なにがサブリミナルかと問われたら分からないけど、とにかくサブリミナル。
暑いですが、アイスの食べ過ぎには注意しましょうね
「きょーは練習ッ♪」
「でもその前に」
「「レッツゴーパン屋!ゴーゴーパン屋!」」
ずんちゃっずんちゃっとリズムを取りながら、謎の歌を歌って歩く香澄とたえ。クソ暑い日に肩を組んで歩く姿は、誰がどこからどう見ても変人にしか見えない。
「……あんなのと一緒のバンドを組んでる気分はどうだ?」
「正直、今すぐ他人のフリしたい」
「おたえちゃんも香澄ちゃんも元気だよね……こんなに暑いのに」
学校帰りに沙綾を除くポピパメンバーと合流して、俺達は山吹ベーカリーへと向かっている最中だ。たえと香澄が無性にパンが食べたくなったらしい。
どうせ山吹ベーカリーに向かうならと、沙綾は一足早く戻って店の手伝いをしているんだとか。りみから聞いたから間違いはないだろう。
「半袖でも暑いって、最近の気候はどうなってんだか」
「暑いよね。ところで優人、アイス食べたい?」
「うわビックリした」
さっきまで香澄と肩組んで歩いてた筈なのに、サラッと会話にたえが加わる。本当に間近に顔があって、思わず一歩引いてしまう。
そんな俺の様子に、たえは露骨に落ち込んだ表情と共に肩をガックリと落とした。口で「ずーん」なんて効果音まで付けている。
「今の反応で私は傷付いた。もうお嫁に行けない」
「そりゃ、もう行ってるもんな」
「有咲、正解。この問題を正解した有咲には香澄に抱き着かれる権利をあげよう。香澄、ゴー」
「ありさーっ!」
「それ権利じゃなくて強制じゃねーか!?ええい、香澄もくっつくんじゃねぇ!唯でさえ暑いのに、抱き着かれるとか冗談じゃねーっての!」
「有咲、顔真っ赤だよ」
「暑いんだよーーっ!!」
止める間もなく市ヶ谷さんは香澄に飛びつかれ、りみや俺はいかにも暑そうな女子の絡みを見せられる。これは何の拷問だ?
「見てるだけで暑いって、こういう事を言うんだな……」
「有咲ちゃんも香澄ちゃんも元気だなぁ……私、そんな元気ないのに」
そんな様子を5分くらい見せられた後、ぜぇぜぇと息を切らした市ヶ谷さんと香澄の相手をりみに頼み、俺はたえの相手だ。
「話を戻すが、こんなに暑いとアイスは食べたくなるよな。まあ、この近辺にコンビニなんて無いけど」
「コンビニ?」
たえは訳が分からないと言いたげに首をかしげた。しかしすぐハッとしたかと思うと
「……優人って、結構贅沢なんだね」
「なんでさ」
コンビニの単語を出しただけで、どうして贅沢認定されなきゃいかんのか。安いアイスって1本100円もしなかっただろ。
「でも仕方ないから、今日は私が奢ってあげよう。みんなの分もね」
「えっ!?おたえ本当?!」
「本当、本当」
「やったー!」
やれやれと首を左右に振りながら堂々の奢り宣言。香澄は無邪気に喜んだ。
「いったいどんな風の吹き回しだ?」
「今日は暑いからね」
「…………まあ、奢ってくれるんなら貰うけどさ」
何を思ったのかは知らないが、貰えるのなら貰う。市ヶ谷さんも同様の結論に至ったようで、「……まあ、いいか」なんて呟いていた。
「でもおたえちゃん。全員分のアイス買ったら高くない?」
「心配ナッシングだよりみ。全員で食べられる量を買うから」
「ボックスタイプか。それなら全員で分けられるな」
そこでふと思ったが、一番安いアイスを個別に買うのとボックスタイプを一つだけ買うの。この場合はどちらが値段的に安く済むんだろうか。
そんなどうでもいい事を考えながら、俺達は道を一旦横に逸れてコンビニへ。この近辺には無いが、商店街の入口近くにあるので遠い訳でもない。
「はっくしゅん……気温差がヤバくて風邪ひきそう」
コンビニ入店早々、市ヶ谷さんはくしゃみと共にそう言った。確かに、汗ダラダラな状態で冷房ガンガンな店内に入ったら、その瞬間に汗が冷却されて風邪をひきそうだ。
たえも寒いのか、くしゃみを2回、3回くらい連続でやっていた。
「へっくし、へっくし……へっくしゅん」
「おいおい。平気か?」
「寒い。優人、あっためて」
そう言うなり、たえが左腕に抱き着いてきた。ぎゅっと身体が密着して、汗のせいか濡れた制服が腕に貼り付く。
しかしコイツは、人前だというのに随分と躊躇いなく、かつ自然に抱き着いてきやがって……自分が人目を引く容姿をしている事を自覚しているのか?
