ようこそ花園ランド   作:因幡の白ウサギ

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おたえの作品が増えていない以上、大人しく棺桶で寝てなんていられないんでね!



帰ってきたウルトラたえ

 

「優人。私は今、とても怒ってる」

 

 話があると呼び出され、俺の家のリビングに連れてこられた俺は、あからさまにムスッとした表情のたえにそう言われた。

 それだけなら何かやらかしたかと身構えるところだが、俺はたえに怒られるような事をした覚えは無いし、たえも俺の手元の煎餅に目線をやっているから、実は怒っているポーズをして煎餅を要求しているだけなのかもしれない。

 

 なんにせよ重要な話ではないだろう。このとき俺はそう考えていた。

 

「……そんなこと言われても、俺なんかやったか?ほい煎餅」

 

「ありがとう」

 

 パリパリと煎餅を齧る片手を止めず、もう片手で煎餅を物欲しそうに見ていたたえの口元に持っていく。

 すると、たえは煎餅に齧りつき、もぐもぐして飲み込んでから更に齧りつき、もぐもぐして飲み込んでから更に……

 

「おい待て。あげといて言うのもなんだが、怒るんだか食うんだかハッキリしろ」

 

「………………」

 

「いや食う方優先なの?」

 

「もう一枚ちょうだい」

 

「おい」

 

 お前の怒りは煎餅一枚以下なのか。やっぱ煎餅が欲しいだけだろ。そうツッコミたいのを我慢して、俺はたえが満足するまで煎餅を口元に運ぶ仕事に暫く従事しなければならなかった。

 

「──で、なんで怒られてんの俺。怒られるようなことをやった覚えはないんだが」

 

 煎餅が残り5枚になったタイミングで、これ以上喰われてなるものかと俺が話を戻す。たえは煎餅で満足していたのか、俺に言われて「そういえば」みたいな顔をした。

 ……なんで自分から怒られにいかなきゃならんのかという疑問は心の奥底に封印。たえと一緒に居て、そういうのを言い出すとキリがない。

 

「そうだった。ねえ優人」

 

「なにさ。ホントに心当たりは無いぞ」

 

「私ね、とても楽しみにしてたの」

 

「はい?」

 

 唐突に、たえは酷く落ち込んだ顔を俯かせた。その仕草に思わず心臓がドキッとしてしまう。

 たえは煎餅を手に取りながら言った。

 

「その日が近づくと何時も玄関で待って、ギターの練習も玄関でやって、家に帰ったらお母さんに聞いて」

 

「ああ」

 

「でも来ないの。その日が過ぎて、何時まで経っても来ないの。私、嫌われてるのかなって考えたら落ち込んじゃって、みんなにも心配された」

 

「ああ……」

 

 あ、これマジでやらかした奴?

 

 つうっと俺の背中にやけに冷たい汗が流れる。経験上、こういうガチの落ち込み方をした時は俺に非がある。

 そして落ち込み具合的に、俺が何かやってはいけないミスをしでかした可能性が高い。

 

 いや待て落ち着け。まだだ、まだ勘違いの可能性もある。

 

 俺Aの発言に、しかし俺Bが反論した。

 

 だが、たえがこうなった時、勘違いだった事が今まであったか?

 

 …………無い。

 

 ヤバいヤバいヤバい。たえがここまでの落ち込みを見せるって相当だぞ。

 考えろ俺、考えろ!なんだ、何を忘れてる?

 

「だからね、優人には責任とって貰うの」

 

「ちょっと待て。待ってくれ。悪いがマジで身に覚えが無い。教えてくれ、俺は何をやらかした?」

 

「…………覚えてない?本当に?」

 

 たえは信じられないとでも言いたげな目で俺を見る。そして、たえにしては珍しく大きな溜息をついて、ムスッとした表情を作った。

 そしてその表情のまま煎餅を更に一枚持っていく。

 

「信じられない。あれだけ毎年楽しみに待ってたのに。恒例行事だったのに」

 

「ええ……?うーん……」

 

 恒例行事。この時期に?心当たりが無さすぎる。夏祭りではない、花火大会でもない。本当に何なんだ?

