前の話を投稿してから、結構なペースでお気に入り者数が増えてて不思議に思ってたんですが、なんと日刊ランキング8位に居てビビりました。こんなのが載って良いのかよぉ!?
お気に入り700人超に加えて投票者48人。しかも真っ赤というのは、皆さんの応援とおたえというキャラのお陰です。
ありがとうガルパ、ありがとう皆さん。
そして世におたSSのあらんことを
ごろーん、ごろーん、ごろーん
「みーーんみんみんみーーー〜〜〜ん」
たえがころころとベッドの上で転がっている。俺の枕を抱え、毛布を巻き込んで転がり続けている。
「…………何してんのさ」
「みんみーん……なにって、セミのモノマネ」
朝起きて、ちょっと目を離して洗面所から帰ってきたらコレである。たえは動きを止めずに、なぜかコブシを効かせながらベッドの端で引き返す、という動きを延々と繰り返していた。
「本当にセミのモノマネなのか?」
「そうだよ」
「だったら、なんでそんな勢いよく転がってるのか説明しろ」
「それはダンゴムシだからだよ」
「日本語を話せ」
朝っぱらから元気なようだ。まあ、たえは早朝ランニングを日課にしているし、朝から元気なのも当然なのかもしれないけど。
「んー?」
「……まあ、いいや。ちょっと止まってくれ、俺も座りたいから」
ピタッと動きを止めたたえの横に座ると、たえは俺の身体を掴んでゆっくりと起き上がってきた。
「あ、ふらふらする」
「そりゃ、あんだけゴロゴロしてたらな」
危なっかしくゆらゆらしているので、仕方なく抱き寄せてたえが落ち着くまで待つ。たえは借りてきた猫のように、されるがままだ。
「優人、今日は暇なの?」
「今日は家で1人人生ゲームでもしようかと」
「暇だね。じゃあ付き合って」
ボケをバッサリ叩き切られ、俺は無言で肩を落とした。こいつ、自分は散々(無自覚とはいえ)ボケるくせに、他人のボケは結構な頻度で叩き切ってくる。
「……ま、いいけど。付き合うって、何処に?」
「有咲の家。勉強にね」
「明日からテストだしな……クソが」
テスト前の恒例行事となりつつある、市ヶ谷さんの家での勉強会。それぞれ得意不得意があるから、得意なものを教え合うという形式になっている。
……一部例外は居るけどな。香澄とか香澄とか、後は香澄とか。
「そんなにテスト嫌?」
「たえだって嫌だろ?」
「別に、嫌いじゃないよ」
もうふらふらしないらしく、たえはしっかり座れている。一緒に窓から青空を見ながら俺が思うのは、今日も暑くなりそうだ、だった。
「ホントかよ」
「うん。だって、テストの日って午前中で終わるから練習時間も多く取れるし」
「そっちかよ。そっちなら俺も好きだよ」
というか、それぐらいのメリット無かったらやってられない。テスト自体は嫌いだが、テストのある日は好きだというのは、きっと多くの学生が同意してくれるところだろう。
「そっちって、どっち?」
「あっち。……ところで、市ヶ谷さん家に集合するの何時なんだ?」
「聞いてない。けど、みんな早く集まりそう」
「香澄とかは特にな」
過去に何度か市ヶ谷さんの寝起きを強襲した事があると聞いているし、もう居ても驚かない。
「俺達も早めに出るか」
「そうだね。じゃあすぐに……」
「待て」
この場で服を脱ごうとしやがったので、ガッと掴んで動きを止める。たえはクエスチョンマークを浮かべんばかりに首をかしげた。
「いや、その反応はおかしい」
「優人だし、別に良くない?」
「羞恥心って大事だろ」
「でも優人に隠し事なんてしたくないよ。世界で一番大好きだから、ありのままの私を見て欲しい」
そういう事を、いきなり言うのは卑怯だと思う。準備できてないから反応に困るじゃないか。
「…………だとしてもだ」
「優人。もしかして照れてる?」
「いやまさか」
「ありがと。私も大好き」
「何も言ってねぇ……おい待て抱き着くな、頭なでるな、ベッドに押し倒すな!」
思わず目を逸らしたスキに接近されて、抱き着きから頭なで、そして〆にその体勢のままベッドに押し倒された。
たえは心の底から嬉しそうに俺に覆いかぶさって、暫くニコニコしていた。
それから1時間くらい経ってから俺達は外に出た。
「出るのちょっと遅くなったね」
「許せ。最近、夏バテ気味なんだ」
理由は簡単で、俺が飯を食うスピードが普段より遅かったというだけの話だった。最後の方は無理に詰め込むカタチになったし、それの所為で今は動きが遅い自覚がある。うっぷ。
