とある風紀委員といいんちょー   作:御堂 明久

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第二話、氷川さん回です。
この先、一人一人委員にスポットを当てていけたらなぁと思っていますが⋯⋯、前話の服部のアレはスポットを当てたと言って良いのかという疑問が私を悩ませています。
まあ、彼女のキャラは動かしやすいし、多分どうにかなるよね!

それでは、どうぞー。



清く正しく美しく、適度にサボりたい今日この頃

夏目(なつめ)ー。この書類、今日中にちゃちゃっとまとめといてくだせー」

 

「あれ、俺タイムリープしてね?」

 

 

 とある日の平日。

 俺はいつぞやの平日とまったく同じ構図で、風紀委員長である水無月(みなづき)風子(ふうこ)に書類仕事を押し付けられていた。

 おかしい。俺はあの日、確かに書類仕事だけでなく見回りにも参加させてくれと彼女に頼んでおいたはずなのに⋯⋯!

 と、そこで水無月が呆れたように溜め息を吐きつつ言ってきた。

 

 

「あのですね⋯⋯。確かにアンタさんも今日から見回りに復帰する訳ですけど。だからって書類仕事が全部無くなる訳じゃねーんですよ?」

 

「ん⋯⋯。まあ、だよな。氷川(ひかわ)とかは両方とも毎日アホみたいな量こなしてるし」

 

「誰がアホですか! 誰が!」

 

 

 俺の斜め前の席に座り、一足早く業務に取り掛かっていた氷川紗妃(さき)に怒鳴られた。こわい。

 

 

「せーぜーウチが今までアンタさんへの嫌がらせのために回していた、小学生でもまとめられるよーな陳腐な内容の書類が無くなるだけですよ」

 

「イジメだ! 者共出会え、風紀委員長によるイジメが発覚したぞ!」

 

「ああ、道理で書類に起こす必要も無い簡単な内容を、わざわざ委員長が印刷しているなと⋯⋯」

 

「気付いてたんなら止めてくれよ神凪(かんなぎ)ぃ⋯⋯」

 

「す、すまない」

 

 

 酷なことだとは分かっていつつも、風紀委員の一員である黒髪の女子生徒⋯⋯神凪に愚痴ってしまう。それに対して律儀に謝罪を返してくる彼女の真面目な性格は、組織としてまだまだ荒削りな風紀委員には不可欠なものだ。

 そんな彼女、当時は副委員長という立場にある俺に対して敬語を使用していたのだが、服部のようなフランクなものならまだしも、堅苦しい敬語は苦手な俺が自らそれを拒否。現在は同級生に対するような言葉遣いで接してくれている。こういう臨機応変さも評価高い。NATSUMEポイントあげちゃう。貯めても特に何の役にも立たないけど。

 

 

「仕方ない。やりますか⋯⋯」

 

「そーしてくだせー。あ、見回りの際は氷川と一緒にお願いしますよ」

 

「俺今日書類仕事だけでいいわ」

 

「どういうことですか夏目さん!?」

 

 

 だから俺、堅苦しいのは苦手だっつってんじゃん。お前堅苦しいの代表じゃん⋯⋯!

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「そこ! 男女の過度の接触は控えてください! 不純異性交遊は厳禁ですよ!」

 

「キスなんて以ての外です! 私の目が黒い内は風紀は乱れさせませんよ!」

 

「こら、そこも不純異性⋯⋯え? 男同士だから問題無い⋯⋯? い、いや。不純同性交遊も禁止です」

 

 

 まさに八面六臂の大活躍。

 書類仕事も一段落し、俺は氷川と共に校内の見回りに乗り出した訳だが⋯⋯、氷川がもう、とんでもない。風紀の乱れとやらを認知した途端に現場へと駆け出し、その場のムードなど関係無しに一喝。既に三組のカップル(?)を検挙していた。

 ちなみに、俺はというと。

 

 

「あっおい。二人でイチャラブするのは良いが、すぐそこに風紀委員の氷川が来てるぞ。懲罰房にぶち込まれたくなけりゃー、ここから離れてやった方が良いぜ」

 

「うっわビックリした! な、夏目か⋯⋯って、お前も風紀委員なんじゃ?」

 

