闘真はそのまま蓋を開けて口付ける。

 呆気に取られた汐は口を開けたまま水を飲む闘真の姿を眺めていた。が、ある事実に気が付いては顔をみるみる内に赤くさせていく。

 ザンバソードですら予想もしていなかった事態で引き攣った笑みが顔に張り付き、喉からは乾いた笑い声しか出ない。

「流石に全部は飲まねえよ。ほら、返す……って、何でそんなに顔赤いんだ?」

 飲み終わった闘真は蓋を閉めて返すが、汐が赤面している理由に気付かず首を傾げた。中身は彼の言う通り、それなりに残っている。だが、問題はそこじゃない。

「お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」

「あ? 汐の水を飲んだだけだぞ? 何か問題あるのか?」

「問題大有りだよ!」

 相棒に言われても意図が読めない為、闘真はますます眉間に皺を作り、頭に浮かばせている疑問符の数を増やす。

 友人同士の回し飲みとしか認識していない故に、彼らの意識とは齟齬があった。要は異性として認めているか否かの問題であり、その認識が疎い闘真にとって最も縁遠い話である。

 仮にも友人とはいえ、汐自体は闘真を異性と見ているし、彼女も彼女で年頃の女の子……恋愛的に好きかはともかく、そういった経験には繊細だ。本の中でしかない経験だろうと思っていた出来事がたった今起きたのだから、脳は処理しきれず恥じらいの感情が爆発したのだ。

 彼女の心中など察せられない闘真からすれば、当分分からない事であるには間違いないのだが。彼はただひたすらに何が悪かったのかのかをザンバソードや汐に投げかけるだけ。

「いやぁ~、青春って良いな」

 背後から声がした。全員が後ろを振り向くと切谷が笑顔で見つめていた。「いつからそこにいたんだよ?」闘真は眉根を寄せたままぶっきらぼうに訊く。

「そうだな……君が汐の水を飲んでいたところからかな? まぁ、近くにいたのはって事だけど」

 それを聞いた時には汐は大慌てに手を動かす。「それだったら声かけても良かったじゃないですか!」早口に言葉が紡がれる。

 切谷はその言葉を聞いて笑う。実に目の前で起きた事を楽しむように。

「すまん、すまん。何か邪魔したくなくってな」

「まぁ、気持ちは分かる」

 彼の言葉にザンバソードが同意する。だが、些か気難しい顔をしていた。気が抜けいていたとはいえ、幾多の戦いを戦士たるザンバソードが近づく切谷の気配を感じ取れなかった事に対して、少しばかりの疑念があるように見えた。

 けれど、それは一瞬で次の瞬間には苦笑いを浮かべて話を続ける。

「歳を取るというのはこういう事なんだな……」

「ああ、俺達おじさん組には眩しすぎたな」

「って、師匠はそこまで歳取ってないでしょ? 確か、二十六ぐらいじゃなかったけ?」

「汐……それでもお前とは一回り歳の差があるんだよ……」

 無邪気な一言に切谷は凹み、項垂れた。ザンバソードは愉快げに喉を鳴らし、特に年齢には興味ない闘真は無関心に切谷を見つめる。

「なぁ、次どこ行くか決めてんのか?」

 それどころか闘真は次の話題を放り込む。だが、これが幸いしてか元々切り替えの早い人物なのか定かではないが、切谷はすぐに顔を上げた。

「決めていないな……どうせならアキバドームとかに行くか」

「何で、そこに?」

「そりゃ、彼の……えっとバディファイトの有名な場所だからかな?」

「アンタでもそこは知ってたのか、いや地元の人間だから知らない訳ねえか」

 少し驚くが思い直す闘真。少なくともアキバドームはバディファイト以外にも様々なイベントで使われる会場である為、近場に住んでいる人たちには馴染み深いだろう。

 ――実のところ、闘真はアキバドームに行った事がなかった。目指してはいたものの極度の方向音痴のせいで、その付近にすら辿り着いた事がなく、あちらこちらを彷徨い歩いていたのだ。無論、彼自身がこの事を認知している訳がない。

 何がともあれ、闘真達は再び歩き出した。しかし、そこで思わぬ出来事に遭遇しようとは……その時の彼らは知る由もない。

 

「ここがアキバドームか……でけぇな」

 眼前の建物を見つめて闘真は呟く。それもそのはず、高校野球で目指す場所と言えば甲子園と言うように、アキバドームもまたバディファイター達にとって聖地のようなものだ。

 バディファイトのイベント会場にも使われるドーム型の施設――アキバドーム。周辺に人はいるが野球の試合も他のイベントもない為、そこまで多くない。

 一人のファイターとして闘真もまた例外なく目を輝かせる。ここで行われる大型大会はバディファイト界隈では一大イベントなのだから。対象が高校生のみなので、現在中学生である闘真は参加できない。

 しかし、ここでいつか自分もファイトしたいという夢は抱くものだ。ここならば、“強いファイター”とファイトできると。

「デカイよな。こんな馬鹿デカイ場所で野球やら何やらやるんだから、さぞ気持ち良いんだろうよ」

 切谷もアキバドームの大きさを口にしながらも内部で行われるイベントを想像する。思い出を馳せているのか、どこか懐かしむような表情で眺めていた。

「ここでバディファイトの試合をするんだよね? ……いつか闘真君の応援に行きたいな」

「あん? 何を言いやがるんだ。てめえは今から教わるんだろ? なら、一緒に出るぞ」

「あはは、そうだね。でも、私にチームメイトとかできるのかな……?」

「いなきゃ、俺が組んでやる。んな事より、今はルールからだろ」

 少し思い出に浸っている切谷を他所に闘真と汐はその先の話をする。今からでもルールを教えたい闘真はどこか落ち着ける場所がないかと辺りを見回した。

 ベンチが何ヵ所かに分かれて設置してあり、誰も座っていない場所があった為、そこで少し話をしようと考えた。

 しかし、その考えはすぐ消し飛ぶ事になる。――何気なく歩いている青みがかった黒のロングヘアの少女に狙いを定めたからだ。

 すぐさま不敵な笑みを浮かべ、闘真は少女の元へ歩み寄る。その様子に汐は困惑しながらも後を付いていく。

 改めて少女を見ると左腕の肘から先がなく、長い袖がただ風に煽られていた。しかし、闘真は気にしない。

「おい、お前バディファイターだろ?」

 腰のアタッチメントを外し、デッキケースを少女の眼前に差し出す。「俺とファイトだ!」決まり文句を言い放ち、挑戦的な笑みと闘志を宿した双眸を彼女へ向けた。

 何故、少女がバディファイターだと思ったか――それは彼自身の勘というものだ。野生の勘かファイターとしての闘争本能かは定かではないが。

 しかし、少女の応答は薄い。闘真に呆れている訳ではなく、そもそも感情の波が希薄というよりは何かに支配されている感じだった。

 それを感じ取ったザンバソードは闘真に呼びかける。「気を付けろ、コイツ……この間の奴と似た臭いを感じる」彼女から発せられる禍々しい雰囲気に覚えがあった。

 汐も少女の禍々しいオーラを感じると不安そうな表情の顔で闘真を見つめる。この人とファイトしない方が良いとさえ言いそうだ。

 けれど、当の闘真は止まる訳がない。にやりと笑って言う。「んな事よりファイトしようぜ」目の前にいるファイターとどんなファイトが繰り広げられるのか、楽しみでしかないのだ。

「……あなたが誰なのかは分からないけど、探している人ではないのは確かね」

 ようやく少女が口を開く。言っている事は闘真達と関係あるようでないように聞こえる。

 事実、闘真は思い当たる節がない為、眉を訝しげに顰めるしかなかった。汐も首を傾げて、疑問符を浮かべている。

 だが、二人の反応など解せず少女は話を続けた。

「でも、ファイトは受けるわ。やりましょう」

「そうこなくっちゃな! 相棒、やるぜ!」

「おいおい、良いのかよ? ……また危ないファイトになるかもしれないぞ?」

 数日前のファイトの事を思い出しているのだろう。ザンバソードの表情はかなり苦々しいものとなっていた。

「そんなの関係ねえよ。せっかく受けてくれるのに断るのはファイターが廃るってもんだぜ」

 相棒の意を察しているのか察していないのか闘真は自分の欲望を優先する。覿面の少女がどんなファイターなのか、どんなファイトを好むのか……興味があるのはそこだけ。

 ファイター二人は人がいない事を確認する。そして闘真は汐に荷物を預けてファイトスペースで少女と対面。彼は不敵に笑い、少女は緊張した面持ちで相対する。

「何か、いつの間にか凄い事になっているな」

「ふぇっ!? 師匠、いつの間に!?」

 闘真達からやや離れた場所に汐と切谷が並び立つ。先程の会話に参加していない切谷が突然傍らに立っていた事に汐は驚いた。

「ついさっきだな。まっ、それよりファイトが始まるようだぞ」

 切谷に促されて汐は視線を闘真達の方へ戻す。そして、戦いの幕が切って落とされた。

 

 

「闘う為なら神も闇へと染まり、力を得る……! ルミナイズ、『プロエリウム・ウォルンタース』!」

「俺の全力を以って、お前の心の声を聞く! ルミナイズ、『ファイト・オブ・デュオローグ』!!」

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

「エンシェントワールド!」

 少女の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:武神竜王 デュエルズィーガー

「ドラゴンワールド!」

 闘真の手札:6/ゲージ:2/ライフ:10/バディ:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン

 