 そうやって混乱する俺を他所に、たえはスウッと息を吸い込んで──

 

「スイカ!!!」

 

 堂々と、そう言い放った。

 

「……は?」

 

「今年はスイカのお裾分けが無いよ!!」

 

 ………………

 …………

 ……

 

 リビングにバリバリと煎餅を噛み砕く音が響く。俺が固まったのを見て、たえは不思議そうにこっちを見ながら、また煎餅を持っていった。

 

「いや、あのな……」

 

「優人、どうかした?」

 

「俺の心配を返せよ!!!」

 

 つまりこういうことだ。

 毎年ウチの親戚の人が夏になるとスイカを送ってくる。しかし一玉ではなく二玉、三玉と送ってくるため、とてもじゃないが俺の家族3人で食べ切れる量ではない。

 なので近所にお裾分けに行くのが毎年恒例のようになっていて、たえはそのスイカをとても楽しみに待っていたそうだ。

 

 ただ今年は珍しく、例年の時期になっても親戚からスイカが送られてこない。だから当然スイカのお裾分けも無いのだが、その事を知らなかったたえは、俺がたえの分までスイカを食べたと思ったらしいのである。

 

「……色々とツッコミたいことはあるが、まず言わせてくれ。それは俺がスイカをそれほど好きじゃないと知っての発言か?記憶が正しいのなら、俺は自分の分までお前にあげてた──というかぶんどられてたんだが?」

 

「そうだっけ」

 

 たえがぷいっと目を逸らす。だがその仕草こそが、たえが俺の分まで食ってた事を記憶している証拠だ。

 たえが伸ばしてきた手を叩き落として煎餅を確保してから俺は言った。

 

「そもそもの話、スイカ食いたいなら買ってくればいいだろ」

 

「お母さんと私だけで一玉は流石に厳しいよ。食べられなくはないけど」

 

「……なんで一玉食う前提なんだ」

 

「とにかく、私は怒ってる。伝えてくれてれば諦められたのに、教えてくれなかったから期待させられた。

 乙女心を弄んだ罪は重いんだからね」

 

 どこにスイカで揺れ動く乙女心があるんだと言ってやりたい。言ったら「ここにあるよ」とか返されそうだから言わないけど。

 

「弄んだつもりは無いし、ぶっちゃけスイカで怒られるのは予想外すぎるんだけど……伝えなかったのは悪かったよ」

 

「つーんだ」

 

「そんなにスイカ食いたいのか」

 

「ふーんだ。スイカで機嫌取るなら今のうちだよ」

 

 寄越せと言わんばかりに手のひらを出しながらの、あまりにド直球なおねだりに思わず苦笑いが溢れる。

 まあ、確かに伝えなかった俺にも非はあるか。

 

「分かった分かった。じゃあ買いに行くか」

 

「よしっ、すぐ準備するね」

 

 ガッツポーズをしたたえは俺が左手を伸ばした煎餅を掠めとると、そのまま走ってリビングを出て行った。恐らく自分の部屋に財布などを取りに行ったのだろう。

 そんなたえを見送ってから俺は空を掴んだ左手に目線を向けて、そして気づいた。

 

「あいつ…………最後の一枚、持っていきやがった……」

 

 

 

 

 さっきまでの落ち込みは何処へやら、一転してルンルン気分なたえを連れてやって来たのは、駅前のショッピングモールである。

 おやつの時間くらいから外に出たからか、もう時間は4時を回ったところだ。

 

「夕方になれば涼しくなると思ったんだけどな」

 

「そんなことなかったね」

 

 夏真っ盛りな今、夕方とはいえ普通に暑い。飛び込むようにして入ったショッピングモール内のガンガンに効いた冷房が肌に良く沁みた。

 

「スイカは……地下の食品売り場にでも行けばあるか」

 

「ねえあれ見て優人。ウサギ招き猫」

 

「秒で矛盾すんのやめ…………うっわマジか」

 

「買おう」

 

「やめろ。……なんでカレーランプといい、ウサギ招き猫といい、変なのしか売ってないんだよ」

 

 途中たえが雑貨屋に引き寄せられるトラブルがあったものの、なんとか諦めさせてエスカレーターで地下へと降りる。

 

「あっそうだ、ついでに夕飯の買い物に付き合ってよ」

 

「良いけど、まずスイカを見つけてからな」

 

 スイカはすぐに見つかった。夏場の目玉商品として売りたいのか、目の着く場所に堂々とコーナーが設けてあったからだ。

 

「で、どうする?半分にカットされた奴と一玉まるっとの奴があるけど」

 

「それはモチロン一玉に決まってるよ」

 

「おいおい。食べ切れるのか?」

 

「大丈夫だよ。うちは食いしん坊しかいないから、一玉くらいなら余裕で無くなるし」

 

 時間が時間だからか、夕飯の買い物に来ている人が多い。……傍から見たら、俺達も同じように見えているのだろうか。

 