「それにしても、やっぱ暑いなぁ……これじゃバテるって」
「もう少し、ファイト」
「……たえは何で、そんなに涼しい顔してるんだよ……?今日、過去最高の猛暑日とか言ってたんだけど」
たえの今日の服装は麦わら帽子に白いワンピースに日傘のオプション付きという、どこぞの令嬢みたいなものである。見た目が良いから似合っているが、そんな服装でも今日は暑さを感じる日だ。
そんな──確か35度に迫りそうな暑さの日だというのに、たえは俺の腕に身体を預けるようにくっついて離れようとしない。
見たところ、たえは微妙に汗をかいているくらいで、それは酷暑日である今日には似つかわしくないくらいの軽さだった。俺は汗ダラダラだっていうのに。
「暑さ対策は万全だよ」
「にしても限度があるだろ。なんでだ、教えてくれ」
「ふふん、仕方ないなぁ。1度だけしか言わないよ?」
俺の懇願に気を良くしたらしく、たえはドヤ顔で胸を張りながら、たえ流の暑さ対策を言った。
「氷を詰めたビニール袋を、いっぱい入れてるからね。服の中に」
…………なるほどなるほど。
「アホか?アホだったな」
どうやら、たえは暑さで頭がやられてしまったようだ。どうせなら、そのやられた頭に乗せていれば良かったのに。きっと似合っていただろう。
「むむっ。信じてないね」
「いや信じてるよ。信じてるから、アホかって感想が出た訳でな」
「ならいいや」
「おい」
褒めてないっていうのに、いけしゃあしゃあと礼を言ってきた、たえにツッコミを入れながら足を早める。
今は夏の暑さから、一刻も早く解放されたかったのだ。
「それにしても、そんなに涼しいなら、俺にも1袋分けて欲しいくらいだ」
「分けてあげよっか?」
「良いのか?」
「うん。ちょっと待って、はい傘」
そう言って俺に日傘を持つように促してから、たえは徐にワンピースのスカート部分を捲り上げようとして……!?
「Freeeeeeze!Freeze means stop!」
がっちり腕を掴んで止める。必死な形相をしているであろう俺とは反対に、たえは何処までも普段通りといった具合だった。
「どうしたの?急に英語なんて使って」
「やっぱいい、もういいから!」
たえが羞恥心皆無な事を忘れていた俺の失策だ。事もあろうに、人がいないとはいえ道端で、スカートのたくし上げをやらかそうとするなんて。
「いいの?本当に?」
「いい、別に要らねぇ!」
肝と背筋が冷えたからな、お前のせいで。
そんな言葉を心の中で吐きながら、俺は回らない頭で話題の転換を試みる。
「とっ、とにかく、市ヶ谷さんの家に急ごうぜ。間違いなく俺達が最後だからな」
「そうだね。氷も溶けて温くなってきてるし、急ごっか」
「ああ…………ん?氷も溶けてって、もしかしてお前、さっき温い水の入ったビニール袋を押し付けようとしてたんじゃあ……」
「行こ」
たえはいきなり走り出した。分かりやすすぎる誤魔化し方で、一周回って感心してしまいそうになる。
「おい待て、やっぱりそうなんだろ!なあ!」
ちょっと走った後、夏の暑さにやられて自然と速度が落ちた俺達は市ヶ谷さんの家に辿り着いた。
ポピパが何かをやる時は、大体が市ヶ谷さんの家で行う。そして市ヶ谷さんは全く拒まない。
これだけ聞くと市ヶ谷さんが都合の良い女みたいだが、みたいじゃなくて実際にそうだと俺は思っている。悪い男に捕まるとダメなタイプだろう。
─ピンポーン─
インターフォンを押してから、応答が来るまでに5秒、10秒、15秒……
「…………おう」
夏の暑さと、恐らく香澄へのツッコミにやられた市ヶ谷さんが現れた。
「疲れてんな」
「そりゃ、こんなに暑いし。プラスで香澄の相手だぜ?察せ」
「大変だね有咲。氷いる?」
「これから原因の一端を担う奴が言うセリフじゃないよな……氷は貰う」
たえは「わかった」と言った後、さっきと同じようにスカートをたくし上げた。
俺は後ろにいるから見えないが、市ヶ谷さんからはモロに見えている事だろう。その証拠に、ほら、目をカッと見開いてる。
「な、なななな」
「35?」
「何やってんだーーっ!?」
「何って、氷を出してるの。はい有咲」
たえがそう言って押し付けたのは、氷が溶けてベチョっとなった、どこからどう見ても水の入ったビニール袋だ。
……やっぱり、押し付ける気満々だったんじゃねーか。
「その前に、たくし上げを止めろ!しかもコレどう見ても水じゃねーか!?」
「冷やせば氷だよ?」
