4000字を切ったけど、これ以上付け足せなかったから投げます。スナック感覚でCMの合間にでも読んでやって下さい。
朝の花咲川女子学園の教室。まだ人も疎らの、それなりに早い時間。
自分に割り当てられた席で、おたえは無言で机の上にある物と向き合っていた。
「…………」
教室には、おたえの他にまだ人は居ない。そうなる時間を選んだとはいえ、静かな教室は精神統一には持ってこいだった。
目を閉ざし、自分の内側へと意識を向ける。ここから先は、自分自身との戦いだ。
──ついてこれるか?自分の中の自分が嗤う。
「…………っ」
ふっ……と、おたえの意識が教室を離れて宙へと飛び立った。大気圏を超え、太陽のド真ん中を突っ切って、そのまま銀河系さえも飛び越えて──遥か彼方へ。
時間を超え、空間すら超越し、もうこれ精神統一とかいう領域超えてるんじゃないか。そんなツッコミすらを置き去りにしていく。
おたえが、活動時間がインスタントラーメン作れそうな巨人の母星や緑色の10円大魔王が居た星を観光している間に、 飛び越えた銀河系は渦巻いて、やがてそれは1粒の水滴となった。
その水滴は、おたえがアンゴラウサギの居る喫茶店で頼んだ、挽きたてコーヒーの一滴となって水面に滴り落ちる。
一滴が、はごろもフーズ。と聞こえそうな落ち方をした時、おたえはクワッ!と目を見開いた。
「──見えた、水の一滴」
コーヒーだと、ツッコミを入れる者は此処には居ない。
息を張り詰め、いざ尋常に、と意気込んだタイミング。ガラッと教室の扉が開いて聞きなれた声がした。
「あ、いたいた。おたえー!もう酷いよ、置いてく…なん、て……」
開けてやって来たのは香澄だった。だが、元気が取り柄なところがある香澄の声は、おたえを見た途端に尻すぼみに消えていってしまった。
「香澄ちゃん?おたえちゃん居た、の……?」
続いて入ってきたのは、りみ。香澄に何があったのか気になったりみだが、それを見たりみも無言になってしまう。
「2人とも?どうした、の……」
続いて不思議に思った沙綾が餌食になる。もう完全に絶句していた。
そんな3人が共通して見ているのは、おたえの机の上に広がっている物だった。
それは白くて、手で千切れるくらい柔らかくて、でも形を作れるくらいには頑強な物だった。
そんな物が、丸っこく形を整形されたソレが、おたえの手と机の上を行ったり来たりしている。
正確に言うと、拾い上げられては机に叩きつけられている。
ベッタン、ベッタン。音だけ聞けば、餅つきでもしているような気さえするだろう。
「お、おたえ……」
香澄の絞り出すような問いかけにも、おたえは答えない。明鏡止水の境地に辿り着いた今のおたえは、誰の干渉すら受け付けない凄みがあった。
だが、それでも香澄は机の上で跳ねてる白い物を指さして、震える声で問うた。
「…………なんで……学校で、うどん打ってんの?」
おたえの今の姿は、何処からどう見てもうどん職人であり、それ以外には微塵も見えなかったのだ。
なんてこったい。そう香澄は思った。思わずキャラがブレるレベルの衝撃映像だったのだ。
「お、おたえちゃん……?」
ベッタンベッタン。叩きつけられる速度が速くなった。
アカン。りみの身体が純粋な恐怖で震えた。
「おたえー?……だめだ、返事が無い」
一切の外音をシャットアウトして、うどん(?)作りに励んでいる。
そんなおたえの姿を3人は何も言わずに視界から外し、教室から出て、扉を閉めて、深呼吸を繰り返してから──
「「「──助けて有咲(ちゃん)!!」」」
隣のクラスの有咲に、全力で助けを求めに走り出した。
「なんだよ3人揃って。言っちゃ悪いけど、おたえの奇行なんて今更じゃねーか」
「今までとはレベルが違うんだよ!だって、おたえがうどん打ってるんだよ!?」
「とっ、とにかく来てよ!有咲ちゃんが居ないと、私達……」
「いや、アレは冗談じゃなくヤバいって。一度見れば分かるよ!」
「全員で1度に喋るの止めろ。聖徳太子じゃないんだぞ」
3人は有咲を引きずって、そして盾にするように背後に回って扉を開けさせる。
「おたえー?一体なにして、やが、る……」
有咲はおたえの行動を視認して、そして言葉を失った。
ところで、おたえの席は一番後ろの廊下側。つまり、後ろ側の扉を開ければ、おたえの席はもう目前である。
…………そして扉からは、机の上に広がっている物も見えてしまうのだ。
有咲が見た時、うどんは打っていなかった。それは良い、というか……打ってないのが当然というべきか。
しかし、代わりと言わんばかりに、うどん生地っぽいのをチネっていた。それはもう、もしかしたら某番組にゲスト枠でスカウトされるんじゃないかというくらいの精度と早さのチネリだった。
「チネリじゃねーか!?」
あれよあれよという間にチネられたうどんの生地モドキが半分くらいになったところで、おたえはチネるのを止めた。