「私が先攻をもらうわ! チャージ&ドロー!」

 少女の手札:6→5→6/ゲージ:2→3

 

「まずはキャスト、『天竜開闢』! ライフ2払って、カードを2枚ドロー!」

 少女の手札:6→5→7/ライフ:10→8

 

 少女は手始めに手札を増やす。手札を見つめる瞳は恐怖と歓喜が入り混じった複雑な色をしていた。

 

――――――――

 

「え? ライフ、自分で減らしちゃったよ!?」

 汐はライフを自ら減らした少女の行為に酷く驚いた。

 勝敗に直接関係するライフを自ら減らす行為は傍から見れば、自殺行為に見えるのだろう。

「だが、手札が増えた。しかも、あの中に回復手段があれば、払った代償はチャラになるな」

 切谷の言う通り、時としてそれを削る事により大きな利益を得る事もあるし、リカバリーするカードがあれば代償は軽くなる。彼女が最初に使ったカードはまさしくそういった効果を持つカードだ。

「なるほど……そんなカードもあるんだ……」

 感心の言葉を吐き、汐は再びファイトへと意識を向ける。

 

――――――――

 

「続いてキャスト、『竜王伝』! ゲージを1枚増やして。ライフを1回復し、1ドロー!」

 少女の手札:7→6→7/ゲージ:3→4/ライフ:8→9

 

「順当な手だな」

「だな。んでもって、何が出てくるのか楽しみだぜ!」

 少女が出した札を見てザンバソードと闘真は言葉を交わす。

 ザンバソードは少女からこの間の少年と雰囲気が似ていると感じており、全く気にしない相棒に少しため息をついた。

 結局、いつもと変わらず楽しそうにファイトしているなと。そこが彼の良いところでもあるとも。

 

「最初から行くわよ! 『武神竜王 デュエルズィーガー』をゲージ3払い、手札から《ドラゴンロード》2枚をソウルインしてセンターにバディコール! バディギフトでライフ+1するわ!」

 少女の手札:7→4/ゲージ:4→1/ライフ:9→10/センター:武神竜王 デュエルズィーガー(ソウル:2)

 センター:武神竜王 デュエルズィーガー/サイズ3/攻防7000/打撃2/[2回攻撃]/[ソウルガード]/[ライフリンク5]

 

 神々しさ溢れる赤い竜が少女を守るかの様にそびえ立つ。幾度の死闘を乗り越えた武神が眼前にいる相手を睨み付ける。

「いきなり大型モンスターの登場か……ゲージは平気なのか?」

「初っ端からコイツを出すって事は問題ねえって事だろ? それにしてもいつ見てもデケェよな、デュエルズィーガーは」

 闘真達はデュエルズィーガーの有無を言わさぬ迫力を前にしても己のペースで会話をする。

 特に闘真は感嘆の言葉を呑気に吐いては強者を目の前にして口元を獰猛に吊り上げる。闘争心がさらに燃え上がり、好奇心が溢れ出ている証拠だ。

 彼女がどんなファイターなのか……それを今から感じられるのが楽しみで仕方がない。

「余裕ね……羨ましい限りだわ……」

 少女は闘真の様子を見て、羨望の言葉を呟いた。誰にも聞こえない呟きだが、彼女が本心が少し漏れ出している。内なる恐怖と戦い、余裕がない自分が。

 しかし、そんな事は気にしてはいられないと少女は気持ちを切り換えて、プレイを続行する。

「まだこれで終わらない……キャスト、『竜枯盛衰』! ライフ2払って、ゲージを+4!」

 少女の手札:4→3/ゲージ:1→5/ライフ:10→8

 

 少女はライフを再び払い、枯渇寸前だったゲージを増やす。これで問題は解決された。

「なるほど、持っていたんだな、そのカードを……へへっ、面白くなってきたぜ!」

「このままアタックフェイズに入るわ! デュエルズィーガーでファイターにアタック!」

 少女は宣言するとデュエルズィーガーは高らかに吠え、そのまま真っ直ぐ闘真の元へと駆け寄り右拳を突き出す。

「受けるぜ! ぐおっ!」闘真のライフ:10→8

 障害も何もなくデュエルズィーガーの右拳は闘真を捉え、そのまま突き飛ばした。武の神を名乗っているだけの威力が闘真の体に伝わる。

「闘真君!」

 汐の悲痛な叫びを耳にしながら闘真は背中から地面に叩き付けれられた。デュエルズィーガーの拳は今までの受けたものより重みがあり、痛みが走る。しかし、彼は苦悶の表情を一つ浮かべず立ち上がった。

「闘真君、大丈夫!?」

「問題ねえよ、こんなの! むしろ、これからだぜ……よく見とけよ!」

 闘真は汐の心配をよそに自分が元いた場所へと戻る。その瞳は常に対戦者へと向けられていた。

 視線を向けられた少女はバディが戻って来たのを認めると次の行動を宣言する。

「デュエルズィーガーは[2回攻撃]持ちだからスタンドするけど、私は先攻……だから、ターンエンドよ」

 少女の手札:3/ゲージ:5/ライフ:8/センター:デュエルズィーガー

 

「っしゃ! 俺のターン、行くぜ! ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:6→7/ゲージ:2→3

「レフトに『ブレイドウイング・ドラゴン』、センターに『Wピコピコハンマー・ドラゴン』、ライトに『ジャハマダル・ドラゴン』をコールだ!」

 闘真の手札:7→4/レフト:ブレイドウイング・ドラゴン/センター:Wピコピコハンマー・ドラゴン/ライト:ジャハマダル・ドラゴン

 レフト:ブレイドウイング・ドラゴン/サイズ1/攻防2000/打撃2/[移動]

 センター:Wピコピコハンマー・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 ライト:ジャハマダル・ドラゴン/サイズ2/攻8000/防4000/打撃2

 

 彼の目の前には両手にピコピコハンマーを持った青い小柄な竜が、武神竜王の威圧に負けじと堂々とした立ち姿で現れる。覇気……というものはないもののそれでも頼りがいがある強さを発していた。

 その両隣には赤い翼竜と両腕にジャハマダルという特殊な剣を装備している緑色の竜が並び立つ。彼らも気圧される事なく、ただ目先の巨大な相手を倒さんとばかりに闘志を滾らせている。

「そして、『竜王剣 ドラゴエンペラー』をゲージ1とライフ1払って装備するぜ!」

 闘真の手札:4→3/ゲージ:3→2/ライフ:8→7/闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/レフト:ブレイドウイング/センター:Wピコピコハンマー/ライト:ジャハマダル

 闘真:竜王剣 ドラゴエンペラー/攻6000/打撃2

 

 闘真はカードから現出した片刃の剣を両手で握る。彼の闘気に応えるかように刃が輝きを増し、さらなる闘志の昂りを促していた。

 

――――――――

 

「ん? 何でアイツ、アイテムを装備したんだ?」

「どうしたの、師匠? 闘真君の動き、何か変なの?」

「ああ、変というか……明らかにおかしな状態である事は確かだな」

「えっと、それってどういう意味?」

 まだルールを覚えていない汐は切谷が疑問に思った箇所が理解できず聞き返した。ただ何となく闘真の眼前にいる青い竜と闘真が持っているアイテムが関係しているというのは分かるが。

「普通は自分のセンターにモンスターを置いたら、自分の味方を背中から斬っちまう事になるからアイテム持っても攻撃できないんだよ」

「そうなんだ……でも、大丈夫だと思うよ。闘真君にきっと考えがあるはずだから」

 切谷が解説してくれた事により汐はルールをようやく理解するが、これより前に行った一戦であのカードがどんな動きをするのか分かっている為、心配には及ばないとなだめる。

「そりゃそうだろうけどよ……」

 センターが空いていないのに何故アイテムを装備したのか……闘真がどういう能力のカードを持っているのかを把握していない切谷は心配そうに彼のプレイングを見つめるばかり。

 

―――――――――

 

 二人の視線は気にせず闘真は手を進める。

「行くぜ、アタックフェイズだ! ジャハマダルとWピコピコハンマーでデュエルズィーガーに連携アタック!」

 彼の命令に従い、ジャハマダルとWピコピコハンマーがデュエルズィーガーに襲いかかる。

「……ソウルガードを使うわ」

 少女のセンター:デュエルズィーガー(ソウル:2→1)

 

 少女は手札を確認し考慮した上で攻撃をそのまま受ける事を選択。

 その結果、デュエルズィーガーはジャハマダルの強烈な一突きで怯み、Wピコピコハンマーのピコピコハンマーにより一度は倒される。だが、その程度では倒し切れる訳がなく、武神竜王は何事もなく立ち上がり次の攻撃を待っていた。

「んで、Wピコピコハンマーの能力を発動! Wピコピコハンマーをドロップゾーンに置いて、俺のゲージ+1!」

「オイラの真骨頂だ!」

 闘真のゲージ:2→3/センター:Wピコピコハンマー→なし/ドロップ(武装騎竜の種類):0→1

 

 Wピコピコハンマーは力強く叫ぶと消滅する。その代わりに闘真のデッキの上から1枚がゲージに置かれた。

 そして、センターにいたWピコピコハンマーはいなくなった事により、闘真が攻撃に参加できる状態となる。

 

