でもガチャっても出ないのは許さん
「あーっつい……」
夏のある日。ギンギンに照る太陽の下で、思わず呻いてしまった。パラソルで日陰こそ出来ているが、それでは熱気から身を守る事は出来ない。
今の状態を簡単に言えば、俺は熱気にやられて死んでいた。うぼぁー。
「なんだって、こんな事に……」
「嫌だった?」
パラソルの下で大の字に寝転がっていると、聞きなれた声が頭上からする。俺は目の上に被せたタオルを取って答えた。
「嫌じゃないけど……やっぱり疑問は残るよな」
新しく買ったらしい水着を着こなしている、たえにそう告げた。
似合っているとは思うけど、それ以外に何も感じないのは、たえの水着姿を見過ぎたせいなのだろう。もう直視しても照れるような事は無くなった。
……嬉しいのは分からんでもないけど、室内でまで着るのはどうかと思う。
「何が?」
「何がって……決まってんだろ」
ここはプライベートビーチか?と言いたくなるくらいガラッガラの浜辺を見ながら俺は呟いた。
「このクソ暑い時に海とか、なんの冗談だっての」
今、たえと俺が何処に居るのか。そして何をしているのか。全ての答えは、きっとこの一言に現れているだろう。
そう、海だ。太陽の光を跳ね返してギラギラに輝く波打ち際に、水着を着て俺達は来ている。
「暑い時こそ海じゃない?」
「そうか?」
「うん。なんか暑いと夏って感じするし、夏っていえば海だよね?」
「んー……」
きょろきょろと周囲を見渡している俺の隣にたえが座る。俺が地面に着けていた手の指先が触れるくらいの距離にたえの手が置かれた。
「……優人。周囲に何か面白い物でもある?」
「お前の膨れっ面」
何を勘違いしてやがるのか、たえは膨れっ面で俺を見ている。
「弁解しとくけど、俺が周囲を見渡してるのは、あまりに人が少ない事に感心してるからだぞ。それと水着姿はお前が1番綺麗で可愛いと思ってるから」
「私は信じてたよ」
「手の平ドリルかお前」
どうせそんな事だと思ってたから特に何も思わないけど。
しっかし、この砂浜のガラガラさは見事だ。一応ここ、公共の場所の筈なのに俺達以外は誰もいないレベルである。
「ドリル……ドリル?」と自分の手の平を見つめて呟いているたえを片手で抱き寄せながら、砂浜がこうなっている間接的な原因を見た。その原因は、ちょうど俺達の所に戻って来るようだ。
「2人とも楽しそうね!」
「ああ。お蔭さまで」
以前に知り合った弦巻こころという少女。彼女が原因だと思っている。
といっても、こころが何かした訳じゃないだろう。ただ黒服の人達が、良かれと思ってこころに害をなす可能性のある人を取り除いたら誰も居なくなったとか、そういうオチの筈だ。
「あ、こころ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたのかしら?」
たえは手の平を広げて、こころに見せて言った。
「ドリルに見える?」
「いや、何言ってんだ」
市ヶ谷さんがツッコミと共に波打ち際から戻ってきた。もちろん水着姿でだ。
「あっ、有咲。どう?ドリルかな?」
「意味わからんからノーコメント」
そう言って俺達をスルーしながら飲み物を飲み出した。こころはたえの手の平をまじまじと見つめて時々触りながら、たえと話している。
「……そういえば、そもそもドリルって何かしら?」
「はぐみ知ってるよ!ドリルっていうのは、人のお願いと希望を持って明日を切り開くヒーローの武器なんだよ!」
こころと同じく以前にも会った、はぐみが色々間違った補足説明と一緒に泳ぎから帰ってきた。
「つまり、タエさんはヒーローなんですね!凄いです!」
はぐみと一緒に戻ってきた、どう見ても北欧系の少女は今回が初対面。名前は若宮イヴというらしい。
パスパレのキーボード担当で、雑誌のモデルもやってる彼女の特徴を一言で説明するなら『サムライに憧れてる系女子』。
なんなんだ、花咲川にはクセの強い人間が集まりやすいのか?
