ハリポタ転生もの   作:たか等

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なんか長くなった。


いち~ 表舞台(+α)

表舞台

 

 

・W家の末弟の場合

 

「おっかしいなぁ……」

 

スキャバーズがこの頃、よくいなくなる。

朝、目が覚めるといつも通り枕の横で丸くなってるけど、この時間――夕食以降――はどっかに出かけてるみたいだ。

……というか最近、寝る前にスキャバーズの姿は見てないかもしれない。

 

とりあえず、駄目もとで隣りで横になっているハリーに聞いてみた。

 

「ねえハリー、スキャバーズ見なかった?」

 

「え、見てないけど?」

 

やっぱり知らないみたいだ。

眉間にしわを寄せ――ハーマイオニーいわく"軽い"――本を読んでいたハリ―は、まるでそんなことには気づかなかったという風に答えた。

……当然かもしれない。というか、僕だってついさっき気づいたし。

 

 

ベッドの下はもちろん、談話室の暖炉、ついでにネビルの置いていったトレバーのケージの中も探してみたけどスキャバーズは見当たらない。まったく、どこいったってんだあのデブネズミは――という僕の話を聞いたハリーは、パタン、と持っている本を閉じ、気楽そうに言った。

 

「スキャバーズもクリスマス休暇を楽しんでるんじゃない?」

 

そうかもしれない。

部屋から出ることなんてほとんどなかったスキャバーズだったけど、クリスマスには談話室でウロウロしてたのを見かけた。

それに、クリスマス休暇に入ってから人が少なくなったからか、暖炉脇でよく寝てた気がする。

 

「……うーん、そうかもな。談話室にはいないし……だとしたら城の中?」

 

「たぶんね。パーティーのときの残り物でも探して走り回ってるのかもね」

 

「あいつトロいし、ミセス・ノリスに捕まったりしてないかな?」

 

「……ロン。僕、これを読み終えなきゃいけないんだ」

 

ハーマイオニーから出されたクリスマスの課題をね、とハリーは呟いた。

ハリーが手にしている分厚い本は『近代魔法界における主要な発明およびその活用』という、ベッドに入って読めば間違いなく夢の世界に飛び立てそうな代物である。

最近の日課となった『ニコラス・フラメル』の名前を探すため『とりあえず』とハーマイオニーが渡してきた本でもある。

ハーマイオニーいわく『寝る前に軽く読める本』……だそうだ。

 

まだ半分以上もページが残っている本を見て、ハリーがとても嫌そうな顔をしつつも再び手元に目を向け、本を読み始めた。

思わずじとっと見つめてしまった僕を尻目に「そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃない?」なんてハリーは言う。

そりゃ確かにスキャバーズのことだ。僕だって心配なんてしてないけど……その、やっぱ気になるじゃないか。人様に迷惑かけてないかな、とかさ。

そんな僕の葛藤を口に出してみたところ、ハリーは溜息を吐いて「そんなに心配なら探してみればいいじゃないか」と言った。そして「できることなら協力するよ」とも。

 

「そうかい? ……それじゃ、悪いけどハリー、明日スキャバーズを探しに行ってみるから君の『透明マント』を借りてもいい?」

 

「……かまわないよ。けど僕はこれ読んでるよ……まだまだ終わりそうにないもの」

 

「ありがとハリー。それと……がんばれ」

 

ちなみに僕の『続・歴史を動かした巨匠100選』と『新・歴史を動かした巨匠100選』はすでに読み終わった。

ハリーが例の『鏡』に夢中になっている間、とても暇だったからだ。

……結局、どっちも徒労に終わって放り投げたけどな。

 

 

 

 

そして翌日。

目覚めると、枕の横ではスキャバーズが幸せそうに寝息を立てて丸くなっていた。

やっぱり僕が寝てる間に帰ってくるらしい。

 

……今日こそどこ行っているのか突き止めてやる。

 

 