――――――――

 

「なるほど、あのカードにはそんな能力が……」

「うん、そうだよ。だから、大丈夫だって言ったじゃん!」

 汐はそう言って屈託のない笑みを切谷に向ける。切谷もつられるように口角を上げる。

「そうだな。心配に及ばなかったな」

「だけど……」

 今度は汐が不安そう表情を浮かべる。このターンの後にまたあの攻撃が闘真に襲いかかるかと思うと一刻も早く止めたい気分だ。しかし、止める術を持たない彼女はただ見つめる事しかできない。

「まぁ、大丈夫だろ? そこは信じてやろうぜ?」

 汐の心中を察した切谷は彼女の頭を優しく撫でながら諭し、彼女と共に再びファイトへと視線を戻した。

 

――――――――

 

「次は俺とブレイドウイングでセンターに連携アタックだ!」

 闘真はブレイドウイングと共にデュエルズィーガーに突撃。ブレイドウイングとドラゴエンペラーの刃が武神竜王の魂を刈り取らんとばかりに激しい斬撃が繰り出される。

 しかし、もう一度簡単に倒される武の神ではない。

「そう何度もやられないわ! キャスト、『竜神無頼』! このバトル中、攻撃力と防御力を+3000して、ブレイドウイングに反撃よ!」

 少女の手札:3→2

 センター:デュエルズィーガー/攻防7000→攻防10000

 

 淡い光がデュエルズィーガーを包み、筋肉が膨張し力を得た事を証明する。そして、闘真達の攻撃を弾き飛ばし巨木のように太くなった腕に鋼のような硬い拳が唸りを上げて突き出された。

 ブレイドウイングはその拳にあっけなく体を貫かれ消滅する。

 

 闘真のレフト:ブレイドウイング 撃破!

 ドロップ(武装騎竜の種類):1→2

 

「おいおい、防御手段がいきなり減ったぞ?」

 ザンバソードはブレイドウイングが破壊された事に苦い顔を浮かべた。防御札の消費を抑える為に必要なモンスターだったのだが、それがいきなり破壊されれば少しばかり頬を歪めても仕方がない。

 しかし、闘真は気にも留めず強気な言葉を吐く。

「へっ、こんぐらい問題ねぇ! もう1ターンぐらい防いでみせるぜ!」

「頼もしい限りだな……本当に頼むぞ」

 ザンバソードの言葉に闘真は不敵な笑みで頷く。むしろこの状況だからこそ防がなければならない。

 大してピンチである事はないかもしれないが、手札を激しく消費してしまえば次に繋げる事はできないのは明白。

 ただ幸いライフはまだある方だ、まだどうにかなるはずだと闘真は見立てる。相手の出方次第というのもあるが。

「ファイナルフェイズは飛ばして、俺のターンはこれで終わりだ!」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:7/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ジャハマダル・ドラゴン

 

「ターンもらうわ……ドロー、チャージ&ドロー!」

 少女の手札:2→3/ゲージ:5→6

 

「キャスト、天竜開闢! ライフ2払って、カードを2ドロー!」

 少女の手札:3→2→4/ライフ:8→6

 

 少女は躊躇いは一切見せずライフを代償にして利益を得る。彼女の場合はデュエルズィーガーが倒されない限り、意外とライフ運用には余裕がある。

 効果ダメージを主軸としたデッキが相手であれば、このような選択はしなかったと思うが、幸い闘真のデッキはそういったデッキではない。

 だから、積極的にライフをコストに使う事ができるのだ。

「私も後ろで突っ立っている訳ではいかないし、飛ばして行くわよ! 『爆散甲 エンマ』をゲージ2払って装備!」

 少女の手札:4→3/ゲージ:6→4/少女:爆散甲 エンマ/センター:デュエルズィーガー

 少女:爆散甲 エンマ/攻5000/打撃2

 

 少女の右手には爆散という単語が示す通り、燃えているようなデザインの手甲が装備されている。ただ左手には装備されていない為、重心が右に傾く。

 それでも少女は気にせず構え、闘真を睨みつけた。

 

――――――――

 

 一方で観戦していた切谷はまた難色を示していた。

「あっちもセンターがいるのにアイテム装備したな」

「闘真君みたいにセンターのモンスターが動くんじゃないの?」

「そいつはどうかな……さっきはモンスターをドロップゾーンに置く事でセンターを空けたが、あの大型モンスターだとそれは考えにくい」

「多分、さっきまでいた闘真君のところの赤いドラゴンみたいに場所を移すんだと思う……?」

 汐は推測を口にする。先の一戦で見せた闘真の戦法を思い浮かべてみたが、実際その能力を持っているかどうか分からないから疑問形となってしまった。

「うーん、その赤い竜がどういう能力を持っているのか分からないからな……どうなるんだろうな?」

 二人はその答えを少女へと求める。

 

――――――――

 

「このままアタックフェイズに入るわ! まず爆散甲エンマでファイターにアタック! 爆散甲エンマは私のセンターにサイズ3のモンスターがいても攻撃できて……なおかつこのカード1枚で攻撃しているなら無効化されない!」

 と言って、少女は武神の背中を借りて飛び上がり、上空から右拳を叩き付ける。

 闘真はその少女の攻撃に合わせて、ドラゴエンペラーを頭上へ掲げて盾として構えた。

「へへっ、上等だぜ! 受け止めてやらぁ!!」闘真のライフ:7→5

 金属と金属がぶつかり合った事により甲高い音が響き渡る。闘真の腕には少女の体重分と上空からの落下スピードを合わせた衝撃が伝わった。

 骨が軋む音が聞こえ、痛みや痺れで腕が悲鳴を上げるものの苦しげな唸り声を上げては歯を食いしばって耐える。

 しかし、それでも口元は吊り上げたままで少女から視線を外さない。

 少女の瞳には恐怖の色が見え隠れするが、それ以上に歓喜や楽しさが上回っている事が認められる。

 楽しんでいるなぁ……強えなぁ……と闘真はさらに笑顔となり、相手の攻撃を弾き返した。 

 どういう形であれ、強いファイターと対戦できるのは願ってもみない好機。とことん楽しまなければ、意味がないだろう。

「さぁ、次だ! もっと来やがれ!」

 そう煽り立てる闘真。それに応じてかドラゴエンペラーもさらに輝きを増す。

「言われなくとも……デュエルズィーガーでファイターにアタック!」

 デュエルズィーガーは勢いよく飛び出し右腕を振り上げ、闘真に向かって鋭く振り下ろした。

 風を切り、唸りを上げた拳……直撃すれば、ひとたまりもないだろう。

「キャスト、『ドラゴンシールド 青竜の盾』! その攻撃を無効化して、俺のゲージを+1だ!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→4

 

 武神の鉄拳は青い竜の頭部をモチーフにした盾と衝突し、鈍い音を響かせる。

 盾は砕けなかったものの拳の威力は計り知れないものだと証明しているようにも聞こえた。だが、武神は止まらない。

「なら、デュエルズィーガーをもう一回スタンドさせて、今度はライトのジャハマダルに攻撃よ!」

 少女に指示に合わせて、デュエルズィーガーは標的を変更した。

 両腕に名前の由来元であるジャハマダルを装備した緑竜に対し、先程と同じように拳を振り下ろす。

「【対抗】はねぇ……破壊されるぜ」

 闘真の一言により、ジャハマダルの運命は決まった。その身で武神の一撃を受け、破壊される。

 

 闘真のライト:ジャハマダル 撃破!

 ドロップ(武装騎竜の種類):2→3

 

「これで私のターンは終了よ」

 少女が言い終わると同時にデュエルズィーガーは彼女を守るかのように立ちはだかった。

 

 少女の手札:3/ゲージ:4/ライフ:6/少女:爆散甲 エンマ/センター:デュエルズィーガー

 

「へへっ、大分やべえな……ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:4→5

 

「全くだ……今のでかなりライフ削られたからな。手札もないし、手立てはあるのか?」

 相棒に問われ、闘真は状況を確認する。手札もライフもギリギリな状況……しかし、闘志は消え失せる事なく燃え続け、笑みを絶やさない。

「へへっ、あるに決まってんだろ……お楽しみはこれからだぜ!」

「だろうな。頼むぞ、闘真」

「任せとけって……キャスト、『D・Rシステム』を設置! そして、『ブーメラン・ドラゴン』をライトにコールだ!」

 闘真の手札:3→1/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ブーメラン・ドラゴン/設置:D・Rシステム

 闘真のライト:ブーメラン・ドラゴン/サイズ0/攻防2000/打撃1

 

 闘真のライトにはブーメランに似た形をしている竜が現れる。「ブーメラン、ぶった斬る」と言葉を発しながら、その時を待っているかように闘気を滾らせていた。

「まだまだこれで終わらねえぜ、キャスト『ドラゴニック・グリモ』! 俺の手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

 ここで相棒を引かなければ敗色が濃くなるなと思いながら、デッキからカードを3枚引く。その中には望んでいた1枚が含まれていた。

「へへっ、相棒……出番だぜ! 『超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン』をゲージ3払って、レフトにバディコールだ!」

「待ちくたびれたぜ! 神だろうが竜王だろうが、叩き潰してやる!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:5→2/ライフ:5→6

