9/20 タイトルを微妙に変更
「今日、練習どうしよっか」
「今日は休みで良いんじゃないかな?次のライブの予定もまだ無いし、ちょっと休憩しても」
「じゃあ有咲の家でゴロゴロしよう!」
「香澄、私の家を何だと思ってやがる」
お昼休み、ポピパ5人でお弁当を食べながらの会話だ。いつもの場所に陣取っての会話は、授業で疲れた心を癒す清涼剤である。
「有咲、レタスとハンバーグ」
「お前の鮫トレには誰も絶対に乗らねぇ。諦めろ」
「優人は交換してくれたよ?」
「あいつはそうだろうな。そういう奴だもんな」
間違いなく惚れた弱みが関係しているだろう事は、有咲でなくても分かることだった。
ゆえに誰も何も言わないで、ただ苦笑いを浮かべるのみ。
「……話を戻すぞ。今日は練習休みにするとして、放課後は何かするのか?」
「有咲ちゃん、何かしたいの?」
「いや、別にそういう訳じゃねえけど……おたえは?何かしたいとかあるのか?」
「かかっておいでよ」
「は?うわっとと!?」
いきなり喧嘩を売られた有咲は素っ頓狂な声を出して、危うくハンバーグを落としかけた。
「…………間違えた。家においでよ」
「あっぶねぇ……なんでそんな間違えしやがんだ」
もしかして恨みを買っているのだろうか。しかし心当たりは……まさか、さっきの鮫トレを断った事か?いやいやいや、おたえが傍若無人だからって、そんな事は無いはずだ。
そんな有咲の考えなんて露知らず、香澄は瞳を煌めかせて身を乗り出した。
「えっ!今日はおたえの家に行っていいの!?」
「もふもふも良いよ」
「やったー!皆も行こうよ!」
おかわりもあると言わんばかりにモフモフまでさせてくれるという。これは逃す手はないと香澄は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「お菓子とか用意した方が良いかなぁ」
「私も行こうかな。有咲はどうする?」
「……私も行くよ」
「みんな最高のハイって返答だね。ういりぃー」
「……なんか、今日は上機嫌だな。おたえの奴」
「何か良いことあったとか、かなぁ?」
なんだかやけに上機嫌な、おたえを見て疑問符を浮かべるも、特に聞くことでもないと判断。惚気を聞かせられるのはもう勘弁して欲しかった。
「それじゃあ放課後にティータイムで決定。優人も呼ぶけど良いよね」
「待て、その響きは何処か危ない」
とにかく放課後の予定は、おたえの家にティータイムしに行くという事になったのだった。
◇◇
「よーしよし、よーしよしよし……そんなに頭を擦り付けられても、手は2本だけなんだぞお前ら」
ただいま、たえに呼ばれて来た花園家で、21羽のウサギと戯れている最中だ。
…………そう、21羽。1羽だけ新入りが増えたのだ。
「なんでお前は、俺と同じ名前をしてるんだろうな……?」
ロップイヤーのユウト。団十郎もそうだが、たえのネーミングセンスは何故ズレにズレまくるのか。
こいつは俺には似ても似つかぬ甘えん坊。たえの足下に良く陣取っているのを見掛ける。
こいつが増えた事で、たえが俺の話をしているのかウサギの話をしているのかが更に分かりづらくなった。
「よーし、そこのパープル。その助走をつけるのを止めろ。鳩尾ドーンはシャレにならん」
さっきから俺の手から離れる度に助走をつけるパープルを引き寄せてナデナデしていると、キャピキャピした女子高生っぽい一団の声が近付いて来た。
「来たか……はい、今日はここまで。また今度な」
もっとやれと催促してくるウサギを従えて玄関の方に行くと、予想通り来ていたのはポピパの5人だった。
「ただいま」
「おかえりー。香澄達も、ゆっくりしていってな」
「うさぎ、もふってて良い?!」
「お好きなように」
うさぎ達も欲求不満だから、たぶん満足するまで撫でられてくれるだろう。
「よっし、りみりん行こう!」
「う、うん」
「程々になー……じゃあリビングで待ってるか。ついでにお茶とか用意して」
家の中に入って廊下を歩いていると、市ヶ谷さんが持ってた紙袋を渡してきた。
「あ、コレばあちゃんから。みんなで食べろって」
「ああ、ありがと。取り敢えず適当に寛いでてくれ」
「分かった」
「たえはこっちに来い」
たえがソファに寝っ転がろうとしたので、その手を掴んでキッチンに連行する。油断も隙もあったもんじゃない。
紙袋の中は饅頭だった。それを大皿に移している横で、たえは冷蔵庫を覗きながら言った。
「有咲ー、水道水で良い?」
「家に招いて水道水を出す奴なんて初めて見たな」
