正直やりすぎたと思ってるし、急すぎるとも思っている。
4/16 話の変な箇所の修正
ギターが鳴り響き、ふとした拍子にベースも聞こえて、キーボードは結構自己主張が激しく、ドラムはガンガン鳴っている。
(バンドって、すげー)
バンド関連の知識は何もないから完全に素人目線からになるが、5人で一つの曲を作るなんて、よく出来るなあ。というのが正直な感想だった。
「──っ!つっかれたー!」
曲が終わった後、とうとう限界を迎えたのだろう。香澄がギターを置いて床に倒れ込んだ。ちょっと見ただけで分かるくらいの汗をかいている。
程度の差はあれど、他の4人も似たように疲れているようだった。
「お疲れさん。ほら、タオル」
「ありがと〜〜……」
たえが所属しているガールズバンド"Poppin'party"通称ポピパの練習場所は、主に市ヶ谷さんの家にある蔵の地下である。
たまーにスタジオを使う時もあるらしいが、俺が雑用に呼ばれた時は全て蔵で練習をしている。スタジオと違って金も掛からないから、学生には嬉しい練習場所だと言っていたような、言っていなかったような。
「んー……腕が棒みたいになってる」
「結構な時間やってたからなー」
「私も、もうクタクタ……」
「ちょっと休憩にしよっか」
ちなみに香澄達は、かれこれ2、3時間はぶっ続けで練習を行っていた。ここ最近は殆ど毎日そうで、近いライブへの意欲の高さが伺えるだろう。
「優人。太もも借りるね」
「頭乗せてから言うなよ」
たえは俺の太ももを枕にして横になるなり、胸元をパタパタさせ始めた。たえ以外がやったならドギマギするのだろうが、たえのは見慣れているからか何も感じない。
「相変わらず仲良いよね、おたえと優人は」
「幼馴染だからな」
「いや、おかしいだろ。普通の幼馴染は、そんなに距離が近くねえ」
たえと顔を見合わせて、多分同時に首を傾げる。俺達にとっては、これが普通だから、普通じゃないと言われても少し意味が分からなかった。
「……よく考えたらさ。長年おたえの幼馴染をやれてる時点で、優人も相当な変わり者なんだよな」
「あー……それ言っちゃう?」
「どういう意味だ貴様ら」
ナチュラルにド失礼な事を言いやがった市ヶ谷さんと、気付いてしまったか。みたいな表情の沙綾。
2人は「いや、だってさ」と前置きしてから言った。
「おたえとは何時からの付き合いなんだっけ?」
「この前も言ったろ。幼稚園か、それより前だ」
「その時から、おたえはこんな調子だったんだろ?」
「そうだよ」
だから高校に入るまで、俺以外にマトモな交友関係が無かったんだからな。
そんなだったから、たえが高校で友達を作ったと聞いた時は何かの冗談だと思ったくらいだ。
「つまりアレだ。優人は、おたえのこの性格をずっと受け止め続けて、しかも今まで関係を持ってるんだろ?」
「まあ、そうなるな」
「……その、さ。やっぱり優人って、おたえと同類なんじゃ」
「違う。絶対に認めん」
俺がこんな、突拍子の無さを体現したような奴と同列に語られてたまるか。俺は至って普通の男子高校生で、たえはぶっ飛んだ女子高生だ。
「まあまあ落ち着いて。優人が買ってきたクッキーを箱から出して、お茶でも飲もうよ」
「お前が事の中心なんだが?」
ごそごそと俺が持ってきた紙袋を漁ってクッキーの箱を取り出している、たえに俺はそうツッコんだ。
「……ちょっと待ってろ。まんじゅう持ってくるから」
「じゃあ私は、お茶でも入れようかな」
そんな流れで、香澄達の汗が引くまで休憩という事になったのだ。
「んー!このまんじゅう美味しいっ!あっちゃんに持って帰って良いかな!?」
「別に良いけど……そんな良い物じゃねーぞ?」
「りみりん、クッキーどれ食べる?」
「沙綾ちゃんのチョイスで良いよ〜」
お茶請けは俺が買ってきたクッキー(贈答用、1080円)と市ヶ谷さんのまんじゅうの二種類である。
「キャピキャピしてんなぁ……」
楽器を握っていない時の香澄達を見ると、やはり普通の女子高生なんだという事を再認識させられる。
このオンとオフの切り替えの凄さは、俺には真似するのが難しい。
「なんだろう、この場違い感」
「何言ってんだ。それより、まんじゅう取ってくれるか?」
「はいよ」
「さんきゅ」