「そんなもん家にもあるってのぉ……しかも温いし」
「そりゃ、人肌で温まってたからなぁ……」
バテているのかツッコミにキレが無い。市ヶ谷さんは疲れた様子でビニール袋を持ったまま、俺達を先導して蔵まで移動する。
「おたえとオマケが来たぞー」
「たえをぶつけるぞ貴様」
「お待たえ〜」
「おったえー!」
「おお……おたえがオシャレしてる」
「お嬢様って感じするね」
たえの令嬢スタイルは好評のようである。見た目は良いという、たえの特徴を生かせるオシャレだからなのだろう。
香澄、りみ、沙綾の3人の前には、テーブルに広げられた教科書がある。
「たえも送り届けたし、じゃあ俺は麦茶飲んで帰るから……」
「勉強はやってかねーの?」
「帰っちゃダメだよ優人」
どさくさに紛れて帰ろうとしたら、服の袖をガッツリ掴まれた。
「放せ」
「だめだよ優人」
振り向かない。もし振り向いたら、間違いなく引きずり込まれるのが目に見えているからだ。
「放せ」
「まあまあ麦茶飲んでいけよ」
「放せ。俺は家に帰って1人人生ゲームを楽しむんだ」
「アホじゃねーのかお前」
市ヶ谷さんを引き剥がそうとする俺と、引き剥がされまいとする市ヶ谷さん。そしてゾンビみたいに足元に纒わりつくたえ。ぐいぐいと攻防が白熱していく。
市ヶ谷さんに力は無いが、俺もバテ気味だからか、いつもより力が出ない。
「ええい、往生際の悪いヤツめ。香澄、優人を捕まえろ!」
「ラジャー!」
「なっ、香澄も使うなんて卑怯だぞ!?」
「勝てばいい、それが正義だ」
飛びついてきた香澄とたえと市ヶ谷さんで3対1の構図が出来上がった。いくら何でも3人は分が悪い。
「3人に勝てるわけないだろ!」
「バカ野郎お前俺は勝つぞお前!」
「おたえちゃんも香澄ちゃんも、勉強やらなくて良いのかな……?」
「じゃれあいが終わったらやるよ、きっと。…………まあ、その前にバテる気がするけど……」
りみと沙綾は俺達を尻目に、そんな事を話していたのだという。
2人の言葉通りに俺達がバテて倒れるまで、あと2分。
◇◇
ぐぅ〜〜〜〜きゅるるるるる
「……お腹減ったな」
勉強を続ける真っ最中に空気の読めない腹の虫が鳴り響いた。恐らく全員の集中力を削いだ下手人は、注目されているにも関わらず独り言を呟く。
時間は12時50分。いつの間にか、お昼時の終わり際であった。
「もうこんな時間かぁ……」
「飯、食ってくか?今から帰って集まる時間も勿体ないだろ。もちろん、嫌なら帰っていいけど」
以上、羞恥心で顔を真っ赤にした市ヶ谷さんの言葉だ。これがキャラ作りでなく、マジの天然なんだから世界は広い。
「じゃあ、お言葉に甘えて帰らせてもらうわ」
「おたえ」
「夏の」
「ドーン!」
市ヶ谷さんの一言で、たえが俺の両手を後ろ手に拘束して、膝の上に香澄が倒れ込んできた。流れるような美しいコンボ、これがポピパの絆パワーかと戦慄する。
「なんで帰らせてくれないんだ」
「優人は目を離すと、すぐに何処かで迷子になってるから」
「一応言っておくぞ。しょっちゅう迷子になってるのはお前で、そして勝手に何処かへ行くのもお前だからな?」
たえからすれば、迷子になるのはあくまでも俺らしい。だけど一般人目線から見れば、たえの方が迷子で、俺は寧ろ保護者とかの扱いだ。
「常に私が付いてないと安心してお買い物も出来ないよ」
「それはひょっとしてギャグで言っているのか?完全にブーメランだからな、それ」
というか、それは俺のセリフだ。たえの捜索に追われた結果、疲れ果てて買う物を買わずに帰った事が何度あると思っているのか。
なお、たえは迷子になる前に自分の買う物は買ってある事が殆どだったりするので、損をするのは俺だけな事が多い。
「ふふふっ、だから私は優人が迷子にならないように監視するの。じーっ」
「暑いからくっつくな。そして肩に顎を乗せるな、それ地味に痛いんだぞ」
後ろ手に拘束されているままなので、手で退けるという事も出来ない。立ち上がろうにも香澄が膝の上でバテている。
こうなると、残りの3人に助けてもらうしか無いのだが……
「2人は放っておいてお昼ご飯にするか。香澄も行くぞー」
『はーい』
「おいおいおい」
鮮やかに見捨てられた。誰もこっちを見向きもしない辺り、徹底されている。
だが悪い事ばかりではない。市ヶ谷さんに呼ばれて香澄が膝の上から退いたから、これで立ち上がる事ができる。
「ちょっと待てお前らぁっ!?」
急いで後を追おうとしたら足が痺れてっ!?