その日はクリスマスの課題として出されていた魔法薬学の『忘れ薬の生成における10段階の変容』という難解なレポート提出のため、資料を探していたらいつのまにか夕方になっていた。

談話室でウンウン唸ってたけど、正直一人でやるんじゃなかった……頭がおかしくなりそうだ。

 

そして、予定通りハリーに透明マントを借りるために寝室に戻ってきた。

……どうやらハリーは強敵()を前に撃沈したみたいだ。ページの三分の一程度を残してベッドでうつぶせになって寝ている。

 

起こそうか迷ったけど、丁寧にも僕のベッドの上に透明マントが畳んであったのでそれを拝借した。

僕が来た物音で目が覚めたのか、もそりと起き上がったスキャバーズもどうやらこれから出かけるようだ。とっとこ螺旋階段を下りて行った。

 

さっそく僕は透明マントをかぶっておいかけることにした。

 

 

談話室の暖炉脇でボーっとしてるスキャバーズだが、チラチラと入り口の方を見ている。

どうやら誰かが肖像画を開けてくれるのを待っているようである。僕もスキャバーズと同様に入り口付近で待ち伏せる。

しばらくして、数人の寮生が入ってきた瞬間スキャバーズはすばやく飛び出していった。

僕もそれを追いかけ、あわてて肖像画の穴を通って外へ出た。

 

 

それから、しばらくはすばっしこいスキャバーズの後を追いかけた。

幸い、フィルチもミセス・ノリスにも遭うことはなかった。

また、スキャバーズがどこへ向かっているのかもある程度つかめた。

 

「……西塔なんてはじめて来たな」

 

懸命に階段の手すりを駆け回るスキャバーズを尻目に、ポツリと呟いた。

 

 

……というか、これ登るのか。

見上げると吹き抜け天井になっており、そこまで伸びる長大な螺旋階段が目に映る。

 

「どこ行くんだよあいつ……」

 

 

 

 

 

 

 

「……どうりで、ふう……あいつ、最近痩せてきたわけだよ……」

 

息切れしながら、僕は透明マントをかかげ階段を登っていた。

 

どうでもいいことだが、最近、スキャバーズの体調が変だと思っていた。

しかし、それが単なるシェイプアップだったという事実に少しイライラしながらも足を動かす。

 

上を見ると、スキャバーズもどうやらそろそろ疲れたのか動きが鈍くなっている。

登るのに邪魔だしマントはもう要らないかもな、などと考えてボーっとしていたら唐突にスキャバーズが消えた。

 

「えっ? どこいった?」

 

 

 

とりあえず、スキャバーズが消えた辺りまで来てみた。

どうやらここは円形の踊り場になっているみたいで……っていうか、ならスキャバーズはどこへいったんだ?

僕が踊り場で戸惑っていると、突然横合いから声が聞こえてきた。

 

「二十億……それだけ……心拍数……」

 

なんだ? どっからだ?

キョロキョロと辺りを見回すと、壁にかけてある風景画に気がついた。

月夜の湖が描かれた寂しい絵だった。そして、その絵の額縁辺りから僅かに月明かりが漏れている。

どうやら隠し扉になっていて、そこから声が漏れてるみたいだ。

 

「ネズミさん……四歳……年少さん……ゾウさん……七十歳……年金生活……」

 

隙間からそっと中を覗いてみると、窓辺の段差に腰かけた、何やら本を読みながらブツブツと呟いている女の子がいた。

 

なんだこいつ?

 

僕がそんな疑問を浮かべている間にもその子は、隣にスキャバーズが座っていることに気がついたようであった。

パタン、と読んでいた本を閉じ目を瞑り、彼女は言った。

 

「早く短く……遅く長く……どちらかひとつ…………けど……私は亀になりたい……」

 

……なに言ってんだ?

