おたえらしさを出す。イチャつく。両方やらなくちゃいけないのが辛いところさんですな。自ら望んで選んだ道なので覚悟は出来てますけども。
……おたえらしさが出てない?アーアーキコエナーイ
「買って」
と言われれば
「ダメです」
と返す。
「ケチ」
と言われれば
「ケチで結構」
と返す。
「あほー」
と罵倒されれば
「あほー」
と罵倒し返す。
……時間にしておよそ10分くらい前から、たえとずーっとこんな調子でやり取りをしている。
なんでそんな事になっているのかと言われれば、偶然目についた物が原因だった。
と、その前に。
アラジンという作品は知っているだろうか。魔法の絨毯で空を飛んだり、ランプの精霊が出てきたりする、あの作品だ。ハハッなネズミの国が作成しているアニメ映画を1度でも見た人は多いと思う。
たとえ見たことがなくとも、大体のイメージは分かっているという人は多いだろう。その作中に出てくる魔法のランプが欲しかった人も居るかもしれない。
今たえが欲しがっているのは、そんなアラジンに出てきそうなコッテコテのランプ……もとい、カレーを入れるランプみたいな形をした容器である。正しい名前は知らない。
……このショッピングモールの雑貨店は異彩を放つ置物やらキーホルダーやらが多いが、ここまで変わった物まで扱っているとは思わなかったな。
「なんでダメなの」
「なんでって、こんな用意も片付けも面倒な物使ってどうすんだよ。カレーなら普通にかければいいじゃん」
こういうのは雰囲気を味わう為のもので、カレー専門店とかで出てきた時にその存在を思い出す。くらいが丁度良いと思う。
家で使うのは洗う手間が増えるだけで、良いことは殆どない。どうせ1回で押入れ行きだろうし。
「カレー以外にも使えるもん」
「……例えば?」
しかし、たえは何故かこのランプが気に入ったようで、どうあっても買って帰るつもりらしい。
俺に使うつもりでなければスルーしたが、俺と自分のとで2つも買おうとするのは流石に止める。安くはない値段だしな。
「シチュー」
「それだって、たまにしかやらないメニューじゃないか。やめとけよ金の無駄だ。それより、その金で肉とか食った方が遥かに有意義な気がするけどな」
「じゃあ、えーっと」
「こういうのは日頃から使わないんだったら意味無いって。お前のことだし、どうせすぐ押入れ行きになるに決まってる」
「日頃から、使う……」
……まあ、このランプに限って言えば、たえでなくとも押入れ行きは免れないだろう。少なくとも俺は2度と使わない。そんな未来が見える。
「…………お味噌汁!」
「ほー、味噌汁か。それなら確かに毎日使えるな。うん、ばーか」
汁物だったら何でもいいのかお前は。イメージ合わなすぎるって。
「むむ、優人のケチ」
「ケチじゃない。目の前で浪費しようとしてるバカを止めてるだけだ」
「お願い。ちゃんとお世話するから!」
「ダメです。元の場所に戻してらっしゃい。……というか、それは無機物に使っていい言葉じゃねーよ」
「やだ!絶対買うもん」
「子供かお前は」
……たえも1歩も退かないから、なんか埒が明かなくなってきたぞ。
とか思っていると、たえは何か思いついたように話を変えた。
「あっそうだ、ねえ優人。そういえば、お味噌汁とか入れる保温容器が欲しいって言ってたよね」
「言ったけど、なんだ藪から棒に」
これから寒くなるし温かい物が欲しいと言った覚えはあるけど、それがどうして今唐突に持ち出されるのか。俺が不思議に思っていると、たえは手にしたランプを俺に差し出してきて言った。
「はい、これ丁度いいね」
「お前ふざけてんだろ」
「私は本気。これを使えば人気者間違いなし」
「晒し者の間違いだな」
下手すればイジメまで一直線だろ。たえみたいな天然が使うならまだしも、俺が使ったらそっちコースまっしぐらになりそうだ。
「水筒の代わりにもなるよ。冷たい飲み物がこれに入ってたら、なんか特別な気持ちにならない?」
「まず、えっ?ていう気持ちが来ると思うけどな。しかもコレって形状的に持ち運びにくすぎるだろ」
鞄に入らないことは無いけど、そうとう苦心した挙句に鞄の中ですぐ横転しそうな不安定さがあり、縦にすれば中身がドバーっと飛び出る。ランプは持ち運ぶ為のものじゃないから当然なんだけど。