 闘真のレフト:超武装騎竜 ザンバソード・ドラゴン/サイズ3/攻10000/防6000/打撃3/[貫通]

 

 開始からずっと隣にいたザンバソードが闘真の左手前へと出る。人より大きい体躯とその身丈の程の大きさを誇る大剣が、デュエルズィーガーにも負けず劣らずの存在感を放つ。

 デュエルズィーガー程ではないものの彼もまた幾多の死闘を乗り越えたもの……武神を前にしても不敵な笑みと激しい闘争心は消えない。

「っし、アタックフェイズ入るぜ!」

「なら、キャスト『臥竜嘗胆』! 次受けるダメージを3減らすわ!」少女の手札:3→2

 ザンバソードの能力に警戒したのか、少女はダメージを減らす能力のカードを使用する。これならば、[貫通]によるダメージは軽減できる……丁度減らせる上限とザンバソードの打撃力が一緒の為、実質ダメージはない。

 しかし、その魔法を使われた瞬間、闘真の中で違和感が芽生える。おかしくはない判断だと思うが、それは少女のスタイルと違う気がした。

 センターを無視するモンスターやアイテム対策に入れているだろうし、デュエルズィーガーにある奥の手を使う際に[貫通]によるダメージは避けたいだろう。

 闘真は何でこんなところに引っかかっているのか分からないまま次の行動を言う。

「マジか……そんでも、相棒頼むぜ! ザンバソードでデュエルズィーガーにアタックだ!」

「任しとけ、叩き潰してやる!」

 ザンバソードは肉薄し、その大剣を振るう。彼の並外れた膂力により繰り出される一閃は、重量武器を扱っているとは思えない程に軽やか。しかし、その重みは本物だ。

「ソウルガー」

「させねえよ! 俺だけで攻撃している時は、俺とバトルしているモンスターの能力は全て無効化するんだッ!」

「でしょうね……そんな気がしていたわ。破壊されるわね」

 少女は現実を冷静に受け止め、結末をじっと見つめる。双眸に密かな後悔と恐怖の色を織り交ぜながら。

 その瞳に気づいた闘真は違和感が確信へと変わる。やはり、これは本来の彼女のスタイルではないと……何かに恐れ逃げているだと。

 闘真と少女の視線をよそにザンバソードとデュエルズィーガーは激しく競り合う。ザンバソードの猛烈な剣撃を前にデュエルズィーガーは巨大な体に見合わない軽々しい身のこなしで躱していくが、一瞬の間隙を縫われしまい強撃をまともに受け倒されてしまった。

 

 少女のライフ:6→?/センター:デュエルズィーガー 撃破!

 

「……でも、まだ終わらないわ。手札の『デュエルズィーガー“スパルタンド”』の効果を使い、[ライフリンク]を無効化してドロップゾーンのデュエルズィーガーをソウルに入れ、ゲージ3を払い」

「センターにコールすんな!」

「はぁ?」

 突如、声を荒げる闘真。対する少女は訝しげな表情を浮かべていた。観戦している汐も切谷も困惑の表情で彼を見ている。

 視線が一挙に集まったものの、お構いなしに闘真は言葉を続けた。

「お前、それが本来のファイトスタイルじゃねえだろ?」

「……別に今回はたまたまこうなっただけよ。第一、エンシェントワールドの基本的な戦い方は大型モンスターをセンターに置いて戦うの、あなただって分かっているでしょ?」

「そんでも、それがお前の戦い方だって言い切れるのか?」

「馬鹿馬鹿しい、何かと思えば……確かにあなたの言う通り、今はセンターにモンスターを置かない方が良いかもしれないけれど、その前にあなたを叩き潰せば良いだけの話だわ」

 少女は一呼吸した後に「センターにコールする」と宣言し、彼女の目の前には武神竜王が新たなる姿で再び現れる。しかし、デュエルズィーガーは後ろにいる少女へ向けてどこか寂しそうな視線を送っていた。

 

 少女の手札:2→1/ゲージ:4→1/ライフ:6→6/センター:デュエルズィーガー“スパルタンド”(ソウル:1)

 少女のセンター:デュエルズィーガー“スパルタンド”/サイズ3/攻防8000/打撃3/[2回攻撃]/[ソウルガード]/[ライフリンク5]

 

「んなら、俺とブーメラン・ドラゴンでセンターにアタックだ!」

 躊躇う時間はなく、闘真は飛び出してドラゴエンペラーを振るう。神を倒そうと意気込んでいるのか、いつにも増して剣撃は荒々しい。

 そんな彼の援護をするようにザンバソードにぶん投げられ、高速で回転しながらブーメラン・ドラゴンが飛来する。

「ソウルガードよ」

 少女は手元にある1枚を確認すると、ソウルガードを選択した。苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて。

 その間、スパルタンドがブーメラン・ドラゴンに気に取られている隙に闘真は高く跳び上がり、片刃の大剣をスパルタンドの頭上へと振り下ろした。刃は闘真の闘志に呼応して、煌めきを放つ。

 闘真の一振りに対し、スパルタンドは咄嗟に左腕を掲げて上段を守る。腕一本が切り落とされた。

 

 少女のセンター:スパルタンド(ソウル:1→0)

 

「ブーメラン・ドラゴンの能力で、バトル終了時にブーメラン・ドラゴンを手札を戻す。そして、俺の場のモンスターが手札に戻ったからD・Rシステムの効果でゲージ+1!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:2→3/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

 闘真はファイターエリアに戻り、ブーメラン・ドラゴンを受け止める。ブーメラン・ドラゴンは光となって、闘真の手札へと収まった。

 それを見届けると闘真は眼前の武神を睨みつける。このターンに倒しきれなかった以上、返しのターンがより激しいものになると予想しながら。

「俺のターンはこれで終わりだ」

 闘真の手札:3/ゲージ:3/ライフ:6/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ザンバソード

 

「私のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 少女の手札:1→2/ゲージ:1→2

 

「キャスト、天竜開闢! ライフ2払って、カードを2枚ドロー!」

 少女の手札:2→1→3/ライフ:6→4

 

 少女は自分のゲージを確認する。この枚数では足りないと判断し、すぐさま魔法を使用した。

「そして、キャスト、竜枯盛衰! もう一度ライフ2払って、今度はゲージ+4!」

 少女の手札:3→2/ゲージ:2→6/ライフ:4→2

 

――――――――

 

 メインフェイズを飛ばさず、プレーする少女に汐は頭に疑問符を浮かべる。察した切谷が「どうした?」と投げかけた。

「だって、このまま攻撃すれば、闘真君のライフは0になるのに……」

「念には念をって事だろう。勝利が目前となっている時ほど、より入念に仕込んで確実に仕留めければならない……まだ闘真の手札が残っているからな」

「そっか、そうだよね……まだ終わっていないもんね」

 汐の瞳はいつまでも楽しそうに笑っている闘真を映していた。どうして、いつもは不機嫌そうなのに、バディファイトの時だけ笑っていられるのか……汐はただただ不思議で仕方がなかった。

 

――――――――

 

「キャスト、竜王伝でゲージ+1、ライフ+1、カードを1枚ドローするわ」

 少女の手札:2→1→2/ゲージ:6→7/ライフ:2→3

 

 準備を整えると少女は目を閉じ、一呼吸を置く。瞼の裏には辺り一面が炎で焼き尽くされ、黒い翼を持ったモンスターと男がこちらを見て嗤っている光景が浮かぶ。

 それを振り払うかように目を開き、覿面にいる闘真を睨み付けた。恐怖がこびりついて取れない。

「アタックフェイズに行くわ! まずは爆散甲エンマでファイターにアタック!」

「かかってこい! ぐうぅぅぅ!」闘真のライフ:6→4

 鋼と鋼が激しくぶつかり合い、火花を散らす。少女の拳が重く響く。

 闘真は体全身でドラゴエンペラーを支え、受け止めた。笑顔は保ったままだが腕は酷く痺れ、感覚が鈍い。

「どうして、あなたはいつも笑っていられるの?」

 あまりにも闘真の表情が変わらないことに鼻白んだ少女は、思わず問いかける。

 その問いに闘真は、鋭い犬歯を覗かせたまま「決まってんだろ、楽しいからだ!」と声高く告げた。

 彼の心中はいつだって変わらない。どんな状況でもファイトを楽しむ――それが闘真の最適解。

「あなた……本当に変わっているわね」

 呆れたようにため息を吐くと、少女はファイターエリアへと後退する。そして、「今度こそ、トドメを刺してあげる。スパルタンドでファイターにアタックよ!」彼女のセンターを守る武神に命令を下す。

 スパルタンドは先程よりも勢いを増して突進。再び唸りが聞こえる。拳が風を纏っているかのようだ。

「キャスト、青竜の盾! 攻撃を無効化してゲージを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:3→4

 

