最近になって気がついたんですが、結婚という行為は相手を死ぬほど愛した末に行き着く結論だと思うんです。で、死ぬほど愛するというのは、つまりヤンデレ。ということは、この作品のおたえはヤンデレという事になるんじゃないでしょうか(錯乱)
「いつ来ても混んでるよな、ここ」
「そりゃそうさ。なんたって此処は、ガールズバンドファンの聖地なんだからな」
この前は予定があったから行けなかった友達のショップ巡りに今日は付き合っている。とはいっても放課後を使うから、回れるのは2、3軒がせいぜいだ。
そして今は時間的に最後の場所。俺がここに来るのは10回を超えるか超えないかくらいの回数だが、人の多さには未だに慣れない。
「聖地ねぇ……」
「そうそう」
ガールズバンド専門ショップ"
殆どのガールズバンドのグッズを取り扱っているらしく、誰が呼んだか"ガールズバンドファンの聖地"と名高い場所だ。
メジャーなのからマイナーなのまで、幅広く扱っているのが特徴の、この一帯で最大の専門ショップである。
グリグリは勿論、ポピパやAfterglowなんかも当然のように扱っている。
「さ、ポピパのエリアはこっちだぞ」
「はいはい」
友達に誘われるままホイホイと着いて行くと、そこにはポピパのアイテムが置いてあるエリアに到着したのだ。ウホッ、いいバンド……なんて茶番はいいか。
とにかく圧倒される量だ。何度も見てる筈なのに、なんか凄いという感想しか出て来ない。
「さーて、新しいブロマイドとかは入荷してるかなっと……」
真剣な眼差しで見渡し始めた友達は置いておいて、俺も少し見てみるとしよう。大量のブロマイドから、たえが写っている物だけを見てみる。
(アリスみたいな衣装、サイバー感のある衣装、うさぎパジャマ……知らないうちに結構な枚数を撮って、うさぎパジャマ!?)
確かに前から、こういうのを撮っているらしいという話は聞いていたが、それにしても量が多い。たえだけでも相当数、ポピパ全体となれば尚更だ。見ていないが、きっと他のバンドも似たり寄ったりだろう。
それにしても、写真とはいえ、こんなに沢山のたえから見られていると……なんか変な事を考えてしまうな。
そう例えば、このブロマイドの種類だけ、たえが増殖するとか……
優人ー
たえが1人……
優人ー
たえが2人……
優人ー
たえが3人……
ゆうとーゆうとーゆうとーゆうとーゆうとーゆうとーゆうとーゆうとーゆうとーゆうとー
たえが沢山…………
「…………この世の終わりだ」
たえ、なんて恐ろしい奴だ。まさか想像の中ですら侵食されるとは思わなかったぞ。
「お、あったあった!」
「何が?」
「新しいブロマイドだよ、ほら。しかもラス1だ、運が良いな」
たえファンな友人が、嫌な想像を振り払っている俺に見せてきたのは、さっき見たような気がする衣装を着た、たえの姿が写ったブロマイド。
「……何が違う?」
「良く見ろ。まず色んな所が豪華になってるし、服の袖も違う。ヘッドフォンだってパワーアップしてるし、前には無かったウサギの耳を模した飾りが付いてるだろ」
「お、おう」
ヤバい、地雷踏み抜いた。この手の話題は禁句だと分かっていた筈なのに、盛大にやらかしてしまった。
「それ以外にもまだあるけど、俺が注目したのは──」
「そ、それより!買うのはそれだけで良いのか?」
「ん?ああ、そうだな…………めぼしい物は、これくらいかな」
長くなりそうだったので、多少強引に話を切ってしまう。それにしても、辺り一面にグッズがあるのに"めぼしい物はこれくらい"なんて言える辺り、筋金入りのポピパファンだと思わずにいられない。
「優人はどうするんだ?」
「なにが」
「何か買うんだろ?」
「あー…………」
確かに店に来て何も買わないというのは少し違う気がする。だが、かと言ってペンライトとかシリコンバンドを買うのも……もう持ってるし。
「……ん?これは……」
そんな俺の目に留まったのは、カードゲームのパックのような包装がされた物。見てみると、どうやらブロマイドがランダム封入されているらしい。
「ああそれ?それは見ての通り、ブロマイドがランダムで出るパックだよ」
「そんな事して売れるのか?だって……」
「本来はブロマイドって、そうやって売られてるんだぜ?」
……ますますカードゲームみたいじゃないか。しかも新規のブロマイドが出る確率なんて分からないし、中々悪どい商売だ。
「俺が見つけたブロマイドは多分新規の奴。ここは人の出入りが激しいから、見つけられたのは非常に幸運だ。これも日頃の行いかな」