再び僕はそんな疑問に襲われた。

 

 

 

 

その子は、スキャバーズと視線を合わせるためにしゃがんで「こんばんは、おじさん」などと言い、彼女はポケットから白い――飴のようなものを取り出した。

 

「今日は……新作……」

 

包み紙を二つ広げ、スキャバーズの前に置いた。

それともうひとつ、横に白い液体が入った小さな瓶も。

 

「牛乳……乳製品とって……ストレス社会……」

 

よくよく彼女を観察してみれば、僕があまり見たことのない顔立ちをしていることに気がついた。

月明かりに照らされキラキラと輝いている瞳の色は綺麗なブラウンで、後ろで一本に結んでいる髪は艶々とした黒色だった。

話でしか聞いたことはないけど、いわゆる東洋系というやつだろうか?

まだ少し幼さが残っている顔立ちだったけれども、じっとスキャバーズを見つめるその目付きの鋭さに僕は彼女から研究者のような印象を受けた。

そうやって僕が彼女を観察している間にも、彼女は何がおもしろいのか食事に夢中なスキャバーズを観察し、なにやら呟く。

 

「……四年……四年のはず……?」

 

横からでもわかる切れ長の目つきを、更に鋭くしてスキャバーズを見ている。

 

「けど……おじさんは……?」

 

徐々に顔を太ったネズミに近づけながら、にらみつけながら呟く。

 

「……もう中学生?」

 

そんなはずは……などとぼやきながらもそっぽを向き、考え事をしているのか腕を組み首を傾けている。

 

 

 

しばらくして、二つの飴のようなものを食したスキャバーズは今度は牛乳の入った瓶に首をつっこんでいる。

小さな、ゴクゴクという牛乳を飲む音だけが響き、しばらく物思いに耽っていた彼女は、もしかして、などと口にしながら心なしか目を開いて言った。

 

「新人類……?」

 

驚愕の事実……という口ぶりであった。

しかし即座に、そんなわけないかというように首を振った。

 

「わからない……不可思議……」

 

そして「いっつぁみすてりー」などと囁く。

僕の頭には、どっちがだよ、などという言葉が浮かんだ。

 

 

 

そんなやり取りをかわしながらも、どうやらスキャバーズは食事を終えたようであった。

それに気づいた彼女は、手慣れた様子でスキャバーズを撫でている。スキャバーズにしてもチューチューいいながら撫でられるままだった。

 

……なんだよ、あいつ。僕が餌をやってもあんな鳴き声出したことなんてないじゃないか。

媚びてるみたいじゃないか。せっかく探してやったのにさ、何やってんだよあいつ……。

 

などと、不甲斐ない自身のペットに僕が憤ってる合間にも、どうやら彼女とスキャバーズのお別れの時間となったようである。

 

「ばいばいおじさん……私……もう少しここにいる」

 

チュ? などと疑問の声がスキャ……ってまさかあいつネズミと会話してるのか?

そんな風に驚愕している僕をよそにボソッと彼女は呟いた。

 

「……閉め出された」

 

「誰も通らない……クリスマスって人少ないよね」と。

 

……なぜだかよくわかないけど、僕はその姿を見て悲しくなった。

 

 

 

 

その後スキャバーズはとっとこ降りて行き、彼女も再び読書を再開した。

どうも声をかけづらかったし、ある程度疑問も解消したので僕は帰ることにした。

 

幸運にも帰り道も誰とも出会わず、無事寝室に戻ってベッドに仰向けにぼふっと倒れる。

 

なんていうかなぁ……うん。

 

「変なやつっているもんだな」

 

ふと左を見る。

枕元には幸せそうな顔をして寝ているスキャバーズがいた。

それを見て……少しむかついた。

 

「はん! お前は僕の出す餌だけじゃ不満だってか、え? それとも所詮お前も雄だってことかい、え?」

 

怒りをぶつけるために枕をスキャバーズに投げた。

それに対して、なにをする! というふうにチューチュー怒るスキャバーズを無視して、僕は眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……スキャバーズがまた、いなくなった。

たぶんあの場所だろうけど、いちおう隣人に尋ねてみることにした。

 