たえの先制攻撃。いきなり重い一撃だが、この程度なら軽いジャブのようなものだ。
市ヶ谷さんも分かっているのか、特に大きな反応は見せない。ただただ呆れるだけだ。
「あっ、ごめんね有咲。天然水が良かったんだ?」
「まず水から離れろ」
「はい、ひとまず饅頭でも摘んでてくれ」
「ねえ、おたえ大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないだろうけど、俺は何も出来ないからな」
皿をテーブルに置いて、たえがキッチンでゴソゴソと何かやっているのを見つめていた。
「うーん……あ、あったあった。はい」
たえが市ヶ谷さんの前に出したのは粉末タイプのスポーツドリンク……
「違う、そうじゃない。粉末タイプを出せなんて誰も言ってねぇから」
「注文が多いね。ちょっと待ってて」
「いや、注文が多いって……私か?私が変なのか?」
「諦めてくれ。だってそれが、たえだから」
たえはキッチンに戻っていってコップを取り出し、そこに氷を目一杯詰め込んだ。
「……でも、今度はちゃんと伝わったかな」
今日暑いし、と安堵の息を吐く市ヶ谷さん。だけど俺は最後まで目を離さなかった。
やがて、たえはコップを片手に戻って来る。
「はい。氷が欲しかったんだよね」
ドン、と市ヶ谷さんの前に置かれたのは、目一杯の氷が詰め込まれただけのコップ。水の一滴すら入らないのは流石と言う他ない。
「ちげーよ!誰が氷を出せって言ったんだよ!?」
「うっわぁ……清々しいくらい氷だ」
あまりの曲解の仕方に、沙綾ですら顔が引き攣った。
「粉末はダメって事は、固形なら良いって事だよね?」
「そうじゃなくて!麦茶とか無いのかよ?」
「ああ、そういう方向なの?」
「どういう方向だよ。お前の今の反応、方向音痴ってレベルじゃねーぞ」
ちょっと待ってて。と、たえは再びキッチンへ向かう。
会話のドッチボールという表現が相応しいであろう、たえの豪速球をどうにかやり過ごして市ヶ谷さんは今度こそ安心したように肩を落とした。
「ていうか、この氷目一杯のコップも持って行けよ……」
「食えよ、ガリガリとな」
「ええ……?」
市ヶ谷さんはコップを持って、りみに向ける。サッと距離を取られた。続いて沙綾。りみと同様に距離を取られた。
「……香澄、食べるか?」
「食べるー!」
なので市ヶ谷さんが香澄に向けると、喜々として氷を口に含んだ。どうでもいいが、りみと香澄はいつの間に戻って来たのだろう。
少し待っていると、たえが6人分の飲み物をお盆に乗せて戻ってきた。
「おまたせ。むぎ……アイスティーの水割りだよね」
「ツッコミどころが多すぎる!」
バァン!とテーブルを叩いた市ヶ谷さん。抑えきれない感情が見える。
「おま、それ文字通り水増ししただけじゃねーか!しかも何で言い直したんだよ!?素直に麦茶って言えよ!」
「アイスティーの方が、ちょっとオシャレじゃない?」
「だからって麦茶をアイスティーって呼ぶなよな!しかも水割りって……味薄くなるだけだから!」
「塩と胡椒はお好みでどうぞ」
とか言ってるクセに、たえが用意したのは醤油とウスターソースだった。
全員が何も言えない中で、わなわなと震えている市ヶ谷さんは吼えた。
「アイスティーに入れる物じゃねぇだろうがぁ!せめて砂糖を用意しろぉ!!」
「注文が多いね。はい、ブドウ糖」
「糖であれば何でもいいとか思ってるんじゃねーだろうな?!」
ぜー、ぜー、と息を切らしてまでツッコミを続けた有咲に全員から暖かい拍手が送られる。パチパチパチ。
「うーん。この漫才っぽい感じ、流石は市ヶ谷さんだ」
「褒められても、まったく、嬉しく、ねぇ……っ!」
仕方なく麦茶の水割りに手を伸ばした市ヶ谷さん。それが皮切りになって、他のメンバーも微妙な顔して手を伸ばす。
そしてコップを覗き込んでから気がついた。
「……シュワシュワしてる」
「うん。アイ……麦茶の炭酸水割りだからね」
「せめて統一しろ。そして意味不明な割り方をするな」
もう飽きたのか、素直に麦茶呼ばわりした事なんてツッコミを入れる余裕が無いくらい、目の前のソレは存在感を放っていた。
「せめて本物のアイスティーなら、まだ分かるような割り方なのになぁ……」
「沙綾ちゃん。流石にそのフォローは厳しいかも……」
「ありさー。これ、なんか、凄く変」
「香澄が片言になってやがる……だと!?」
全員が微妙な空気を醸し出している中で、たえだけは涼しげに飲んでいた。普段から飲み慣れているのだろうか?
