私がこんな気持ちなのはどう考えても黒木が悪い!   作:昼間ネル

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今回の話は書いてて恥ずかしかったです。
オチは照れ隠しです。




きもくないし、告白する

朝の通勤時間。

ゆりは、いつもの様にイヤホンを付けるとポケットに手を突っ込み音楽を聴き始めた。だが、いつもと違う点が一つだけあった。

 

(黒木さん、いないかな…)

 

普段ならドアに寄りかかり気だるげに外を眺めているが、今日は違った。車内に智子がいないか、乗ってくる乗客に智子はいないか目を光らせていた。

 

(あっ、いた!)

 

学校の一つ前の駅で智子の後ろ姿を見つけたゆりは、智子に近付いた。

 

「おはよ…う、黒木さん…」

 

智子に声を掛けたゆりは、一瞬たじろいだ。真子や根元といった、智子と顔見知り程度の関係ならば、特に何の違和感も感じないだろう。

だが、ゆりは違った。

ゆりは自分でも気付かない程に智子に似通った部分がある。感情を表に出すのが得意ではない事。積極的に人と係わるのが苦手な事。その反面、一度これだと思うと、無意識にその相手に依存してしまう事。

真子が表向きの友人ならば、智子は内面をさらけ出せるもう一人の友人だった。

 

そんなゆりだからこそ分かったのかもしれない。

智子が、まるで京都で真子と仲違いしていた時の自分の様に機嫌が悪い事に。

 

「…おはよう、田村さん」

 

「…」

 

智子が挨拶を返すと、二人は無言になった。ゆりも智子に何かあったのかは気になる。おそらく内さんの事だろう。だが、二人の事に関係無い自分が口出ししていいものだろうか…。

そうこうしている内に、電車は幕張駅へ着いた。

 

 

 

 

 

(やっぱり返事無し…か)

 

昨日、智子との約束の場所で待っていると、今日は来れないとのメールが入った。それだけならともかく、さよならと、まるでもう会いたくないとでも言わんばかりの一方的な別れの言葉が添えてあった。

さっぱり理由が分からない笑美莉は慌ててメールで問い質した。だが、いつまで経っても返事は来ず今に至る。

 

(とりあえず、直接聞かなきゃ…)

 

電車が駅に着いた。

 

 

 

 

「あっ」

 

「えっ?」

 

駅の改札で智子とゆりは、笑美莉とバッタリ出くわした。

 

「あ、く、黒木」

 

「…」

 

ペコッと笑美莉に会釈すると、智子は何も言わずに改札を出た。

 

「あっ、ちょっと待って…!」

 

笑美莉も智子達の後に続いて改札を抜け出た。

 

 

 

 

「ねぇ、黒木さん」

 

「なぁに」

 

「内さん、付いて来てるけど…」

 

「同じ学校だからでしょ」

 

(そういう意味じゃなくて…)

 

智子とゆりが歩く数メートル後ろを、笑美莉は無言で付いて来ていた。無論、智子の言う通り同じ学校というのが一番の理由だが。

ゆりは、再びチラッと後ろを振り返った。笑美莉は自分達に付かず離れず付いて来ている。

 

(やっぱり何かあったのかな…)

 

「…うっちー」

 

後ろを歩く笑美莉に声を掛ける数人の女子生徒。いつもなら、明るい声で挨拶を交わす笑美莉だったが、今日に限ってはそれもない。前を歩くゆりには聞こえないが、何やらボソボソと話している様だ。

 

「あ、黒木さん…」

 

笑美莉に話し掛ける一人、宮崎が前を歩く智子達に気付いた様だった。

 

(あれ、あの人達って黒木さんの事、知ってたっけ…)

 

智子達は校門を潜った。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ゆり。おはよう黒木さん」

 

「あ、おはよう」

 

「おはよう」

 

智子達が席に座ると、既に登校していた真子が話し掛けてきた。

 

「…黒木さん、元気無いね。どうかしたの?」

 

「あ、いや別に」

 

「多分、内さんと何かあったみたい」

 

「え?」

 

「お、おい!」

 

勝手に決め付け真子に説明するゆりを、智子が慌てて止めようとする。

 

「違うの?別にいいけど…」

 

「…はぁ、分かったよ。昼飯の時話すよ」

 

 

 

 

 

 

(何だ、珍しくアイツが喋ってんじゃん)

 