 鈍重な響きが闘真達の耳朶を打つ。闘真が呼び出した盾でなかったら、きっとその拳を止める事ができなかっただろう。

 けれど、それで安堵できるものではない。これで相手に選択肢が増えた――ザンバソードを倒すか闘真のライフを削るかの果たしてどちらだろうか。

 闘真は笑っていながらも少女の一挙一手に眼光を光らせ注視。彼女の選ぶ選択、その裡を見つめていた。

「一つ聞くけど、あなたは怖くないの?」

「何がだ?」

「このファイトの事……あなた、自分の命が晒されているのよ?」

 一方の少女は闘真から薄気味悪さを感じていた。身を削っても尚、何故笑っていられるか不思議でしかない。

 自分はまだ過去の炎がその場焼き尽くさんとばかりに蘇ってくるのに、彼からは一切恐怖を感じられないのだ。

 闘真に恐怖の感情がないのか――いや、人間誰しもが抱く感情がそうそう欠落している訳がないはず。

 なのに、どうしてもそう思わざるを得ない。少女は内なる恐怖を意識していた。

「それ、さっきも言ったぜ? 楽しいからだ」

「命が晒される事が?」

「違う。バディファイトがだ。お前だって、楽しそうにしてんだろ……顔、ずっと笑っているぜ?」

「え……?」

 自分では気付かなかったのか、少女は目を見開き、指の腹で口元を触れる。初めて自分の顔の筋肉を意識し、明らかに笑っていたような使い方をしていた事を自覚する。

 まさか、楽しんでいたなんて――少女の口から漏れた言葉。とても自身を信じられなかったのだろう。

「さっき俺に攻撃した時なんて、すげぇ楽しそうだったぜ。やっとバディファイトができるってよ」

 本当に楽しそうに語る闘真。彼は彼女の詳しい身の上は知らない。けれど、少女の思いを感じ取り、その思いに応えようといつも通り楽しんでいた。

「……あなた、エスパー?」

「まさか、俺がそんな器用な事ができると思っているのか?」

「いいえ、そんな気はしないわね」

 ただ話していて不思議とこびりついていた恐怖が消えていた。その言葉を心中にしまい、少女は楽しそうに笑って言う。「ファイトを続けるわよ。スパルタンドで……ザンバソードにアタック!」本来の調子に戻った彼女に歓喜したのか、スパルタンドの咆哮がより一層空気を震わす。

 そして、スパルタンドはザンバソードの元へ再び駛走すると、何もかもを打ち砕く鉄拳を振り下ろす。

「すまねぇ、ザンバソード。手札がない」

「気にするな。また戻ってくるさ」

 肉を打つ、重々しい響きが広がる。ザンバソードはその身で武神の鉄拳を受け止め、膝から崩れ落ちては光となって消滅した。

 

 闘真のレフト:ザンバソード 撃破!

 

「私のターンはこれで終わりよ」

 少女の手札:2/ゲージ:7/ライフ:3/少女:爆散甲 エンマ/センター:スパルタンド

 

――――――――

 

「マズイな……主軸が消えたぞ」

 先程のプレイを見て、切谷は苦々しく呟く。ザンバソードを失った闘真は、手札にあるブーメラン・ドラゴンしか戦力がない。

 もちろん、これからの彼のドローフェイズで変わる。だが、現状のままだと倒し切っても少女が次の一手を用意していない訳がないから、苦しいのは火を見るよりも明らか。

「闘真君、頑張れ」

 切谷の呟きをよそに汐は闘真を応援する。その声は小さく、彼の耳に届いているかは不明だが、ただ真っ直ぐでしっかりとしていた。彼ならきっと勝てる――そんな予感を含みながら。

 

――――――――

 

「へへっ、マジで楽しくなってきた! ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:4→5

 

 引いたカードを見る。一番見慣れた姿がそこにあった。「超特急で来やがったな」また楽しそうに笑う。

「ザンバソードをライトにゲージ3払ってコールだ! そして、ブーメラン・ドラゴンもレフトにコール!」

 闘真の手札:3→1/ゲージ:5→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン/ライト;ザンバソード/設置:D・R・システム

 

「不死鳥ならぬ不死竜ってな……まぁ、少し違うが」

 軽い調子でザンバソードは再び戦場へ立つ。決して挫けぬ闘志を青い双眸に宿している。

「すぐ復活したから、そう名乗っても問題ないぞ。キャスト、ドラゴニック・グリモ! 手札を全て捨てて、カードを3枚ドロー!」

 闘真の手札:1→0→3

 

「不死竜に関しては遠慮しておく。俺は不死身じゃないからな」

「何だよ、二つ名みてえでカッケェじゃん。まぁ、お前がそう言うなら、俺がどうこう言える事じゃねえな」

 軽口を叩き終わった後、闘真は目前のスパルタンドと少女を見つめ、「行くぜ、アタックフェイズだ!」獰猛な笑みでドラゴエンペラーの柄を両手で握りしめる。

「俺とブーメラン・ドラゴンでセンターのスパルタンドにアタック!」

「そぉれ! 行って来い!!」

「ブーメラン、ぶった切るッ!!」

 猛烈なスピードでスパルタンドへ肉薄するブーメラン・ドラゴン。躱す間も与えず、武神の肉を抉る。

 間隙を縫って、闘真が跳躍し、ドラゴエンペラーを振り下ろした。何の変哲もない一振りだが、片刃の大剣は闘真の闘志に呼応して強い輝きを放つ。その輝きは武神を視界を奪うには十分。

「対抗はないわ」

 少女の宣言が届く頃――ドラゴエンペラーの刃がスパルタンドの肉を裂いては骨を断ち、頭から足元へと一気に両断する。闘真の足が地に着いた時にはスパルタンドの体は二つに分かれ、光となった。

 

 少女のライフ:3→?/センター:スパルタンド 撃破!

 

 闘真は武神の最期を見届けると速やかにファイターエリアに戻り、ブーメラン・ドラゴンを受け止める。ブーメラン・ドラゴンは手札に戻り、D・R・システムの効果により闘真のゲージが1枚増えた。

 

 闘真の手札:3→4/ゲージ:2→3/レフト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「まだ終わんねえだろ?」

 獰猛な笑みはそのままに闘真は少女に問いかける。少女も彼に負けず劣らずの不敵な笑みを浮かべて答えた。

「ええ……まだ終わらないわ! スパルタンドのライフリンクを無効化して、『デュエルズィーガー“Dark Side”』をゲージ3払って、ライトにコール!」

 少女の手札:2→1/ゲージ:7→4/ライフ:3→3/少女:爆散甲 エンマ/ライト:デュエルズィーガー“Dark Side”

 

デュエルズィーガー“Dark Side”

エンシェントワールド

種類:モンスター 属性:ドラゴンロード

サイズ3/攻10000/防10000/打撃3

■[コールコスト]君の場の「デュエルズィーガー“スパルタンド”」が破壊された時、「デュエルズィーガー“スパルタンド”」の『ライフリンク』を無効化し、ゲージ3を払う。

■【対抗】“狂いし竜王の咆哮!”君のアタックフェイズ中、相手のセンターにモンスターがいないとき、ゲージ1を払い、君の手札1枚を捨ててよい。そうしたら、相手のレフトかライトのモンスター1枚を相手のセンターに置く。「狂いし竜王の咆哮!」は1ターンに1回だけ使える。

[貫通]/[3回攻撃]/[ライフリンク即死]

 

 光は少女の右手側へ移動し、禍々しいオーラを纏ったデュエルズィーガーとなって三度立ちはだかる。禍々しいオーラを纏っているのにも関わらず、神々しさは相変わらず見る者を圧倒させる。

「へへっ、やっぱりあったか。ザンバソードでも良かったかもな」

「でしょうね。でも、私にそれを防げる手段があるとしたら……」

 ザンバソードの能力は便利だが、単体での攻撃を条件としている。ほとんどのワールドには、センターが塞がっても連携攻撃でなければ防御できるカードがある……その事を考えたら、闘真が取った行動は比較的堅実と言えよう。

「まぁ、どう転がっていたかは分かんねえな。だけど、このターンで終わらせるぜ! ザンバソードでファイターにアタックだ!」

「さぁ、こいつでトドメだ!」

 ザンバソードの大剣が少女を叩き潰そうとばかりに迫りくる。しかし、少女は余裕の笑みを浮かべた。

「キャスト、『竜意周到』! 攻撃を無効化するわ!」少女の手札:1→0

 少女を守るかのように突風がザンバソードの大剣を止める。「ぐうぅ、これ以上は振り下ろせん!」ザンバソードの身丈ほどある大剣が押し返された。

「やるな! だが、次は叩き込む!」

 大剣を引き付け、体勢を整えるザンバソード。瞳には僅かながら悔しさを滲ませていた。

「へへっ、ターンエンドだぜ」

 闘真の手札:4/ゲージ:3/ライフ:4/闘真:ドラゴエンペラー/ライト:ザンバソード/設置:D・R・システム

 

「私のターンね。ドロー、チャージ&ドロー!」

 少女の手札:0→1/ゲージ:4→5

 

「このターンで決めるわ……!」

 手札を見て少女の目つきが鋭くなる。もう後には引けない状況だからこそ、確実に倒すという決意を瞳に宿す。

「行くわ、アタックフェイズ! 爆散甲エンマでファイターにアタック!」

 果敢に少女は闘真へと迫る。何物にも防げない炎の鉄拳を彼の胴体を捉えようと突き出していく。

 けれど、拳は闘真に届かず、彼の得物と激突し火花を散らす。

「へへっ、防げないなら受けるまでよ! キャスト、『ドラゴ根性!』! 俺に1ダメージを与える代わりに、俺のライフを+3だ! うおおおおおお!!」

 闘真の手札:4→3/ライフ:4→3→5→3

 