「ねえハリー? スキャバーズ見なかった?」

 

なんだか前も似たようなことを聞いた気がするけど。

 

「え、また? ……見てないけど?」

 

ついに本を読み終わり、今は魔法薬学の課題に取り組んでいるハリーはやはりそう答えた。

長い間机に向かっていたので肩がこったのか、腕を回したり伸ばしたりしている。

 

「それって話してた変な子?」

 

「うん。たぶんレイブンクローだったはず……だけど……いま思うとあんな子いたっけかな?」

 

「……もう三か月も経ったのに?」

 

まるで信じていないハリーだったが、僕だって疑わしいんだからそんな目で見ないでほしい。

 

「僕の目が節穴じゃないならね。

 ハリーは見たことある? 髪が黒くてすごく目付きが鋭い子」

 

「……ないかも」

 

「あと東洋系」なんて言ったらハリーは今まで会った人を思い出そうとしているのか、少しボーっとしている。

軽い運動をするついでに今度こそ文句でも言ってやろうかな、などと思って僕はハリーに提案した。

 

「スキャバーズを迎えに行くついでに見にいってみる?」

 

「え? ……うん、気分転換にはいいかもね」

 

何かをごまかすかのように頷き、ハリーは僕の提案に乗ってきた。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで夕食の後、僕たちは透明マントをかぶり再度あの場所へやってきた。

 

「支配されている……人は知らずに……」

 

……相変わらず、彼女は何やらぼやいていた。

 

「彼の 領地 (ランド)は……増えていく……」

 

スキャバーズのほうを見てみれば、牛乳以外にもお菓子が増えていた。

 

「彼の名前を言ってはいけない……彼を描いてもいけない……」

 

チョコの入ったちっちゃなパンのようで、スナック菓子なのか小袋の中にいくつも入っていた。

 

「彼こそは『名前を……言ってはいけない……あの……ネズミ』……!」

 

お菓子……なんだか運動したせいかお腹が空いてきたなぁ。

かといって、寮にある食べ物なんてクリスマスに貰った百味ビーンズの残りくらいしかない。フレッドたちはいつもどこから食べ物を調達してきているんだろう?

 

「世界は……ネズミに支配されている……!」

 

今度聞いてみようとは思うけど、あいつら僕に正直に教えてくれるとは思えない。

教えてくれたところでどうせ、何か凶悪なトラップに引っ掛かるのがオチだ。

ここ数カ月話で聞いてたホグワーツで暮らしてみたけど、ジョージたちには僕たちと違うものが見えている気がしてならない。

あんなに頻繁に夜出かけてフィルチに遭わないっていうのもなんか変だ――っていうか考え事をしている間にもスキャバーズの食事は終わったらしい。

今日は彼女もこのまま帰る予定なのか、立ち上がって額縁に手をかけようとしていた。

あわてて僕たちは後ろに下がり、それをやり過ごした。

 

手にスキャバーズを乗せながらテクテクと彼女は僕たちの前を通り過ぎる……僕たちよりも背が高かった。

すぐに別れるのかな、と思ったが彼女はスキャバーズに向かってまだ何か言っているようであった。

 

「私たちはレミング……荒野を……歩き続ける……そして……今はまだ……岸は見えない……」

 

階段の手すりにスキャバーズを乗せる。

そして彼女は少ししゃがんでスキャバーズに目線を合わせて囁いた。

 

「けど……気をつけて…………消されちゃうよ?」

 

そのまま彼女はハハッと小さく甲高い不気味な笑いを残し、階段を昇って去っていったのであった。

 

……なんだってんだ。

 

 

 

 

手すりを滑り降りていくスキャバーズと階段を昇っていく彼女を見て、僕はハリーに尋ねる。

 

「変な子だよな?」

 

「うん、そうだね」

 

「レイブンクローの寮生ってのは頭がいい代わりに頭おかしいのかな?」

 