そしてチネリ米を、おままごとで使うような茶碗にザッと入れて形を整える。
そこまで呆然としながら見たところで、有咲の肩が香澄に引っ張られた。
「だからレベルが違うって言ったんだよ!?」
「確かに、今のおたえは……マズイ」
思った以上に深刻な事態だ。これは救急車を呼ぶべきだろうか。いや、それより黄色い新幹線か。
有咲の脳裏には、咄嗟にそんな考えが過ぎる。混乱しているのは有咲も同じようだ。
そんな事などお構いなく、おたえは作業の手を休めない。今度は残った半分を楕円形に整え始めた。
「有咲ぁ……!」
「有咲ちゃん!」
「正気に戻せるのは、もう有咲のツッコミくらいしか……!」
3人の縋るような目に圧され、有咲は無けなしの勇気を振り絞って、おたえに近付いた。
「お、おたえー…………」
へんじがない。
「おい、おたえ?」
へんじがない。いつものおたえのようだ。
「おい!」
ガッと肩を掴んで揺らし、そこでようやく気がついたらしい。おたえはキョトンとした顔で有咲を見た。
「…………有咲の教室は隣だよ?」
「間違えた訳じゃねぇよ!!」
正気に戻ってもコレである。優人は良く、こんなのを受け止めてるよなと有咲は内心で感心した。
「あ、もしかして私が間違えてた?」
「そっちでもねぇ!」
有咲は咳払いをしてから、うどんの生地っぽい白い物を指さした。
「お前、それなんだよ?」
「何って、見て分からない?」
「……うどん」
「有咲って、時々変な事言うよね」
「てめっ…………じゃあなんだよ」
お前にだけは言われたくない。そんなツッコミをすると話が進まなくなりそうなので、怒りと共に飲み下して続きを促した。
「どこからどう見ても粘土じゃん」
「粘土ぉ?」
粘土、ねんど。clay……粘土って、つまり粘土だよな?混乱した有咲の脳内に粘土がリフレイン。
「なんで粘土なんか……」
「今日は課題の提出日だから」
「……それと何の関係が?」
「今作ってるの」
「忘れただけかよ!」
だから、こんな早朝から淡々とうどんを打つように粘土を捏ねてチネって……
(いやいやいや、なに納得しかけてんだ私。それにしたって色々とおかしいだろ)
自分自身にツッコミを入れている傍ら、おたえはカバンの中をゴソゴソと漁って何かを机の上に置いた。
ゴトッと重たい音を出したそれは、やけに本格的なハンバーグプレートだった。
「食いしん坊かぁ!!」
渾身のツッコミが、朝の花咲川女子学園に響き渡った。
花園たえ作『ハンバーグと大盛りご飯』
これ、美術の提出用課題である。
「一時はどうなる事かと思ったぁ……」
課題も完成して、余った粘土で遊ぶ事にした5人。椅子を持ってきて粘土をぐにぐにしている。
「いや、本当にね。おたえには毎回驚かされるよ」
「りみりん凄い、本格的なチョココロネだ!」
「えへへ。そう言う香澄ちゃんは……ランダムスター?」
「あったりー!」
りみはチョココロネ、香澄はランダムスター、沙綾はドラムセットらしきものを作り、有咲は雪だるまっぽいのを複数作っていた。
「それで、おたえのは……」
おたえの手元にある粘土は丸かった。他に特徴は無い、ただただ丸かった。
「……なに、これ?」
「当ててみて」
「いや当てろって……こんなヒントも何も無い丸で、何を作ったっていうんだよ」
「ヒント、私に関係があるよ」
全員が真っ先に思い浮かべたのは、やっぱりウサギだった。
おたえといえばウサギ。それは、おたえを知る者なら共通して頭に思い浮かぶ、トレードマークのようなものと言って良いだろう。
「あ、分かった!アンゴラウサギだ!」
「アンゴラウサギ……確か丸いウサギだよな?実物は見た事ないけど……」
「丸くて……」
丸い。全員が舐め回すように、おたえが作った丸を見て、そして頷いた。
「そうでしょ、おたえ!」
「ううん。これ大福だけど」
「うえっ?」
「ちょっと待てぇい!?」
ビシッとスナップの効いた手まで添えたツッコミだった。渾身の回答だったからなのか、香澄も思わず変な声を出す。
「うさぎを作れよ!!なんで大福作ってんだよ!」
「有咲。私が四六時中うさぎの事を考えてると思ってない?」
「違うのか?!」
「合ってるけど」
「ならなんで聞いた!!?」
バンバンバンと机を叩く有咲。抑えきれずに迸る感情の波が垣間見える。
「でもほら、私と言えば食べ物だよ。お腹減った」
「おたえと言えばウサギだろぉ!?」
「じゃあ丸まってるウサギで良いよ」
「じゃあって何だよ!じゃあって!?」
「大福……これ、大福……?」
花咲川女子学園の、平和な朝の一幕だった。
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
-
会話(いわゆる花園節・おたえ節)
-
デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
-
うさぎ(説明不要)
-
その他