昼休み。教室にいる皆がそれぞれ話ながら昼食を取っていた。琴美と伊藤が共に昼食を取っている後ろで、智子達も弁当を広げていた。

普段なら気にもしなかったが、今日に限って智子が自分からゆり達に話を振っている。それが珍しかったのか、琴美は、ついつい聞き耳を立てていた。

 

「あ~そっか。うん、ちょっとショックかもね…」

 

智子は昨日の事を簡単にゆりと真子に説明した。

一昨日、自分が笑美莉を怒らせてしまったらしく、その事を弁明する為に会おうとした事。ところが、待ち合わせ場所に何故か笑美莉の友人達もいた為に思わず隠れてしまった事。その友人から笑美莉が自分と仲良くなろうとした本当の理由を聞いてしまった事…。

勿論、自分が泣いてしまった事は隠していたが。

 

「別に、内さんが悪い訳じゃないってのは分かってる。でも、そんな扱いだったのかと思うと、顔合わせるのが嫌になっちゃって」

 

「そっか…」

 

智子の説明に、真子は何と言って慰めたらよいものか悩んでいた。

 

「…内さんとメールするの、止めちゃえば?」

 

「えっ?」

 

「ゆり?」

 

突然のゆりの提案に、二人はゆりの顔を見る。

 

「内さんが悪い人じゃないのは私も知ってるけど、あの人は同情で黒木さんに寄って来たんでしょ?黒木さん、そんな人と一緒にいたいの?」

 

「そ、それは…」

 

実はゆりは、智子と笑美莉に何かあった事は昨日の時点で知っていた。

笑美莉と会う事を知らされたゆりは、真子と別れた後、帰らずに公園に行こうとしていた。だが、行ったところでどうする訳でもなく、もし見つかっても何故いるのかを説明する訳にもいかない。迷った挙げ句、やはり帰る事にしたゆりの前に智子が目に入った。

思わず声を掛けようとしたゆりだったが、涙目の智子を見ると声を掛けれずにいた。

…と同時に、智子を泣かせた笑美莉に自分でも解らない憤りを感じていた。

 

「ん?」

 

智子の机の中のスマホが鳴った。

智子がスマホを取り出すと、そこには笑美莉からの着信が。

 

『今、時間ある?

階段で待ってるから 笑美莉』

 

「もしかして、うっちー?」

 

「あ、うん…。今会えるかって」

 

「行くの?」

 

「…うん。昨日は自分で呼び出して帰っちゃったし、その事だけでも謝っとかないと」

 

「うん、そうだね」

 

取り出すとはスマホをスカートのポケットにしまうと教室を出た。

 

「…」

 

「どうしたの琴。さっきから黒木さんの方チラチラ見てるけど…」

 

「あ、ううん。何でもない!」

 

(内さん、か…)

 

 

 

 

 

 

 

(あ~憂鬱だな。どんな顔して会えばいいんだ…)

 

「黒木さん」

 

「え?」

 

教室を出て、笑美莉の下へ向かおうとする智子をゆりが呼び止めた。

 

「ねぇ、黒木さん。本当に行くの?」

 

「えっ、まぁ昨日の事だけでも謝って…」

 

「あんな人と付き合うの止めちゃいなよ」

 

「…えっ?」

 

「黒木さん、私や真子と一緒にいるのと内さんといるのどっちが楽しい?内さんといる方が私といるより楽しい?」

 

「え、あ、あの~、田村さん?」

 

「…内さんや真子と比べると喋るのは苦手だけど、黒木さんといるの私は好きだよ。黒木さんは違うの?」

 

「そ、そんな事はないけど…」

 

「だよね。それに私といても、つまんないかもしれないけど…黒木さんを悲しませる様な事は絶対にしないよ。

 

「だから、黒木さん…。教室に戻ろ?」

 

気付くとゆりは、智子の裾を握っていた。

 

「…」

 

暫く考えていた智子は、ゆりの手を優しく掴むと裾を握る手を離した。

 

「ごめん。そりゃあ私も、もやもやしてるけど、どんな理由であれ私なんかに友達になろうって言ってくれたから」

 

「で、でも黒木さん、それだったら私も「うん。分かってる」

 

「…え?」

 

「田村さんも、最初は私の事あんまり好きじゃなかったでしょ?あ、それは別にいいんだ。私もそうだったし。

 

「でもさ、お互い好きでもなかったのに、気が付いたらお互いの事、心配するまでになってたじゃん。だからさ。内さんとは田村さんと会ったばかりの時みたいなのかな。

 