「ぷはぁ〜、この炭酸の音とガスがピョンピョン飛び回る感じが良いよね。確か、炭酸水はウィルキ○ソンを使ってたかな?」
「おたえ、炭酸水の感想しか言ってないよね」
「じゃあ炭酸水単体で飲めよ」
「その発想は無かった。やっぱり有咲は天才だね」
「……本気で言ってるんなら、今後の付き合い方を考えたくなるな」
微妙な空気のまま、麦茶の炭酸水割りを消費する俺達の姿は、大体10分くらい後まで続く事になる。
「で、なんで水増ししたんだ?」
「麦茶の量が少なくて、他の飲み物も切らしてたから仕方なく」
「だから最初に水道水を出そうとしたのか……そういう事情があるなら最初に言えよな」
どこまでも説明不足な、いつものたえであった。
「それでさ、その夢の中で大泥棒と刑事ができちゃった婚してて」
「相変わらず訳わかんない夢見てるな……」
「おたえちゃんらしいといえば、らしいけどね……」
最近見たという、たえの夢の話を聞きながら、のんびりと午後を過ごしていた。
「それでそれで?!その後はどうなったの?」
「おい香澄、あんまり身を乗り出すなって……あっ、やべ」
余所見した一瞬でツルッと、市ヶ谷さんの手から饅頭が滑り落ちる。饅頭がテーブルを転がって床に落ちていくのを全員の目が追った。
「有咲、三秒ルールだよ!」
「え?ああ!」
ガタッと椅子を引いて、素早く饅頭を手に取る。脳内ストップウォッチでは2秒半くらいだったからギリギリセーフか?
「危ない危ない……」
「そういえば、三秒ルールの元って何なんだろう」
「私、知ってる。獅子は我が子を千尋の谷に突き落として、3秒以内に戻ってくればセーフにしたっていうのが元なんでしょ?」
「……言ってておかしいって思わないか?」
たえの中では、獅子はどんな化け物なんだろう。あまりの奇跡的な間違いに思わず感嘆してしまう。
「ネットで調べれば良いんじゃない?」
「そうする程でもないけど気になるんだよねー」
「あ、何か分かる。使ったら負けとは言わないけど、ネット使うのが癪な時とかあるよな」
天然水(常温)のキャップを開けて、たえが出した氷が目一杯のコップに注ぐ。
あの炭酸水割りを消費してから、俺達は口直しに天然水を飲んでいた。
天然水を注いだコップを、たえがりみに渡す傍らで、俺は自分の分も注ぐ。
「はい、りみ」
「ありがとー。相変わらずノールック凄いね」
「それほどでもない」
「なんで優人じゃなくて、おたえがドヤ顔してんだよ」
俺からは見えないが、たえはドヤ顔をしているらしい。なんでさ。
「おたえおたえー。うさぎの数を数えてたら、なんか一匹増えてた!」
「うん。最近増えたんだー、ロップイヤーのユウトが」
「まだ増やすんだ……」
「しかもユウトって……おたえ、どんだけだよ」
庭でウサギと戯れていた香澄が抱えているのが、ロップイヤーのユウト。嬉しそうにぶうぶう鳴いている。
「性格は俺とは似ても似つかない甘えん坊。香澄とは初対面なのに甘えられるのは凄ぇなと思う」
「確かに似ても似つかないな」
「優人は甘えん坊ってタイプじゃないよね」
「…………?ユウトは甘えん坊だよ?」
たえはウサギの事を言っているだろうが、市ヶ谷さんと沙綾は俺の事を言ってるだろう。これは話がこんがらがりそうだ。
「いや、ウサギじゃなくて人の方を言ってるんだからな?」
「ああ、逆にね」
「何が逆になんだよ」
「そうだよね、もふもふだよね」
「誤魔化し下手か!?」
要領を得ない話の流れに、市ヶ谷さんが思わずといった感じでツッコミを入れるのも仕方ない事だった。
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他