「俺はまあ、緩い方なんだよ。今後はせめて、人目に付かないところでやれよ?」

 

「お、おう! 恩に着るぜ、夏目!」

 

「早く行こ、リョウ君! 氷川さん怖いし!」

 

 

 狩人に気付かず呑気にイチャラブしているカップルを逃す作業に勤しんでいた。

 逃すと言っても、一応必要最低限の注意はしている。しているが⋯⋯氷川ほど厳しく指導してやろうっつー気もないしな。抑圧は欲望を余計に強めると言うし、このくらいが丁度良いだろう⋯⋯。というのが俺の持論だ。

 というかこの学園、俺たちに見つかるようなところでイチャイチャしてるカップルが多すぎるんだよ。絶対風紀委員に見つかるかもっつースリルを楽しんでる奴らもいるぞ⋯⋯。

 

 

「夏目さん、そちらはどうでしたか?」

 

「ん? あぁ、大丈夫。一般生徒がちらほらいるだけだな」

 

 

 しれっと嘘を吐く。

 

 

「そうですか。夏目さんと見回りするのは久し振りですけど、案外ちゃんと出来るんですね」

 

「あらやだ失礼。言っておくが、俺は基本的に有能だからな? たまにサボるけど」

 

「サボる時点で有能ではありません」

 

「あっごめんなさい。真面目にやりますんで、睨むの止めてください」

 

 

 基本的にはただの品行方正な女子生徒である氷川だが、怒った時の怖さは風紀委員一だと思う。同じく風紀委員である冬樹(ふゆき)イヴも相当なものだが、アイツは最近前々から抱えていた家族事情が解消されたおかげか、温厚になってきた節がある。氷川は怒る頻度も多くてね⋯⋯。

 隣を歩く氷川にビクビクしながら見回りを続ける。といっても。

 

 

「もう見回るところ無くね?」

 

「まあ、一通りは終わりましたね。また同じルートで何周かしますけど」

 

「お前がいつも時間一杯まで見回りしてる理由がようやく知れたよ。なに、永久機関なの?」

 

「風紀委員として当然です! 夏目さんも仮にも副委員長、付き合ってもらいますよ」

 

「うーっす⋯⋯」

 

 

 どっちが副委員長か分かったモンじゃねぇ。入った時期が俺の方が早いってだけで、「らしい」のは絶対に氷川の方なんだよなあ⋯⋯。

 

 

「そういえばさ」

 

「はい?」

 

 

 ただ見回るというだけなのも暇なので、氷川に話しかけてみることにした。彼女の方も今のところは風紀を乱す輩がいないおかげで余裕があるのか、普通に応対してくれる。

 

 

「氷川って今までずっと水無月とペアで見回りしてた訳じゃん。どんな話してたのん?」

 

「どんな話、ですか? 基本的には仕事の話ですけど」

 

「二人揃って真面目か」

 

「委員長は芯がしっかりしている人ですから。夏目さんとは違うんですよ」

 

「そして二人揃って俺に毒を吐くー」

 

「単なる事実を言ったまでです」

 

 

 そのままつーん、と顔を背ける氷川に苦笑が漏れる。別に俺のことを信頼していないという訳ではないようだが⋯⋯どうも氷川は俺のことを同じ風紀委員の仲間としてだけではなく、指導対象としても見ているような気がする。

 ⋯⋯自分で言うのも何だが、怠惰を極める俺に対してその判断は実に正しいと言わざるを得ない。流石は氷川さん、俺の本質をよく見ているんだぜ。

 

 

「で、基本的にってことはまだ他にも話してることがあったんだろ? どんなのどんなのー?」

 

「な、何ですかその食い付き様は。一体何を期待しているんですか」

 

「何のことですか」

 

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯後はもう、他愛ない雑談程度ですよ。で、委員長はよくあなたのことを話題に出していましたね」

 

「マジですか」

 

「昔から夏目さんには怠け癖があった、大抵いつも目が死んでいる、本気を出せば有能なのに常に手を抜く、人が話をしている時に寝る、みたいなことを⋯⋯」

 

「やだ、全然褒められてない!」

 

 

 何てことだ。

 普段は飄々とした態度の水無月が実は裏では俺のことをベタ褒めしている、何ならベタ惚れしている⋯⋯みたいな感じのオチを期待していたのに、それとは正反対の事実を叩きつけられてしまった。

 おのれ水無月、貴重な後輩風紀委員に何てことを吹き込んでくれるんだ⋯⋯! これ以上氷川の中での俺への敬意が失われたらどうしてくれるんだ! 今現在少しでもあるのかどうかはこの際別にして!