有咲にまんじゅうを渡しながら、俺は何を食べようかと頭を悩ませる。悩ませるといっても、元々二種類しか無いわけだが。
……有咲の家では和風寄りのお茶請けが良く出るから、自分で買ってきたクッキーを今日は食べる事にしようか。
しかしそうなると、たえの方が俺よりクッキーには近い位置取りだ。俺は手を伸ばす必要があるが、たえは伸ばさなくても余裕で届く。
逆にまんじゅうは、俺の方が、たえよりも近い位置取りである。
「ん」
「はい」
なので俺がまんじゅうを手に取って、たえの口元まで持って行くのと同じタイミングで、たえもクッキーを俺の口元へ。
幼馴染特有の連携プレーを見た市ヶ谷さんは口をあんぐりと開けて、まんじゅうを手からテーブルに落とし、りみと沙綾は驚いたように此方を見て、香澄はキラッキラした目で見てきた。
「…………なに、やってんの?」
かろうじて絞り出した言葉がそれな辺りに、市ヶ谷さんの度肝の抜かれっぷりを感じて欲しい。
「たえがまんじゅうを食いたそうで、俺はクッキーを食いたかったから。じゃあ近い方を取って交換した方が良いかなと」
「……今、アイコンタクトみたいなのは交わしてたか?」
「いや、完全にノールックだったと思うけど……」
なぜ香澄以外の3人は、俺達の事を化け物を見るような目で見てくるのか。こんなの、長年過ごした幼馴染であれば割と誰でも出来るだろう。
「いや、その理屈はおかしいって」
「お前さ……そんな事やっといて、同列に語るなって方が無理じゃね?」
「俺の中では、沙綾みたいに"アレ"だけで欲しい物を判別が出来るようになって、初めて同列扱いだから」
「暗に沙綾を同列扱いすんな」
そんなつもりは無かったけど、今の言い方だと確かにそうなるか。
でも俺から言わせれば、たえとバンドまで組んでる4人は確実に似たもの同士だろう。
「香澄はともかく、りみや私まで一緒にすんな」
「ありさー。それって、どういう意味?」
「自分で考えろ」
「むしろ優人君は"アレ"だけじゃ分からないの?」
「分かるわけないじゃん」
熟年夫婦じゃないんだから、そんな抽象的な言葉だけで分かるわけがないだろう。
だからこそ、"アレ"という単語だけで分かる沙綾の異質さが際立つ。空気が読めるってレベルじゃないぞ。
「ええ……?いやいやいや、ノールックの方が凄いって」
「ノールックなんざ、年月でどうとでも出来るんだよ。アレだけで分かるのは才能だろ」
「あーりさっ、アレ取って」
「なんだよ香澄。どっちだ?」
「もー!察してよ、ほら!」
「分かんねえよ。私達は別に幼馴染でも何でもないだろ」
「ありさー!」
「だから、そんなに言われても分かんねえって!」
テーブルの向こうでイチャついてる有咲と香澄を見ながら、買ってきたペットボトルの緑茶を開けて、たえが真下に置いたであろうコップの中へと注ぐ。
……3分の2くらいでいいだろ。俺も飲みたいし、そもそも麦茶も置いてあるしな。
「ほらな。普通は、あんな感じになるんだから、やっぱ沙綾の方が凄いんだよ」
「ノールックで、お茶を注ぎながら言われても説得力が欠片も無いんだけど」
「私からすれば、沙綾ちゃんも優人君も、どっちも凄いかなー……」
「うん。2人とも凄いよ」
「おい
そこから暫く、俺と沙綾が互いを褒めるだけの流れが続く事になる。
「話を戻すけどさ。おたえと優人は、普通の幼馴染にしては距離が近すぎない?」
不毛な争いは一時休戦し、再びのお茶会途中に沙綾が切り出した。市ヶ谷さんも便乗して頷く。
「確かにな。恋人同士って言われても納得いくぞ」
「恋人ぉ?」
「……ちょっと分かるかも」
「やっぱり、りみりんもそう思うよね?」
何の冗談だ。俺が、事もあろうに、たえと恋人同士になるだなんて。
日々のツッコミを市ヶ谷さんに押し付けているような俺が、何故そんな関係に間違えられるんだ。
「馬鹿馬鹿しい。そんな関係になんて、なる訳ないだろ」
「そうだよ有咲。ありえないよ」
「ええー……そうなのか?」
何を思ったのか、ここで、たえの援護射撃が発動。想定外だが有難い。
しかし市ヶ谷さんは、たじろぎながらも疑念を隠さない。まだ疑っているようだ。
「いいか?幼馴染が恋人同士になるなんて絵空事は、マンガかアニメの中だけなんだよ。