まあ新規だから値段は高いけど。なんて言う友達の言葉を聞き流しながら2つ手に取る。値段は3枚入って450円と少々お高めだ。
「そっちを買うのか?オススメはしないけど……それともアレか、夢を追うタイプか」
「夢って?」
「パックからは稀にサイン入りのカードが出るんだよ。まあサインって言っても、本人が書いたのを型にして金箔で再現した奴だけど……ほら、あれがそうだ」
指さされた先にあったのは、ショウケースに入った香澄のブロマイド。確かに金箔でサインが刻印されている。値段は……数えるのもアホらしいくらいだ。
「あんな感じで値段が跳ね上がる。もちろん滅多に当たらない」
「分かんねー……」
「分かれとは言わないけど、そういうもんなんだよ」
2パックで900円。普通に高い。
「開けてみろよ」
「はいはい」
この手のパックは開ける瞬間が1番楽しみだよなと考えながら開封。このワクワク感は他では味わえない。
「えっと、まずは……お」
昔のステージ衣装の沙綾が出てきた。
「当たり?」
「俺は何十枚もある。でも一枚目からそれは幸先いいな。一応レアだし」
「ほーん」
そんなもんなのかと思いながら2枚目。今度は新しいステージ衣装の市ヶ谷さん。
「次は?」
次を急かされて3枚目。浴衣でギターを弾いている、たえのブロマイドが出た。
「おお、ポピパックか」
「なんだそれ」
「ポピパのメンバーしか出なかったパックの事を俺はそう呼んでる」
「その言い方だと他のバンドも混ざるのか?」
「当たり前だろ」
運が良かっただけか。しかしそうなると、次のパックからは別のバンドメンバーも出るんだろうな。
そんな覚悟を持ちながら2パック目を開封。さて、次は……
「これは……」
「ノーマル。ハズレ枠だな」
……全裸ミッシェルが入ってるなんて聞いてないんだけど、しかも投げキッスかましてる奴。
友達は何故真顔でコレを見れるんだちょっと笑いそうになった俺が異端みたいじゃないか。
「次だ」
見てるとSAN値が削られそうな全裸ミッシェルから逃れるように2枚目を確認する。
「ミ、ミッシェル……」
またもミッシェル。しかもセクシーポーズ取ってる。
思わず友人の方を見た。すると、友人は
「ほ、ほら。一応当たりだから……」
「なんで目を逸らしてんだオイ。こっち向け」
……笑いを堪えていた。
「とっ、とにかく次だ。ラストなんだし、スーパーレアとか出せよ」
「出せたら出してるっての」
地獄みたいなミッシェル祭りを乗り越えた先にある3枚目。せっかく900円も出したんだから、ここらで何か友人を唸らせる物が出てくれると嬉しいんだが……
「こっ、これは……」
何故かサタデーナイトフィーバーのポージングをしたミッシェル。さっきからポーズおかしいだろ、撮影班は何でコレでOK出した。
しかし何より目を引くのは、ハンコみたいなミッシェルのサイン。金箔の模造品だが、サインはサインだ。
「喜べ、大当たりだ」
「そんな真顔で言われても……」
まさか3枚目までミッシェルとは思わなかった。しかも相当な当たりっぽいのがまた何とも言えない。
友人も反応に困ったのか真顔なのにフフッて笑いやがる。
「いやでも実際凄いぞ。しかもコアなファンの多いミッシェルのだし、買取額もそれなり以上だった筈だ」
「俺達まだ未成年だから、親の承諾無いと売れないけどな」
しかも母さんの事だから、間違いなく対価を要求してくる。ジュースの1本は奢らされると見た方が良いだろう。
……我が親ながら、抜け目ないなと別な意味で尊敬してしまうよ。
「しっかし、まさか900円で当てるとはな。お前、実は相当な豪運を持ってるんじゃないか?今度は俺の代わりに、花園さんのサインブロマイドを是非当ててくれ」
「嫌だよ。まったく、そんな豪運をコレで使い切ってなければ良いんだけど……お?」
マナーモードのスマホがポケットで震えている。この時間に電話を掛けてくる奴なんて、大体は隣の友人か、あるいは……
「悪い、ちょっと電話」
「おう」
表示されているのは"たえ"。大体の場合は、この2人だけだ。
「もしもし」
《優人、今どこに居る?》
「SKY。なんだ、もう迎えに行くのか?」
確か今日は、近日に迫ったライブの為に結構な時間まで練習に打ち込む予定だった筈だが、もう切り上げるのか。
《うん。お願いできる?》
「別に構わないけど、何処にいるんだよ」
《駅前》
「おい」