「どうなるかはまだ分かんないけど…。ちゃんと話してみるよ。だ、だから待ってて。

 

「…ゆり」

 

「…黒木さん」

 

精一杯の作り笑いをすると、智子は背を向けた。そんな智子をゆりは黙って見送った。

 

「仲直りできるといいね」

 

「えっ!?」

 

ゆりが振り返ると、教室の入り口から真子がこちらを覗いていた。

 

「…聞いてたの?」

 

「ごめん、ゆりがいきなり出てっちゃうから気になって」

 

「まぁいいけど」

 

「…ふふっ♪」

 

「何笑ってんの」

 

「嬉しくって」

 

「…嬉しい?」

 

「さっき言ってたでしょ?『私や真子といるより、内さんといる方が~』って」

 

「そこから聞いてたの?」

 

「あ、ごめんごめん。でもゆり、ちゃんと私の事友達だって思ってくれてるんだな~って。そう思ったら何か嬉しくて」

 

「…当たり前じゃない」

 

少し恥ずかしそうにうつ向くゆりの肩に、真子は手を乗せた。

 

「黒木さんは、ゆりよりうっちーの方が気になるのかもしれないけど…。私はゆりが一番大事だよ」

 

「な、何言ってるの急に!…バカ///」

 

「ふふふっ」

 

自分から顔を背けて照れるゆり。そんなゆりの気持ちは真子には手に取る様に解る気がした。

ゆりが智子に抱く、友情と愛情の間にある気持ち。それは誰よりも真子が一番知っているから…。

 

 

 

 

 

 

「…どうも」

 

「あ、うん」

 

下の階へと降りる階段で、笑美莉は足をブラブラさせながら待っていたが、智子を見ると背筋を伸ばし硬直する。

 

「と、とりあえずここじゃ何だし…外行かない?」

 

「う、うん。そうだね」

 

笑美莉に促され、智子は彼女と共に階段を降りた。

 

 

 

グラウンド前のベンチ。目の前では男子生徒がボールを蹴って遊んだり、智子達と同じ様に友達同士でくつろいでいた。

 

「「あの」」

 

同時に喋ろうとした二人は顔を見合わせる。

 

「な、何?」

 

「あ、うん。昨日は…私から呼んどいて帰っちゃってごめん」

 

智子は申し訳無さそうに笑美莉に頭を下げた。

 

「か、顔上げて!私が聞きたいのはそれじゃないの。昨日のメールの事よ」

 

早速、本題が来たか、と智子は目を瞑る。

 

「…ねぇ黒木。昨日のメール、さよならってあったけど、私何か怒らせる事しちゃった?もしかして一昨日、話の途中で帰っちゃったから…かな」

 

「あ、そうじゃなくて…」

 

「じゃあ何で?言ってくれればちゃんと直すから教えてくれない?…私、その…まだあんたに言ってない事あるし、こんなんで終わりにしたくない…」

 

まさか『同情で友達面されてるから…』と言える訳もなく、智子はどうやってこの質問を切り抜けるか、途方に暮れた。

 

「…う、内さんはさ。その、今言ってた一昨日は、どうして帰っ…あ、そうか。私が誤解させる様な事したからだっけ」

 

「…違うの」

 

「え?」

 

「…黒木。今から言う事、気持ち悪いって思わないで聞いてくれる?ううん、思ってもいいから、ちゃんと最後まで聞くって約束してほしいの」

 

「…」

 

笑美莉は下を向いたままスカートを強く握っていた。その肩は少し震えていた。

 

「…うん。約束する」

 

「…」

 

笑美莉は顔を上げるとスーッと深呼吸する。胸に手を当て落ち着くと、智子に向き直った。

 

「黒木…。私、あんたの事が好き」

 

「…」

 

(…え?)