 俺が苦虫を噛み潰したような表情でいると。

 

 

「⋯⋯まあ、その。委員長は別にあなたを悪しざまに言っていた訳ではなかったので。あくまでからかうような、世話の焼ける級友を語るような感じでしたよ」

 

「おぉ何、慰めてくれてんの?」

 

「わざわざ口に出さないでください! あぁもうっ、ちゃんと見回りに集中してくださいよ!?」

 

「分かってます分かってます。つっても、一日にそう何度もバカップルが現れるとは思え「そこ! 空き教室を不純異性交遊の場に使用しないでください!」おかしいだろこの学園」

 

 

 流石に不純異性交遊の件数が多すぎる。

 どんだけスリル満喫したい奴らがいるんだよ、これもう美少女揃いの風紀委員たちに怒られたい的な願望を持つ奴らとかも集まってきてんじゃねぇの? 一度や二度ならまだしも、氷川に何回も怒られると普通に精神が摩耗するんだからな(経験者は語る)? 風紀委員の説教舐めてんじゃねぇぞオッラーン!

 

 

「ったく、お前らみたいな奴らのせいで俺たちの仕事がいつまで経っても減らねぇんだぞ⋯⋯って、ん?」

 

「? どうかしましたか?」

 

「いや、あの木の下で誰かが何かやってんなって⋯⋯」

 

「要領を得ない回答ですね⋯⋯。どこですか?」

 

 

 前を歩いていた氷川が俺の言葉に反応しターン、こちらに身を寄せてくる。俺は氷川にも分かるように、俺たちが今いる文化部棟から見える運動場⋯⋯その周囲に立っている木々の内の一本を指で示した。

 その木の下では、一人の女子生徒が挙動不審な様子でウロウロしている。しばらく見ていても木の下から離れる気配は無い。⋯⋯何かあったのだろうか。

 

 

「氷川の姉貴」

 

「ええ、行きましょう。困っている人を助けるのは、人として当然のことですから。⋯⋯姉貴?」

 

「んじゃ、とりあえず行って話を聞いてみようぜ。まだあの子が何か困ってるって決まった訳じゃねーけど、何も無かったらそれに越したことは無いし」

 

 

 釈然としない様子の氷川を先導するように、俺はひょこっと文化部棟の外へ出る。初夏特有の日差しに当てられ、どちらかと言うとインドア派の俺は即帰りたくなってしまったが⋯⋯それをすると氷川の雷が落ちるのが目に見えているのでぐっと堪えた。太陽より氷川の方が怖い。

 元々短い距離だ、すぐに木の下に到着した。そこで女子生徒の方も俺たちに気付いたようで、こちらに視線を向けてきた。

 ああ、近くで見てみると分かったけど、コイツ俺の知り合いじゃん。

 

 

「あ、彰さんだ!」

 

「よっす。冬樹妹じゃんか」

 

「もー、その呼び方やめてってば! ノエル! 皆のサポーター、ノエルちゃんだよー!」

 

 

 冬樹ノエル。

 風紀委員である冬樹イヴの妹であり、物静かで無愛想なイメージのある姉とは正反対の元気溌剌っ娘である。あまりに明るいものだから、凝視してると物理的に眩しく思うレベル。

 

 

「ノエルさん。さっき文化部棟からあなたの姿が見えて、何か困っているように見えたのですが⋯⋯何か、ありましたか?」

 

「あー! そうなんですそうなんです! あそこ見てください、あれっ!」

 

「「?」」

 

 

 ノエルが指で示したのは彼女か周囲をうろついていた木の上部。そこには何と、一つの蠢く影が!