「そもそも保温容器なのか?これは」
「熱々のカレーが入るんだから保温容器だよ」
そして、たえは俺がさっきカゴに入れたタッパーを指さして言った。
「そういえば優人だってさっきタッパー買ってたじゃん。保温容器のタッパーと、保温容器のランプ。そこに何も違いなんてないよ!」
「違うに決まってんだろ」
「仲間はずれはよくない。タッパーちゃんもランプくんが仲間はずれで悲しがってるから買うべき、そして一緒に使うべき」
「なにがお前をそこまで必死にさせるんだ」
意外性はあるだろうけどさ──と考えながらランプを見ていると、俺の腹の虫が鳴いた。
朝にパンしか食ってないからか、まだ11時くらいなのにもう空腹でヤバい。
「優人は素直じゃないね」
「どういう事だ」
「口では認めてないけど、身体は違うみたいだよ。
「それは流石にこじつけ──」
……また鳴った。ドヤ顔で俺を見るたえは、そのままカゴに2つのランプを入れてレジへ向かおうとする。
「分かったよ俺の負けだ。腹も減ってきたし、もう負けでいいよ面倒くさい」
「やった!じゃあ今夜はカレーだね」
「でも」
たえに代わってカゴを俺が持ち、片手で財布を出しながら言っておく。
「1個は俺が買うよ。すっげぇ不本意だけど、自分の分まで買わせるのは人間としてダメだろ」
「…………優人」
たえは一呼吸置いてから言った。
「やっぱり優人も使いたいんだね」
「やっぱお前が2つ買え」
「冗談だよ」
嘘つけ絶対本気で思ってたぞ。
◇◇
空をじっと眺めていると、雲は思ったよりずっと早く動いているのが良くわかる。
ふとした拍子に見上げてもそんな事は思わないのに今はそう思えるのは、立ち止まって空を見る余裕があるからなのだろうか。
なんて、ちょっぴりカッコつけながらティーカップに口をつける。するとブラックコーヒーの苦味が口の中に広がった。
空に向けていた目線を下に下ろせば、今度は庭で動き回っている大量のウサギ達が視界に入る。
一般家庭では1羽も見られないウサギが21羽も、しかも動物園に行かずに家の庭で見られるなんて、普通じゃ考えられない。
「なんか贅沢してる気分だ……」
「やっぱりそう思う?奇遇だね、私もそう思ってたんだ。たとえインスタントのコーヒーとティーバッグの紅茶でも、容器が金色に輝いていると、なんかゴージャス感あるよね」
横からたえの声がする。俺はそっちに顔を向けて、受け皿にティーカップを置いた。たえはクッキーを1枚手に取って食べている。
「そういう意味じゃないんだけど……まあいいや」
「お代わりいる?」
「自分でやるからいい」
テーブルに置いてある2つのランプは、陽光を反射して黄金に煌めいていた。まあどうせ金メッキなんだろうけど、たえの言う通り若干ゴージャスな感じはある。
明らか西洋デザインのティーカップやクッキーの中に平然とあるランプ、という違和感さえ飲み込めればの話だけど。
俺はランプの一つを手に取って、その中身をティーカップに注いだ。……インド系なイメージのあるランプからコーヒーが出てくる光景って、結構シュールだよな。
「たまには、こうやって時間を潰すのも悪くないかもな」
こうして花園家の庭でお茶をするというのは、家に帰る途中でたえが言い出した事だが、こうして静かな時間を過ごすのも悪くないかもしれない。
「うん。クッキー美味しい」
「味わって食えよ。それ、コンビニで売ってる土産物用のクッキーなんだからな。楽しみに取っておいたんだからな」
「知ってる。私にはナイショで食べようとしてたのも知ってる」
「………………でもどうしたんだよ。いきなりお茶会しようだなんて、らしくないじゃん」
だからなんでバレてるんだよ。と冷や汗をかきながら強引に話を逸らす。たえはジト目を暫く俺に向けた後、もう一つのランプから紅茶を注ぎながら言った。
「家族サービス」
「それ、どっちかっていうと夫側の俺が使う言葉な気がするんだけど」
「優人は私の嫁。つまり私は優人の夫だから問題ないね」
「とうとう性別も認識できなくなったのか?」
「でもネットだと、こういう表現になるんでしょ?何とかは俺の嫁って。だから優人は私の嫁」
久しぶりに聞いたなその言葉。そういえば、その言葉って男が女性キャラに使うのしか見たことないけど女が男に使えるのか?