あいつら(ウサギたち)って、そんなに食うの?」

 

「食べられるけど、あげるのはほんとに少しだけ。じゃないと身体を悪くしちゃうから」

 

「へー。でもそれじゃあ一玉を消費するのって難しくないか?お前と野々絵さんの2人だけだろ」

 

「えー、そうかな?幾らでも使いようはあるよ」

 

 真剣な眼差しでスイカの方を見ているっぽいたえは、その目線を動かさずにそう言った。

 

「例えば?」

 

「まずは無難に生でいくよね」

 

 そりゃそうだろう。というか生以外の選択肢はあるのかと聞きたい。

 

「次に思いつくのはサラダかな」

 

「まあ……そういうのもあるか」

 

 花園家で夕飯とか頂く時に出てきた記憶は無いが、たえが言うのだからサラダにも使うのだろう。

 ……スイカをサラダに使うなんて聞いたことも無いけど、そこは花園家だしな。

 

「優人の家では使わないの?」

 

「普通使わなくね?」

 

「うーん。好みの問題なのかな」

 

「というか、滅多に聞かないだろ」

 

 俺の横に居た主婦が、スイカ売り場のすぐ隣にあったキャベツをカゴに入れて持っていく。

 ふと周囲を見渡してみると、ちょうど混む時間なのか、段々と客の数が多くなってきているようだった。

 

「優人は嫌い?」

 

「さっきも言ったろ。好きじゃない」

 

「でも嫌いじゃないから、出たら食べるんだよね。ツンデレさんだ」

 

「食べ物の好き嫌いにツンデレって表現使うの初めて聞いたわ」

 

 しかも誰がツンデレだ。そんなツッコミの言葉を何とか飲み込んで、何を吟味しているのか、いっこうに動かないたえを軽く小突いた。

 

「そろそろ決めろ。立ちっぱなしも迷惑だし、早く帰らないと夕飯に遅れる」

 

「あっ、そうだった」

 

 ……どうやら忘れていたらしいたえは、そこでようやく動きだす。

 

「でも好き嫌いは良くないよ。ちゃんと野菜も食べないと、立派な大人になれないって良く言うし」

 

「スイカは野菜なのか……?」

 

「スイカは食後のデザートだよ。そうじゃなくて野菜の話」

 

「今はスイカの話してるだろ?」

 

 

「え?」

 

「は?」

 

 

 何故そこで素っ頓狂な声が……いや、もう何故、という言葉を使わなくても良いか。何処でズレていたんだろうな。

 

「……待った、確認させろ。お前は何の話してた?」

 

「何って、キャベツの話だけど」

 

「なんでキャベツ」

 

「さっき言ったじゃん。夕飯の買い物に付き合ってって」

 

 ほら、とたえが見せてきたメールには、野々絵さんから送られてきていた買い物リストが記載されていた。買い物内容的に、花園家の今日の夕飯は回鍋肉らしい。

 

「ああ、夕飯の買い物に含まれてたのか……まさかとは思うが、俺が最初に一玉か半分かって聞いた時から、もうキャベツの話してたのか?」

 

「逆になんでスイカの話になるの?スイカは一玉で確定だから、わざわざ聞くほどの事じゃないよ」

 

「おう。………………そうか。そうだな」

 

 言いたいことは山ほどある。あるが、言ったところで仕方ないので、俺は溜息と共にそれを胃の中に押し込めた。

 いつも通りのたえだったってことで納得しよう。

 

「話を戻すけど、本当にスイカ一玉も食えるのか?」

 

「家でも言ったけど、食べられない事はないんだよ。けど、今年はポピパのみんなとも食べたいんだよね。

 だからスイカ割りをやろうと思ってるんだ」

 

「前後の話の流れが微妙に分からん」

 

「そうだ、みんな呼んでスイカ割り大会やろう」

 

「話を聞け」

 

 また勝手に突っ走りはじめたたえを止めることは難しい。それを身をもって知っている俺は、早々に止めることを諦めて買い物カートを押してレジまで向かうのだった。

 

「でもまさかとは思うが、スイカ一つだけでスイカ割り大会とか言うつもりか?」

 

「大丈夫。スイカ柄のビーチボールはちゃんと持ってるから」

 

「ああ、そう……」

 

 まあ雰囲気は味わえるからセーフ……なのか?

 





私が安心して眠るためにも、おたえの作品はもっと増えるべき

この作品のどの部分を見に来てるんですか?

  • 会話(いわゆる花園節・おたえ節)
  • デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
  • うさぎ(説明不要)
  • その他
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