……地面に倒れ込んでしまった。たえを上にするように倒れたし、そもそも後ろ手に拘束されているから起き上がれない。
「え、ちょっと待て。マジで置いてけぼり?嘘だろ、おい!」
たえが満足して背中から離れるまで、俺はたえを背中にくっつけたまま放置される事になる。
そんなアクシデントの後、市ヶ谷さんのお婆ちゃんに市ヶ谷さん達が台所に居るのを聞き出して向かうと、4人は何かを話しているみたいだった。
「おう、遅かったな」
「お昼は麺類がいいかなって話になってるけど、2人もそれで平気?」
「誰のせいで遅れたと……夏バテ気味だから麺類は非常に嬉しい」
「いいよね、麺」
夏バテ気味な時は麺が一番だよ。なんて言って、たえも頷いていた。
「麺といえば、この近辺で流しそうめんやってたよな」
「やってたやってた。あれ見てると少し涼しくなる……ような気がするよね」
「有咲。確か、家庭用流しそうめん機って持ってたよね」
「やらねぇからな」
ショッピングモールに行くとワゴンセールで投げ売りされてる奴は俺も見た事あるが、片付けが面倒くさそうだと思った事を覚えている。
「麺類となると……冷やし中華とかが良いかな」
「冷やしラーメンでもいいよ」
「それ実質冷やし中華……」
そんなことを言いながらガサゴソと冷蔵庫を漁っていた市ヶ谷さんは、ピタッと急に動きを止めた。
「有咲?」
不思議に思った沙綾が声をかけると、市ヶ谷さんはこっちを向いて消え入りそうな声で言った。
「…………麺が無い」
ミーンミンミンミンミーンと、セミの鳴き声が一際うるさく響いた気がした。
「………………じゃあ無理じゃん」
「ほ、他には?他には何があるの?」
「麺類だと……人数分あるのは蕎麦か、パスタかって感じだな」
蕎麦か、あるいはパスタか。俺達は顔を見合わせた。
「うーん……じゃあ、お蕎麦にする?夏だし、お蕎麦も美味しいよ」
「無いなら仕方ないねー」
じゃあ蕎麦にしよう。という流れになった時に、さっきからパスタを手に取って眺めていた、たえが急に言った。
「ねえ有咲。冷やし中華の麺ってパスタで代用出来ないかな」
「パスタ?……見た目も似てるし、冷やせば出来なくもないだろうけど……どこ見て言ってやがんだ」
たえの眼差しは、明らかに市ヶ谷さんのツインテールに向けられていた。
それに釣られて、全員の注目が市ヶ谷さんのツインテールに移動する。ジーッと、穴が開きそうなくらいに見られた市ヶ谷さんはたじろいだ。
「な、なんだよ……」
「いや、パスタだなぁと思って」
「色合いが似てるからかなぁ?」
言われて見れば、なんとなくパスタに見えるようになってくる。まじまじと見ていると、沙綾が急に言った。
「こうやって改めて見ると、有咲の髪って綺麗だよね」
「そうか?……私的には、おたえの方が綺麗だと思うけどな」
たえ曰く「シャンプーとコンディショナーで洗ってる」長い黒髪。男目線で見ても綺麗だと感じるのだし、より敏感な目を持つ女子からなら、もっと良く分かるのだろう。
「有咲ちゃんは何か特別な事とかしてるの?」
「いや別に。最近はシャワー浴びてるだけだよ。暑いし、湯船には入りたくねぇし」
「……流水麺?」
「おたえ、まず麺から離れろ」
「分かった」
そう言って、たえはパスタを持っている市ヶ谷さんから、あからさまに距離を取り始めた。
「物理的にじゃねえ!」
「有咲の注文、難しい」
「おたえの解釈の方が理解し難いんだけど!?」
傍から見たら完全にコントだし、もはやワザとと思われても文句言えないが、たえは至って真面目だ。
もちろん悪気なんて欠片も無く、それが分かってるから市ヶ谷さんもそこまで怒れないんだろう。疲れたように深い溜息をついて「まあ、おたえだしな」と諦めたように呟いた。
「……冷やし中華、もとい冷やしパスタでいいか?」
『はーい』
ポピパの夏は、今日も平和に過ぎていく。
有咲のキャラデザを見て、1度でも有咲の髪がクロワッサンとかパスタに見えた人は私と握手╭( ・ㅂ・)و ̑̑ ぐっ
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他