「それにさ。最近はライブもあったし、優人と2人だけの時間って殆ど取れなかったから」
「俺は気にしないぞ」
「私は気にする。甲斐甲斐しく着いてきてくれる嫁にサービスするのは夫の責務だから」
「まだ言うか」
ライブが近くなれば、当然練習の時間は多く取られるようになるし、自主練をする時間も長くなる。たえは昔からギターの練習が生活の一部に組み込まれてるから俺は気にしていなかったが、当の本人が気にしていたようだ。
「だから今日と明日はポピパはお休み。香澄達もいいよって言ってくれたんだ」
「そうだったのか」
たえがそんな事を考えてくれていたなんて、正直思わなかった。心のどこかではポピパを、というか音楽を優先するだろうと思っていたからだ。
普段が普段だからイメージつかないだろうが、音楽に関しては妥協をしないし許さないのがたえなのだから。
「じゃあ、このランプも家族サービスの一環だったのか?」
「それは私の趣味」
「ああそう……」
……感動が一瞬冷めたけど、それでも俺を想っての行動に変わりはない。
「ありがとな」
「お礼なんていいよ。夫婦の時間を作るのは当然だから」
そう言って、たえは紅茶をぐい飲みした。飲み終わったたえの頬が赤くなっていたのは、熱い紅茶で身体が温まったのだけが理由ではない筈だ。
「……もう一杯!」
「あ、おい待て。そっちは……」
言ってから気恥ずかしくなったのか、照れを隠すようにして俺が止める前にランプを傾け──コーヒーが、紅茶の残っていたカップに注がれた。
「あーあ」
紅茶inコーヒーという、ドリンクバーでも滅多に作らないだろうあからさまな地雷を作ってしまったたえは、無言でカップに口をつけて、すぐに戻した。
「…………苦しみも喜びも分かち合うのが夫婦だよね」
「自分の不始末は自分で片付けろ」
……なんかイマイチしまらねぇなぁ。
不味い不味い言いながらチラチラ俺を見つつ紅茶inコーヒーを消費しているたえに溜息が出る。いつもの事と言えばそうなんだけど、こういう時くらいは最後まで決めて欲しい。
「クッキー食って中和しとけ。それで我慢しろ」
「うーん、中身が見えないから紛らわしい。しかも装飾も同じだからティーバッグのヒモで区別するしかないし……まったく。これ使ってお茶会しようなんて誰が言ったの」
「お前だよ」
俺が来たら既に用意してただろうが。しかもドヤ顔で「こんな使い方を思いつく私は天才かもしれない」とか言ってたのに。
「今度からスティックシュガーか角砂糖の入れ物にしようかな。それなら間違えないよね」
「まずランプを使うって方向から離れないか?」
「やだ」
「……そうか」
このランプの何が、たえをそこまで惹き付けるのかは分からない。まさかアラジンのようにランプから精霊が出てくるのを期待してはいないだろうけど、その感性は長い付き合いでも分からない。
「それで優人。甲斐甲斐しく着いてきてくれる嫁にサービスするのは夫の責務だよ」
「さっき聞いた。それがどうした?」
「にぶいなぁ」
たえは片手を俺に出した。薬指には、嵌められて以降よほどの事が無ければ外されていない指輪が輝いている。
「優人はどんなサービスしてくれるの?」
「お前、俺のこと嫁とか言ってただろ」
「今から私が嫁ね」
「おい」
言ったもん勝ちじゃねーか。性別的には正しい筈なのに何故か納得いかねぇ。
「今のは冗談だけど、そういうのを抜きにしてもサービスは期待してるよ」
「そうか。じゃあ明日も休みだし何処か行くか?」
「なら蔵に行こう」
蔵、つまりは市ヶ谷さんの家か。でもさ
「ポピパは休みなんだろ?」
「蔵は年中無休だし、いつでも自由。フリーダム」
「行きたいならいいけど……市ヶ谷さんしか居ないと思うぞ」
いや、香澄は居るかもな。しょっちゅう市ヶ谷さん家に入り浸ってるみたいな話を聞いた事あるし。
「いや、来るよ。ポピパは来る」
「……またグルチャで集めたな?」
「察しがいいね。じゃあ早く行こっか」
「ポピパってフットワークかる──え、今から?」
「そうだよ?」
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他