実例が目の前にいたからか「そうかもね」などとハリーも僕に同意してくれた。

そういえば結局、文句を言うのを忘れてしまっていた。

 

…………。

 

「……ところでハリー?」

 

「なんだい?」

 

「マグルの世界はネズミに支配されちゃってるって話は本当なのかい?」

 

「……えっ」

 

『名前を言ってはいけないあのネズミ』とはいったいなんなのだろう。

彼女の戯言に付き合うわけではないが、僕はそんな疑問を持ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス休暇もついに残りは今日一日だけとなった。

そして、ちょうどその日にホグワーツ特急に乗ってハーマイオニーが寮に戻ってきた。

 

僕たちはハーマイオニーの課題が結局無駄であったことをまず愚痴った。

「でも一般教養は増えたでしょう?」などと返されたが、かといってハーマイオニーも『ニコラス・フラメル』の情報を得ることもできなかったようだ。

そして話は、ハリーのクリスマスプレゼントであった『透明マント』、ハリーが虜になった『みぞの鏡』などの話に移り、ついで程度に例の『レイブンクローの変人』の話をした。

 

「それってストーキングじゃない?」

 

僕たちの話を聞いたハーマイオニーの一言がそれだった。

 

……まことに遺憾である。

 

「それにレイブンクローで東洋系っていうなら一人か二人心当たりがあるけど……彼女かしら?」

 

「例の彼女って同学年?」と問われるも……正直わからない。

雰囲気的には年上だけれども、顔立ちから見ると僕らの年下にも見える。

そんなわけで口ごもっていた僕たちだけど、案外乗り気なのかハーマイオニーはこんな提案をしてきた。

 

「じゃあそのスキャバーズのガールフレンドを確認しに行きましょうか?」

 

「ガールフレンドって……。あれはそんなんじゃないさ、あれはたぶん……」

 

『話し相手』なんて単語を思い浮かべたけど流石にそれはなぁ、と思って黙っておいた。

そして、夕食の後、西塔のいつもの場所へ彼女の様子を見に行くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

「こんなはずじゃ……ちくしょう……持ってかれた……!」

 

「大丈夫かしら? 彼女……?」

 

思わず小声で心配そうにハーマイオニーが呟く。

……僕からしたらある意味いつも通りなんだけどな。

左足を抑えて心なしか痛そうな表情をしている彼女を見て、ハーマイオニーが透明マントから抜け出して声をかけようとした。

 

しかし。

 

「……なんちゃって……でも……ぴんすって石頭……」

 

パッと両手を上げて、なんでもない風に振舞う。

ジェスチャーから察するに、図書館の番人マダム・ピンスに借りていた本を没収された、といったところであろうか。

 

「……時事ネタなんだ」といった後に「はい」といつものようにスキャバーズに餌をあげていた。

今日のお菓子は、棒状のクッキーのようなものにチョコレートが塗ってあるものであった。

 

カリカリとスキャバーズがお菓子を食べる音が響く中、彼女は突然キョロキョロしだした。

そしてしばらく考え、やがて意を決したのか「よし」と呟き両手を胸の前でパンと合わせ目を閉じた。

その次に合わせた手を伸ばし、両手を床に当てる。

 

しばらくして。

 

「やっぱ無理……シンリくんどこ……?」

 

……相変わらず彼女の行動はよくわからないな。

「言ったとおりだろ?」とハーマイオニーに確認しようとしたところ背中を引っ張られた。どうやら一旦ここから離れたいらしい。

 

 

 

 

僕たちが少し階段を下って、それからハーマイオニーは小声で話しはじめた。

 

「やっぱり。……彼女クラウチさんよ、図書館でよく見るわ」

 

「クラウチ? それって確か……」

 

パパの話で何度も出てきた気がする。

……けどなんだっけかな。思い出せそうで思い出せない、そんな感じの疑問である。

 

「確かに朝食とか夕食の席でもなぜだかほとんど見たことはないし……あなたたちが知らないのも無理ないかもね」

 