ちなみにSKYから駅までは、およそ10分くらいである。たえは既に駅前に居るらしいから、10分は待たせる事が確定した瞬間だった。
「……まあいいや。すぐ行くから待ってろよ」
《うん、待ってる》
通話を切って友人の所へ戻る。友人はスマホの画面を見て、何やらやっているようだった。
「悪い。もう帰らないと」
「あー、もうそんな時間か。お前も大変だな、高校生にもなって門限なんて」
コイツはきっと、今の電話が母さんからだと思ったのだろう。あからさまに同情が篭った目を向けられた。
「悪いな、お前も早く帰れよ」
「気にすんな。もう少ししたら帰るさ」
やけにニヒルに笑った友人と別れて、駅前までダッシュで向かう。俺が駅前に着いた時には、たえは待ちくたびれたのか既に改札を通り過ぎて、構内のベンチで座っていた。
「わ、悪い……遅れ、た……」
「ううん。今来たところ」
「おま……それは、嘘、だろ……」
ベンチに座って息を整えていると、たえは水筒を俺に渡してきた。
……飲めという事だろうか。
「はいこれ」
「……くれるのか?」
しかし、受け取った水筒は軽くて、何だか中身が入っていないような気が……
「持ってて」
「ああ……はいはい」
まあそんな訳ないよな。
俺が水筒を持つと、たえはカバンの中を漁り始めた。
「うーん。確か、この辺りに……」
あーでもない、こーでもないと中を引っ掻き回すこと暫し。ようやくお目当ての物を見つけたらしい。
「あったあった。はい優人、これと水筒を交換」
「いや、交換って……え?」
たえが渡してきたのは折り畳まれた白い布だった。ハンカチにしては相当な大きさだし、一体何なんだ?
俺は正体を確かめる為に布を広げてみる。そして、その正体を理解した俺は頬を引き攣らせた。
「おい、たえ。これって……」
「うん。優人の肌着」
……たえが今言った通り、折り畳まれた白い布は俺の肌着だった。
「待て待て待て。なんでお前が持ってるんだ」
「家の洗濯物に紛れてたから」
「渡すタイミングを考えろ!」
急いで畳んで、カバンの中に放り投げておく。いきなりの珍事態の対処に慣れてしまったのは、たえとの付き合いが長いからだろう。
「家で渡してくれれば良かったのにさぁ……」
「忘れそうだったから。やる事も多いし」
来た電車に乗り込みながら、たえはそんな事を言っていた。偶然空いていた席に2人で座りながら、俺は窓から外を見る。そして言った。
「ギターの練習とか?」
「それもあるよ。けど、今回は私がライブ会場を押さえたりとか、色々しないといけないから」
「ふーん……」
暑さでぼんやりした頭を車内の冷房で冷やしながら、珍しい事もあるもんだなと思いつつたえを見た。
「俺も手伝うよ」
「いいの?」
「こういう時に力にならないでどうする」
前に向き直って俺は目を閉じる。肌着が汗でベッタリくっついて気持ち悪いのを感じながら、降りる駅に着くまでそのままでいた。
お互い疲れていたのか、その後は暫く無言で時が過ぎた。次に話が始まったのは、電車から降りて住宅街の道を歩いていた時だ。
「…………ねえ優人」
「どした」
「今夜、そっちで寝ていい?」
「別にいいけど。なんだ、また寂しくなったのか?」
「そんなとこかな」
たえが変な意味ではなく普通に2人で寝たい時は、大体は寂しくなった時だった。
普段はそう見えないが、ポピパの中で1番人肌を恋しく思っているのは、たえであろう事を俺は薄々感じていた。
このような出来事は不定期に、かつ突発的にやってくるものの、俺達の日常に組み込まれる程度には繰り返されている。
「待ってるから、好きなタイミングで来いよ」
「じゃあ今から行くね」
「メシと風呂はどうする気だ」
「お風呂はそっちで入ろうかな。優人と一緒に」
「もうガキじゃないんだから……」
このやり取りも、もう飽きるくらい繰り返したものだ。細部は変わったものの、俺が好きなタイミングで来いと言うと、たえが今から行くと答えるのは変わっていない。
「でも、夫婦の営みってそういうものだよね?」
「違うだろ。少なくとも、母さんと父さんが一緒の風呂に入ってたなんて聞いたことないけどな」
「あれ?でも、この前の出張の時に夫婦で入ったって聞いたけど」
「………………」
だからなんで、母さんは自宅じゃなくて花園家でそういう話をするんだろうか。
作中のブロマイドは、我々で言うところの特訓後のイラストが主です。たまに特訓前もありますが。
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他