 ドラゴエンペラーの輝きが増し、闘真にさらなる力を与える。そして、闘真は少女の拳を弾き返した。

「やるわね。でも、まだ終わらないわ! 今度はデュエルズィーガー“Dark Side”でファイターにアタック!」

 筋骨逞しいデュエルズィーガー“Dark Side”は、巨躯を持て余すことなく自在に操り、鈍重とは程遠い動きで肉薄する。

「さらにデュエルズィーガー“Dark Side”の効果を発動! ゲージ1払い、手札1枚を捨てて、ザンバソードを相手のセンターに変更よ!」

 少女の手札:1→0/ゲージ:5→4

 

「くっ、そう来るか!」

 闇に狂いし武神の咆哮が、ザンバソードがいたところを揺るがし、足場を脆くさせる。

 足場の崩壊を察知したザンバソードは素早く飛び退き、闘真の目の前と立つ。

「へへっ、面白れぇ!」

 デュエルズィーガー“Dark Side”の能力を目の当たりにしても尚、闘真の態度に変化はない。

 一方のザンバソードは苦々しい表情を浮かべる。自分がいることで闘真の防御手段を潰したのも当然、それに向こうが[貫通]を持っていない訳がないだろうと推察しているから余計に無力感に苛まれているのだ。

「すまん、闘真。俺では盾にはなりそうもない」

「気にすんなよ、そうなっちまったのは俺の責任だ」

 闘真の口から「責任」という言葉が出てきたこと自体に驚き、ザンバソードは振り返る。

 そこにはいつも通りに笑っている闘真の姿があった。

「反省会は後回しだ。まだ終わっちゃいねえからよ」

「そうだな、その通りだ」

 ザンバソードは正面を見据え、迫る武神の拳を捌こうと体勢を整える。武神の拳は咆哮と違えない程に唸りを発し、何もかもを破壊しようという気迫に満ち足りていた。

 それをザンバソードは自身が持つ大剣を用いて、一度二度は捌く。しかし、さらに速度を上げていく連打に対応しきれず、大剣は砕かれ自身も滅多打ちにされてしまう。

 たたらを踏んで後退した隙に、闇を纏った武神の右拳がザンバソードの胴体を貫いた。拳は後ろにいる闘真にも届く。

 だが、ドラゴエンペラーの力により、勢いは削がれてしまい本来の威力が伝わらなかった。

「できるだけ、反省会を始める時間を遅くしてくれよ……」

「分かっているって、後は任せろ!」

 闘真の返答にザンバソードは満足そうに微笑み頷くとその身は光となって消失した。

 

 闘真のライフ:3→1/レフト:ザンバソード 撃破!

 

「あなたの主力もこれで消えた……後はトドメを刺すだけね」

 どこか名残惜しそうな調子で呟く少女。少しだけ前を向けて、久々に楽しめたファイトだからこそ、終わらすのは物寂しいとも言いたげだ。

「さぁ、来いよ……まだ終わっちゃいねえぜ?」

 逆境になったとしても獰猛な笑みを絶やさない闘真に少女は安堵した。もし彼でなければ、次の行動は移せなかったのではないかと思うほど。

「でも、これで終わらすわ! デュエルズィーガー“Dark Side”でトドメ!」

 少女の高らかな宣言に合わせてデュエルズィーガー“Dark Side”は再び拳を振り上げ、闘真めがけて叩き付ける。

 が、肉を打つ重々しい響きではなく、金属がぶつかる鈍い音が耳朶を打った。

「キャスト、青竜の盾! 攻撃を無効化にして、俺のゲージを+1!」

 闘真の手札:3→2/ゲージ:4→5

 

「まだよ! もう一度、デュエルズィーガー“Dark Side”でアタック!」

 少女の何としてでも打ち倒そうという気迫が、デュエルズィーガー“Dark Side”に伝播し、拳が風を置き去りにして下から上へと突き上げられる。

 ドラゴエンペラーを盾にしたとは言え、威力は先程よりも上がっており、闘真の体が浮き上がっては遠くへ飛ばされていく。

 闘真が次に認知できたのは背中から叩きつけられる衝撃だ。

 肺から空気が漏れ呼吸が一瞬止まり、ドラゴエンペラーを手放す。

 両腕は先程から受け続けていたダメージの蓄積から、もはや使い物にならないと言って良いほど動かせない。

 視界もぼんやりとした色彩しか捉えられないでいる。万事休す――そう思う人間は多数だろう。

「闘真君!」

 汐の声が耳に入る。とてもハッキリと。それにより、遠のきそうな意識は戻って視界も晴れる。

「立ちなさい! あなたには、まだ“手”が残っているでしょ!」

 続いて対戦相手である少女の声で上体を起こし、状況を確認する。デュエルズィーガー“Dark Side”は元の位置に立っていた。

 覿面の少女の腰辺りから白い煙が……注視すると彼女のデッキケースからその煙が上がっている。――残された時間は、あまりないようだ。

「へへっ、言われなくとも……D・R・システムの能力を発動するぜ! D・R・システムをドロップゾーンに置いて、デッキの上から1枚をドロップゾーンに置く。魔法なら俺のライフは2になって、続行だ」

 そう言うと闘真はゆっくりと立ち上がり、自身の腰にあるデッキケースへと手を伸ばす。

 ファイトに関わっている全員が闘真の挙動に固唾を呑んで見守る。この一枚で全てが決まるからだ。

 彼が引いたカードは――。

「『ドラゴエナジー』だ……つまり、俺のライフは2になるぜ!」

 闘真のライフ:1→0→2/設置:D・R・システム→なし

 

 闘真は口の端をさらに獰猛に吊り上げる。まだ終わらない、終わらせない彼の執念が実った瞬間だ。

 少女もつられて笑う。手札がない以上、自身の敗北は必須。けれど、それでも負の感情は湧き出てこない。

 あるのはファイターとしての純粋な闘志と楽しむ心、それが彼女が持つデッキケースに異常を引きこ起こしたのだ。

「私のターンはこれで終わりよ」

 少女の手札:0/ゲージ:4/ライフ:3/少女:爆散甲 エンマ/ライト:デュエルズィーガー“Dark Side”

 

「俺のターン、ドロー、チャージ&ドロー!」

 闘真の手札:2→3/ゲージ:5→6

 

「レフトにブーメラン・ドラゴンをコールして、そのままアタックフェイズに入るぜ!」

 闘真の手札:3→2/闘真:ドラゴエンペラー/レフト:ブーメラン・ドラゴン

 

 傍らに放置されていたドラゴエンペラーの柄を今持てる力の限りで握って構える。瞳の奥の光はとても強い。

「ブーメラン・ドラゴンでファイターにアタック! おらぁ!」

 ブーメラン・ドラゴンの尾を掴み、右足の爪先を軸に遠心力を利用して投擲。

 流石にザンバソードが投げる時よりも格段に勢いは落ちているが、満身創痍の少年が投げたとは思えないほどの速度で、少女を目指す。

「受けるわ。ぐっ!」少女のライフ:3→2

 少女の右腕と衝突する。弾き飛ばされることはなかったものの、威力は確実に伝わる。炎の手甲は相手の攻撃を防いではくれない。

 そんな少女を尻目にブーメラン・ドラゴンは闘真のところへと戻って行く。けれど、先程の効果でD・R・システムはドロップゾーンに行ってしまった為、ゲージを増やすことはできない。

 

 闘真の手札:2→3/ライト:ブーメラン・ドラゴン→なし

 

「次でトドメだ! ドラゴエンペラーでファイターにアタック!」

 闘真はドラゴエンペラーの柄を両手で握りしめ、少女の元へ疾走。そして、大きく振りかぶる。

 彼の瞳には穏やかに笑う彼女の姿が映っていた。手を止めることなく、銀閃を一直線に振り下ろす。

「これで、良かったのよ……」

 少女の独白と共に彼女のデッキケースは爆散して、カードが飛び散る。

 激しいぶつかり合いを繰り返したファイトは、闘真の一振りにより幕を閉じた――。

 

WINNER:相楽闘真

 

 

 ファイトが終わった直後、少女は片膝をついた。元々意識があったとはいえ、影響を受けていたのだから負担はそれだけあっただろう。少しばかり青ざめている。

「おいおい、大丈夫か、うおっ!」

 闘真もまた膝から力が抜け、尻餅をつく。実体化したモンスターの攻撃をほぼ生身で受け止めていた為、流石に体は限界を迎えていた。顔色に全く変化はないが。

 最初は何故体が言う事を聞かないのか不思議だったのだが、やがてどうでも良くなった。全力を出し切った末でなおかつ楽しめれば問題ないのだから。闘真は笑う。

「何がおかしいのよ?」

 少女が訝しげに闘真を見る。体勢をくずして、いきなり笑い出すものだから、気でも触れたのかとさえ思ってしまう。

「いや、やっぱファイトした後は気持ち良いよな!」

 愉快に喉を鳴らす闘真。相棒のザンバソードはカードから出てくると「それだけボロボロにされたってのによく言うぜ」呆れた様子で見つめる。「そんでも楽しいファイトだったから良いんだよ」穏やかな声音で闘真は返した。