 

 

「子猫じゃん。どっから入って来たんだアイツ」

 

「校外から迷い込んで来て、彷徨(さまよ)っている内にあそこから下りられなくなった、という感じですね⋯⋯」

 

 

 影の正体は一匹の三毛猫だった。

 首輪が付いていない辺り、恐らく野良⋯⋯何度か木から降りようと身を乗り出しているが、すぐに怯えたように安定した足場の方に引っ込んでしまう。

 

 

「うんっ。私、さっきからずっとあの猫ちゃんを降ろそうとしてて、木を登ろうとしたり鳴き声の真似して誘い出そうとしてるんだけど、全部失敗しちゃって⋯⋯」

 

 

 ノエルがしょぼんと肩を落とす。

 というか今、少し気になることが聞こえた。

 

 

「鳴き声の真似してって、どんな感じで?」

 

「え? 普通ににゃーにゃーって言ってただけだよ?」

 

「ちょっと感情込めてやってみてくれる?」

 

「にゃんにゃんっ♪ にゃーごっ、ごろにゃーご!」

 

 

 かわいい。

 俺が相変わらずノリの良いノエルの猫の物真似に癒されていると、氷川がコホンと咳払いをしながら。

 

 

「では、私たちがあの猫を木から降ろせば良いのですね。じゃあ、ハシゴか何かを用意して⋯⋯」

 

「いや待て、氷川。それだと手間だし、俺に一つ提案がある」

 

「? それはどのような?」

 

「お前が猫の鳴き真似すりゃ良いんじゃね? 文字通り猫撫で声を出すよう努めてくれ」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 無言で脇腹をつねられた。氷川の可愛い声も聞いてみたいという俺の下心が見透かされていたらしい。痛い、痛いです氷川さん。脇腹千切れるぅ!

 

 

「まったく。ほら、とっとと登ってください」

 

「え、俺が? というかハシゴは?」

 

「登ってください」

 

「はい」

 

 猫撫で声を要求しただけでそんなに怒らなくてもいいじゃないですか⋯⋯。

 渋々ながらも腕捲りをしつつ、俺は猫が上にいる木の幹に手を掛ける。凹凸が少なく中々に登り難いが、踏ん張れば何とか登れるはずだ。

 

 

「彰さん、頑張れー!」

 

「へいへい。⋯⋯ふんっ!」

 

 

 ノエルの応援を背に、気合いの声と共に腕に力を込め、僅かな凹凸に半ば強引に足を掛ける。ぐうぅ、絶対ハシゴ持ってきた方が効率的だコレ⋯⋯!

 しかしそこは仮にも男子の俺。腕力任せにもがいていると、やっと木の枝に足を掛けることに成功した。目の前には既に目標の三毛猫が見えている。俺は手を伸ばした。

 

 

「おうニャンコ、助けに来てやったぞ。今降ろしてやるから少しの間じっとして⋯⋯「にゃんっ」

 

 

 爪撃一閃。

 一瞬にして俺の手に三本の赤い線が刻まれた。

 

 

「いっづぁ! この猫引っ掻いてきやがった! 助けてノエルちゃーん!」

 

「わ、わー! 大丈夫彰さんっ!?」

 

「き、木が揺れてますよ! 落ちます落ちます、気を付けて!」

 

 

 予想外の猫の抵抗を受け、危うく木から落ちそうになる。木の枝がへし折れたりしては堪らないので、そうなる前に猫を胸に抱き込むように回収する。

 

 

「つ、爪を立てるなこの⋯⋯! 置いてってやってもいいんだぞこの野郎!?」

 

「猫相手にムキにならないでください!」

 

 

 数分後。

 俺はぜいぜいと息を切らせつつも、猫を無事木の下に降ろすことに成功していた。

 そんな俺の横では、ノエルが当の三毛猫を抱きながら愛おしそうにその頭を撫でている。何でノエルに抱かれてる時は大人しいんだよ。

 俺がこの数分で好感度が急落した三毛猫にジト目を向けていると、氷川が身を屈めるようにして俺に声をかけてきた。

 

 

「お疲れ様です、夏目さん」

 

「本当に疲れたんですけど」

 

「⋯⋯は、ハシゴの件はその、少し大人気無かったです。謝罪します」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「な、何ですか?」

 

「いやぁ、俺が氷川にならまだしも、氷川が俺に謝るとか珍しいなぁと思って」

 

「あなたも謝る機会は減らしてください」

 