「凄いわ!たえの片手は、みんなを笑顔に出来るのね!」
「私の片手で、みんなに笑顔を……?」
勝手に盛り上がり始めた4人。そのタイミングで、話を聞いていたらしく"やっちまったな"みたいな顔した市ヶ谷さんが戻ってきた。
「おいどうすんだよ、もう収拾つかないぞコレ」
「見事に話が捻れていったな。ドリルだけに」
「は?」
「すまん」
でも結構上手いこと言えたような気が分かった悪かったからそんな目で見るな。
そんな俺を見兼ねてか、市ヶ谷さんが手を叩いて4人を止めに入った。
「はいはい。その話は後でも出来るだろ?せっかく海に来たんだから、もっと泳ぐなりなんなりしないと」
「それもそうね!なら、あそこに見える島まで競走よ!!」
「「おー!」」
「だからそれはダメだって言ってんだろ!?ああもう、はぐみとイヴも行くなってー!」
走り出した3人と、それを止めるために走り出した市ヶ谷さん。4人は海に飛び込んだかと思うと、足の着く浅い場所で水遊びを始めた。
「私達も行こう」
「はいよ。……女子の中に1人俺が混じるのも変な気がするけど」
まあ、海に来ておきながら1度も入らないのは何か違う気もする。 そして……なんか情けないけど、 こころやはぐみは身体能力が俺より上だ。身体能力的な意味で男子が2人増えたみたいなものだから、実質男子は3人居ることになる。
だから俺は1人じゃない。そう考えないと、やっていけない。
「しっかし、こころが居て本当に良かったよ」
「なんで?」
「こころが居ないと、今頃ナンパされまくりで遊ぶどころじゃなかっただろうしさ」
モデルやってるイヴや、モデルに匹敵するたえは勿論だが、残りの3人だって美少女だ。
それだけに人目につきやすく、またナンパもされやすい。
「そうかな?」
「そうさ」
たえに手を引かれるまま立ち上がり、市ヶ谷さん達の所に向かいながら言う。
「自覚しとけよ。お前も、すっごい美人なんだから」
「っ!」
「あら、やっと来たのね2人とも!」
「遅いよー!」
「遅れて悪かった。行くぞ、そらっ!」
先制で水を思いっきり掛けると、「きゃー!」とか「わぁー!」とか喜びの声が聞こえてくる。そしてお返しと言わんばかりに水圧の強い水が幾つも……
「いやちょっと待ぶへっ!なんだその水鉄ぽうっ?!」
「すぐ近くに漂っていたの!きっと私達と遊びたいのよ!」
「行くよー、それっ!」
漂ってたにしては明らかに綺麗なんですがそれは。これは間違いなく黒服さんの仕業だな。
「くそっ、流石に分が悪い。てったーい!」
「逃がさないよ!」
「待ちなさーい!」
「これがハイスイノジンですね!」
背水の陣は背後からバンバン勢いのある水が飛んでくる状況の事では断じてないと、そんなツッコミを入れる暇も無いくらい俺は追い回された。
「どした?心臓の辺り押さえて」
「私、優人にナンパされちゃった……」
「は?」
「いきなり、お前も凄い美人だって言ったの。これってナンパだよね?」
「……おう」
「どうしよう。この後お持ち帰りされちゃうかな?」
「…………そうだな」
俺が追い回されてる横で、そんな会話があったとか。後で市ヶ谷さんから聞いた。
◇◇
「くそ……もう動けん……」
「楽しかったねこころん!」
「ええ!やっぱり夏の海は良いわねはぐみ!」
「……なんで、この2人は余裕なんだ……?」
俺が倒れてる横でハイタッチを交わす余裕さえあるこころとはぐみ。一体どこで差がついたんだ。
「まあ仕方ないんじゃね?あの2人についていける体力の持ち主なんて、そうは居ないだろうし」
「お2人は凄いです。私はまだ修行が足りないみたいですね……」
「修行で何とか出来るレベルじゃないと思うぞ」
あんなに全力で走ったのは久しぶりだった。それこそ身体測定の時以来だっただろう。ところで、普段動かない人間が全力を出すとどうなると思う?
「まだ力が入らん……」
「よいしょっと……よし。出来た」
「たえは何やってんだ」
答えはマジで動けなくなる、だ。もうちょっと正確に言うと動くのが億劫になる。だけど、言ってる事は大して変わらない。
そんな俺に、たえはどこからともなく拾って来た木の枝で、俺の頭の上に何か書いている。
「可愛いよ」
「男に言うもんじゃねーだろ」
「そのうさ耳、本当に可愛い」
「うさ耳の話かよ紛らわしい」
たえはそう言うと、いきなりスマホを構えだして……!?