 

「あ、うん。私も内さんの事「そっちの好きじゃないの」

 

「そっちの好き…じゃないって、え?あの…」

 

「もっと分かりやすく言う?私と、つ…付き合ってほしいの」

 

「…え、えっ、え?」

 

「いつから黒木の事好きになったかは覚えてないけど、気が付いたら黒木の事、いつも目で追ってたの。

 

「ネズミーで私、友達とはぐれたって言ったでしょ。あれは嘘。一緒に…どうしても黒木と一緒に回りたかったの。

 

「もう一度言うわよ。黒木、私あんたの事が好き」

 

「…」

 

以前の、数日前の智子なら笑美莉の告白を『え?ガチレズさん2号!?』と心の中で毒づいていただろう。だが、今はそんな気は起きなかった。

自身が彼女を勘違いさせていた負い目もある。

そんな勘違いした彼女に友達になろうと言われて、何故と思いながらも嬉しかった事もある。

そして何より彼女の告白で気付いてしまった事もある。

自分も彼女と、もっと一緒にいたいのだと。

 

━━━笑美莉が好きだったのだと。

 

「一昨日、どうして帰ったのかだけど、ショックだったからよ。…でも黒木が考えてるのと違うの。

 

「私に付きまとってるのはもしかして、私に気があるんじゃ…。でも実は全然そんな事無かったから私がショックを受けた。そう思ってるんでしょ?…違う、違うの。そうじゃないの!

 

「私は、黒木が私の事好きなんだ、私達両思いなんだって思ってたのに、それが全部、私の勘違いだった、それがショックだったの…」

 

心の内をさらけ出した笑美莉は、あの時の様に目に涙を浮かべていた。智子は知らず知らずにまた笑美莉を傷付けていた事を思い知った。

だが、笑美莉の本音を聞いた智子の心にも、笑美莉に対する疑問が浮かび上がってきた。

 

「それ、本当なの?」

 

「本当よ!絶対に、絶対に、本当よ」

 

「で、でもっ…グスッ」

 

「え?く、黒木?」

 

言葉に詰まる智子に笑美莉は思わず彼女の顔を見る。

智子は、今の笑美莉と同じ様に、いやそれ以上にみっともない泣き顔で、声を振り絞っていた。

 

「う、内さんは、私がぼっちだから…ヒグッ。友達いない私がかわいそうだから情けで私と友達になったんじゃ…グスッ、ないの?」

 

「違うわ!それは絶対に違うわ。さっきも言ったけど、あんたが私の事好きじゃなかった事は、ショックだったわ。それを聞いた時、怖くて怖くて仕方無かったの。

 

「何で怖かったか解る?あんたを好きって気持ちが無くなるんじゃないかって思ったからよ。…もし消えたら、多分こうして会ったりしなかった。

 

「だからこうして会ってるの。あんたに対する気持ちが、全然消えなかったから会いたかったの」

 

「うう…グスッ」

 

「黒木、私は言ったわよ。後はあんたが決めて。私と付き合ってくれるか。…それとも、こんな女同士で付き合いたいなんて言うキモい奴は嫌いか。答えて、黒木…」

 

智子は両手で涙を拭うと、声を絞り出した。

 

「…んかない」

 

「え?」

 

「キモくなんか…ない」

 

「…え?」

 

「内さんは、キモくなんかない」

 

「えっ、え?黒木…それじゃあ」

 

コクンと智子は首を縦に振った。

 

「じ、自分で言っておいて何だけど…私達女同士だよ?」

 

コクン、再び智子は首を小さく縦に振る。

 

「も、もしクラスの皆にバレたら、イジメられるかもよ?」

 

「…別にいい。もともとぼっちだったし。どうせあと1年我慢すれば卒業だし」

 

「も、もし付き合ったらさ。そ、その…普通の男女のカップルがやる事…その…」

 

「…S○X?」

 

「なっ///なっ!何でハッキリ言うの!?」

 

「え、ち、違うの?」

 

「い、いや、そうだけど。…そうだけど!

 

「く、黒木は…その…。私とそういう事…したいの?」

 

「(ゴクッ)」

 

「キモい!今、生唾飲んだでしょ!」

 

「え、そんな事(ドロッ)」

 

「ヨダレ垂れたっ!今ヨダレ垂れた!キモいキモいキモい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

智子達とグラウンドを挟んで対面に座る、やや小太りで二重顎の生徒が、その鋭い目付きでスケッチをしていた。そこにはお互い見つめあい手を取り合う、智子と笑美莉の姿が描かれていた。

 

(描ける。あの二人はネズミーでも一回描いてるし、顔もちゃんと描き分けられる。もうモブには逃げない!)

 

一通りデッサンを描き終えると、彼は遠くの二人と絵を見比べた。

 

(それにしても、あの二人…。さっきから何話してんだ?)

 

彼はスケッチブックを閉じ…。

 

(百合カップルだったら、凄い萌えるんだけど…)

 

小脇に抱えると立ち上がった。

 

(そんなワケないか…)

 

 

 

 




何とか次で最終話…になる予定です。
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