(投稿が)遅かったじゃないか……
昨日までの悪天候は何処へやらといった感じの快晴となったゴールデンウィーク2日目。たえに連れられて、俺は電車で40分くらいの、ちょっと離れた場所にある遊園地へと来ていた。
「…………たえ、ここって遊園地の入園ゲートのすぐ側だよな?」
「そうだよ」
「なんで誰もいないんだ?」
もう1度言うが、今日は快晴のゴールデンウィーク2日目である。連休のこういう施設はアホみたいに混むのが通例で、俺もそういうのを覚悟していただけに、子供1人すら居ない入園ゲートには得体の知れない不気味さを感じていた。
「今日は閉園なんじゃない?」
「じゃあなんで集合場所がここになるんだよ」
約束の30分前だからか、見知った顔が来る様子も無く、ただただ疑念と不信感だけが募っていくばかりだ。
「
「待って、その手に持った千切りキャベツは何?そして、どうしてそれをムシャムシャしてるわけ?」
ちょっと目を離した隙に、たえはコンビニの袋から割り箸と千切りキャベツを取り出して、それをむっしゃむっしゃし始めていた。
やっぱりコイツは緊張や不安とは関係が殆どない奴だという事を再認識する。普段は呆れるばかりだったが、今はそれが頼もしかった。
「…………水でも飲むか?」
「うん」
たえの咀嚼音を聞きながら少し待っていると、やがて見知った顔が来る。香澄と有咲、りみに沙綾。つまりポピパの4人だ。
「おたえーっ!お待たせー!」
「お待たされー」
「おたえと優人は早かったな」
「遅かったじゃないか……市ヶ谷、ちょっとそこに正座しろ」
「出会い頭になんだよ!?」
たえが香澄に飛び付かれている横で、俺は復讐の炎を燃やしていた。理由は無論、分かっててバラしたであろう俺の存在についてだ。
「なんだそんな事か。遅かれ早かれバレてた事だろ?そんなにキレることかよ」
「つまり、意図的にバラした事は否定しないと。そういう事だな」
「あっヤベ」
語るに落ちた市ヶ谷は後で香澄とお化け屋敷に突撃させるとして、今度は沙綾に聞いてみた。
「なんでこんな場所を集合場所にしたのか分かるか?」
「…………憶測でいいなら」
とは言うものの沙綾の憶測が外れた事は、俺が覚えている限りではない。つまり、かなり正解に近い筈だ。
「こころ……優人を連れて来るように言った子は、弦巻家の令嬢で──」
「だいたい分かった。まさか、俺達のために遊園地の貸切なんてやらかしてねぇよな?」
「…………」
「否定してくれないと困るんだけど」
ブッ飛んでるという噂は聞いていたが、まさかここまでとは……。たえの相手をしている方がまだ気楽そうだと思う日が来ようとは、間違いなく海のリハクの目を持ってしても見抜けなかっただろう。
「あら、みんな早いのね!」
「はぐみ達が最後かー。みんなも楽しみだったんだね!」
「あー本当だ。まだ20分前なのに」
そして、噂をすれば影がさす。御本人の登場だ。
「こころんやっほー!」
「おはよう香澄!今日もキラキラしてるわ!」
「こころんもね!」
たえに飛びついたかと思ったら、今度は弦巻の令嬢(こころと言うらしい)に飛びつく香澄。忙しいヤツだと思うと同時、知り合いだったのかと驚愕が俺を襲う。
「それで、話に聞いていた旦那さんは貴方ね!」
「あっはい」
「あたしは弦巻こころ!こころで良いわ!」
「えっと、伊世 優人です」
直後に狙いを付けられた。初対面なのにグイグイ来るのが、なんか出会ったばかりの香澄と似ている気がする。あの2人の仲が良いのは必然だったか。
「敬語なんて要らないわ、仲良くしましょう優人!」
「あ、はい……じゃなくて、ああ。良いなら良いけど……」
でも、こころからは香澄みたいにエネルギー溢れる元気っ子って感じで、イメージしていたヤバさは欠片も感じられなかった。
なんだ、噂は噂か。もしかして、本当に遊園地は休みなだけかもしれない。結婚式云々というのもデタラメだったのだろう。
「それじゃあ早速、結婚式を挙げましょうか!」
「すいません勘弁して下さい」
やっぱ噂通りだったわ(手のひらクルー)。
儚い希望を容易く打ち壊すのは強者の特権と言わんばかりに、速攻で希望を叩き折りに来る様子は正に弦巻。しかも無自覚っぽいのが更にタチが悪い。
「…………?何故かしら?」
「いやいや。こころさ、あたし達の目的忘れてない?本当は遊園地に遊びに来たんだからね?」