「……まあ良いけど、あったまったら離れろよ」
「なんで?」
「なんでって、この場面を誰かに見られて噂とかされたら恥ずかしいし……」
「乙女か!」
いや、だってこの場面見られると洒落になんないんだって。クラスのポピパファン、特にたえファンの友達とかにバレたら殺されかねん。
…………そういえば、よく今までクラスの連中にバレないで来れたよな。
「まあそれは置いといて、ささっとアイス買って山吹ベーカリーに急がなきゃ。練習時間は有限だろ?」
「そうだね。じゃあ、みんなは待ってて」
たえは頷いたかと思うと、一目散にアイスの方へと歩き始めた。…………俺と腕を組んだまま、半ば俺を引っ張るようにして。
「あ、俺も行くのね」
「行ってらー」
「……いいのかなぁ?」
「気にすること無えって。おたえが自分から言ってきてくれたんだし、素直に貰おうぜ」
りみと市ヶ谷さんの声が遠ざかる。店の奥へ進みながら、横を歩くたえを見た。やはり外は暑かったのだろう、首筋が汗で煌めいている。
「最近暑いよね」
「オッちゃん達もヘタってなかったか?」
「ううん。まだまだ若いモンには負けないぞーって感じで元気だよ。もちろんユウトも元気」
「マジかー……俺とは大違いだな」
うさぎのユウトは元気らしい。連日の猛暑でヘタってる俺とは大違いで、その体力が羨ましいと思った。
……まさか、うさぎに羨ましいと感じる日が来るとは思わなかったな。
「優人も元気だよね?」
「俺は暑さに参ってるから違う。うさぎほどの元気は無いんだ」
「…………?でも、昨日は結構──」
「で、何を買うんだ?個人的にはこの棒アイスとかオススメだけどな。値段も安いし!」
いきなりドデカい爆弾を放り投げてきやがった、たえの言葉を途中で遮るようにアイスの箱を目の前に掲げて見せた。
(──いきなりなんて事を言い出しやがるんだコイツは?!)
公共の場だとか、そういう意識は無いのか?
冷や汗がドッと吹き出すのを感じながら、俺は話の強引な修正を試みた。
「それも悪くないけど……」
それは功を奏したようで、たえは話を戻してアイスへと目を向ける。どうにか誤魔化せたと安堵の息を吐いていると、俺の手からアイスの箱が取り上げられた。
「戻すのか」
「うん。やっぱりアイスっていえば、これかなって私は思うんだ」
棒アイスの箱を元の場所に戻しながら、それを手に取った。
「ほうほう、たえの中ではそれがアイスなのか……俺には全くそうは見えないんだけどな」
「でも、ちゃんとアイスって書いてあるし。それに涼しくなりたいだけなら、これが一番いいんだよ」
「…………俺は先に香澄達の所に戻ってるから、会計済ませてこい」
近くにあったカゴにアイスを入れて、たえはそのままレジへ向かう。それを見送ってから、俺は一足先に香澄達の元へ戻る事にした。
「あれ、おたえは?」
「会計中。香澄は?」
「同じく。グミが欲しくなったんだとさ。ほら、稀に星型が入ってるグミあるだろ?あのグミ、今は星型が出やすくなってるらしくて」
「釣られたのか」
香澄は星型に滅法弱いからなぁ……。自分の髪型すら星だし、たとえグミでも堪らないものがあるのだろう。
「それで、おたえちゃんはどんなアイスを買ってたの?やっぱり無難に棒アイスとか?」
「ああ、それな……一言だけ言えるのは、ツッコミの用意をしておけって事だけだ」
「えっ」
「おいおい待てよ。此処はコンビニだぞ。おたえがエキセントリックな嗜好を発揮する余地なんて何処にもないだろ?」
りみが言葉を詰まらせ、市ヶ谷さんが反論する。確かにコンビニはスペースが限られているから、売れなさそうな変な物は並ばない傾向にあるだろう。
だから、たえがマトモな物をチョイスするはず……などと考えるのは、正直たえをナメているとしか思えない。
たえがたえたる由縁は、間違いが起こらなさそうなシーンで間違いを起こす事なのだから。
「でもまあ、ちゃんとアイスだから安心しろよ。りみでも食べられるだろうし体は冷える」
「優人がそう言うんなら、取り敢えずは問題無さそうだけど……おたえの奴、何しやがったんだ?」
たえが会計を済ませるのを待つ。待ってる間に冷房が汗を急速に冷やしたせいで、ぶるりと全身に鳥肌がたった。