 彼らの言葉を聞いて一瞬の逡巡の後、少女も静かに笑う。「そうね。これだけ大暴れしたからスッキリしたわ」その笑みは清々しい。

「お前ら、大丈夫なのか? 肩貸すぞ?」

「俺は良い。そこの……お前、誰だ?」

「今それ聞く? 名前なら後で名乗るわよ……そちらの方のご厚意ありがたくいただくわ」

「わ、私、カード集めるね!」

 切谷に肩を貸してもらい少女は立ち上がる。そして近くのベンチへと移動して腰掛けた。彼女が一息吐いたところを切谷は彼女の為に大急ぎで水を買って渡す。少女はそれを受け取り、少しばかり飲んで落ち着かせた。

 それを傍目に汐は散らばった少女のカードを拾い集める。闘真も手伝ったおかげか、デッキはすぐさま集まった。

 デッキケースも拾い上げると闘真も立ち上がり、一緒に彼女の元へ歩いてはそれらを手渡す。

「あの……これ」

「ありがとう」

 器用に蓋を締めては右手を端に置き、汐からデッキを受け取った。カードは一目見たところ傷一つ付いていない様子。

 派手に爆散した割にはダメージを与えていなかったようだ。しかし、闘真が手にしている彼女のデッキケースは原型を辛うじて留めているものの機能していない。

「それも一緒に持って行かなきゃね」

「その前にいくつか聞きたい事があるんだが、良いか?」

 少女の左手側に立つ切谷が口を開く。少女自身にもそうだが、彼女のデッキケースにも興味があるらしく先程から交互に見ていた。

「ええ、良いわよ。……と、その前に自己紹介しないとね。私は槙野(まきの)靖雫(せな)、槙野でも靖雫でもどちらでも良いわ」

「俺は切谷勇吾、そこの女の子が鳥田汐で……君は何て言うんだっけ?」

「あん? 俺か? 俺は相楽闘真……良いからさっさと話進めろよ」

「そうだな。んじゃ、改めて靖雫さん……まずそのデッキはどこで手に入れた?」

 自己紹介をした後に本題へと入る。切谷の目は好奇心の色で溢れていた。歪んだ光もまた漏れ出していく。

 笑みもまたどこか邪な思いを含んだものとなっているが、誰も気付かない。

 少女は考え込むように足元を見つめ、やがておもむろに口を開いた。

「白衣を着た目つきの悪い男と偶然会って、そのデッキをもらったの」

 視線の先には闘真が手に持っているデッキケースがある。注視する視線受けて闘真もデッキケースに興味を向けた。

 どこか見た事のあるデッキケース――ようやく闘真は思い出す。先日、ファイトした青年も似たようなデッキケースを持っていた事を。

「ああ、そういやこれ持っていたの、他にもいたな」

「それ本当なの? どう見ても認可品ではないわよ?」

「俺が嘘言うかよ。これと同じやつを持っていたし、ファイトもした」

「証拠という証拠はないが、俺もコイツと一緒に戦ったぞ。今回は面倒事が起きなかったけどな」

 ザンバソードまでもが戦ったという発言に靖雫達はそれ以上疑わず信じる事にした。そもそも闘真が嘘吐くような少年ではないのもあるが。

 しかし、興味はまた生まれる。「面倒事? 何が起きたんだ?」切谷は闘真達に問いかけた。

「まぁ……簡潔に言えば、ファイト終わった後も相手のバディモンスターが暴れたという事だな」

「ほう、モンスターが暴れたねえ。そういえば、この間どこかの施設が壊れたというが……それが原因かもな?」

 にやりと笑う切谷の答えに闘真は肩を竦めるだけ。それは彼の知るところではない。

「話を元に戻そう。それで靖雫さんは男の名前とか覚えているか?」

「名前……駄目ね、そこまで思い出せないわ」

 しばしの思索の後、靖雫は頭を緩く横に振って意を示す。「とりあえず思い出せるのは白衣と目つきが悪かった事、後は身長があなたと同じぐらいで意外と若かったぐらいかしら」切谷に顔を向けて身体的特徴をスラスラと述べた。

 疑われると思ったのか切谷は両手を前に出しては否定するように手を振って、「俺じゃないぞ」と付け足す。

 誰もが彼だとは思っていない。代表して靖雫が「それぐらい分かっているわよ」少し軽い調子で切り返した。

「だって、師匠もバディファイト分からないじゃん。デッキケースを渡すって事はバディファイトに精通しているって事だよね?」

「精通しているかは分からないが、少なくとも俺より知っているな」

 納得したように切谷は頷く。天然というべきかひょうきんというべきか彼の表情は掴み切れない。

 そんな所感を闘真は抱いていた。ファイトしたら面白そうな人間だとも思っていたが。しかし、何やら胸騒ぎがする。

 決して彼とはファイトをするなと裡から囁く。覗いてはいけないものを覗いてしまう事になるぞと。

 ただその声に注意を傾ける事なく現実へと戻る。そして切谷の声に耳を向けた。

「後は、何でそのデッキケースを手に取った?」

 非常に簡単で分かりやすい質問。しかし、それは靖雫の裡をいとも容易く触れてしまっていた。

 靖雫の表情はそこまで大きく変化していないが、先程よりも翳りが濃くなる。左腕の袖を握り締め、彼女は答えた。

「縋ってしまったのよ。そこにある闇が希望だと信じられるぐらいに」

 その言葉は重く響いた。別に靖雫の声が震えている訳でもなく、逆に落ち着いていて穏やかだった。

 けれど、裡に秘めている炎が彼女を彩り、苦しめているという事が言葉に乗ったのだ。

「それであんなに楽しそうだったんだな」

 重い言葉の後に闘真は軽く言ってのける。ファイトした時の彼女の表情は闘真と負けず劣らずに楽しそうな笑みを浮かべていた。もっとも、当の本人は指摘されるまで気付かなかった訳だが。

「そうね……ちょっと前にファイト恐怖症になっちゃって、できなかったのよ。それで今日久々にファイトできたのだから」

 そう言って靖雫は闘真に向けて微笑む。「あなたには感謝ね。とっても楽しいファイトをありがとう」憑き物が落ちたように青の双眸を穏やかに細めた。

「へへっ、それはこっちのセリフだ。俺も楽しかったぜ」

 普段眉間に皺を寄せては常に喧嘩を売って歩いているような少年とは思えぬ穏やかな笑みに全員が面食らう。

 相棒であるザンバソードでさえ目を丸くして凝視していた程だ。とても信じられないという視線が彼に集中する。

「おいこら、てめえら……何でそんな顔するんだよ?」

 すぐさま元の鋭い目つきになり、眉を顰めては頬を歪ませる。これまた心外だったようで、沸点へすぐに到達しようとしていた。

「いや、だって闘真君が変な顔するから……今の顔が闘真君っぽいって感じが」

「てめえ、ぶっ飛ばす!」

 ――しばらく汐と闘真の追いかけっこが続いたのは言うまでもないだろう。もちろん、ザンバソードも切谷も靖雫も止めに入ったが。

 

「ホント……女の子を追いかけ回すって、どういう神経しているのよ」

「うっせぇ、ムカついたからぶっ飛ばすの当たり前だろ」

「その道理自体がおかしいわよ」

 汐達と別れて闘真と靖雫は駅まで歩いていた。日は落ち、微かにオレンジ色を残しながらも辺りは暗くなっている。

 街灯や店内から漏れ出す光で街を彩っていく。スーツ姿の人が昼間よりも増え、もう既に酒気を帯びている者さえいた。

 その間をすり抜け、彼らは先程の事を掘り返しながら歩を進める。

「あ? 道理なんざ無理通せば引っ込むんだろ? それかまかり通すかのどっちかだろ」

「あなたの道理はまかり通しては駄目でしょ。それにしてもあなた、日頃からあの子に暴力振るってないでしょうね?」

「何で会って間もねえのに普段から殴らなくちゃいけねえんだよ」

「初めて会った日に蹴飛ばしただろ……」

 ザンバソードが辟易したように一言を発すると靖雫の切れ長の目が鋭く細められ、静かな怒気が周囲を凍らせんばかりと発せられた。これが並みの人間ならば、小さく悲鳴を上げては体を固まっていただろう。

 だが、闘真は怪訝そうな顔をして「てめえ、余計な事言うなよ」相棒を睥睨した後に、靖雫には「そんな顔すんなよ。蹴っ飛ばしたっつってもそれ一回だけだ」と泰然とした態度で言ってのける。

 一回だけ――それでも汐に暴力を振るった事には変わりないだから、当然靖雫は烈火の如く怒った。

「はぁ!? アンタ、女の子を蹴り飛ばしたの!? 信じられない……アンタ、最低よ!」

「んだよ、別に男だろうが女だろうがムカついたら蹴り飛ばすに決まってんだろ」

「蹴り飛ばす事自体おかしいのよ!!」

 闘真は耳元で怒鳴られて首を傾けては距離を取ろうとし、やがて右耳を指で塞いで軽減する。眉間の皺はさらに深くになり、頬を歪ませていく。何でそんな事で怒られなきゃいけないと辟易していた。自業自得と言えように。