「でも結婚式は大事よ?」
「そりゃあ式も大事だけど、でも先ずは遊ぼうよ。その為に……ここを貸し切ったんでしょ?多分」
多分とか言ってるけど、このノリに何度も付き合ってきているのだろう。目が「どうせそうなんだろ」みたいな諦めの色をしている事が分かる。
「……そうね!じゃあ、みんなで行きましょう!」
「おー!こころん、はぐ!ゲートまで競走しよう!」
「あ、かーくんフライングはズルい!」
「おいこら香澄!前見ないと転ぶぞ!」
いきなり走り出した子供3人に、付き添いの市ヶ谷さんは大変そうだ。
他の面々もゲートの方に向かって、俺はさっき、こころを止めてくれたキャップを被った苦労人っぽい女の子と取り残された。
「……花園さんの旦那さんっていうから、どんなに変わった人なんだろうって思ってましたけど……」
「……よく言われる」
昔から言われ慣れてる言葉だ。たえがあんなだから、俺も変わってるだろうという先入観が自然と持たれてしまっているのだろう。
「あ、やっぱりですか」
「そういう、えっと……」
「美咲です。奥沢 美咲。キグルミの中の人やってます」
「……奥沢さんも苦労してそうだよな。こころに」
「分かりますか。……分かりますよねぇ」
お互い苦笑いで顔を合わせて、そして溜息を吐いた。やっぱり大変なんだな、こころの相手も。
「美咲ー!早く来ないと、アトラクションに乗り遅れちゃうわよー!」
「みーくん早くー!」
遠くから奥沢さんを呼ぶ声がする。それに仕方ないなとでも言うかのように片手を挙げて答えてから言った。
「……行きましょう。あたし達も」
「だな」
時間は有限だ。今は裏にある色々(主に弦巻家の力)から目を逸らして、貸し切られた遊園地を単純に楽しむことにしよう。
「それで、たえ」
「なに?」
「なんでさっきから俺の背中に引っ付いてるんだ?」
さっきから、おんぶしている俺の苦悩を考えて欲しい。
「優人、私の顔を見て何か思うことは?」
「ハムスター」
頬を膨らませて子供みたいに拗ねてるから、正直にそう答えたら肩にエルボーされた。なんでさ。
◇◇
園内に入るとマジで人が居ない。ここまで来ると恐怖心すら覚えるレベルだ。
「やっぱ遊園地って、人が入っててナンボの所あるよな」
「これだけガラガラの遊園地見てると、何でか無性に不安になるな。ホラー映画か何かの舞台みたいで」
市ヶ谷さんは早々に保護者の役目を放り投げ、何故かメリーゴーランドに真っ先に乗り込む3人を見ていた。
「たえは何に乗りたい?」
「うーん……」
たえは右を見て、左を見て。アトラクションを見渡した。だが特にピンとくるものは無かったのか、うんうんと唸ったままだ。
「ポピパの皆で乗りたい物とか無いのか?」
「……音楽雑誌、とかかな」
「アトラクションで決めろ」
「じゃあゼクシィ」
「ここでは日本の言葉で話せ」
なんで雑誌の話をしているんだろう。しかも遊園地のド真ん中で。
「……いや待て。優人、アレ見ろ」
市ヶ谷さんの指の先には、ジェットコースターのレールが見える。アトラクション名は"ゼクシィ"……
「紛らわしいんだよ!」
「知らなかったの?縁結びのジェットコースター」
「ジェットコースターでどうやって縁を結ぶ気だ!?」
アトラクション説明を見てみると、「隣のあの人とドキドキを共有して距離を一気に近付けよう!」なんて書いてある。
新手の吊り橋効果狙いのアトラクションだったのか……。
「……乗るの?」
「乗ろ?」
「ジェットコースター!?いいね、楽しそう!」
「うわっ、香澄いつの間に」
さっきまでメリーゴーランドに乗ってたはずの香澄は、疲れを知らないダッシュでジェットコースターまで走って行く。
市ヶ谷さんの手を思いっきり引っ張りながら……
「ちょっと待て香澄!香澄ィ!?おい、優人助けろ!」
「助けるつもりなど、元より無い……!」
「じょ、冗談じゃ!?あっちょっと、本当に……」
そのまま搭乗口まで引きずり込まれていく市ヶ谷に敬礼。さらば市ヶ谷さん。骨は海に撒いてやるから……
「何1人でぶつぶつ言ってるの?私達も行こう」
「ですよねー」
そもそもさっき、ゼクシィに乗りたいって言ってたしな。
「私……気絶とかしちゃわないかなぁ?」
「いやいや、りみりんでも気絶はしないって。きっと」
ポピパメンバー+俺の6人でジェットコースター"ゼクシィ"に乗る事となったのだ。
……あれ、奥沢さん達は?