 

 いや、大抵俺が悪いんだけどね? 君ももう少し俺に寛容になってくれてもいいんじゃないかなって思うんだ。

 しかし、何だ。

 

 

「ありがとね彰さん! あと、氷川さんも!」

 

「猫を助けたのは彼ですから、お礼は彼だけにで結構ですよ。⋯⋯その、言い難いのですが、学園は基本的にペットは禁止で⋯⋯」

 

「うん、分かってるよ。すぐに逃がすから⋯⋯ちょっとだけ、良い?」

 

「⋯⋯仕方ないですね」

 

 

 こうしてノエルと猫の様子を慈しむ様な表情で見ている氷川を眺めていると、彼女もただ厳しいだけの風紀委員でないことが分かる。

 真面目で優しくて強くて、他人にだけでなく自分にも厳しい、恐らく俺たちの中でももっとも風紀委員らしい風紀委員が彼女、氷川紗妃。

 俺は今回の見回りで、彼女に敬意にも似た感情を抱くようになっていた。

 

 

「さて、夏目さん。私たちは行きますよ」

 

「うげぇ、見回り再開ですか」

 

「それは後です。今はもっと優先すべきことがあるでしょう?」

 

「氷川が見回りより優先すべきこと、だと⋯⋯!?」

 

「あなたは私を何だと思っているんですか!? さっき猫に引っ掻かれた手。⋯⋯保健室で治療をしないといけないでしょう?」

 

 

 ⋯⋯本当、この優しい面を普段からもっと見せてくれたら良いのになあ⋯⋯。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「たでーまー」

 

 

 ぞんざいにも程がある挨拶と共に、風紀委員室の扉を開いた。窓からは既に日が落ちかけ、暗くなっている外の様子が見えた。

 

 

「おかえりなさい。見回りお疲れ様でーす⋯⋯おや? アンタさん一人ですか? 氷川は」

 

「氷川はもう、今日の仕事は前もって全部終わらせてあったんだと。直接寮に戻ってったよ」

 

「そーですか。彼女は些か堅すぎる面もありますが、やはりゆーしゅーですね。誰かさんと違って⋯⋯」

 

「こっち見んなコラ。書類仕事は元々得意じゃねーっつってんだろ」

 

 

 労いの言葉もそこそこに、意地の悪い笑みを浮かべてくる風紀委員長。

 席に着いて室内を見渡してみると、既に水無月以外の風紀委員は氷川と同じく今日の業務を終えて寮に戻っていってしまったらしく、誰もいない。まだ仕事が残ってんのは俺だけかよ⋯⋯って、そういえば。

 

 

「水無月、ココに残ってるってことは、まだ仕事が残ってるってことか? 何だよ、お前も人のこと言ってられないじゃないかよー!」

 

 

 人のことばかり馬鹿にして何なんですかこの風紀委員長は! そんなんだと生徒たちからの好感度下がりますよ! ゲームの方でも人気投票の順位が下がりますよ!

 そんな意を込めた俺の煽りに、水無月は眉をピクピクと引き攣らせながら。

 

 

「ウチも仕事は既に終わってますよ。ただ⋯⋯アンタさんを待ってあげよーと思っていただけです」

 

「えっ」

 

「⋯⋯み、見回りから帰ってきて、誰もいないってのは寂しーでしょう? ウチの優しさに感謝して欲しーモンですね」

 

「お、おう⋯⋯。ありがと」

 

「⋯⋯どうも。ほ、ほら、書類もあと少しじゃねーですか。ウチも手伝いますから、とっとと済ませちゃいましょう!」

 

 

 そう言って水無月が俺の手元から書類を奪っていく。その頬はほんのりと朱に染まっており⋯⋯何だこの可愛い生き物。

 

 〜 約15分後 〜

 

 

「お゛わ゛っ゛た゛」

 

「すげー声出ましたね、今」

 

「すげー疲れたんだもの、今日⋯⋯。あ、手伝ってくれてサンキュな」

 

「それは良いですけど⋯⋯まったく、こんじょーがねーですね。副委員長としてもっとシャキッとしてくれねーと困りますよ?」

 

「緩く無理せず適度にサボりつつ、学園の風紀を守るってのが俺の目標なんだよ」

 