「おい待て。何やってる」
「はい、パシャッ」
スマホから無情のシャッター音がした。まだ動けない俺の前で、撮れた写真をみんなに見せていた。
「見て見てー。可愛く撮れてるでしょ」
「わあっ、可愛い!」
「ええ、本当に可愛いわ!このうさ耳!」
「そっちかよ!?」
さっきので疲れたから、無言で女子達のやり取りを見つめている。動きたくぬぇ。
すると、1人別の方向を見ていたイヴが、何かを見つけたのか向こうの方を指さしながら言った。
「あっちにビーチバレーのコートがありますよ!次はビーチバレーで遊びませんか?」
「いいわね!じゃああたしははぐみと組むわ!」
「負けないよ!」
アカン。
「待て待て待て?!弦巻さんと北沢さんのコンビとか、やるまでもなく私とイヴの負け確じゃねーか!」
「そんな事、やってみなきゃ分かんないじゃない!」
「やるまでもなく分かってるから言ってんだよ!」
大変そうだなーと、ボーッとしながら話を聞いていたら、倒れてる俺の隣にたえが寝っ転がってきた。
「……たえ。何してんの?」
「ふふ、優人の体あったかくなってる」
ぺたぺたと触ってくるたえの手はちょっと冷たかった。たえは俺を少しぺたぺた触った後、水着のひらひらした部分を摘んで俺に見せてくる。
「ねえ優人。水着、似合ってるかな?」
「今更な質問だな……ああ。最高に似合ってる」
「もっと好きになった?」
「もっともっと大好きになった」
その回答が気に入ったのか、嬉しそうに「私も」と言って更にくっついてくる。
海に来ても結局やる事は同じかと思いながら動かないでいると、市ヶ谷さんが指さして言う。
「つーか、おたえと優人もイチャついてないで、ビーチバレーのチーム分けに──」
「私達を砂で埋める人ーー!!」
「えっ?」
「「はーーいっ!!」」
遮るような大声に反応した2人。こころとはぐみがダッシュで寄って来て勢い良く砂を掛けはじめた。
………………たえにくっつかれてる俺も巻き添えにして。
「ちょ待てよ。なんで俺も埋められてんだ!?」
「暴れちゃダメだよ。ほら、大人しくして」
バタつかせようとした右腕がたえの左手に掴まれる。左腕は既に絡み合って離れないように手までガッチリホールドしてるから動かせない。そして動かそうとした両足も、たえが左足と右足で挟み込むようにして拘束される。
たえによって完全に自由を奪われた俺は、身体が埋まっていくのをただ見ている事しか出来なかった。
「出来たわーっ!」
「見事に埋まったねー!おたえ、写真撮る?」
「お願い。スマホはそこにあるから」
いくよー。とはぐみがスマホのカメラで俺達をパシャリ。首だけしか自由に動かせないから手で顔を隠すことも出来ず、ただされるがまま写真を撮られ続けた。
「うん、それくらいでいいよ。ありがとうはぐみ」
「気にしないでよおたえ!じゃあはぐみ達はビーチバレーしてくるから、2人は楽しんでてね!」
「行ってらー」
こころとはぐみが走り出した、その横では、市ヶ谷さんがイヴによって死地に連行されようとしていた。
「アリサさん、一緒にギョクサイしましょう!」
「笑顔で言うことじゃねーし、玉砕って砕けること前提かよ!?やめろー!死にたくなーい!」
「ブシには諦めも肝心です!」
「私は武士じゃねー!ちょま、おたえと優人も来いよ!」
「ごめん。埋まってるから動けない」
「ざけんなーーーーーっ!!」
連行される市ヶ谷さんの声が遠ざかる。ちらっと声が遠ざかった方を見れば、審判不在のままビーチバレーが始まろうとしていた。
たえと俺は暫く無言で市ヶ谷さんの悲鳴混じりのはしゃぎ声を聞いていたが、隣で鼻歌まで歌ってるたえが気になったので声をかけた。
「随分と上機嫌だな」
「だって、こうすれば優人は何処にも行かないから」
「だから常に迷子になってんのはお前だと何度も言ってるだろうが」
「でも優人、あっちにフラフラこっちにフラフラしてる。ついでに鼻の下ちょっと伸ばしてる」
「…………そんなことないぞ」
バレてたか。いや、しゃーないやん。市ヶ谷さんの破壊力に加えて、それ以外の面々だって美少女なんだから。
「不安なんだよ?優人が色んな女の子と話して、ついでにちょっと嬉しそうなのを見てるのって」
「ただ話してるだけなのに?」
「じゃあ私が色んな男の人としょっちゅう話してて、しかも嬉しそうだったら優人どう思う?」
………………なるほど。これはあまり良い気がしないな。想像だけど不安になってきた。