「うるせぇな、近所迷惑だろ」

「それは謝るわ。けど、私の腹の虫が収まらないわよ」

「落ち着けよ。そんなに目くじら立てちゃ、頭の血管切れるぞ」

「これで怒らなきゃ、人間辞めているわよ」

 まだ怒りが収まらない様子で靖雫は闘真を睨めつける。般若のような顔つきでこめかみには青筋すら見えそうなぐらいだ。いつまた義憤が爆発するか分からない。

「まぁ、一応向こうにも許しは得ているんだ……そこまでにしてやってくれ」

 これ以上、説教に時間をかけてはある疑問を解決するのが遠のくと判断してか、ザンバソードは助け舟を出す。「コイツはバディファイト以外だとこうも自分勝手なんだ。そこは認めてくれ」全く相棒をフォローをする気はない。

 しばしの沈黙の後、靖雫は「分かったわよ」と手を引いた。まだ納得していないと顔に書いているものの、先程の問答を通して闘真がどのような人物か理解したようだ。「あなたも大変ね」同情の声音で言う。

「まぁな……それよりも何で汐の事を?」

「あ、いやあの子の顔とか手とかに痣があったから……もしかしたらと思ってね」

 先程打って変わって遠くを見るような目つきに変わる。自分とは境遇は違うのだが、少しばかり気にしているようだ。

 しかし、その話題に興味がない闘真は胡乱げに彼女を見つめるだけ。話に乗る気はない様子。

「ああ、確かにな。切り出して良いのか分からないもので、触れなかったが……」

 汐の身辺を少しばかり知っているザンバソードは指の腹を顎に添えて考え込む。いじめ、だけでは少し足りないぐらいと思う。しかし、それ以上は推測の域を出ない。余計な推測は混乱を招くのみ。

「それ以上は言えないわね。赤の他人、それも今日会ったばかりの私なんかが不用意に踏み込む問題ではないと思うわ」

 靖雫も分かっていたのか、本当にそれ以上は言及しなかった。無論、会って日が浅いザンバソードも同意して何も言わない。闘真に至っては元々話す気すらなかったが。

 それからしばらく無言の間が流れる。気まずさというものはなく、元々あったかような静けさだけがあった。

 だが、その沈黙も間もなく破られる。唐突に靖雫が口を開いた。

「……あなただけに昔話をしてあげる」

 何故、突然そう言ったかは闘真は分からないし、聞きもしない。喋るなら勝手に喋っていろと言わんばかりに一瞥し、顎をしゃくって続きを促した。興味がなければ、聞き流すだけだから。

 靖雫も闘真の反応に期待していた訳ではなく、まるで自分の中に燻るものを落ち着かせようとしているかのように一人で話し続けた。

「青い鳥は憧れていたの、全てを焼き尽くす強者に……強さが全てだと、それが正しい道だと信じて羽ばたいていた」

 淡々と語られる昔話。少し興味が湧いたのか、闘真は靖雫の方へ目を向けた。彼女は至って平然としている。

「だけど、黒い鳥が生み出す炎に焼かれ、青い鳥は羽を失い飛べなくなったの……そして自分を見失った」

「……その黒い鳥は青い鳥が憧れた者と一緒だったのか?」

 静かに闘真が尋ねる。特別興味があった訳ではないが、思うところがあり少しばかり興味を向けていた。

 強さとは何か、それは何のゲームをするにしても付きまとう永遠の課題。それ故にか、彼の目はいつになく真剣だった。

「分からない。ただ言えるのは、それもまた強くて……失うものが多かったというだけよ」

「それが強さを求めた鳥の末路か」

「そうね。鳥は空を飛ぶ事に恐怖すらしてしまい、結局底の見えない暗い希望に縋ったのよ」

 彼女が言い切る頃に駅が目の前に見えた。ここで二人は別れる事となる。

「んじゃ、俺はこのまま帰るわ」

「ええ、迷子にならないようにね」

「うっせぇ、余計なお世話だ。……お前はこれからバディポリスに行くんだよな? 開いているのか?」

「開いてなければ電話で無理やり話を入れるわよ。それで出なきゃ、出るまでかけてやるわ」

 先程、闘真をたしなめた人物とは思えぬ発言。靖雫は何食わぬ顔で腰に再度取り付けたデッキケースを軽く拳で叩く。

 そしてシニカルな笑みを浮かべて、さらに言葉を継いだ。

「こんな物、いつまでも持っている訳にはいかないもの」

 闘真も笑って頷く。「その通りだな」愉快げに喉を鳴らし、彼女の発した言葉を楽しんでいた。

「じゃ、またどこかで会いましょう」

 踵を返した靖雫の背中に「ああ、またどっかでな」と告げると闘真も駅構内へと歩み出す。

 泰然としているが、頭の中では靖雫との話が回想されていた。昔話、汐の事、これらは闘真の中で引っかかっている。

 強さを求めて走る先は破滅かそれとも――。それらが何故か一人の男に繋がっていく。

「……んな事、あり得るかよ……」

 否定の言葉を口の中で呟くが、疑惑は拭い切れていなかった。

 

 

 一方、汐と切谷は暗い夜道を進んでいく。いつになく上機嫌な汐に切谷もまた微笑ましさを感じていた。

「それだけ闘真君に会えたのが嬉しいのか?」

「うん! あ……でも、また教えてもらえなかった」

 先程の上機嫌が嘘のように消え失せ、眉尻を下げて肩を落とす。せっかく会えたのに約束が果たせなかった――その事が心残りでしかない。

 そんな様子に切谷は口の端を緩やかに上げ、穏やかな声音で彼女をなだめる。

「そう気落ちするな。また会った時に教えてもらえば良いさ」

「そうだね。次会う時が楽しみだなぁ……」

 本を胸に抱いて、汐はまた出会う時の事を想像した。きっと目を輝かせてルールを教えてくれるに違いない。そんな闘真の姿を見るのが好きなのだ。本当に好きなんだなと感じさせる熱意は本に通じるものがある。

「そういえば、今日はご両親どうしているんだ? 帰り遅いのか?」

 話題を切り替えて、切谷は汐の身辺を聞く。顔は笑っているが、目が笑っていない。普段の彼らしからぬ冷たさがそこにあった。

「うん、今日は遅いかな。でも、そろそろ帰らないとご飯準備できないから」

 彼の目には気付かず、汐はそのまま答える。少しばかり声が強張っていた。彼女にとって両親はそのような存在だと察せられる。恐怖の対象そのものだ。

「そうか、なら丁度良かったな」

 そう言って切谷は覿面にそびえ立つマンションの一室を見つめる。視線の先は汐が住んでいる部屋の玄関ドアだ。

 残念ながら彼らがいる所からでは人がいるのかいなのかは分からない。ただ誰もいない事を願うばかり。

「じゃ、師匠、またね!」

「ああ、またな」

 マンションのエントランスへ入ろうと駆け出す汐だが、扉の少し手前で足を止めて振り返る。どこか申し訳なさそうに笑みを浮かべて切谷に向かって言った。

「……実はね、私、今日誕生日だったんだ」

 切谷はその事に驚き、目を丸くして返した。「そうだったのか」一切何も聞かされていないとはいえ、少し後悔が生まれる。もう少しだけ彼女に楽しい思いをさせれば良かったと。

「凄く楽しかった。師匠もいたし、闘真君もいたし、バディファイトの事を少し知れて」

 察したのか察していないのか汐は屈託のない笑みで今日の事を述べる。少しでも自分を受け入れてくれる人が近くにいて、小さな目標にも少しでも近づけた――今の彼女にとって、それほど幸せな事はないだろう。

「そうか、それなら良かったな。また今度改めて祝うよ」

「良いよ、そんな事しなくても。じゃ、またね!」

 踵を返して汐は遠くへ行く。切谷はその小さな背を見て、自分の中の幻影を重ねる。いつも自分の身を案じてくれた大切な人の面影を。

「……()()()()()()()()()()()()()()……」

 静かにそれでいて狂気に満ちた笑みで呟く。その言葉は誰の耳に届く事なく、どこかへと消え去った。




 分割するところを見失って、そのまま載せました。
 ぶん殴られる覚悟はできております()

 まぁ、それは置いて……東京編の次回は恐らく大きな局面を迎えると思います。
 予定では4話構成なので、完全に終盤ですね()

 さて、彼らが行く先がどうなるのか、楽しみに待っていただけたら幸いです。

 あ、それといらないかと思いますが、汐のプロフィールも掲載しておきます。

鳥田 汐(とりた うしお)/女性/小6/12歳
容姿:赤茶色のショートヘアーであまり髪の手入れがされておらず、かなりボサボサ。緑色の瞳だが、若干暗い感じの目。顔や腕、体のあちこちに痣がたくさんある。基本的に柄が付いた半袖のTシャツとハーフパンツ、スニーカーで過ごしており、怪我の状況によっては薄手のパーカーを羽織っている。痩せ気味で147cm。
性格:明るく前向きだが、親からの虐待、同級生達からのいじめにより暗い表情をしている事の方が多い。物が壊されたり、貰えなかったりするので必然と物を大事にする為、物持ちが良い。また人との関係性も大事にする為、自分の現状に巻き込まない様に他人を配慮する。
概要:東京に住み、空達と同じ小学校に通う小学6年生。親からの虐待や同級生達からのいじめに耐え抜きながら、日々を過ごしている。初めて来た東京に迷った闘真と偶然出会った事から彼と交流を持つ。また剣術を教えてくれる“師匠”とも仲が良い。


 では、この辺りで筆を休めたいと思います。また感想や活動報告のコメントなどお待ちしております。
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