「お待たえ〜」
「お待たせー!」
「やっと来たか。急ぐぞ、きっと沙綾も待ってる」
時計を見れば、もうそれなりの時間。ちょっと時間を掛けすぎたみたいだ。
「……で、この炎天下にまた出ると」
「今すぐコンビニに引き返したくなった……」
「夕方になったら気温も下がると思ったのにな……ふらふらする〜」
コンビニから外に出た俺達を待っていたのは、また地獄だった。空から降り注ぐ太陽の光と、下から来る熱のダブルパンチは、冷房で回復した体力を一気に奪い去っていった。
「おたえ、アッイス!アッイス!」
「分かってる。ちゃんと皆が食べられる量はあるから」
ぴょんぴょんとたえの周囲を跳び回る香澄は、相当アイスを楽しみにしているみたいだ。たえがごそごそと袋からアイスを取り出そうとしている姿に、りみや有咲からの注目が自然と集まる。
「はい、アイス」
そして取り出した物を見て、俺を除く3人の顔が引き攣った。
「………………」
「…………お、おたえちゃん?あの、これって」
「アイスだよ」
「そうだな。ロックアイスだな」
……………………
………………
…………
……
「ただの氷じゃねーかよっ!!」
再起動した市ヶ谷さんが吼えた。
たえが買っていたのはロックアイス。コンビニでも売っている、要は唯の氷。
「でもアイスって書いてあるし、これもアイスだよ」
「それは!……くっ、奢ってもらう立場だから何も言えねぇ……!」
「?」
ガリガリと氷を頬張っているたえの姿に、俺達は何も言えずに顔を見合わせた。
「……考え方を変えよう。突き詰めればアイスも氷だし。アイスって表記は氷菓子だから、これも実質ハー○ンダッツみたいなもんだよ、うん」
「……その誤魔化しには無理がないか……?」
「とっ、とりあえず食べようよ。おたえちゃんの奢りだし……」
「おたえー……」
そして、誰からともなく順番に氷を取って口に入れた。
…………冷たい。
「それで、おたえがそんなの抱えてるんだ」
山吹ベーカリーで合流した沙綾は、たえが持つ袋の中のロックアイスを見て納得したように言った。
「優人の言ってた事が理解できた……まさかコンビニですら、こんな事になるなんて」
「いちコロネー、にコロネー、さんコロネー?」
「ほら、たえも買ってこいよ。そのアイスは俺が持ってるから……たえ?」
たえは何故かジーッとパンを取る専用のトングとお盆を手に取って交互に見比べていた。
「このトングでパンを挟んで……そしてこのお盆に載せていく、と……」
そんな事を呟いてから、たえは沙綾の方を向いて言った。
「…………ハイテクだね」
「ローテクだよ」
ツッコミを入れながらアイスの入った袋を持つと、たえはパンを求めて店内をふらつき始めた。
「今日は香澄とおたえも買うんだ」
「なんか食べたくなったんだとさ」
珍しいという気持ちが言葉に乗った沙綾と2人を見ていると、なんだか俺もちょっと食べたくなってきた。
「うーん……どれも美味しそうで決められないなー。さーや〜、オススメってあるー?」
「どれもオススメ……って言うと身もふたもないか。ちょっと待って。ええっと、香澄にオススメなのは……」
沙綾が香澄の相手をしている間、たえが何を選んだのか気になって近寄ってみると、デフォルメされた動物の顔を象ったパンを選んでいた。
「この動物パン。ハムスターだよね」
「ああ、そうだな」
このヒゲといい、耳といい……
「……それ、ハムスターじゃなくて猫じゃね?」
沙綾にさり気なくアイコンタクトで確認を取ってみると、頷きが返ってきた。
「ハムスターだよ。だってほら、この辺とかがハムスターって感じするし」
下顎の辺りをトングで指して主張するたえ。俺にはハムスターらしさがサッパリ分からないのだが、たえからすればそうなのだという。
「…………そうか。そうだな、うん、ハムスターだ」
「負けんなよ」
「市ヶ谷さんは子供に現実を突きつけろと申すか」
こんなキラキラした目をしているのに、現実を突きつけて輝きを曇らせるなんて鬼畜な真似は俺には出来なかった。
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他