「分かれば宜しい」
「よーく分かったよ。これから気を付け──」
「それに」
「ん?」
「…………優人にビーチバレーさせたら、ラッキースケベの可能性ありそうだし」
「お前そっちが主目的だな?」
俺含めて6人だし、さっきの話の流れ的に3人3人で分かれてビーチバレーやらされてただろうから、可能性が無いとは言えないけども。
「…………空、青いね」
「ああ。綺麗な青だ」
「向こうに大きな雲もあるね」
「ああ。凄いな」
青い空に遠くの方に見える大きな白い雲が映える。海も煌めいているし、吹っ飛ぶボールと遠くへ走り出した市ヶ谷さん。そしてそれを追いかける3人。
…………後半は見なかった事にしよう。
「美味しそうだよね」
「ああ……ああ?」
「お腹減ってきちゃった」
たえは立ち上がって、その砂まみれの手を俺に向けて差し出した。
「私はラムネが良いかな。優人は?」
「……じゃあ水で」
その手を取って立ち上がり、体に付いた砂を叩き落としながら答えると、たえは変な物を見るような目で俺を見た。
「なんだよ、なんでそんな目で見るんだ」
「趣味は人それぞれだから私は何も言わないよ。でも味気なくない?」
「速攻で前言を翻してるし、しかも水が味気ないのは当然だろ」
「……まあいいや。いざとなったら分け合えばいいもんね」
たえの半歩後ろを歩いて着いた先は海の家。そこで店番をしているサングラスの女店員さんに、たえは指を2本立てながら言った。
「かき氷2つ下さい。私はラムネ味のシロップで、優人は水」
「…………は?かき氷?」
「かしこまりました」
俺が止める間もなく、たえに渡されたかき氷。ちなみに代金は、またも弦巻家の持ちらしい。気前良すぎて怖いくらいだ。
良く見たらかき氷の容器に当然のようにミッシェルが印刷されてるし、もしかしなくても店員さん黒服の人だな?
「はい優人。かき氷に水を掛ける人なんて初めて見るけど、美味しいの?」
「あ、ありがと……じゃなくて!かき氷に掛けるシロップの話なんて何時したんだよ!?」
「さっき。私はラムネって言ったし、優人は水って答えたよね」
「飲み物の話じゃなかったのかよ!!」
「喉乾いたの?なら向こうのクーラーボックスに入ってるよ」
そうじゃねーよ。そういう事じゃねーんだよ。なんでかき氷なんて単語が1度も出てきてないのに、かき氷に掛けるシロップの話になってんだよ!
「まあまあ。はい、あーん」
「あーん…………これどうしよう」
ラムネ味のかき氷を飲み込みながら、手元の水掛けかき氷を見る。見事に透き通っていて、味気の欠片も無いのが見た目で分かる。
「優人、あーん」
たえが口を開けて待っている。このかき氷を食わせろって事なんだろうけど、でもこれは……。
「
「……あーん」
口を開けたまま催促されたので取り敢えず食べさせた。たえの表情は変わらないが、食べなくても美味くない事は分かっている。
「うん、美味しい」
「それは嘘だろ」
「嘘じゃないよ。海風が味をつけてくれてるから、口いっぱいに海を感じられるもん」
「本当か?」
俺も1口食べてみる。口を開けた時に入ってきた海風が、確かに塩味っていうか、海の味っていうか……をつけてくれているような気がする。
つまり決して美味くはないんだが、夏の海が補正をかけてくれるのか、不思議と味気なさは感じなかった。
「はっ!もしかして、優人は最初からこれを分かってて……」
「偶然だ」
「やっぱり天才……」
「話を聞け」
「あーっ!おたえとゆーくんがかき氷食べてるーーっ!」
はぐみが俺達を指さして叫ぶと、かき氷に釣られて3人が集まってきた。
「ずるーい!はぐみも食べるー!」
「向こうの海の家で貰えるよ」
「そうなのね!なら行きましょう、はぐみ!イヴ!」
「私、抹茶味のかき氷が食べたいです!」
そしてすぐに海の家に走っていった。まだ元気が有り余っているようだ。
「それに比べてこっちは……」
「有咲。そんなところで寝てたら日焼けしちゃうよ」
「ぅ、るせぇ……動けないんだよ……」
3人に追い回されてる疲労困憊の様子の市ヶ谷さん。恨めしそうに俺達を見ているのは、体良く3人の相手を押し付けられたからだろう。
「なんか……すまんな」
この水掛けかき氷で許してくれ。
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他