「緩いのはアンタさんの脳でしょーが」

 

 

 ひでぇ。

 とにかく、疲れているのは本当なので俺も早く帰ろう。⋯⋯と、そこであることを思い出す。

 

 

「あぁそうだ。水無月、少し頼みがあるんだけど」

 

「? なんですか?」

 

 

 俺は帰る途中に疲れを押しながら、ほとんど気力で購買部から購入した“ソレ”を水無月に差し出した。

 

 

「⋯⋯猫耳カチューシャ、ですか?」

 

「この学園の購買部凄えよな。マジで何でもある⋯⋯で、頼みって言うのは、コレ付けて猫の物真似してくれない? ってのなんだけ「お断りします」早いよ!」

 

「早いよ、じゃねーですよ! 何でウチがそんな小っ恥ずかしいことしなきゃなんねーんですか!」

 

「見たいから」

 

「直球!」

 

 

 ノエルが見せてくれた猫の物真似が予想以上に俺の中でハマっていたらしく、帰り道で購買部の売り場にコレが売っているのを見た途端、ほぼ反射的に購入してしまっていた。買ったなら買ったで、有効活用していきたいものなのだが。

 

 

「な、何で急にそんな⋯⋯」

 

「いや、さっき見回り中にさ⋯⋯」

 

 

 水無月にもノエルとの野良猫騒動を丸々説明する。で、ノエルの猫真似が可愛かった、というところを強調して説明し終わると。

 

 

「⋯⋯はーん」

 

「な、何だよ」

 

「よもやアンタさんが冬樹の妹にそんなプレイをよーきゅーしていたとは思わなかったものですから。ほーん、へー。要は、猫の真似さえしてくれりゃー誰でもいーわけですねー」

 

「人聞きが悪すぎる!」

 

 

 いやまあ、氷川を誘導しようとしてたのも事実だし、あまり強くは否定出来ないんだけどね。

 

 

「分かった分かった。別に嫌なら無理にやらなくていいよぅ⋯⋯あ、そのカチューシャはやるよ。プレゼント」

 

「こんなの貰っても使い道がない気がするんですが⋯⋯。まあ、くれるなら貰いますけど。ありがとうごぜーます」

 

 

 あげた俺も貰った水無月も心底微妙な表情だ。

 とりあえず、長居しても仕方ないので風紀委員室からは出ようか⋯⋯。と、俺が席を立ち、水無月から背を向けて部屋から出ようとした時⋯⋯それは聞こえた。

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯にゃん♪」

 

「ッ!?(バッ)」

 

「ど、どうしました? 急に振り向いて」

 

「⋯⋯お前、今」

 

 

 間違い無い。

 コイツ今、すっげー甘ったるい声で猫の鳴き真似してた! しかも俺が振り向いた瞬間、掲げていた手を降ろしていたような動作をしていた⋯⋯まさか、ポーズ付きで!?

 

 

「お、おま、お前っ! 乗り気だったんなら普通に見せてくれよ! 動画に撮って後々楽しみたいから!」

 

「ド変態! やっぱりアンタさんは変態ですよ! っつーか、ウチは何もしてませんから!」

 

「何でそんなつまんない嘘吐くんだよ、ワンモア! ワンモアプリーズ!」

 

「うるせーです! ほら、帰りますよ!」

 

 

 熟れた林檎みたいに顔を真っ赤にしながら、水無月が俺の手を引いてくる。柔らかな感触と鼻腔をくすぐるいい匂いに鼓動が早まるが⋯⋯!

 

 

「風子ちゃんキャット撮らせてぇ!」

 

「しつけーです!」

 

 

 未だに諦め切れない俺の懇願する声が廊下に響く度に、水無月は半ば涙目になりつつ、何度も否定の言葉を連ねていくのだった―――。

 

 




いかがでしたか?
姉であり風紀委員のイヴよりも妹のノエルの方が先に出張ってしまった謎。秋穂やさらなどでも成立したのではないか? そんな質問に対する回答は「筆者の好み」の一言で終わってしまいます。仕方ないね。
次はまた風子さんと⋯⋯、あの部活とのお話になると思います。

では、今回はこの辺で。ありがとうございました、感想待ってます!
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