「それに」とハーマイオニーは少し言いづらそうに続けた。

 

「なんていうか、普段は影が薄いっていうか気配がないっていうか……図書館でも声をかけづらい子ではあるわ」

 

ため息をはきながら「眼中にないってああいうことを言うのかしら」とハーマイオニーが呟いた。

そして「まあ、だからこそあんなに喋ってるところを見るのは私も始めてなんだけどね」と続けた。

そんなハーマイオニーの解説に「へえ、そんなやついたんだなぁ」と僕とハリーは顔を見合わせて言った。

 

 

 

 

そんなこんなで僕たちは元いた場所に戻って、再び漏れ聞こえてくる声を聞くことにした。

 

……とりあえず様子見である。

 

「そういえば……暇だったから探してみた……別称はたくさん……」

 

彼女は今度はごそごそとローブのポケットの中を探してメモを取り出した。

そして、少しだけ発音に手こずりながらもは幾つかの単語をあげた。

 

「『第五実体』……『エリクシル』……『赤きティンクトゥラ』……。

 けど実体は…………魂の集合体…………『材料』はきっと……。……おかわいそうに……」

 

第五実体? 材料? いったい何の話だ? 

僕とハリーはそんな疑問を浮かべて顔を見合わせるも、お互いまったくのお手上げであった。

一方、ハーマイオニーは「……あ」と呟いた。どうやら先ほどの単語を聞いて何か思いついたようであった。

僕たちを置き去りにして彼女の話は「それにしても」と続く。

 

「賢者は永遠を望む……の? ……それよりも……なぜ……賢者は鏡に潜む……?」

 

そうしてしまいには彼女――クラウチさんも首をかしげた。

隣にいるハーマイオニーも先ほどから考え事をしていて、取り残された僕とハリーを含めて、チューというスキャバーズの声を聞くまでずっとそのままだった。

その鳴き声で我に返ったクラウチさんは、いつも通りスキャバーズを撫でたりお菓子を追加してあげたりなどして、しばらくして小部屋から出てきた。

 

……今日はとくに閉め出されたとかじゃなさそうである。

 

 

スキャバーズを手すりに乗せ、そのまま立ち去ろうとした彼女だったが、途中でコツコツという足音とともに階段を昇ってくる誰かが近付いてきた。

僕たちはあわてて、開きっぱなしになっていた風景画の隙間から小部屋へ駆け込み、昇ってきた誰かをやり過ごした。

その人は手すりを滑り降りていくスキャバーズを見て「キャっ!」と軽く悲鳴をあげ、クラウチさんを見ると、少し驚いたような表情で挨拶をした。

 

「えっと……こんばんわ?」

 

「……こんばんわ」

 

「……あなたは……えっと、クラウチさん?」

 

「……そういうあなたはシーカーさん」

 

昇ってきたのはレイブンクローのクィディッチチームで今年シーカーになったばかりのチョウ・チャンだった。

二年生ながらたいへん優秀な選手で、その小柄な体形を生かした小回りの良さや判断力に優れた飛行の名手としてそれなりに有名で、僕でも知ってるくらいだ。

 

……ま、ハリーには敵わないけどな。

 

「あ、そういえば自己紹介とかはまだだったね」と、お互いの名前を交換している。

チョウ・チャンは知っているからいいとして、彼女のほうはサエ・クラウチというらしい。

クラウチさんの方はたいへんぎこちない自己紹介だったけれど、それが終ってから二人の話はクリスマス休暇の過ごし方という話題に移っていた。

 

「私はチームの合宿もあったし、各教科の課題で手一杯だったわ」

 

「……そう」

 

「…………えっと、その、あなたはどうだった?」

 

「……それなり……」

 

「そ、そう? よかった!」

 