大体の場合は、その幼馴染の悪い所ばかりが見えて"こいつと恋仲とか有り得ねえ"ってなるのがオチなんだからな」
「そういうもんなのかな。りみとか沙綾は分かるか?」
「異性の幼馴染が居ないから、何とも言えないかな」
「私も〜」
「有咲?どうして私には聞かないの?」
「だって分かんないだろ?」
「うん!」
りみと沙綾が分からないと頷いている横で漫才を繰り広げる2人。市ヶ谷さんと香澄は、実は深い繋がりでもあるんじゃないかと疑うくらい相性が良い。
「それにしても、おたえが否定するなんて意外だったな」
「おたえが堂々と否定するなんて、滅多にしないもんね」
「そんだけ気に障ったんだろ」
たえのツボも分からないが、それ以上に沸点が分からない。長年の付き合いである俺ですら、全くと言っていいほど予測不可能なのだ。
何時だったか、俺と一緒にショッピングに行ってナンパされた時、ドスと殺意を込めた「消えて」という言葉は脳裏に焼き付いている。
普段、1人の時にされているらしいナンパ程度じゃキレてない筈なのに、その時だけは明らかなマジギレだった。
そんなだから、たえの沸点は俺には全く分からない。さっきの発言も、きっと何かがマズかったのだろう。
「私と優人は恋人になんてなれないよ」
「なんでだよ。私の個人的な意見だけど、優人とはお似合いだと思うぞ?」
「だって、私と優人は──」
幼馴染であり、それでしかない。だから、そこから先に進む事は有り得ない。
そんな理由だろうなと思っていた。だから水を口に含んだ。
だが、何度でも言おう。
ここに居るのは、常識の通用しない不思議メルヘン少女"花園たえ"だ。
たえから発せられる、あらゆる言葉は、常人とは異なる意味合いを持つ事を……俺は失念していたのだ。
「──もう、結婚の約束してるから」
たえを除いた、全員の口から水が噴き出した。
「ゲホッ、ゲホッ……!?おいおいおいおい!なんだよ、その理由は!?」
「優人、もしかして忘れたの?ほら、幼稚園の時に約束した──」
「覚えてる!覚えてるよコンチクショウ!!というか、忘れてなかったのか!?」
「……?なんで忘れるの?こんな大事な約束」
俺にとっては、むしろ忘れたかった記憶だ。だけど何故か、幼稚園児の時の記憶は、それしか残っていないのだ。
裏を返せば、それしか記憶に残るようなインパクトのある出来事が無かった事になるが……なるんだが……っ!!
(せっかく思い出さないようにしてたのに!しかも、よりによってコイツらの前で語るなよなぁ!)
そんな風に頭を抱えている間にも、たえの思い出語りは進んでいく。
「優人は昔から器用だったから、たんぽぽで指輪を作ってプロポーズしてくれたよね」
「ストップ、やめてくれ、たえ。その話は後で幾らでもしてやるから、だから此処でバラすのだけは勘弁してくれぇ!」
「『大人になったら俺は、たえと結婚して理想の花園ランドを作る』って言ってくれたの、凄い嬉しかったんだよ?」
「人の話を聞いてるのか!?」
慌てて口を、まんじゅうか何かで塞ごうとしたが、時既に遅し。たえが詳細の殆どを語った後、俺に向けられたのは生暖かい眼差しだった。
「ろ、ロマンチック……!」
「やめろ、やめてくれ、りみ。そんな目で俺を見るな!」
「ああ、"馬鹿馬鹿しい、そんな関係になる訳ない"って、『プロポーズは済んでるから恋人なんて生っちょろい関係じゃ終わらない』って事かぁ……」
「違う、そうじゃないんだよ沙綾!」
「あー…………なんだ。その、お幸せに?」
「顔真っ赤にして、目を逸らしながら言う事かよ市ヶ谷ァ……!」
以上、爆弾発言から再起動した3名からのコメントだった。
上から順に、顔を真っ赤にしながら、何処か納得した表情、露骨に目を逸らして顔が真っ赤、な状態である。
「おめでとう、おたえー!」
「ありがとう香澄」
そして、たえと香澄は両手を取り合ってブンブン振っていた。そうしながら、香澄は更なる爆弾を放り投げてくる。
「それで、結婚式は何時?」
「…………今日?」
「ダメに決まってんだろ!」
そもそも、まだ籍も入れられない年齢だっつーの!
今回、おたえ成分も少なめで花園節も控えめだ。
だが私は謝ら……いや、すいません。マジで
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他