「お、お化け屋敷RTAなんて、初めて体験したよ……」
どうやら珍種目に付き合わされていたようで、ジェットコースターから降りて合流した時は、もうボロボロだった。
「お化け屋敷RTAって……それただの障害物競走なんじゃ」
「うん……だから付いて行くので精一杯で、しかも何度もやるから限界が……」
元々インドア派だったから体力が無いのか。あるいは2人の体力が規格外なだけなのか。
どちらにせよ、奥沢さんが死にかけているという事実は覆らない。そして、2人が元気であるという事実も。
「いっぱい動いたら、お腹が空いたわね!」
「じゃあご飯食べよっか、こころん!」
時間は、まだお昼ご飯には少し早い時間ではある。だけど特に誰も反対する事はなく、流れで昼食にする事となった。
「こうして遊園地でご飯食べるのって新鮮」
「そもそも、こういう場所に来る事自体が稀だったし。こういう場所って高いから中々手が出ないよな」
「分かる。入園料だけでも高いのに、その上ご飯までっていうのはね」
たえと沙綾と話しながらフードコートへ。やっぱりガラガラで、思わず写真を1枚撮ってしまった。
「値段を見てるとクラクラしてくる〜」
「りみ、大丈夫か?まあ確かに学生には手が出にくい値段だよなー。今日は良いけど……香澄は何にするんだ?」
「私はねー、これっ!」
香澄が指さしたメニューの文字を全員が見て、そして読んだ。
『青空カレー?』
「あ、青空カレー……ッ!?」
向こうで誰か反応した。
「……ルーが真っ青?」
「たえの発想には脱帽するね。誰が食うんだよそんなカレー」
「そうじゃなくて、青空の下で食べるカレーだから青空カレーって名前みたい。
確かに、こういう青空の下で食べるカレーって美味しそうだよね」
「トッピングも凄い数……ハンバーグとかエビフライ、チーズにパスタ…………カレーのトッピングなんだよね?」
ハンバーグとかエビフライは分かるが、パスタって何だよ。りみの疑問も最もで、このリストだけ見ればカレーのトッピングだなんて全く思わないだろう。
「うーん、決められない!だから全部のせ、いっちゃおうかなー?」
「いかん、そいつには手を出すな!」
「はぐみ!?」
全部のせに挑もうとする香澄に、はぐみという女の子は物凄く必死な表情して止めに入っていた。青空カレーという名前を聞いて顔が引きつっていたし、過去に痛い目に会ったのだろう。
「私は……」
「たえはどうせハンバーグだろ」
「……相思相愛なの?」
「なんでそうなる」
たえの戯言には程々に構いつつ、俺も何を食べようか……まあ流れに乗って青空カレーが無難か。
「カレーにパスタか……新しい、惹かれるな」
「待って市ヶ谷さん。市ヶ谷さんまでネタに走られると、あたしのツッコミだけじゃカバー出来ないんですけど」
「みんな青空カレーにするの?」
香澄が選んだからという理由ではないだろうけれど、流れは青空カレーを頼む空気になっている。今は誰もがカレーのトッピングに頭を悩ませていた。
「わ、私はチーズにしようかな。無難だし」
「ゲスいこと言うと、トッピングを含めて一番高いから俺は選んだ。そんな俺はエビフライをチョイスだ」
「優人。仕方ないからカレーとエビフライを交換する権利をあげる」
「素直にトッピングを追加しろ」
やいのやいのと皆で話しながら決める。大人数で遊ぶ時の醍醐味の一つだろう。こういう時は何を食べても美味しく感じられたりするのだ。
…………でも俺、なんで男子とじゃなくて、女子と醍醐味を感じてるんだろう。おかしくないか?
「あら?はぐみ、どうしたのかしら?」
「あーうん。こころん、はぐみはナポリタンでいいや……」
ちなみに食事代も弦巻家が出してくれるらしい。ここまで良くされると、ちょっと後が怖いな……。
スキーイベの報酬日菜の左エピソードは一見の価値アリだと思ってます。声優さんの演技がやべぇ。
この作品のどの部分を見に来てるんですか?
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会話(いわゆる花園節・おたえ節)
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デレてるおたえ(申し訳程度の恋愛要素)
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うさぎ(説明不要)
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その他