なんだか少し気まずい空気が漂うなかで「……ところで、なにやってたの?」とチョウが問いかけ「餌付け……?」などクラウチさんは答えていたりもした。

しばらくは拙い雑談が続き、チョウが「そろそろ談話室行かない?」と申し出て二人は肩を並べて階段を昇っていった。

 

「悩み事があったらなんでも相談してね」

 

「……試験とか……大丈夫かな……」

 

「えっと、期末試験のこと?」

 

途中でそんなことを呟きながらも彼女たちは去って行った。

……ていうか、上にレイブンクローの談話室があるのか、初めて知ったな。

そして、なぜ隣のハリーはチョウ・チャンの後ろ姿に見とれているのだろうか。

 

「あいつ、今から試験結果なんか気にしてんのか?」

 

「……え? ああ、そうだっけ? そういえば試験なんてあるんだよね……試験ってなにするんだろ?」

 

そっぽを向いて何かをごまかすかのように、とても興味深そうに試験内容をハリーが聞いてきた。

兄貴たちから聞いた話を思い出しながら試験内容について僕が話そうとしていた途中で「思い出したわ!」と先ほどからずっと考えこんでいたハーマイオニーが声をあげた。

 

「何をだい? マクゴナガルが最初の授業で言ってた試験内容かい?」

 

「違うわよ。『ニコラス・フラメル』のことよ!」

 

「なんだって!」と僕とハリーが声をあげる。

 

「『ニコラス・フラメル』といえば『賢者の石』よ!」

 

「……どうして思いつかなかったのかしら、こんな簡単なこと!」とハーマイオニーは少し興奮して話を進める。

 

「そういえば彼って共同研究するほどダンブルドアと仲がいいのよね。

 どおりでホグワーツに『賢者の石』を預けるわけね。だって最も信頼がおけて最も安全だからよ!」

 

「『賢者の石』ってなんなの?」という僕とハリーの疑問を無視してハーマイオニーは更に話を展開させ、今度はクラウチさんに対する疑惑に焦点を合わせていた。

 

「それにしても……なぜ彼女は賢者の石なんて調べたのかしら? これっていわばトップシークレットよ?」

 

狭い小部屋の中、ハーマイオニーは部屋を行ったり来たりしながら呟く。

 

「私達だって、ハグリットがつい『ニコラス・フラメル』なんて漏らさなかったら手も足も出なかったでしょ?

 それに、そもそも『ハグリットが何かをホグワーツに持ち込んだ』ということすら彼女は知らないわけよね?」

 

「だとしたらどうやって……? まさか、フラッフィーが守っているというだけで?」などと呟いている。

どんどん話を勧める一方置いてけぼりになった僕とハリーだった。そのため少しイライラしながら、ハリーはハーマイオニーに尋ねた。

 

「ハーマイオニー、クラウチさんよりも僕たちにまず『賢者の石』について教えてくれないかい?」

 

「あ……ごめんなさい!」と今更僕たちに気付いたかのようにハーマイオニーは反応を返し、『賢者の石』に関する説明をしてくれた。

 

『賢者の石』は、いかなる金属をも黄金に変える力があり、飲めば不老不死になる『命の水』の源であるという。

 

そして、それを創造した『ニコラス・フラメル』も600歳以上の高齢であるという話に驚いた僕たちであったが、その後は当然のごとく『賢者の石』を知っていた例の彼女についての話に移った。ハリーが「クラウチさんに関する情報が他にもないかい?」と尋ねた。

 

僕はクラウチという名に聞き覚えがあるということを答え、ハーマイオニーは少し思案してから幾つかの噂について答えた。

 

「ちょっとクラウチっていう名前には聞き覚えがあるな。……あとでパパに聞いてみようかな」

 

「クラウチってことでなにやら噂になってたっていうのは聞いたわ……下世話な話だったけどね。

 ……あとはスネイプに避けられてる……っていう信じがたい噂もあった気がするわ」

 

「スネイプだって?」

 

ハリーが驚きの声をあげる。

そりゃそうだ。『賢者の石』が学校にあるこの時期にスネイプが避ける人なんて疑って下さいと言っているようなものだ。

 

その後は、ますます疑惑が増したクラウチさんのことや『賢者の石』をスネイプが狙っている理由なんかをお互いに推測しあったけど、情報が少ない以上うてる手もなく「彼女にも少し注意した方がいいかもね」とハーマイオニーがその場の結論を示して、僕たちは談話室へと戻った。

思っていたよりも時間が経っていたので、今日はもう寝室に戻って寝ることになった。

 

 

寝室に戻りベッドに入った僕は横で寝ているスキャバーズを見て、これからは籠に入れて飼ったほうがいいのかもしれない、と考えた。

なんていうか、怪しい人物に自分の飼っているペットを手なずけられるのはあまりいい気分じゃないからだ。

 

……もっとも、そんな僕の懸念など知らず、ベッドの枕元でグースカ寝てるスキャバーズを見て少しばかりイラっとしたのも事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+α部分

 

 

・蔵内父の場合

 

 

女の子は精神年齢が成長が早いと聞く。

 

「世知辛い世の中だね……いいよいいよ。それより浮いたお金でお母さんに花束でも買ってあげれば? もうすぐ結婚記念日でしょ?」

 

しかし、突然の出張で遊園地に行く約束を守れなかった父親に対して、これが十歳の女の子が言う台詞であろうか?

 

今手にしている手紙だってそうである。

拝啓から始まり季節の挨拶、そしてホグワーツの近況などが丁寧で読みやすい字で書いてある。

『そちらもお変わりありませんか』など言われるのも個人的には初めてである。

 

私は単にクリスマスプレゼントに欲しいものがあるかどうかを聞いただけなのだが……。

手紙では、プレゼントに関してではなく主に『旅費を考えて暖炉の設置を提案する』ということを力説された。

 煙突飛行粉 (フルー・パウダー)だかなんだかよくわからないが、家は借家なのだからどうすればいいのやら。

 

そして、長々とした手紙を読み終っても肝心のクリスマスプレゼントに対する返事が見直したが見当たらない。

どうしたものか……などと悩み始めた私だったが、端っこに追伸と書かれてあった。急いで書いたのか少しだけ雑な字で書かれているそれを読んでみる。

 

 

追伸 

 

 

「プレゼントは木刀がほしいです。鉛の芯が入っていれば尚よし」

 

……娘にいったい何があったというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みぞの鏡イベントの数日後という設定。


生物が生きている間の心拍数は決まっているらしい……ということで主人公は『ネズミに変身なんかしたらば寿命が縮んじゃうんじゃないかな?』という疑問を浮かべました。
何かしらの『動物もどき』になることをまだ諦めてはいなかったりする主人公です。
気になって、ひそかにピーターおじさんの脈拍を測ったりもしました。
ネズミの心拍数は1分間に約300回でおおよそ寿命は四年間……しかしピーターおじさんはネズミになってからもう十二年生きています。

……やっぱりよくわからないのでした。せいぜい、鼓動が早くなればその分世界の密度も濃くなるのかもなぁ……なんて考えていると思います。


ハリーたちからしたら意味不明。
あと、ピーターおじさんは都合よく目の前の飯に夢中ということで……ご都合主義ですはい。
ほかは単純にネズミつながりと賢者の石ということで。前者はネタ的に危険なんでなんか言われたら消します。


……書いてて、三人組の視点は難しくてめんどくさいという結論に至りました。


そして主人公さん。
みんなから、さん付けされる雰囲気の持ち主のクラウチさん。
主人公が適当にくっちゃべってる状態というのがいかにフィルターなくて楽……ってとこです。
現状、脳内思考がなければ独り言レベルにまで落とさなければならない……ネタくらいしか伝わらない気がした。難しいもんである。





誤字修正
シェイクアップ→シェイプアップ


修正
家はアパート→家は借家

どうやらパパ・クラウチもけっこう動揺していたようです。

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